魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
遠征課業、と呼ばれる授業がある。その名の通り、学園の外で授業を行うことを指す。
己にとってもであるけれど、各家にとっても貴重な血……我が子を
それでも実際に外へ出てみなければわからないことも多いと……ジェヴォーダンの魔物襲撃事件より前からこのカリキュラムは組まれていた。
今日がその日なのは文脈で察してもらえるとは思うけれど、こういう授業には決まって班分けというものがあり。
「……何よ」
「いやなに、人為的、あるいは作為性を感じざるを得ない組み合わせだな、と思ってね」
四人一組で行動することになるその班分けにおいて、己、少女Aは同班になった。
「そこまでおかしな組み合わせでもないように思いますが?」
「だな。優等生と劣等生を組ませるのはバランスを取るためだし、男女二人ずつにすんのも納得だし、元から仲が良い奴らで組ませるのも……教師が生徒をよく見てるって証拠じゃねえか?」
残り二人は少女Cと生徒C。
「何よりお前ら、付き合ってんだろ? なら引き離されんのは──」
瞬時に組み上がった氷礫を全て割り砕く。
君ね。
「ケニス・デルメルクラン。いつもの……己をからかうような調子でエンジェを揶揄うと、最悪死ぬよ」
「お、おう……助かった」
「エンジェ。同級生に対するツッコミのつもりで魔法を使うのはやめなさい。ケニスさんの魔法強度ではまだ受け止められません」
「いや、今のは揶揄った俺が悪いし、反応できねぇのも悪い。同学年なんだしな、早くお前らについていけるよう頑張るよ」
「ちょっと、今アンタがフォロー入れたら私が最悪の悪役になるってわかんなかったワケ?」
「わかっててやった節はあ……ストップストップ! すまねぇって!」
少女Cが生徒Cに魔法を教えるからか、当然のように己達の教室へ少女Aが来るようになって少しばかり。
それだけの期間で随分と仲良くなったらしい。ああ美しきかな青春の日々、というやつかな。
「ん……通知ね」
「内容を教えてくれるかな。己には届かないから」
「ああ、そうか。やっぱこの森に魔核があるんだと。規模は小さいが、魔核は魔核。中位程度の魔物が徘徊してるから気を付けて破壊しろ、だって。総数は十六」
「そんなもの、感知系が三人もいるこの班ならば簡単なのではないかな」
魔核。
あるいは、自律のできないものに宿ったが故にそれが寿命を迎えて固結したものを指す。今回は後者だろう。森に落ちて、根や枝を伝って複数に分岐したものの、何本かの樹木自体が寿命を迎えてナノマシンだけが残った。
身体の老衰を抑えることはできても不死にすることはできないのがナノマシンだ。適合率の低い樹木がそれを受け止めてしまえば、むしろ寿命を減らす結果にもなる。
なお、ファンタジーにありがちなゴーレムという魔物は存在しない。魔法使いが作り出すことはあれど、ただの石が魔物となることはない。ナノマシンが核となろうと石は石だしナノマシンはナノマシン。これらに自己は存在しないからね。
「生憎だけど、風による感知は無理よ。魔核が風をかき乱すから」
「
「そもそも俺にはそんな高度探知はできねーよ」
おや、そうなのか。
始祖Aや始祖CCであれば一瞬だろうに。……まだ三人共初学生、ということかな。
己が導くのは違うだろうし……何より「良い気配」が周囲にあるし、ここは学生諸君に任せようかね。
無論、万一のため、それと評価のために上空で教師陣が待機しているから、そもそも派手な動きはできない、というのもあるけれど。
「それでは徒歩で行こうか。凶暴な魔物のいる方を辿っていけば、自ずと辿り着く。そうだろう?」
「ええ、その認識で正しいです。ただ、早く終わらせようとは思わないことですね。恐らくそれを見越しての課題でしょうから」
「つまりなんだ、人為的な試練が待ち受けてるってことか?」
「可能性はあるでしょうねー。森の魔核掃除なんてシンプルな遠征課業、何かない方が気味悪いし」
メタ読みだねェ。まぁ何かあるのは確実だけど、君達が思っているものではないと思うよ。
さて、四人が四人、しっかり全方位を警戒して森の中を進んでいく。
魔核の影響を受けていない魔物も普通に存在するのでそれらを撃破しつつ、着実に一つ目の魔核へと近づきつつあった……そんな折。
「止まって」
少女Aが全員を制する。
そしてハンドサインにより、木陰に隠れることを指示してきた。いいねェ、エレメントリーの家では実戦形式はごく普通のことなのかな?
