魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
さて。
どうしたものか、と……自身で作り上げた剥離空間で独り言ちるは少女、シャニア・デルメルサリス。
数刻前、聖護魔導学園は『
いつ入り込んだのか、どこまで手を回されていたのか──そういう詳細の一切が判らない程の手際で、一瞬にして。
ただしそれは、聖護魔導学園側も
放たれた魔物が何かをする前に教師陣が一切を殺し。
生徒の幾人かを攫わんとしていた魔法使いの一切を倒し。
──その、配置していた教師陣が突如現れたトラップのようなものに害され、倒された魔法使いが屑鉄へと変化し。
完全に同じ。そう、つまり……未来視の食い合い。
イレイア・クライムドールと敵方の
そして
「すまない、実力不足だ」
「こっちも無理カモ~。学園長の陣地もそうだけど、重なり合ってる敵の陣地の強度が高すぎて干渉できそうにないや」
「そうですか。ではエドニス先輩とユークリッドさんはこの空間から出ないように」
「……本当にすまないな」
この二つの魔法に対し、自身の陣地・予知を行使できないかと試みて、玉砕である。
仕方のないことだ。力量差の明らかな相手に対し、未来の見える
エドニス・グリーンフィールド。ユークリッド・アースフォーン。
シャニアから見て先輩と同級生に当たる
規律会に属する聖護星見の中でも予知と陣地に特化した二人をして無理と言わしめるのならば、これに干渉し得る聖護星見はいない。
そもそもこの空間とて、
無事であることを祈れど、その残虐性からどこか空恐ろしいことを考えている彼女もいる。
唯一希望があるとすれば、何らかの力によって、陣地の立ち上がる半刻前くらいにどこぞかへ連れ出されたスヴェナの存在だろう。
無論シャニアの目の前で……椅子に座って本を読んでいた彼女がその椅子と机ごと異空間へと引き摺り込まれた時は焦りもしたものだが、今となってはアレが救出だったのかもしれない、とさえ思うようにもなった。
それほどまでに学園を覆う結界は堅固であり、内外からの干渉を一切受け付けない仕組みになっているらしいから。
……なお、彼女の安全を考えて「解決するから帰ってくるな」とは言ってしまったけれど、
内側の陣地を立ち上げたイレイアに接触できたのなら話は変わってくるのだろうが、冒頭の通り「どうしたものか」となっている……つまりどうしようもないほど詰んでいるこの現状において、それは高望みというものだろう。
もし、一歩でも剥離空間から外に出れば。あるいはシャニアが気を抜けば。
まるでここが水底にでもなったかのように、外の陣地が
剥離空間に引き摺り込むことのできた生徒以外とも連絡が取れていない。ケニスやアリア、他同級生、教師陣共にだ。
つまり本当に「どうしたものか」なのである。
「!」
「っ!?」
ほぼ同時。
シャニア、エドニス、ユークリッド、そして外部の探知、感知を行っていた生徒たちが顔を上げる。
何かが侵入してきた。三人。そしてその内の二人の魔力波長には覚えがある。
「エレメントリーの御令嬢と、デルメルグロウの才姫。もう一つの魔力波長のない気配は『彼』かな」
「そうでしょうね。……まったく、こちらの忠告は無視ですか」
「けど助かるカモ? 正直これ、学園長がなんとかしてくれないとどうにもならない事態だったと思うから~……あの『英雄平民』ならなんとかしてくれそう!」
一気に活気を取り戻す生徒たち。
それほど『英雄平民』の名は大きいのだ。
ただ。
「大丈夫、でしょうか。正直言って
「折角広がった安心感を叩き折るな、シャニア」
「……申し訳ありません」
勿論シャニアとて『噂の平民さん』の実力は理解している。ただ、不安に思わざるを得ない。
だって敵が……学園長と同等の力を持つのだろう敵が、彼の帰還を考えていないはずがないのだから。
もし何か、特効薬とでもいうべき存在があったのなら、あるいは──。
ぐ、と顔を握り潰せば、スラッグのようなものとなって崩れ消える敵D。
……アッシュクラウンに似ているけれど、違うね。
「おー怖。それ、結構硬いんだけど。つか情報聞き出したいヤツの顔握り潰すんじゃねーよ」
「口が利けなくなったとしても情報を取る術などいくらでもあるからね」
しかし……今のは予知や変り身の類で避けられた、という感じではなかったね。
叩きつけた瞬間までは本物だった。正確には地面にその後頭部がぶつかる瞬間までは。それがそうでなくなったということは、この陣地は人体の全構造を直接組み替えることが可能、ということになる。となると……敵の技量はイレイアを越えていると言わざるを得ない。未来視と陣地のどちらもがここまで高等となると、始祖E、もしくは前代当主とかになるのかな。あるいは二人いるとも考えられるけれど……。
遊んでいるとエンジェやスヴェナのコーティングを抜けてくる可能性もある、かな?
