魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
……と、言うらしい。
「いやぁ大変だね、スヴェナ。早くにでも始祖ディアナ・ネクロクラウンを殺しに行きたいのだろうに、君自身が狙われてばかりで」
「一応、元はと言えばあなたが……いえ、私の油断が元凶ですから、何とも思いません」
「今がっつり恨み節が聞こえかけたけど、気のせいなのだろうね」
遠洋課業を終えて。
生徒に死者が出た、という事実は少なくない動揺を学園へと齎したけれど、事の詳細を聞いたイレイアが突然の緘口令を敷き、この話はタブーになった。
幸いにして生徒Eが死した事実は己達の班と教師陣しか知らず、生徒Eは実家に呼び戻されての退学、という形で特進クラスを去る次第に。
イレイアの反応に猜疑心を見せる教師も少なくはなかったけれど、生徒Eの行い、及び計画から導き出された「心当たり」に閉口せざるを得なくなる。
「……悪夢、ですね。一応」
「何がかな」
「始祖ディアナだけではなく……未来視に長けた
「まぁ、それなりの数がいるのだろうね」
けど、悪の組織ってそんなものじゃないかな。
いや『
己としては、大いに活動してくれ、と思う。
彼らのやろうとしていることはまさに血筋争いの燃料集め。加えて血液中の魔法許容量についての理解もあるとなれば、既に混血児の成功例がいてもおかしくはない。
聖護魔導学園で己がのんびりしている内に、外で準備が整っているかもしれない、ということだ。
「腕。……一応、大丈夫ですか」
「おや、今更過ぎないかな。腕の破損なんてパフォーマンスだよ。学園に帰って高位のネクロクラウン分家に治癒してもらった、ということになっている。なんなら今千切って渡そうか?」
「不要です。……エンジェが酷く気にしていました。あの子を悲しませないでください、一応」
「それは無理だね。彼女には大いに悲しんでもらわないと」
全身に『空間の棘』が刺さる。
ザンクトサリス、だねェ。
「『一応平民の人』。そういえば、聞きたいことがありました」
「普通に話を続けるんだね。構わないよ、何かな」
「実際のところ、あなたの年齢は幾つなのですか?」
おや。
魔法についてとか、世界についてを問われると思ったのに……そんなことなのか。
「年齢という概念は、つまり人間の基準に合わせたものを答えればいいのかな」
「他に何かあるのですか」
「当然。一年というサイクルを齢として認識しているのは、一年を認識している人間だけだ。たとえば魔物、たとえば惑星。彼らにとっての一年は人間の尺度に依るものではないのだから、当然年齢も変わってくる」
「では、人間の尺度で」
「そうなると、たかだか七十億の若僧だね」
ギョッとした目でこちらを見るスヴェナ。
もしかしてもう少し若いと思われていたのかな。それは嬉しいね。
「とはいえ人間……というか己以外の知的生命体と接触していた時期だけを抽出するのなら、五十万年もないんじゃないかな」
「……一応、今言った言葉の全てが真実だとして……知的生命体と接触していなかった残りの時間は、何を?」
「何も。……今は誰もいないけど、かつての己には仲間のようなものがいてね。彼らの一部が"己以外の知的生命体"を発見したことが全ての始まり。そこから己達は増えるために星海を渡り歩き、少しずつ少しずつ種を植えては発芽を待った。ああ、星海というのは樹殻の外にある黒い海のことだよ」
魔法世界には相応しくない話だから、あまり多くは語りたくないのだけどね。
生まれ出でたというのに減ることも増えることも自分たちではできなかった己達は、時折見つける知的生命体と交流し、少しずつその数を増やしていった。
そうしていく中でリーダー、あるいは母体とでもいうべき個体、いや群体の個体……総体の意思が現れ、己のように自我を保ち続けた者は爪弾き者となった。
もう少し正確に言うなれば、自我を保ち続けた個体は総体よりも強くなってしまって、避けられるようになった、が正しいかな。
