魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
真っ黒な島の真っ黒な城の真っ白なテラスにて、コルリウムが咲かせた真っ赤な花。
ただ、それだけでどうにかなる相手ではないことは知っている。それは彼の背後に現れた数名……元『
であれば己のすべきことは一つ。
「恐らく己のせいでところどころ見えなかったとは思うけれど、"敵"の使う"突如としてあらゆるものが消失する術"は現状防御手段がない。己の意識が向いている対象ならば引き留めてあげることもできるけれど、一度食らってしまったらアウトだ。覚えておくといいよ」
「──ほう? あの『詐欺師』ともあろうものが、あまりにも殊勝な発言をするじゃあないか。思わず偽物かと疑ってしまったよ」
「ちょっと、失礼ですよ! 『あのお方』からいただいた恩義に報いるがためにここに来たんでしょ!」
「安心しろ、俺は『お館様』を信奉しているが、今の発言はそんな俺でさえ疑念を抱くものだった」
と……元『
勿論全員ではないけれど、それなりの数が来ている。
「どういう風の吹きまわしかな、ガエン。普段のうだつが上がらない男、はどこへ?」
「なぁに、これでも私はガエン・ネクロブレイク。本家ご当主の危機とあらば駆けつけないわけにはいかないだろう?」
「……ネクロブレイク。白スーツさんが勝手に作った家の一つですねぇ。わたしのデザインしていない分家……ですから興味はほとんど持っていませんでしたし、ネクロブレイクの起源たる魔法使いには勘当宣言を渡しておいたはずなのに、まーだ
「分家の一つにも数えられていなかったという衝撃の事実に顎が外れてしまいそうだが、どの道
芝居がけて話していたガエンの首から上が消失する。
……今、一瞬鎖のようなものが見えたな。
「あれ、死にましたかぁ?」
「会話は大事なコミュニケーションの手段、だろう? いつまで死んだふりをしているんだい、ガエン」
問えば、消失した首から上が瞬時に元通りになる。
多少の気泡を残しつつ……特に何でもない様子で肩を竦める彼に、始祖Dは得心が行った、という様子。
「ああ、ウォーラークラフトなんですねぇ、元々は。
「混血、とはまたプロセスが違うのだけどね。しかし、よく知っていたね、
「ヒールクラウンを作る時に取り入れた血ですからねぇ」
……己達と鮮血の花を咲かせたコルリウムを挟んだ向こう側でヒールクラウンの彼がギョッとした目をしているけれど、今はこちらへ詰めてくる気は無いらしい。良い判断だよ。
じゃらり、という音を聞く。
「ディアナ、伏せるんだ」
「はぁい。……あ、初めてじゃないですかぁ?
「かもしれないねェ」
伏せさせた彼女の頭部。それがあった場所に、鎖のようなものが飛んでくる。
先程聞いた音は幻聴。この鎖も今己が自分の目を創り変えて見えるようにしたものだから、普通の人間にとっては幻覚に等しい。
けれど──掴まえた。
「ガエン、ミストヴェイルの子は誰か連れてきているかい?」
「いないけれど、模倣はできるよ」
「じゃあ今すぐに。不可視の絶対攻撃は、けれど劣化品だったようだ。己の知っている技術は見ただけで発動する類のものだけど、この敵のものは何かを射出して対象に絡みつかせなければ発動できないらしい」
へぇ、なんて言いながら、ガエンの身体から霧が噴出され始める。
それによって露になるは……やはり鎖のようなナニカ。己が掴まえている一本だけじゃないね。数本がこちらを窺っている。
根元を探れば……ああ、消失した。どうあっても自分たちの所在を悟らせたくないのか。つまりそれが死に繋がると知っているが故の行動だねぇ。
「
ぽつりと呟かれた言葉は始祖Dから。
それは彼を呼んだ声ではなく、魔法名としての声。
それにより──つい先ほどここで散った『彼』が再生される。
即ち、ドクラバが。
ただし肉体だけだ。だからその構築された肉体に魂を嵌め込んで、サービスで服も生成してあげた。
「……へぁ~?」
「あなたが死してから少しばかりの時が経ち、事情が変わりましたよぉ。よってわたしはあなたを蘇らせました、アッシュクラウンの子。この場にいる、そこで鮮血の花を咲かせている者以外は一時的な味方ですよぉ。そして明確な敵は不可視の攻撃を
