魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
残留していた魂を基に、その肉体を蘇らせる。
彼ら……『
「これは……なにが」
「ドゥナーリア、お前がやってくれたのか……?」
「……残念ながら、私には細胞の一片までもが
わかりきったことを訊くものだし、わかりきったことを答えるものだな、とか考えながら、「さて」なんて言葉を吐く。
「残念なお知らせを先にしておこう。君達はね、もう生まれ変わったんだ。ここにいるのはコールド・『BROWN』・ソルサリスでもドゥナーリア・ヒールクラウンでもイリーゼ・クライムドールでもエライザ・クライムドールでも、アキ・ガンヴィンテクスタでもアニー・サクリスデルスでもない。それらは死に、過去の人ととなり、今は別の人物となった」
それは彼らの情報を探った時に見た名前。
とはいえそれらは過去の名前となった。覚える必要はない。
「申し訳ないけれど、己には事の詳細を事細かに説明するつもりはなくてね。どの道己のことを信じられないだろうし、すべてのことはすべてを見た彼らに聞いてほしい。今はただ、自身が生まれ直したことだけを実感しているといい。それとここに
「……オレっちから、一個しつもーん」
「何かな」
「生前の名を名乗ることは許されるん?」
「名乗りたかったら名乗ってもいいよ。それが世界に反映されるかは別として」
「……あー、認識錯誤か。だり~」
理解が早くて助かるよ。
「私からもいいだろうか」
「一つだけならね」
「私達に……何を求める。これだけのことをしたのだ、何か特別な意図が──」
「無いよ。君達は自由に生きるといい。この
「ではなんのために私達を……」
「質問は一つだけだ。──さて、では元『
有無を言わせずに転移する。
彼らが何をしたとしても問題はない。とはいえ、もう『
なんせ──盟主直々の追悼を見た後だからねェ。
聖護魔導学園へと降り立つ。
上空を見上げれば、陣地と空間防壁による二重の結界が張られている……ものの、轟雷の如く降ってくる樹殻の枝に対し、どんどんすり減っている現状だ。これは時間の問題というやつだね。
「『最上級生』さん!」
「おや、そちらで呼ぶのかい、学園長イレイア・クライムドール」
「今はなりふり構ってられませんし、人目もありませんし。……予知で見えてしまってはいましたが、フィニアンは」
「ああ、亡くなった。けれど、君なら彼を生き永らえさせることができる。そうだね」
ということで、特別サービスとして「元のままの形で」復元させた教頭フィニアンの肉体を虚空より取り出す。
スヴェナらと違うのは、生きていない……というより死ぬ寸前である、ということ。
「……」
「
こちらも有無を言わせずに引き取らせて、己は教室へ。
……赴いたのだけど、誰もいない。どういうことかと感知を巡らせてみれば、その多くが規律会の議事堂や室内運動機能場などに集っていることが見て取れた。
こうなった以上どこにいても変わらないと思うのだけど、避難はしておこう、という判断なのかな。
と。おや。
一人だけ……全く違うところにいる生徒が。
肉体を少年に戻し、学生服を纏う。
「やぁ、そこはお気に入りの場所なのかい、キャレム・アレンサリス」
「……誰かと思えば、『英雄平民の方』ではありませんか。数日間の休暇申請を出したと聞いておりましたけれど、もうお帰りになられたのですか?」
「いやいや、まだ休暇中だよ。恋人たちと共にね。ただほら、ここ数日は天気が悪いだろう? だから学園がどうなっているのか気になって帰ってきた次第だよ」
最上級生C。キャレム・アレンサリス。
彼女は己の「恋人」という言葉に大きな溜息を吐いた。
「あの日はまだ脈ありだと思ったのですが、もうそこまで進展してしまいましたか」
「海を見上げる墓標の前で、お互いに告白をしてね。そこからはもうラブラブカップルだよ」
「うふふ、下手な嘘ですわね。……ま、そうなってしまった以上、私からあなたへラブコールをすることはありませんわ。私、こう見えても純愛派ですから」
それこそ下手な嘘だと思うけどね。
「それで、どうかな。己達がいなくなり、空模様が悪くなってからの学園内は」
「……あら、『英雄平民の方』ではなく『同好の士』としてのお声がけでしたの? それならそうと先に言ってくださればよかったのに」
同好の士。そう、彼女と己は。