……そうして散らばっていったはずの爪弾き者は、何の因果か同じ星で偶然の再会をすることがあった。
己も出会っている。彼は……三流作家、とでも呼ぶべき存在かな。数万年前に出ていってくれたから、また別の星に根付いて新しいことを始めているのだろう。
今はそう呼ばれていないけれど、この惑星……地球は己の遊び場になった。ありがたいことだね。
「……聞いておいて申し訳ありませんが、想像がつきません」
「構わないよ。恐らくというか確実に関係のない話だ。君の寿命ではどう足掻いても共には行けないからね」
「それがわかっていながら人間と積極的に交流を持つのは、どういう意図があるのですか、一応」
ん。
それは、まぁ。
「世界の広さを知ってほしいから、かな」
「『一応平民の人』。どこを向いているのか知りませんが、情感豊かに言葉を吐いても胡散臭いだけです、一応」
「本音なのだけどねェ」
己一人が樹殻を越えることは容易い。
けれど、この星の誰かを連れて、となると……難しい。一人二人ならともかく、大勢を剥がせば星の意志が起きる。つまるところ、「神」とかいうやつがね。
そうなると色々面倒なんだ。楽しく遊べなくなるし、人間が覚えるべきストレスと幸福が全てそいつのせいでそいつのおかげになる。
……ああ、やめやめ。
己は血筋争いが見たいだけなのだから、くだらない話は終わりだよ。
「それで。『
「特には何も。別に協力関係にあるわけでもありませんし……一応、あなたを崇拝する理由もわかりませんし」
「それについては己にもわからないよ。君の反応の方が正常だから、安心していい」
生き返らせたことへの畏敬……ではないらしい、というのがなんとも。
普通は己を全ての元凶だと忌み嫌うのが当然なのに、本当に時たま現れるんだよねェ。
「そういえば、『SEA CLEANER』という魔物……機構でしたか。あれをもう一度出してはくださいませんか、一応」
「構わないけれど」
機構を呼び出す。
それがスヴェナの視界に入った直後──『SEA CLEANER』は真っ二つに切り裂かれていた。
「……勿体の無いことをするね」
「貴重品でしたか?」
「いや、すぐに作り直せるけれど、モノは大事に扱いなよ」
機構をナノマシンに分解し、製造炉に回しておく。
しかし。
「今の、複合三属性はエレメントリーのものだからいいとして……デルメルサリスの方は、もしやせずとも
「はい。剪断力に長けた風、氷、火の複合三属性魔法を如何に効率よく攻撃に乗せるかを考えた結界、結界による斬撃や空間による斬撃よりアレンサリスの使うような"厚みの無い平面"を使うことが最も好ましいと考え、一応開発しました。この厚み無き刃に斬られたモノは、その堅牢さの全てを無視して複合三属性魔法に飲み込まれます」
「
「そうですね、一応。──次は、斬ります」
燃えているねェ。
けれど、いいのかな。
先程はまとめ上げたけれど、
どちらかの前で先に披露してしまえば、どちらかには対策を取られるだろう。
あるいは食い合いを起こすことだってあるだろうし……。
けど、うんうん、やはりヒトというのは平和になればなるほど突飛な行動を取り出すものだね。
ナノマシン濃度の件は勿論理由の一つだけど、
我慾をね。
出してもらわないと。
「そろそろ戻ろうか。同タイミングで居なくなりすぎると、己が君との浮気を疑われてしまうからね」
「形式だけとはいえエンジェの恋仲となった以上、浮気は許しません」
「元から愛などないのに、かい?」
「はい」
それは困ったね。
己はずっと昔からあらゆる知的生命体に移り気だっていうのに。
というか、いいのかな。
少女Aだけを見るということは──少女Aの周囲にだけ禍いが降り注ぐことに等しいのだけど。
なんせ己は、呪いらしいからねェ。
特進クラス。
学年ごとに十数名ずつ、突出した才やその学年・クラスで学ぶべきではないレベルにまで達した魔法を扱う者の集うクラスだ。
スヴェナは勿論、生徒Eも実はかなりのエリートだった、というわけだね。
