魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
魔法や魔力には共に適性、あるいは適合率というものが存在し、それは生まれた時点で確定しているものだ。
生涯においてこれを増減させることはできないけれど、違法手術や外法を用いることで一時的に適合率を上げることは可能。無論それには代償が伴うが……。
というのが、今の所感。
少女A'、アリス・フレイマグナ。
エンジェ・エレメントリーの慈愛、あるいは博愛たる精神とは裏腹に、彼女は自身がのし上がることしか考えていない。彼女の魔力制御が甘いことは事実であるし、最大火力の純度がトップクラスであるというのも事実なのだろう。
けれど少女に「お姉さま」を慕う心など欠片も無く──。
「聞いていますか、『とんでもなく強い平民さん』」
「聞いているよ。けれど、『魔力を得ることのできる薬』なんて怪しさしかないものをこっそりと渡されて、"なぜ飲んでいないのですか"は……流石に己を馬鹿にし過ぎてはいないかな」
「魔力ですよ? どれほど努力したところで平民には扱えない魔力。魔法。素晴らしき自在の力! 怪しさよりも魅力の方が勝たない理由がわかりません!」
そして「他人が犠牲となること」にも関心がないのである。
さて、以前少しばかり述べたように、既存の人間、その肉体とナノマシンは適合しない。かつては適合手術が必要だったし、それらは強化人間と呼ばれ、恐れられると同時に蔑まれていた。まぁ単なる実験動物だったからね。
ただし手術を必要としなければ適合し得なかった人間と違い、ナノマシンの残骸によって汚染されていった土地、そしてそこに住まう動植物らはこれに適合していった。正確にいえば絶滅しかけたけれど、既のことで進化し、適合し得る種が現れた、というべきか。
それらは当然のように既存種よりも強靭であり、ナノマシン汚染で死滅するよりも早く既存種を駆逐してしまった。これまた当然ながら当時の人間の主食は汚染されていない動植物だったし、「汚染された動植物からされていない動植物を守ること」よりも「汚染された動植物を除染すること」の方がコストがかからないことが判明してしまった、という二つの事実から、人間は絶滅の手綱を放棄。
結果、汚染された動植物が世界を跋扈するようになったわけだ。
あの頃の人間、特に知識を渡された大人たちにとっては野生動物とは汚染されているもの、というのが常識で、除染しないまま口にすることなど考えられもしなかった。そんなものを口にすれば体内に汚染物質が蓄積するとわかっていたし、それが死に繋がることも「当然」だったから。
当然。当然。当然。そうなって久しいものは、いつしかマニュアルにも残されなくなる。子供にも継承されなくなる。文化において受け継がれるはずだった常識の遺伝子は、しかし人類の消退によって途絶えてしまった。己があの時に少女A……アンジェリカに注意を促さなければ、エレメントリーの血筋自体がなかったかもしれない。それほどの毒性が存在する。
そんなワードはこのあたりで封印し直そう。
ナノマシン、つまり魔力だ。日中にアリス・フレイマグナより渡された『魔力を得ることのできる薬』には凝縮された魔物の血が入っていて、成程確かに『魔力を得ることのできる薬』に変わりない。さらにどこの薬師が配合したのか……体内に蓄積するのではなく、体細胞へ侵蝕して破壊と増殖を繰り返す、などという構造式が入っているため、平民が飲めばそのまま魔物へ早変わりだろう。
魔法使いが飲めば……まぁ、己の持つ魔力によって抑えつけることはできようが、排出の難しいこれは確実な毒となる。それが生存に主要な臓器と絡みつけば一瞬であの世行きだろう。
クラスメイト。そして「お姉さま」と親しい平民に平然と猛毒を渡すこの行為には、彼女の目的が密接に関わってくる。
欲しいのである。
エンジェ・エレメントリーの血。肉片。あわよくば四肢のどこか。
魔物からこういった毒薬を抽出できる薬師を持っているのならば、本質的に差のない人間からも似たような薬を作ることができるだろう。そしてそれは毒ではなく、文字通りの『魔力を得ることのできる薬』となる。即ち、エレメントリーの、本家の血を。
ではエンジェ・エレメントリーからそれらを奪うにはどうすればいいだろう。彼女は直系であるから、分家のアリス・フレイマグナでは敵わない。他の刺客を仕向けたとしても聖護星見の守りは堅固だ。だからやはり内側から崩すしかない。内側から崩すにしても五大貴族の全員がいるここでは半端なものは放てない。鎮圧など一瞬で終わるだろうから。
よって、あまりにも丁度いい──『とんでもなく強い平民さん』である己に白羽の矢が立ったわけだ。暴走した己の鎮静、あるいは討伐であるのなら、エンジェ・エレメントリーは必ず身体を張ると見越しての──あまりにも稚拙な企み。
