魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Stop2-4.「最終幕開の角笛」

 廃徊棄械(クラッドオレオム)が超広域制圧種アポカリプス・明日天気になあれ(ドゥマニル・テンポ・エピーロ)

 元はヒトガタしか存在しなかった廃徊棄械(クラッドオレオム)がこういった機奇械怪(メクサシネス)を彷彿とさせる姿に戻ったことには理由がある。それは、ヒトガタというものへの圧倒的な不信感──不便性を体感したことによるもの。

 ただし、カタチがヒトガタから変わったというだけで、そのブレインとでもいうべき部分に変わりはない。

 

 わかっていた。

 自らの吐き出す花粉が正体不明の空爆攻撃によって相殺されていっていることは。

 彼ら廃徊棄械(クラッドオレオム)は「考える機械」。後世において開発されたナノマシン技術によるAIなど軽く超える、「魂を有する機械」である。無論撃滅すべき人類の消失と指導者の不在によって退化に退化を重ねはしたが──この明日天気になあれ(ドゥマニル・テンポ・エピーロ)は、その退化の時代の前から「未来送り」されてやってきた廃徊棄械(クラッドオレオム)。つまり、何の弱体化も受けていない「考える機械」なのだ。

 故に彼は構築する。

 座標は元世界の中心の海(ゲヌ・エリ・マレア)の湖底。設定された制圧範囲は半径五百キロメートルの球形。残存動力及び動力源は安定。

 なれば、機内の製造炉を用い、この煩わしい相殺合戦を終わらせるモノを作ることもできる。

 

 製造すべきは敵を知るための偵察機、その偵察機が持ち帰った情報から対抗策を組み立てるためのサブ製造炉。

 周囲の海、及び水中、大気中に含まれる極小の同胞は気にしない。動力源が初めからついていないようで、廃徊棄械(クラッドオレオム)とも機奇械怪(メクサシネス)とも呼べない個体たちであるようだからだ。

 まずは偵察機を製造する。花粉を破壊し得る攻撃を行う「敵」。その攻撃をある程度避けつつも食らい、解析ができる程度の耐久性のあるものにしなければならない。消滅させられてしまっては情報が得られない。リアルタイムでの通信による情報取りは選択に無い。それでは情報を取り切ることができない。

 幸いにして周囲にはこれでもかというほど素材がある。一部不明な物質もあったが、そんなものは取り込んでから解析すればいいだけの話。加えて極小の同胞らも取り込み、素材として作り替える。

 

 急ピッチで作り上げた偵察機は五百。その全てを自らの茎から一斉放出し、攪乱も兼ねて上空へ送り出す。

 直後、正体不明の熱線が偵察機の半数以上を薙ぎ払ったことが確認された。

 発射位置不明。レーダー外からの攻撃。薙ぎ払いの角度から発射位置、さらには砲門の形と大きさを特定し、これを周囲海域に一切存在していなかった「廃徊技師(クラディック)」の生き残りと仮定。

 空爆よりも「廃徊技師(クラディック)」の方が厄介だ。あれらは彼の作り出す機械の全てに対応してくる。

 

 ただし、並行して空爆の情報も取る。

 空爆と思われていたものは超高速の刺突。彼の放つ不可視の超震動体である花粉に対し、的確な刺突……最早狙撃と言っても過言ではないものをぶつけてきている様子。弾丸、ないしは刀身の材質は樹木。炎熱凍結無効。腐食や毒、病による減衰も見られず。

 葉の一部を砲塔へ作り替える。本来は花弁へと近付く外敵を破砕するためのものだが、彼の全身は今ほとんどが海中にある。そのため外敵を気にする必要はないものと判断可能であり、作り替える砲塔への材料に注ぎ得る。

 

 超震動体と相殺し合う程度の耐久性であるのなら、砲弾はそれを超える耐久性能と超震動機能を備えさせればいい。

 組み上がった砲塔と砲弾を装填し、それをループさせる。

 メインラインでは先程の熱線に対するシールドを構築。熱線は彼の茎や花弁に対しては些細なダメージしか与えてこなかった。だが、「廃徊技師(クラディック)」相手の油断は禁物である。それは本能に刻み込まれた命令であり、最終局面投入仕様に調整された明日天気になあれ(ドゥマニル・テンポ・エピーロ)がそれまでに狩られていった同胞のメインコンピュータから得た知識でもある。

 熱線を牽制攻撃であると仮定。シールド及び熱系統への耐久性能を向上。

 

