魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Sin10-3.「巡る思惑の献花」

 今なお降り注ぐ『快晴の雷』に対し、各家がそれぞれの対策を練る中で、そういったものの「届かない場所」というものも当然のように生まれていた。

 それは常駐の魔法使いが当主落ち、あるいは分家の魔法使い数人でしかない領島であったり、大陸にあっても僻地と呼ばざるを得ないほどひと気の無いところであったり。

 残念ながら、己が辿り着いた時には時すでに遅しであることが多々であり、人類は着実に目減りして行っていると言えた。

 

 己であろうと見境なく襲ってくる樹殻の枝を弾きながら、村を歩いて回る。

 オールドフェイスは作り得ない。魂は持っていかれてしまっている。肉体は樹殻の栄養分にならないから放置されていて、それが余計にゴーストタウンを……悲壮感を誘うというか。

 本来であればここまで無防備になった村は魔物に襲われる……のだけど、魔物も樹殻の捕食対象だからね。本能的に危機を察知しているのか、ほとんどの魔物が地中か海中に潜っていて、そういう意味では地上が安全になっている。本末転倒が過ぎる防衛機構だ。

 

「……こういう感傷に浸る心は持ち合わせていないからね。使わせてもらうよ」

 

 大陸において、どんな命も気にする必要のない広大な土地、というのは中々見つからない。というかつい最近まで存在しなかった。

 どこもちゃんと有効利用されているか魔物の住処になっているかで、「今は問題ないが将来人口問題や土地問題を気にしなければならなくなる」なんて話も出ていたくらいにはカツカツだった。

 

 それが、樹殻のおかげで手に入った、ということで。

 己はお返しを作らないといけない。最上級生Cとの約束が大事だから……ではなく、この世界を統治するのも、あるいは滅ぼすのも、エンジェのやることだから、である。

 手伝いをするとね、言ったのだから。

 

「創り変えるよ」

 

 赤雷と共に、空間へ大きな罅が入る。

 変更対象はこの空間にあるナノマシン全て。そこに"罅"を伝播していく。ナノマシンが破壊されていく様が蜘蛛の巣状だから、視覚的にも罅に見えるというおしゃれ仕様だ。

 ……誰も見ていないのだけどね。

 

 さて、ナノマシンを変更したのだから、この罅の入った空間にはナノマシンが消え去ることとなる。創っているものは別にあるけれど、ナノマシン濃度が薄い空間、というものを周囲のナノマシンは許容しない。すぐにそこへ殺到しようとする……のでそれに対する結界も張る。これはナノマシンそのものの性質であり、全世界にあるそれの設定を変えるのは流石の己も骨が折れる……ので、普段あまり見ることはないだろうモノ……四方と結界に張り付き壁となり、濃度を上げることで視覚化されるナノマシン、というモノが出来上がっていく。

 それはそれで次元空間(デルメルサリス)の結界と酷似するのだけど、まぁこっちが元ネタなので許してほしいところだ。

 

 さて、この樹殻世界においては世にも珍しいと評される空間で創り上げていくのは『UMBRELLA』という機構。

 これも弊社の……辞めた己が言うのもおかしな話だけど、前に己が勤めていた企業で作っていた機構になる。

 

 機能としては雨水に含まれるナノマシンを除染し真水に変える、というものだけど、副産物として除染したナノマシンを設定した場所へと送る……量子間テレポーテーション貯蔵機能が存在する。なんせその場を除染しただけだとその周囲のナノマシン濃度が上昇してしまうからね。

 浄化したい場所に設置してナノマシンを取り除きつつ、使用したい場所へナノマシンを送り込むインフラな機構。それが『UMBRELLA』だ。

 今回創ったのは当時の『UMBRELLA』の超巨大版。村一つを覆い隠すその羽は、システムとして作り出された昼夜の陽光も疑似月光もかき消してしまう。

 

 そうなった空間へ、さらに重ねるように「創り変え」を行う。走る赤雷は常時の比ではなく、迸る圧力は生物の耐久性をゆうに超えるもの。

 

「……上手く機能するかどうかは……微妙なところだけど」

 

 しなかったらナノマシンにこだわらなければいいだけの話なので何も問題はないのだけど。

 できればオーパーツは作りたくないからね。これで動いてくれると助かるよ。

 

