魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Stop2-3.「始祖たちの見限」

 今はなぜか収まっている「世界の危機」こと、『快晴の雷』の豪雨。

 ただしそれは一時的に抑えられているだけであると……各地の魔法使いたちは理解していた。各地の魔法使い。それも一般に智者と呼ばれる者達が。

 それに先立ってずっと沈黙を貫いてきた始祖イーリシャ・クライムドール、及び始祖アンジェリカ・エレメントリーの両名が「救世宣言」を発令。これなるは一時的に家、国を問わずにいがみ合いを止め、「世界の危機」に対して策を講じるよう要請するもの……であったが。

 

 収まっている、抑えられているからこそ、人々はその言葉を重く受け止めることはなかった。

 むしろ聖護魔導学園で起きた肉体強化(フィジクマギア)次元空間(デルメルサリス)の諍い、世界で起きた様々な悪事の諸悪の根源たる始祖ディアナ・ネクロクラウンを放置していること、そして何より、聖護星見(クライムドール)という名がこの「世界の危機」を察知できなかった──あるいはひた隠しにしていたことを理由に、上述の両名への反抗心が爆発。

 始祖ビアンカ・フィジクマギアによる大粛清も相俟って、魔法世界、そして貴族社会は「始祖からの脱却」を目指す動きを見せ始めていた。

 

「……ってとこまで、アンタの計画取り。気分はどう、イーリシャ」

「計画通りと言いますか、視えてしまったのでそれに従ったまでといいますか。……良い気分ではないですよ。私は人類が少しでも長く生き永らえるための手を取っているだけだというのに、今や御伽噺の魔王扱いですからね」

「どころか始祖の全員が、ねぇ。……『愚者』が現れたからには何かが起きるってわかってたようなモンだけど、まさか『愚者』に関係なくこんなことになるなんて思ってもみなかったわ」

「完全に関係ないかはわかりませんが、少なくとも『愚者』さんのせいだけではないというのは事実ですね。……本当の愚か者は果たして誰だったのか」

 

 この展開は未来視にて知られていたこと。

 だから「始祖からの脱却運動」に聖護星見(クライムドール)の系譜は限りなく少ない。程度の差はあれど、こうなる未来は見えていた、という者が多いからだ。

 反対に四大元素(エレメントリー)は大反発を見せている。アンジェリカの居場所について、本家へ何度も問い合わせをしたり、目撃証言を集めて襲撃をしかけようとしたり。

 その熱狂は、「自分たちが始祖に勝てるはずがない」という純然たる事実を度外視させ、人々を羨望へと駆り立てる。

 

 即ち、始祖という支配のない──あるいは、自分たちが始祖のように振る舞う理想の貴族社会を、と。

 

「第一次魔法大戦の時も、こんな感じの理由じゃなかった?」

「そうですね。始祖という存在とそれ以外。この格差が気に入らない、という火が熾されたことより始まった戦争。十二あった国が半分にまで減り、昨日まで談笑していた隣人を疑い、殺さねばならない世界へと変貌を遂げました。結局目的を見失った人類はなし崩し的に戦争を終結させ……その蟠りを心に残したまま、表面上の平和が訪れました」

「ま、私達が死んでないんだから当然よね」

 

 無論、なし崩し的に、と記録されてはいるが、魔力濃度の上昇が「原因不明の病」として流行を見せたがためだ。

 

「ええ。だからこそ第二次魔法大戦はすぐに起こります。あの時の発端は……ディアナちゃんが国を一つ滅ぼしたことを受けて、でしたか」

「あれはでもディアナは悪くないでしょ。いや総合的に見たら悪いんだけど、あの件に関しては"始祖が死なない理由を開示しろ、さもなくば"みたいな脅しをしたんでしょ? ……なんだっけあの国の名前」

「エーフロン。フィジクマギアやネクロクラウンを中心に非人道的な研究を国ぐるみで行っていた場所であり、不老不死を目指していましたね。その結果、第一次魔法大戦より生き残った国の中で最も早く滅亡するという皮肉なる結果を迎えましたが」

 

 それをきっかけに起きた第二次魔法大戦は世界へ甚大な被害を齎した。

 漸く判明した世界の魔力濃度の上昇──これにより、魔力適性の低い平民が次々と中毒に陥り、すべての国の国力が削がれる次第となる。第二次魔法大戦はそもそも発端であるエーフロンが滅亡しているということ、そして兵站を担う平民が激減したことを受け、終結。これ以上続けることができなくなったが故の終結だった。

