魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Step9-2.「狂い咲きの大華」

 風の凪いだ海を帆船が進んでいく。

 その航行速度は周囲の魔物が追い縋れない程であり、それでいながら大きく揺れることも方向を見失うこともない。

 

「普通のフィジクマギアでもこうはいかないでしょうから、凄まじいですね……」

「一応、平民に労働をさせて貴族は悠々と、という最悪の構図ではあります。一応」

「アイツがやるって言い出したんだし、良いでしょ。この程度のことで疲れるとも思えないし」

 

 帆は畳まれている。

 この帆船の動力源は他ならぬ『彼』であり、波による揺れを抑えているのも彼の腕力によるものだ。

 あり得ないと──そう断ずるには、事実が揃い過ぎている。

 

「まぁ、完全に暇というわけでもないけどねぇ~。ほらエンジェクン、アリスクン。二時の方向から魔物が来るよぉ~」

「うぅ……海上で、この速度だと風の感知が難しいです……」

「ドクラバ先生もシャニアもいるんだから、風のタスクを切って火力に集中なさい、アリス。私達に今求められているのはそれなんだから」

「わかりました……」

 

 煤をばら撒いての探知。空間を把握しての探知。それぞれをドクラバ・アッシュクラウンとシャニア・デルメルサリスが行い、迎撃はエンジェ・エレメントリーとアリス・フレイマグナが行う。ではドリューズ・ネクロレアニーとスヴェナ・デルメルグロウが何をしているのかと問われれば──。

 

「つまり……境界門(ワープゲート)には"設置できない位置"がある、と。そういう理解で構いませんか、一応」

「え、ええ。そそ、そうよ。第三次魔法大戦にお、おいて、多くの境界門(ワープゲート)が、がが、せ、設置されたけど……その内で、時折自壊する、するものが、あったの、の。それは」

「他の設置型の魔法の上塗りができない……とすると、陣地は設置型の魔法ではない、ということなのでしょうか」

「じ、陣地は大雑把にい、言うと、自身を中心的とした自在空間の放出……そう、つまり、常にじ、自分から水を地面に流して、跳水をお、起こしているようなもの、なの、なのよ」

「……良い知見です。それは考えたこともありませんでした。……だから始祖イーリシャ・クライムドールは陣地を纏って移動できるのですね、一応」

「そう……そう、ね。普通はできない、らしいけれど。い、イレイア学園長に聞いたか、限りでは、陣地の維持に、維持に、移動をし続けることは、あまりにも向いて、向いてない、とか」

 

 座学だった。

 ドリューズ・ネクロレアニー。初学生の最下級のクラスを受け持つ教師でありながら、聖護魔導学園学園長の懐刀であり、何よりその魔法であまりにも多くの魔法を見てきた実績がある。また、彼女の夢幻の中で使われた魔法はその全てが彼女に解析されるため、一度でも彼女の授業に出ている者であれば、その後成長をする、などをしていない限りは完封されかねない。

 彼女が最下級クラスを受け持っているのもそれが理由だ。表向きには上級クラスの魔法を盗み見ないため。そして真実は、最下級生徒を装って良からぬことを企んでいる者を把握するため。

 過去にあったのである。最下級クラスであれば監視の目も薄いだろうと……生徒に成り済まして良からぬモノが侵入してきたことが。

 

「あ、あと、当然だけど、人体のある位置にはせ、設置できないわ」

「それは把握しています。ただ……成程。仮に連れ去られた生徒たちの誰かが、自衛目的で設置型の魔法を使っていた場合、境界門(ワープゲート)の作成を阻害されかねない、と」

「そうね……先述のと、通り、聖護星見(クライムドール)と、あと、肉体強化(フィジクマギア)以外は、設置型の魔法を使えると、そそ、そう思った方がいいから、その辺り、き、気を付けなければならない、わ」

 

 海底にあるとされる『残照回廊(リメノンス)』の基地。

 その内情を予め知っておく、ということができない以上、準備をしておくに越したことはない。また、失敗すればするほど敵に感知されやすくなるのだ。できることなら一度目で成功させたいところ。

 

「その点で言うならぁ~、聖護星見(クライムドール)肉体強化(フィジクマギア)の生徒の近くにぃ、設置すればいいんだよねぇ~?」

「で、できるのなら、でしょう、ドクラバ先生」

「僕の煤はちゃあんと識別をしてあるからねぇ~。どの生徒がどこにいるかくらいはわかるよぉ~……っと、エンジェクン、アリスクン、九時と八時の方向から急速接近してる個体がいるよぉ~!」

