魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
一応、部屋の隅の方で
「……やっぱり、起動法に変わりはない。ナノマシンを必要とするわけでもなければ、教頭フィニアン程度の脅威に反応するはずもない……」
わかったことは、やはりこの種子は
勿論その脅威が己だった、なんてこともない。己は
考えられるは……あのタイミングで外に何かがいた、という可能性。
もしくは樹殻が活性化しかけたというのもあり得る。樹殻にとって
タイミングが良すぎる、と思う勿れ。敵には随分と遠くまで見渡せる未来視を持つ
つまり、己の突入タイミングを調整するのはワケなかった、ということ。
さらには組織メンバー個々の戦闘力や己との雑談の時間まで綿密に計算して、あたかも敵Cが励起させた瞬間に発芽したように見せかければこのトリックは完成する。
問題はなぜそんな遠回りをする必要があったのか、という点と……やはり盟主クンの目的だろう。
この世界を滅ぼすことが目的だった、という可能性が一つ。……やる意味の有無はともかくとして、まぁ、エンジェが世界征服を目論むくらいだ、世界の破壊を目論む者がいたっておかしくはないか。
組織メンバーの間柄はとても良好に見えたけれど、盟主クンだけは違って、盟主クンは魔法世界が、ひいては魔法使いが嫌いであり、『
あるいは全員ではなく特定個人を狙っていた、とか。それはたとえば敵D。彼はヒールクラウンの出だと言っていた。己の再生能力を再現した家とも言えるヒールクラウンは、組織内の幹部クラスにあれば厄介だろう。邪魔になった時に消し難く、彼自身も、彼以外の者を消すのにも色々と考えることが増える。
同じく敵Cも厄介者だ。スヴェナの攻撃、己の攻撃。どちらも軽々と、ではないにせよ止めることができる実力。軽薄な言動とは裏腹に周囲を見ることのできる洞察力。忠誠心があるかどうかも怪しい彼では、幹部にしておくには怖すぎる。
……とはいえ、盟主クンがそこまで弱いとも思えない。
歩いてというか座標移動をして、だけど。
水圧やら何やらで破壊され尽くしているこの施設だけど、ところどころにはまだその名残が残っているあたり……
魔力を壁に浸透させることができているから、つまりナノマシンを活用する術を手に入れているということだ。
己が
「創り変えるよ」
破砕し、水没した空間を元通りにする。
己は未だ時間軸への干渉ができないので、あくまで復元だ。時を戻しているとかそういう話ではない。
そうしてみれば、わかる。
やっぱり現代チックな技術の施設ではない。己達は無意識に『
前身文明よりも前の時代の基地。未だ
建材もそうだけど、間取りや天井の高さなどにもそういうものは表れる。即ち、時代感、というやつが。
始祖たちだけの、コロニーだけの時代をポストアポカリプスとし、原始時代とするのならば……この施設は超近未来的であるとも言えるだろう。少なくとも十年や二十年先を覗いた程度で辿り着ける技術力ではない。
未来視ならぬ過去視ができなければこんな芸当は……。
……。
だから……もしや、いる、のだろうか。
己が知らなかっただけで、あの時代から生き続けている者が。
正直な話をするのならば、あり得ないと言ってしまえる。
上位者という者は全員死んだ。生きていると表現できるのは封印されたままの彼と……ゾンビの彼女だけ。前者はこういうことをしそうでありつつも出てくることのできない状況にあり、「ついていかないこと」を自ら選択した後者はこういうことをしそうにない。
けれど、虫の関係ない所で、虫とは反対側にいた己とさえ関係ないところで……生きている者がいたのなら。
それが盟主をしているのなら。
たとえば、あの人と機械のカップルとか……。
いや、アレもこういうことをしそうにない、か。
わからない。わからないことだけがわかる。
アレは結局己がアレンジを加えただけのもの。製作者が己ではない以上、むやみやたらに使いたくはない。消耗するし。
「ん……?」
と。
……なんだろう、隠し部屋、だろうか。
入口の無い部屋を発見する。この地に残った残滓を元に復元したからね、己では知り得ない構造も多く存在するんだ。
入ってみれば……そこは、特になんてことのない部屋であるようにも見えた。
ただ現代魔法使いの部屋ではない。技術者、科学者……そういう者たちの部屋だ。
ここは、誰の。
「──当然、私の部屋だね」
声は空間の揺らぎと共に現れる。
「……コルリウム?」
「おや、私のことを知っているのかい? 当然だが、初めましてだよね」
コルリウム。「アルター・コルリウム」だ。
幾星霜と前に死した……いや、あの時の彼よりもかなり若い……?
