魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
外界から切り離された孤島。切り立った崖の上にある小屋。
この星はその凡そ九割が水……海であるから、こういった「小島」が数多く点在している。聖護魔導学園のある場所のような「大陸」と呼ばれるものは数えるほどしか存在せず、この星にあるものはほとんどが水の下へと沈んでいる。
とまぁそんな小島のそんな小屋の中で──ある「会議」が行われていた。
「どうする……
「初めから全世界を敵に回すつもりだった……のでは?」
「黙っておれ、若僧が。誇大妄想をいつまでも引き摺るな。現実的なことを考えねば……!」
集まっているメンバーは一人を除いて中年、あるいは高齢者と呼ばれて然る者達ばかり。
その身にまとう服からわかるのは彼らの系譜くらいだ。
即ち、エレメントリーの系譜。ただし本家筋ではない。そしてこの状況を鑑みれば──彼らが「此度の事件」の首謀者たちであった、など、容易に推し量り得ることだろう。
「どうする……どうする! あの『平民』の矛先が我々に向く可能性だってある! あるいはフィジクマギアが報復に来る可能性も……」
「落ち着け。たかだか身体能力が高いだけの平民と、同じく魔法抵抗が強いだけの劣等魔法使いの何を恐れる。敗衄したのは我らが作った魔物で、勝手に融合した
「だが、あれ以上を作り出すとなると……今度は何人材料にすればいい!」
「ゴミに等しい魔法しか使えぬエレメントリーの系譜は掃いて棄てる程いるのだ、いくらでも作り得る。だがアプローチは変えねばならんだろうな。知能の無い魔物をぶつけたところで意味はない。……やはり内部に潜入し、生徒たちへと例の薬を飲ませるしか……」
「
「ぐ……」
どうする。どうするべきか。
その議論が保身ではなく未だに世界への敵意となっていることは褒められるべきだろう。
彼らは逃げようとはしていなかった。次の手を考えていたのだ。
それは当然かもしれない。
「儂らは既に多くの家を敵に回したからのぅ、退路はない。前進あるのみじゃ」
「ヴィクター爺、誰もが理解していることを言わずともいい。……そういうあなた方は、何か良案を持ってはいないのか」
「ほほ、儂らは最初から捨て身の覚悟よ。この魔法世界に混乱をもたらし、
「まさか……ここまでやって、諦めると? あなたの言う通り、我々はもう引き返せないところまできている。多くの家の魔法使いを材料にし、多くの家の生き残りを材料にして作り上げたのがあの魔物だ。今や我々は」
「憤るな。初めに言ったじゃろう、退路はない、前進あるのみじゃ、と。……のぅ、クロノミコナの若いの、一つよいかの」
黙れと言われたから、大人しく黙っていた青年。
彼だけはエレメントリーの系譜ではない。ネクロクラウンの系譜、クロノミコナという家の魔法使いだ。
そう、彼こそが一連の事件における薬を調薬した張本人であり、同時に。
「
「──ええ、勿論です」
誰かの制止が間に合うことはない。
老人たちは目を瞑り──青年はその口を円弧に染める。
ここに。
挽歌の獣、生まれたり。
アゼル・ヴィントルは悩んでいた。
あの『平民』に言われた言葉がぐるぐると頭の中をめぐって離れないのだ。
結局駆けつけることなどできなかった彼女は、学友を見捨てたという罪悪感と、否、あらゆることへの罪悪感と……少しばかり芽生えた義勇の心に板挟みとなって、今悩んでいる。
「あら、アゼルさん? どうしましたの、こんなところで」
「ぇ……あ、……キャレム様……」
悩んでいた場所は再建された鐘楼。だから「こんなところ」というのは正しいのだけど、偶然通りかかる場所ではない、というのは──今のアゼルが考えられる話ではない。
彼女に声をかけてきたのは、キャレム・アレンサリスという
「……自分に嫌気が差してしまって」
「まさか飛び降り……?」
「いえ、そんなことはしませんが……なんだか、無力さに……その……」
彼女の悩み。
