魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Step6-4.「樹殻世界の裂罅」

 領島経営は苦しい事と嬉しい事がたくさん詰まっていた──と、初学生は皆そう言うらしい。

 スヴェナにおいては何度目の遠洋課業だ、という話なので、最早そう言った喜怒哀楽は湧かなくなっているようだけど。

 

 そんな楽しく苦しく実のあるひと月ももう少しで終わりを迎える、と言った頃合いで──それは起きることとなる。

 

「……この島、色々ダメだろ。海で遊ぶ暇なんか欠片も無かったし……」

「初めから授業ですので、そんな暇は想像もしていませんでしたが……帰還次第、学園に報告した方が良い量の襲撃数でしたね。魔物の質も高く、量も多い。来年もここを初学生が使うのだと思うと、……自分たちの力を過信するわけではありませんが、苦しい一ヶ月間となるでしょう」

「多すぎでしょ、っていうか。どこかに魔物の巣穴があるんじゃないかってくらい来るし……領民役の人達にもちょっと話を聞いたけど、例年の比じゃないとかなんとか。……私かアンタが呪われてるって考えた方が良いわよね、これ。学園襲撃も遠征課業も今回も、シャニアとケニスが原因って感じしないし」

 

 中々鋭い指摘だね、少女A。確かに巣穴は地下にあるし、君と己がいる時だけ襲われるというのも正解。なんせ己が呼び込んでいるのだから。

 君にとっての呪いはまぁ、己なのだろう。

 

「魔物にも産卵期がある。丁度その時期だった、ということはないのかな」

「これだけ多種多様な魔物が一斉に、ですか」

「呪いというものが死霊病毒(ネクロクラウン)の魔法に実在するだけに、あまり迂闊なことは言えないだろう?」

「う。……そうね。今のは危ない発言だったわ」

「確かに……これが偶発的なものではなく人為的なものであった、という可能性は、そのまま黒幕がいることへの疑いになってしまいます。そして魔物を操る(そういう)ことができるのは……いえ、そう考えると肉体強化(フィジクマギア)の可能性も……?」

「ばか、ばか、やめろって。シャニア、お前は本家の次期当主なんだぞ。エンジェもだけど……俺やコイツと違って発言の重みが違うんだ、余計なこと言うんじゃねえよ」

 

 さもありなん。

 生徒Cの言葉は至極正しい。それがそのまま家の意向であると捉えられかねないからね。

 

 それで。

 

「スヴェナ・デルメルグロウとイズ・アドクロスはどこへ行ったのだろうね」

「何言ってんのよ。二人は今日海岸線の魔物避けのメンテナンスでしょ」

 

 ク、と。

 思わず笑みを零す。

 

「なによ。……。……待って」

「急かしてなどいないよ、エンジェ」

「エンジェ、どうかしましたか?」

「メンテナンスのシフトは間違ってないはずだが……どうかしたか?」

 

 まぁ、この二人が気付けないのは仕方がない。

 同系統だからね。どうしても無理な部分がある。

 

()()()()()()()()()()()()()()?」

「なに、って。……──え?」

 

 遠洋課業は遊びではない。暇など欠片も無い。

 常にやることがあり、常に仕事に追われるものだ。

 

 それが、なぜか。

 

「あ? なんで俺達こんなところに集まって……雑談なんかしてんだ?」

「っ!」

 

 ぶわりと広がるは少女Aの風。渦状である、という弱点を克服したものの、少しばかり範囲の狭くなったソレが島全体を覆っていく。

 だが。

 

「……弾かれた。城の四階、西の尖塔。……なんどやっても入れない……!」

「すぐに向かいま……、空間が、閉じられていますね」

「とりあえず走るぞ! というかなんで俺達は──城から最も遠い場所で雑談なんかしてたんだ!!」

 

 単純な話だ。

 認識錯誤の結界と、意識操作の催眠と、未来予知の合わせ技。

 

 もうすぐ終わりだ、という……人間が最も油断するその瞬間に対し、巧妙に差し込まれた実用的な魔法。

 さぁて──。

 

 

 "そこ"は、エンジェ・エレメントリーが築城した城の、誰にも割り当てられていない部屋だった。

 あるいは魔物襲撃がこれ以上の激化を見せた際シェルターとして使おうとしていた部屋なのかもしれない。

 どうあれそこに、二人はいた。

 

「一応聞いておきましょう、イズ。なんのつもりですか?」

「そんなに察しが悪いとは思ってない」

 

