魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Sin11-4.「不確定性の権化」

 不可視の鎖を避ける。

 この装置……便宜上、「未来送りの装置」とでも名付けておくけれど、コレの発動には幾つかの条件があるらしい。

 まずは照準を合わせること。生き物のように射出後に動くわけではないから、しっかりと狙いを定める必要がある。ただし対象に絡みつく際は生き物のようにしなるので、そういう仕組みだと覚えておけばいい。

 次に一度に射出できる数は五を越えられないということ。不可視であるし、射出速度もそこそこあるから五で充分ではあるけれど、些か少なくも感じる。ブラフであるということを考えて十と見積もっておいた方がいいかもしれない。

 最後に、「未来送り」にする対象は選び得るということ。触れたもの全てを「未来送り」にしているのであれば、霧や煤で覆ったところで意味はなかった。発動対象は操作者が選択可能であると同時、あまり大きなものだと範囲指定に時間がかかる、というところまでわかっている。だって触れた瞬間全てを、だったら己の杖に絡みついた瞬間に己自身を飛ばしていれば済んだ話だからね。

 

 こんなところが「未来送りの装置」の概要だ。

 

 では次に、それを扱う操作者……コルリウムの手下の話もしておこう。

 彼らは恐らくこの時代の人間だ。一応「未来送りの装置」によって跳躍してきた過去の人間という線もあったけれど、もしそうならナノマシン中毒で即死しているはず。それほどこの時代のナノマシンは濃度が高い。前身文明の人間……強化人間でさえも数秒と保つまい。

 だから、ただただ己の知らない場所で生き繋いできた生き残りであると予測できる。魔法使いかどうかは不明だ。己は別に魔法使いの全てを把握している、とかではないからね。円輪の年代記(CHRONICLE)に接続するほどのことでもないように思うから、ここは不明でいい。

 

 問題視すべきは、「未来送りの装置」以外に何を持っているか、についてだ。

 一つは「樹殻から魂を引っ張り出す装置」が存在するのだろう。とすると、どちらも前身文明の技術レベルを超えていることになる。けど突き抜けているわけではない……から、前身文明以上廃徊棄械(クラッドオレオム)以下、と考えるべきだろう。以下……いや未満かな。

 

 つまるところ。

 

「君達個人の能力は、決して高くはないんだ」

 

 一人目の頭を蹴り潰す。

 自動防御は働いたけど、そんなものはそれよりも高い威力で蹴り潰せばいいだけの話。とりあえずこれで彼らが自動防御を有していることが判明したし、転移を察知することができないことも判明した。

 蹴った感触は強化人間とほぼ同等のもの。ただし再生力は強化人間よりも上らしい。頭部を潰して死なないということは、身体のどこかに核があるね。心臓なんてわかりやすい場所を選ぶかどうかは……センス次第。

 

 仰向けに倒れ行く一人目の心臓に向かって単なる突きを繰り出してみるけれど、返った感触は肉を掻き分け骨を突き破るものだけ。やっぱりここじゃないか。

 そのまま、見様見真似の縦軸挙動を使う。ステッキの先から縦軸挙動をするナノマシンを排出。それはつまり、「老い」を液体のように垂らしたことと同じ結果になる。……「老い」。とはいえ最早「風化」と言った方が早いか。

 一人目は心臓を貫かれ、その個所から塵となって消えていく。

 そうして転がり落ちるは核。あった場所は右太ももの付け根。

 

 強化人間は人間と少し違う。当時の強化人間は脳を潰されたら終わりだったから彼らともまた違うのだけど、この核を有しているという点では同じだろう。

 核を潰さない限り強化人間は死なない。たとえばこの核を他の強化人間の死体に埋め込めば、元の強化人間の記憶を有したまま活動を再開できる。それは魂を物質化したもの……と捉えられがちというかあの時代の人間もそう捉えていたけれど、正確には魂のデータ化が正しい。

 強化人間になった時点での魂は肉体に依存し、その情報体が核へと移る。データ化でありコピーというわけだね。

 だから……コルリウムの輝きが失われてしまったのも、似た理由なのだと思う。彼は強化人間ではなかったけれど、樹殻が彼の魂を吸い取った。この地へ呼び戻されたのは「コルリウムのコピー品」であり、彼自身ではなかった。だから天才性を有していなかった。

 

 ……待てよ?