 その時点で残っていた五つの国は、魔力適性の高かった……生き残った平民を丁重に保護し、国の防衛力と国力の底上げを図る動きになる。人口が激減したことで訪れた事実上の平和により、第一次と第二次の間にあった期間と比べてとても長い間あった平和。

 

 けれどそれは、イグンシュトという中規模国家による隣国侵略によって崩れ去る。

 イグンシュトには事情があった。もう維持できなかったのだ。元より作物の育ちにくい国土と、エーフロンと国交があったから、なんて理由で第二次の責任の一端を押し付けられた国。

 それで居ながら民は屈強に生き抜き……「食料が無いのに強大な魔法使いだけがいる」という状況が作られた。作られてしまった。

 故、時の王が隣国を制圧し、土地を奪わんとして……第三次魔法大戦は起きる次第となる。

 

 この大戦は今までの始祖に対するアレソレではなかったために、本当の戦争になった。盟約を結び、イグンシュトを崩さんとする国々。境界門(ワープゲート)が乱立し、既存の兵法では軍隊を動かすこともままならない混乱具合。多くの者がMNSDに陥り、終わりの見えない戦いに辟易し……さらに世界の魔力濃度が上昇。その上昇度は魔力適性の低い平民だけでなく、魔力適性の低い魔法使いまでもを標的にするレベルのもので──流石に、だったのだろう。

 

 第一次、第二次では眺めるだけだった『愚者』が、戦争終結に向けて動いた。

 

「そんで、あんまり知られてないけど第四次魔法大戦。あのシエルが冷静さを欠いてまで隠蔽したからなんとかなったけど、あの子が頑張ってなかったら」

「世界は大恐慌に陥っていたでしょうね。発見……いえ、発掘された機構『QUEEN BEE』による群島の消滅事件。引き金を引いた国と、あの国をよく思っていなかった周辺国による責任の追及し合い。その背後で放置された『QUEEN BEE』の繁殖……増殖と呼ぶべきでしょうか。それによる魔法使いの拉致事件。被害に遭った群島が次元空間(デルメルサリス)の所有物であったからこそシエルちゃんが気付き得ましたが、そうでなければ……」

「でも、アレに関してはアンタ視えてたんでしょ?」

「ええ、まぁ。ただあそこにはノイズがあったので、放置していたんです」

「ノイズ……『愚者』がいたってこと?」

「恐らくは。思えばシエルちゃんの隠蔽だけでなく『愚者』さんの力添えもあったのでしょうね。彼は世界の魔力濃度上昇を嫌っているようでしたし」

 

 ともかく、これが五千年間に起きた四度の戦争。

 そして今……第五次が開かれようとしている。

 

「『愚者』はどういう動きをすると思う?」

「相変わらずノイズだらけで視えませんし、ディアナちゃんを抑える目的と保護の目的で送りつけたビアンカちゃんが想定以上に激しい動きをするせいで未来が確定しないままになっています……が、……どういうこと、でしょうね」

「何がよ」

「……魔物を襲い立てる多くの機構。一か所に集結し、一丸となって問題を解決しようとする……血筋の様々な魔法使いたち。そしてその中心にいる……大きなノイズ塊と、エレメントリーのお嬢さん」

 

 エンジェ・エレメントリーと『愚者』が恋仲にある、というのは既に二人とも知っている。

 だからなにが「どういうこと」なのかわからなくて、アンジェリカは再度問いをかける。

 

「だから──」

「ノイズが薄くなっている? ……いつか視えるようにしてくれる、とは言っていましたが、特に処置を受けた覚えもありませんし……これは」

 

 かけようとして、止まった。

 

 始祖ら少女五人は、一応前身文明の生き残りである。

 子供ではあったけれど、あの頃のナノマシン技術や科学技術についての理解があるのだ。

 

 聖護星見(クライムドール)の未来視がどういう原理のナノマシン技術なのかについてはまだわかっていないものの、それが齎す結果については一家言どころではない言葉が吐ける。

 

「ノイズが薄まる……ってことは、つまり……アイツが弱る、って理解でいいのかしら」

「断言ではできませんが……可能性は高いかと」

「それって、どうなの? 一昔前なら喜んでたけど、今のアイツって」

「ええ。どちらかと言えば人類側、エレメントリーのお嬢さんのおかげで、善寄りの存在になっています。実際樹殻の枝からの攻撃に対し、的確な対抗策を取ってくれているようですし……前に話した"アルター・コルリウム"なる人物に対しても積極的に動いていました。そのおかげでディアナちゃんがこの世から消える、という未来が消されましたし」