廃徊棄械(クラッドオレオム)が拠点防衛型指定殲滅種ウァストライダル・痛いの痛いの飛んでいけ(ペカド・アカ・ペルソナス)。指定殲滅対象は樹殻の枝」

 

 機構『UMBRELLA』の柄を抱くように現れたヒトガタの機械。その背についた天使のような翼がぐわりと広がり──瞬時、その羽根が矢となりて飛んでいく。

 動力をナノマシンに、且つ樹殻が「壊されないように」と設定した敵である廃徊棄械(クラッドオレオム)だけど、始祖Dのもとで知見を得たからね。樹殻の枝は自身を守るフィールドを纏っていないがゆえに、この廃徊棄械でも対応できる、と。

 本来は占有したい場所へ投入し、強制的にそこを自分たちの土地とするための拠点防衛型。……当時は速攻で攻略されたらしいから、当時の人間の凄まじさというものに色々思うところはあるけれど。

 

 機能は……ちゃんとしてくれているらしい。

 ヒトガタの翼から矢のように飛んでいく羽根。その一枚一枚が樹殻の枝と相殺し合い、地上へと降り注ぐことを防ぐ。

 

 世界がナノマシンで満ちている限り供給されるナノマシンに底は無く、廃徊棄械の本能たる人間への捕食衝動も誰もいないこの場所では働かない。

 殲滅力を見れば他にもっといい機構はあったのだけど、見た目が美しいことと自走しないことの二点において痛いの痛いの飛んでいけ(ペカド・アカ・ペルソナス)は抜きん出て優れている。いや前者が九割かな。世界を終末から救うものが天使(ANGEL)の翼、だなんて……エンジェにぴったりだろう?

 

 とはいえこれはその場しのぎだ。明日天気になあれ(ドゥマニル・テンポ・エビーロ)が本格稼働すれば樹殻も猛威を揮うだろうし、そうなれば痛いの痛いの飛んでいけ(ペカド・アカ・ペルソナス)では太刀打ちできないだろう。

 そうなる前に此度のことへの方を付けるをつけるべきだ。これなるは応急処置。これ以上の人口削減をさせないための措置。

 

 では──三人以上が寄っている天上の地へと戻ろうか。

 文殊の知恵も、そろそろ出ていることを期待して。

 

 

 

 うーん。

 

「病……かなぁ、これは」

「あ、あなたでわからないのな、なら、誰も分からない、で、でしょう」

「『快晴の雷』に対抗する手段を構築してくれたのはありがたいけどねぇ~、こっちはこっちで大変でねぇ~」

 

 それなりの時間を経たのだから何かアイディアが挙がっているのでは、と期待して帰ってきてみれば、彼等は全く違うことにかかりきりになっているらしかった。

 それが。

 

「Grrr……」

「uu……Jayieeee……」

 

 奇妙な唸り声をあげる、聖護魔導学園の生徒、教師たち。

 全員が拘束されているから問題はない……のだけど、問題しかないというべきか。

 

「起こしてからずっとこうなのかい? 飲食は?」

「一応ヒトの食べ物を出してみましたが、見向きもしませんでした。であればと『PANTRY』からできる限り自然由来であろうものを置いてみれば、手も使わずにガツガツと食べ始める始末。既に先生方、そして私達からも様々なアプローチをかけてみましたが、彼等の精神状態がどうなっているのかはわかりません」

「そういうモノの専門家な僕の意見を言わせてもらうけどねぇ~、たとえヒトが理性を失って野生化したとしても、こうはならないと思うんだよねぇ~」

 

 ああ、合成魔物(キメラ)の専門家の意見か。

 ……なんだろうね、これは。魂に異常は見受けられない。特に催眠のようなものがかけられているわけでもない。

 ただ……似た症状は知っている。

 

屍食鬼(グール)、というものについての理解はあるかい?」

「理性を失った吸血鬼(ダンピール)がなるもの、でしたか?」

「いんやぁ、それは俗説というか、蔑称だねぇ~。『英雄平民』クン、君が言いたいのは本物の方だろう?」

「そうだね。ではその口振りからして、教師ドクラバ・アッシュクラウン、君には心当たりがあるのかな」

「心当たりと呼べるほど大層なものではないけどねぇ~。ヒトガタで、生物ではなく死した人間、魔物を主食とする魔物の総称……という認識だよぉ~」

 