 だとしたら……もしその生態を、コルリウム自身が意図して作っていたとしたら。

 樹殻の中には、人間の魂の輝きが……それだけを抽出したものがこれでもかと眠っている可能性がある。

 

「今だ!!」

「そういう合図は敵に知らせないようにしようねェ」

 

 全方位から射出された「未来送りの装置」の鎖を転移で避ける。鎖の数は二十五。つまり五台はあると。

 

 しかし、そうなると安易に樹殻を消滅させるべきではなくなってきたな。

 もし……もし、あらゆることが幸運へと運んだ場合。

 

 人間の魂の輝き、その集合体とでも呼ぶべきものが出現するかもしれない。

 星の意志の集合体がマグヌノプスなら、人間の魂の輝きの集合体はなんと呼ぶべきなのだろうね。

 

「避けるということは効果があるということだ! 手を休めるな、『円盤の亡霊(サークレイス)』を殺し、ディアナ・ネクロクラウンを殺せ!」

「──大尉! お逃げください!」

 

 大尉、と呼ばれた男を組み伏せる。

 その四肢を消し飛ばして、面倒臭いので痛覚も消して。

 

「『円盤の亡霊(サークレイス)』。確かに己の名前の一つだけど、それをどこで知ったのかな」

「……っ、同志よ! 俺は盟主たるコルリウム様に身を捧げる──さらばだ!!」

 

 転移する。そして、ヒュウ、と口笛でも吹いてみた。

 眼下に広がるは赤。……爆炎だ。

 

「自爆か。覚悟が決まっているねェ」

 

 けど、盟主たるコルリウム、か。

 あの時代のコルリウムを守った人々が彼をそう仰いでいた覚えはないのだけどね。単純に『残照回廊(リメノンス)』と合わせているだけなのかな。

 

「くそ、よくも大尉を……『SINGLE』!!」

歪曲収斂(コントル)

 

 懐かしい、初期も初期の弊社商品たる射出機構じゃあないか。まぁ射出物である以上こうしてカウンターできてしまうのだけど。

 これで二人目……じゃなくて三人目か。

 

 ……おや、今突き殺した彼は核が脳に。……もしや一人一人違うのかい? 面倒臭いねそれは。

 あと、よくも、とは言うけれど、とどめは彼自身が刺したようなものじゃあないか。お門違いじゃないかい?

 

「化け物め……」

「敵は『円盤の亡霊(サークレイス)』だぞ! わかりきっていることを口にするな!」

「『円盤の亡霊(サークレイス)』を殺せ! ディアナ・ネクロクラウンを殺せ!!」

 

 狂信的だねェ。確かに始祖Dは現時点においても「アレ」だから、後世に残すことを看過できない、という思想も理解できなくはないけれど……己、そこまで恨まれるようなことしてきたかなぁ。しかもコルリウムの手下に。

 己がコルリウムを殺したことを知っている、という感じの恨み方ではないから……呼び方も含めて何かを知っている、と見るべきなのだけど。

 

 四肢が無い状態でも自爆が可能ということは、その意思の一つで自爆機構を励起できるということになる。

 けれど意識を奪っては情報を取り出すことができない、か。……教師Dの魔法をの再現でもしてみようかな? 死霊病毒(ネクロクラウン)の魔法はデザインした者が始祖Dだけだから、ということもあって、基礎構造は大体同じ。わかりやすさで言えば次元空間(デルメルサリス)に次ぐ。

 

「お先に失礼します! 爆炎をも避けたということは、この手法とて有効であると見ました!!」

 

 己に抱き着いてくるコルリウムの手下。その身体が灼烙を湛え、爆ぜる。

 当然己の肉体も爆ぜ散るけれど……まぁ関係なく復活する。

 

「流石にそれは酷い勘違いだ。己に単なる物理攻撃が効くわけがないだろうに。……もしや、コルリウムの手下なだけで、彼のような天才性は持ち合わせていないのかい?」

 

 ……ふぅん。盲目的に天才を崇めるだけの集団、ね。

 コルリウムの復活も、『円盤の亡霊(サークレイス)』という言葉の意味も……彼から教わったことを実行しているだけで、彼らは情報を持っていない、という可能性まで出てきたな。

 

 

 なんだ。

 

 

「ッッ!?」

「雰囲気が変わった……気を付けろ、総員警戒態勢──!!」

 