そして勿論、こんな高度な薬を作り得る者がたかだか分家の一つに抱えられているわけもなく。
「さて……困ったね」
「誤魔化さないでくださ……何がですか?」
「おや、火属性特化のフレイマグナにも感知能力は備わっているのか。ただ危機感は足りていないようだね」
少女A'を抱き寄せる。刹那、彼女がいた場所を通り抜けていく巨大な氷柱。
どうしたものか。これは確かに己の見たい「魔法使いたちの骨肉相食む血筋争い」なのだけど、些か性急すぎる。火属性特化の分家の血。それをここで殺してしまうのは……勿体ないだろう。
「い……まのは」
「明らかに君だけを狙った攻撃だったね。己が避ける必要はどこにもなかった」
「な。なんで」
「なんでも何も、君では己を魔物化させられないと判断したのだろう。であればその薬の効果を知っている君は処理対象だ。杜撰な計画ではあるけれどね、君が単なる向こう見ずな魔法使いで、己が単なる『とんでもなく強いだけの平民さん』であるのなら充分に効果的だ」
避ける。避ける避ける避ける避ける。
軌道の察しやすい四大元素魔法は回避が楽で良い。一応少女A'を抱き寄せていることを考慮しての回避だから、いつもよりは大きくマージンを取る必要がある……けれど、周囲一帯をどうこうしてくる
己一人だけなら、そもそも避ける必要はないのだけどね。
「それで、どうだろうか──見るも無残に裏切られたフレイマグナの姫君。エンジェへ向ける目も己へ向ける目も一度瞑って、害悪となった敵を倒すことへ注力する、というのは」
襲撃者にとって、己という存在には使い道がある。だから己を狙うことはしない。したとしても弱い魔法ばかりで、命にかかわるものは放たれない。
気絶した己にこの薬を飲ませても結果は同じだ。だからこそ確実に少女A'を狙いたい──のだろうけれど。
時間稼ぎは、タイムアップを呼び寄せる。
ジャラジャラと音立てて地面から這い出てくるは、鎖。
それらがそこかしこへと走って……そこかしこに隠れていた黒マントたちを炙り出す。持ち上げて引っ張り出して、磔にする。
「やぁ、エンジェ。君にしては趣味の悪い拘束方法だね」
「当然でしょ。こんな魔法、私は使わないし」
「──趣味が悪くて悪かったですね、と。一応は言っておきましょうか」
「べ、別に姉さんを責めたわけじゃないのよ!?」
ひらりはらりと風に乗って現れたのは二人。
エンジェ・エレメントリー。そして、彼女をそのままに二、三ほど歳を重ねさせた容姿の女性。
「初めましての方ばかりですから、一応ご挨拶を。一応、エレメントリー家が長女をしております、アンフィ・エレメントリーです。──無論、この自己紹介を覚える必要があるのはただ一人だけとなりましょうが、一応」
拘束は、一つ、また一つと確実に命を摘み取っていく。情報を聞き出すとか連れ帰るとかはしないんだな、なんて。
あるいは既に動いている、とかだろうか。
「遅くなってごめんね、二人とも。事情を家に話したら、ちょっと大変なことになっちゃって」
「当分は学園に行くな、とでも言われたのかな」
「ま、そんな感じ。で、もし行くなら、諸々の問題を解決しなさい、って言われて……」
「君の姉が出てきたワケだ」
つまるところ、問題解決能力を持った大人……最上級生が。
ここで聖護魔導学園の詳細なデータを語るほど己は不躾ではない。それはいつかに取っておくとして、今だ。
目の前で行われている凄惨な処刑ショーには目もくれず、抱き寄せていた少女を解放する。
具体的にはエンジェ・エレメントリーとアンフィ・エレメントリーの前へ、突き出すような形で。
「あっ……」
「ちょっと、女の子には優しくしなさいよ」
「今君の姉が殺している者達の中にも女性はいるだろうが、それらには優しくしなくてもいいのかね?」
「アンタ限定の話よ。紳士ぶってるクセに、そういうところはいつまでたっても直らないんだから」
「卑賤な平民だからねぇ、致し方がない」
突き飛ばされた少女A'はしかし、優しくは抱き留められない。
どころか、地面より突き出てきた鎖によって彼女もまた絡め取られる。
「姉さん!」
「これからも学園に通いたいと、一応、そういう意志があると聞いていましたが、違うのですか、エンジェ」
「それは……そうだけど」
「なればあなたを利用し、さらにはあなたのお友達を何のためらいもなく殺そうとした彼女は敵でしょう、一応」
「問題を解決するというのならば、元凶であるアリス・フレイマグナを捕らえる必要がある……そういうことだね、アンフィ・エレメントリー」
「ええ、そうです。良い理解ですね、『一応平民の人』」
ふむ? アンジェリカに何か吹き込まれているのかな?
