魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
今、
それは最上級生Cからのタレコミでもあり、己自身が肌で感じていることでもある。
というのも、『
それ自体も十二分に面白い「血筋争い」だったのだけど、この度己達が誘拐された生徒教師のほとんどを奪還したことで、事態はさらにややこしくなる。
当然その中にはボガド・フィジクマギアも含まれていて、起きていた醜く愚かな血筋争いに活を入れて鎮静させた──かに思われたところで。
「誘拐後の後遺症。ははあ、なるほどねェ」
「なんとかなりませんか、『噂の平民さん』」
誘拐された生徒教師に施されていた「魔物の魂を縫い付ける」所業。あれを切除していれば最悪廃人コースもあり得たところを、己の施術によって事なきを得た。……が、後遺症が一切無かった、ということにはならない。魔物の魂を覆い隠すような形で貼り付けたヒトの魂。そのどちらもが悪さをする。微細ではあるものの、食や色の好みに変化が出たり、ポジティブさが若干陰ったとか、逆にネガティブだった魔法使いが一歩を踏み出せるようになったとか……そういう微細な差異。
いや、もう真実はどうだっていいのだろう。だって偽物のである方が当主の座を狙う者たちにとっては都合が良い。そうして当主の座を狙う魔法使いたちの勢いはさらに増して、さらには決定的な証拠を欲しがってあの時攫われた生徒教師を付け回す者、あるいは証拠を捏造せんと暗躍する者たちまで出てきているのだとか。
かつての『ジェヴォーダンの魔物』事件の時も、黒幕はフィジクマギアの「当主落ち」だった、ということもあって、聖護魔導学園側も一気に警戒態勢を強めている。イレイアは予知のために学園長室へ籠り切りになり、教頭フィニアンの死を理由に最大限の陣地を敷いて籠城状態。他の教師たちもこれ以上信用を失うことがあってはならないと学園中、そして学園近辺へ目を光らせ続け、時には己まで頼ろうとしてくる始末。
ま、今残っている教師は善人しかいないからね、頼ろうとしてくる、止まりだから問題は無い。とにかくそれほど焦っているということで、それほど事態は逼迫しているということだ。
……で、色々と記憶処理こそされたものの、ある程度覚えている……秘密を共有した側の人間となった者、少女C。
緊張状態にある聖護魔導学園、フィジクマギア、そして規律会のことなど色々を考えて、己に相談しにきた、と。
「君は口を出せないから、だよね、その相談は」
「はい。エレメントリーの御令嬢……エンジェたちにも無理でしょう。言ってしまえば此度の騒動は全てフィジクマギアのお家騒動。学園へ害を引き込むというのなら全体での対応が可能になりますが、今は未だそうではない、という状態である以上、貴族である私達にはどうすることもできません」
「けれど平民である己なら、か」
「この相談をするべきではない、というのも理解しています。フィジクマギアのことに私が首を突っ込むこと自体が間違っていて、さらには貴方を巻き込まんとすることが善ではない、ということくらい……わかっています。ただ、折角取り戻した平和を……会長を偽物扱いしてまで乱そうとする者達がいる、ということに憤りを覚えてしまって……それでも貴方に相談することではないと思いながらも、頼りにきてしまいました。精神の脆弱な私をお許しください」
少女C。シャニア・デルメルサリスは色々ストイックだし色々大人染みているから意外に思ってしまう己がいるけれど、実際問題彼女はまだ子供で、次期当主、というだけで全ての問題を解決できる能力があるかと問われたら別の話。
こうして迷いに迷って、悪い事だと思いながらも誰かを頼りに行く、ということができただけで充分であるように思うよ。……頼りに行った相手が最悪だった、という点を除けば。
いやだって、己がこの状況をどうにかするとか、ナイナイ。
これこそが求めていたものなんだから……そりゃ。
「無理だね。というか、今首を突っ込めば己まで巻き込まれるよ。ただでさえ
「……それは、そうですね」
静観の構えとさせていただこう。
