魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Step7-2.「残照回廊の狼煙」

 彼女──スヴェナ・デルメルグロウとエンジェ・エレメントリーは姉妹である。

 かつて血の繋がっていた、そして今は繋がっていない姉妹。

 このことは秘密にしなければならないし、言いふらそうとしても度を超えた強度の認識錯誤が邪魔をするから、どの道明かすことはできない。

 ただ、彼女の妹だけは、『彼』ですら理解のできぬ術で、スヴェナを姉だと見抜いた。

 

 それはまさしく姉妹愛という他なく──。

 

「止めておいた方がいいです、一応。というか絶対」

 

 今まさに妹から受けている相談内容も、愛に関することだった。

 

 

 事の発端は件の遠洋課業にまで遡る。

 例年を考えてもあまりにも多かった魔物の襲撃。その最中において、妹エンジェは『快晴の雷』に襲われたという。

 何か比喩表現などを使う場合を除き、この『快晴の雷』とは魔法世界における突発的且つ防ぎ様の無い天災として知られている。曇り空でもないのに突如雷が降ってきて、そこにいたモノは魔物であれ人間であれ、刳り貫いたような穴を開けてしまう……そんな現象。傷口は大きな火傷を負っている場合がほとんどであることからそれは『快晴の雷』と名付けられた。

 これだけ聞くと人類にはもはやどうしようもない災害に見えるだろう。否、実際にそうであるのだが、記録に残されている限りで人体に落ちた『快晴の雷』はたった四度だけで、ゆえに「余程の悪運でない限りは問題ないもの」とされている。道端で大型の魔物が目立った外傷もなく死んでいる場合で、『快晴の雷』らしき傷痕が見つかる場合はあるので、落ちている回数が四回、というわけではないのだろうが。

 

 して、魔法世界においては完璧な数字とも不吉な数字ともされる"五回目"に、スヴェナの妹が当たった、と。

 この現象から生還した人間はいない。魔物であれば致命傷を負うに終わり、その後死した、という例があるので『快晴の雷』自体に命を奪う効果はないのだろうが、それに関係なく甚大なダメージを齎すものであると思われる。

 ではなぜエンジェが『快晴の雷』から生還したのか。

 それが『彼』にあると聞いて、スヴェナは真っ先にマッチポンプを想像し……それはないと頭を振った。

 どう考えても色々な悪事を働いているし、どう考えても人類の敵にしか思えない『彼』だけど、なんというか、「自分の起こした出来事で自分が活躍する」というような茶番劇を好むタイプではない。付き合いはまだ浅いと言わざるを得ないが、存在抹消の里で聞いた『彼』の像から言っても同じような印象が得られた。

 

 つまりまあ。

 エンジェは、生還不可とされた類を見ない災害から命を助けられたのである。──彼の腕と引き換えに。

 

「だから、私は報いないといけないと思うワケ」

「いえ、もう治りましたし一応。『一応平民の人』も気にしていないものと思われますが」

「スヴェナはじゃあ、治るからって理由があれば、どんな人でも……いくらでも盾にしていいし、いくらでも傷つかせていい、っていうワケ?」

「いえそれは、極論が過ぎると言いますか。そもそも『一応平民の人』にとって肉体などあってないようなものといいますか」

「極論って……魔法世界じゃ可能かそうでないか、しかないんだから、極論にもなるでしょ? そういうのはスヴェナの方が詳しいと思うんだけど」

 

 どうせ聞こえないのだろうな、と思って放った言葉は、案の定エンジェの耳に届かない。

 そして魔法世界に可か不可かしかない、というのも正しい。だから本家と分家でこれほどまでにも扱いが違う。本家にできるのなら、できるはずである。そういう常識があるから、できない分家は冷遇される。

 感覚型はその力量にばらつきがあるが、理論型は特に顕著だ。スヴェナの方が詳しい、というのはそのこと。理論型は理論で魔法を使うために、「できない」ということがあり得ない。あり得るとしたらそれは「処理の仕方に問題がある」とか、「単純に魔力量の問題」、「体力の問題」の場合だけ。

 