 さながら牢獄のようであった。

 ドロドロとした魔力の伝う内壁。彼女(スヴェナ)を縛る鎖。あるはずなのに無くなっている扉と窓。

 

 さながら、ではない。

 ここは真実牢獄だ。あるいは──これから、愛の巣と名を改めるのかもしれないが。

 

「スヴェナ・デルメルグロウ。君の魔法は、分家でありながら本家と遜色がない。けれど分家は分家。その血が持つ許容量には空きがある」

「饒舌ですね、イズ。この島に来て以来、最も長い一息だったように思いますよ、一応」

「対し、僕……イズ・アドクロスは聖護星見(クライムドール)の先細り。魔法の威力自体に自信はあれど、本来聖護星見(クライムドール)が持っているべき汎用性の無い薄まり続けた血だ。許容量という点で見るのなら、僕は君の九倍の許容量を持っている」

 

 スヴェナの言葉など聞いていないとばかりに語るイズ。

 彼の目は……正気も正気なそれだった。誰かに操られているとか、虚ろであるとか、そういうことのない──この蛮行が、正真正銘、彼自身の意思があって行っていることを保証するもの。

 

「違う始祖を持つ子孫でありながら、僕と君なら子供が作れるんだ。元々次元空間(デルメルサリス)聖護星見(クライムドール)は相性の良い血。普通は互いの魔法領域が干渉しあって命を宿すに至らないけれど、僕と君だけは違う」

「一応、問うておきましょうか。この部屋に施された認識錯誤と意識操作の魔法。それぞれ次元空間(デルメルサリス)死霊病毒(ネクロクラウン)の分家が行ったものですね。これほどの使い手があなたのバックにいる──そういう脅しであっていますか、これは」

「脅すつもりなんてないさ。どちらもあの邪魔者たちを遠ざけるためのものでしかない」

「ならば聞きますが、この鎖は? 求婚しているにしては、あまりにもな扱いに思いますが、一応」

「僕とてこんな荒っぽいことはしたくない。けど、しないと逃げるだろ、君。……沢山視てきたよ。この瞬間だけを視てきた。幾つもの未来が枝分かれし、幾つもの可能性において僕は失敗を続けた。少しでも優しさを見せると君は逃げ出してしまう。君の魔法は強力で、僕や、僕に協力してくれた魔法使いたちでも押し留めることの適わないものだったから」

 

 魔力を編もうとするスヴェナ。

 けれどそれは失敗に終わる。どうやらこの鎖は「そういうもの」……アーティファクトの類らしい。

 

「改めて。スヴェナ、僕と婚姻を結んでほしい」

「一応ではなく断ります」

「だろうね。君は……魔力を封印されたとしても、僕の告白を受け取ることはなかった。けれど、結婚なんて形だけのものは必要ないんだ。僕らが欲するのはデルメルグロウとアドクロスの混血児。本当に粋な計らいをするよね、学園も。必ず男女の数が同数になる班分け──そんなの、こういう機会を与えたがっているとしか思えない」

 

 どこか、酒にでも酔ったかのように言葉を続けるイズ。

 改めて──スヴェナの恰好を見れば、これから先のことは予想がつくだろう。

 

 彼女は寝間着姿だった。ネグリジェ。少なくとも未婚の女性が他者に晒す姿ではない。

 しかし恐ろしいことに、イズの顔には情欲のひとかけらもない。肉欲ではないのだ。彼が求めるは真実混血児だけ。スヴェナの肉体になど、なんの興味も無い。

 

「……憐みを、一応」

「……なんだって? 上手く聞き取れなかったな」

「この一ヶ月間……まぁまだ三週間と少しほどですが。一応、あなたから私へ向けられる視線の中には、年頃の少年の持つ肉欲が含まれていました。この計画を編んだのは恐らくずっと前のことで、あなたに()()()()趣味があったのかどうかは知りませんが、私を好きにできる、と聞いて……それを夢想し続けたのでしょう、一応」

「もしかして君、僕が欲情する、とでも思っているのかな。それはないよ。君みたいな貧相な身体の子は、劣情を抱く価値すら見出せない。今から行うのはあくまで子供を作るための行為であって、そういう……下卑たものとは違うんだから」

「ええ、そうであったことにされたのでしょう、一応。協力者らしき魔法使いの力量を見れば、血液の魔法許容量が私と釣り合っていませんから……あなたの玩具にするには勿体ない、とでも考えたのでは? あなたはあくまで私に種を植えるだけのモノ。そしてその後、私が子を産み落とすまでの間、協力者らが私を慰み者にするのでしょう、一応」

