魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Step8-1.「魔導学園の危機」

 さて。

 どうしたものか、と……聖護魔導学園を見上げる。

 

「『一応平民の人』、一応聞きますが、これは既存の法則に則った魔法……ですよね?」

「それこそ本当に一応、だね。ベースは聖護星見(クライムドール)の陣地だけど、次元空間(デルメルサリス)も関わっている。何より感服するべきことは」

 

 適当な小石を拾って……薄い青をした結界に向かって投げる。

 それが結界に接触した直後、内側からの属性魔法によって跳ね返された。

 

「嘘、四大元素(エレメントリー)?」

「魔法自体はね。この結界自体も強固で堅固なものだけど、未来視によって結界のどこに何が当たるのかを予知しておいて、そこへ適切な魔法が対応を重ねるようにしてあるようだ。……学園長イレイア・クライムドールの仕業にしては……事前連絡が無い。とすると」

「この規模の陣地、及び準備を、外部の人間が行った、ということですか、一応」

「さっき現れた……よくわかんない三人の言ってた残照回廊(リメノンス)とかいう奴ら? で、あってる?」

「すべてに"恐らくは"がつくけれど、そうなるかな」

 

 だから……今やるつもりはないけれど、己がナノマシンを用いない技術でこの結界を突破しようとしたとて、相応の対応が待ち受けていることだろう。

 全て処理しきった上での計画決行。あるいは己がエンジェを守らんとすることまで……いや、そこまでは干渉し過ぎか。

 

 グリーフィーのような「特例」でもない限り、己のことはノイズに映るはず。

 となると、己が世界に干渉する……その「羽搏き」のようなものから魔法を構築したのだろう。感服だし敬服だ。この計画の考案者はさぞかし几帳面なのだろうね。

 

「中の人間がどうにかする、というのが一番の理想だ。けれど、ただ待つだけ、というのは……無理だろう、君達」

「あったり前じゃない」

「一応、できることは全て試してみたいですね」

「……ならまず、最高火力でも叩き込んでみるかい? 未来視で対応をしているから、と諦めていては思うつぼ。相手の魔力切れを狙っていくのはアリだろう」

「スヴェナ、なら、前に考えた私達の合わせ技、やりましょ」

「ふむ。平時であれば周囲の被害を考える必要がありましたが……今回はむしろ被害があった方が良い、と思うべきですね、一応。では『一応平民の人』、護衛は任せました」

「いいだろう」

 

 直後、空間が二千四十八分割される。

 そしてその全てが直列に並べられ、さらに引き延ばされて重ね合わされ、圧縮。一枚の面が形成された。

 ……既存の次元空間(デルメルサリス)のどの魔法にも属していない。というよりコレ単体では魔法とは呼べない……ブースト装置のようなものか。

 始祖CCが頭を抱えるねェ、これは。

 

「準備は完了しました、一応」

「じゃ、巻き込まれないように私の後に下がってて」

「はい」

「己は?」

「アンタは大丈夫でしょ」

 

 とんだ信頼もあったものだ。

 

 ──エンジェの手元に集いしは白烙。煮えたぎる太陽の威光。

 

白烙直射(ソーラ・メイザー)

 

 それは普段通りの大魔法だ。

 単体であらゆるものを溶かし穿つ規模のそれは、始祖Aがやろうとしていた完全版よりかは些か劣るけれど、それでも聖護魔導学園を消し飛ばすに足る威力と範囲を有している。

 熱線が……放たれた。スヴェナの作り出した面へと向かって。その面へと触れた瞬間途切れる熱線。

 

「名付けるのなら、なにかな」

次元断層(デルメルクロス)、とかでいいのではないですか、一応」

「座標系立方体二千四十八個を直列に結び、それを拡大、圧縮。完璧に重なった空間はそこを通るものすべてをたったの一面へと凝縮し、起こるはずだった距離減衰や大気中魔力の摩擦のすべてを無視。それにより、この面を放射系の魔法が通り抜けた瞬間──」

 

 瞬間、消えたはずの白烙直射(ソーラ・メイザー)が再度現出する。

 面の向こう側から──途轍もない威力を以て。

 聖護魔導学園は疎か、適当な機構すら消し飛ばしてしまいかねないその魔法は、しかし。

 