「うんうん~、良い感じに人数が減ったねぇ~。ところで君達さぁ~、『英雄平民』クンには中々攻撃を当てられていないようだけどぉ、どうして協力しないのかなぁ~」
協力。
まぁ、そうだ。勝てない敵がいれば連係を取る必要がある。そのことも思いつかないようであれば、何が特進クラスだ、という話で。
ただ貴族の子である彼ら彼女らにその発想が無いのは当然でもある。
基本的には他家、そして本家と分家の関係でしかない。つまり、卒業した後は敵になる可能性がある、というわけだ。系譜が同じでも、家の意向によっては完全な断交をする家もあるほどに。
だから今のうちに協力だの連係だのを学んだとしても意味が無い。そう考える生徒が多いのだろう。いずれ意味のなくなるものならば、と。
「はい、ドクラバ先生。発言の許可を」
「どうしたのかなぁ~、ケイティン・プリズンサリスクン」
「確かに僕たちは連係をしていないのかもしれませんが、『英雄平民』に攻撃を当てることはもはや不可能に近いと考えています。むしろ当てられる者がいるのならば見てみたいと……そう思う程度には、可能性を感じません」
「諦める、ということかいぃ~?」
「お手本が欲しい、ということです。絶対に不可能なことを提示されて、それを成し遂げられずに元のクラスへ戻される、というのは納得がいきません」
ふむ。
まぁ確かにそうだね。今残っている生徒は何かしらの搦め手……生徒Eと同じく「握手を求める」とか「資料を渡す」などによる接触を攻撃判定として残っているに過ぎない存在。
教師D'は容赦なく「できなかった生徒」を元のクラスへ戻している。
「僕たちにこの難題を出すということは……先生方であれば達成は容易、ということですよね?」
「容易かどうかでいえば、難しいと思うよぉ~? なんせ単純に考えて
「できないことはない、と?」
「大人に対して軽率な挑発を行うのはあまり褒められた行為ではないけれどぉ~、まぁ──僕たちも久方振りに全力戦闘、というものはしてみたいよねぇ~」
お、乗っかるのか。
構わないけれど、己への報酬……実験室を見せる、というのすらまだなことを忘れていないよね?
「──ただし。可能なことだと理解したのなら、君達もできなければならないことは、勿論わかっているよねぇ~?」
「そ……それは、僕たちと先生方では力量差がありますし」
「魔法世界は零か一かだよ、ケイティンクン。可能か不可能かの二択しかないのならぁ~、可能を掴み取る以外ないよねぇ~?」
驚いた。
教師D'。良い理解じゃないか。
そうとも、魔法世界だけじゃない。この惑星には可能か不可能かしか存在しない。それはある種の真理であり、かの『賢者』も人類絶滅の一歩手前に気付いたことだというのに……既に至っているとは。
「いいじゃないか。『ジェヴォーダンの巨人』こと、学園襲撃事件においては、首謀者の捕縛以外イイトコ無しだった教師陣だ。生徒に実力を疑われるのも無理はない。そうだろう?」
「……そうだねぇ~、敬不敬を問わねばならない話になってしまうけれど、子供の過ちと捉えることもできるねぇ~」
「目視せずとも実力程度測れるようになれ、というのは尤もだがね。彼のような幼稚な魔法使いには酷な話だったというだけだろう」
ギリ、と奥歯を噛む音。
顎に悪いからやめた方が良いよ、それ。
「教師ドクラバ・アッシュクラウン。君を含めた教師陣のドリームチームと己を戦わせようじゃないか。なに、己も生徒相手への加減をどこまですればいいものか迷っていたのでね。教師を基準にしていいというのなら、こちらも願ったり叶ったりというやつだよ」
「加減、というのはぁ~? 君、避けるだけだろう~?」
「どこまで自信を砕いていいものか、という話だよ、教師ドクラバ・アッシュクラウン。特進クラスに上げられた鼻高々な少年少女。その心を如何にして折らずに魔法を避け続けるか、を模索していたのだがね。ケイティン・プリズンサリスの言う通り、そして君の言う通り、教師による全力戦闘に対し己が取り得る手段の全てを──そのまま生徒らにも返して良い、ということだ。
