魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
水晶玉を覗き込む。
これは『
まぁ『通達のスクロール』なんて骨董品を日常使いする人間はほとんどいなかったけど。
「……」
今己が見ているのは少女Aのもの。
その、潜在能力。基礎能力だ。
遺産ではあるものの通常稼働しているコレの数値。己のように肉体がそもそも存在しないもの、とかでなければ偽ることは不可能と言っていいもの。
だから……溜息を吐く。
「やっぱり普通なんだね、エンジェ」
より正確な表現をするなら、「その域を出ない」というべきか。
確かに
けれど、土壇場の思い付きで
とあらば、聖護魔導学園への入学後の……この数か月の間に何かがあったと見るべきだ。
勿論生まれつきナノマシンに依らない超能力のようなものを持っていた、とかだったらお手上げだけど。それはもう勝手にしてくれ、というか。
ただ、己のデザインしたこの世界では、大抵のことがナノマシンで説明できる。その魔法世界に生まれておいて超能力なんてのはちゃんちゃらおかしい話だ。なんせ前身文明、あるいはその前の文明、いやさ『暴風金属』と呼ばれる嵐がこの星を覆っていた頃にまで遡っても、そんな力を持つ生物はいなかったのだから。
入学後から己がエンジェと出会うまでの間に二か月ほどのブランクがある。その間に誰かと、もしくは何かと接触して……。
「『御館様』、ご報告があります」
「……君ね、ここ一応クライムドールの陣地内だよ? 外でもよくないかい?」
「私の隠形は
「ああそう。それで、何かな。己は今調べ物をしているのだけど」
ここは聖護魔導学園の禁蔵庫。気軽に入ることのできる場所じゃあない。
これまた遺産であるセンサーがあるからね、量子間テレポートであっても検知できる優れものが設置してある。
そんな場所に侵入できるようになったのは喜ばしいことだけど、そのリスクを冒す必要があったかは別の話だ。
「『御館様』たち御一行が次に向かわれる小島……三千年前の戦争ではクリアステムと呼ばれた禁地であると同時、地下に数体の『機構』が見受けられました。私は勿論、里の者を集めても制圧できるかどうかわからない個体が多く……」
「クリアステム……ああ、『WEAPON LINE』か。構わないよそんなこと報告しないでも」
「……お役に立てませんでしたか」
「ああ。行けば判ることを事前に知る必要性を感じない。わかったら消えてほしいかな。己は今、一平民の一学生だからね」
「……失礼いたしました」
消える気配。
いやはや全く、勘違いにも程がある。
今の子は瘴気の森の先にある己が作り上げた『存在抹消の里』に住まう一人であるけれど、己への敵愾心を抱くどころか崇拝の念を覚えてしまった者の一人だ。
そう、一人。他にもいる、ということ。彼ら彼女らはどこから見つけてきたのか「NINJA」とか「SHINOBI」というものに憧れているようで、というか実際にスパイや間者をしていた人間が混じっているせいで、己の私兵を勝手に名乗っている。正直邪魔だ。己を妨害するのならああするのが一番良いのだろう。
スヴェナやガエンのように敵対心があからさまな方が付き合いやすいんだけどねェ。
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少女Aのこと以外にめぼしい情報はなかったけれど、意外だったことは一つ。
最上級生C。キャレム・アレンサリス。彼女の父親が己の知り合いだった、ということだ。世界は狭いねェ。
……君が卒業するまでに動いてくれると助かるよ。できるだけ、とびきりの争いでリクエストをしておこう。
さて。
生徒Cが話していたように、今年の遠洋課業は無しにはならなかった。セキュリティ上陸地より管理しやすかった、ということもあるだろうけど、やっぱりどうしても領地を持つことになればその大半が島を治めることになる。島での生活、及びその経験は必要なんだろうねぇ。
