魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Step5-2.「前身文明の敗者」

 特例として己は認められたわけだけど、教師D'やイレイアの言う通り、表面上における己の扱いは変わらない。

 いつも通りの授業を受け、いつも通りの日々に戻る。

 

 内側の膿は排したとはいえ、彼ら彼女らに繋がりがあった外部の存在が消えたわけではない。

 だから遠征課業はその全てが取りやめとなり、座学、あるいは学園内で可能な授業が前倒しになっていた。

 

「──勝負アリだ、エンジェ」

 

 ステッキを彼女の眼前に突きつけて言う。

 室内運動機能場での模擬戦闘訓練。最近ずっと上の空である彼女と己を戦わせる理由に邪推の余地はあるけれど、まぁ授業は授業なので特に追求せずに行った結果がこれ。

 彼女の魔法は精彩を欠き、己の速度についていけずにチェックとなった。

 

「……どうしたのですか、エンジェ・エレメントリーさん。ここのところずっと本調子ではないように見えますが……」

「いえ……ごめんなさい」

「謝られても困ります。怒っているわけではないのですから」

 

 少女Aのクラスを受け持つ教師も困っている。

 ふむ。これは恋仲として相談に乗るべきかな? どう考えてもあの森での一件からのスランプだろうし。

 

 

 中休み。

 いつもの面々に断りを入れて、少女Aだけを呼び出す。

 

「……なに、改まって」

「手加減ができない。君の悩みはそれだろう?」

「!」

 

 まぁ、己が一体何人の魔法使いを見てきたと思っているのか、という話だね。

 

「あの時君が使った魔法は、君自身でもどういう思考回路を辿って行きついたものなのかわかっていない。けれど、今この時でも再現は可能で──そして他の魔法の全てがそれに引きずられる」

「今日の模擬戦、あったでしょ。私……何度か魔法を放とうとして、寸前で気付いたの。あ、これ、人を殺す威力だ、って。室内運動機能場に穴をあける威力だ、って」

「己が上手く避けていただけで人を殺す威力であったのは初めからだと思うけれど、そうか、それで怖くなってしまったわけだ」

「人を殺すのが怖い……わけじゃ、ない。貴族である以上、魔法使いである以上、それはいつか起き得ることだって教わってきた。そうじゃなくて」

「自身の魔法が自身の制御下にないのが怖い。君は完全な感覚型だから、その感覚と現状の魔法が乖離している感覚に恐怖を抱く」

「……そんな感じ。私、アンタのクラスに行った方が良いんじゃないかって、もう何度も先生に相談してるのよ。威力の制御ができないなんて、それは……今私がいるクラスで受けるような高度授業を受けられるヤツの力量じゃない」

 

 確かにね。

 少女A'とほとんど同じだ。彼女の爆炎は高威力だけど、威力調整ができないからあのクラスにいる。

 だから少女Aも夢幻の中で安全に魔法を使うべきだ、というのは理解できる。できるけれど。

 

 それは、血を腐らせるよ。

 

「スヴェナ。見ているんだろう、出てきていいよ」

「……」

「あ……」

 

 また一段と存在希釈が上手くなったものだ。これなら本当に本家を凌駕しかねない。今になって始祖CCがスヴェナを排除したがった理由に理解が及んだよ。

 こんなの分家に現れちゃあいけない存在だ。

 

「──それと、シャニア・デルメルサリス。君もだ」

 

 こっちはステッキで空間を小突く。

 それによって砕かれるは他よりも強度の低い空間。いわゆる隠れ身の術だ。その空間の表面だけを切り取って自身に被せ、身を隠す。剥離や乖離よりも小規模に行える魔法であり、魔力の消耗も低い。

 

「見抜かれましたか。流石は『噂の平民さん』ですね」

「ああ。さて、シャニア・デルメルサリス。己はエンジェに少しばかりの指導をしたい。……それは他者の目を覆わなくてはいけないことだし、学園の規則に少々反する。だから──規律を破ってはくれないかな」

