魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Stop2-2.「表裏一体の欺瞞」

 老衰とは成長の別の名。あるいは成長が「成長」した姿を表す言葉である。

 ダルク・クロノミコナ──幼少においての彼は、自らの魔法を理解したその瞬間、「老成」することを選んだ。

 思考は達観に近付き、思想は諦観に歩み寄り、至純に届く意識を得た。

 そうして理解したことは、ただ、この「魔法世界」という在り方の歪さ。

 

 意図的に作られた魔法使い。他者の意思が入った存在性。取ってつけられたような格差。

 本家に対して敵意を剥き出しにする分家。それそのものが理解できない。魔法が使えるというだけで貴族位を戴いているというのに、欲を出す存在に理解が及ばない。

 けれど、彼が得た達観と諦観は、彼自身の若さたる「理解不能」を氷解した。

 

 これすらもデザインなのだ、と。

 分家が本家にとって代わることなど、天地がひっくり返ったとしてもあり得ない。あり得ないと誰しもがわかっているのに五千年もの間同じことを繰り返し続けている。

 それは彼らが途方もない阿呆であるとか、過去を学ばないからとかではなく、そう設計されているから致し方のないことなのだと。

 

 そう考えてみれば、ダルクの心の中にも存在していた野心が、酷く異物に思えて仕方がなくなった。

 野心を説いてくる親も兄弟も親戚も、同じ人間として見ることができなくなった。

 

 だから──彼は、己の心にあった野心を「老衰」させて殺し、周囲の人間の魂を「老衰」させて殺し。

 

 この世にある野心という野心の全てを除去する道を選んだ。

 

「──はず、でしたが」

 

 首を擦るダルク。そこには傷一つついていない。

 ナイフで首を掻き切る感覚はもう何度も味わっているけれど、慣れるものではないのだと理解する。

 

「シャニア・デルメルサリス。……殺し得る、と。そう判断したこと。あれは紛う方なき野心。そして……アナ・ネクログレイブ、でしたか」

 

 聖護魔導学園から遠く離れた地にて一人、学園の方を眺むる彼。

 今の彼の心内には、ただただ反省があった。

 

「僕の一生分の老成では、五千年の老成には敵わないと……そういうことでしょうか」

 

 アナ・ネクログレイブ。

 まさか。ネクログレイブは確かにああいった攻撃的な魔法を隠してはいるが、だとしても『挽歌の獣』を一人で倒し切るほどではない。

 魔法世界における「本家と分家に出力差は無い」という法則は、けれど死霊病毒(ネクロクラウン)においてのみ効果の成されない条文となる。

 なんせ死霊病毒(ネクロクラウン)の本家とは始祖ディアナただ一人であり、始祖と分家の出力差に差がないわけがないのだから。

 

 ダルクを含め、死霊病毒(ネクロクラウン)の分家は大きな差を有する。それは他家における分家との在り方の違いから来るものであると同時に、決して()()()()()()()()()調整されているが故のこと。

 魔法世界が何者かによってデザインされたのなら、死霊病毒(ネクロクラウン)の分家は全てディアナによってデザインされている。

 

 四大元素(エレメントリー)の分家。その中でも選りすぐりの十八人。野心を持った排すべき魂の高齢者たちを用いて作った『挽歌の獣』。

 魔法抵抗力も膂力も凶暴性も、『ジェヴォーダンの魔物』など足元にも及ばない性能をしていた。

 それがああも簡単に、殺されるなど……あり得ることではない。

 

 もしあり得るとすれば、未だ見ぬ『英雄平民』による誅殺くらいだろう。

 そしてあの場にいたアナ・ネクログレイブがそれはないのだとしたら、あれなる存在の正体はただ一つ──ディアナ・ネクロクラウンその人しかあり得ない。

 

 どうして聖護魔導学園にいたのか。なぜ姿を変えているのか。

 ダルクの「老成」は全知ではない。だから知らぬ部分は想像で補うしかないけれど、理解は難しい。

 よって今回は、ただ「運が悪かった」だけだと結論付ける。

 

 ──当初の目的は果たせましたし。

 