 ……相殺された、ね。

 

「わかってたけど、結構クるわね、これ」

「ですね。現状考え得る限りの最高威力。私達の技量で行える最大火力。しかし、今内側から魔法を相殺したのは」

「陣地による魔力分解と、水・風属性の複合魔法だったねェ。敵方にも相当な使い手がいるということだ」

「……正直に言うけれど、私が今のを受ける立場にあったとして……相殺なんて無理よ。スヴェナの魔法で増幅した威力は、私の出せる瞬間火力をゆうに超えるもの」

「来る場所が予めわかっていれば、複数人の魔法使いで完全な同タイミングの魔法が、とも考えましたが……一応、()()()()で何とかなる威力ではないです。始祖や当主クラスの人間が相当人数いなければ……」

 

 始祖がこういうことに関わるとは思えない。彼女らはどちらかと言えば己寄り……魔法世界の行く末を見守っていく方針を取っているから。

 無論始祖Dが全ての根源にいるのは確かだろうけど、この学園乗っ取りは……彼女の好む手段ではない。

 となると、当主クラスが、という話になってくるか。

 

「エレメントリー分家の当主、その全員が敵方に寝返っていたとして、今の魔法を相殺することは可能だと思うかい?」

「それは……多分、できるわ。分家といっても本家と出力差があるわけじゃないから、エレメントリー分家の力を結集させたのなら可能かもしれない。ただその場合は……」

「エレメントリー分家、というもの全てを粛正する必要が出てきますね、一応」

 

 そうなったら血筋争いどころじゃないねェ。一体何人死ぬんだか。

 

「アンタはなんかできないワケ?」

「やろうと思えばできることはあるよ。ただ、それをする理由がないかな」

「なんでよ」

「つまりエンジェ、君はシャニア・デルメルサリスやケニス・デルメルクラン、アリス・フレイマグナらを殺したい、ということで、いいのかな」

 

 たとえば塵点収斂(フレッシュ)なんかで攻撃したのなら、魔法使いの使う魔法なんて関係ない……ナノマシンの一切合切を消し飛ばして聖護魔導学園を地図上から消し去ることもできるだろう。

 他にも色々と技はあるけれど、この結界を壊す威力となると中のものにまで影響を与える。恐らくこの結界を励起させた者は、それがわかっていたからこの強度にしたのだろう。

 己がやり過ぎれば壊れてしまう程度の耐久性能。

 

「……アンタって、いつも手加減してたんじゃないの? 今回も、っていうのはダメなワケ?」

「手加減と本気の塩梅の、丁度境界線上にある強度をしている……というのは、言い訳になるかな」

「言い訳に聞こえるけど、手加減の威力だと何かリスクがあるって理解でいい?」

「おや、珍しく察しが良いね」

 

 先程の小石は跳ね返っただけだったけど、先程存在抹消の里の者達へ忠告したように……肉体強化(フィジクマギア)のような「中途半端な」威力を持つ者がその肉体で攻撃を与えようとすれば、待つのは相殺による反動のみ。つまり、結界は健在なまま攻撃した側が損壊する。

 己にとっての肉体損壊などどうでもいいというのはその通りなのだけど、今はエンジェが見ているからね。

 

「一応今、思いつく限りの侵入方法を試みましたが……やはりダメですね。全て弾かれます」

「とはいえ、だ。堅固な結界だからと躍起になって攻撃しては、弾かれて当然。ならば」

 

 歩き出す。

 校門へと……その薄い青の結界へと。

 

「ちょっと、って……ああそういうこと?」

「……なんだったのですか、今までのは。……一応聞いておきます」

 

 そのままするりと結界を抜けた。

 

「強力な力を強力な力で相殺する結界だというのなら、こうして無害なままに入ってしまえばいい。無論陣地による支配を受けることになるから外から壊した方が良い、というのは変わらないよ。というわけで二人とも、遠洋課業で培った経験が生きるというものだね?」

「今から魔力隔液(コーティング)を作れって……はぁ、そうするしかないか」

「エンジェは風で材料の捜索を。私が調合します」

 

 しかし。

 ……エンジェを愛すると決めた以上、彼女を此処にいれるのは……やめたほうがいい、のかな?