……ちなみに特進クラスの生徒が何人か落第しているのは語るべくもない話。
それで余計な恨みを持たれているみたいだけど、そんなことは気にせずアイランドだ。
遠洋課業は遠征課業と違って期間が長い。
ほぼ一か月の間だ。学園の保有する島に住む形で授業を行い、そこでの執政を学ぶ。とはいえ生徒Cや己のように領地を継ぐ可能性のない人間には関係のない話で、関係があるのは少女AやC、A'のような本家・分家の長子だけ。
つまるところバカンスである。
まぁ、一般に想像されるような「白い砂浜、青々とした海、露出度の高い美男美女」みたいなものはない。なんせ授業だからね。
あと普通に危ない。先述した通り、この惑星は九割が海で、
さらにそれを動力源とするのなら……五千年の時を経ても生き残っている個体がいておかしくはない。流石に繁殖機能はついていないから増えはしないと思うけど。
今回の班分けは前回の四人+スヴェナともう一人。
「……」
「……」
今、己の隣で無言を貫いている少年──特進クラスの生徒であり、あの教師D'に対して「よろしく、って。握手したから。攻撃」と堂々言い放った胆力の持ち主である。
名を、イズ・アドクロス。名前からでは判別し難いだろうけど、一応クライムドールの分家だ。
彼はアドクロスの長子なので今行われている説明会……少女AとCに課せられる追加分の話を聞く必要があるはずなのだけど、なぜか己の隣にいる。
「……」
「……」
魔力の動きがあるから、恐らく未来視関係の魔法を使おうとしているのだろうことはわかる。
ただアドクロスって……「敵の身体に陣地を埋め込んで破壊する」とかいうクライムドールのコンセプトから最も遠い所に派生した分家だった覚えがあるので、未来視なんてものの機能が残っているのか甚だ疑問である。君達もう
「……うん」
お、喋った。
「鉄を食む大蛇。その腹より生まれ出でる仔は、獅子の顔を持つ鋼鉄の巨獣」
「……」
「ボクと、ケニスくん。必要なものは薄まった血。濃い血は好まれない。スヴェナ・デルメルグロウ。彼女は分家の血じゃないんだね」
不思議ちゃんかこの魔法世界ではめずらしい厨二の病を患った者……かと思ったけれど。
今のは未来視だね。それも……かなり先を視たらしい。さてはアドクロスは偽名だったりするのかな。あるいは父方はアドクロスだけど母方は未来視特化の分家、とかね。
「己は?」
「君はノイズだ。視えない」
はっきりと言うね。
「今日からの一か月間、仲良くしようじゃあないか、イズ・アドクロス」
「そうなるといいね」
おや。
フラれてしまったらしい。
そのままスタスタと……説明会の方へ歩いていく生徒E。
彼は……けれど、一度振り返って。
「『敵』と仲良くするメリットを見つけられたら、仲良くしよう」
それだけいって、また去って行った。
へぇ。いいじゃないか。
本格的に始まった遠洋課業。己達は二班に分かれることとなる。
一班目は島に残って防護壁や防波堤など、「人が住めるように」「魔物の襲来に備えられるように」島を整える班。
二班目は舩に乗って島に害を為しかねない魔物の討伐や測量などを担当する班。
一班には少女A、C、生徒Cが。
二班には己、スヴェナ、生徒Eが振り分けられた。生徒Cは「なんで俺が……」という顔をしていたけれど、まぁこれから一か月あるからね。ローテーションもするだろう。
「しかし大きな舩だね。これ、本来は十数人で動かす用途のものじゃないかな」
「一応、そうです。ですが魔法使いは一人で数十人分の仕事ができるため、本来は過剰。『一応平民の人』がいることでバランスが取れる、という措置かと」
「巨鯨に注意」
ふぅん。己が三百年前に聖護魔導学園へ通っていた時は遠洋課業の期間じゃなかったからなぁ。
これは本当に初めてのことで少しワクワクしているよ。
──ちなみに、一ヶ月間という長い期間でありながら、監督役をする教師は存在しない。説明を行っていた教師は既に去っている。