 聖護魔導学園に巣食う野心。

 可能であれば全家に同じことを仕掛けたかったが、肉体強化(フィジクマギア)だけでも削り取ることができたのは僥倖。

 そして、キャレム・アレンサリスという野心……否、欲望の塊でしかなかった少女を潰滅することができたのも成果だ。

 

「老衰とは成長の別側面である──。言い得て妙だが、一つ忘れているね」

 

 声が響く。

 周囲に魂はない。だというのに声が。

 

「誠に残念ながら、人間という生き物は、"力を持つ老人の方が野心を大きく育てやすい"という法則にも縛られる。無論すべてがすべてではないし、謙虚に、あるいは分相応な生き方をするご老人もいる。それはたとえば、暴走しがちで、ともすれば無関係な者の命すら厭わないような老人たちを束ね、一つの目的を持たせ、最後には自ら諸共全滅を、と考えるような……エストパルカ・ヴィクター老のような存在が」

「……どちら様でしょうか、あなたは」

「ガエン・ネクロブレイク。クロノミコナとは懇意だった家の者だね」

 

 死霊撃破(ネクロブレイク)死霊墓守(ネクログレイブ)が死霊を用いた防御に特化した家なら、死霊撃破(ネクロブレイク)はその逆だ。

 戦場で死した者。今まで殺してきた者。目に付く死霊のありとあらゆるを射出し爆破する……四大元素(エレメントリー)とも真正面から撃ち合える魔法を使う分家。

 けれど。

 

「ガエン、ですか。つまりあなたは、"名の軛"から外れた存在……ですね」

「勤勉だね。評価をしよう」

 

 "名の軛"。

 これも魔法使いらがデザインされていることを裏付ける理由の一つ。

 

「魔法世界の膿を出す。結構なことだ。私は君の行いにも義があると考えているし、同時に襲われた者達が、被害にあった者達が君へ害意を抱くことにも理があると考える」

「何を仰りたいのかよくわかりませんね」

「一応ネクロブレイクの一員であるからね、私にも魂が見える。──『挽歌の獣』、だったか。大方ヴィクター老が"ここにいる全員を"などと言って収拾をつけたのだろう? つまるところ、野心というのは殺すことができない。どう在っても際限なく膨らみ続けるものであるが故に。なれば飼い馴らすことを覚えることこそが本当の成長であり──」

 

 刹那、気配が出現した。

 一や二じゃない、百や千に届く「誰か達」がダルクを取り囲んでいる。

 

「君の行いはただ、幼子が許容できないものに対して駄々を捏ねているに過ぎない、という話だ」

 

 その「誰か達」が、彼へと一斉に殺到した──。

 

 

 と。

 

「……まーた逃げられた。はぁ、これだからネクロ系のネクロクラウンは……。しぶといにも程がある」

 

 藁葺き屋根の平屋。木板の床に胡坐を掻いて座るは二人の男女。

 

「アンドリュース、アンタまだ若いんだ、溜息ばっかついてるとどんどん老けてくよ?」

「余計なお世話だよ、エギル」

 

 男の名はアンドリュース・ウォーラークラフト。あるいはガエン・ネクロブレイク。

 女の名はエギル・トルクスナフィリア。あるいはモニカ・コレクトサリス。

 

 どちらも存在抹消の里に住まう者であり、同時にこの里におけるツートップと呼べる存在である。

 

「……マキアン大陸にいたフィジクマギアの分家。()()したみたいだよ。始祖ビアンカの手による粛清が入ったそうだ」

「そりゃなんとも恐ろしい話だね。還帰派かい?」

「なんだ知ってたのかい」

「つい先日、グリーフィーと会ってきてね。これから起こることで、私に一切関りの無い情報があったら教えてくれ、と頼み込んだら、二つ返事で教えてくれたよ。私が差し入れに調味料を持っていくことまで視えていたらしい」

「ああ……ならアタシの教えることなんか一つもないか」

 

 エギル・トルクスナフィリアはこの存在抹消の里の長だ。

 トルクスナフィリア……生前はクライムドールの分家の長女であり、限定的な未来を立体映像として現像することに長けていた。

 ただ、未来視という一点においてウォルチュグリファを勝る部分は一つも無いから、グリーフィーの名が出たのなら言葉を失くすしかない。

 