なお、このことに関してはエンジェも何も言ってきていない。彼女も貴族で次期当主。そもそも彼女は己をそういうごたごたへ巻き込むことを良しとしないからね、さもありなんだ。
加えて今回の事件は己が発端ではないからか、スヴェナもまた沈黙を保っている。これらすべては結局フィジクマギアの愚かさが原因であり、己は関係ないと思っているから。
……関係ないと思っている、というのがミソだよねェ。
「『せぇんぱぃ』、お話し中失礼しますよぉ」
「ッ!?」
「ああ、アナ。どうしたんだい?」
少女Cがかけられる最大強度の認識錯誤を突き抜けてきたからだろう、最大限の警戒の目を以て少女Cがアナ……始祖Dを見ているけれど、始祖Dはどこ吹く風。
隠す気がないというのが本当に悪いよね、彼女は。
「イーリシャちゃん……始祖イーリシャ・クライムドールから、通達? 通告? があってぇ」
「何をやらかしたんだい」
「そうじゃないんですよぉ。曰く、
頬に迫る拳──を、杖で受け止める。
拳が割れることもなければ杖が折れることもない。ただ余波の衝撃が周囲に激しいダメージを与えたくらい。
「ご挨拶だね」
「……はい。お久しぶりです、の挨拶はこうしろと、イーリシャちゃん……始祖イーリシャから教わったので。──本日付けで仮入学となった、カナビ・フィジクラッシュです。よろしくお願いします!」
一応ポーズとして溜息を吐きつつ、元々掛けられていた認識錯誤の上から更に強い強度の認識錯誤と偽装をかける。
いや……本当に何を視ているんだろうね、始祖Eは。
「直接会うのは本当に久しぶりぃ~、カナビちゃんー」
「本当に久しぶりだね……。……可愛くなっちゃって」
「お互い様でしょ~?」
カナビ・フィジクラッシュ。
稚拙なアナグラムだ。そうだろう、始祖B……ビアンカ・フィジクマギア。
この血筋争いが激しい時期に彼女を仮入学させるのは、もしや始祖Eも己や最上級生Cと同じ趣味を持つ同好の士なのではないかと錯覚してしまうよ。
「っと……ごめんなさい、お話中、でしたよね?」
「……いえ、話は終わっていたようなものなので問題はありません。……ありませんが、仮入学生……確か創設者と学園長が許した、来年度に入学する生徒の体験入学制度、でしたか」
「はい!」
「はい~」
「これは規律会としての言葉です。校内でみだりに魔法を使わないこと。それは守ってください」
「……? 使ってませんが、わかりました!」
「つ、使っていない? ……それは、こちらの勘違いで冷たい態度を取ってしまって申し訳ありません。ただ、私闘も許可なしでは禁じられているので……」
「挨拶です!」
ま、今の威力を見れば使っていたと錯覚するのも無理はない。
実際は何もしていない。彼女はその身体能力だけで今の威力を出した。
「──オイオイ、『英雄平民』。まーた女子引っかけてんのかよ」
「やぁ、ケニス・デルメルクラン。ただ今回は不可抗力だから、それは言いがかりかな。……君は特に不調なんかは無いようだね」
「不調? あー、後遺症ってやつか。あるにはあるけど、気にすることでもない程度だよ」
「それは良かった」
助かったうちの一人である生徒C。
彼が来たということは、当然。
「……アンタ、見るたび会うたび違う女に囲まれてるけど、何か言い訳、ある?」
「今言った通り不可抗力だよエンジェ。己も創設者始祖イーリシャ・クライムドールより入学を許可された生徒だ。だから、同じような立場にあるアナ・ネクログレイブとカナビ・フィジクラッシュの世話を任されてしまってね。スヴェナの面倒を見ていたのと大体一緒だよ」
「アナちゃん、この子は……」
「『せぇんぱぃ』のイイヒト、だよぉ」
「え! ……違うんです、あたしは本当に挨拶へ来ただけで、そういう感情とか無くて! 本当に、盗る気とかないというか、青春は真っ当に謳歌してほしいというか!」
「ぷっ、年下の癖に何言ってんだよお前。面白いやつだな」
「怖がらせてごめんなさい、カナビさん。今のはコイツを揶揄っただけで、貴女に圧をかけるつもりはなくて……」
ほら、一気に騒がしくなった。
日常、って感じがするねェ。
……少し離れたところにいるスヴェナの目がとんでもないことになっているのはどうしてだろうねェ。もしかして己の認識錯誤を見破れていたりするのかい?