「初めまして、ではないよ。己は君と出会っている。……ただ、恐らくは未来の君と」
「良いことを言うじゃないか。それはとても良いことだ、『スマイルフェイス』。それは私の計画が成功することへの示唆であり、私という存在の集大成の結晶でもある」
申し訳ないけれど、そこまで察しが悪いわけではない。
だからこそ……わからない。
「理由がわからない。なぜかな」
「主語の無い会話を好むのかい?」
「懇切丁寧に問いを投げかけなければわからない君でもないだろう」
やれやれ、なんて肩を竦める彼。
そして。
「買い被り過ぎ……に聞こえるのは、未来で、あるいは
「……」
生命の次元階位を上げる。
誇大妄想家の戯言にも聞こえるそれは、彼が言うと洒落にならない。
だって彼はこの世界の在り方を変えた張本人だ。樹殻というものを作り出し、世界を愚鈍と混乱の昏迷へと誘った天才。
「懇切丁寧に説明をしてあげよう。当然、これから私は過去へ赴く。過去へ赴き、『忘我の繭』を作り上げる。ま、過去の文明レベルで『忘我の繭』などという言葉を使えば笑い者必至だろうから別の言葉にするだろうけれど……そうして、然る後に私は人類の救世主となり、その後災厄を齎した者として処刑されるのだろう」
つまり、ナノマシンの縦軸挙動……時間への干渉を成し遂げたのは『天使』クンではなく彼か。
それならば納得もいく。けれどやっぱりわからない。
「もう少し懇切丁寧な説明を求めるよ、コルリウム。生命の次元階位を上げる、というのはどういう意味かな」
「言葉にしなければ伝わらないかい? ──既に実例が近くにいるというのに、なぜわからないんだ」
思わず目を瞠った。危うくヒトガタを崩すところだった。
「言葉にしてあげよう、『スマイルフェイス』。エンジェ・エレメントリーとアンフィ・エレメントリー、あるいはスヴェナ・デルメルグロウは次元階位を一段上った者。生体の檻の中にありながら魂の言語へと辿り着き、それを自在に操りし者。……ま、アンフィ・エレメントリーの方は君の横やりのせいで未だ覚醒しきっていないようだけど、エンジェ・エレメントリーだけでも十二分だろう」
「……あれは彼女の自滅だよ。己のせいじゃない」
「そうだね、それは失礼をした。とはいえ理解はしてくれたようだ。……ああ当然のことを言うけれど、あの襲撃事件に私は関わっていないよ。私のスポンサーは関わっているけれどね」
始祖D。……この様子だと、もしや始祖Eも?