 そしてグリーフィーがこの里を出て一人旅をしているのもこれが理由……な可能性が高い。

 クライムドール同士の諍いは千日手になる。存在抹消の里はその性質上あらゆる困難を事前に察知できた方が都合いいため、どうしても里長はクライムドールの系譜が継ぎがちだ。……なお里長と言っても誰に命令権があるわけでもなく、むしろもっとも雑用を押し付けられる存在であるから……それが嫌でグリーフィーは逃げることを選んだ、という説も濃厚だが。

 

「クロノミコナの若僧が次に行く場所も調べるかい?」

「お願いするよ。とはいえ、次は悠長にお喋りをすることなく仕留めないとね。……こういう時自身の瞬間最大火力の無さが嫌になるというか」

「ウォーラークラフトもネクロブレイクも、長期的に撃ちあうコンセプトのもと存在する魔法だからねぇ、そりゃ仕方ないさ」

 

 アンドリュースがダルクを仕留めんとする理由はただ、生前の彼がヴィクター老と仲が良かった……それだけだ。

 あの『挽歌の獣』がどういう構築式をしているのかを理解してからは、逆恨みにさえならない殺意を抱いてきた。

 

「とはいえ、人生何があるかわからないものだね。『詐欺師』の手によって送られてきた同胞……『残照回廊(リメノンス)』の捨てられた方。彼らの口からダルクの名が出て、芋づる式にヴィクター老の話までが露見した。運命が私に味方をしたのか、それとも排除されたのか……」

「排除、だって?」

「だってそうだろう? このまま行けば、私の勝手な復讐もダルク・クロノミコナという害悪も、『詐欺師』の与り知らぬところで死にさらばえる。まるで"本筋と関係ないが故に照らされなかった物語"とでも言いたげだ」

 

 実際、『詐欺師』がアンドリュースやエギルらに対して行っていることは、そうであるような気がしてならないのだ。

 存在抹消の里。ここに集められた者は、最早舞台に不要となった者たち。時折「ゲスト出演」することはあっても、『詐欺師』と『詐欺師』の周囲にいる者達が織りなす「本筋」に関わることはない。

 

 行こうと思えば行けるのに、行く気にならない。

 運命という巨大な潮流がアンドリュースらを排除しているかのように。聖護魔導学園を襲った首謀者らも、ダルク・クロノミコナも、『残照回廊(リメノンス)』の捨てられた者達も……「本筋」から離れたが故に潮流からも除外され、あまりにも運命的に繋がった。けれどそれは、本来繋がって当然だったものが『詐欺師』によって阻まれていたところを川岸へ寄せられたことで再度繋がりを見せた……そのように考えられるのだ。

 

 そして、そういう意味では。

 

「スヴェナ・デルメルグロウ……アンフィのお嬢ちゃんは、正解を選んだ、ってことかい」

「そうなるね。彼女は私達と同じ目に遭っていながら本筋にいる。運命の潮流は彼女の身を掴んで離さなかった。そこに何か理由があるのだとすれば」

 

 眉唾物の話がある。

 これもまた『残照回廊(リメノンス)』の捨てられた者達が語っていた話であり、彼らの盟主と『詐欺師』が話していたもの。

 

「生命の次元階位……エンジェ・エレメントリーとアンフィ・エレメントリーは、それが上がっているのだそうだ。今回の観察結果から言って、シャニア・デルメルサリスもそれに含まれるようだし、例外的だがグリーフィーも含まれる。生命の次元階位なるものがなんなのかははっきりとわかっているわけではないけれど、聞いた話を統合するに、『詐欺師』が元来持っていた目的はそれらを伴ってこの世を出ていくことにあったらしい」

「この世を出る、ねぇ。けったいな話だよ」

 

 魂として堅固であるとか、生命として強固であるとか、そういうことは判断基準に無いのだろう。

 もしあるのならば始祖らが入っていないとおかしいし、人間以外の魔物も視野に入るだろうから。

 

 何かがあるのだ。運命の潮流に掴み戻されるための何かが。

 

 アンドリュースはそれを知らなければならない。

 なぜなら。

 

「知らぬ間に掴み戻されようものなら、できることもできなくなってしまうからね」

「そうさね。里に住み着かなかった同胞……彼ら彼女らの目的が完遂されるまでは、眉唾話なんかに首根を掴まれないでほしいものだよ」

 