 上空、樹木による刺突を行ってきていた存在への砲弾の着弾を確認。貫通はしていない。威力向上。再生を確認。再生阻害のため、着弾と同時に花粉を吐き出すクラスター仕様を作成、装填、砲撃。

 これら攻撃が有効であることを確認。連続掃射を実行……中断。

 残っていた偵察機から、刺突速度及び耐久性能の向上を確認。どうやら「敵」は廃徊棄械(クラッドオレオム)と似た性質を有するらしい。つまり、その場その場での自己進化を繰り返す存在。となれば生半な攻撃をしていては千日手となる。動力源の都合上、周囲にいる同胞を含む生物へ葉の一部を伸ばし、取り込む。「ニンゲン」ほどの動力は得られないものの、足しにはなる。

 

「そら、よ!」

 

 ──突如としてソレが出現する。レーダーには探知されなかった何か。

 解析。「敵」はヒトガタ。廃徊棄械(クラッドオレオム)ではない。時代遅れの機奇械怪(メクサシネス)でもない。なればこれも「廃徊技師(クラディック)」と仮定。熱線を放ってきた存在とは別。攻撃種別は打撃。仮定は蹴撃。武器持ちの一人目、身体能力の高い二人目。

 

 レーダー探知内に強大な脅威を検知。

 上空の「敵」用の砲塔さえもそちらに向け──彼は、明日天気になあれ(ドゥマニル・テンポ・エピーロ)は、「考える機械」は──初めて「ゾッとする」という感覚を覚える。

 

「ここはもうお前さんのいる──いていい時代じゃねぇのさ」

 

 全装甲全エネルギーを花弁へ集中──。

 

 しかし、遅かった。

 八枚ある花弁の内の一枚が()()()()()()

 修復を開始しつつ、身体能力の高い方の「廃徊技師」を視覚器官で認識。

 脅威度を最高位に修正──個体名「古井戸」。かつて指導者たちでさえ「ブラックボックス」「意味不明」「こいつ、結局どっちの味方なんだ」など色々と文句を言っていた存在。

 

「モード・レヴィカルム・オーバーロード」

 

 レーダー探知外からの聞こえるはずのない音声。

 瞬時に花弁の修復を停止し、炎熱耐性を最大限にまで引き上げる。

 

 ──その、最も耐性の高かった部分を、光線が貫いた。

 

「っぶねぇなぁ! 相変わらず狙いが甘いのよスファニアの嬢ちゃん!」

「掠ってもヘーキだろお前。安心しろ、ピオには当てねえから」

「嬉しくない信頼だねそりゃまったく!」

 

 なぜか聞こえる遠方の声。なぜ。なぜ。なぜで済ませるべきではない。

 

 二枚目の花弁が割砕されたことを確認しつつ、花粉による霧を形成。花弁上に立つ「古井戸」を強制退去させながら、「考える」。

 レーダー探知外の音声を拾うことができた理由。そして……そもそも接近直後にあった、圧倒的な「脅威」の検知。

 情報を統合する。

 

 つまりは、デコイだ。

 明日天気になあれ(ドゥマニル・テンポ・エピーロ)専用のデコイとでもいうべきもの。彼は最終局面投入仕様なだけあって、従来機が存在する。そのレーダー探知機の仕様から対抗システムを作成されたものと判断。瞬時にレーダーの仕様を別系統に切り替え、再度先程の脅威のあった地点を探知。

 発見。一体のヒトガタ機奇械怪(メクサシネス)。その腕部にある機械がレーダーへのクラッキングを行っていたものと判断可能。遠くの音声を拾うことができたのは、外部からのクラッキングでシステムが書き換えられていたが為。

 三枚目の花弁の消失を受けながら、まずはその機奇械怪(メクサシネス)の破壊を試みる。

 

「んなことさせるかってぇ、の!」

 

 海中にある砲塔が蹴り砕かれる。花弁からの距離を考えても一瞬で移動することなど不可であるはず……などという思い込みは「考える機械」に存在しない。事実は事実であり、結果。構築すべき対抗策は──時間稼ぎ。

 

 霧状にしていた花粉を爆発的に周囲へと流せば、上空の「敵」が過剰反応をする。偵察機ほどの耐久性を持たない花粉。その一つ一つへの対処は不可能。故に上空の「敵」は太さで対抗しようとし──。

 

「っとぉ、そう来たか!」

「俺は一旦離脱する! ピオ忘れんなよ!」

「わーってるってぇ!」

 