己が絶対と信じる魔法が効かな過ぎると、打ち砕かれ過ぎると……そういう心神喪失状態に近いものになることがある。
特進クラスにいる生徒は確かに貴重な血液を持つ者達だけど、別に彼ら彼女らの魔法威力に期待などしていないんだ。貴重な血が黙したままに奪われることも、全くもって構わないとも。
「より実戦形式に近しくするのなら、怪我をさせない程度の反撃も行うけれど……どうしようか、教師ドクラバ・アッシュクラウン」
「怖いねぇ~。けれど、そちらの方が各家の御都合にも合致するだろうからねぇ。僕たちとの試合が終わったら、それ、生徒たちにも適用させていいからねぇ~」
「成程、卒業後、あるいは在学中であっても多少は戦えるようにしてくれ、という打診が入ってきているのか」
「困ったものだよねぇ~。けど、またぞろ学園が襲撃されないとも限らないし、僕たち教師は頼りないみたいだからねぇ~。生徒たち自身に力を付けてもらわないと」
余計なことを言ってくれたな、という視線が彼……生徒C'に突き刺さる。
彼の迂闊な発言から、以降は反撃を受けることが確定してしまったわけだから。
ちなみにスヴェナは初めから興味が無い様子で……教室の外に空間隔離と隠蔽を施した空間を作り、そこで
「新規カリキュラムの申請を出しておくよぉ~。僕の一存で決め切れる話でもないからねぇ~」
「イレイアなら乗ってくるさ。安心したまえよ、教師ドクラバ・アッシュクラウン」
「……だろうねぇ~」
なにせ彼女は聖護星見の当主、だからねェ。
さて、そんな……またもや「異能力バトル」の展開が決まったところで、少し世界を巡る。
村人Tのようなものが現れていないかのチェックと、
別に己は世界の全てを知っているわけではないからね。
というのも、確かに『天使』クンこと並行未来の己や始祖Aらは退却したと思われるのだけど、村人Tを送り込んできた少女Aの真意が測り切れていない。
村人T。テリア・トーインタイム自体に特別なところはないだろうけど、彼女は『ココダトレイルの大蜘蛛』に取り込まれたのち、未来から引きずり出される形で生存を果たした例。自らの兄が死したことを理由になんらかの条件が出現し、未来からの検索に引っかかった……というところだろうけど、少女Aがなぜそれをしていたのかがわかっていない。
樹殻が星を食い潰しにきて、それを防ぐために今の己を学園から引き離そうとした、というのがコトの真相だとしたら、村人Tは何のかかわりがあるのか。
加えて……あの時、少女Aの背後に己の気配を覚えなかったことも気になる。
考えられるのは……違う未来からやってきた、という可能性。そして、己と少女Aが別陣営、あるいは少女Aが休眠装置に入っているという『天使』クンに隠れて何かを行っている可能性。
「そんなところが己の推理だけど、グリーフィー。君はどう思うかな」
「……いやあの、別に自分、『終末』さんの考えを読めるわけではないので、何の話なのかさっぱりなんですが」
「そうかい? 君の未来視、少しは役に立つんだろう?」
「……。そのこと話しましたっけ。『終末』さんのこと、ノイズ無しに見ることができる、って」
「己が与えた魔法の子細を己が知らないとでも?」
はぁ、と溜息を吐くのは長身の女性。
グリーフィー・ウォルチュグリファ。元の名前はダリア・ネストクラウン。例に漏れず存在抹消の里出身の魔法使いで、しかし里に帰ることなく世界を旅することを選んだ稀有な人物。ウォルチュグリファからは勘当されたという扱いになっている。
「正直判りませんよ。自分が視ることのできる未来は、範囲を絞って
ウォルチュグリファの血の特化事項はアドクロスの正反対。つまり、攻撃性の全てを失う代わりに未来視へ最大限特化した、と。
陣地も使えないから旅をするには向かないのだけど、そこは当人の格闘スキルと元のネストクラウンの魔法でどうにかなっている。
「樹殻の様子はどうかな」
「まぁ……確かに、空は狭くなってますね。明らかに厚みを増しているし、枝? 根? まぁそれらしきものが伸びてきている。それに巻き付かれたせいで避難を余儀なくされた領地多数」