 

 どこまでも冷静に。

 どこまでも冷徹に。

 スヴェナは現実を突きつける。尤もこの言葉は翻訳されるので、正確に伝わっているかは定かではないが──。

 

「ふぅん。案外そういう知識もあるんだね。ま、どうでもいいよ。僕の目的は君の血だけだ。君が僕との子を産み落とした後にどうなるかなんて僕には関係ないし、どうでもいい。ああそうか、産むまでの間も、彼らとの間に子が成されることは絶対に無いから……そういう風に使われる、と。……うん、やっぱりどうでもいいな」

「もう一つ、一応聞いておきましょうか。先日学園内で大粛清が行われました。学園内にいる者で、企みごとを持つ存在。その全てを学園長が処断したのです。──此度の企みがそれに外れていたとは到底思えません。であればあなたは、大粛清から遠洋課業が行われるまでの短い期間にこれを企て、準備をした、ということになります」

「そうだよ。勿論──」

「勿論、そんなことは不可能です。イズ・アドクロス。アドクロス家が他家に与える影響力など微細なもので、況してやアドクロス家だけが得をするような状況をなぜ他家が許したのか。それを考えたことはありますか、一応」

「──……なんだって?」

 

 まったく思い至っていなかった、という風に。

 一瞬思考が停止したらしいイズ。

 

「私との混血児を作る。それはあなたの思い付きですか、イズ。あなたが思い付き、あなたが外部に協力を仰ぎ、あなたが遠洋課業のカリキュラムに干渉してまで準備したことですか、一応」

「……そうだよ。そうじゃなきゃおかしいだろ」

「自身の周囲に陣地を作成することのできない聖護星見(クライムドール)の分家が、意識操作の一切を受け付けないと?」

 

 ぱちん、と。

 乾いた音が響いた。

 

 ……イズの手がスヴェナの頬を打った音だ。

 

「これから君が産む子供の父親となる家だ。侮辱は許されないよ」

「成程。今ので理解しました、一応」

「自分の立場を、かな」

「誰が裏で糸を引いているのかを、です」

 

 鎖が凍結する。刹那の後、それは粉々に砕け散った。

 

「な……?」

「ご存知ないでしょうが、学園襲撃事件において、その黒幕であったのはエレメントリーの分家とフィジクマギアであったといいます。詳細までは私も調べ切れていないので誰がどう、というところまではわかりませんが……『彼』を学園から引き離すにあたり、とある少女が選出されました、一応」

 

 多少、手首を擦るような動作をしたあと。

 スヴェナは部屋の中にあった幾つかの家具類を空間面によって細断し、衣服へと錬成し直す。

 

「その少女は規律会と分家の企みの板挟みに遭い、二進も三進も行かなくなっていたところを、ある救いの道を用意されたそうです、一応。……それは、静観。元々家がそうであったということもありますが、つまり、愛する家族、大好きな両親のために、裏で進行する悪事を心の裡に秘め、学園の大切な仲間たちが犠牲になることを見ないようにした、と」

「い……まのは、エレメントリーの錬成……?」

「わかりますか、イズ。彼らが利用するのは愛情です。それも、強い家族愛。行動力の無い者には情報漏洩を、有る者には実行を。家族を守るためにはそうするしかない状況を作って、己の意思で罪を行わせる」

 

 虚空へと手を突き入れるスヴェナ。

 そこから引き抜かれるは──とある剣。子供が持てる程度の大きさの、儀礼剣に近しいもの。

 

「そうですね。死に行く相手であっても、一応教えてはおきましょう。──私の血の魔法許容量は既に百パーセントです。次元空間(デルメルサリス)四大元素(エレメントリー)。一分の隙もなくこの二つに占有されていますので、アドクロスの入り込む余地はありません」

「……まさか、既に混血児だっていうのか……!?」

「おや、これは正常に伝わるのですね、一応。ところどころぼかされると思っていたのですが──まぁ」

 

 そういうことも、あるのでしょう、と。

 彼女は軽い素振りで、その剣を振るった。

 

 ──衝撃が走る。

 

「っ!?」

「ひゃあ……こりゃまたとんでもない化け物だったなぁ。見てよオレっちのこの手。次元系の斬撃を受け止めたはずなのに、凍り付いてる上に固定までされてるワケよ。どう思う、イズっち」

「……すまないな。僕はまだ彼女の身体に血を植え付けることができていない。彼女の拘束を再度頼」

 