「……誰かいるな。他の班か?」
「他の班は他の森や島にいますよ。この森にいるのは魔物と私達、そして上空の教師陣だけのはずです」
「だとしたら、あいつらは誰なんだよ」
魔核の前に陣取る二人の人物。いや、その奥にもう一人……魔核の前で屈みこみ、何かをしている一人がいる。
明らかに正規の魔法使いではない。教師の恰好でもない。正体を隠すことに長けたローブを纏う何者か。
「先手必勝よ。シャニア、合わせて。ケニスもできるなら逃げられないよう結界を張って」
「ええ、参ります」
「おう」
できるなら、だけどね。魔核は魔力をかき乱す。だから、普通の感覚で魔法を使おうとすれば、上手く成形できないはずだ。
さて生徒C。学園長Eとの訓練で、君はどこまでの成長を──ん?
草笛の音? ……他の三人に聞こえている様子が無い。己に届けられるものであるはずもなし、これは何かしらの妨害がかかっていたものを傍受してしまったかな。
何かの合図だろうけど、ふむ。
「
「斬ります」
「へっ、学園長の陣地に比べりゃこの程度どうってこともねぇ!」
あっさりと命を散らす何者かたち。一人さえ残せば後は要らないからね。二人とも躊躇はない。生徒Cもそれなりの上達ができているようだ。
問題は──。
「三人とも、下がると良い。生まれるよ」
咄嗟の判断。少女Cが二人の身体を掴んでこちらへと投げ、空間剥離を行う……前に、生徒Cが少女Cの身体を手前に押し出すことで事なきを得た。
いいじゃないか、
パキ、という音がした。
それは魔核から。
殺されなかった……けれど四肢を折られた最後の一人が歪んだ笑みを浮かべる。
その頭蓋に鋭利なものが突き刺さり……絶命が確認された。
「……ありがとうございます、ケニスさん。命拾いをしました」
「いや、俺の方こそ助かった。……けど、なんだよアレ。魔核がなんかを生み出すなんて事例……聞いたことねぇぞ」
真っ先に礼を言いそうな少女Aが何も言わないのは本気で警戒しているからだ。
このメンバーの中では、彼女のナノマシン適合率が一番高い。だからこそわかるのだろう。
アレがおかしい、という感覚は、誰よりも。
「っ、散開!」
そして下した判断も的確だった。
少なくとも正攻法では敵わないモノが出てくるとわかったのだろう、そう指示をして──その手に業火を浮かべる。
森の中である。いや、だからこそだ。魔核のある周辺へと業火を投げつけ、火災を起こす。
多分教師陣への救難信号の意図もあったのだろう。出てくるモノへの牽制の意味もあったのだろう。
ただ……君は誰より早く逃げるべきだったよ。
「!?」
「一応、恋仲になったからね。守ってはあげよう。ただ、毎回は無理だ。──さ、教師陣を呼んでくるなり作戦を立てるなりしてくるといい。己はコレと少し遊んでいくよ」
伸びてきたのは糸。粘糸。
対象を絡め取らんとするソレは少女Aに着く前に己のステッキへと絡みついた。
「無理しなくていいから! 逃げ回ることに徹しなさい!」
「承知だ、リーダー」
三人の気配が遠のいていく。
けれど、わかっているのかな。
魔核の総数は十六。もしその全てでこの細工が為されているのだとしたら……君達に逃げ場はないよ。
さて。
十二分な距離が取られたことを確認して、糸を引き千切る。
そして生まれ出でようとしたモノのナノマシンを停止させた。ありがたいことだ、森の上空一面に認識錯誤の魔法がかかっている。
これは救難信号も届いていないねェ。
「成程……これは確かに面白い発想だ。魔力適合率の高い魔物の卵を奪い、魔核へと投じ……更に強い魔物を作り出す。強大な魔物を作りたい、というのであれば良い発想だけど、彼女らの血が欲しいにしては物騒すぎる発想だよ」
例の薬の調薬師……は、関わっていないね、これは。
また別の勢力と見た。ただ、狙いは同じ。少女A……に加えて少女Cだろう。
あるいは少女A''の時と同じように、身体部位の欠損がお望みなのかな。となると黒幕に始祖Dの顔が浮かぶけれど、先程の魔法使いたちは
いや……薄まりに薄まっているけれど、エレメントリーとデルメルサリスと……クライムドール? 珍しいな、クライムドールの分家が悪事に加担するなんて。彼らは未来視のできない程の血筋であったとしても、直感の働く者であることが多い。いずれ潰える悪事に身を置く、というのがどれほど自身へ損失を齎すかを知っているはずなのだ。
……己へ向かう視線がない。
学園事件を知らない魔法使いがいるとは思えないけれど……その上で己を要らないと判断した?