いや、彼女は己に「この魔法世界に何をする気か」と問うて来ていた。あれは多分
だから始祖Eは濡れ衣だ。ただ始祖Dも……全容を把握しているか、と問われたら難しい所だね。
「『忘我の繭』を『
「できなかったら?」
「できるさ。なんせ君がいる」
……その通りだ。今いる人類の絶滅は……己がさせない。少し前の己であれば違ったかもしれないけれど、エンジェと恋仲となり、結婚を約束し、彼女が魔王となることを……その隣にいることを決めた己は、人類の絶滅を何が何でも回避するだろう。
「『忘我の繭』が栄養不足で人類を捕食しに来る、ということ自体はずっと昔に決まっていたことだった。恐らくはあと二十年……いや十七年後くらいかな。それくらいで『忘我の繭』は足りない栄養を人間から、そして惑星そのものから奪い、最終的に大輪の花を咲かせて星海に種子を飛ばしていたことだろう。当然、私がデザインした植物だからね。一目見ただけでわかったよ、どういう構造なのか」
激しいパラドックスが起きているけれど、実際はそうではない。
縦軸挙動はあくまで一回転。ループするのではなく、直線状で宙返りを行うに過ぎない。
「だから私は、その去来を早めただけだ。早めることでコントロールしやすくした。当然、折り畳みのために爪弾きにされた者も出てきた。それが『
「……今更なことを聞くけれど、君が盟主なのだね」
「あまりにも今更だけど、当然、そうだね。ここは私の自室なわけだし」
わからないことも多いけれど、わかったことは……というか、問うべきことはわかった。
「始祖ディアナ・ネクロクラウン。彼女がスポンサーで合っているかな」
「当然に」
「彼女はなぜ君のスポンサーになったのかな。君が売り込みをしたのかい?」
「それは半分正解で、半分間違いだ。私は私で『忘我の繭』の存在に気付き、人類の閉塞を感じていた。このままでは人類が終わるからどうにかしなければならないと考えていた。そこへ始祖ディアナが接触を図ってきた。彼女は彼女でこの先の未来を憂慮していて、彼女なりに『忘我の繭』に対するアプローチを行っていた」
技術とか憂慮とか、そういうものから一番遠いところにいると思っていた始祖Dが、そんな。
「今いる人類の絶滅。それを回避することに、君へ何のメリットがあるのかな。このまま行けば君は過去へと渡り、一瞬の栄耀を手にしたあと、大犯罪者の烙印を押されて処刑される。そこまでわかっていて……なぜ」
「おかしなことを聞くものだね、『スマイルフェイス』。当然、私が人類であるから、だよ。人類であるから人類の絶滅を憂慮し、人類であるから決定事項への責任感を覚えた」
「前者は百歩譲って良しとしよう。己は人類ではないから、その感覚はわからない。ただ後者はなんだろう。むしろそれであれば未来の、あるいは過去の自身を恨むなりして、責任の所在など放棄するものと思える。そして……『忘我の繭』を作らないと、そう決めたっておかしくはない」
「この『忘我の繭』を私が作ったのだと知った時、それらすべての可能性を考えた。私が過去へと赴かずに『忘我の繭』を作り上げなかった場合、世界はどうなるのか。当然、今の私はいなくなるし、私が愛しているこの世界もなくなってしまうだろう」
彼は……未だ年若い「アルター・コルリウム」は、「簡単なことだよ」と言葉を吐く。
「私はこの世界に、この世界のまま続いてほしいと心から願っている。過去改変による現代の改変など受け入れられるものではないし、それらは意味の無いことだ。運命とは直線ではなく、数多に分岐するもの。私が『忘我の繭』を作らなかったとして、新たな可能性が生まれるに過ぎない」
「だから、その通りだよ。君の言う言葉は全てが正しい。これから君が『忘我の繭』を作りに行かずとも、この世界はそのまま続く。『忘我の繭』は依然として存在し、その性質が変わることはない。君が過去へと赴く時期が変わったからといって、この世界に何か影響が出るということはない。違う分岐が生まれるだけだ」
「勿論、この世界をどうこうしようとは思っていない。ただ願っているだけだよ『スマイルフェイス』。──そして当然ながら、これは自殺行為ではないのだということを知るといい」
コルリウム。今はただのコルリウム。
青年と呼べるその存在は、自身の頭部に人差し指を当てる。