 むよ、までは。

 続かなかった。ごとり、なんて音を立てて……イズ・アドクロスの首が落ちたから。

 

「えー、察し悪っ! オレっちが出てきた時点で計画失敗、自分が用済みだってわからんかった? 別にアドクロス以外でも先細りの家はいくらでもあるし、そもそもこの嬢ちゃんが言ってた通りじゃん。この嬢ちゃんはとーんでもない化け物で、魔法許容量はいっぱいいっぱい。混血児なんて産まれようがないって、さっ!」

 

 ぐりぐりと足蹴にして、さらにはその首を蹴り飛ばす……何者か。

 スヴェナの一撃を受け止めたことも含めて、わかる。

 

「あなたがこの認識錯誤の結界の使い手ですね、一応」

「そーそー! オレっちが次元空間(デルメルサリス)の分家で」

「私が、死霊病毒(ネクロクラウン)の分家だ」

「……」

「む。……おい、格好つけたのだから大人しく掴まれていろ」

「やーいドゥナっち偽物掴まされてやーんの!」

 

 背後から彼女の首を掴もうとした腕。

 それは、しかし残像を掴むに終わる。スヴェナが自らに施した認識錯誤の一つであり、『彼』が彼女に使っているものへ別方面からのアプローチをかけてみた試作品だ。

 

 明らかにただの道化であったイズ・アドクロスに対する態度から、完全な集中モードへと意識を切り替える。

 当然だ。だって生前の彼女は油断をして惨殺されたのだから。

 今の彼女に凄まじいまでの力があったとしても、油断はもうしない。イズ・アドクロスに対しても憐れんでこそいたけれど油断はしていなかった。未来視はそれだけで脅威だから。

 

「一か月以上先の未来視。攻撃力特化のアドクロス家にできるものとは思えませんね、一応。それも意識操作によるものですか?」

「いや、確かに意識操作は聖護星見(クライムドール)の未来視の強化を行うことができるが、そこまで長期のものは不可能だ。ただ、他の聖護星見(クライムドール)が視た光景を自身が視た光景だと誤認させる程度はできる」

「あーんなガキンチョの数秒先も視れない未来視を強化して一か月先を視られるようになるんなら、聖護星見(クライムドール)の分家の乱獲が起こってるよ~ん」

「成程、確かに。今のは頭の悪い発言でしたね、一応」

 

 つまるところ──敵の規模は、それほどまでに。

 

「しかし、存外冷酷だな。三週間強を共に過ごした……いや、特進クラスでの時間を含めれば、そこそこ長い時を共に在ったクラスメイトであろう。その首が落ちて、動揺の一つもしないとは」

「動揺とは、一応、意味の分からないことを言いますね。そちらの方が私の攻撃を止めていなければ、彼の身体を両断するのは私だった、というのに。動揺などするはずがないでしょう、一応」

「え~? そう~? 食らったオレっちが言うけど、今の魔法は()()()()()()()()()()()に特化した魔法って感じだったじゃーん。──なんかあるんじゃないの、ヒトを蘇らせる、それこそ死霊病毒(ネクロクラウン)の始祖が使うみたいな魔法がさぁ」

「はい、ありますよ、一応。私は使えませんが」

 

 虚を突かれた、という顔の二人。

 スヴェナはスヴェナで「ああ、ちゃんと伝わるのか」なんて感想を抱いているけれど、それ以上の驚きが彼らにはあったらしい。

 

「マジで言ってる?」

「虚言、という風には聞こえぬな」

「確かに死体を綺麗に残そうとした、というのも事実です。ただそれは蘇らせてもらうためではなく、下手人を有耶無耶にするため。普通の魔法使いは二家の魔法を使えませんから、エレメントリーでありデルメルサリスである誰かが殺した、あるいは二人組以上の何者かによる犯行だった、ということにしたかっただけです、一応」

「……ふぅん」

「やはり冷酷だな。だがそんな話はどうでもいい。死者を蘇らせる魔法について聞かせろ、女。最早お前の血になど興味はなくなった。その身体にもだ」

「オレっちはロリコンだから興味あるんだけど? まぁドゥナっちがそう言うんならぜってー使わせないからね」

「勝手にしろ変態」

 

 一触即発の空気。目的の変わった二人組とスヴェナ。

 双方が動きを見せたのは──次元空間(デルメルサリス)を魔法に持つ二人が顔を上げたその瞬間だった。

 

