魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
破られた結界の外は既に渾沌としていた。
火力──搦め手の一切ない超威力の魔法が飛び交う場所。こと出力に限って言えば、本家と分家に差は存在しない。無論扱う魔法によって戦闘向きかそうでないかは変わってくるけれど、それくらいは元『
ただし、それら超威力の魔法は全てが打ち消されている。コルリウムの仕業……ではなく、彼の抱える手下によるものだろう。前身文明の生き残りなのかその子孫なのかはわからないけれど、指向性を持ったナノマシンでしかない魔法の悉くを防いでいる。この戦場を悠然と闊歩するコルリウムの、その道行きを守るように。
その彼を阻むようにして降り立つは、身の丈に合わぬ突撃槍を持った少女、スファニア・ドルミル。
「『嘘吐き君」に何か吹き込まれたのかな。当然、それらはすべて嘘だよ、スファニア・ドルミル」
「生憎だがな、俺は騙されることには慣れてんだよ。その上で言う。アイツは特定の存在に対しては真摯に対応できるヤツだ。あるいはフリスのヤツよりも信用に足るほどに」
「フリス、というのが誰かは知らないけれど、そんな根拠のないもので寝返り、私の眼前に立つということに疑念を抱くことはないのかな。当然、おかしな行動に見えるよ、今の君は」
「胡散臭いヤツなら死ぬほど見てきたからどっちもどっちで──今、俺の経験則だけで判断し、俺というアイデンティティを確立させたあの時代の友人に誓った行動を取るってだけだ。誰の言葉も信念もやり方も、俺には関係ないんだよ」
白烙を湛える槍。そのまま雑談に興じるかと思われていたその直後、彼女の槍の穂先はコルリウムの眼前にあった。
激しい青雷が迸る。突撃槍カイルスと強化人間のナノマシン防護フィールド。そのぶつかり合いは……次第に防護フィールドへと罅を入れ、その穂先をフィールド内部へと押し込ませる結果を呼び寄せる。
「モード・レヴィカルム」
「っ!」
その状態から発射される太陽光線。強化人間と言えども食らえば蒸発必至だろう。
「やれやれ、私は単なる科学者なのだけどね──当然、防ぐよ」
防がれる。……あれは……あのブルーメタリックは。
「スファニア・ドルミル! あの鉱石は君の不死性に効果的だ! 回避を推奨するよ!」
「フリスより人間味があっていいじゃねえか、オマエ。ありがたい情報だ。んでもって要求もしておく。積極的でなくともいいから、戦闘に参加しやがれ上位者」
「求める割合は?」
「四割」
「良い所をつくね。いいだろう」
己達との付き合い方をよく知っている。全力戦闘などするはずもないし、低く見積もられても興味を失くす。
四割はあまりにも良い塩梅だ。
「結局参戦してくるのかい、『嘘吐き君』」
「君の言葉を借りるのならば、当然にね。なんせ君は己の敵なのだから」
「俺が突っ込む。お前は追撃。できるだろ?」
「無論だ、好きに戦いなよゾンビの君」
己の言葉が終わる前に踏み出していたスファニア・ドルミル。高熱を放つ槍というのはそれだけで危険だ。強化人間の皮膚をも熔かして突き破る熱量ともなれば、コルリウムは回避を選択せねばならない。
彼女が現れてからコルリウム配下の攻撃や防御の一切か来なくなったのは……元『
申し訳ないとは思うけれど、敵認定したコルリウムといえどもそこまでの殺意を己は有していない。
ただ、四割の力で助力を、という依頼ならば受けよう。
「
ブルーシールにてスファニア・ドルミルの
先日は聖護魔導学園が食堂の全てを消し飛ばしたこの技は──しかし、量子間テレポーテーションによって回避される。……今のは己の速度に反応したというより、自動防御の作動を察知して避けた、という感じだね。成程、自動防御は力の高まりに対して反応するものだから、それに頼ることをしなければ良いセンサーになるのか。
「フリス──の親戚! オールドフェイス二枚寄越せ!」
「今の世界じゃそう簡単に作れるものじゃないのだけどね、ほら、サービスだよ」
古代人の横顔が描かれたコイン。その二枚がスファニア・ドルミルの手に渡る。
コルリウムの警戒がそちらへ向かうけれど、関係ない。突撃槍カイルスに作られた投入口へと挿入されたオールドフェイスは、それ本来の力を発揮する。
「モード・レヴィカルム、オーバーロード!」
直後、樹殻へ穴が穿たれた。