 

 帆船の周囲で大規模な爆発が起こる。それはアリスの魔法。彼女にはそれしかできないものの、その火力は一級品だ。

 そしてそれを絡め取り、増幅させ、他の魔物への迎撃に利用するのがエンジェの仕事。彼女も火力枠ではあるが、アリスを上手く使うのならこの立ち回りがベストである。

 

「……海中、距離二百。まだ追い縋ろうとしている魔物がいますね……。空間で壁を作って自滅させるべきでしょうか」

「ん~、どうだろうねぇ~。確かに目標地点では一度止まるわけだから、潰しておいた方が良い気もするけどぉ~、魔力量を考えると最後の最後の方が良くないかいぃ~?」

「成程、一網打尽、と。……にしてはエレメントリーの二人には魔力を使わせ過ぎているようにも思いますが」

「そ、そそれは、問題ないわ。エレメントリーの御令嬢は、ま、魔力量が桁違いだし、し、フレイマグナの魔法は、は、爆発だけに効率化された、い、一種の芸術品のような、な、魔法。どちらも、ま、まだ、温存の範疇だと、お、思うから」

 

 エンジェの魔力量に関しては今更な話ではあるが、アリスの魔法効率も相当なものだ。

 正確にいえば、「自身は爆発しかできない」と幼少期から信じ込んだ結果の効率化であり、同時にだから威力制御ができない、というのは……誰も知らぬことである。本人でさえも。

 

 ──突然大きな揺れが全員を襲う。

 帆船が何かに衝突した……のではない。『彼』が帆船を無理矢理ぶん回したのだ。

 何をするんだ、と誰かが問う前に──それは落ちてきた。

 

次元鉄鎚(デルメルハンマー)……ってあれ」

 

 固定化された空間による圧潰。それを狙う魔法。

 先程まで帆船のあった位置に落ちたその魔法は、目標を見失って海面を強く叩きつけるに終わる。

 

 その波に紛れ、ざばぁと甲板に上がってくるは『彼』。

 

「敵さんのご登場というわけだねェ。シャニア・デルメルサリス。海中からの魔物の突撃を見張っていてほしい。他は皆増援の探知と舩そのものの防護を。己はアレを倒してくるよ」

「いえ……一応、もう問題ありません。()()()()()()

「……へえぇ~?」

 

 敵の魔法使いは突然現れたし、宙に浮いていた。

 だというのに今スヴェナが設置した空間抱擁に落とされ、「どこか」へと飛ばされたらしい。その迅速な対処に懐疑の目を向けるはドクラバだ。

 彼は完全な感知タイプではないし、煤による探知も予めまいておかなければ意味が無い。だからそれは彼の教師としての勘。

 

 今、次元空間(デルメルサリス)以外の魔力が動いたような、という。

 

「『一応平民の人』、そういうわけですから、動力源に戻ってください。あとなぜ濡れていないのですか」

「これからも敵の魔法使いが迎撃に来ると思うけれど、撃破せずにどこかへ飛ばす、ということを繰り返すのかい? 魔力を温存するという話はどこへ行ったんだ」

「私の役割はあくまで境界門(ワープゲート)の設置のみ。試行錯誤の数回分を残してさえおけば、後は余剰魔力でしょう。一応、その計算はしてあります」

「……ふぅん。ま、ありがたかったよ。己は始祖シエル・デルメルサリスとの契約で、学園外での次元空間(デルメルサリス)系譜の魔法使いへ手出しをすることを禁じられているからね。普通に蹴って海に落とすつもりだったから……その手間が省けた」

「それもしかして、手じゃないから良い、ってことを言いたいワケ?」

「空中で何かにぶつかって、海面へ叩きつけられて死ぬ、というのは、単なる不慮の事故、だろう?」

 

 屁理屈だった。

 

「そこの判断基準はどうでもいいので、動力源へ戻ってください、『一応平民の人』。陽が落ちる前に目標地点へ辿り着きたいので」

「魔法行使に何か影響があるのかい?」

「単純に寒いのが苦手というだけです」

 

 返答に、ハハ、なんて笑って……『彼』は「わかったよ、じゃあ、日没前には辿り着こう」と、また舩の最後尾へと戻っていった。

 ちなみに「陽が落ちる」も「日没」も、この世界の昼夜システムを知っている二人だからこそのジョークではあったのだけど、当然周囲に伝わるわけもなかった。

 

 こうして舩は進んでいく──。

 

 

 

 