 そのためにも、やはり早いところダルク・クロノミコナを討滅せしめなければならない。

 アレがいる限り、またもっと多くの者が存在抹消に巻き込まれることだろう。なんせ驚くべきことに、彼ら彼女が存在抹消された根本の原因には『詐欺師』の手が入っていない。どこまで行っても『詐欺師』は死途の淵にあったアンドリュースたちに手を差し伸べただけであり、それはつまりその場その場において、アンドリュースやエギルを含むこの里の全員が「本筋」にいた経験がある、ということになる。

 ダルク・クロノミコナは川岸から「本筋」へ釣り糸を投げ入れる存在。

 

「環境保全団体にでもなった気分だね」

「実際ウォーラークラフトは灌漑工事なんかをやっていたんじゃなかったかい?」

「私は当主だったからねぇ」

「成程、消えて当然の当主だったわけだ。今は雑用まみれなんだ、均衡も取れているんじゃないかい?」

「毎日毎日忙しくて楽しい限りだよ」

 

 と、平屋にどこかの島が現像される。

 立体映像としてあるそれの中心にいるのはダルク・クロノミコナ。

 

「……うーむ。この木、マキアン大陸のものじゃないね」

「そうさな……もう少し熱帯域の樹木だ。加えてこの果実は……見覚えはあるんだがね。ラランを呼んで鑑定してもらうかい?」

「そうしよう。そこまで時間の猶予もないからね」

 

 トルクスナフィリアの未来視。これに限定的、という冠が付く理由はこれだ。

 対象の未来を視ることはできるが、それがいつなのか、そしてどこなのかは自分たちで推理する必要がある。見たい場所をみることのできる本家クライムドールやウォルチュグリファには遠く及ばない未来視。平時であればこの里を視るだけでいいので問題は無いのだけれど、こうして外の様子を見るとなると、それなりの大変さが付き纏うのである。

 アンドリュースは里に住まう少女ラランへと水の造物を送る。植物に関する魔法を使う……とかではなく、単純に植物が大好きで、とりわけ果実に詳しいだけの少女。

 この里は助け合いが基本である。加えて言動こそ胡散臭いものの面倒見は果てしなく良いアンドリュースの頼みとあらば。

 

「アンドりゅん! エギりゅん! ラランここに参☆上!」

「おお、よく来てくれたね、ララン。早速で悪いけれど、この樹木の鑑定をしてほしいんだ。どこの大陸付近の島で、どの時期かまでわかるとありがたい」

「おっと戦闘力ではなくそっちでのご依頼! ピッカーン! むしろ嬉しい! なぜなら痛いの嫌いだから! ……そぉしてぇ! ここはずばりぃ~、ジャックジャックハゥランの孤島! ルト大陸の南西に位置する孤島だね! さらにさらにぃ、ここ! ここに生ってる果実は今から七日後辺りの暖かくなってくる時期に生るリープエンドって果肉の美味しい果物なぁり! もし余裕があったらお土産を希望されたし!!」

 

 アンドリュースもエギルもそろそろおじさんおばさんと呼ばれる年齢になってきている。

 大してラランは未だ十代。

 

 ──眩しい。そしてうるさい。

 

 無論、協力してもらっている身なのでそんな言葉はおくびにも出さず、アンドリュースはにこやかな対応をする。

 

「ありがとう、ララン。そこまでわかれば充分だ。そしてお土産か、努力はしてみるよ」

「あ、でも気を付けた方が良いかも。ここ……ここにある、一本だけ色が違う木、わかる? これ多分というか確実に魔物だよ。擬態系の魔物。色合い的に……『理由の不明な名付けのされた魔物』かも?」

「おや、なんだい。魔物にまで詳しくなったのかい?」

「えっへへ~! この前入ってきた子……スヴェにゃんに触発されてねー。あの子曰く、"これは一応になりますが、知識というものはどこがどう繋がるかわからないものなので、自身の好きな分野だけに特化するのではなく、手広くやってみると、自身の好きな分野にもまた新たな発見があるかもしれません、一応"、って話でさ。最初は半信半疑だったけど、魔物とか気象学とか、そういうものに詳しい里民にお話聞いてたら、今は世界を知ることが大好きになっちゃったのです!」