領地関連の事だから、というのもあるし──「"間違い"が起きるのならそれはそれでいい」とか考えているどこぞの何者かのテコ入れがあったせいでこうなっているのだとか。
これに関しては己は関わっていないので、本当にトチ狂った誰かがいたのだろう。
とはいえ本家筋が二人もいて、そのどちらもが少女であるこの班では間違いなど起きるはずもないのだけど。
ああいや、繁殖を目的としない交尾ならあり得る、のかな? 人間の繁殖願望について己はそこまで詳しいわけでも無いから何とも言えないな。
「一応、とんでもない量の魔物がいますね。辿れる深さ……簡易探知に引っかかる三百メートルほどで、既に十体はいます、一応」
「もっといるよ、スヴェナ」
「それは一応、未来視ですか? 探知ですか?」
「教えない」
己へと振り返り、肩をすくめてくるスヴェナ。まぁ同じ気持ちだ。
コミュニケーションがね……。
何はともあれ出航である。
舩の操作の大部分はスヴェナが行う。周囲警戒は己が、魔物が現れた際の対処は生徒Eが行うこととなった。
まぁ己が出れば簡単に終わり過ぎてしまうからね。
「ちなみにこれは彼には聞こえない会話だけど、君は毎年遠洋課業に出ていたわけだから、勝手知ったるなんじゃないのかい?」
「……一応、水と風、土を堂々と使っていいのなら、勝手知ったるでしたし、何を気にする必要もありませんでした。ただ今は一応デルメルグロウで、その魔法を使って舩を動かす必要があるため、一応、結構、大変です。一応かなり集中しているので話しかけないでもらえると一応助かります」
「一応なら話しかけようかな。彼、コミュニケーションを取る気がないみたいだし」
「『一応平民の人』、あなたは海上を走り得ると思います。舩は必要ないのでは?」
暗に海へ投げ捨てるぞ、という脅しだ。
どうやら本当に集中しているらしい。まだまだだねェ。
「ん。右舷にイビルフィッシュ系の魔物がいるねェ。加えて毒持ちだ」
「……やっぱり、ノイズ。ここでの遭遇は想定していなかった。──殺すけど」
ドカンと大砲でも撃ったかのような音が鳴る。
刹那、タコの魔物へと刻まれるは十字。いや、刻まれたと言うより十字状の穴が開いたというべきか。
さらにその傷を起点に陣地が発生する。範囲内のものを無に帰す陣地が。
ふむ。アドクロスの魔法も十二分に使えて、さらに未来視までできるのか。
これは案外……。
「左舷後方、フライングクラブだ。それもメタルシェルだね」
「関係ない。殺す」
ほとんど同じ。十字の穴が開いて、そこから陣地が発生、消滅。
アドクロスの超攻撃的陣地魔法。ただ今回のは己が位置を言う前から魔法を準備していたね。こっちは視えていたのだろう。
「己、要らないかい?」
「ノイズが邪魔をしない魔物は殺せる。主に前方の敵は君が邪魔で視えない」
「その程度自分でなんとかしたまえよ」
「……やはり『敵』。事故を装って殺すべき」
おお、案外思想が過激だ。
でもいいよ、やれるものなら、だからねェ。
「イズ、あまり遠方で殺し過ぎないでください。一応、私達の食糧となる魔物もいます」
「……そうだった」
「成程、君は"こういうもの"は視えないんだね」
跳躍して爆ぜさせるは水泡。
どこぞからタイホウウオが飛ばして来たものだろうけど、こんなのでも舩に直撃しようものなら破損が起きる。
樹木に干渉できる魔法は存在しないからね、マストが折れでもしたら大変だ。スヴェナの全力で港へ帰港し、すぐに修理しないといけない。
「魔力が込められていない。ノイズがいる。二重苦」
「やれやれ、君の能力不足は全て己のせいか。これから先が思いやられるね」
「あの喧嘩してないで仕事してください一応。今回は一応六人分で充分ですが、例年を考えれば逐次人員が投入されます一応。何もしない、守られるだけの領民、という設定の人員が」
「へえ、そんな面倒なことがあるのか。なら早めに保存食は作っておくべきだね」
「そういうことです」
面白いなそれは。
その彼らはなんなんだろうね。聖護魔導学園は常に人手不足のはずだから、暇な貴族でも雇うのかな。それとも平民?