 海面を駆け抜け、機奇械怪(メクサシネス)に向かっていく「古井戸」。その妨害はしない。

 製造炉、サブ製造炉をフル稼働し、先程受けた攻撃に耐え得る材質をその場で作り出す。否、材質ではダメだ。参考にするのは「廃徊技師(クラディック)」らの巣であった座標エルメシアの持っていたシールドフィールド。廃徊棄械(クラッドオレオム)が限定域支配腫フラウフロウスの使うようなサイキックによる隔壁の製造、展開。花粉を飛ばすための花弁もこれの中に収納し、砕かれた三枚の修復を急ぐ。

 クラックしてきた機奇械怪はともかく、「廃徊技師(クラディック)」と「古井戸」の脅威度は高い。故に彼は、明日天気になあれ(ドゥマニル・テンポ・エピーロ)は、周囲へと救難信号を発信する。

 

 ──信号が返ってきたのはたったの四体。他は似た信号を出すだけの輸送機や清掃機のみ。

 ただし、上質な素材を有していることを検知。信号をウイルスとして放ち直し、思考ロジックへ侵入、彼のもとへ集まるよう指示を出す。

 

 上空。

 強大な……驚異的な空間の歪みを検知する。それはクラッキングによるデコイなどではなく。

 

「なん、だぁ!?」

「古井戸さん、スファニアさん! 海中、可能な限りの水底への退避を! 樹殻がなにかを放とうとしています!!」

 

 拾った音声から上空の「敵」を「樹殻」と再設定。

 解析……終了。

 

 ()()()()()()

 

 直後、世界の中心の海(ゲヌ・エリ・マレア)周辺海域が真白に染め上げられた。

 

 

 ごろ、と岩が転がされて……彼女は助け出された。

 

「おーい、大丈夫か、生きてっか?」

「……ゾンビに対して言う言葉じゃねーな」

 

 手を引かれて立ち上がった彼女は見るだろう。

 

 一面の荒野を。

 

「は……ここは……どこまで吹っ飛ばされた?」

「それが吹っ飛ばされてねーのよ。お前さんのいた場所見てみ」

 

 瓦礫の山で動けずにいた彼女、スファニア・ドルミル。

 言われた通りに今までいた瓦礫の山を見れば……理解する。

 

 それは瓦礫ではなく、崩れた岩礁とでも呼ぶべきものだった。

 

「まさかここ、海底、か?」

「ああ。ピオも、身体自体は守ったが……電流かなんか混ざってたのかね、この通りぐでんぐでんで」

「……電流如きで、こうは、なりません。……これはいわゆる食べ過ぎに近い……現象です。オールドフェイスなど足元にも及ばない……超高密度に濃縮された魂……」

「ま、そんなことらしい。その凄まじいエネルギーをぶつけられたせいであたり一帯が吹き飛んで……ほれ、遠くだけど見えるか?」

 

 促されるままに古井戸の指差す方向を見れば、そこには滝があった。

 否。

 

「海が……流れ込んできているのか」

「みたいだな。今の一撃であのでけえ花は消滅したよ。そりゃ有難い話だが、樹殻の方がマズい。今は別の場所へ攻撃をしているみたいなんで俺達には目もくれちゃいねえが、あれの直撃はさすがの俺も厳しいかもしれねえ」

「むしろゾンビでもねぇお前がなんで生きてられんのか不思議でならねえが……。……これで海面が下がる、ってことは」

「流石に無いだろ。いや下がるには下がるだろうけど、微々たる差さね。……ああでも、巧い事これをやり続ければ……陸地を取り戻す、ってのはできるかもしらんねぇ。問題は俺達にそれをやる気がないってことだが」

 

 古井戸とピオ、そしてスファニア。

 三人はある場所で合流し、目的が同じであることを理解し、徒党を組んでいる。

 全ては自分たちの望みを叶えるため。その目的を達成するための"理由"に海面上昇をどうにかする、というものは含まれない。

 

「しっかし……樹殻の一撃。最後、シールドフィールドっぽいもん作ろうとしてた廃徊棄械のそのシールドごと消し飛ばしたな」

「むかーしやったオールドフェイスの砲弾の威力高い版ってこったろ? そりゃああもなる」

「量も……尋常ではなかったかと……」

「……ということは、もしやこれから先オールドフェイスが大量生成される可能性アリか?」

「ああ……それは、あるかも、しれませんね……」

 

 海が迫ってこようと関係はないし、今のところ樹殻への攻撃手段も思いつかないし。

 それでいてどこかに身を潜める、なんてことの意味の無さを知っている三人は、荒野となった海底で談話する。

 