うーん……難しいな、塩梅が。
どこまで本気になっていいものなのだろう。愛情を覚えたあと……あの虫は、全力であの少女を守る方向へシフトしたのだろうか。それとも見守るだけに留めた?
近くで見ていたわけではないから、その辺りなんとも……。
「アンタ、デイビッドとか言ったっけ?」
「ん、ああそうだよ。なんだよ、エンジェ・エレメントリー」
「アンタも『
「……まぁメンバーにも組織名を馬鹿にする奴いるからなんとも言えねーけどさ、ま、そうだよ。オレは『
「それって何が目的の組織なのよ。聖護魔導学園を襲うための組織?」
「なんだよその限定的な組織。そんなの誰も入りたがらねーよ」
愛情というものは……どこまでやればいいんだろう。それを学ぶための時間であるとはいえ、あの『天使』クンのように必死になるまでとなると……こんな陣地、今すぐにでも全解除して終わらせるのが適当になるのだけど。
わからないねェ。まぁ。
「デイビッド・フェイククラウン」
「ん。……は? 姓教えてねーだろ。今の変り身も
「ま、先細りした血筋の詳細名なんか知らないけれどね。己が君の顔面を掴んだ時点で君にどんな血が流れているのかは把握できた。その魔法がどういうものであるのかも」
「……うわ本気でヤになってきた。配置変えてくれねーかな。これ殺されんじゃね、オレ」
「迷っているんだ、実際。君を殺すことは可能だよ。今すぐにでも。けれどそれでは情報を聞き出すことができない。勿論君に聞き出すことなく己の足で、というのもアリだけど、それでは万が一、というものが生まれてしまいかねない」
じゃあ、どうするか。
答えは──。
「掴み、ました。一応」
──赤雷が生まれる。
敵Dも驚いているけれど、己だって驚いている。
君達……姉妹双方、段階を飛ばすの好きすぎじゃないかな。アレでさえ青が限界だったのに。
「空間座標……一律固定。魔力最小単位計測開始……牽引魔力解放。魔力同調、魔力調律共に励起……完了。
「全体飽和型はやめておくといい。切り崩す感覚でやるんだ、スヴェナ。全体からアプローチすると君の許容量を超過するよ」
「忠告ありがとうございます、一応」
さらさらと、まるで、削り落とされていくように……食堂の空間が端の方から元の形を取り戻し始める。
薄い青の結界が切り崩されていく。
「は……!? ちょ、緊急事態緊急事態! 初学生にできていい所業じゃねーだろ! オレを逃がせ、この場にいると──」
「状況把握は正直できてないけど、コイツを固めておけばいい、ってのだけはわかったわ」
槍か針のように……エンジェから一筋の氷が伸びる。それは敵Dが避ける間もなく彼の足元へ辿り着き、そのまま彼の身体を凍り付かせていく。
現出を始めるは煌々と輝く半固体。……溶岩? それはまた、敵Dも巻き込まれるだろうに。
「エンジェ」
「これくらいどーってことないわ。それよりアンタはスヴェナを見守ってて。無理しそうになったら、さっきみたいに助言してあげて」
「……じゃあ、任せるよ」
氷がさらに広がる。
溶岩へと辿り着いたそれは、本来の法則のあらゆる部分を無視して煌々を青々と染め上げる。
愛情。……虫が、過去。どうやってそれを熾したのかは知らない。
けれど、彼もまた守る必要のない存在を愛したのかな。だとしたら。
「っ、盟主! オレは自分でなんとかするから、食堂全部爆薬に作り変えろ! 今すぐにだ!」
「
強く踏み込んで、虚空を突く。
それにより……食堂が消し飛んだ。
「は──」
「己が壊したのではなく、君達が爆薬に変えた食堂を吹き飛ばしただけ、だからね。文句なら敵に言うといいよ、イレイア・クライムドール」
きれいさっぱり消えてなくなった食堂。それでも陣地はまだ残っているけれど、それもスヴェナが解除していく。