それは、「結局何もしなかった」ヴィントル家を是正したいという気持ちと……本当に自分はそんなことができる人物なのか、という疑念。そして何より是正などできる立場なのか、という自責によるもの。
実際、アゼル・ヴィントルは規律会のメンバーなれど、そこまで魔法使いとしての力量が高いわけではない。家一つを相手にするには力不足が過ぎるし、そもそも大罪を見過ごしておいて黙っておいて、何が規律会だという糾弾も「その通りだ」と思う立場にある。
だから──だから、だからといって、なんでもないけれど。
学園で一番高い場所に立って、聖護魔導学園を、そして世界を見渡して、心の整理をしようとしていたところだった。
「キャレム様は……どうしてこのような場所に?」
「私も似たようなものですわ。此度の事件、私も最上級生であるというのに、特に何かができたわけではなかった。それどころか活躍の場はあの編入生の少女に奪われ、大詰めも本家の御令嬢が行って……最上級生として恥ずかしい限りで」
「……けれど、仕方がないのでは? あんな魔物……普通は、逃げるのが正解で、討ち取る方がおかしくて」
「それが常識でしょうね。けれど、それで納得できないから悩んでいる。……あなたもそうでしょう?」
そうだ。アゼルの立場にあるのなら、「何もできなかった」のは当然だ。
彼女は子供なのだ。責任を覚えなければならないのはヴィントル家の大人たちで、彼女に罪はない。黙っていたのも当然だ。だってそうしなければ、殺されていた可能性だってあるのだから。
けれど……納得できるか、と問われたのなら。
「……そういえば。ねぇ、アゼルさん。『あの平民』と共に
「あ……はい。行きました」
「どんな方でしたの、『あの平民』は」
「どんな、と言われても……捉えどころのない、誰に対しても……あまり礼儀のなっていないというか、敬意を感じられない……平民とは思えない人、でした」
「私、疑っていますのよ。彼が本当に平民なのかどうか」
危険な発言だったと言えよう。
だって彼女の始祖が『彼』を平民だと断定しているのだ。その目に狂いがあったと言葉にするのは……叛逆の芽と捉えられてもおかしくはない。
「子供とはいえ、これほどの数の魔法使いが束になっても叶わない魔物を殺し切る平民。今は英雄視されていますけれど……いつか脅威になる。魔法使いと平民の違いは勿論流れる血にあり、持っている力が隔絶しているところにある。だというのにその溝を埋められてしまえば、私達の価値とはなんですの?」
「か、価値……?」
「ええ、価値です。魔法使いが貴族とされているのは、強いから、脅威だから、価値があるから。けれど魔法と同等かそれ以上のものが台頭してしまえば、魔法使いの価値はなくなる。そうでしょう?」
「……そう、かもしれませんが」
「ええ、勿論、これは『彼』が平民であればの話ですわ。彼が魔法使いならこの危惧は必要がない。──さて、アゼルさん。仮に彼が魔法使いで、けれど
矢継ぎ早な理論展開にアゼルが追いつく前に、その問いは投げかけられた。
シエル・デルメルサリスですら見抜けない彼の正体を知る方法。それは。
「──答えは、子供、ですの」
「へっ?」
「子供は両親の魔法特性を色濃く受け継ぐもの。魔法使いが平民と番い、子供を産めば、子供の魔法適性は著しく減りますわ。けれど魔法使い同士であれば、同等かそれ以上……さらに同じ系譜の分家同士の子であれば、分家二つ分の魔法を持つ子供が生まれる」
「え、ええ。それは……わかります。
「違う系譜の魔法使い同士では子供は作れません。つまるところ、可能性として存在する二家……
アゼルは無意識に半歩下がる。
そんな彼女の手をぎゅ、と掴むキャレム。逃げられない。
「
「え、いや、あの、……い、いいのですか? 男性が二人の女性を愛することは……その……」
話についていけなくてヘンなところにつっこんでしまうアゼル。けれど致し方のないことだろう。
それほど圧が凄いのである。
「あら、案外純粋ですのね。別に子供を作ることが目的なのですから、そこに愛など必要ありませんわ。私は危惧しているだけですのよ、アゼルさん。『彼』が平民であった場合、魔法世界は壊れてしまいかねません。それを未然に防ごう、という作戦です。……ということで、アゼルさん。一つ協力してほしいのですけれど」