いやあ、知らないというのはいいね。やっぱり聖護魔導学園自体も卒業まで在籍せずにどこかで抜けようか。今後の楽しみはとっておきたいし。
「前方直下……おや、『ネスのシーサーペント』じゃないか。こんな場所に出ることがあるんだね」
「ネームド!? イズ、制御替わってください一応! あなたじゃ火力が足りない!」
「問題ない。──
この舩を突き上げんとするは首長竜のような見た目の魔物。
その肉体の至る所に十字痕が開き、次の瞬間全てが爆発する。一瞬にして全てを陣地に変えた上、消去ではなく陣地内の空気を爆発物に変える、という操作をしたらしい。
威力は見事だね。直下だから、真上にあるこの舩が揺れるほどの威力だ。
けど、威力だけだ。判断が悪い。
「っ!?」
凄まじい衝撃。それにより、船体が大きく傾く。
「船底で浸水を確認! 一応、緊急旋回を試みます! 沈没前に帰港できれば御の字です……!」
「君の結界で穴をふさぐことはできないのかい?」
「穴は複雑な形をしています、一応! 私はまだ角形にしか結界を張り得ません!」
「成程、案外未熟なんだね」
にしても。
「君もしっかり特進クラスだったわけだ。調子に乗ったね、イズ・アドクロス。『ネスのシーサーペント』の特筆すべき事項はその再生速度だ。一撃で殺しきらない限りアレを止めることは難しいよ」
「……ノイズがなければ、視えた未来」
「どこまでも他責思考か。アドクロスの魔法と未来視のどちらもを高水準で使うから案外やるのかな、と思っていたけど、子供であることに変わりはなかったね」
ギリ、と奥歯を噛む音。
寡黙だけど無感情無感動なわけではないようだ。
「ま、この場は助けてあげよう」
ひょい、と舩を降りて──船体を蹴り上げる。
ああ確かに大穴が開いているね。
「しかし君、惑星の裏側からはるばるやって来たのかい? それはご苦労様だね」
コツン、とステッキで『ネスのシーサーペント』の頭に触れて……海底へと帰らせる。
海面へ着地してやれば、そそくさと逃げていく魔物たち。生存本能に長けた個体が多いね。
舩を蹴り飛ばした方向を向いて海面を蹴れば──そこはもう島の港で、上空には降り落ちてくる舩の姿が。
着水する、その前にふんわり受け止めてあげて、陸地へとそっと降ろす。修復するまでは浮かせられないからねェ。
船員は……おや、二人とも気絶している。
そんなに楽しいアトラクションだったのかな。この程度で気絶していては身が保たないと思うけれど。
しかし……。
「クリアステムか。もしかして生産ラインが生きているのかな」
遠路はるばるどころじゃないんだよね、『ネスのシーサーペント』がここにいるのは。確かに九割が海だから全世界は繋がっているけれど、あれは聖護魔導学園のある海洋の正反対の海を泳いでいたはず。何かに引き寄せられたのだとすれば、やっぱり『WEAPON LINE』が作る機構とそれ用の燃料かなぁ、って。
だとしてどっから嗅ぎつけたんだい、って話になるけれど。
世界の中心の海から、世界の外れの海まで来る理由があったのだとしたら……あるいは理由はこの島ではなく、惑星の裏側の方だったりするのかな。
「ちょっと、何事!?」
「舩が座礁して……。何があったのですか、『噂の平民さん』」
「特進クラス二人が調子に乗った結果、魔物によって船底に穴が開いてしまってね。これは流石に緊急事態だと判断して舩を押して泳いできた次第だよ」
「服濡れてねーけど」
「なんだいケニス・デルメルクラン。君は服を濡らさないと泳げないのかい?」
「いや……今疲れてるからツッコミはいいや。で、チビとだんまりはどうしたんだこれ」
「魔物につき上げられた衝撃で気絶してしまっていてね。簡易居住地くらいは作ったのだろう? 運んで、寝かせてやってほしいかな」
風が吹く。
少女Aから発されたそれはスヴェナと生徒Eの身体を持ち上げ、どこぞへと連れていく。
「簡易居住地どころか、だぜ。見たらぜってー驚く。俺もちょっと手伝ったけど、流石はエレメントリーの御令嬢だよ」
「ん……エンジェ、もしかして築城でもしたのかい?」
「ええ。だって領地にするんでしょ。しかも好きに弄っていいなら、お城に住みたいじゃない」
「正直意外な趣味でした。しかし、施工は完璧です。耐久性能も言うことはありません。あとは
「それは君達魔法使いの仕事だねェ。けど、どうしようか。魔力隔液を作るとなると一人は必ずダウンするだろうし、そもそも君達は仕事を果たした」
己が行くのもなぁ、というのが所感。
「何の話?」
「いやね、イズ・アドクロスが魔物を悉く消滅させるせいで、食糧を獲ることができないまま襲撃されたんだよ。だから船倉は空っぽ。となれば漁に出る必要がまだあって、けれど舩がこの状態だから、魔法使いが一人欲しいところだ」
「なら、私が行くわ。魔力はまだまだ余ってるし。シャニア、二人のことお願い」
「わかりました。ではケニスさんに魔力隔液の製作を任せましょう」
「げ……いや城を覆う量を作るってなると欠乏まで行くぞ……」
「別に今日一日で全てを、でなくとも良いのです。さあ行きましょう」
魔力隔液。
作り方は結構簡単だ。雑草と呼べるほどには生えている植物の分泌液に己の魔力を流し込むだけ。
ただしナノマシンをナノマシン汚染された植物に流すんだ、当然反発が大きい。これが疲れる理由であり、数を生産できない理由。
頑張り給え生徒C。それ専用の就職先もあるからね。
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