 辿り着いた。

 目標地点a。執拗にも追いかけてきていた魔物は少女Cが潰し、今はスヴェナと教師D'が協力して境界門(ワープゲート)の設置を急いでいる段階だ。

 

 己一人であれば……泳いで世界の中心の海(ゲヌ・エリ・マレア)の湖底まで辿り着けるけど、まぁそれは人間ではなさすぎるからやめておこう。

 

 ちなみに徘徊していた機構は己を察知して逃げている。元々単なる掃除を行っていただけだったからね。

 あとに残るは水圧と魔力圧に耐え得る強靭な魔物だけ、と。

 

「少し……動きがあるねぇ~。下で何かをさせられているのか、部屋を移動させられているのか……」

「ど、ドクラバ先生、あ、ある程度の範囲がわ、わかるように、正円を描いたの、ので、この上で、煤を、連動して動かすことは、できるか、かしら」

「成程ぉ? ちょっとやってみるよぉ~」

 

 疑似的なレーダーか。面白い試みだ。

 

「……舩を狙ってくる魔物が鬱陶しいですね。底面以外を結界で囲ってもいいですか?」

「魔力量は?」

「この程度問題ありません。ただ、当然底面からの攻撃には無反応ですので……」

「いいよ、己が対処しよう」

「も、問題ない、わ。今……周囲の生物、に、に、この舩を認識、できなくさせたから。全員、よ、余力を残しておいて」

 

 いや。

 本当に有能だな、死霊病毒(ネクロクラウン)の二人。教師の質が落ちた、とか考えていたけれど……結局はピンキリか。

 

 なら己は……少し細工をしておこうかな。

 これから全員が基地へと突撃するわけだからね。戻ろうとした時に舩が、なんてことがないように。

 

 

 して。

 スヴェナの境界門(ワープゲート)、及び少女Cの隠蔽が完成した。

 

 教師D'が煤を飛ばしたところ、周囲に敵影無し、とのことで。

 

「いいかい、再確認だ。己、エンジェ、アリス・フレイマグナは可能な限りの戦闘を行う。教師ドリューズ・ネクロレアニーとシャニア・デルメルサリスは聖護星見(クライムドール)を見つけ次第夢幻に誘い無力化。そしてスヴェナと教師ドクラバ・アッシュクラウンは連れ去られた生徒らの救出。即戦力になると期待できる教師、生徒であれば、一度休ませてから戦線へ復帰させても構わない」

「心の準備は大丈夫です!」

「こっちも再確認よ。もし生徒や先生たちが何かされていて……洗脳や投薬の類で意識を失っていたら、問答無用で気絶させる。そういうことへの治療は学園の死霊病毒(ネクロクラウン)しかできないから、ガッチガチに縛り付けて連行する。それでいいのよね?」

「合ってるよぉ~。そして『残照回廊(リメノンス)』の生死は問わないからねぇ~、これは殺人ではなく制裁だから、戒律機関が動くこともないよぉ~」

「……その辺りは個人の采配でしょう。全員が全員殺人に忌避の無い、というわけではないでしょうし」

 

 では、と。

 ステッキをくるりと回し──先陣を切る。

 

「敵がこの襲撃を予知していないとは考え難い。どのような対処をされたとしても、動揺して魔法が使えなくなる、ということがないようにね」

 

 境界門(ワープゲート)へと、足を踏み入れる──。

 

 

 直後、背後の境界門(ワープゲート)が瓦解した。

 

「……成程、罠はこっちか」

 

 再度形成されようとする境界門(ワープゲート)は、しかし陣地の魔力組み換えが阻害する。

 

「やっぱりノイズが先頭できた!」

「無論、誰が来るかわからぬ、という時点ではあったがな」

零距離砲(ノン・ディスタンス)

 

 会話を続けるのかと思っていたら、突然来た魔法……恐らくエレメントリーの複合属性魔法だろうソレを受け止める。

 ステッキと拮抗する不可視の魔法。下手人は……この辺りかな。

 

「ウッ!?」

「アキっち、不用意に近付いたらダメだって~。相手はあの『ジェヴォーダンの巨人』を磨り潰した相手だよ~?」

「わかっている……だが、仲間が来る前に潰さなければ、次に磨り潰されるのはこちらだ!」

「仲間が来たら勝てる可能性は無くなる。来なくとも勝てる可能性は低いが、ゼロではない。──行くぞ、お前達。『残照回廊(リメノンス)』の総力を──」

 