己のソレとは違うから再生可能だろうけど、樹殻からしてみれば寝耳に水も良い所だっただろうね。
「……ッ!」
「外した……いや、避けられただけか。すまねえ、仕留め損なった」
肩口から右腕まで。その部位をごっそりと消し飛ばされたコルリウム。
突撃槍カイルスのオーバーロードは、成程、太陽光線どころじゃない……触れたもの全てを量子分解するビーム、か。
なんてものを遺しているんだあの虫は。
「なんだ、今のは……」
「あ? なんだ、普通に喋れんのかよ。お前も俺と同じだったりすんのか?」
「いや、ゾンビよりは耐久性も不死性も劣るよ。ただ死に難いのは事実だし、心臓や脳が弱点ではない。血管の中を流れる魔力が尽きない限り動き続ける屍兵だ。だからこのまま失血させれば問題ないのだけど……流石に対策してくるか」
出血が無い。ごっそりと持っていかれたというのに、既に肉体を改編している。千切れた血管を別の場所へと繋ぎ、どの道必要のない肺や食道といった臓器類を「なかったもの」として扱い、「元からそういうカタチの生き物だった」ということにしたね。
それができるのが強化人間というものだけど、生前は強化人間ではなかった彼がこの一瞬で適応できていることは……そのまま彼への称賛へと変わるかな。
ただし、肉体を復元しなかったのは悪手だ。
「う……なんだ、眩暈……?」
ぐらり、と。残った左腕で頭を抑えながら、仰向けに倒れんとする身体をなんとか押し留めるコルリウム。
「ふふ、うふふふ……。もし……お忘れでしたらぁ、教えてあげますよぉ。──私に与えられた魔法は
血管や臓器以外の部分が瞬時に化膿する。黒く、汚く。蝕まれ行く体を復元しようとしたか保護しようとしたか、その肉体へと意識を向けた刹那。
「──二度目のオーバーロードだ。次は外さねえよ」
あらゆるものを分解する砲弾が、彼の身体を突き抜けた──。
はぁ、と溜息を吐いたのは……始祖Dだ。
「終わり、ですかぁ?」
「敵の手にヒールクラウンがいない限りは、じゃないかな。いくら強化人間といえど、細胞の一片から再生することはできない。そういう意味ではディアナ・ネクロクラウン、君の作り上げたヒールクラウンの血筋はとても優秀であると言えるね」
「雑談してる暇があったらあいつら助けにいってやれよ。……俺の攻撃は味方を巻き込みやすいからな、集団戦には向かねえ」
コルリウムという最大の敵を滅した。
だから──気を抜いたのだろう。スファニア・ドルミルは突撃槍カイルスを収めようとして。
「っ!?」
全身が煤に包まれたことに気が付いた。人間の反応限界を超えた速度での魔法行使。ゾンビでも反応できないとなれば、己以外は誰もついていけないだろうね。
ただまぁ。
「ああ、ごめんねぇ~? 君を操ろうとする糸みたいなものが見えたからさぁ~、咄嗟に守っただけなんだぁ~。それに害はないから、もう少しだけ大人しくしていてくれるかなぁ~?」
下手人はドクラバである。
言葉を聞いて抵抗をやめるスファニア・ドルミル。……少し信用するのが早すぎる気もするけれど、彼女は歴戦の戦士だからね。そういうことへの嗅覚は人一倍だろう。
「そっちは終わったのかい、ドクラバ・アッシュクラウン」
「終わった……とは言い難いねぇ~。逃げるのが上手みたいで、各個撃破はできているけれど、肝心の……技術者? というのが見つかっていない上に、あのおかしな鎖のようなものもまだまだ飛んできている状態だよぉ~」
「白スーツさん、敵は恐らく
つまり千日手か。
なにより。
「コルリウムの魂がここに無い。……回収された、と見るべきだろうねェ」
「はいぃ~、途中までは確実にあったんですけどぉ、周囲半径五キロメートル以内にコルリウムさんの魂はないみたいですぅ。恐らくは樹殻……ああいえ、『忘我の繭』からコルリウムさんの魂を引き出した『技術者』が、スファニアさんの攻撃によって肉体を失った瞬間の彼から魂を引き剥がし、その後
ふむ。どうやらその『技術者』クンがコルリウムの最も信頼を置く部下、ということになるのかな。
だって他のメンバーは戦場に取り残されているんだ、千日手といえどもスファニア・ドルミルや始祖D、そして己が介入すればケリを付けられる。
見捨てて逃げた……逃げることを強要された。
かつて「アルター・コルリウム」という男の狂信者とも言えた集団。その生き残り、か。