「あー……起きぬけ、と称していいのかわからないけれどぉ~、生き返ってすぐの情報量じゃないねぇ~」
などと文句を言いつつも煤を展開するドクラバ。空気を読んでか、ガエンが霧を引かせていく。ウォーラークラフトではアッシュクラウンよりも細かい粒は作れないだろうし、良い判断だ。
「『詐欺師』。彼は私達の同輩かい?」
「いいや、彼はディアナ・ネクロクラウンの力で蘇ったに過ぎない。君達とは根本から違うよ。ただ己も霊魂の定着技術を提供したから……遠い親戚、くらいに思っておけば大丈夫だ」
「充分だ。ようこそ同胞。ここなるは死後の世界。二度目の命をどう使うも自由だが、今はこの場を切り抜けることに全力を注ぐことをお勧めしよう」
「……白スーツさん、なんですかぁこの人。ちょっと白スーツさんに似てません?」
「傷つくなぁ始祖ディアナ。私はそれを言われるのが一番傷つくんだ。前にも言われて気を付けるようにしていたのに、そんなに似ているかい?」
「少なくとも白スーツさんはそんな風に傷ついたり落ち込んだりしないので、そこは違いますねぇ」
己達が雑談に花を咲かせている間にも着々と「準備」は進んでいるらしかった。
真っ赤な花を咲かせたにも関わらず微動だにしないコルリウム。彼の出方を窺っている……というよりは、次に起こることを知っているがために準備を進めているらしい元『
情報の共有とか無いのかい? 精度の良いクライムドールを二人も有しておいて、ケチなことだねェ。
「あー、いないとは思うけど、非戦闘員がいたらオレっちの
「僕は非戦闘員扱いかなぁ?」
「十二分に戦闘員扱いだよ、ドクラバ・アッシュクラウン。とはいえあの煤世界はこの相手には相性が悪い。先に出していた剣でも作っておくといい」
大人遣いが荒いねぇ~、なんて言って、真っ黒な大剣を湛えるドクラバ。
……先に見た時も思ったけれど、存外様になっているというか……剣で戦う、という姿は思い浮かばないのに、しっかりと構えられているというか。
そういうスタイルを確立させているのだろうか。
「いねーみたいだなー? ま、『なんちゃって平民』以外のことはわかりきってたんだけど……んじゃ、閉じるぞー」
「そろそろ盟主……いや、コルリウムが動き出す。各自警戒態勢を忘れぬことだ!」
言葉の端が切れるか切れないかのあたりで、コルリウムが咲かせていた赤が……砕け散る。
……肉体まで強化人間なのか。まずは技術者から潰したいところだねェ。
「いや、……成程、久しいね、魔法世界。そういえばこんな場所だったし、そういえばこの光景にも見覚えがある。ただ記憶との齟齬があるな。ディアナ・ネクロクラウンが死していないことと、ここまで多くに歓待を受ける予定ではなかったはず。当然……樹殻、おっと……『忘我の繭』の様子もかなり
「十七年を早めたと言っていたよ。君より若いコルリウムが君と同じところに到達し、歴史を折り畳んで世界の歩みを早めたんだ。お気に召さなかったかい?」
「おや……久しい顔だ。私にとっては、そうだな、今呼ぶべきは、『嘘吐き君』で問題ないかな、当然に」
「なんでもいいさ、呼び名なんてね」
さて……どこまで深入りするべきか。
コルリウムを殺す気があるのなら、己はとっととやっている。強化人間の一人や二人、人目を気にしなければいくらでも殺せるんだ。加えて周囲の人間が大事なら天上の地にでも転移させている。
今の己は成り行きに身を任せているだけで、これといった目的がない。必要人数分の魂は貰ったしね。
しいて言えばドクラバを連れ帰りたいくらいか。彼はまだまだ必要に思えるから。
とすれば。
「敢えて聞こう、『
「まだ苦戦中~」
「私も未だ使い慣れん……だが、生前の魔法を使う術はガエンらに教えてもらった。戦闘行動に問題はない」
「それでは
「恐ろしい話だ。私は世界を救った救世主だというのに、また殺されるのかい?」
「敢えて問おう、『アルター・コルリウム』。新しい肉体、新しい世界は気に入ったかい?」
彼は、コルリウムは……その身からナノマシンを迸らせ始める。
魔力としてデザインされていない、強化人間の使うナノマシン。この世に満ちた魔力は全てナノマシンの機能制限版。魔力にできることはナノマシンにもできる。より効率的に、より強力に。