 良い理解だ。やはり教師D'の知識量には目を瞠るものがあるね。

 

 ただ、それでも聞いたことがある止まりの知識か。普通に生きていれば遭遇はしないだろうからねェ。

 

屍食鬼(グール)。大枠は教師ドクラバ・アッシュクラウンの言葉通りで間違いないけれど、生物としての根幹部分は魔物ではなく人間である、というところに大きな差異がある。先日学園を襲った『ジェヴォーダンの魔物』は"人間が魔物化したモノ"だったけれど、屍食鬼(グール)は"人間が人間のままに魔物のようになったもの"を指す。では、シャニア・デルメルサリス。人間と魔物の違いは何かな」

「……突然教師面ですか。魔法の使用や容姿の変化など、既にスヴェナさんやドクラバ先生から聞いているとはいえ……まぁいいでしょう。コホン、それで、人と魔物の違い。そんなもの、あるのですか? 根源の部分に違いはないと習ってきましたが……」

「おや……そう教えているのかい、教師ドクラバ・アッシュクラウン」

「生物学的に差異はない、が正しいよぉ~。けれど、別の場所で違いがある。ただそれは、少なくとも今の僕たちには認識できない領域だねぇ~。……ま、腐っても死霊病毒(ネクロクラウン)の一員として言うなら、魂に違いがあるよぉ~。人と魔物違いはそこだけで、それが変質しない限り人は人で在り続けられる」

 

 ああ……そうか、死霊術に特化した死霊病毒(ネクロクラウン)か始祖Dくらいしか魂を見分けられないから、教育としては「生物学的に差異はない」と教えるしかできないのか。

 

「余計な会話を省くと、今の彼らはその屍食鬼(グール)というものになってしまっている、ということで良いですか、一応」

「己はそう診るね。ただ、自然由来の食事をしているというのなら、まだ成り切ってはいない……成りかけの状態であると言えるだろう」

「ち、治療法は、ない、ないのかしら。ここ、このままにしておく、おくわけには、い、いかないでしょ」

「あるにはあるけれど……」

「けど、何よ。アンタが言い淀むってことは、私達の誰かが何かを犠牲にしなければいけない話なワケ?」

「そういうわけではないよ、エンジェ。ただ」

 

 ただ。

 

「己の知るやり方では、完全な元通りに、ということができないんだ。あるいは、まぁ」

 

 一瞬見るのはスヴェナの方。それだけで彼女は察したらしく、首を振る。

 そう、殺して生き返らせる、が一番手っ取り早い。ただそれはこの場にいる誰もが望まないだろうから……。

 

「やり方があるなら、とりあえず教えて。その後皆で考えればいいでしょ」

「……そうだね。そうしよう。まぁ、やり方自体は簡単なんだ。つまりだね」

 

 もう隠す意味もないので手元に光を集めてホログラムの球体を作成する。

 ……一応四大元素(エレメントリー)の魔法……まぁいいや、五家の魔法じゃない魔法ってことにしておこう。

 

「現状の彼らは"元の彼ら"に"魔物の魂"が縫い付けられている状態にある。融合しているのが『ジェヴォーダンの魔物』だとすれば、これはただの縫い付けだから、それを取ってしまえば良いだけ……なのだけど」

 

 ホログラムで作り上げた球体に対してべちゃりと新規テクスチャを縫い付け、それを除去する。

 すると、球体には抜糸痕……だけでなく、テクスチャがあった部分への凹みが追加された。

 

「こういう風に、必ず痕跡が残る。……この痕跡が厄介でね、魂を扱うのであれば……たとえば教師ドリューズ・ネクロレアニーであればわかると思うのだけど、魂に干渉する魔法はどこに作用するかわからない、というデメリットが付き纏う」

「そうなのですか、先生」

「い、一概に全てそうとは、は、言い切れないけれど、そ、そうね。どこに縫い付けられ、られたのか、わからないこと、そして、て、魂とは常に形を、変え、変え続けるものであること、この二つがあるから、から、単純な除去では、は、意味が無い、というのは理解できるわ」

 