 

 善悪の判断は世間に委ねるとして、少なくともアンジェリカとイーリシャにとって、始祖五人は「友達」である。

 勿論シエルが何かを抱えていることは知っているし、ディアナの悪行も理解している。ビアンカの妙な冷静さも、あるいはここ二人の微妙に違う目的についても……全てを包含した上で「友達」だ。

 だから失われてほしくないし、それを助ける動きをした『愚者』の心象は多少良い方向へ向かいつつある。

 

「そもそもアイツが何なのか、って話にはなっちゃうけど……アイツが弱体化、ないしは超常的じゃなくなったら……マズい?」

「何を以てマズい、とするかにも依りますが、樹殻に対しての決定的な一打を打ちづらくなるのは必定でしょうし、何よりその先に平定たる世が訪れることはないと言えてしまいますね。『愚者』さんがいてもそれは同じではありますが、エレメントリーのお嬢さんといる限りは無害ですので」

「何が、とか、どこが、とか……原因か契機か、それを探るっていうのは無理?」

「ノイズを故意に観測するのは難しいのですが、視ている限りでは、ノイズの濃度が低下するのは凡そ三か月後ですね」

「……すぐじゃない。……どうする? アイツにそれ、伝える?」

「判断しかねます。伝えたところで防ぎ得るものなのか、伝えてしまった場合その"位置"が変わってしまわないか」

 

 未来視の結果は、伝えた相手の影響力が大きければ大きいほど不安定なものになる。

 世界に対する『愚者』の影響力など口に出すまでもないだろう。

 

「やめておきま──」

「いや、伝えておくべきでしょ。アイツなら"位置"が変わっても対処できるだろうけど、今のままだと知らないままに不意を打たれることになる。どれほど効果があるのかも、どれほど未来に影響を及ぼすのかもわからないけど……とりあえず私、直系の子孫の子が悲しむのとか、見たくないし。男のシュミは悪いと思うけど」

「……アンジェリカちゃん。貴女らしい、良い理由です。……わかりました、クライムドールの現当主を通じて伝えておきましょう」

「なんなら私達も聖護魔導学園に入学する、っていうのは」

「なんのために?」

「そりゃ……私もイーリシャも、あとシエルも、学園生活は経験したことないでしょ? ビアンカとディアナだけズルいじゃない」

 

 アンジェリカの言葉に、イーリシャはふむ、と考え込む。

 半ば冗談で言った言葉なのでそんなに悩まれるくらいなら、と言葉を撤回しようとするアンジェリカだった……が。

 

「良いかも知れませんね」

「……本気? っていうか正気?」

「どの道このまま行けば、第五次魔法大戦の開幕は免れません。ですが、始祖全員が姿を晦ました、となれば……少なくとも矛先を向ける相手が消えます。勿論本家は狙われるでしょうが、そこは上手くサポートして……そうしてあげれば、ぶつけ先を失った矛が空を切るに終わり、魔法大戦にまで発展しないかもしれません」

「そっちの未来は視えないの?」

「まだシエルちゃんを説得できていないので、舵が切られていませんね」

「や、まぁ私は構わないけど……。……ホントにやるの?」

「なんならこのまま身分を偽って、貴族たちには勝手に"始祖からの脱却"とやらをしてもらってもいいかもしれませんね。別に私達は支配したいわけじゃありませんし。ただただ善意で最も犠牲の少ない道を提示し続けてきただけですし」

 

 そも、「始祖からの脱却」も何も、五千年経っても未だに親離れできていない大きな子供たち、というのが始祖一同からの貴族への印象だ。

 シエルとディアナは分家をデザインしているのでまた違う意見を有するのかもしれないが、これはビアンカも同じような言葉を吐いていた。

 

 脱却したいなら勝手に脱却してもらって。

 自分たちは学生として学園生活を楽しむ、というのは……五千年間の先にある「ちょっとした休息」として、とても良いアイデアなのではないか、とさえ思えてきたのである。

 

「聖護隊はどうするわけ? あの子……なんだっけ、Fの子」

「フィニアンですか?」

「そうそれ。その子死んじゃって、色々ゴタゴタしてるって聞くけど」

「それも含めて親離れでしょう。私達の精神は変調しない。成長もしません。つまりずっと子供なわけです。対して変化と成長を繰り返す貴族社会(おとなたち)が、子供の指示を失くして右往左往する、など……滑稽でしょう」