「とても面白いですわよ。本家筋に近い
血筋争い同好会──。
実は先日の「引き合わせ」のあと、何度か顔を合わせていてね。驚くことに彼女の方から「もしかして、なのですが……あなた、こういうものがお好きなのでは?」なんて言って、彼女がいたテラスの下で行われていた
そこからはもう、彼女には己の端子として……つまり、己が学園を不在にしている間のカメラ役を担ってもらっている。
険悪に別れたように見せて、結託していたのだ。……これは浮気になるかい? エンジェ、スヴェナ。
「利用価値、なんてもう考えていないのだろう? 世界がこうなってしまった以上は」
「ええ、そこは、そうですわ。私のちっぽけな考えなど世界の大意の前には無意味でしょう。であれば死ぬるその瞬間まで、無知蒙昧に動く貴族を眺めることにしますわ」
「生き延びようという気はないのかい?」
「この『快晴の雷』、止む気配がありませんわ。それで、これが収まる頃に、どれほどの貴族が残っていますの? 大きな悪事を働くことのできる人間が、どれほど残っていますの? ……それを考えたら、未来への展望を持つことより、刹那的な今を楽しむ方が建設的でしょう」
良い考えだ。己も同意するよ。
ただ……それは、それこそ無知故の諦めであり割り切りだ。
「もしそうではなくなるのなら、どうするのかな」
「……主語ははっきりしてくださいまし。何がそうではなくなる、と?」
「たとえばこの『快晴の雷』が止むだとか、大きな悪事を働くことのできる組織が多数残るとか」
「私の立場にも依りますわね……。アレンサリスは防御に向かない魔法ですから、現在の学園防御には参加しておりません。それはつまり、『快晴の雷』の終息後の発言権が薄くなることを意味しますわ。今まで私がこの学園へと無作為な悪意を誘うことができていたのはアレンサリスの名前の強さと……幾分かの下準備ができていたから。此度のことでそれらがリセットされてしまえば、動きが悪くのは致し方の無いことでしょう」
「では聞き方を変えよう。もしすべてが問題なくなるとしたら、君は何をしたいのかな」
言葉に。
最上級生Cは──邪悪な笑みを浮かべる。
「勿論、血で血を洗うような、貴族たちの骨肉相食む血筋争いを
「そうかい。ではそんな君に、このアーティファクトをあげよう」
服の内側に開けた虚空から取り出すは、ハートのキーホルダーがついた指輪二つ。
「……? アーティファクト、ですの?」
「『
あるいは『その気にさせる君.mex』。当然ながら、あの老人の姿をした姉妹機の作った悪趣味な機械の一つ。
トーメリーサによる肉体の強制機奇械怪化から着想を得た、そのペアリングの為された指輪を嵌めた者同士の脳へと働きかけ、「その気」に強制的にさせる悪趣味アイテム。機奇械怪の技術ではなく廃徊棄械の技術を使っているから、そのままナノマシンにも転用できた。
「くっつけたい男女の指にこれを嵌めるだけで、その二人は互いに互いが好きであると思い込むようになる。ま、呪いのアーティファクトの一つだね」
「……素晴らしい、ですが」
「ですが?」
最上級生Cは……呆れたような、それでいてわかりきったことを言うような目で己を見る。
「本気ではないのでしょうが、失望させないでくださいまし。私、そんな養殖の血筋争いで満足できる人間ではないつもりでしてよ」
「……」
いや、君が扇動することと何が違うんだい? という言葉は飲み込んで。
「君こそ失望させないでくれ。己はその二人が互いに互いを好きであると思い込むようになる、と言った。それは好きであると自覚することや、両想いになる、ということではない。これがあれば敵わぬ恋心を持たせることも、今の今まで一方向にしか向いていなかった意識を別に向けさせることもできる。──つまり、教師陣も巻き込めるんだ」
「……! そ……それは、た、確かに魅力的……いえでも、結局は養殖の……!」
「当主落ちの烙印を押されたからと言って、自らの子供達をけしかけるだけの貴族。教師陣にも何人かいるだろう? 表面上は公平を謳いつつ、善性を見せつつ……心のどこかで自らの家の大成を願う魔法使いが。君はそういう人間を見抜くことに関してとても長けていると思うのだけどね」
「ぐ……」
多少胡散臭くなっても問題はない。
懐かしいよ。前身文明ではセールスマンだったからねェ、己は。『詐欺師』は最高の褒め言葉なんだよ。知らないのかい?