 この。

 

 凄惨、としか言い様の無い学園内に。

 

 

 三人で歩く。

 

「……どこもかしこも血塗れ。けど、死体はない。……まさかまた『ジェヴォーダンの魔物』?」

「可能性はゼロではないけれど、些か面白味に欠けるね。あまり同じ手法は使って欲しくない」

「一応面白味などどうでもいいことですが、あの魔物がこの空間内で理性的に動けるとは思えません。加えてこの血液……人間の物ではないように思うのですが、『一応平民の人』、どうでしょうか」

「へえ? どうしてそう思うのかな」

「言葉を違えましたね。人間の物ではありません。血中魔力が欠片も感じられないことに加え、飛び散り方が……人間大のものが殺された時に出来る飛沫には見えません」

 

 陣地の中でも探知を使えるのか。それは想定外。

 

「まぁ、これも恐らく、になるね。『ジェヴォーダンの魔物』そのものではないにせよ、またぞろ魔法使いを魔物化するような薬品が使われていたのなら話は変わるし……。何より、魔物が暴れ、それを魔法使いらが討伐したにしては、今現在が静かすぎると思わないかい?」

「それは、そうね。風の感知が一切利かないから判断が難しいけど、こんなに静か、ってことは……戦闘の類は起きていないのかしら」

「あるいは既に終わっているか、だ。終わっているのに陣地が解除されていないのであれば、つまり敵の勝利で」

「敵の勝利で終わっていたとしても陣地は解除されているのでは? 制圧完了後も結界を励起させておくのは無駄な魔力でしょう」

「まだ何かやるべきことがあって、それが終わるまでは外部からの侵入を許したくない、と考えることもできる」

 

 全て憶測の域を出ないけれど。

 しかし本当に静かだ。生き物の気配もほとんどしない。

 

 二人を抱き寄せる。

 

「きゃ!?」

「わぷ」

 

 その、彼女らがいた場所を通り抜けるは……なんだろう、中世の遺跡(ダンジョン)に出てきそうな、こう、一本道を振り子運動している巨大なフック。

 ……どういう趣味かな。

 

「な、なに、いまの!」

「錬成……? ですか、一応」

「いや、聖護星見(クライムドール)の陣地だからね。意のままだよ、あらゆることが」

 

 ステッキを回して中空に現れたモーニングスターを弾き飛ばす。

 半歩移動してギロチンの刃を回避する。

 さらに一歩前に出て落とし穴とその下に敷かれた針の筵を飛び越える。

 

 ……えーと、何がしたいのだろう。

 

「おっと、今度は矢か」

「任せなさ──」

「ダメです、エンジェ」

 

 対応しようとしたエンジェをスヴェナが止める。

 うん、ありがとう。特に対応せずに回避させてもらおうね。

 

「なんで止めたワケ? 今のくらい、私にだって」

「射出されている間は単なる矢なのでしょうが、魔法で迎撃した瞬間に毒の煙などに変わるものかと。先程『一応平民の人』が棘付きの鉄球を弾いた直後、それは別のものへと変化しかけていました。一応、『一応平民の人』はそれを見越して迎撃の瞬間をズラしたものと思われます」

「……陣地って、なんでもアリなのね」

「だから聖護星見(クライムドール)は自らの陣地から出たがらないものなんだよ。自身の陣地内ならばこれほどまでになんでもできるのだからね」

 

 他の家と違ってアクティブなことができない分、閉じこもれば最強。それが聖護星見のコンセプトだから。

 

「けれど、わかったことは一つあるね」

「はい」

「陣地内は未来視が働いていない、ってことで……合ってる?」

「正解です。よくできました、エンジェ」

 

 結界に対してはあれほど正確に相殺を行ってきたのに、内部はこれほどまでに杜撰。

 となるとこの血はしっかり対処された証だろうね。生物の気配がしないのは、生徒や教師陣がしっかりと自分たちを守っているからかもしれない。

 

 ……ん。

 

「二人とも、己に強くしがみつくんだ」

「高速で行きますか?」

「いや」

 

 落ちるからね。

 

 

 落ちる。どこまでも、どこまでも。

 

「落とし穴というより、床という概念が消えた、と見るべきだね。落ちているというより"着地できない"という概念に囚われたか。直接的な干渉が意味のないものだと悟っての切り替えは流石だけど、芸というか華がないね」

「余裕にも程があるでしょ……」

「そういうエンジェも然程焦っていないのでは?」

「まぁ、コイツを信じてるし」

 

 おや。……信じている、か。

 愛すると決めた以上は、こういう信頼にも応えていくべき、かな?