 己の首に一文字が入る。

 ピリ、と破れたそこから出てくるのは──ああ、不可視の化け物と称されてもおかしくないモノ。

 これこそが己やあの虫の本体。かつてはアイメリアなどと呼ばれて分類された、太古の(ソラ)にて発生した寄生生物。己はアイメリアには変化しなかった。だけど、根本は同じ。

 

「平和の礎になりなよ。己が望む平和のね」

 

 世界が呑み込まれる──。

 

 

 

 結局というかやっぱりというか、彼らは大した情報を持っていなかった。

 コルリウムより賜った言葉を口にしていただけ。ただ『円盤の亡霊(サークレイス)』についての知識は多少あって、それがどうにも引っかかる。

 生前のコルリウムとは大した関りを持っていなかった己。ここまでの詳しい話になると、己自らが話した、とかでない限りは出てこないと思うんだけど……うーん?

 

「授業を抜け出して何をしているのかと思えば、お参りですか? 案外殊勝な心があるんですね、『最上級生』さん」

「ん……イレイア。君こそどうしたんだい」

 

 確かに今授業中だし、墓地にいるのは事実……だけど、お参りなんてするはずもない。

 少し考えることがあって、オールドフェイス作りのついでに立ち寄っただけだ。

 

「フィニアンにお別れを告げに来ただけです」

「……ああ、そっちを選んだんだ」

「どうせ知っていたのでしょうに、白々しいですね」

 

 いや、知らなかったよ。己は別に全知全能ではないからね。

 

「理由は聞かせてもらえるのかな」

「やはり永劫はつらいもの。フィニアンは……それに耐え得る性格ではなかったと、勝手に判断しました。加えて……私がやっておいてなんですけど、彼が死体を漁って血を啜っている姿を見たくなかった、というのもあります」

「傲慢なことだね」

「ええ、そうなのでしょうね」

 

 吸血令嬢(ジュノ・ダンピール)、か。

 ……人間がいなくなったら、彼女も屍食鬼(グール)のようになる。始祖Dが心配していたような未来……己がエンジェとスヴェナを連れてこの星を出ていく時、果たして人間はどれほど残っているか。

 

「悲しいと……そう、思うべきなのに。聖護の一族の中で、最も気の合う騎士だったのに、死してしまった彼に、こうも心が動かないものなのですね」

「何人目だったんだい?」

「六人目でした。……だから、ですか?」

「いや、違うと思うよ。己に人の機敏はあまりわからないけれど……恐らくは、君が殺したから、なのではないかな」

「……私が」

 

 イレイアが殺した。

 見殺しにすることを選んだ。救う手立てを有しておきながら、死することを看過した。

 

 それは。

 

「君の心は多分、初めて傷ついている。それをどう受け止めていいかわからなくて……今の君の心は凪いだ状態にある。……それはあまり健康的じゃない。誰か頼り得る者の前に行くことができたら、君は安堵と悲壮を覚え、泣くこと後悔することができるようになるのだろう。ただそれが……それこそが教頭フィニアンだった。……そうだね」

「人の機微はわからない、という割に、具体的ですね」

「長生きだからねェ。サンプルケースはこれでもかと有しているんだ。共感こそできないけれど、同じような症状は沢山見てきた。だけど、申し訳ない。己に君を救う手段はない。……ああでも、教師ドリューズ・ネクロレアニーを頼るのは良いかも知れない」

「夢の中でなら、ということですか」

「ああ。それを虚しいだけだと思うのは勝手だけどね、夢の中でも頼り得る者の(かいな)に抱かれることは、泣く、という行為の一助になる。己はそれを知っている」

 

 でないと壊れてしまうよ、イレイア。

 ……せめて己とエンジェが卒業するまでの間は、君に学園長でいてもらわないと。様々な特例を認めてくれているのは君の力あってこそだからね。

 

「なら……少しばかりの我儘を言っても良いですか。誰も見ていませんし」

「いいよ」

「聖護隊……騎士の運命の定められたあの家には、特殊な葬法が存在します。折刀葬というのですが、ご存知ですか?」

「ああ、知っている。生前、その死者が有していた武器を墓へと突き刺し、縁者の血を柄へとかける。魔物がわんさか寄ってくる葬法だから、聖護星見の土地のような魔物が絶対に入ってこない場所などでしか行われない葬法だ」