 魂の言語を扱い得るものでもこれは難しい施術だ。

 現状ある魂を別の形に変え、その上で元に戻すとなると……バックアップでもない限りほぼ無理であると言える。円輪の年代記(CHRONICLE)に接続してデータを持ってくればできなくはないけど、そこまでのことをするかどうかはエンジェ次第。頼まれたのならやってあげなくもないけど、という具合だね。

 魂とはエネルギー塊のようなもの。それでいて水分を多分に含んだ粘土のようなものなので、最初の形に形成し直すならイチから作り直した方が早い、という結論に至る。

 

 ……あ、もう一つ……あるにはあるな。

 

「かなり乱暴なやり方になるけど、もう一つあるにはあったよ」

「『一応平民の人』、それは」

「いや、君の知るやり方ではない。もっと乱暴な手段だ」

 

 つまり。

 

「縫い付けられている魔物の魂に人の魂を上書きする……そうすれば、少なくとも欠けることはない。……魔物の嗜好を取り込む上に新規皮質が付くから……元の人格に加算が成される形にはなるけれど、少なくとも除去よりは元の人格に近しくなるはずだ」

「り、理論上は、可能そうね。た、魂を完璧に知覚できる魔法使いと……と、と、新規縫い付けの技術を有する魔法使いが必要になる、け、けれど」

「本来であれば施術をしたのだろう『残照回廊(リメノンス)』の魔法使いにやらせたいところだけど、全員死してしまったからねェ。……ま、後者は己がやるよ。魂の知覚は、君の夢幻空間で行えば問題ないだろう?」

「……今更なぜできるのか、とは、と、問わないけれど……問題はもう一つあ、あるでしょう。……上書きする魂は、ど、どこから取ってくるの。……まさか他の場所から剥がして、と、とかであれば、い、意味が無いわ」

 

 ふむ。案外理解渡が高いな。打つ手なし、という感じで己に投げてきたから知識はほとんどないものと思っていたのだけど、そうではないのか。

 指摘されなければ対象を複製して貼り付けるというとても簡単な手段を取ったのだけど、指摘できるということは知覚できるということでもある。この案はなしか。

 

 ふーむ。

 

「ヒトの魂であればなんでもいいワケ? なら私から取るっていうのは」

「本末転倒だよ、それは。君の人格に欠けが出ることになる」

「つまり、それでできるにはできるってことよね?」

 

 ……できるけど。

 確かに人間の魂ならなんでもいい。シリアルナンバーは違っても型番が同じだからね、なんでも嵌るよ。

 でも、それをするくらいなら複製を作るよ己は。エンジェが身を切る必要はない。

 

「ヒトの魂であればなんでもいい、というのなら、始祖ディアナを頼るのはどうかなぁ~。あ、君達のその怪訝な目は僕にも理解できるし、始祖ディアナの所業を考えれば論外と言いたくなるのもわかるけどねぇ~、彼女はヒトの魂をこれでもかってほどに溜め込んでいるからぁ~、ここにいる人数分くらいなら融通してくれるんじゃないかなぁ~」

「危険過ぎます。そもそも『残照回廊(リメノンス)』にも始祖ディアナ・ネクロクラウンは関わっていたのでしょう? それこそ『ジェヴォーダンの魔物』や『ココダトレイルの大蜘蛛』、そしてスヴェナさんが襲われた遠洋課業にも」

「一応私も反対票を出しておきます。私にとっては……因縁のある相手、ですので」

「会ったことないからわかんないんだけど、始祖ディアナってそんなにやばいやつなワケ? 噂だけが一人歩きしてる、とかじゃないの? 私、自分の目で見てもいないことを信じるの、あんまり好きじゃないんだけど」

 

 うーん。

 う、うーん。いや、先日会った感じ、情緒は本当に落ち着いたよ。というか三百年前の時点でかなり落ち着いていたよ。

 ただ……危険人物かどうか、そしてそういう交渉に対して何を代価としてくるか、と考えると……どうしても、ねェ。

 

「……く、腐っても、私とドクラバ先生は、は、死霊病毒(ネクロクラウン)の分家。……私達が、こ、交渉をしてみ、みるわ」

「若干難しい話過ぎて口を挟むことを躊躇ってたアリスですけど、分家の出であるアリスからしてみれば、本家の人間に所有物の融通を、というのはそのー……期待薄というか望み薄というか、じゃないですか?」

「況してや相手は始祖。危険すぎます、ドリューズ先生、ドクラバ先生」

 

