魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Step8-4.「魔導学園の危機」

 デート。

 青春を謳歌する一学生であれば、学園をテロリスト集団が占拠したことや大量の魔物に襲われたことなどよりよっぽどの大事件だろう。

 

 さて、珍しく学生服でも白コートでも黒スーツでもない己は、一応の繁華街──他の街は街と呼べるか怪しい規模のため──にて、彼女を待っていた。

 正直な話、というか普通に考えて次期当主たるエンジェには処理すべき案件が山ほどあるはずなのだけど、周囲が強く推したことでこのデートは相成っている。なんというか、無駄な場所に力を注ぎ過ぎだよね、君達。

 

 と。

 

「ごめんなさい、少し遅れたわ」

「構わないよ。どうせ休校だからね、今日回り切れなかった場所は明日でも明後日でも回れば問題ないだろう」

 

 エンジェの私服。まぁ、この時代に即したもので、少女らしいそれだ。些か露出が多いようにも思うけれど、これは己の価値観が古いが故かな。

 では、と……余計な手出しが面倒なので、認識錯誤をかける。尾行していた少女'sはこれで己達を見失ったはずだ。

 なにやら「二人の仲が進展するためのアクシデント」なるものを用意していたようだったからね。そういうのは野暮だよ。

 

「……なんか、アンタ……学生服じゃないと大人っぽく見えるわね」

「そうかい? それは誉め言葉なのかな」

「どうだろ……。少し遠く感じたっていうか……。……アンタからは、私になんかないワケ?」

「年相応というには少し大人ぶりたかったのかな、と見えるよ。どことなくスヴェナのセンスも感じられる」

「う……。……正解。この服はスヴェナの私物だから」

 

 つまり、少女A''だった頃の、ということか。

 確かに少女A''が着ていたのならしっくりくる。黒を基調としたドレス風の装いは、ただ学生デートには向かないと思うよ。

 

「それで、どこへ行くかとか決まってるの?」

「三通りあるよ。適当にぶらつくでもいいし、君の想像している通りの三人が用意したデートプランを遂行するもよし。最後はまあ……己の好きな場所へ行く、というのもアリだ」

「ふぅん。……じゃ、最後ので」

「いいのかい? 君の想像しているような場所とは違うと思うけれど」

「いいのよ。私、アンタが何を好いているのかとか、アンタの価値観における綺麗なものとか、何にもわからないし。初デートなんだから、そういう歩み寄りは大切でしょ?」

 

 相互理解が基本、か。

 それは、その通りだね。

 

「わかった。じゃあ、お姫様。己の手を取ってくれるかな」

「ええ、勿論」

 

 しなやかな手が己の手に重なる。

 ──直後、景色が変わった。

 

「っ……え」

「衝撃をかけることなく速く動いただけだよ。そこまで驚くことでもない」

 

 そのまま彼女を抱き留める。落ちると危ないからね。

 景色。青々とした緑。そして少し広めの湖。九割が海の惑星で、その光景は最早あり得ないものに等しいけれど……唯一残った場所とも言える。

 

「ここ……どこ?」

「"一時代の墓標"。空を見上げてみるといい」

「……うそ、海?」

 

 そう、海だ。

 ここなるは海中。海中に存在する森と湖。速く動いただけ、なんてとんでもない。ちゃんと転移している。

 

 背後に聳え立つは真白の巨艦。もはや舩としての形は失われているけれど、今なおその身を崩すことなく突き刺さる姿には敬意を表しよう。

 

「綺麗……」

「ここは魔力濃度が低いからね、魔物も寄ってはこないし、寄ってきたとしても撃墜される。……水はこの星を覆い尽くしてしまったけれど、かつてを思わせる場所は所々に残っているんだ。ここほど生存に適した場所は早々無いけれどね」

 

 人工の陽光であると知りながらも、海面より差し込む光芒はまるでオーロラのように揺れ、その美しさを際立たせる。

 波紋は地面へと転写され、不可思議な模様を作りながら、絶えず形を変え続ける。

 ここはあの"一時代"が最後の最後まで守り通された場所。「お気に入り」として樹殻の外へと二人が連れ去られるまで守られ続け、前身文明のどのような力を以てしても破壊できず、且つ前身文明のナノマシン技術への理解を深める一途となった場所。

 

「"純白を着飾る者"。後ろの尖塔はかつてそう呼ばれていてね。当時は皮肉だったのだけど、今となっては……何か、運命的なものを感じざるを得ない名前になったと言えるだろう」