「とりあえずこの島は完全に固めようと思いますよぉ。今いる人間は誰一人として逃さず、そして誰も入ってくることのないように」
「そうするといい。無論、コルリウムが復活した場合……その守りは突破されるやもしれないけれど」
「復活させねえ方法はねえのか。フリスのヤツなら面倒になりそうなことは真っ先に潰しにいくだろうによ」
「己はフリスではないからねぇ。……ただ、少し考えてはいるよ。それよりディアナ・ネクロクラウン、ドクラバ、スファニア・ドルミル。君達は早い所元『
「集団戦は苦手だって言ってんだろ。……俺はこの島を出て世界を救いにいくよ。星を覆う樹、ぶち壊しちまっていいんだろ?」
「できるのならね」
「おう、やってやるさ」
言葉を吐いて……至極当然のように宙へと足を掛けるスファニア・ドルミル。突撃槍カイルスの標準機能だけど、魔力が動いていない状態でのその行為はさぞかし奇異に映ったことだろうね。
ただ始祖Dとドクラバの疑念が言葉として紡がれる前に、彼女はその全速力を以てこの場を離脱してしまった。話を聞かないのは変わっていないらしい。
「……じゃあ、僕は戻るよぉ~。始祖ディアナ、君も来てくれると助かるけどねぇ~。なんせ僕たち分家の完全上位互換なんだ、君がいるだけで僕らはとことん楽ができるからねぇ~」
「数瞬前まで敵だったことをすっかり忘れているみたいですけどぉ、まぁ、この島をこれ以上破壊されるのは面倒ですしぃ、いいですよぉ」
一瞬呆気に取られていた二人もいつもの調子を取り戻し……未だ魔法大戦と表現できる戦場へと戻っていく。
そうして、己は一人、残された。
思考する。
コルリウムの動向についてと、今後の世界への影響についてを。
彼は己が会った若いコルリウムとは違う、己の記憶にある方のコルリウムだ。ただしその魂の輝きは失われていて、こうも簡単に撤退を選ばせることに成功した。これが元のままのコルリウムであれば、ここまで簡単には行かなかったはずだ。
脅威度は正直言って極低。ブルーシールを有していたことだけが懸念点ではあるけれど、突撃槍カイルスの量子分解ビームで破壊可能な強度のものしか有していないのであれば……まぁ、どうとでもなる。
だから考えるべきは、己とエンジェが作る「争いの無い世界」に対する影響の方。
若いコルリウムはこの世界に続いてほしいと考え、この世界を美しいと言っていた。その主義主張は己に反さないものの、別の部分が己の尾を踏んだわけだけど……今のコルリウムは主義主張自体が己とエンジェの新世界を否定するものとなっている。
相変わらずコルリウムに対する殺意は薄い。だからもし、己が精力的に動くことがあるとしたら。
「……エンジェがコルリウムと顔を合わせたその瞬間、か」
博愛主義の彼女はコルリウムをも愛するのだろうか。
それとも……受け入れないのだろうか。
「──
声。それは肉声でなく、音ではなく。
遥か遠くからの……魂の言語。
「
「
大きく溜息を吐く。
「
「
「
「
本当に。本当に……あの虫は。
年齢という部分を考えれば同じだと言うのに、何が先達だ。
……エンジェの判断を待つばかりが愛じゃない。そうだね、あまりにも一般的な定義だ。教わるまでもない。
ただ……君もそうだったのだとしたら、己もそこを目指したい。
君をああまで変えた感情を、己も得てみたいから。
──
これは己の判断だ。この先で彼という天才性が必要となったとしても、己は時間を越えられない。後戻りはできない。
彼女は……エンジェはこの行為を見て、己を軽蔑するのかもしれない。あるいは見放しこそせずとも、己と愛情を育む取り組みをやめてしまうかもしれない。
……そんなことは、ないか。
己は信じるよ、君のこと。だから。
「さようなら、アルター・コルリウム」
赤雷が走る──。
事の顛末。
元『
その結果は……痛み分けというか、互いに甚大な被害を被った上で、始祖Dとドクラバによって終結が為された。
ヒールクラウンの彼でさえ復元できない攻撃……つまり「未来送り」に遭った魔法使いは計十四人。残念ながら己にそれを取り戻す手段はない。どの時代まで飛ばされたのかさえわからないから……その時の己に興味があったら、この時代で起きたあらゆる顛末を教えてあげることにしよう。
そして、判明したことは二つ。