 少女Cはかなりの慎重派。少女A'はずっと黙っていたと思ったら口を挟めないでいただけ……で、やや否定派。スヴェナは復讐対象だから当然のように反対派で、エンジェは「会ってみないとわからない」……中立派かな。

 対し、教師二人は。

 

「わ、私達は、教師よ。そして、て、死霊病毒(ネクロクラウン)の魔法使い。治せる病が目の前にあって、て……手段を、可能性は少なくとも、とも、私達が用意できる、というの、な、なら」

「志半ばだけどねぇ~、僕達は生徒を見捨てるようなことはしないよぉ~。同僚たる教師は、まぁ、ついでに助けてあげるって感じだけどねぇ~」

 

 ……。

 

 余計なことは言わないでおこう。

 そんなリスクを冒さずとも治癒できる術が己にはある、というのは……ノイズだ。

 あの虫ほど敏感ではないけれどね、己もこういう存在には価値を見出すよ。

 

「先生たち、お願いがあるんだけど……。その交渉の場、私も連れていってくれないかしら……じゃなくて、ですか」

「エンジェ、危険です、一応」

「エレメントリーの御令嬢といえど、相手は始祖ディアナ。その命が重く見られるということはありません」

「スヴェナもシャニアも心配してくれてるのわかるし、危険なのは充分伝わってるわよ。私でも始祖ディアナの厄介な噂はいっぱい知ってるし。でも、やっぱり会ったことのない相手を悪者と決めつけられるほど私の心は強くないのよね。……それに、皆を助けたいのは私も同じだから」

 

 己にとっては想定通り。さて教師二人の反応は。

 

「だ、ダメよ。これは、こういうことは、大人にま、任せなさい」

「そうだよぉ~エンジェクン。君まで犠牲になることはないしぃ、加えて言うなら、僕達がいなくなった後、みんなを、そしてこの世界を引っ張っていくのは君になるだろうからねぇ~、こんなところで命を散らしちゃいけないよぉ~」

 

 否定、か。あくまでエンジェも……守るべき生徒である、と。

 

「……どうしても、だめですか」

「ダメよ、これは、絶対に」

「エンジェクン、君はもう少し自分を大切にすべきだよぉ~」

 

 己へは一切振り返らないエンジェ。多分彼女はわかっている。己を頼れば全て滞りなく解決できると。

 それでも、と。

 

「加えて言うなら、ドリューズ先生? あなたもこの施術に必要な人材なんだからさぁ~、僕一人に任せなよぉ~」

「そ、それはでき、できないわ。私だって教師──」

「うんうんうんうん、教師だから、生徒を助ける役目があるんだろぉ~? 僕は魂を知覚できないからねぇ~、役目、役割という観点で言えば、矢面に立つのは僕であるべきだよぉ~」

 

 ……これはどちらと取るべきかな。

 教師D'は何か隠し事をしている。それはエンジェたちを害するものではないけれど、恐らく倫理を飛ばしたモノだ。

 献身精神、自己犠牲……のように見えなくはないけど、彼は一人で始祖Dに相対したいものと見た。

 

「ネクロクラウンの本家の位置座標を教えるから、僕をそこへ送ってほしいなぁ、デルメルサリスの二人」

「一応、言っておきます。……誰も喜びませんよ」

「可愛いこと言ってくれるじゃないか、スヴェナクン。けど、心配せずとも役目は果たすつもりだよぉ~」

「……『一応平民の人』。認識錯誤の大半を解いたと言っていませんでしたか?」

「今のは無粋だったからねェ」

 

 はぁ、と溜息を吐くスヴェナ。彼女の言葉がどう翻訳されたかについては……ま、「可愛らしい心配」だから、そこまで気にすることでもないさ。

 

「どの道この地から境界門(ワープゲート)を開くことはできません。『一応平民の人』、お願いしてもいいですか」

「いいよ。それと、交渉に関わる気は無いけれど、その成否をエンジェたちに伝えることくらいはしてあげよう。教師ドクラバ・アッシュクラウン。君の生死状態に関係なく、ね」

「最近の子は優しいねぇ~。──それじゃ、行ってくるよ」

 

 さぁて……どうする気かな、教師D'。

 君が何を隠しているのか、存分に見せてほしいところだねェ。

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