「キャレム・アレンサリス。眺めているだけ、というのは確かに楽しい。自然発生する血筋争いこそが至上であるということも己は理解してあげられる。けれど、絶対に自然発生しないものも存在する。それが教師と生徒の恋だ。
最後の一押しは、そう。
「獣欲に耽る聖護魔導学園。──実に背徳的な言葉だ。そう思わないかい?」
「──いいでしょう、乗せられてあげますわ」
指輪を受け取る最上級生C。
それを丁重に自身の……手帳かな? そういったものへとしまって。
「……ちなみにお伺いするのですが、これ……男女は関係ありますの?」
「無いよ。人間であるというだけで作用する。ああ、ただ平民には使わない方がいいかな。魔力を強制的に流し込む効果があるから、下手すると嵌めた瞬間にその平民が死ぬ、という可能性がある。耐性のある平民なら特に関係なく生き残るだろうけど」
「その場合の効果は?」
「発揮されるよ」
「……あなたが嵌めた場合は?」
「残念ながら」
言えば、彼女はお嬢様らしくなく「ちぇ」なんて音を出す。
きょうびそんな仕草を見せる人間がいようとは思わなかったよ。
「ああ……これ、始祖にも効きますの?」
「効くね。ただし、彼女らだと自身の思考が自身の思考ではないと気付いてしまう可能性もあるが」
「つまり──学園長には必ず効く、と」
わお。
そこを狙うか。
「どう活用するかは君次第だ。面白い結果になってくれると嬉しくはあるけれどね」
「ええ、面白く使ってみせますわ。……私は
「それに関しては大丈夫。あと少しで終わらせる用意ができているからね」
「そうですか。やはりあなたは平民などではありませんのね。……あなたとの間に産む子がどういう存在になったのか確認できなかったことだけが心残りではありましたが、それはエンジェさんに任せましょうか」
下世話な話だねェ。とても貴族令嬢がする話とは……いや、いつの時代もそんなものか、貴族なんて。
ではまぁ、話は終わりである。
ゆえにと踵を返し……一つ思い出したことを告げる。
「アレンサリスの家。外にあるあの家には防衛機能がないワケだけど……」
「ああ、興味ありませんわ。元からとっとと死んでほしいと思っていた家族ですし」
「そうかい」
「ええ。死んでいてくだされば、私は当主としてアレンサリスを自由に。生きていたのならその庇護下でぬくぬくと遊ばせてもらいます。ふふ、アレンサリスと婚姻を結ぼうとする家がない、というのは良い所ですわよねぇ」
興味が無い、と言われてしまったからね。
言わないでおこう。
アレンサリスの家が、自分たちを守るために……他の
そしてその代価に彼女が嫁に出されていることなど。
興味が無いのだそうだから。
オルボワール、最上級生C。君の快楽が刹那的であり、そして君もまた血筋争いから逃れられないのだということを自覚した時……また会いにくるよ。
最後に訪れたのは、深い深い海の底。
さらにその下……地中にあるブルーメタリック。かつてはブルーシールと呼ばれていた特殊金属の匣、その眼前。
「直接話すのは初めてだね、『
「
「ああ、ただまぁ、彼と根本部分は同じだよ。ただ己は
「
ここまで厳重に封印されていて、何もできぬまま何十万年も経った状態で……未だに正気を保つ彼には敬服するけれど。
用向きはまぁたった二つだけだ。
「君の見解を聞きたくてね。あの虚構の神を作り出すだけの余力。それがこの星にはまだ残っていると、そう思うかどうか」
「
「だろうね。あそこまでのリソースを使ったんだ。けれどその後、相当な時間が過ぎている。星というものはその活動によって寿命へ向かうものだけど、この星は違う」
「
コルリウムの取った選択と、その天才性は疑っていない。
ただ……次元階位を上げた生命を故意に作り出すことが本当に可能なのか、という点に関しては、正直怪しいと思っている。
であれば、あの虚構の神のようなものは作れずとも、その力を人間に宿らせることは……それらの根源はコルリウムではなく星の方なのではないか、と。
「
「恐れている、というのは過言だけど、もしそうだったら面倒だな、と思っているよ」
その二つはどちらも根源が同じだから、同一視されて混ざったっておかしくはないんだ。
けれどそうである場合、エンジェとスヴェナが寿命によりて死したあと、この星の外へ連れ出すことが難しくなる。というよりできなくなる。いや正確に言うと、この星……地球と名を改めさせたこの惑星が"魂の言語"を獲得したに等しくなるから、この惑星そのものを魂として昇華し、連れていく必要が出てくる。
……それは、己が理想とする「愛情」の形態とは言えない。
「
「それは、どうして?」
「
「……星ですら干渉できないから君はここにいる……のではないのか」
「
正しい。進化の過程が違うとはいえ、根本は同じである己とあの虫は、彼女を天敵としていることに変わりない。
己には些か効き難いとはいえ、それでも特効を持つとは言えるだろう。天敵ほどじゃないのがミソだけど。
上記の二つをしてきていない以上、大丈夫、か。
「ありがとう、参考になったよ」
「
「お見通しか。うん、そうだよ。……今己はある少女と付き合っていてね」
「……」
「おっと、そんな反応をしないでくれたまえ。それで、その少女はとてつもない愛情を有している。もし……君の現状を知ったのなら、彼女は君を助けたいと思うことだろう」
「
「だから聞いておきたいんだ。君、外へ出たいかい? もう君が活動していた頃とは様変わりしてしまったこの星に。君が出てくる頃には、人類というものが欠片程度しか残っていない可能性のあるこの星に」
「
まぁねェ。
彼女が博愛主義なら、己もそれに準じなければ……彼女に不義理だろう。
「それが聞けたのなら充分だ。オルボワール、『
「
「……流石だね、この星きっての大賢者クンは」
あの虫が評価するわけだよ。