「規律会のメンバーたる私にそれを依頼するのですか?」

「学園の規律と親友の不調。どちらの秤を傾けるかは君の手で操作できるよ」

 

 少女Cは……はぁ、と溜息を吐く。

 

「教師に許可を取ることはできない、と」

「さっきも言った通り、他者の目にはなるべく触れたくない。君とスヴェナ。目撃者はこの二人だけに留めたいんだ」

「一応聞きます、『一応平民の人』。それはエンジェに危害を与えるようなことですか?」

「むしろ逆だね。不調の彼女のその原因を取り除くことだ。危険なことは一切ないよ。……まぁ異相空間にいないと学園が危険ではあるけれど」

「理解しました、一応。シャニアさん、つまるところ、空間乖離とその隠蔽をしてほしい、ということのようです、一応」

「それくらいわかっていますよ、スヴェナさん。ただ、無断で空間乖離を行うこと、その隠蔽を行うことが規律違反で……」

 

 いえ、と。

 先に折れたのは、少女Cだった。

 

「わかりました。空間乖離、及びその隠蔽を使ったのち、私は規律会に出頭します」

「ちょっと……いいわよ、そんなこと。私のためになにかしようとしてくれているのはわかったけど……シャニアに迷惑をかけてまでとか……」

「あなたがずっと燻ぶっている方が私にとっては迷惑です。なにせ、私にとって善きライバルと思えるのはあなただけですので」

 

 いじらしい乙女心ってやつかな?

 血筋争いを好む己としては同性愛は否定派だけど、友情までもを否定するほどの過激派ではないからね。

 

「では一応、罪の分散を。私が乖離を行います。シャニアさんは隠蔽をお願いします」

「スヴェナまで……」

「嗚呼美しき友情かな。それで、早くしてくれるかい? 中休みが終わってしまうからね」

 

 全員から蹴られた。

 いや、事実だろう?

 

 ともかく……空間が異次相へと落ちる。中庭の境界線から向こうがマーブルに引き延ばされ、世界が混沌に満ちる。

 

「改めて、エンジェ。己は君のその症状に見覚えがあってね。第三次魔法大戦についての知識はどれほど有しているかな」

「どれほどって……昔のことだから、記録に残されている程度しか知らないわ。お爺様たちもあまり話したがらないし……」

「スヴェナ、君は?」

「……一応、何があったか、どうしてそうなったか、については知っています。どのようにして終結したのかも」

「ふむ。では、第三次魔法大戦の後、参戦した多くの魔法使いたちが陥った症状については知らないみたいだね」

「それが……エンジェの症状と同じである、と?」

 

 戦争の後に人間が陥るものといえば心理的創傷……PTSDなんかが有名だけど、魔法使いには少しばかり別の心理的症状が現れる。

 

「Magicanal Neurolodical Symptom Disorder……簡単に言ってしまえば、自身の使った魔法規模に自分自身が驚き、それを心的外傷と捉え、君達が魔法を使う時に用いている器官の絞りを間違えてしまう、という障害だ。大戦においてはたくさんの魔法使いが限界のさらにその先を行くような魔法行使を連続する。彼らの脳はいつしかそれを"常にそうしなければいけない"と勘違いし、蛇口の開け閉めが極端になる。使わない時は完全に閉じ、使うと決めたら開き切る……今のエンジェのように、どの魔法を使ったとしても最大出力で放出してしまう」

「理解は及びます。それで、その症状の寛解が可能である、と?」

「良い理解だ、シャニア・デルメルサリス。そう、一度こうなってしまったら完治することはない。ただ和らげることは可能だ。──そこで」

 

 特に意味はないけれど指を鳴らす。

 直後……スヴェナが作り上げたはずのこの異次相に、硝子を割り砕いたかのような穴が開いた。

 

「っ、『一応平民の人』なにを!」

「……魔法に干渉する、ですか。平民にできていいことではないように思いますが」

「そうだね。己は平民ではないからね」

「はあ、結局認めるのですか」

「いいや、この空間でだけだ。──ここを出たら君達は己の所業の全てを忘れるよ。ただ、どのようにしてエンジェがこの症状から脱したのかと、定期的に何を行えばエンジェを救い出せるのかを学ぶだけだ」