 そんな三人の隣に降り立つ影があった。無論全員気付いていたけれど、害意がなかったので無視していたものだ。

 

 降り立ったのは女性。……背中に横向きにした小舟を背負っている、という点が果てしない違和感を生じさせているものの、身体的特徴に関してはあまり特徴的ではないと言ってしまえる女性だ。

 

「はじめまして。自分はグリーフィー・ウォルチュグリファって言います」

「おんやまぁこれはご丁寧に。俺は古井戸、このぐでんとしたのはピオってのよ」

「ピオ・J・ピューレです……」

「スファニア・ドルミル」

 

 突然現れ、突然自己紹介をしたにもかかわらずのこの進行。

 それに面食らう者は……いない。

 

 グリーフィーもまたそう返ってくるということがわかっていた様子で、話を続ける。

 

「御三方を"救世のための強力な人材"として要請させてください。自分、サポーターとしては優秀な自覚ありますけど、戦闘力とか御三方に比べたらゴミみたいなものなんで」

「流石に質問良いかいね?」

「自分はこの時代の魔法使いで、未来視が可能です。……ま、正直世界なんて滅ぶんなら滅べばいいと思ってる派閥の人間ではありますけど、痛いのと苦しいのはヤなので」

「未来視、ねぇ。……オカルトだな」

「お前が言うかよ古井戸」

 

 未来視。実際、未来視とはなんなのか。

 

「未来視は未来からの魔力の波を感知する魔法……というか、体質? なんで、何にもオカルトじゃないですよ。その辺も説明しながら御三方に声かけた理由も話すんで、とりあえず行くべき場所にいきませんか」

「俺は世界を救わないといけないんだが」

「はい、御三方全員そうですよね。『終末』さん……ああ、胡散臭さと捨てきれない人情が混同してる変な人に何かしらの願いをして、その代価に世界を救うことを託された人たち」

 

 一瞬ピオへと目配せする古井戸。

 それ自体はぐでんぐでんとなっているため見えていないけれど、「視認された」という感覚素子がそれをキャッチし、何をしてほしいのかを理解。その小さな製造炉であるものを作り始める。

 

 しかしそれは、ピオの背中にある投入口が撫でられたことで中断を余儀なくされる。

 

「ひゃ……」

「素材が勿体ないのでストップです。自分を信用できないのはわかりますけど、あなたたちには温存してもらわないといけないので、ごめんなさい」

「……つまり俺達の行動は全部筒抜けってことでいいのかい」

「そうですね。少なくとも目的地に辿り着くまでの未来は全て見終えました。無数のパターンを──」

 

 半歩下がるグリーフィー。その鼻先を掠め……さえしない、古井戸の蹴り。

 完全に避けられた。

 

「"話を聞いてやってもいいかな、と思いながら放った蹴りさえも避けるってこた、こりゃ逃げ場は無さそうさね"……という胸中ですよね」

「あー、はいはいお手上げお手上げ。信用するしない以前の問題と見た。んで、世界を救うのは望むところなんで、それでいい。スファニア、お前さんは?」

「俺も特に異論はない。おい、女」

「はい。あ、グリーフィーって呼んでくれても」

「俺には明確な目的がある。それが損なわれると判断した瞬間、たとえ無駄になったとしてもお前を裏切る。わかってるな」

「勿論。……というかね、自分だってヤなんですよ。折角貴族社会のしがらみからも戦いからも逃げたっていうのに、どの未来を視ても回避不能な差し迫る終末、なんて。勝ち筋はたった二通りだけ。けど、その片方もつい先日潰されました。本家クライムドールの始祖様、ほんっと余計なことしてくれます」

 

 古井戸たちではわからない話だけど、その二通り……救世において対抗し得る可能性があったのはこの三人と『終末』だけ。

 その『終末』が世界の終わりと完全な拮抗をしたのちに弱体化しつつも未来を掴み取る、という道筋が始祖によって潰された以上、グリーフィーはこちらに来るしかなくなった。

 

「『終末』さんと始祖たちが遊んでる間に、実はもう最終段階です。今回の大暴れで樹殻は最終フェーズに移行しつつあります」

「物知りなお嬢ちゃんだことで。……で、その最終フェーズになると、何が悪いのさね」

 

 歩き出すグリーフィー。迷いなくついていく二人。ピオは担がれているのでされるがままだ。

 