「跡継ぎはどうするのですか、一応」

「それは……」

「通常、本家の人間は本家の人間同士との婚姻を結びます、一応。本来であればエンジェは兄か弟と血を混ぜ、薄まらないようにすることを目指すべきです……が」

「いないから、分家の中で最も突出した才のある男子と結ばれなければならない、でしょ? つまり、父さまと母さまが男の子を産まない限り、私の代でエレメントリー本家の血は薄まることが決定づけられている」

 

 それは奇跡に近い確率なのだろう。

 今日(こんにち)に至るまで、はじまりの五家──始祖ディアナだけは子孫を残していないので正確には四家──の血は、一切薄まっていない。どの代でも必ず男女の兄妹、あるいは姉弟が生まれ、それが血を交わし、「本家」を名乗り続けてきている。

 

「なら、相手が平民でも問題なしよね」

「いえ今理論の飛躍がありました。一応。いえ絶対」

 

 もし『彼』が普通の平民であれば──そもそも子供は産まれない。

 系統の違い過ぎる他家、もしくは血の魔法許容量的に無理な相手でも産まれない。

 

 ただ……『彼』は普通の平民でもなければ、魔法許容量など造作も無く操り得る人物だ。

 可か不可かを問うならば、可能なのではないか、と思ってしまうスヴェナ。

 というより、エンジェもそう思っているから今の「問題なし」なんて発言が出た可能性もある。

 

 ──アンフィ・エレメントリーが死したことで、エレメントリー分家の長子から向けられていた欲望の視線は全てエンジェに向くこととなった。

 どの家も本家の血が欲しい。どの家も本家に婿入りし、二人以上の、あわよくば三人以上の子をエンジェに産ませ、その内の「本家筋」でないと判断された方を引き取りたい。

 それは家の、血の強化へと繋がり……血を薄めた本家に血を濃くした分家が勝る未来へをも繋がるのだから。

 

 だから、ゆえに、そう考えると。

 

「……『一応平民の人』が、一番安全……なのかも、しれませんね、一応」

 

 ガッと抱き上げられるスヴェナ。彼女は今自らが口走ったことを後悔する。

 いや確かに、でも、そうなのだ。

 エンジェのことを愛してもいない、その血と子供が欲しいだけの分家にエンジェをくれてやるくらいなら、あの誰とも繋がっていない『彼』と結んだ方が、エンジェの幸せに繋がるのではないか。幸いにしてというべきか、今の当主……つまりエンジェとアンフィの両親は「娘が不幸になるくらいなら本家の血など絶やしてしまえ」という思想の人物であり、既にそれなりの歳であることも相俟って、新たに男児を儲ける可能性は低い。

 

 色々。本当に色々加味すると、一番『アレ』が安全なのである。もとい『彼』が。

 

「良かった! なんだかんだ言って、スヴェナに一番納得してほしかったの! ……あ、一応聞くけど、スヴェナがアイツを──」

「ありません。絶対」

 

 口癖である一応を使わずに即否定する。

 本当にどうかしている。存在抹消の里に幾人か存在する『彼』を崇拝する人々も、恋慕に近い感情を抱いている者達も。一部の人たちは『彼』を『終末』、『悪魔』、『詐欺師』、『終わってる人』と呼んでいるくらいなのに。

 

「なら……応援してほしいわ。い、一応初めての恋人で……初めての、ちゃんとした告白をするワケだし」

「二つ返事で了承されそうなものですが、一応」

「本家貴族の令嬢としては、何か贈り物をした方が良いのかしら? ……シャニアに聞く……のは、でもあの子も経験なんてないだろうし」

「私がなんですか?」

 

 無意識に歯噛みするスヴェナ。

 此度の空間剥離、及び隠蔽、さらにそれの周囲にかけた認識錯誤は今までで最高の出来だった。

 積み上げられる理論の全てを積み、簡略化できる部分を圧縮し、オリジナルの構造式を組み込んだ最上級の結界。

 それをこうも容易く。やはり本家の人間というのは──。

 

「悔しがっているところに水を差しますが、これは貴女のミスというよりエンジェのミスですよ。この何も無い、誰もいない、違和感の一つも覚えない空間に敷き詰められた風属性の魔力。規律会に報告が上がってきましたから。正体不明の、けれど高位の魔法使いがどこかの情報を盗んでいる可能性が高い、と」