 

 穴から出てくるは……肢。

 ガシャ、ガシャと。金属音と共に這い出る大蜘蛛。

 

「……アンタ」

「前回の森に現れたのは『ココダトレイルの大蜘蛛』という名がつけられた。『戒律機関』によってね。けれど此奴は違う。世界各地に点在する遺跡……その中で発掘された機構だ。機構の名前は『PRISONER』。戦場に出た負傷者を回収する掃除屋といったところかな」

 

 かつてあった最も大きなものは全高十七メートル、肢一本の長さが百三十メートルという巨大装置だったけど、今回持ってきたものはミニミニ版だ。

 ほとんど『ココダトレイルの大蜘蛛』と同じ大きさに調整したコレであれば、少女Aも思い出すだろう。

 あの時の感覚を。

 

「エンジェ。あの時君が使った魔法は、白烙直射(ソーラ・メイザー)という。君の限界はさらに先のところにあるだろうけれど、今の君はそれで充分だ。──いいかい? この機構は一定以下の魔力を吸収する。その許容値を超えた攻撃でしか破壊できない」

「あれを……また撃て、って? そんなことしたら、さっきアンタが言ってた症状が……もっと酷くなるんじゃ」

「先に述べた通り、君の症状は完治させることのできないものだ。これからは上手く付き合っていくしかない。その付き合い方の一つがコレでね。君の魔力、及び魔法を使おうとする器官の蛇口はひとたび開けば全開になる。だから君はそれを我慢している。我慢は当然ストレスとなって、さらなるフラストレーションに変換される」

 

 指先にナノマシンを滞留させ、しかし放出することなく溜めていく。

 放出口はある。けれど細すぎる。もしこれで容器が堅固であれば高圧水流のようにできたかもしれないけれど、現実は違う。少女Aは許容量が大きいせいで、溜めに溜めることができる。できてしまう。

 

 そうなればいつか──というのをデモンストレーションするように、指先のナノマシンを破裂させた。

 

「一度、白烙直射(ソーラ・メイザー)を使った時のような感覚で、全魔法を全力で使ってみるといい」

「……信じるから」

「おや、本当かい? 己は色々な魔法使いにこの説明をしたけれど、そのたびに嘘を吐くなだのこの詐欺師だのと罵られてきたのだけど」

「あの一応、そういう経験があるのであれば、少しは態度を改善するなど……」

「いいわ……やってやろうじゃない。アンタのこと、全面的に信じるから……そこ、どいて。その魔物に私の今の全力をぶつけてやる」

 

 おお、怖い怖い、なんて嘯いて、少女Cとスヴェナのもとへ移動する。

 

 して──始まった。

 超超高威力の魔法。単一属性から複合属性まで、ありとあらゆる四大元素(エレメントリー)の魔法を『PRISONER』にぶつけていく少女A。

 第一波で理解したらしい。

 

 少女Aが放つ魔法は、「一定以下」である、と。

 そこからは……どこか楽しそうにギアを上げていく彼女の姿があった。

 

「先ほどは正式な症名を述べたけれどね。この症状にはもう一つ俗称がある。トリガーハッピー症候群。聞き覚えは?」

「それならばあります。魔法を覚えたての幼子が陥ることのあるもの、ですね。魔法を使うことが楽しくなって、加減を考えずに、そして自身を省みずに魔法を使い続けてしまう症状。大人になるにつれてそういった兆候は鳴りを潜めていくと聞きますが……まさか」

「ああ。それは症状が無くなったわけじゃなくて、向き合い方を覚えただけなんだ。これら二つに違いはないいよ。幼年期に発症したか成長してから発症したかの違い。だから付き合い方、向き合い方も同じでいい。トリガーハッピー症候群の幼子にはどういった教育をするか知っているかい?」