ゆえにこの場にいる魔法使いがどれほど力を結束させたところで全滅は必至。己が手を貸さない限り、その結果は目に見えている。
「
「良い答えだ、アルター・コルリウム。君は若い君と同じく己の逆鱗を踏み割った。──この世界は己が作り上げた世界。それを侮辱し、冒涜するということは、そのまま己を貶すことに同じ。測りあぐねていた距離はこれにて定まった。これよりこれから、君は己の敵だよ、アルター・コルリウム」
宣言する。宣言を下す。
これにより、己の手によってデザインされたすべてのナノマシンは彼を敵視するようになる。
文字通り世界が敵に回るんだ、存分に楽しんでくれたまえ。
「……『嘘吐き君』。私の頭蓋には樹殻の枯らし方や生命の次元階位の上げ方も入っているわけだけど、その一切に興味を示さないのかい?」
「その程度、己にもできるよ。ただ己は、というか己達は養殖に興味が無くてね。だからこそ自由性を残す。人格に梃入れをしない。誰かの手によって辿り着いた
樹殻の枯らし方など元より興味が無い。だから話題にも上げない。
しかし、色褪せたねコルリウム。己と会ったことのあるコルリウム本人のはずなのに、その輝きは失われてしまっている。……樹殻の抱擁は魂に悪影響を及ぼすのかな?
「成程、流石は『不確定性の権化』。私が視た未来にも、私の理想とする世界にも不要な君は……やはりこの場で殺しておきたいところだ」
「へぇ? 君の命を狙う全てを無視して、己に敵意を向けるのかい?」
「周囲の有象無象のことなど初めから視界に入っていないよ。制限されたナノマシンしか操れない劣化強化人間など、私の配下の敵ではないのだから」
「だとしたらぁ、わたしを殺しておこう、という判断は、おかしかったですよねぇ?」
黒い炎が湧き上がる。いや、見た目と性質が似ているだけで、これは炎などではない。
これは……己の使う液状化したブラックホールによく似たものだ。
「……始祖ディアナ・ネクロクラウン、か。確かに君は脅威だった。私は当然始祖五人の全てを殺して過去へと赴いたというのに、この未来の私はそれをしなかった。いやはや、理解に苦しむよ。始祖だけは他の羽虫とは違う害虫だと理解していたはずなのにね」
「充分ですよぉ、コルリウムさん。充分な敵意です。白スーツさんが敵認定した時点でわたしの敵でもありましたが、今明確にあなたを殺害対象として定めましたぁ。──それではさようなら」
コルリウムへ魔法が殺到する。
余裕を保った顔でそれらを打ち消さんとしたコルリウムは、けれど違和感を覚えてか空間抱擁にて回避を選択した。……いや、今のは単なる緊急回避か。量子間テレポーテーションの。
「何を驚いているんだい、コルリウム。言ったはずだよ、君は己の敵だと。『賢者』たちの時代になってようやくナノマシンへの所有権宣言ができるようになった……それよりも前に死している君の使うナノマシンは時代遅れ。ある意味でこの世界に満ち満ちる魔力と同じフリーの状態にある。いや、この時代の魔力を参考にしてあの時代でのあれこれに口出しをしたのだと考えれば当然の帰結ではあるか」
「……おかしな話だね、それは。私の死後も生き続けた者達によって作られたのがこの肉体だ。ゆえに当然、所有権宣言はデフォルトで付与されている。これは
「何度も言おうか、アルター・コルリウム。何度も思い知らせようか。君の生きた時代にいた己と今の己は地続きで、当然それよりも前にあった記録……己が残してきたあらゆる形跡、痕跡から浮き彫りとなる己も全て己だ。魔法世界を作ったのが己だと言ったけれどね、もっともっと先なんだよ。もっともっと根本だ」
確かに
その二つが稼働するエネルギーの所有者は己だ。……いやまぁあの虫とは対等の関係にあるから己だ、と言い切ることはできないのだけど。
「言葉を正確に。それを好むのであれば言おう。魔法世界も、この世界も、全てが君の敵だよ、アルター・コルリウム」
……ま、この星は己の敵だから、星を味方につけたのならワンチャンスあったかもしれないけれど……君は樹殻を作ってしまったからね。
君自身もまた、星の敵認定されていることを忘れてはいけないさ。