頭上の溶岩は全て凍り付き。
敵Dもまたその下半身を氷像へと変え──ごりゅ、なんて音と共に、自らの半身を引き千切った。
「っ、うそ!?」
「ヤバすぎだろアンタら! まぁどの道ここは捨てだ、オレは先に──」
「ナァイス、スヴェナクン。内申点を加点しておこうねぇ~」
切り崩された陣地。
その裏側から出てきた煤によって、敵Dの逃亡が阻止される。
氷よりも確実にその身を埋め尽くす煤は、敵Dの口の中にまで入って……その姿を彫像へと変えた。
「いやぁ~、助かったよぉ~。シェルミー先生の監視をしていたら、いきなり空間の裏地、なんて場所に閉じ込められてねぇ~」
「ドクラバ先生、無事だったんですね。良かった」
「うんうん、驚きとか現状の説明とか、そういうものよりもまず真っ先に相手の安否を気にする。流石だねぇ~エンジェクン」
教師D'。
外傷は無い様子。魔力が多少減っているけれど、問題はない、……かな?
教師Cの真隣から出てきたあたり、異次相のどこかにいたのだろう。空間の裏地という言葉から察するに「折り畳まれていた」可能性もあるけど、それで即座に行動できるのは流石だね。まず自分の身体が動くことを確認してから、でないと普通の人間は動けないはずだし。
そして食堂……元食堂の陣地解除も終了する。
新たな空間と元からあった空間がこすれ合って起きていた赤雷も落ち着きを取り戻し、そうして己の片腕の中で……スヴェナはがくん、と頭を垂れた。
「スヴェナ!?」
「脳の処理限界のギリギリまでを使ったから、休んでいるだけだよ。数分もすれば恢復するだろう」
「うんうん、うんうん。学園長と敵の二重陣地の全てを解除しきるとか、普通に本家当主クラスだねぇ~。特進クラスと言わずに最上級生へと飛び級させてあげたいくらいだよぉ~」
まぁ、元が元だし。
それにしたってすごいけれどね。
「さて。それじゃあ教師ドクラバ・アッシュクラウン。そこな少年に情報を聞き出すより君に話を聞いた方が早いと思うのだけど、どうかな」
「僕の持っている情報は完全とは言えないから、確実な情報を取り出すなら、ドリューズ先生が欲しいねぇ~」
「ネクロレアニーか。確かに」
「ただ、スヴェナクンに無理をさせ続けるわけにもいかないからねぇ~、
……それほどか。
いや、確かにそれほどではあるんだけど。
それはそれで教師の質が低いというか。
「コイツはどうするワケ?」
「ドリューズ先生が見つかるまでは、このまま持ち運ぶよぉ~。ああ、安心して安心してねぇ~、フェイククラウンの魔法使いは、世界を騙すのが上手だから、これくらいじゃ死なないよぉ~」
「世界を騙すのが上手?」
「使い手……というか血筋自体がかなり薄いんだけどねぇ~、今彼は、世界に対してフェイクを行っているのさぁ~。つまり、自分の半身は千切れていないし、呼吸もできている、ってねぇ~。どこまで世界を騙し通せるかは術者の力量次第だけど、彼は相当な使い手みたいだから、安全な場所で落ち着いた空間さえあれば"こちらの自分が本物で、怪我などしていない"ってことにしてしまえるんじゃないかなぁ~」
「……
「
ま、そういうデザインだからね。
それを言うなら本家筋……つまり始祖Dの「なんでもありさ加減」を見たら卒倒しそうなものだけど。
「さて、雑談もそれくらいにしてくれるかな。教師ドクラバ・アッシュクラウン。教えてほしい、『
「要求……そっか、何かが欲しくないと、占拠なんてしないか」
「とんでもないものだよぉ~、彼等が要求してきたのは。なんせ、全本家、分家の当主、次期当主全員の身柄、だからねぇ~」
「……。馬鹿なのかしら、その組織」
「僕もつい笑っちゃってさぁ~、それで目を付けられた感はあるよねぇ~」