「はい。一定間隔の期日を設け、魔物退治などにその魔力を使ってもらうことで、疲弊させる、と」

「やり方はあっているけれど見方が違うんだ。この患者は魔力を使って疲弊したから落ち着きを取り戻しているのではなく、魔力を使ってストレスを発散しきったから満足して落ち着いているだけ」

 

 要するに。

 

「エンジェはストレスを溜めすぎていて、ああなっていた、と?」

「それは些か暴力的な要約だけど、まぁそういうことだ。彼女は強力な魔法を使わないとストレスが溜まる症状に陥ってしまった。ああやってバカスカ撃って撃って撃ちまくって、スッキリするまでは普通の魔法使いとして振る舞えない。ああ、魔力欠乏は気にしなくていいよ。その辺の調整はできるのがこの症状でね。だから──」

 

 魔法が止む。

 機構……『PRISONER』は未だ健在。というか傷一つついていない。

 まぁねェ。あの時代の兵器を楽々倒せるようになっていたら……それこそ魔王だよ、なんて。

 

 少女Aは、ばたり、と仰向けに倒れた。

 

「ちょっと……エンジェ!?」

「調整できるのではなかったのですか」

「まぁ見ているといいよ」

 

 急いで少女Aに駆け寄る少女C。

 けれどその心配は、両手足をピンと伸ばし、そして。

 

「あ~~~っ、スッキリしたぁ!!」

 

 という少女Aの大声に溶けて消えたようだった。

 

 

 つまりだね、と。

 

「シャニア・デルメルサリス。この異次相に『PRISONER』を預けておいてあげるから、エンジェのフラストレーションが限界そうだな、と感じたら彼女をここに引き摺り込み、ストレス発散を手伝ってやってほしいんだ」

「……なるほど、確かにこれを定期的にやる必要があるのであれば……教師への申告などできませんね。次元空間(デルメルサリス)の本家と分家の二人が定期的に隠れた空間で密会をしている、など……あらぬ噂が立ちかねません」

「規律会への出頭も、一応、無しにした方が良いです。心苦しくはありますが、エンジェのためならば」

「……」

 

 ふと、スヴェナを見る少女Cの視線が固いものになる。

 厳しい目、というより……嫌疑?

 

「『噂の平民さん』。ここでの記憶はほとんど消える、のでしたね」

「ああ、時折エンジェを連れてきてストレス発散をさせなければならない、という部分以外は、そのほとんどがあやふやになる。どころか完全な忘却……記憶の蓋へと繋がることもあるだろう」

「ではずっと疑問に思っていたことを聞きます。……スヴェナ・デルメルグロウさん。あなたは一体誰なのですか?」

 

 ほう。

 まぁ、そうか。少女Aがスヴェナを抱きしめていたあの現場を目撃しているからね、彼女は。

 

「認識錯誤は解除した。いいよ、言っても。どうせ覚えてはいられない……この空間に入るまでは思い出せないから」

「それは『一応平民の人』の甲斐性ですか? ……いえ、無駄口ですね、これは。では、改めまして。私はスヴェナ・デルメルグロウ。──以前の名は、アンフィ・エレメントリー。エンジェの姉でした」

「……不慮の事故で亡くなったはずの、エレメントリーの次期当主。……待ってください、ああ、だからエンジェはあんなにもすぐに立ち直って……」

「そういうこと。ごめんね、アンタにはずっと良くしてもらってるのに、色々黙ってて。危険な状態だから、言い出せないのよ外じゃ」

「……だとしたら。そうだとするのなら、そんなアンフィさん……スヴェナさんと初めから仲の良かったあなたは」

 

 ん? ああ、今の流れで己に来るのか。

 少女Aと少女A''の姉妹愛について触れるのかと思っていたのだけど。

 

「己は別にエレメントリーともデルメルサリスとも関係のない一般魔法使いだよ」

「はじまりの五家に属さない一般魔法使いですね、一応」

「五家に属さない時点で一般ではないのですが……。ああ、それなら、ジェヴォーダンの魔物を倒したのも魔法によるものなのですか?」

「いや、あれは純粋な身体能力だね。頑張れば君達にもできないことはないよ」

 