 その、全てを、制圧する。

 ……いや、敵Cと敵Dだけ残ったか。やっぱり面倒だな、この二人。他の魔法使いも再構築されつつあるし……先日の焼き増しだよ、これじゃ。

 

「……っ何が起きた……」

「速く動いて全員を殴打しただけだね~。やっぱりオレっちは反対だったんだよ、こいつを一人にするの。仲間がいないからこそ実力を隠そうとしない。『執行者』が決してパーティを組まずに単独で動いていた理由ってやつでしょ。今では『なんちゃって平民』だけどさ~」

「そこまでわかっているなら話は早いね。一応最終勧告はしておこうか? 己はやり方をはき違えるなと、正しいやり方はこうだと教えたつもりだった。けれど君達は、その後になっても生徒の誘拐を行った。血の収集をね。──回収した血の全てを返還するのであれば、己は君達を見逃そう。君達の死体を偽造し、上にいる仲間たちに"単独で終わらせた"と嘘を吐こう。さて、答えは」

 

 答えは魔法できた。

 ま、だよね。

 

歪曲収斂(コントル)

 

 だからこっちも返す。

 大気中の魔力を巻き込んで行う攻撃。そこには当然聖護星見(クライムドール)の陣地も含まれるので……結果、空間と空間の摩擦により赤雷が発生する。

 

「っ、嘘だろ、陣地を突き破りやがった!?」

「だから降伏した方が良いってオレっち言ったじゃんか~」

「言っている場合か。最終勧告に対し敵意で返した以上戦闘は必至。重要な血筋は全て隔離したとはいえ、ここを壊されては困る。"時"まで粘るぞ、お前達」

 

 "時"。……スヴェナの成功を待てば損をするのはあちらのはずなのに、時間稼ぎか。

 何か画策している……それも状況をひっくり返せるほどの。

 

 であれば──ちゃんとしたことをしようか、こっちも。

 

「n番煎じにはなるけれどね。廃徊棄械(クラッドオレオム)・広域殲滅種エスティグマが三番目の太陽(エル・テセル・ソル)。再現ではない、本物の方だ。海面上昇により活躍のなくなって久しい君も、ここでなら猛威を揮える。──存分にやるといいよ」

 

 虚空から取り出すは熱と光の輪のようなもの。

 それは機構である。いいや、『WEAPON LINE』や『DRAGONFLY』なんかの「模造品」と違って、あの頃のあの二人が作り出した、「しっかりと人類を殲滅するために生まれた機械」。

 だからこそナノマシン耐性は無いけれど、そんなもの一度食らってしまえば解析して製造炉での生産が可能だろうし。そもそもナノマシンはトーメリーサの亜種なわけだし。

 

「やろうと思えば太陽直射(ソーラ・メイザー)も再現できるけどね、エンジェに勘付かれ兼ねないから……制限された魔法ではなく、元来の太陽の、その灼熱によって焼き尽くされるといい」

 

 世界が、真白に──。

 

 

 素直に驚いた、と……賞賛を贈るべきだろう。

 

「よく生き残ったね。陣地も吹き飛ばしたのに」

「……ドゥナーリア・ヒールクラウン。治癒特化が私の一族だ」

 

 敵Dの魔法。それは多分、始祖Dによる己の再生の再現なのだろう。

 己も塵一つになったとて再生するからね、それを魔法でやろうとした、というところか。

 

 と、過去の遺物を虚空へとしまう。

 瞬間、境界門(ワープゲート)が設置され、皆が入ってきた。

 

「大丈夫ですか!」

「やりすぎてないでしょうね!!」

「……凄まじい熱が通り抜けたような匂い。アリス、ここ好きかもです」

 

 少女Cは純粋に己の心配をしているというのに、恋仲であるエンジェ、君がそれなのはどうなんだい?

 

「つーかエンジェ・エレメントリーの言う通りデショ。ここにはそっちから連れ去った生徒がいるんだから、今の威力はヤバくない?」

「おっと君も生き残ったのかい? それは本当に想定外だね」

「空間作用系じゃなかったし、一旦自分を外に逃がして逃げたよ。……ドゥナっち、他のみんなの再生は?」

「無理だ。肉片さえ残さずに消滅させられた」

「……そっか」

 

 暗い目。敵Cの感情らしい感情は初めて見たかな。

 

「シャニア・デルメルサリス、スヴェナ。連れ去られた者達はどこかの空間に隔離されているらしい。見つけ出してくれるかい」

「っ、わかりました!」

「一応、わかった。聖護星見(クライムドール)は?」

「殺したよ。多分ね」

 