「あれ、アンタそんな性格だったっけ」

「私にだってストレスは溜まるんですよ? 何かあるたび"未来が見えるんじゃないのか"とか"失態だ失態だ"とか……そんなに私を失脚させたいのなら、どうぞご自由に、と。……よし、決めました。行きましょう聖護魔導学園。創設者は私なのでねじ込むことは任せてください。容姿の偽装は『愚者』さんに手伝ってもらいましょう。お告げのお礼に」

 

 ストレスが溜まっている、という言葉に、アンジェリカは──。

 

 

 

 第一声は「嘘ですよね?」だった。

 

「あ、アンジェリカちゃん? イーリシャちゃんこれ、明らかに暴走してませんか。なんですか、お酒でも飲ませましたか」

「色々考えたけど、実際アリかなって」

「アンジェリカちゃんまでおかしくなってる……! いえ、私達は確かに友達ですが、一応腹に抱えるもののある関係性で、そんなに仲良しこよしの五人じゃない……でしょう?」

「じゃあ聞きますけどシエルちゃん。何をするにも何が起きた後にも、毎回毎回"どうしましょうか、シエル様"と聞かれるの……面倒臭くないですか?」

「いや、まぁ、それは……その」

「別に永久に始祖でなくなりましょう、というわけではないんです。彼らが脱却したいといっているのですから好きにさせてあげて、求めてきたら色々条件つけて返り咲いてあげましょう。求められなかったらそれはそれでラッキー。シエルちゃんだって別に、分家と本家の血筋争いが起きるのが嫌で監視しているだけで、敬われたいわけじゃないのでしょう?」

「……。……一応今、肉体強化(フィジクマギア)との関係性が冷え切ってて、準備とか色々あって」

「じゃあなんですか、シエルちゃんがその諍いに出ていくことあるんですか?」

「それは……無い、ですね。ビアンカちゃんと一緒になって呆れていたので、むしろ静観するつもりで……」

 

 つまり。

 

「おや、断る理由が」

「そしてそのビアンカちゃんも学園にいます」

「……。……待ってください。待ってくださいね。……ディアナちゃんもいて……何より『愚者』さんがいる場所で……」

「私はどっちでも良い派だから違う切り口で行くけどさ。肉体強化(フィジクマギア)とのバチバチ以外に、アンタ自身も結構面倒臭い立場になりつつあるんじゃないの? 分家に対して圧政敷いてきたせいで、分家の不満は溜まりに溜まってるんでしょ」

「ぅ……まぁ……反乱分子なんか簡単に潰せますし」

「潰しちゃったら大事な大事な『家族計画』、パァになるんじゃない?」

 

 少女、シエル・クローヴィーはタスクをリストアップする。

 やりたいこと。やらなければならないこと。そのリスクリターン、メリットデメリット。

 

 実際、始祖のヘイトが向いている現状で、あれやこれやと本家で指示を飛ばすのは悪手だ。

 本家では当然分家の人間が働いている。また、聖護魔導学園を襲った『残照回廊(リメノンス)』という組織の首魁が次元空間(デルメルサリス)の人間だった、なんて調査結果も届いている。『愚者』との約定の手前、イーリシャに打って出ることを画策していたシエルだが、この件を受けて「今は時期じゃない」となっていたことも確かなのだ。

 暗躍するには「時期」を見極める必要がある。それをせずに好き放題やってしまうと、ディアナのように世界の敵認定されかねない。

 

 総合して。

 

「……ま、まぁ、『愚者』さん次第じゃないですか。始祖五人が入学することを彼が快く思うかどうか、みたいな」

「驚きではあるけれど、別に構わないんじゃないかな。コルリウムの残党の狙いが始祖ディアナ・ネクロクラウンだけとは限らない以上、己の目の届く範囲に君達がいてくれると助かるし」

 

 当然のように。

 さも、今までそこにいましたよ、という顔で……『彼』が出現する。

 何の兆候もなく、さらっと会話に交わる形で。

 

「アンタ……最初のもそうだったけど、そのぬるっと入ってくるのやめられないの? 一瞬とはいえ身構えるでしょーが」

「己と君達の仲だろう?」

「仲良くなった覚え、ないんですけど」

 

 驚きではあるけれど、なんて言ったにもかかわらず、彼はこの三人がここにいるとわかっていたようだった。

 欠片も動揺なく自然体。その様子はまるで。

 

「未来視、ですか?」

「似たようなものだね。己が君につけた機能だ、己だって使えるさ」

「……であれば、三か月後のことは知っている、と?」

「ん? それは全く知らないね。何かあるのかい?」

 