 多分先に肉体が限界を迎えるだろうけど。

 

「ね、アンタ」

「何かな、エンジェ」

「アレ……壊してもいいのよね?」

「壊せるものならね」

「スッキリはしたけど、悔しかったのよね。……って、ああ。普通に魔法が使えるようになってる」

「脳が"常にこの威力を出さなければならない"という勘違いを解いた、というわけではないよ。君はただ一時的満足しただけだ。結果的に脳が"もうこれ以上は無理"という違う勘違いしているだけ。君はこの満足期間の間だけ、通常通りの魔法を使うことができるようになる」

 

 弱体化、と。そう言ってしまえば確かにそうだ。

 けれど……"常にこの威力を出さなければならない"という勘違いは、実のところ、際限なく上がっていく。キャップがね、緩くなっているんだ。

 いつか太陽直射(ソーラ・メイザー)……白烙直射(ソーラ・メイザー)規模の魔法を何十発も撃たないと満足できない脳になるだろう。そしてそうなった時、君が使っている魔法は……あの時代の兵器をも超えるナニカになっている。

 

 良いことだ。

 魔王の芽かもしれない、というのは理解した。けれど、いいじゃないか。

 方針転換さ。この時代はやはり良い。イレイアのことも、スヴェナのことも、少女Aのことも。

 

 己にとってあまりに都合のいい展開が転がり過ぎている。

 そのサイドストーリーで血筋争いをしてくれるのなら最高だ。

 

「ところで、アンタはアレ、壊せるの?」

「ん……まぁできるね」

「ふぅん。ちょっとやってみせてくれない? あ、もしかしてあれ一つしかないとか」

「いや、量産できるから構わないけれど……どうする? 身体能力だけでやるか、魔法込みでやるか」

「アンタの杖術はもう見飽きたから、魔法がいいわ」

 

 先程までの上の空はどこへやら。

 スッキリした少女Aはいつもの調子を……つまり、いつものお姫様っぷりを取り戻してくれたらしい。これでいて博愛主義のケがあるというアンバランスなところが彼女だよねェ。

 

 しかし、魔法か。

 

「一応忠告しておくけれど、これから使うものは君達の魔力法則、魔法体系に存在しない魔法だ。だから見たところで何の参考にもならないだろうけど、それでもいいかい?」

「どうせ覚えてられないんでしょ。だったらなんでもいいわよ」

「……一応忠告しておきます、エンジェ。『一応平民の人』は恐らく──」

 

 この異次相に強化をかける。それは異次元と呼ぶに相応しいほどの乖離を齎すことになるけれど、一瞬の話だ。

 

 ──左腕の肘から先を引き千切る。

 少女らがそのショッキングな映像に何かを言う前にこれを分解。「光の球」としか形容できないものを作り上げる。

 

塗り潰すよ(OVER COLOR)……」

 

 放たれるは極光。白烙直射(ソーラ・メイザー)を超える白。

 この名が示すは文字通りの上書き。見た目に反してエネルギーの放出や力場の形成などは行っていない──事象の改変を視認できるようにしたもの、という表現がしっくりくるだろう。

 

 前文明はナノマシンで行き詰まった。それが全ての敗因だ。

 樹殻から出ることが適わなかったのも、人類を衰退へ導いてしまったのも。

 

 あるいは、樹殻ができる前に研究されていた生体機械の分野でなら、また違った結果が見られたかもしれないけれど……今となってはどうしようもないことだね。

 

 果たして、放たれた極光は『PRISONER』という事象を上書きする。

 この光の通り過ぎた場所を『PRISONER』から『無』へと書き換え、それを定着させる。

 

「……おっと、外で予鈴が鳴っているね。チラ見せはここまでとしよう」

 

 三人が何かを言う前に、もう一度意味なく指を鳴らして……空間乖離を解除する。

 少しばかり記憶に混乱があるだろうから、仲良く遅刻してくるといい。己は先に戻っているからね。

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