……。
何を言っているのやら。
そんなことをされて……もし成功でもしてしまったら。
そして、一部でも成功してしまったら。
己の見たいものが見られなくなるじゃないか。
外で勝手にやる分にはどうぞやってくれ、だけど……聖護魔導学園へ干渉して来るのなら、話は別になってしまうよ。
「エンジェ、教師ドクラバ。自分の身は自分で守れるかい? あとスヴェナも」
「無理だねぇ~。このまま学園の外へ、というのなら可能だけど、また陣地の中へ入る必要があるのなら、スヴェナクンの恢復が最優先事項になるしぃ~、そもそも何もできなかったから空間の裏地なんて場所に入れられていたのだからねぇ~」
「私も、今回は自信がない、って言っておく。空間関係のスペシャリストのシャニアが出てきてないってことは、そういうことだと思うし」
……そうか。
単独行動をして即座に破壊、という手段は取れないか。
「とりあえず、シェルミー先生の手当てをしてもいいかなぁ~。彼には裁きを受けてもらわないといけないのに、このままだと失血死しちゃうからねぇ~」
「ああ、忘れていたね。構わないよ」
「じゃあ私、追加分の
「くれぐれも陣地内には入らないようにね」
とあらば己は……ん。
いつの間にか起きていたらしいスヴェナに肩を引っ張られて、二人から──正確には三人、あるいは四人──距離を取ったところへ行く。
「どうかしたのかな、スヴェナ」
「あなたにはこの事態を一気に好転させる……いえ、解決する手段がありますね、一応」
「まぁね」
「それをしないのは、エンジェから目を離すことができないから、と見ました。違いますか?」
「いいや、合っているよ」
「であれば、私とドクラバ先生、そして存在抹消の里の方々の力を借りて、エンジェを全力で守ります。その間に聖護魔導学園をお救いください」
……ふむ。
「君、そういうこと言うタイプだったかな」
「一応、これが最高効率と見ました。……言葉を正確に直します。このままだと、当主候補にない生徒、教師の命が脅かされかねません。先程魔力同調をしたところ……少なくない血の気配がありました、一応」
「君達程度でエンジェを守り切れると、そう言えるのかい?」
「あなたこそ、そこまでエンジェに固執していましたか? 愛情はないのでは?」
「持つ理由が出てきたからねェ、せめて形だけでも合わせておかないと」
そうでもしなければ、結局己はエンジェを血としてしか見られなくなる。
愛する必要が出てきたからといって、すぐさま愛情を持てるほど器用ではないからね。こうして毎回毎回愛情愛情と心の中で唱えなければ、己の感情は冷え切ってしまうだろうし。
「そういうものは愛とは呼びませんよ、一応」
「君が愛を語るのかい?」
「少なくともあなたよりは知っているつもりです」
……まぁ、そうかもしれない。
こと愛情については素人も良い所だ。
「こんなどうでもいい危機より、もっとちゃんとしたデートプランを用意してあります。シャニアさん、アリスと共に考えたデートプランが。遺憾ながら、エンジェがあなたを愛するというのであれば、私がそれを否定することはありません。よって私はあなたの背も押します、一応」
「デートプラン……とはまた、俗な言葉だけれど」
「必要なことです」
そう、なのかな。
エンジェは無理矢理にでも振り向かせてくれるらしいから、外野がどうのこうの言うとややこしくなりそうなものだけれど。
けれど……この事態を早く終わらせられるというのなら、こちらとしても願ったり叶ったり、か。
「わかった。君達を信用する。ただし、全力で守ってくれたまえ。彼女に君と同じ
「はい」
では──さっさと解決してしまおうか、学園のテロリスト占拠事件、なんてものはさ。