 

 コツ、と。

 ステッキを()()

 

「へ?」

「……」

「概念には概念で対抗するのが正解なんだよ。相手が己に無理矢理"足が地につくことはない"という概念を付与してきたのなら、己は"己の足は地についている"という概念を上塗りすればいいだけだ。ま、それは込みなのかもしれないけれどね。こうすることで床関係のトラップが通ることになるから、こうして雷属性の魔法が飛んで来たり、棘が現れたりしたら対処せざるを得なくなる。けれどもっと根本的な話をするのならば」

 

 もう一度ステッキを突く。

 今度は、学園の廊下に。

 

「こうして"己の足は廊下についている"と概念を刷新するだけで全てを無に帰すことができる。……どうかな、これで君の信頼に応えられただろうか、エンジェ」

「何が起きてるのか全く分からなかったわ」

「頑張り甲斐の無いことを言うねェ」

 

 しかし、己に概念付与を行う、か。

 相当な魔力を消費するはずだけど……予知はしっかりその通りのルートを辿っているのかな?

 とっくに違う分岐になっている可能性もあるよ。

 

「概念の刷新。それは私達にもできますか、一応」

「陣地による万象改変はあくまで魔力にできることの範疇内にある。聖護星見の魔力に干渉する術を持っているのならば、可能だね」

「……少し試します。次元空間(デルメルサリス)の魔力と聖護星見(クライムドール)の魔力は似ていますから、できるかもしれません。その間──」

「私がスヴェナを離さないから、大丈夫。存分に考えて」

「ありがとうございます」

 

 そんなエンジェを己が離さない、と。

 エンジェの握力ってどの程度なのだろうね。ああいや、腕力か。抱きしめるようだから。

 

「けど、意外ね」

「何が、かな」

「もう少し直接的な攻撃をしてくるものだと思っていたから。こういう風に……何かをぶつけるとか、落下させるとか、間接的過ぎない?」

「己は別の理由だけど、君達は魔力隔液(コーティング)を纏っているからね。それが無ければ突然四肢が消し飛んだり首が千切れたりしていると思うよ」

「……もう衣服とかに織り込んだ方がいいんじゃないかしら、魔力隔液(コーティング)

「自身を移動させる魔法や味方からの支援を受けられなくなって良いのなら、それはアリだね」

 

 実際、昔は鎧にそういうことをする、という時代もあったねェ。

 結果はお察し……敵の攻撃はある程度打ち消せるけど、自身の使う魔法も減衰するから意味が無いと、速攻脱ぎ捨てられていたけれど。

 

 ちなみに前身文明の人間が今の二人を見たら卒倒することだろう。だってナノマシンを直接肌に塗り込んでいるのだから。汚染待ったなし。

 

 と、目的地へ辿り着く。食堂である。

 

「さて……生き物の気配があるところまでやってきたわけだけど、中に何がいると思う?」

「……食堂でしょ? ……食べられる魔物とか」

「わざわざ食堂にそんなものが配置されていたら、流石に術者のセンスを疑う……けれど、先程までの攻撃を考えるにありそうではあるね」

 

 扉を開ける。

 そこには。

 

「──シャニア!?」

「じゃないよ。認識錯誤だ」

 

 飛び出しそうになったエンジェを強く掴み直す。

 ……磔にされ、四肢に杭を打たれた少女C。血を垂らし、蒼白な顔で助けを求めるその姿は──……ううん。

 

「再現度、低くないかい?」

「そ……そう、ね。見た瞬間は驚いたけど……シャニアはこういう風に縋るような顔、しないだろうし」

「むしろ"助けなど要りません。そこで見ていてください"くらいは言いそうなものだよね」

「でも……生き物の気配はする、のよね? じゃあこれは、誰なワケ?」

 