「……エンジェ」

「あー……。そっか、渦状の時はそういう人を故意に避けてたけど、密状にするとそういう弊害が出るんだ……。これは改善しないと……」

「しかし、貴女も成長しましたね、エレメントリーの御令嬢。スヴェナさんの空間剥離を突き抜けて魔法を使うとは、成長が早すぎます」

 

 それは本当にそうだ。

 エンジェの成長はとどまることを知らない。魔法使いは生まれた時から力量が定められているようなものであるのに、彼女は限界とされた場所をゆうに超えていっている。

 彼女の努力であると信じたいスヴェナだけど、どうしても『彼』の影がちらついてしまうのは仕方のないことだろう。

 

「それで、私がなんですか?」

「あ、そうだった。ね、シャニア。……告白って、どうやればいいの?」

「……他をあたってください」

 

 魔法を使ってまで逃げようとするシャニア・デルメルサリス。

 その手を掴む。スヴェナも、エンジェもだ。

 

「あの。そもそもエレメントリーのお家騒動に首を突っ込む気が無いのですが」

「私が告白するのはアイツ。今はなあなあの恋仲だけど、本気で婿に迎え入れるつもりでいるの」

「……正気ですか? 彼は平民でしょう」

「私も一応正気かどうかを問うたのですが、正気らしく、そして色々考えた結果、『一応平民の人』が最も安全で……いえそうではなく、私とは違う観点からエンジェを引き留めてほしくて」

「え? スヴェナ、納得してくれたんじゃないの?」

「反対はしませんが、あの人と結ばれるくらいなら生涯独身の誹りを受ける方がまだマシかと、一応」

 

 ──中休みの終了を告げる鐘が鳴る。

 三人は顔を上げ。

 

「はあ。わかりました。続きは今日の夜にでも寮で行いましょう。次元空間(デルメルサリス)二人と四大元素(エレメントリー)で消音を行えば、寮長にも気付かれないでしょうし」

 

 その変則的な女子会……コイバナ……とかく、そういったものを画策するのであった。

 

 

 ので。

 

「うん? 己の嫌いなもの?」

「はい。一応、打倒あなたを掲げている身として、聞いておくべきかと」

 

 天上の地にて──『彼』を呼び出してのリサーチの時間を取るスヴェナ。

 彼女らしくない幼稚な作戦──そう、嫌いなものをプレゼントさせて、『彼』が断りやすいようにしよう作戦。

 肉体に精神年齢が引っ張られているとしか思えないその作戦は。

 

「嫌いなものは……まぁ、虫かな。苦手ではないのだけどね」

「……。一応聞きますが、それは虫型魔物、ということでしょうか」

「いいや? むしろあれらは好ましい部類に入るよ。進化のサイクルが早いからね、見ていて飽きない」

「他には。できれば物で、一応」

「難しいことを言うね、君。万物を創造できる己に物質として好みでないものを問うのかい?」

「この際色とかでもいいです、一応」

「色彩なんて眼球の組織構成を変えるだけでなんとでもなるからねェ」

 

 これは、ダメだ。

 この男に苦手なものなどあるはずもなかった。同時に好きなものも……どうせ概念的なものだろうから、エンジェの行うプレゼントは何を選んでも好感度に増減はないのだろうが。

 

「ああけれど、今の己で停滞する人間は嫌いかな。自らの限界をここだと定め、成長を止めてしまう存在とは……あまり仲良くしたくないね」

 

 スヴェナは頭を抱える。だってエンジェはその正反対の人間だ。

 今の己に満足せず、高みを高みを、より高い所を目指し続ける人間。同時に周囲もそこへと連れていかんとする存在。

 

「己を打倒するために己の嫌いなものをリサーチする、というのは……ううん、己が言うのもなんだけど、無駄じゃないかなぁ。ああでも、己にもわからないことはあるかもしれない。存在抹消の里とか、あとはこの身分ではない己との交戦経験を持つ者とか……あと、過去に己と家族の関係にあった者とかなら、何かを知っているかもしれないね?」

 

 聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 

「過去、あなたと……家族の関係にあった方がいるのですか、一応」

「そりゃねェ。毎回毎回天涯孤独だと歴史に残りやすくなるだろ? なんなら今の己にもいるよ、家族」

「……存在抹消の里から出した、形だけの家族……ですか」

「今回のはそうだね。けど、今までの活動歴の中には、己の由来を一切知ることなくただただ家族であった者もいるかな」

「認識錯誤……ですか」

「そうである場合もあれば、今のエンジェのように恋仲へ発展した者もいるし、養子として迎えられたこと、養父として子供を引き取ったこともあるね」

 

 とはいえ、と。『彼』は続け様に、「大体が己の怪しさ、胡散臭さに嫌気を覚えて去っていくのだけどね。賢明な判断だと言わざるを得ないよ」と言う。

 

「あなたの家族であった方々で、存在抹消の里出身ではない方で……今も生きている方はいるのですか?」

「それは流石にいない……んじゃないかな? ああでも己と別れた後に吸血鬼(ダンピール)なんかの長命種になったケースが絶対に無いとは言い切れないね。己もそこまで把握しているわけではないし」

 

 希望が湧く。

 が、どうやって探せばいいのだ、という絶望も付き纏う。少なくとも今日の夜に行われる女子会までには無理だろう。

 

「あとは……己に関する詳しいことであれば、始祖に聞くのが早いんじゃないかなぁ。当然だけど今いる人間の中で一番付き合いが長いのが彼女たちなわけだし」

「……分家の人間は、そう簡単に始祖には会えません。会えませんし、私が始祖シエル・デルメルサリスと出会えば殺し合いにしかならないでしょう」

「じゃあアンジェリカの元へ行ってみるかい?」

「へ?」

 

 パチン、と鳴らされる指。

 直後、周囲の景色が一変する。

 

 ──気持ちのいい風の吹く草原。

 そこに建った素朴な一軒家。とても貴族の住まう家とは思えないそこへ、『彼』は勝手知ったる、という風に入っていく。

 

 ドアベルを鳴らすことも、カギを開けることもなく。

 

「やぁ、始祖アンジェリカ・エレメントリー。久しぶりだね、会いにきたよ」

 

 スヴェナの頭にポン、と手が置かれ──強制的に伏せさせられる。

 何をするんですか、一応、と抗議の声を上げようとしたその瞬間、彼の上半身のあった場所を四属性複合魔法が突き抜けていった。

 

「相変わらず短気だねェ、始祖アンジェリカ・エレメントリー。今日は無関係の子も連れてきたというのに」

「はぁ? ……なに、その子。アンタが私に会いに来た時点で厄介事確定だから、帰ってくれない?」

「そう言わずに。彼女の中身を少し見てみるといいよ。それで、少しは興味が湧くと思うから」

 

 消し飛んだ上半身をそのままに喋る『彼』。次第に再生していってはいるけれど、それはもうホラーでしかない。

 そして恐ろしいのは──同じく吹き飛ばされた家の一部が瞬く間に修復されていっていることだろう。恐らくは土と風の二属性複合錬成だが、その練度たるや。

 

 美しいとまで思える魔法行使に慄いていた彼女は──ゆっくりと家の中から出てきた少女に気が付かなかった。そのままふわり、と抱きしめられる。

 

「へ」

「……何この子。私の……本家の血を感じるんだけど。まさかアンタが手に掛けたの、『愚者』」

「己は命を救った側だよ、始祖アンジェリカ・エレメントリー」

「あっそ。……でも、今はシエルの血になってるのね。可哀想に……コイツのせいで、とんでもない苦労をしたんでしょ」

「あ……いえ。自らの油断により死に掛けていた……いえ、死することが確定していた私を生き繋がせてくれたのは、一応、この人なので」

 

 勇気を振り絞って言葉を出す。

 抱擁は暖かいのに、底知れない恐怖がある。理論型のスヴェナとしてはこの得も言われぬ感覚が何より恐ろしい。

 

「ふぅん。よく出来た子もいたものね。で、なに? アンタから私に用とか……明日にでも魔法世界は滅びるの?」

「この子がね、己を打倒したいらしいんだ。始祖は……まぁ始祖ディアナ・ネクロクラウンを除いて全員が同じ目標を掲げているだろう? だから君なりにアドバイスをしてあげてほしくてね。始祖シエル・デルメルサリスと彼女は折り合いが悪かったから、他に縁がある者、といえば君くらいしか思いつかなかったんだよ」