「……あの、その……私、違うことで悩んでいて」
「規律会会長ボガド・フィジクマギア。彼には大層大切にしている従妹がいると聞いております。本家の血では子供を作り得ませんが、分家の血であれば大丈夫。──どうにか情報を聞き出し、あわよくば懐柔を──」
「も、申し訳ありませんキャレム様! 私、用事を思い出しましたので、失礼いたします!」
最大出力である。鐘楼の鐘がごぉんと音を奏でる程の風を吐き出し、アゼルは逃げた。キャレムの拘束を解き、遠くへ。
ただでさえ
だから。
全力で逃げたから、気付かない。
「……自身を嫌い、自身に疑念を抱く歳半ばの少女。うふふ……利用価値の塊ですわ……」
残された少女が、邪悪も邪悪な笑みを浮かべていたことに、など。
多くの生徒が休暇申請を出している聖護魔導学園。
だから、いつもは混雑している食堂もすっからかんだった。
そんな場所で一人寂しく食事をとる男子生徒が一人。
ケニス・デルメルクラン。特に実家から呼び出しとかなかった、「実家からの期待」とか欠片もされていない少年である。
シャニア、エンジェ、アリスの三乙女は実家に呼び出されている。チビ……スヴェナもそうだ。だから独りぼっちである。別にそれ以外にも友達はいるのだが、その友達もまた実家に、となって……つまりこの状況こそが自身の「落ちこぼれ感」をひしひしと覚えさせる──。
「おや? あなた一人ですか?」
「ん……なんだ、チビ。お前も落ちこぼれ組か?」
「はぁ? ──あなた、
何を言っている……と、ケニスは少女を見て。
ガツン、と机に頭を打った。
「す、すんません! 俺俯いてて、足元しか見てなくて、それで勝手にいつものチビだって思って……」
「何のフォローにもなっていないですけど。……はぁ、まぁ冗談です。落ち着きなさい、食事中に邪魔をしたのは私の方ですし」
当然だろう。ケニスに声をかけてきたのは学園長だったのだから。
学園長イレイア・クライムドール。噂では云百年の間見た目の変わらぬまま生きているとかで、それは彼女が大魔法使いであることや、彼女の編み出した秘術とさえ言える魔法によるものだとか、あるいは実は代替わりしているけれど一族全員が似すぎていて気付かないだけとか、それはもう根も葉もないうわさの立ちまくっている人である。
あと当たり前に偉い人である。
「けれど、丁度良かった。確かあなたは『平民初学生』と仲が良い、ですよね?」
「え? あ……まぁ、多分、他の奴よりは、程度だと思いますけど……」
「彼は今どこにいますか?」
「さぁ……あいつは平民だから実家からの呼び出しなんかないだろうし、教室か……あとは寮にいるとかなんじゃないですかね。基本中休みの間はエンジェ……じゃない、エレメントリーの御令嬢と話しているか、チビ……スヴェナと一緒にいるんで、多分今あいつも一人だろうし」
ケニスのその返答にイレイアは「そうですか」と溜め息気味の相槌を打つ。
さて、ケニス・デルメルクラン。彼は自身に多少以上のコンプレックスを有している……が、基本的に善良で、割合お人好しである。
目の前で落ち込んでいる相手がいたら、老若男女問わず、立場が上であれ下であれ……気になってしまうし、何か力になれないか、と思ってしまうタチだ。
「あの……すんません、不敬なのはわかってるんですが、学園長。……俺になんかできることありますか?」
「……ふむ。少し待ってくださいね」
「は、はぁ」
魔力が動く。ケニスに判断できたのはそこまでだった。あとはまぁ、その双眸に魔力が集中している、というところくらいか。
して。
「このノイズは……。……あなた、名前を教えてもらってもいいですか?」
「あ、は、はい。ケニス・デルメルクランです」
「ありがとう、ケニスさん。今日の午後は何か用事が?」
「いや……まぁ、自主練というか。室内運動機能場で、ちょいと魔法を……」
「成程。それ、私もついていって構いませんか?」