それとも彼女の口癖が故だろうか。こればかりはわからないが、わからないままの方が楽しいだろう。
イイねェ、望んでいたモノが見られそうで、ワクワクするよ。
「しかしお優しいことだね、アンフィ・エレメントリー」
「一応聞きますが、何がですか?」
「苦しまないよう一気に、一斉に、ではなく、見せつけるように見せしめるように一人一人殺していく様が、だよ。──あるいは、エレメントリー家としても気になるのかな。魔法使いがこの薬を飲んだ場合、どうなるのか」
指で抓んで見せるは『魔力を得ることのできる薬』。こちらを一瞥したアンフィ・エレメントリーは……溜息を吐くと、掌を上にした。
寄越せ、ということか。
「報酬はもらえるのかな」
「流石は『一応平民さん』、卑しいですね、一応」
「ああ、一応だ。それで?」
「お渡ししましょう。一応」
ありがたいことだ。
何分、経済破壊を行うわけにはいかないのでね。作れはするけれど、通貨の類は作らないようにしている。だから己の財産はこの年頃の平民が持つものより少し上くらいでしかないし、こういうお駄賃は助かるというもの。
染み一つない肌に小瓶を乗せる。
「では、あなたは避難していてください、『一応平民の人』。これより始まるは魔法使いの独擅場。あなたの出番はありませんよ。一応、勧告しておきます」
「どうも。けれど己は友たるエンジェを置いていくつもりはないし、己を殺さんとした少女の行く末も気になるからね。ここで静観させてもらおう。なぁに、魔法ならば」
射出された燃ゆる鎖、降り落つ絶対零度の気柱を避けて、肩を竦める。
「このように、どうとでもなるからね」
「……成程、確かに『一応平民の人』ですか。エンジェ、防御は任せましたよ」
「必要ないと思うけど……わかった。怪我、しないでね、姉さん」
「誰に言っているのですか、と……一応、聞いておきましょう」
して、雄叫びがあがる。
ギャイギャイと、キシキシと、凡そ人の出して良い音ではないものが……まだ殺されていなかった襲撃者たちから響き渡る。
鎖によって絡め取られた身体は部分部分が、そして次第に全体が肥大し、惨たらしく血肉を噴出する獣へと……魔物へと変貌する。
平民にとっては猛毒。
魔法使いにとっては──まぁ、猛毒に変わりなかった、と。
「やれやれ、見るに堪えない姿だ。それとも、高貴なる血筋は分家となるとこうなる未来なのかな」
「そんなワケないでしょ。……アンタに渡されていたっていうさっきの薬を飲むと……魔力中毒の末期症状まで一気に行って、ああなっちゃうのよ」
「魔力中毒。魔力抜きをしていない魔物の肉を食べ続ける、なんて稀有なケースの向こうに起こるレアな死に方だね」
暴れている。適合していない魔力が体細胞のすべてに侵食し、それらが分裂を繰り返し……ヒトを、ヒトではないものへと変える。
今回は……巨体で、毛むくじゃらの犬頭……さしずめジェヴォーダンか。ジェヴォーダン地方は既にその名が知られなくなって久しいけれど、己が魔物に名を付けることが何度かあったせいで、そのまま広まっているものも多い。サンドワームなんかの見た目通りの名前の魔物も多々いるけれどね。
そうして彼らは鎖を引き千切る。引き千切りやすいように合金にしていなかったあたりが少女A''……アンフィ・エレメントリーの悪辣さであるけれど、彼女も「どこまで行くか」は知りたいのだろう。
ああ、そして判断は正しいのだ。
鎖を引き千切った彼らは……己達に向かってくる者もいたけれど、一部はお互いを食らい合うようにして集結している。
「何あれ……お互いを食べ合って、大きくなってる……? 姉さん!」
「一応、あなたもエレメントリーの次女なのですから、冷酷さも覚えなさい。違法薬物に手を出した者の末路は、それがどれだけ違法であるか、それがどれほどの被害を齎すかを記録するために、最大限の効果を待つ必要があります。──そして、アリス・フレイマグナ。あなたが犯そうとしたことを見逃さないように。フレイマグナの家には追って通達を出しますが……これが、ヒトの罪です」