ん、他の魔核からも魔物が生まれ出したね。
なるほど、蜘蛛か。確かに魔物を倒せば腹部に詰まった卵が手に入りやすい。それを持ってきて、魔核へ詰めた、と。
「よし、君の名前は『ココダトレイルの大蜘蛛』だ。今内紛で忙しいだろうけど、『戒律機関』に伝えておいたからね。これからは世に広く知らしめられることだろう」
距離を取る。
そして、ナノマシンの停止を解除した。
魔核を割り出でて産声を上げるかのように前肢を振り上げる『ココダトレイルの大蜘蛛』。
ソレは魔法使いの死体へ糸を吐き、巻き取るようにして回収、捕食する。……いや、捕食こそしたけれど、咀嚼も消化もされていない。そもそも生物としての機能は残っていないみたいだ。ただ魔力で動くことはできるし、その上で空腹にはなるから……一生満足できない、常に捕食行為を行い続ける憐れな生物。
そして消化もできないから、食べるだけ食べて……いつしか自らで自らの腹を突き破るのか。これを使役する魔法使いは安全に粘糸で拘束された魔法使いを回収できる、と。
野生の蜘蛛型魔物を狩って手に入れた卵というより、そういう魔物を
「加えて認識錯誤特化の分家かな、これは。エンジェは確かに散開と言ったけどね、バラバラになりすぎだろう、君達」
森のありとあらゆる方向に進んでいる三人。ただし外へ出るのではなく奥へ奥へ進まされている。隣に仲間がいないことを欠片も疑っていないあたり、幻影を見せられているのだろう。
これは……どうしようねェ。なんだかんだ言って己の身体は一つだけ。同時に三ケ所を見る、というのは難しい。
血筋争いを見るなら生徒Cを外した二人だけど、あの二人であれば『ココダトレイルの大蜘蛛』から逃げ果せるくらいは簡単だろう。それをただ眺めるだけ、というのは……ううん。
それならば生徒Cを見る? けれどあんな発展性のない人間を見て何になるのか。善良な人間だからといってそれを面白がる己ではないし、そもそも彼が狙われているかどうかすら怪しいし。デルメルクランの血なんて、より純度の高いものが学園で教師をしているのだから……狙うだけ損じゃないか?
悩ましいなぁ。
悩ましいけれど。
まぁ、恋仲だからね。
「ああもう! 学園を出ても……私は……!」
襲い来る糸、糸糸糸。
その全てを燃やし、凍らせ、吹き飛ばし、固め。
森の中を縦横無尽に駆け回るは少女A。
「シャニア、ケニス! 大丈夫!? ……ええ、飛ばし過ぎだと思ったら言って、少しくらいなら遅くできる!」
何も無い虚空へ投げかける言葉。何も無い虚空から返る言葉。
十六体の大蜘蛛、その内の十体が少女Aへと殺到している。やはり狙いはエレメントリー本家の純血。芸がないね、なんて思いつつも、それほど貴重だというのは己も理解できるからなんとも。
けど、真意が今のところ不明だな、とは思う。
あれほど薄い血の者たちではエレメントリーの純血を使うなんて無理だ。それとも濃い血の分家との交渉材料にでも使うのかな?