「……少し、意外ね」

「何がかな」

「思ったより普通の感性だったことよ。私が綺麗と感じるものを、アンタも同じくらい……ううん、もっと強く綺麗だと……感じられるんだな、って」

「浮世離れしている、という自覚はあるけれど、己の感性はそこまで他の人間と変わらないよ」

 

 命に対しての価値観が少し違うくらいか。

 己はあの虫と違って、完全なる蘇生さえ可能だからね。

 

「ね……色んな所を回るより、少し……話がしたいんだけど、いい?」

「どうぞ好きなように」

「アンタはさ、……その、実はすごいやつで、実は学生じゃなくて、実は魔法使いで……実は、人間じゃない、のよね?」

「──……幾つかは推論で辿り着ける領域だけど、最後のに関しては、どうしてそう思ったのかな」

「わかんない。ただそう思うだけ」

 

 また直観か。

 マグヌノプスが宿っているわけでもないというのに、本当に……。

 

「ま、そうだね。己は人間ではないよ。……嫌いになるかい?」

「そんなことで嫌うワケないでしょ。……ただ、気になることがあって」

「なんだろう」

「アンタってさ、なんていうのかな……同種族? 仲間? みたいなのは、いるの? それともひとりぼっちなの?」

 

 ……。それは。

 

「かつてはいた、が正しい。偶然に期待してこれから増やしていくこともできるだろうけれど、現状は……独りだね。少なくともこの星に、己と同じである者は存在しない」

「寂しくはないの?」

「寂しい……という感情は、無いかな。ただ……対等に語り合える存在がいないということに、虚脱感に似たものを覚えることはあるよ」

「そ……っか」

 

 虫がいなくなって清清したし、アレの繋がりのある者が消えたことでやりやすくなった部分は大きい。

 ブルーメタリックに封印された彼も感覚素子の消えてしまったこの世界では「語り合える相手」ではないし、世にいる強大な存在と呼ばれるような者達も己と同じとはいえない。

 

「だからこそ己は学園に入ったのかもしれないね。少なくとも学友との会話は楽しいよ」

「嘘吐き」

「嘘じゃないさ。本心がほとんど入っていないだけ」

 

 沢山の人間と接し過ぎたからね。どんな人間が現れたとて、過去にも似た人間がいたな、という感想しか生まれない。

 エンジェだってその特異性を除けば、こういう少女はいた。博愛主義なんてとんでもない性格をしている子は少なかったけれど、それでもいたにはいたんだ。

 

 だから、なのだろう。

 あの虫や「成長コンテンツ」ほど一歩引いているわけではないけれど、どうしても彼女らを観察対象に見てしまう。

 だというのにあの二つは愛情を覚えた。いや、あの虫に連なるほとんどが愛情を覚えたんだ。長らく接していなかったはずのメイドモドキまで。

 

 素直に羨ましいと思ったものだよ。アレは、アレらは、己よりもよっぽど情感豊かで……やはり根本からの別存在なのだと感じさせる光景だった。

 

「嫉妬と羨望……あとは、悔悟?」

「ん。そんな目をしていたかい?」

「ええ。遠くを見ていたわ」

 

 彼女が言うのなら、そうなのだろう。 

 おかしな話だ。己はあの虫よりも先に自我を確立させたというのに、一足で追い抜かされてしまった。

 

 何が違ったのか。何が足りなかったのか。それを考えない日はなかった。

 

 ──巨大な魚影が己らの頭上を通る。

 

「なんだか、似た者同士だったのかもね、私達」

「……君と己が?」

「ふふ、ちゃんと隠し通せていたみたいで嬉しい。……私もね、生まれた時から、家族や友人と違ったのよ。目に見えるもの全てが好き。目に見えるもの全てを愛していて、どれを取り零すことも嫌。……それを普通だと思った日は一度もなかった。自惚れでなければ、私の観察眼は優れていたから……姉さまやシャニア達を見ている内に、自分が他人とは違うんだって気付けた」

 

 自覚が……あったのか。

 その博愛主義に。

 

「一途な感情、っていうのかしら。誰か、特定個人、たった一つに向ける強い感情。大切なもの。そういう……堅固な感情、というものが、私の半生に無縁だったの。万遍なく愛することはできても、一つだけは選べない。家族が好き、っていうのは、結局そう言い聞かせているだけなのよ。本当は全員好きなの。でも……それがどうにも嫌だったのよね、私」

「……」

「全部が好きってことは、全部が無価値と同義だって思ってる。私の世界には色がない。全部が色彩豊かなせいで、色の濃淡を感じられない。……だからアンタは、凄く鮮明に映ったわ。だってアンタには、色らしい色がなかったから」