 

 今更ではあるけれど、この里においては生前の名を名乗るのも「誰か」の名を名乗るも個人の自由だ。

 スヴェナのように「アンフィ・エレメントリーは死んだ」と割り切っている者は今の名前を名乗る──ラランもそれに含まれる──し、捨てきれない者はアンドリュースやエギルのように生前の名を名乗る。

 そこに何の縛りもない……というか、縛りを設けるはずの存在がこの里に無関心であるため、どうでもよくなっているというか。

 

「良いことじゃないかい。勉強が好きってのは、羨ましい話だ。アタシは昔も今も感覚派だからね、理論型を見ると羨ましくなるものだよ」

「ラランは充分に感覚型な気がするけれど、その上で勉学が好ましいという話だろう? 評価に値するよ」

「えっへへ~!」

 

 幻聴だ。

 今、潮の音が近づいた、なんてのは。

 アンドリュースもエギルもラランも口には出さない──運命の潮流の音。

 

 スヴェナ・デルメルグロウという名の少女が持つ、あるいはこの里の全てを巻き込みかねない大波の音など。

 

「ってわけで、ララン。これから血腥い話をするけれど、聞いていくかい?」

「ラランの魔法で手伝えること?」

「難しいかな。ああただ……そうだな、鉄の折鳥、何羽か貸してくれるかい?」

「それくらいならお安い御用! 作ってくるねー!」

「ありがとう、……って、忙しないな」

 

 ララン・イースルピープ。

 四大元素(エレメントリー)が地属性特化のイースリーグン、その更に派生の分家として生まれ変わった彼女は、既にその魔法をモノにしている。

 生前がフィジクマギアの系譜であっただけに生来の底抜けな明るさはそのままに、造形系の魔法を得たことを面白がって遊んでいる内に極めてしまった……ある種の天才。

 

 そんな元気娘がこの里に留まっている理由は至極単純──農業をしたいから、だというのがなんとも面白おかしい話だ。

 なお、実際に彼女が作った果樹園は里民に好評である。彼女のためだけに外部から珍しい種を持ち帰ってくる者がいる程には。

 

「……さて、あの子がいない内に計画を詰めようか。瞬間火力を出せない……出さないと仕留めきれないとわかった以上、搦め手が必要になる。エギル()、何か策はあるかな」

「次婆と呼んだら殺すよ、と言ったのはもう何回目だろうね。……ま、自分じゃどうしようもないなら、誰かの手を借りるか……アーティファクトにでも頼ればいいんじゃないかい」

「そういえば……スヴェナから"どうせ使わないのであげます"と、幾つかのアーティファクトを預かっていたね。なんでも始祖アンジェリカから貰ったものらしいのだけど……」

「へえ、始祖からの贈り物かい。そんな貴重品を簡単に手放すあの子もあの子だけど、遠慮なく貰って、しかも私怨に使おうとしてるアンタもアンタだね」

 

 しゅるり、と木板の上を這い、アンドリュースの腕に絡みつくようにして昇ってきた水の蛇。その口には奇妙な棒のようなものが挟まっていた。

 手のひらサイズのそれ。魔力を感じないそれを受け取ったアンドリュースが、棒の側面についた突起をカチリと押した……その瞬間。

 

 棒から光の束にようなものが伸びる。不可思議なことに、そこからは魔力に近しいものが感じ取れる。

 

「『SHEAR』という機構らしい。岩程度であればバターのように切り裂ける」

「……ネクロ系の若僧に効果あんのかい?」

「遠目からダルク・クロノミコナの死体を見た限りでは、彼は自身の喉にナイフを突き刺して自死を図っていた。心臓や脳ではなく、だ。つまりそこを破壊されるのは困るのではないか……という読みだよ。外れたら別の策を考えるさ」

「ま、どんだけ外したってアタシが何度でも捕捉してやるさね」

「勿論それ頼みだよ、エギル婆」

「水の造形分身操作中のアンタの身体、どうなっても良いとみたよ」

「おっと……これは貞操の危機、というやつかな?」

「襲いやしないよ!」

 

 暗殺計画を企てているとは考えられないほどに穏やかな空気。

 あるいは。

 

 その全てが、()の辿り着いた、ある「設定」の──。

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