「史実をなぞる。私は私の未来を知った上で『忘我の繭』を作り出し、殺される運命を選ぶ。……しかし、面白い話があった。面白い発見があったんだよ、『スマイルフェイス』。というよりそれこそが始祖ディアナが接触してきた理由だった」
クツクツと嗤い。
「なんとね、『忘我の繭』の中に……私の魂があるというのさ。いいや、もっともっと多くの魂が『忘我の繭』の抱擁の中にある。未来の私がデザインした『忘我の繭』の栄養とはヒトの魂ではなく、その輝き。故に『忘我の繭』がヒトの魂を食い尽くすことはない。肉体が死のうとも『忘我の繭』という揺籃に抱かれる限り、魂は死なない。故にこそ『
「……そうか、だからオールドフェイスを受け取って喜んだんだね、君は」
「理解が早いね。そうさ、君がくれたオールドフェイスというコインは、まさに魂の存在証明に他ならなかった。私が目指しているのはああいう形ではないけれど、私と始祖ディアナは確実に完成させる。私が過去へ赴き、この世界から姿を消した直後、当然のように……私は帰ってくる。この世に生まれ直す。そうして三割の人類と共に生命としての次元階位を上げるんだ」
理由も動機も「人類だから」とくれば、己に言えることは何一つとしてない。
己は「人類ではないから」彼の気持ちが理解できない。そして己が「人類ではなかったから」エンジェと今の関係になれたと言える。……あるいは、エンジェが生まれたことさえも彼の掌の上かもしれない。
あの虫がいればまず間違いなく「英雄価値」というくだらない値札を付けていたことだろう。
だけど。
「始祖ディアナ・ネクロクラウンが君を裏切る、という可能性は考えていないのかい?」
「当然考えているし、それでも構わないと思っているよ。それは私と彼女の信頼関係の問題で、始祖ディアナが私を裏切ったと、ただそれだけのことだ。そしてそれでも私はこの世界に続いてほしいと思うし、始祖ディアナや『
正直に言って、始祖Dが他者へ興味を持つとは考え難い。
ただ……別に己は始祖Dの全てを知っているわけではないから、そういうこともあり得るのかもしれない。
始祖Dと「アルター・コルリウム」が恋仲であるとか、そういう、エンジェと己のような話が。あるいは科学者としての信頼関係が。
どちらにせよ。
「答え合わせは充分だ。……君の言う通り、己はこの世界を守るために動くだろう。人類の絶滅を回避するために動くだろう。混血のノウハウは得たからね、人類繁殖の術は理解した。……あるいはそれさえも、か。『忘我の繭』が無ければ己はこの術に着目などしなかっただろうし」
「"起こること全てに意思があるとは限らない"。これは私の好きな格言の一つでね。もし知らなかったのだとしたら、ここで教えてあげたことを誇りに思おう。当然のように後世で自慢をするよ。『スマイルフェイス』に物事を教えた天才として、ね」
「君は既に天才だよ。己に関する箔など邪魔になるくらいには」
会話は、そこで終わりだ。
ああ、けれど。
「結局ここへ何をしに来たのかだけ聞いてもいいかな」
「ん、ああ、忘れ物を取りに来たんだ。というより良いのかい? 五種混血や私が幹部たちに嘘を吐いていたことなど、聞きたいことはまだまだたくさんあるだろうに」
「君が自らそう零すということは、あまり意味の無い情報なのだろう。それに、あとで確認する方法などいくらでもあるから、問題ないよ。今はただ先の問いだけを聞きたい」
疲れたように言えば、彼は……笑みを浮かべて。
「弔いに来たのさ。ここで死した仲間たちを。当然、私に利用されるだけ利用され、死した仲間たち。先も言った通り、私はこの世界を愛している。人類に続いてほしいと願っている。人類であるからこそのそれら感情は、"目的のためならば犠牲も厭わない"というものでありながら、同じ人類を悼み、尊ぶものでもある」
「……君が殺した者を、君が悼む。それが人類なのかい?」
「"小を見て大を判断すること勿れ"だよ、『スマイルフェイス』」
理解は及ばない。
これが人類のスタンダードだとは到底思えない。
ただ彼は、この「基地」と散っていった者達へ心からの追悼をし、黙祷を捧げ……そしてまた
盟主コルリウム、ね。
「……というのが君達の長だったわけだけど、どうかな、感想は」
「……今はノーコメントで」
「何を言えばいいか、わからんな」
だよねェ。