「それも誉め言葉かい?」

「わかんない。……わかんないのに、というか、わかんないから……アンタだけは特別なのかもしれない。だって他のことはわかるもの」

 

 ふむ。……エンジェの博愛主義は、人間だけに向くものなのかもしれないな。

 魔物は普通に殺せているわけだし。……そう考えると、それは博愛主義というより、何かしらの症状である可能性が出てきた。人類だけを愛する呪いのような、そんな。

 

「アンタのこと、人間じゃない、って思ったのも……それが理由なのかも。……本当にね、アンタのことを考えようとすると、いつもはスラスラ出てくる答えが全部ぐちゃぐちゃになるのよ。それが不思議で、新鮮で……色々、アンタを好きになった理由について言い訳をしたけれど、本当の所はこれが理由なのかもしれない。全てが好きな私の世界に現れた、唯一好きかどうかわかんないヤツ。それがアンタ」

「褒められている気はしないけれど、特別であるという感情は己も君に抱いているからね。相思相愛なのかもしれない」

「……家に連れ帰った時からよね、それ。突然振り向いてくれるようになったというか……無理矢理愛そうとしてきてる、というか。なんか理由があるワケ?」

 

 おや、バレて……って流石にバレるか。

 露骨すぎることは自覚しているからね。

 

 ──己が無価値と判断した相手。

 関わる理由を見出せない相手に、袖を引かれて引き留められて、それを排除しない心。

 そういうものが愛だったのだと聞かされて……己も愛を覚えてみたくなった。種族として特異な彼女を連れていかなければならない、という使命感は勿論あるけれど、己個人として確かめたくなったんだ。

 もしかしたら、何かがあったら……己は彼女を愛し得るかもしれない、と。

 

「成程、確かに似た者同士だ。互いに歩み寄っているのに、それが愛かどうかを理解していないなんて」

「でしょ?」

「そう……そうか。なら……」

 

 開示をしようとした。

 エンジェ。エンジェ・エレメントリー。彼女は既に条件を満たしている。

 肉体の檻にありながら、魂の言語を扱い得る特異性。種族としての使命に異はなく、あとは気持ちの問題。

 互いが互いにわからないというのなら、時をかけるだけでいい。血筋争いなんて趣味の部分は他の惑星でやればいい話だ。そこでなら、エンジェの博愛主義も向かない可能性があるから。

 

 ……ああ、けれど。

 人間以外の星系に行ってしまったら、彼女は己から興味を失くすのだろうか。

 

「ね、『ルリアン(LULLIAN)』」

「いきなりそっちで呼ぶのはやめてほしいけれど、どうしたのかな『エンジェ(ANGEL)』」

「う……これ慣れないわね。……で。えーと。……そう、あのね」

 

 慣れないのはこっちも同じなのだけどねェ。

 

「お願いがあるの」

「……己に?」

「そう。あ、愛して、とかじゃないわよ」

「それでもよかったけれど、なにかな」

 

 エンジェからのお願い。……なんだろう。

 

「姉さまのこと、襲撃事件、遠征課業に遠洋課業、占拠事件。……今話した通り、私はみんなが好き。自分で変えられないくらい、止められないくらい好きなの」

「ん」

「アンタなら、この世界から……悲劇を失くすこと、って……できる?」

「壮大な話だね。悲劇を失くし、喜劇だけにする、ということかい?」

「今、現時点で、私はそうしたいと思ってる。学園を卒業したら……エレメントリーの当主としての仕事は勿論するけれど、世界中を回って、あらゆる争いを止めて、あらゆる悪意を摘んで、もしそれが……双方に義のある戦いなら、どっちにも降伏を促して。……だから、その……恥ずかしいとは思うんだけど、私には小さなころからの夢があってね」

 

 その言葉の続きは、容易に想像できた。

 だって聞いていた話だったから。

 

「世界征服をしたいのよ。私がこの世の王様になって、争いを失くすの」

「己にはその手伝いを、かい?」

「手伝いというか、だから……は、伴侶として、一緒にいてほしい、っていうか……」

 

 やっぱりエンジェが魔王だったか。

 そして……それならば、テリア・トーインタイムのことも理解できる。つまり「過去の悲劇」を引き摺る者のために時間へのアプローチができるようになったと、そういうことなのだろう。

 

 同じ道を辿るか。

 それとも、知っているが故に止めることを選ぶか。

 

 ……決まっている。

 