一つはその「未来送り」が能力の類ではなく技術の結晶によるものである、ということ。敵はそれを行うための装置を有していて、その大概が破壊されていたけれど、特に何でもなく復元ができた。これで己も「未来送り」を使えるようになった。使わないけど。
ただしこの判明は、未だ残っている可能性が高いコルリウムの手下がまだ装置を有しているかもしれない、という不安を残すだけのもの。
コルリウム程の存在を
もう一つは、コルリウムが完全消滅したということを理解したはずなのに、鹵獲した敵の誰一人として絶望していなかった、という事実。
何か隠し玉があるのか、コルリウム復活が主目的じゃなかったのか。
今は始祖Dが彼ら彼女らを魂だけの状態にして尋問……というか拷問を行っているけれど、果たしてそこからどれほどの情報が引き出せるか。己が魂を触診することも考えたけれど、それだと大味な情報しかわからなくなるからね。こればかりはスペシャリストに任せるべきだと判断した。
とまぁ、ここまでがあの島で起きたこと、そしてコルリウム関連の話。
そういう諸々を任せてドクラバと共に天上の地へと帰還を果たせば……本当に嬉しい、という顔の面々が己達を出迎えてくれた。ドクラバが一度死んだこともしっかりと話したからか、主に教師Dが半ば説教をする形でドクラバを拘束して離さない。少女Cとスヴェナも思うところあるようで、あれはもう少しばかり続くだろう。
ま、感傷に浸る心を有していない己はその輪から離れ、彼の戦利品であるヒトの魂を用い、未だ唸り声を上げ続ける生徒教師たちへ施術を行う。
……本来は教師Dがいないとできないことにしていたから誰にも見られずに済ませるつもりだった……のだけど。
「エンジェ。君だって教師ドクラバ・アッシュクラウンに思うところあるんじゃないのかい?」
「あるけど、私の言いたいことは全部シャニアとスヴェナが言ってくれるでしょ。……それで? なんでアンタ、そんなにおかしいワケ?」
「……おかしい? というのは?」
「自分で気付いてないワケ? 帰ってきてからずっと私を避けてるっていうか、何かに怯えてるじゃない。なに、なにやらかしてきたのよ」
これは。
ああ……敵わないな。
「人をね、殺してきた」
「それは……今更なことなんじゃないの? アンタ、昔は『執行者』とかいう戒律機関のエージェントだったんでしょ?」
「過去はね。でも、君と恋仲になってかはら初めてのことなんだよ。それも不可抗力ではなく能動的に……己の意思で他者を殺した。あるいは今後の世界に必要だったかもしれない人材を」
「ふぅん」
ふぅん、なんて。
軽く聞いて、言って。
「それが、なんで私を避ける理由になるワケ?」
「……君は、彼をも救いたかったんじゃないかな、と……そう思ってね」
「なによそれ。……確かに誰彼構わず救いたいし、好きになるのが私だけど、アンタがやるべきだって判断したことを私が咎めるワケないじゃない。私、そこまで束縛するタイプじゃないわよ」
どこか気恥ずかしそうに言うエンジェ。
それなら、いいのだけどね。
「もう少し自信を持ったら? アンタは私が選んだ……生涯を添い遂げたいって想う相手、なんだから。いつもの調子を取り戻してくれないと、こっちも不調になるわよ」
「お互いの事、何にも知らないのに、かい?」
「少なくともアンタがこの世界を気に入ってるってことだけは知ってるから、充分でしょ」
……。
……この世界を気に入っている。
ああ──。
「仮定の話だ、エンジェ。……もし。もし、己が……君の好きな誰かを傷つけたとして。君は己を嫌いになるのかな」
「やり方にも依るし、状況にも依るし、その時のアンタとの関係値にも依るでしょ、そんなの」
「……そうだね」
「けど、安心なさい。嫌いになる、まで行くことは多分無いわ。そこまで行くのなら、私はアンタのことをちゃんと愛せていた、ってことになるし。まだ愛情がわかってない私達なら、そこにはいかない。……それにね、
彼女はそこで一度言葉を切って。
もう一度、紡ぎ直す。
「その場に居合わせたのなら、ちゃんと叱ってあげるから。アンタが私に忠告をしてきたように、次は私がアンタを諫めてあげる。そういう経験、ないでしょ?」
「それは楽しみだ。……施術を開始するよ。記憶の混濁が必ず現れるだろうから、拘束と説得は任せた。己では……言葉を届かせられないだろうから」
「任せなさい」
ハッピーエンドをね。
目指そうか、二人でさ。