 広域殲滅の悪い所は、それが確認できないところだよねェなんてぼやきながら。

 残った二人に杖先を向ける。同時、エンジェと少女A'、教師D'も魔法を湛えた。

 

「エシェックェマット。詰みだよ」

「……コールド、やるぞ」

「りょーかい。──んじゃ自己紹介! オレっちの本当の名前はコールド・B・ソルサリス! この基地の維持をしていたのはオレっちだし──そもそもこの基地に、というかこの場所に居を構えたのには理由があってさぁ!」

 

 魔法が殺到する。B、か。

 成程。

 

 どれほど焼かれても穿たれても、敵Cは死なない。隣の敵Dが治癒しているから。

 そして激しい震動が基地を襲う。これは、基地の固定を解いたのかな。

 

「数百年前、世界の中心の海(ゲヌ・エリ・マレア)()()にある一つの種子が落ちたらしくってね~、オレっちたちの盟主は、それの発芽を……そいつを咲かせることができれば、『忘我の繭』を抜けられると判断した! なぜならその種子は『忘我の繭』の種子であり、そこから新たな『忘我の繭』が生長するのであれば、既存の『忘我の繭』は邪魔になるからだ。──さて、その種子の発芽条件とはなんだったでしょう!」

 

 最大範囲での感知を行う。

 種子。これか。……ああ、これはマズい。時に干渉する術の無い己では……止められない。

 

 円輪の年代記(CHRONICLE)に記載が無かったのは、成程「外から来たモノ」だからか。

 盟主とやら、勘違いにも程があるよ。それは樹殻の種子なんかじゃない。それは。

 

「"五種混血児の生き血"──オールドフェイス、だっけ? 『なんちゃって平民』がくれたそれは、盟主にとって価値のあるものだったようだけど、本来の目的はこっちでさ。必要だったのは空き容量が最も大きく、且つ適合値の高い個体。──該当者は二人。一人は聖護星見(クライムドール)の騎士フィニアン。そしてもう一人はケニス・デルメルクランという少年。……だったんだけど、ケニス・デルメルクランってコはここへ着いて早々姿を晦ませちゃってさぁ、まぁ、選択の余地はなかったよね~」

 

 さらに大きな震動が基地を襲う。

 これは圧壊によるものじゃない。……発芽したか。

 

 マズいな。普通にマズい。

 

「スヴェナ! シャニア! どんな手段を用いてもいい、己以外の全員をこの基地の外へ逃がせ!」

 

 いつもは使わない強い言葉に──けれどスヴェナと少女Cは迅速な行動をしてくれた。

 逃がすだけなら上空五千五百メートルにまで打ち上げればいいだけだ。だから境界門(ワープゲート)の設置など必要なく、空間抱擁だけで全員を「対処」する。

 そして自らも逃がし終えたその直後。

 

 基地を、いや世界の中心の海(ゲヌ・エリ・マレア)の縦穴を──巨大な植物が貫いた。

 

 

 ……その様子を、霊体になりながら見る。

 エンジェたちは無事のようだ。連れ去られた生徒もかなりの数を回収できている。

 ただしそこに教頭フィニアンはいないし……何より。

 

「……海より咲く華、か。これは……どう対処したものかなぁ」

「『お館様』、緊急事態につき、風による伝聞失礼いたします。現在各地で樹殻による攻撃……『快晴の雷』が大量発生中にございます。里は守られているので問題はありませんが、聖護魔導学園、及びその他全人間の住居が危地にあると──では」

 

 だろうね。

 樹殻にとっては自らの内側に天敵が咲いたようなものだ。

 この花は樹殻の花などではないんだよ、『残照回廊(リメノンス)』の盟主クン。

 

 この花は──。

 

「纏・エルグ。……ガルラルクリア=エルグ・アルバート……いやアルベーヌか。その置き土産。あんまりにも虫が煩いものだから、未来送りの年単位を何倍にも上げた……ある意味での悪意の贈り物(プレゼント)。本人に悪意があったかどうかは知らないけどね」

 

 樹殻が人類を絶滅させにかかる、なんて半信半疑だったけど、こういう理由なら納得だ。

 この花に対抗し、自身が枯れないようにするためには養分が必要なのだから……まぁ、そうするさ。

 

「通達を返す。何か目的のある者以外、不用意な外出を禁ずる。まぁ死にたかったら出てもいいけど、これは一応善意だよ」

「御意に」

 

 これが終末、か。

 本当に……面倒臭いことをしてくれたものだねェ。

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