「いいよ。その道に付き合おう」

「ありがと。……で、その……だからね?」

「まだあるのかい?」

「世界の王様……女王になったら、もうエレメントリーとか関係ないと思うのよ。血を残すとか、繋ぐとか、そういう話も潰してしまいたいから」

「ふむ」

「だ……だから、その……。……だから、まだお互いに愛情を覚えているかどうかも怪しい状態で言うのもおかしな話なんだけど……その」

「結婚してほしい、と。そう言いたいのかな、エンジェ」

 

 頬を紅潮させるエンジェ。そういうところは年相応なんだねェ。

 

「……だめ?」

「断る理由は無いよ。ただ……先も言った通り、己は人間ではない。実は君の想像し得ない年数を生き続けている怪物だ。だから、君と共に老いることはできないし、君と共に死ぬこともできない。それは理解しているのかな、と思って」

「……また、根拠のない直観を言ってもいいかしら」

「どうぞ」

「『ルリアン(LULLIAN)』。アンタは、そうでなくさせる方法を思いついてる。もっと言うと……私を私のままに、どこかへ連れ去ろうとしている。そう感じるの」

「連れ去ろうとしていた、が正しいかな」

「え、今は違うの?」

 

 うん。

 これも愛情の一環だと思うから、言葉にしよう。

 

「君から己へ向けられる特別性を失いたくない。己が君を連れ去ろうとしていた場所にいる存在。そして……気の早い話に聞こえるかもしれないけれど、君と己が生み出す可能性のある存在は、己の特徴を色濃く受け継ぐ可能性がある。それらを見たが最後、君は己から興味を失くしてしまうのではないか、と思うんだ。それらも人間ではなく、色彩の無いものに映りかねないから」

「……否定できないのが、悔しいし、心苦しいわ」

「だから連れ去るのは止めた。少なくともこの星にいる間は、己は己一人だけ。連れ去りさえしなければ、己と君の間に何かが生まれることはない。……だから……看取ることにはなると思うけれど、己は君の最期を見届けるまで、ずっと一緒にいようと思う」

「そこから成長もできないワケ、アンタ」

「大人にならなれるよ。ただ老人にはなれない。そういう種族でね」

「……そっか。なら、私だけがお婆ちゃんになって……アンタに介護される日が来るのかしら」

「かもしれないし、その頃には老化に対する画期的なアプローチができるようになっているかもしれない」

 

 実際、前身文明に「容姿が老人である存在」はいなかった。高度な──彼らにとっては──老化停滞技術により、寿命こそ取り払えないものの、皆が若々しいまま死んでいく世界になっていた。己はその辺手を貸すつもりは無いけれど、この魔法世界においてもそれを行い得る可能性はゼロじゃあない。

 現実的な話をするのなら、『残照回廊(リメノンス)』の敵Cやイレイアなんかは最たる例だろう。敵Cの方も相当歳を食っているし、イレイアも齢三百だ。吸血鬼(ダンピール)吸血令嬢(ジュノ・ダンピール)になる必要があるのは現時点の話だけで、それを人類に適用させる、ということはできない話じゃない。

 

「結婚しよう、エンジェ。そして、愛や恋を互いが互いに覚えるまで、色々頑張ってみるとしよう」

「うん。……私も、色々頑張ってみる」

「差し当って考えるべきは"どのようにして世界征服を成すか"だね。成すか、為すか、も重要だけど、現状……分家と本家の確執や『残照回廊(リメノンス)』をどうしていくか」

「そうね。でも、私から言っておいてなんだけど……一度忘れてほしいの」

「忘れる?」

 

 だって、と。

 エンジェはここから見える景色の全てを指す。

 

「今はデート中、でしょ? ……スヴェナたちが色々用意してくれてたみたいだけど……私はこの光景、もうちょっと楽しみたいから」

「そうかい。……今回はここだったけど、この世界の海中にはまだまだ見せたい場所がある。もし次、デートする機会があったら、そこへ行こう」

「次は私の好きな所に行きたい。これを綺麗だって言うのなら、私が見せる場所だって綺麗に思ってくれるはずだから」

「了解だよ、お姫様」

 

 素直に楽しみだと思おう。

 これに匹敵する綺麗な場所。陸上なんてもう見られる場所はほとんど残っていないと思うけれど、それで己は全知全能ではないから……ここ数十年の間に新しくできた場所、とかならわからない。

 

 ……いつか天上の地にも案内しよう。

 前身文明とて、己の情ある「景色」の一つだからね。

 

 どうしても己が紹介する場所は墓標ばかりになることだけは、多少、心苦しいけれど。

 彼女が最新を、己が最古を担えば、まぁ、完璧だろうさ。

 現在に関しては、これから二人で見つけていけばいい話だしね。




また毎日更新ができなくなります
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