「へぁ!? いや人に見せるモンじゃ……」
「ああ……確かにマナー違反ですね。失礼しました」
「いや、そうじゃなくて、本当に見てても面白くないっていうか……」
なんだこの状況は、と思いかけたケニスは……既のことで思い直す。
そうだ、学園長は
であれば断る理由はなかった。
「わかりました。その……本当に下手なんで、恥ずかしいスけど、それが学園長の目的に繋がんなら、いいすよ」
「……良い子ですね、あなたは。『平民初学生』さんの元へ集まるのはなぜこうも……」
それは当然「そういう性格の者しかアレと人付き合いをしたいと思わないから」であるのだけど、そんな当然のことは通り過ぎているのでイレイアは深読みしかできない。
なんにせよ。
急遽、学園長観戦のもとでの自主練習が始まったのである。
室内運動機能場。
その名の通り室内にある運動場であり、単純な身体能力を計るための器具だとか、魔法能力を測定するための色々だとか、多岐に渡る「機能」の存在する場所。
ケニスは左手に多面体の玩具を握りつつ──魔法を使う。
シャニアに言われた通り、そのイメージ練習は片時も怠っていない。手に多面体の感覚を馴染ませる。その訓練は、それなりに効果的だった。
まだ三面以上を作ることはできないものの、一面の構築速度は徐々に徐々に向上している。「やっぱり本家ってのは幼少の教育から違うんだなぁ」なんて感慨を覚えつつも、ありがたい機会を逃すことはしない。
実家から期待されていなくとも、学友が期待してくれている。ケニス・デルメルクランにとってはそれだけで充分なのだ。
……無論。本当に欠片も期待されていなかったら通学自体させてもらえていない……ということには気付けない彼であるが。
「ふむ。自主練習、それも他家の魔法にあれこれ言うのはおかしな話である自覚はありますが、少し良いですか?」
「へ、あ、はい」
「魔法を使う時の姿勢の話です。右足を半歩下げ、右手を翳し、左手でそれを支える。そのポーズに何か意味はあるのですか?」
「意味……というか、俺にとって魔法ってのは放出したり押出したりするイメージなんで、そのための砲身として腕を伸ばしてる……みたいな」
「失礼ですが、それは
そう言われても、ケニスには何が失礼なのかわからなかった。似ているとなんなのか。
「ああ……そうですか、今の子はこう言われても憤らないのですね。ふむ。……ふむ。ではこう言いましょう。あなたの魔法に関する思い込みは、
このように、なんて言って……恐らく簡易陣地なのだろうものを作ったイレイアは、その空間内で結界らしきものを作り、その後それを放出する、という工程を踏んだ。
「あなたが躓いている場所は創造の部分。ですからいくら放出や押出の訓練をしたところで上達は見込めません」
「ぅ……そう、すか」
「落ち込む必要はありませんよ。それら訓練は創造の訓練を終えた後に必要となるものなので、無駄にはなりませんし」
ですから、と。
イレイアが──室内運動機能場の全てを己が陣地に作り変える。
泡立つ肌。それをケニスが自覚したのは、吸いこむ息の濃さに気付いたあとだった。
「もっと効率的且つ実戦的な訓練をしましょう」
「……えっと、それをするのに、ここまでをやる理由は……」
「効率的且つ実戦的と言いました。──これよりこの空間、この陣地から、あなたへ向けて数多の攻撃が為されます。大丈夫、威力は……まぁ、サンドワームの顎の強さくらいですので」
「あのサンドワームってその顎で生物の骨とか磨り潰して食べるんですけど」
「ええ、磨り潰す機能はありませんので、その威力は半減もいいところでしょう。ではどうぞ、防ぎに防いでください。三面以上作り得ない、でしたか? ──そんなことでは間に合いませんよ?」
見る者が見れば虐待と言われてもおかしくない訓練が開始される。
全方向、全方位から襲い来る光条。「魔法攻撃である」としかわからないそれは休む暇なく放たれ続け、ケニスの身を削らんと穿たんと迫ってくる。
必要なのは盾だ。放出や押出ではない、身を守る盾が必要だ。