「はい。その通りです。……ただ、私は聖護魔導学園を離れるわけにはいきませんし、フィニアンの剣は行方さえわかりません。ですから……私の作った彼の剣を彼の墓へと刺し、私の血を垂らしたいのです」

「その血が風化することなく、そして魔物に狙われることもなくしてほしい。そういう要望で合っているかな」

「お願いできますか」

 

 魂の所在というものを知る己らにとっては、葬法などそのどれもが意味を成さない幻想だ。

 だけど……その大切さは知っている。感傷とは虚無ではないのだと知っている。

 

「いいよ」

「ありがとうございます」

 

 して、教頭フィニアンの墓に……折れた剣が刺される。意匠も何もかも彼が使っていたものと同じ。恐らく自身の陣地で構築してきたものなのだろう、細かい傷まで再現されているらしかった。

 そこに、その柄、その剣身に、赤い血を垂らしていくイレイア。

 それが十二分になった頃合いで、己が剣へと固定空間(ソルサリス)に似たものをかける。これにてこの剣と血は一体となった。乾くことも錆びることも、その血の香りが外へ流れることも無い。

 

「……ありがとう、ございます」

 

 己は除外するにしても、始祖や吸血鬼らはこういったことに向き合って行く必要がある。

 寿命差というものから来る別離。慣れることのできる者ばかりではない。始祖らはその精神が成熟することがない故に慣れられず、イレイアは……元からそういう性格故に慣れられず。

 

 けれど、そんなものには慣れない方が健康的だろう。

 まだ人間だと、そう呼べるはずだ。

 

「一応、聞いておく。彼の命を奪った者と対面した時……君はそれらを殺したいと思うかい?」

「復讐はしませんよ、私は。……あ、いや……わかりません。凪いだ心が動き出したら、そういうことを想うかもしれませんが……今の私にそういう感情はありません」

「それは、どうして?」

「どうしてでしょうね。彼が望まないからとか、意味が無いからとか、そういう陳腐な答えを持っているわけではありませんし、実行できないわけでもありません。ただ」

 

 彼女は自らの胸に手を当てて、聖護魔導学園の方を見て。

 

「私は学園長。一応、教師の括りですから。……教師が生徒を教え導くものである以上、生徒になってほしくない姿を教師が辿ることはできません。理由は多分それだけですよ」

 

 力なく笑うイレイア。

 ──あまりにも無粋に降りそそがんとする『快晴の雷』を発生直後に消し潰し、墓地を去る彼女を見送る。

 価値があると見定めたか。確かに今のは、輝きだったね。

 

 手元にある一枚のオールドフェイス。

 それを宙へと放り……世界へ還す。

 

 これは己が使うべきものではない。そうだね。

 

「……いや、ひっさしぶりにスファニアの嬢ちゃんに出会って、とんでもなくやる気に満ち溢れてたから何事かと聞いたら世界を救う最中だって話で、面白そうだと嬢ちゃんの足跡を辿ってきたら……これまた面白ぇモンに遭遇したモンだ」

「警戒した方が良いのでは? 相手がアイメリア・フリスのような存在とは限らないわけですし」

「いやいや。たしかに人間とは違う感性を有してるんだろうが、それでも死者を悼めるだけで充分さね」

 

 背後に気配があった。

 己の感知の全てをすり抜ける移動法。実は本人たちもいつやっているのかわからないらしい無意識転移。

 

「初めまして。だけど、君達のことは知っている。古井戸とピオ、だね? ああ、己のことは好きに呼んでくれていいよ」

「オウさ、初めまして。その通り、俺は古井戸ってモンだ。んで……ちと聞きたいことと頼みたいことがあるんだけどよ、時間は取れるかいね?」

「初めまして、『永遠下降』さん。ピオ・J・ピューレという者です。一応機奇械怪(メクサシネス)と呼ばれる種族ですが、人間及び人間でないものにも害意はありませんのでご安心ください」

 

 コルリウム、スファニア、そして己をして、皆は「不確定性の権化」というけれど。

 

 己からしてみれば彼こそが最大の「不確定性」だ。

 

「いいよ。地球では君の父親によくしてもらったからね。そのお返しをするのも悪くない」

「そりゃ気前の良いことで……って、ん? 地球? 父親?」

「知らないのか。……フリス、その辺はちゃんと思い出させてあげるものだと思っていたのだけど……しないまま去ったのか。珍しいな」

「あー。……俺の記憶のことか。それは俺とピオが拒否したのさ。ま、色々あってね」

「そうかい。じゃあ、己はもうこの話題は出さないようにするよ。そしてそれでもお願いは聞いてあげよう。なにかな」

 