ぐちゃぐちゃと水音を立てて一つになっていく肉塊。
こちらへ向かってきていたものは全てアンフィ・エレメントリーが魔法で叩き潰したけれど、ノータッチでいたものは……大きな、巨きな、ヒトガタ、となった。
「ふむ……興味深いですね。手足の数どころか、お互いを食らい合うことで大きな一となる。理性など無いでしょうに、なぜあれらはヒトガタを選んだのか。一応、気になりますが……これ以上は学園を壊されかねませんし、殺しましょうか」
ナニカ……水と氷と風と火の複合魔法らしきものがジェヴォーダンの魔物を貫通する。
アンフィ・エレメントリー。中々の独自性だ。基礎と基礎派生を別々の魔法として扱う、というのは……感覚的に魔法を使っている者では絶対にできないことだから。
己から見たエンジェ・エレメントリーの印象は「感覚で全てを完璧に熟してしまう天才」であったからこそ、アンフィ・エレメントリーからエンジェ・エレメントリーのへの嫉妬心は大きそうだな、などという邪推を巡らせる。
「だが、足りないようだ」
「……『一応平民の人』。一応聞きますが、どうしてそう思うのですか?」
「急造された心臓が止まっていない。厚い体毛の奥深くにある皮膚の振動とて見逃さないよ。加えて、心臓は一つではないね。成程、取り込んだ人間の心臓をそれぞれのエネルギー機関にしているのか。あれはヒトガタをしているけれど、実質を言えば集合生物と表現すべきものだろう」
「アンタ……何言って」
「エンジェ。私がこの少年を『一応平民の人』と呼ぶのは、私の口癖が故ではない、ということだけ……一応、忠告しておきますよ」
風の槍が多方向から突き刺さる。貫通し、血肉をえぐり取るそれは、しかし命までは奪いきれない。
なんという強靭な生命か。耐久性能で言えば強化人間を優に超える。これで理性があれば、とは思うけれど、そんなものが現れた暁には「人類の血筋争い」から「外部脅威との生存戦争」に変わってしまうだろうから……己が秘密裡に絶滅させるだろうね。
なぁに、生物種を絶滅させることは慣れているさ。
「硬いわけでもなく、再生するわけでもなく……複数の命を持つが故の堅固。こういう方向性がアリなのか、フィジクマギアの方々にも一応聞いてみたいところですね」
「余裕だね、アンフィ・エレメントリー。あれを殺し切る自信でもあるのかい?」
「エレメントリーに対して、自信を問う。流石ですね、『一応平民の人』」
「なんせ平民だからねェ、君達の凄さを己は知らないんだよ」
穴だらけ……背骨はおろか、一部は薄皮一枚で繋がっているに過ぎない「ヒトガタ」は、けれど未だに「ヒトガタ」を保ったままに襲い来る。
一歩、また一歩……ではない。助走をつけての飛び掛かりだ。この巨体であれば己らは確実に潰され、学舎にも被害が及ぶことだろう。
全身が凍り付いたから……だけではない。
その巨体を後ろへと引っ張る力が働いたからだ。
地面へと叩きつけられるジェヴォーダンの魔物。芯まで凍り付いていたのならそこで砕け散るのが華だった。
しかし、こちらもそうはならない。
「おや……一応、ドラゴンであっても散華となる威力で叩きつけたのですが、心臓の多さに関係なく頑丈過ぎませんか?」
「
「なんというか……手の込んだことをする賊ですね。一応聞きますが」
「勿論己ではないよ。始祖に何を吹き込まれたのか知らないけれど、己は完全な被害者だ。一々疑ってくれないでおくれよ、アンフィ・エレメントリー」
「それは一応、失礼いたしました。それとアンジェリカ御婆様に濡れ衣を着せるのは一応やめていただけますか。私にあることないことを吹き込んだのは、聖護星見の始祖ですので」
……彼女は。また己に関する未来視でも行ったのかな。
制限されているのだからしなければいいのに。苦痛が待ち受けているだけだよ?