「己は何をしているのかな」
「それが、不思議なことに何もしていないんですよねー。覗いていると時折こっちに手を振ってくるのが恐怖なんですけど」
「視られていたらわかるからねェ」
十七年後の時点では休眠装置に入っていない。
あるいは既に己はその未来から外れている。
「トーインタイム、という姓を持つ者は?」
「それもてんでさっぱり。どの家に属しているのかもわかりませんし……まぁ状況証拠を聞くに、養子にされただけっぽいですけど」
「二十年後には世界が滅んでいるかもしれないというのに、悠長だねェ」
「滅ぶなら滅べばいいですよ別に。自分、長寿願望とかないんで」
「生き返っておいてそんなことを言うのかい?」
「そりゃ死にたくないなら生きたいを選ぶでしょ、誰だって」
ちなみのここは海の上。
彼女は小さな小さな小舟で海を横断中だ。
恰好の餌だろう彼女が一切襲われないのは、襲われない航路を視た上で進んでいるから。
「ああでも、
「へえ」
「結成時期は過去のことなので不明ですけど、構成人数は現時点で二百人。この後もどんどん増えていきますが、増え方が爆発的過ぎるのでなんらかの外道を働いている可能性あり、です。どーやら
「流石の情報収集能力というべきか、特大のネタバレに呆れるべきか」
「自分で聞くために舟へと飛び乗ってきたクセに、今更何言ってんですか」
しかし、面白い情報だ。あの島にいるのか。
……よく自滅しないね。機構に詳しい人間がいるのかな?
「それと、『終末』さん。現在恋仲にある……えーと、エンジェちゃん? でしたっけ」
「プライベートというものを知らないようだね。で、エンジェがどうかしたのかい?」
「近い内に本気の告白をしてきますよ彼女。その時点での未来の枝分かれが凄まじいんで、多分そこが一つ目の分岐点なんじゃないですかね」
「……本気の告白とは、また。物好きな」
「本当に。『終末』さんに恋するとか、あの子センス無いですね。終わってます」
「今この場で舟を叩き割ることも視野にいれよう」
「自覚してるクセに何言ってるんですか『終末』さん。少なくとも自分なら『終末』さんに恋心なんて抱きませんし、愛情も覚えません。気持ち悪いですし」
舟を消す。
……一切動揺しないグリーフィー。そもそもこの舟には彼女しか乗っていないから、落ちるものもない。
無表情でこちらを見つめる彼女は宙に浮いていて……だから、まぁ、こちらが折れた。
舟を元に戻す。
「最近血筋争いとかいう悪趣味なものをあまり見られていなくてストレスが溜まっている、というのは知っていますけど、八つ当たりしないでくれます? いいじゃないですか、あの……なんだっけ、アドクロスの子? 彼がそれっぽいことしてくれてましたし、
「からかい甲斐がないよね、あの里に身を置いた子は。最近はスヴェナも焦らなくなってきているし」
「疲れますからね、驚くと。……あ、そろそろ昼食を取るので、この辺で」
「はいはい」
なんて言って己が舟を離れた途端──彼女の近くに巨大な魚影が浮かび上がる。
それはドーンスクイッドという魔物。体表面の傷を見るに、深海での縄張り争いに負けて、どういう潮流にさらわれたのか、海上まで浮き上がってきたらしい。
グリーフィーが何も持たずに旅できるのはこれが理由だ。
どこで魔物が死ぬのかを彼女は知っている。元々がネクロクラウンの系譜だから除染もお手の物で、ゆえに持ち物要らず。
とはいえ……巨大な魔物に飛び乗って、除染を行いながら噛みつくその様は、最早魔物の一種にしか見えないけれど。
「食器無いんだから仕方ないじゃないれふか」
「わかったわかった。わかったから口に物を含んだまま話さないことだよ、グリーフィー。貴族のたしなみは遥か彼方かい?」
「必要であれば使いますけど、『終末』さん相手に貴族ぶる必要あります?」
肩を竦める。
そうして彼女は魔物食らいを再開する。
……こういう生き方もできるんだよ、スヴェナ。復讐や庇護だけが道ではないのさ、ってね。