 問えば。

 二人はバッと身を翻して、こそこそ話をし始める。

 

「……なぁピオ。アレが本当にフリスの親戚……だと思える、か? 俺にゃとてもじゃないが同族には思えねえんだが」

「同意します、古井戸さん。アイメリア・フリスであれば今の場面、別になんでもなくできることであっても代価を要求してきていました。たとえ過去何かがあったのだとしても、関係なく、そっちの方が面白そうだから、なんて理由で」

「この距離での会話だ、絶対聞こえているのに"聞こえているよ"みたいな水差しもしてこねぇし、そもそもこの時間を待っていてくれるってこと自体が……」

「アイメリア・フリスに関する先入観を全て捨て、単に事情を知っている初対面の方、として扱うべきでしょう。何より始めが挨拶だった時点で好感が高いです」

「わかる」

 

 全部聞こえているし、待っているのは君達に興味があるからなんだけど、まぁ都合のいい解釈をしてくれるのならそれでもいい。

 あと挨拶は別にするさ。敵対しているのでもない限り、それは基本だろう。

 

 二人は……またバッと戻ってきて。

 

「聞きたいことは一つ。頼みたいことは二つ。どれも言いたくなかったりやりたくなかったりしたら断ってくれて構わねえ」

「だから、拒否される前提で話さなくてもいいよ。己はあの虫……フリスよりは寛容なつもりだし、人間にも多少理解があるつもりでいるからね」

「ん。じゃあまず、聞きたいことだ」

 

 古井戸は一息を置いて。

 

「アンタ、俺達を違う星……というかフリス達が寄ったであろう星に送る、ってこと、できるかいね?」

「会いたくなった、とかではないだろうに、どうしてかを聞いてもいいかな」

「単純な話さ。もう世界を回り尽くしたってのと、人間が少なすぎる。これは頼みたいことにも被るんだが、ピオがな」

 

 ああ。

 理解した。

 

「そうか、君はまだ稼働をオールドフェイスに依存しているんだったね。……むしろよく今まで生き繋いできたものだ。『賢者』たちが世界を滅ぼしてからは……いや、ヘイズ・イシイが世界を滅ぼしてからは、大変だっただろう」

「はい、とても」

「頼みたいことに被るというのは、己の持つオールドフェイスを譲ってほしい、ということかな」

「そうなる。もう一つは違うんだが」

 

 オールドフェイス。それは人間の魂だ。それを通貨の形に固めたもの。

 廃徊棄械(クラッドオレオム)はコンセプトが違うからオールドフェイスを必要としないけれど、ピオは……確か、七日稼働するのに五枚必要なんだったかな。

 当然だけど、このコインが人間の魂である以上、そう易々と転がっているものじゃあない。

 

「ここに至るまで、既に何度も停止しかけています。自己改造ではオールドフェイスを不要とする機構を作ることができず……本当はそれを行わなければならないのですが、私はデッドコピーという……あまり出来の良くない機体で」

「ああ、その辺りは知っているから大丈夫。それに、そこまで自身を卑下する必要はないよ。むしろプロトタイプも良い所な体でよくここまで頑張ってきたものだ」

「……本当にアイメリア・フリスとは違うようですね。まさか褒められるとは思いませんでした」

「だなァ」

 

 いや本当に。

 あの虫を知っている存在はどうしてこう己をアレと比べたがるんだ。違うに決まっているだろう。あんなのと一緒にされちゃかなわないよ。

 ……まぁあの虫が辿った結末を己も辿ろうとしている時点で、かもしれないけれど。

 

「他の動力源が必要にはなるけれど、己がオールドフェイス要らずにしてあげようか?」

「え」

「……できんのかい?」

「ああ。似たような約束をスファニア・ドルミルともしていてね。あの虫の変化とは別方向に変化した己であれば、存在の本質を変えることなく性質を創り変えることも可能なんだ」

「なら、頼みたいこと二つ目は消えてなくなる。こいつにオールドフェイスが不要となるんならフリスの後を追う必要もねぇさな」

「ただ……申し訳ないけれど、それに関してはノーコスト、というわけにはいかない。己の消耗が激しいからね。見合う代価が欲しい」

 