「あー、でもこの時期にフィジクラッシュは……危ないかもしれないわね」
「はい、私達で守る必要があるかもしれません」
「だなー、上だけじゃなく、初学生まで臭くなってきてる」
主語はないけれど、つまりはフィジクマギアの血筋争いに関して、だ。
ただ……予感もある。なぜこの時期に始祖Bが投入されたのか。
「これは彼らには聞こえていない声だけれどね。見極めたいのだろう? 今のフィジクマギアに、どれほどの価値があるのか」
「へ? ……この声と喋り方……。……も、もしかして、『愚者』さん!?」
……白けた空気が己と始祖Dの間に流れる。白けたというか呆けたというか。
「え……ビアンカちゃん、気付いてなかったのー?」
「あの時の『英雄平民』さんだ、ってことは知ってたけど……え、待って、じゃあ『英雄平民』さんが『愚者』さん!?」
う、うーん。
これは。……と始祖Dに視線を送れば。
「白スーツさんが思っているよりビアンカちゃんはアホの子というか天然ちゃんなのでぇ……わたしもここまでとは思ってませんでしたけどぉ」
「ひ、酷い! というか関係各所、ここにいる人のだいたいから恨まれてるだろうディアナちゃんが平気な顔してここにいることだって充分"天然ちゃん"でしょ!!」
「わたしとはベクトルが違うからねー」
案外仲が良いんだな、とは思った。
始祖Dの悪事について、始祖Bは看過できない性格に思っていたけれど……その辺りは超越しているのだろうか。
始祖A、C、Eとも仲が良かったりするんだろうか? 皆それぞれに野心を抱えていながら……ああでも数十年に一度『お茶会』なるものをしているのだったっけ?
直接会うのが久しぶり、というのは、そうか、
「話を戻しても構わないかな、始祖ビアンカ・フィジクマギア」
「へぁ? ……あ、はい。えーと……そ、そうですね。今のフィジクマギアの子は……どこかおかしくて。確かに当主の座を狙う気持ちはわからなくはないんですけど、
「えー? 血筋争いなんてこんなものじゃない~? ネクロクラウンではそういうこと起きないから強くは言えないけどぉ」
「確かに貴族社会として見るならそうなんだけど、フィジクマギアはもう少しあっさりしているっていうか、あたしの精神構造が血筋に影響してるはずだから、こんなにドロドロしないっていうか……。あと『当主の座』なんて奪ったってフィジクマギアでは発言権が大きくなるとかないから、それもおかしくて」
ふむ。身内からの意見というのは良いね。
つまりやり過ぎ、ということだ。量の調節をした方が良いだろう。
「エレメントリー、デルメルサリス、クライムドールは本家当主の声が大きいからわかるんだけど……フィジクマギアはあたしが精力的なせいで、本家当主の声が全体に作用する、ってことがないから」
「あーねー。となるとぉ、誰かが扇動してる……ってことが考えられるわけかぁ」
「うん。……一応聞くけど、ディアナちゃんじゃない、よね?」
「いつもならさぁね~、とかって返すんだけど、違うよぉ。今のわたしは『せぇんぱぃ』を慕う可愛くてか弱い後輩女子だからぁ、ワルイコトは一旦お休みしてるんだぁ」
「ん、信じるよ」
「信じるのかい? 己が刺すのもなんだけど、ディアナ・ネクロクラウンの言葉に信憑性があるとは思えなくは」
「ああ、そこは大丈夫です。『愚者』さんに言われるのは確かにおかしな話だけど、その辺りの信頼はこの五千年間で築いてきたつもりだし、何より嘘については見抜けるのがあたしなので」
「ビアンカちゃんに嘘吐いてもすぐにバレちゃうから面白くないんですよぉ。ちなみにシエルちゃんも苦手に思ってましたねぇ」
「えへへ、特技の一つ! かも! ……何も知らない相手だと上手く機能しないから、単純に人読みなのかもだけど」
……いや。
コルリウムのせいで「直観」というものには敏感になっていてね。
もしかしたら始祖Bも生命の次元階位を上げた存在なのかもしれない。多少の留意はしておこう。
「そろそろあちらの会話に戻ろうか。これ以上は保たない」
「はぁーい。じゃ、今日からよろしくね、カナビちゃんー」