ふぅむ。知ろうと思えば知ることはできる。けれどそれでは楽しくない。臨場感がない。
ここは知らないままに踊ってみようか。
「エンジェ」
「きゃっ!? ……って、アンタね! 今は風の感知がないんだから、いきなり声かけるのやめなさいよ!」
「一般的に可愛らしい悲鳴をありがとう。ところで君、シャニア・デルメルサリスとケニス・デルメルクランがついてきていないことには気付いているのかな」
「は? すぐ後ろにいるじゃない。何言って……まさか!?」
二人でも簡単に避けられるだろう氷柱を射出する少女A。そしてそれは、「まさか」の通り……己には見えていない幻影を貫通したらしかった。
「う、嘘……じゃあ本物の二人は」
「君と同じ境遇にあるんじゃないかな」
「……助けに行かないと」
「魔物を倒してしまえばいい、とは考えないのかい?」
「さっき何度か貫通力の高い魔法で攻撃してみたけど、傷一つつけられなかった。今の私達にできるのは逃げて逃げて、先生たちを呼んでくることだけよ」
飛来する糸をステッキで弾く。まったく、今話し合いの最中なんだから空気を読もうね。
「では質問だ、エンジェ。君は何故上空に向かわない? 教師がいるのは上空だろう?」
「行けなかった。一定高度まで行くと、いつの間にか地面に向かってる。多分、認識錯誤の結界ね。先生たちが火に気付かないのも同じ理由。だから私は森の外に出ようと思って……」
「けれど君が向かっているのは森の最奥だよ。そして今の今まで二人がそばにいると誤認させられていた」
「……方向感覚も、ってワケ? つまり……森を出るにせよ、二人を助けに行くにせよ」
「理解が早いね」
少女Aは足を止める。
止めて……『ココダトレイルの大蜘蛛』へと向き直る。
「この魔物を倒して倒しまくるしか方法がない!」
浮かべるは冷気と紫電。熱を持たない雷とかいうファンタジーファンタジーしたもの……己の作り上げた通りの
貫通力と対象をその場で足止めすることに長けたその魔法を乱射する少女A。
しかし、先程彼女自身が言った通りだ。
「通らないし、足止めもできない……!」
「魔物が魔核から生まれた、という事例は確認されていないはずだけど、単純に考えて通常の魔物より魔法抵抗は高そうだよねェ」
「アンタの攻撃は通らないの?」
「通りはするよ。けれどあの蜘蛛、中身にこれでもかってほど粘糸が詰まっていてね。先程殺した一体に己の愛用のステッキを奪われてしまった。もし拳や足でその硬殻を砕こうものなら、腕や手足とおさらばしなければならないだろう」
「ならとりあえずこれを使いなさい」
錬成が起きる。
目の前に現れたるはステッキ……ではなく剣。
「己のステッキを再現してはくれないのかい?」
「私のできる最大の切れ味にしておいたわ。それなら絡め取られることもないかもしれない。そうでしょ?」
成程、杖だから絡め取られた、と判断したわけだ。
ただ……まぁ。
一応パフォーマンスとして踏み込み、剣を突き刺してみる。
刺さりはした。が……抜けないね。無理矢理抜こうとすると糸も出てくる。そうして試行錯誤している間に棘足が来る……ので、離脱せざるを得ない。
「むしろどうやって一体殺したのよ」
「正確にいえば、巨岩に縫い留めてきた、が正しいかな。殺せているかどうかは怪しい」
「……なら、それで行くわよ。私が岩も剣も錬成するから、アンタはそこにあいつらを縫い留めていって。いける?」
「仰せのままに、とでも言おうか?」
剣が手元に錬成される。欲を言えば槍の方が縫い留めやすいのだけど、なんて嘯きつつ、少女Aの錬成した岩へと『ココダトレイルの大蜘蛛』を縫い留め──た、けれど。
砕かれる。
錬成された岩も、縫い留めた剣も、ついでに先程刺さった剣も。
「耐久性能が足りないようだ。どうする、エンジェ」
「……少し、考えたい。考えたいから……酷いこと言ってもいいかしら」
「何かな」
「ごめん、ちょっとの間、私を守って!」
口角が上がる。
素直でいいねェ、君は。
ま、己もこの画策には興味がある。君が時間をかければかけるほど他二人の命が危ぶまれよう。
もしかしたらどちらかは「回収」されてしまうかもしれないけれど、まぁ、それこそが血筋争いの醍醐味だよね。
「仰せのままに、だ。お姫様」
考えるといい。思考するといい。
五種の魔法に得手不得手はあれど、総合的な能力の差はない。
ナノマシンの強化無しで己が剣を突き立てられる程度の耐久性であるということは、フィジクマギアの最大強化であれば破壊可能な硬度ということだ。
考えよう、少女A。君の奮闘が、君の思考力が、この班の命運を分ける……かもしれないね?
それは『彼』が見逃した事実の一つではあったのかもしれない。
始祖シエル・クローヴィーによって行われている"家族計画"。これにより、ザンクトサリスのような「事故」を除いて……此度殺された魔法使いのような「薄すぎる血の分家」なんてものは現れない。認識錯誤に特化した分家は当然いるだろう。結界に特化した分家だって存在する。
けれど、血が薄まりに薄まった……つまり平民と番っている分家など、始祖シエル・クローヴィーが許すはずもない。
それでも実際にその人間はいて。
果たしてこの見逃しは、どこへ響くのか。