「予定変更だ。繰り上げにはなるけれど、彼女を投入しよう。──ここで散ってくれ、『嘘吐き君』。当然のようにね」
超高空。樹殻の消退フィールド付近から何かが射出される。
己が始祖Dとディアナに保護をかけている内に着弾したソレは……ヒトガタ。
身の丈に合わぬ巨大なランスを携えた……虚ろなる目をした少女。
「
「当然だ。彼女を捕らえるのにこちらも手痛い代償を払ったからね。その分の働きはしてもらわないと」
……モルガヌス・リープ。何が「今もどこかで彷徨っているはず」、だ。性質上己の感知には絶対に引っかからないからそういうこともあるのかな、と思っていたけれど、とんだ大嘘吐きじゃあないか。
彼を信用したのが間違いだと言われたら、確かにそれはそうなんだけど。潜在的に敵だからね。
「白スーツさん、彼女は? ……心臓が動いていませんけどぉ」
「ある意味で君の魔法の元ネタ、と言えるのかな。彼女は真なるゾンビだ。魔力を含む一切の供給を必要としない、ただ在るだけで活動し続けられる不死者。そして……一応、己という種の天敵と言える」
「それならぁ~、僕らが前に出ようかぁ~?」
「いいや、君達では話にならないよ。それより……ガエン! ドクラバ・アッシュクラウン、ディアナ・ネクロクラウンに情報の共有をお願いするよ。君達は君達でアルター・コルリウムの手下の相手を頼みたい。可能ならばアルター・コルリウムもね」
「勿論、元からそのつもりだよ、『詐欺師』。そもそもアルター・コルリウムは彼らの復讐対象で、その復讐を完遂させてあげるために私達はここにいる。その露払いとあらば全力を尽くそう」
ならば、と……ドクラバ、始祖Dをガエンのもとへ転移させる。
直後結界が上がった。……成程、未来視か。
これにより、己とスファニア・ドルミルだけの空間が形成される。アルター・コルリウムであればこの程度の結界は破れるだろうけど、破ってくる心配はしなくてもいいだろう。
彼は彼女を心の底から信じていたようだからね。
「──そうだ、一応初めましてを言っておこう、スファニア・ドルミル。大昔に分かたれた同胞とはいえ、フリスが迷惑をかけたみたいだからね。……正直言って君がこの星に残ることを選択したと知った時は驚いたものだけど、どうしてその選択をしたのかは……聞かせてもらえるのかな」
自意識を奪われた、虚ろなる瞳の少女に問いをかける。
かければ。
「……俺は、フリスの天敵。それはつまり、アスカルティンやモモ、そんで……ヘイズのやつの天敵でもあった。あいつらがこの星を出ていくと選択した最後の頃には……俺はもう抑えが利かなくなっていたんだ。少しでも気を抜くと、フリスたちを殺したくなる。お前みたいなやつを目にした瞬間、理性がトびそうになる。……折角あいつらが……チャルたちが認めてくれた俺という人格をかなぐり捨てそうになる」
「本能に抗えないか」
「ああ、フリスもそういう結論を出していたよ。あいつは"その程度僕が抑え込めるから問題ない"とは言っていたけど……俺が嫌だった。フリスは正直どうでもいいが、アスカルティンとモモを殺害対象に考えてしまう俺が、その思考が嫌で嫌で仕方がなかった。だから……悲しくはあったけど、別れを選んだ。この星に残ることを選んだんじゃない、あいつらと別れることを選んだだけだ」
自意識が奪われた、というのは演技だ。ゾンビにナノマシン技術なんか効くわけないし。
ただ彼女はずっと、失意の底にいたというだけなのだろう。
「お前は、フリスと似た存在。そういう認識でいいのか」
「ああ。根本が同じで、別軸に変化を遂げた存在だ」
「……問いを。お前は俺を……別の存在に変えることは、できるか」
それは。
……そうか、あの虫はその択を見せなかったのか。彼にとっての「英雄価値」が損なわれると知っていたから。
「友達に会いたいのかい?」
「当たり前だろ。……会いたくないわけがない。ずっとずっと……ずっとずっと、あいつらのことを想って……いつか帰ってくるんじゃないかって……。一度フリスが帰ってきたから、余計に思うようになったんだ。けど……あいつら、もう俺を忘れちまったんじゃねえかってくらい、帰ってこなくて」
ふむ。成程、これはいわゆる「身内の不始末」かな?