そしてイレイアの言う通り、二面だけでは到底防ぎ得ない量が来る。けれど三面以上は作れない。だから防いだ瞬間に結界を消して、身を削るほどにまで迫ってきているそれと身体の間に結界を出して、を繰り返す必要があった。
「……成程、実戦的だ。己を待つ程度ならここまでやる必要はなかったのではないかな」
「当然のように私の陣地へ入ってこないでください。あなたに用があったとはいえ」
ケニスは気付かない。忙しすぎて、音がうるさすぎて。
あるいは『彼』の存在感が希薄すぎるが故か。イレイアですら、声を掛けられるまで気付けなかった。
「先日は教頭フィニアン。今日は学園長イレイア・クライムドール。用件は同じかな?」
「はい。先日あなたが見せた魔力歪曲現象についての説明を」
「拒否したのなら?」
「あれを新たな魔法として認めます。──
「いいのかい? はじまりの五家以外の魔法使いが現れることになってしまうけれど」
「あなたとの約定、始祖からの無茶……命令。その二つを競合しないよう処理するにはこれしかありませんし」
ふぅ、と溜息を吐く『彼』。
そしてステッキをくるりと回し。
「ヒントを与えることはできる。──答えはダメだよ、魔法使い」
「あなたが平民でなくなったとしても、ですか」
「もしそれを実行するのであれば、己はこの学園から姿を消すだろうね」
「……」
それは。
わからない。イレイアにはそれが「願ってもないこと」なのか、「絶対にしてほしくないこと」なのかの判断がつけられない。
「ここは君の陣地だ。今からわかりやすく実演するし、ヒントもあげるから……君自身が解析してみるといい」
「それでわからなければ」
「己の想像以上に君が使えない魔法使いだった、というだけだよ、
さて、なんて言って、『彼』はステッキを逆手に持つ。
「授業をしよう。生徒イレイア、大気中にある魔力がどういう振る舞いをするか、答えられるかな」
「……大気中にある魔力は"そこにあり続けよう"とします。人間の身体から放出された魔力がその空間を通り抜けたとしても、元の位置に戻ろうと振る舞います」
「正解だ。であるならば、それら魔力が歪曲現象を引き起こすのはどういった時だと思う?」
彼女は少し考えて。
「強い力に引っ張られた時……でしょうか? 戻ろうとする振る舞いをどこかへと引っ張る……」
「おや、そこまでわかるのならヒントなんて要らないじゃないか。己の使う
ステッキを突きへと、その構えへと持ち直す『彼』。
ここはイレイアの陣地だから、わかる。ステッキには魔力など集結していない。
ただ。
「
放たれる突き。今絶賛訓練中のケニス、その傍らを突き抜けていく彼の杖先には──膨大な魔力が巻き込まれている。
否、引っ張られている、というべきだろう。
つまり。
「……無理矢理に大気中の魔力を突き出して、それが戻ろうとする力を"魔法を引っ張る力"に置き換えている……ただ、それだけ?」
「良い理解だ、生徒イレイア。戻ろうとするものを圧し返せば、大気中魔力が戻るために掴んだ空間自体へも影響を及ぼすことができる。ま、それをどのようにして実現しているのかは君が考えるべきことだし、あるいは始祖が考えるべきことだ。頑張りたまえ」
消える。
初めからいなかったかのように、『彼』はその場を立ち去った。
イレイアは……少しだけ、舌なめずりをする。久方振りではあるのだ。彼女が生徒となることなど。
始祖から出された無理難題には嘆けど、これほどの教材を前にして学ぶ意欲を見せないほど彼女は枯れてはいない。彼女元来の……研究者としての意欲が顔を出した。
「見ててくださいね、『最上級生』さん」
ぽつりと呟かれた言葉。
それは絶対に解明してやる、という意思表示であり、同時に彼女が文字通り若返った瞬間でもあったとか。
そして余談だが、彼女がその場で熟考に入ってしまったせいで、絶賛防御訓練中の彼がその体力の、及び魔力の限界を訴えても聞き入れてもらえず──。
まぁ、なんだかんだいって、結界の構築速度が訓練前の三十倍ほどにまで上がったとか、なんとか。……本題である三面以上はまだまだ先の話。