あるいは芋づる式に出てきてしまったのかな。
「しかし、一応これで確定しましたね。此度の騒動の黒幕は
「平民が聞いて良い話かな?」
「構わないでしょう。エンジェの友であるというだけで……あなたが何者であるにしても、巻き込まれる運命です」
氷が浸食していく。いくら魔力耐性が高いといっても、無効化できるわけじゃない。
じっくりと、じんわりと、少しずつ身体を蝕んでいく冷気に抗う術など無い。
普通であれば、だ。
最初に聞こえたのは音だけだっただろう。この場に居た誰もが反応できなかったことだろう。
凍りゆくジェヴォーダンの魔物から伸びた拳に、など。
高速で、瞬きの間しかない時間で……確実にソレを。
アンフィ・エレメントリーの右腕を抉り千切った攻撃に、など。
「……──エンジェ。アリス・フレイマグナを本家に持ち帰りなさい」
「え……姉さん、それは、どういう」
「申し訳ありません、一応、余裕がありません。風で飛ばしますので、着地は己でやりなさい」
暴風が吹く。アリス・フレイマグナを絡め取った鎖ごと、そしてエンジェ・エレメントリーの身体を……ふわり、なんて速度ではない力で浮かせて、遠くへ飛ばす。
直後、無数の枝が、いいや、枝分かれした腕が、細胞が、アンフィ・エレメントリーの身体を突き破った。
「なるほ、ど。執念、ですか。……あるいは、『一応平民の人』。私は、不要とでも、判断……いたしましたか」
「謂れのない罪を被せるものだね。避けることに精一杯で余裕がなかった、とは考えないのかい?」
「ええ……一応、最大限に警戒しろと、聖護星見から……忠告を、受けていましたから」
成程、随分と嫌われている。
……アンフィ・エレメントリーの身体に突き刺さった細胞枝は、どくどくと彼女の血液を吸い取っている。
ジェヴォーダンの魔物、及び『魔力を得ることができる薬』はそもそもがそのためだけに練られた薬なのだろう。エレメントリーの血を妄執のように求める。理性を失っても尚求め、求め、求めに求めるためだけの薬。
さて。
アンフィ・エレメントリーを見捨てるのは簡単だ。己も逃げるので精一杯だった、とでも言えば良い。
ただ……既に充分量の血液は抜かれている。ネクロクラウンの抱えている研究者の腕にも期待したいところだから、これ以上のサンプルは与えすぎだと判断する。
「人一人の命を救う代価は、何だと思う。アンフィ・エレメントリー」
「決まって……います。……人一人の、命……です」
「いいや、違う。人一人の存在だ」
まず、ジェヴォーダンの魔物の生命活動を終了させる。
灰となって消えていく肉枝を丁寧に抜いていけば、アンフィ・エレメントリーの身体から大量の血液が吹き出し始めた。
問題ない。というか、どうでもいい。
「命を長らえるために、アンフィ・エレメントリーでなくなる──その覚悟はあるかな、少女A''」
「……そ、れは」
逡巡。
何を考えたのだろうか。死にかけのその身体で、何を。
「あり、ます」
「よろしい。──そういうワケだ、ディアナ・ネクロクラウン。この少女A''は己が貰っていく。君は今吸った血肉と、そしてエンジェ・エレメントリーを狙うといい。元よりエンジェ・エレメントリーの方が純度の高い血筋と言えるからね」
引き抜いた細胞枝を投げ、空を飛んでいた不可視のコウモリを貫く。
まったく、幾星霜を経ても彼女は変わらないな。
と……少女A''から鼓動が聞こえなくなる。生命活動を終えたようだ。
ただ、そんなものはどうとでもなる。
丁度良かったんだ。エンジェ・エレメントリーが次女である、というのはあまり都合がよくなかった。今同世代にいる他四家の血脈は全員が長女か長男なのに、彼女だけ、というのは……その背後、始祖たちの持つ血筋の欲求に充分な働きができないだろうから。
これよりこれにてエンジェ・エレメントリーは四大元素の長女となる。
おやすみ、少女A''。アンフィ・エレメントリーの物語はこれでおしまいだ。
明日から君は、新たな血として歩みを進める。それは全て、珍しさというただ一点のためだけに。
こういうテコ入れはね、沢山やっていくよ、己は。