「うん、よろしくねアナちゃん!」
というわけで、学園生活がさらに姦しくなりました、と。
今日は実技訓練のコマが多い日。いつもより多い教師陣の護衛のもと、教師Dの夢幻空間にて魔法の訓練及び戦闘訓練を行う。
……のだけど。
「ちょ、ちょっとこっちへ来な、来なさい、『英雄平民』」
「だろうね」
「あ、ああ、あの二人は何! よ、読み取った、た魔法が、違和感の塊なう、上に、明らかに生物としてのじ、次元が」
「ま、創設者イーリシャ・クラムドールと学園長イレイア・クライムドールからの推薦仮入学な時点で……という話だよ。むしろ聞いていないのかい、と思ったけど、そうか。今イレイアが籠り切りだから……」
「う……そ、そうなのよ。ひ、必要不可欠な連絡以外は、と、取れないようになな、なっていて……ふぃ、フィニアン教頭先生のこともあああ、ある、あるし、強く聞くのは、は、憚られて」
イレイアがあの二人の素性を知っているかも怪しいから、何とも言えないね。情報が始祖Eで止まっていることも考えれば……ここは。
「確認はイーリシャ・クラムドールへ取るといいよ。あの二人は始祖イーリシャ・クライムドールをイーリシャちゃん、なんて親し気に呼ぶほどの仲……というか大物だからねェ」
「お、同じ始祖でもな、ないのに、その呼び方は……れ、礼儀作法なんかの、じゅ、授業も組み込むべき、か、かしら?」
「それについては実際に入学してからでいいんじゃないかな。今は仮入学……現時点で聖護魔導学園へ嫌な印象を持たれたら、来年度の入学者の人数にも響いてくるかもしれないし」
「……そ、そうね。それに、ここ、こういうことは、私の考えるべきことでは、な、なかったわ。もも、勿論、あなたに考えさせる話、で、でもない、わね」
「理解してくれたのなら何よりだよ。それじゃ、あの二人は"そういうもの"として扱ってくれたまえ。己もあの二人と戦う時だけは少しばかりスェキペするからね」
「スェキペ……?」
「ああ、……なんだろうね、段階を上げる、という意味だよ」
たまにある。ここが本当の地球ではないが故に、本当の地球に慣れ親しみ過ぎた己から出る言葉が通じない、ということが。
ま、今は気にする必要のない話だろう。
「それにしても、エンジェやシャニア・デルメルサリスの魔法をあれほど撃っても壊れないのだね、この空間は」
「あ、あくまで夢だから……。この空間に、壊れるとか、か、耐えられないとか、そそ、そういう、結界的な属性は、無い、無いわ……。だからといって、た、試そうとしないで。あなたなら、できてしまいそ、そうで、怖い」
「己は試さないけど……うん、己は試さないよ」
「ふ、含みがありすぎる!?」
いや、この空間へ入るってなった時から始祖Bと始祖Dが興味深そうにしていたからね。
始祖Bは本当に全力を出しても壊れない空間なのか、というワクワク。始祖Dは自身のデザインしたネクロレアニーの魔法が少し変化を遂げていることへの興味。
己は試さないよ。壊せると知っているから。
だから、あの二人を止めることは君の手腕次第だ、教師D。
「……あら」
「ん?」
「そ、外でドクラバ先生が……あ、あなたのことを呼んでいる、わ。……あ、あなただけ排出するか、から、少し話を聞いてきても、もらえるかしら」
「珍しいこともあるものだね。けど、わかったよ」
排出される……なんてことは教師Dの技量では無理なので、自分で出る。
肉体を起こせば、いやいつ見ても異様な光景。
周囲全員の生徒が眠っていて、身動ぎ一つしない。本当に強力な魔法だよ、ネクロレアニーは。
「それで、ドクラバ・アッシュクラウン。何用かな?」
「ごめんねぇ~、一応君も生徒扱いだからぁ~、授業はちゃんと受けさせてあげたかったんだけどぉ~……お客さんが来ていてねぇ~?」
「客?」
「戒律機関から、君ご指名の三人がお越しだよぉ~」
……。
……はぁ。面倒事なら体よく追い払うことにしよう。今ようやく学業……と骨肉相食む血筋争いを楽しめる期間なのだから、過去の幻影には去ってもらわなければ。