余程希望を見せる去り方をしたのだろう。そして一度帰ってきたのも悪かった。相変わらず余計なことしかしないね、アレは。
「可能だよ」
「ほん……とか? ……何を差し出せばいい。俺は、あいつらに会えるなら……あいつらとまた一緒に過ごせるのなら、何を捨てたっていい。……教えてくれ」
「君は星の産物。君に干渉することは己の身を削ることに等しくてね、代償が大きい。だから、確認する。君の望みは、君自身に何ら変わりなく、ただ己達の天敵である、という要素だけを消し去ってほしい、という要望。それで相違ないかい?」
「ああ。いや、記憶と人格以外なら……何が欠けたっていい。俺の異常性はフリスから散々聞かされた。俺の魂が俺を掴んで離さねえってことは聞いた。そこへは干渉できねえってことも知ってる。だから、どの道無理なことはわかってるが、その二つ以外ならあらゆるものを奪ってくれていい。……頼む」
粗暴な口調の少女は。かつて存在したヘイズ・イシイという名の上位者に言葉を教わった彼女は、心からの懇願をする。
いやはや。
やれやれ、というべきか。パブリックイメージが酷過ぎるよね。
「何も奪いやしないよ。己はフリスとは違うんだ。……ただ、そうだな。今この世界が困窮にある、ということは知っているかい?」
「ああ……いつの頃か忘れたが、空を樹が覆って、おかしくなった。そんで……俺は外に出されなかったが、外の様子はなんとなく感じ取っていた。樹が人間を攻撃してる。樹が人間を食ってる。そんな状態だろ」
「その通り。よって己が君の存在を変更する代わりにお願いしたいことは、今いる人類の防衛になる。君からしてみれば敵が機械から樹木に変わっただけだ」
「……根本がフリスと同じな奴が、人間を守ろうとするのか? あいつは心底どうでもいいもの、みたいに扱ってたのに」
「そこは残念ながら己も同じだよ。ただ、彼にとっての彼女……チャル・ランパーロのような存在が己にもいてね。その存在が、人類の死を望んでいない。理由はただそれだけだ」
言葉は。
「そっか。……お前、あいつが羨ましいのか」
「……そうだね。そういうことだ。己も彼の経験した感情を味わってみたい。だから……そのために、足掻いてみている」
「良い言葉だ。それなら……あいつらに会いたい、って理由だけじゃなく、やる気ってものも出てくる。……思ってもみなかった。あいつらに会うための条件が、世界を救うこと、か。そりゃあ……次あいつらに会った時の、良い話のタネになる」
「ただ、申し訳ないけれど、己の愛情は……この愛情と呼べるかも定かではないものは、その存在の為だけに使う。だから君を守ることはできない。君は君の力だけで己が身を守らないといけないし、樹殻との戦い、あるいは他の何かとの戦いの最中で死してしまう可能性もゼロではない。そうなった君を蘇らせることは正直言って難しい」
そんなことを己が言えば、彼女はきょとんとした顔をする。
そして、楽しそうに口角を上げた。
「ハ──ゾンビの俺にそんなことを言ってくるやつがいるとは思ってなかった。安心しろ、死なねえよ。……それよか、お前こそ死ぬなよ。俺という天敵が敵に回らずとも、お前はなんか……フリスと比べて危なっかしいというか、ちょっと"不完全"だ。俺をあいつらと再会できるようにする前に死なれたら、それこそ俺には手段が無ぇ」
「善処しよう。──では最初の仕事だよ、スファニア・ドルミル。君を己にぶつけようとした彼、どうにかしてくれるかな」
その槍が、彼女の身の丈に合わない突撃槍が構えられる。
「モード・レヴィカルム!」
振り抜きと共に放たれるは太陽光線。
それは当然のように結界を切り裂き──。
「久しぶりに楽しくなってきたじゃねえか! 世界を救うなんて些事であいつらに会えるってんなら、俺はいくらでも救ってやるよ!」
落ち着きを得たことで鳴りを潜めていた「元の凶暴性」が顔を出し、コルリウムらへ牙を剥く。
さぁ、行こうか。このつまらない戦争にケリをつけよう。そして、本筋たる骨肉相食む血筋争いを返しておくれ。その傍らで己はエンジェと愛情を育んでみるからさ。