 

 始祖は。

 一言、ふぅん? と言って。

 

 凄まじいまでの殺気を叩きつけてきた。

 突然のことに目を白黒させながらも、竦むことも怯えることもせずに立ち向かうスヴェナ。

 

「へえ。根性あるじゃない。ってことはなに、この子を弟子に取れって話?」

「君、話を聞こうよ。アドバイスが欲しいのだそうだよ」

「……アンタを倒すアドバイスなんて、私達が欲しいんだけど。そもそも『愚者』、アンタって死ぬの?」

「さてねェ」

 

 険悪な関係、ではあるのだろう。

 だが、どことなく旧知の仲を感じさせるというか、最終目標が殺害であるにもかかわらず、旧い友人であるかのような……そんな雰囲気。

 

「ま、己がいてはできる話もできなくなるだろう。スヴェナ、夕刻を過ぎたあたりでまた迎えに来るから、その間始祖アンジェリカ・エレメントリーと適当に話をしているといいよ。君にかけられている認識錯誤は、そのほとんどが取れていると思っていいからね」

 

 それじゃ、なんて言って消える『一応平民の人』。

 少女……始祖アンジェリカは、先程まで『彼』のいたところにシッシッと手を振って。

 

「あなた、元の名前は?」

「あ……アンフィ・エレメントリーです、始祖アンジェリカ」

「いい、いい。敬称とか要らないから。敬語も不要……って言って外してくれたコいないけど。でも、アンフィ(AMPHI)か。良い名前ね」

「ありがとうございます」

 

 容姿は今のスヴェナと同じくらい。

 それはそうだろう。始祖は全員そうだ。全員が少女の姿をしていて、成長することも衰えることもなく悠久を生きる。

 

 けれど、実際に会ったのはこれが初めてで……スヴェナはひどく緊張していた。

 

「それで、アイツを倒すためのアドバイス、か。うーん……私達も五千年をかけて探してはいるんだけど、中々わからなくてねー」

「そう、ですよね」

「ああ……そう落ち込んだ顔をしないで。何も無いってわけじゃないのよ。一応効果のある攻撃はいくつか見つかっているし、遺物……アーティファクトもね、それなりに揃ってる」

「アーティファクト……ですか」

「うん、そう。基本的な話をするなら、アイツを殺すには多分五千年前の遺物に関するもの、あるいはそれ以上の出力を出せるものじゃないと同じ壇上にすら立てない。たとえばコレとかね」

 

 なんて、簡単な口調と共に始祖が取り出したのは……奇妙な棒。

 手のひらサイズのそれ。魔力を感じないそれについた突起を始祖が押した瞬間、棒から光の束のようなものが伸びた。不思議なことに、そこからは魔力に近しいものを感じる。

 

「簡易削岩機『SHEAR』。勿論こんな出力じゃ受け止められて終わりだけど、少なくとも意表を突くことはできると思う。いっぱいあるし、一本持っていって」

「え……いや、そんな」

「大丈夫大丈夫。もし不意打ちなんかでアイツが殺せたら私達にとってもラッキーだし。あとは……そうね。アイツ、妙にあなたに気を許していたし、こういうのとかどう?」

 

 次に始祖が取り出したのは──二対の指輪。

 思わず息を飲む。状況が状況だけに。

 

性質(タチ)の悪い、で評判だった会社が売ってたジョークグッズの一つなんだけど、案外使えてね。『SHACKLES』っていうの。この指輪をつけると、一定範囲以上先にいけなくなる。二人でつければ離れることが難しくなる……まぁ恋人用のアーティファクトだけど、自分の手に付けたが最後、手枷みたいに手を使えなくなる、って感じ」

「……『一応平民の人』の肉体などあってないようなものなので、意味ないのではないですか?」

「それはそう。だけどアイツもあなたみたいな子がこんなものを贈ってくるなんて思わないでしょ。それは確実な隙になる。そう思わない?」

 

 とか。

 まぁ、色々な理由のつけられた──『一応平民の人』暗殺グッズ、ことアーティファクトをこれでもかと押し付けられて、そうして迎えにきた『一応平民の人』からそれらを隠しつつ……帰路へと就くスヴェナであった。

 なんだか、始祖への印象も変わった、とかなんとか。

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