 至極簡単に己とあの虫の違いを述べるのなら、できることへの制限が増えたけれどノーコストにできる、というのがあの虫で、その制限はほとんど無いけれどコストがかかる、というのが己だ。だから性能比較は意味がない。長所と短所を合わせ見れば、同等、という結果に落ち着いてしまうから。

 

「……何が必要だ」

「そう警戒せずともいいよ。……まぁ、君達にもこの世界を救ってもらう、にしようかな。己が創った『UMBRELLA』、そしてスファニア・ドルミルだけでは回らない手の部分……彼女は空を駆けることができるから、孤島を守ることに長けている。君達は神出鬼没だから、陸地を守ることに長けている。今どこにいるかはわからないけれど、スファニア・ドルミルと相談をしてくれてもいい。どうにかしてこの世界を救ってくれたら、己がその望みを叶えよう」

「救う、の定義は?」

「樹殻をどうにかする、でいいよ。人間同士の諍いや他の天災に関しては、この時代の人間が乗り切るべきもの。それは世界を救うことの目標には含まれないだろうからね」

 

 古井戸は……手で顔を覆う。ピオも、必要ないだろうに視覚センサにつけられた瞼の開閉を繰り返す。

 

 なんだい、その反応。

 

「……破格すぎるだろうさ、それは。もっと無理難題を出されるモンだとばかり……」

「本当にアイメリア・フリスの親戚ですか? 怪しささえ覚えてきました」

「いや、あのね。君達が用意できるものなんて、己は創り得るんだよ。だけど己は一人しかいないから、今楽しんでいること……恋人との学園生活を優先するなら、樹殻に対抗する、なんて些事は誰かに放り投げてしまいたいのさ」

「恋、人?」

「好きな方がいるのですか?」

「ああ。あの虫にいたように、己にもね。……己は彼女の作り上げる世界を見てみたい。そのためには、活性化した樹殻、というのが邪魔で邪魔で仕方がない。ついでに時代錯誤にも現れた廃徊棄械(クラッドオレオム)も。だから……そこを代わってくれるのなら、己は己の消耗を代価に、君達の望みを叶えるよ」

 

 二人は……ふむ、と一度頷き、全く同時に互いを見て視線を合わせて、そしてこちらへ向き直った。

 

「乗った! いやぁ、いいじゃねえの、恋人との時間を作るため、ってんなら破格じゃねえ、妥当だ。気に入ったよお前さん。お前さんのためならちぃっとばかし本気にもなれそうだ」

「その方、絶対に幸せにしてあげてください。ピオはそういう展開、好きです」

「となりゃ、行こうかねぇ、ピオ。まずはスファニアの嬢ちゃんと合流だ」

「はい。善は急げですね」

「ああ待ちたまえ。当初の目的を忘れているよ。はいこれ」

 

 投げ渡すは麻袋……風の、ナノマシン技術で作られた機構『POACH』。

 

「その中にはオールドフェイスが八十枚入っている。贅沢さえしなければ、しばらくは保つだろう。もし足りなくなったらまた己のところへ来てくれたらいいよ。……ただ、あまり数は揃えられないけれどね」

「いんや助かる。とてつもなく助かる!」

「情報の修正を行います。『永遠下降』さんはとてつもなく良い人です。人じゃないですが」

 

 基本的に魔法使いの血筋争い以外は眼中にないからね、それ以外の点では良い人に映ることは理解しているよ。

 そのまま勘違いしていてくれるとありがたいかな。……ピオはともかく、古井戸が敵に回ったら、と考えると恐ろしい。あの虫でさえ傷一つつけられなかった「最高価値」。

 

 何より地球でそれなりに仲良くなった神の息子だ。己は割とそういう縁は大事にするからね。

 

「んじゃ、今度こそさいならさんだ。彼女さん、幸せにしんさいよ!」

「失礼いたします、『永遠下降』さん。お二方の幸福を祈っております」

 

 そうして……普通に走るような動作で、あり得ない速度と共に去っていく二人。

 ……ま、体よく追い払った、というのはあったりする。

 

 あの二人をエンジェが目にした時、何を言い出すかわからないからねェ。スファニア・ドルミルも……その境遇を考えれば、すぐにでも懐に入れてしまいそうだから。

 

 けど、これで不安の種は取り除けた、かな?

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