 気さくに、長年の友達かのように。

 

「三か月後に弱体化……? ははぁ、まだ狙われているのか、己は。いやはや『天使』クンも諦めが悪い。……まぁ彼が狙ってきているわけじゃないのだけど」

「心当たりがあるのですか?」

「十七年後の己……君達に頼らなければならないほどにまで弱り切った己、というものと対峙したことがあるのさ。その未来は回避されたと思ったのだけど、そうか、まだなのか。……良い情報だ、礼を言うよ」

 

 して、と。『愚者』は言葉を切る。

 

「理由付けは……そうだな、特別体験入学生がフィジクマギアとネクロクラウンだけなのはズルい、と他家が口を出してきた、とかにすればいいんじゃないかな。そうすれば君達三人が入ってきても怪しまれることは少なくなる」

「……もう決定事項なんですか、私が入学することは」

「戦争をしたい、というのなら止めはしないよ。介入はするけれどね」

 

 どうやら『愚者』も気付いていたらしい。アンジェリカたちの「救世宣言」だけでなく、運命の潮流が時代を戦争へと運んでいることに。

 

「クリーンに行こうじゃないか。本懐を果たすのも目的を完遂するのも、聖護魔導学園の中ではできない、ということはないのだろう?」

「……まぁ」

「君達の友情について己は何かを言うつもりはない。コルリウムによる消失は避けたいけれど、君達が君達の中でどうこうし合うことは別にどうでもいいからね」

 

 相変わらずの様子ではあるけれど、『愚者』の雰囲気が少し軟化しているように感じるアンジェリカ。

 軟化。あるいは。

 

「アンタ、ちょっと人間らしくなった?」

「今の会話からそんなことを思うのかい?」

「いや、会話からっていうか……目線の配り方とか、呼吸の仕方とか、あとなんでもかんでも勝手に決め切らないで一応問いかけるところとか……なんだろ、昔のアンタより親しみやすいっていうか、ヤバい奴感が減ってるわ」

「言われてみれば、確かに。エレメントリーのお嬢さんとは上手く行っているということでしょうか」

「ああ……そうだね。今己は人間を勉強しているし、できるだけ怪物性を消そうと頑張っている最中だ。それがそういう幻想を見せたのかもしれない」

 

 ……だから、ここで。

 まさかまさか、であった。

 

「……恋は人を変える、って本当だったんですね……」

 

 なんて言葉がシエルの口から出ようとは。

 

 ぼそっと呟かれた言葉。

 それに対し、ギュンと向く三人の視線。……しばらくしてからシエルは自身がとんでもなく恥ずかしい言葉を口走ったことを自覚した。

 

「ち、違います! 昔端末で読んだことがあるってだけで、そういう夢を見ているとかそういうわけじゃ!」

「へー。アンタって案外少女趣味なのね。そういえば"お茶会"の時も毎回違う服なのってオシャレに気遣ってたりする?」

「いえそこに関しては、毎回毎回同じ服なアンジェリカちゃんがおかしいのだと思いますが……」

「なによ。ビアンカもディアナも大体いっつも同じ服じゃない。イーリシャも、大抵クライムドールの正装だし」

「……まぁ、確かに。シエルちゃんだけですね。たまにドレスとか着てくるのは」

 

 弛緩した空気。

 それに『愚者』は、うん、と頷いて。

 

「どうやら己は邪魔者のようだ。君らの容姿に関する偽装と認識錯誤はちゃんとやってあげるから、始祖イーリシャ・クライムドール。手続きなんかの諸々は頼んだよ」

「はい」

「それでは、"友達"同士、仲の良い雑談に耽るといい。恥ずかしがるシエル・クローヴィーなんか中々見られないからね、学園でもこっち方面で弄ると意外な発見があるかも──」

 

 言葉の先は紡がれなかった。

 シエルが『愚者』を空間消滅(デルメルバニス)したからだ。

 フーッ、フーッ! と肩で息をする……頬の、そして耳まで紅潮した彼女は、次に二人へと顔を向ける。

 

「良いじゃないですか可愛らしい趣味があって。私はシエルちゃんのそういうところ、好きですよ」

「あー、イーリシャ? それ、火に油を注ぐって──」

 

 ──後日、デルメルサリスが本家にて、小規模ながらに凄まじい戦闘の痕跡が発見される。

 のだが、始祖が行方不明になったことによるてんやわんやで、その調査が為されることはなかったとか、なんとか。

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