 一息でスヴェナへと肉迫する男。死霊病毒(ネクロクラウン)とは思えない身体能力を持つその男は彼女の顔面を掴み──またもや靄を握りしめる。

 

「小細工を……!」

「ちょい待ちちょい待ちドゥナっち! この部屋、攻撃を受けてる。あの四人に意識操作はしたんじゃなかったの、ドゥナっち!」

「した。今はこの二人を気にすることなく、この城から最も遠い場所で歓談しているはずだ」

「けどその四人来てるよ~ん。ドゥナっち失敗?」

「なんだと?」

虚空点(ヴォイドホール)

 

 躊躇など欠片もない。

 男の意識がよそへ向いたその瞬間、その肉体の中心に虚空の穴が開く。

 攻撃力の高い魔法ばかりの次元空間(デルメルサリス)の魔法の中で、最も威力の高い魔法とされる魔法。禁呪を除けばこれに勝る魔法は存在せず、禁呪を含んでも汎用性の面で勝る部分の多い魔法。

 

「っ、ぐ……!」

 

 が、此度は相性が悪かった。

 

「……一応聞きます。人間ですか?」

「オレっちも聞きたい。ドゥナっちって人間?」

 

 男の身体。その中心に開いた穴は、当然肺や心臓といった重要器官をごっそりと持っていっているが──既に再生が始まっている。

 スヴェナの知る『彼』とはまた別の再生だ。これは。

 

死霊病毒(ネクロクラウン)の……治癒力を、舐めてもらっては困る。……全身を消し飛ばされでもしない限り、私は」

「一応、礼を。あなたの助言に従い全身を消し飛ばします。空間消滅(デルメルバニス)

 

 今度はがっつり禁呪。

 肉体を再生している途中だった男は避けることも叶わずに空間の消滅へ巻き込まれ──る寸前。

 

 その身の下に開いた波紋に飲み込まれ、違う場所へとポトりと落ちた。

 

「……空間抱擁ですか。他人のことを言えた義理はありませんが、あなたも分家でありながら多くの魔法を習得しているのですね」

「まぁねー。……あちゃー、ドゥナっち、これ旗色悪いわオレっちたち。この子人殺しに一切忌避が無いし、禁呪もバンバン使ってくる。外にいる本家の御令嬢ーズも本気の魔法を撃ってきてて、いつここが壊れるかわかんにゃい。どする? どするこれ」

「逃げる以外に手があるか?」

「無いねー! それじゃ!」

 

 生成されるは扉。

 文献でその存在は知っていても、スヴェナにはまだ使うことのできない魔法。

 

境界門(ワープゲート)……まさかそれほどの使い手が、悪事に手を染めているとは」

「まぁね~。すごいっしょ、オレっち」

「時間稼ぎに付き合うな。行くぞ」

「はいは~い。あ、そうそう。君のご主人様に伝えておいてくんない? オレっちたちの組織名! いやぁ、組織名って良いよね、中途半端にダサくて中途半端にかっこよくて!」

 

 どのような距離、どのような場所にも生成可能な長距離転移魔法。術者が消さない限りは設置し続けることが可能であるために、敵地侵攻などにおいて重宝される大魔法。

 それを使うことができる者がいるとすれば、それは。

 

残照回廊(リメノンス)。……プクク、だってさぁ~!」

「盟主に殺されるぞ、貴様」

「ひゃあ怖い。んじゃそんな感じで! オレっちたちは空き容量のある血を喉から手が出るほど欲してるから、そういう子見つけたら気を付けとくといいぜぃ!」

 

 二人が扉へと入り。

 その扉が、閉じた。すぅ、と消えていく扉。

 

「……確かに、まぁ、格好いいかと問われると、わかりませんね、一応」

「スヴェナ、大丈夫!?」

 

 それが消え切った瞬間少女が現れる。本当に本当に本当に心配で仕方がなかった、という顔でスヴェナを抱きしめる、最愛の妹が。

 続いて次元空間(デルメルサリス)本家の次期当主に分家の一人と……『彼』。

 

 だからスヴェナは、この島にもう一人いる「とある人」へと風を送る。ピク、と眉を上げた『彼』は、そのまま部屋の外へと消えていった。

 

 幻聴だ。

 確実に幻聴だ。

 今、世界が……世界の何かが、回り始めた……そう感じさせる重厚な音など。

 

 最愛の妹にペタペタペタペタペタペタペタペタと全身を触られながら、そして憐れにも犠牲となった初学生を視界の隅に入れながら。

 彼女は、ある決意を固めるのであった、とか。

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