 スヴェナがまだ思考の海から帰ってきていない……ので、仕方なく己が対処する。

 認識錯誤だって魔力の塊だ。だから杖で小突けば破壊できる。

 

 そのベールの下から出てきたのは。

 

「え……シェルミー先生?」

「の、ようだね」

 

 イレイアに粛清されたものだと思っていたけれど、なぜここにいるのだろう。

 しかも四肢が杭で打たれているのは認識錯誤じゃないのか。このままだと出血多量で死ぬけれど。

 

「見せしめ? それとも……罠? 餌かな彼は」

「いやぁ? ただの罰だよ罰。くだらないことで計画を露見させてこっちの行動を遅延させた罰」

「ん」

 

 厨房。……の中から出てきたのは、その手にこれでもかと言わんばかりの肉類を抱えた少年。

 死霊病毒(ネクロクラウン)か。……分家だろうけど、どれかはわからないな。とりあえず生徒ではない様子。

 

「で、オマエラはオマエラでなに? オレは小腹が空いたから食糧漁りに来ただけなんだけど」

「ここの生徒だよ。少しの間休暇申請を出しておいていて、今帰ってきたところでね。君が親切であることを願って聞くけれど、他の生徒や教師がどこへ行ったのか知らないかな」

「あー、そりゃタイミング悪かったな。教師はオレでも知らねー場所に閉じ込めてあるらしいよ。んで生徒は──」

 

 コレだ、と。

 そう言いながら、肉を噛み千切る少年。

 

「……」

「……」

「え、ノーリアクションかよキッツー……。ちょっとくらい動揺とかしねーの?」

「いやだってそれ、コカトリスの手羽先じゃない。人間じゃないし」

「よく見るんだエンジェ、あれは手羽元だよ」

「そのツッコミもどーかと思うけど。……生徒はまぁ生きてるよ。場所を教えてやる理由はねーなー」

 

 珍しい髪色をしている少年だ。浅葱色、というべきかな?

 普通の人間ではないだろうね。合成魔物(キメラ)に似た気配がある。部分合成だとして……肉食系の魔物を加えられているのかな。

 

「なら、力づくで聞き出すまでよ。アンタ、降ろして」

「別にこの食堂とて陣地内だからそれはダメだよ」

「じゃあこのまま撃つわ。白烙直射(ソーラ・メイザー)

 

 それすさまじい大魔法なんだけどね、なんて口を挟む間もなく放たれる光線。

 指先サイズの細さで放たれるソレは、少年へと直進し……雲散霧消する。

 

「え、こわ。今の食らってたらオレ死んでたけど」

「当たり前じゃない。殺す気で撃ったんだし」

「殺してしまっては聞き出せないだろう?」

「……そうね」

「え、こわ。エンジェ・エレメントリーって博愛主義とかいう誰でも大好きな女だって聞いてたのにそこまで簡単に人殺しするの? え、途端にヤになってきたんだけどオレここの配置」

 

 両者ともに口が軽いね。

 軽率というべきか。

 

 聞いていた、配置。つまり罠ではあったのだと。

 

「自己紹介くらいしてほしいかな、死霊病毒(ネクロクラウン)の分家の少年」

「それオマエが言う?」

「なんとでも呼びたまえ。そして己にそれを言うのなら、己も君をなんとでも呼ぶけれど、いいのかな」

「いいぜー、名前なんてなんでも」

「なら敵Dでどうだろう」

「流石にもっとあるだろ」

 

 なんでもいいんじゃなかったのかい。

 

 肩を竦めれば……少年は、はぁ、と溜息を吐いて、手に持っていた肉類を一気に食べ切った。骨ごと。

 顎の力が……人間ではないね。

 

「デイビッドだ。どの分家かは教えてやんねー」

「そうかい。じゃあ、デイビッド」

 

 その顔面を鷲掴みにして、床へと叩きつける。

 

「……!」

「己はこういう非日常を好まないからね。とっとと日常を返してくれると嬉しいかな」

 

 異能力バトルとか、本当にどうでもいいんだよ。

 己が見たいのは日常の中にある陰謀、骨肉相食む血筋争い。何度言ったらわかるのかな。

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