「御三方はタンポポという植物を知っていますか? ダンディライオン、でもいいですけど」

「そりゃ知ってるが……もう生えてないだろう?」

「俺の時代でさえ"昔生えてたもの"にされてたらしいから、実物は見たことないな」

「『忘我の繭』、樹殻、天幕。結構色んな呼び名のあるあの植物は、そのタンポポと似た生態をしているんです」

 

 少し。

 ほんの少しだけ……友人を思い出すスファニア。彼女も研究職で、失われた動植物について詳しかった。

 

「呼称を樹殻に合わせて話します。……樹殻はもうすぐ開花します。開花した樹殻の種子は星の外、星海と呼ばれる場所を飛び、別の星の成層圏、あるいはそれに類似する高度のどこかに着弾し、この星と同じような樹殻を生長させる……っぽいです。自分は視ただけなんで、原理とかはさっぱりなんですけど」

「もう侵略生命体かなんかになってるじゃねーのよ。フリスとほとんど同じだ」

「フリス、っていうのは、『終末』さんがたまに口に出すなんか仲良いのか悪いのかわかんない人ですね。まぁそれは措いて擱いて。そうやって種子を飛ばしたあと、樹殻はその花弁を一度枯れさせます。ただしそれは自滅によるものではなく、新たな種子を作り出すための休眠状態への移行なんです」

 

 ガコ、と。荒野には似つかわしくない音が響いて……歩いていた海底の一部が()()

 その下にあったのは、ハッチのようなもの。

 

「休眠状態へと移行した樹殻は、再度種子を作るためのエネルギー集めに勤しみます。そのエネルギーが」

「俺達、ってわけだ」

「はい。そこまで行ってしまえば、あとはもうどうしようもありません。先程の一撃が全世界に放たれ、分解されたすべての生命、構造物、及び魔力が樹殻へと吸収されます。樹殻は魔力を栄養源にはできない……できなかったのですが、あの大きな花との戦いを経て生長しました」

「つまり、そうなる前にケリをつけねぇと、ってことか」

「そうなるのは三か月後。本来であればもうどうしようもない段階です」

 

 ハッチの蓋を開け、下へ下へと梯子を伝って降りていくグリーフィー。彼女へ追従する三人は、そのハッチ内部の空気にどこか懐かしい感覚を覚えたことだろう。

 

「……初め、自分が視ていた未来では、『終末』さんが樹殻と相討ちになり……弱体化を経ながらも周囲と協力し、樹殻を滅することに成功していました。ですが、始祖が余計なことをしたせいで、その未来は(とざ)され……代替として、あなた達三人に対処をお願いする次第となりました」

「アレが相討つような相手とやりあって、俺達は無事で済むのかいね」

「現段階では無理です。ですが──」

 

 梯子を降りきった先にあったもの。

 それは──海、だった。

 

「……まさか」

「はい。これなる海のその全ては、()()()()()()()()()()()()()。自分の名前はグリーフィー・ウォルチュグリファ。かつての名をダリア・ネストクラウン。死霊病毒(ネクロクラウン)の中でも珍しいネクロ系統とクラウン系統の双方を併せ持つ魔法を使い、"自己実現"の最適解を生み出す魔法使い。新たに手に入れた未来視も相俟って、ここにあるすべては樹殻の攻撃に対抗し得る規模を有しています」

 

 さらにグリーフィーは、言の葉を切ることなく続ける。

 

「ピオさんには自己改造を、古井戸さんには自らの理解を、そしてスファニアさんにはその突撃槍……カイルスの改良を。無数の未来、数多の可能性を視て視て視て得た知識で作り上げたこの場所の名前は『LABO』。……強くなってください、皆さん。樹殻の開花さえ防げたのなら、自分には()()があります」

「……その間。三か月間の樹殻は放置するのか。今も……世界が襲われてるってのに」

「ご安心ください。『終末』さんが対抗するための機構を作り出しています。あれはあの大きな花の機械ほどの脅威度は無いので、あそこにあの一撃が放たれることはありません」

 

 言葉を受けて。

 次に声を発したのは……ピオだった。

 

「古井戸さん。……私を、あの海に投げ入れてください。……そろそろ守られてばかりは、嫌ですから」

「ほいよ」

「えっ、その、余韻とか──」

 

 ぼちゃん、と落ちるピオ。

 流れる沈黙。

 

「んで? 俺の理解ってのと、スファニアの武器の改良は?」

「奥に」

「あいよ。んじゃあな、ピオ。お前さんが俺に追いつく間に、俺はもうちょい強くなってるから、そのつもりで」

「カイルスの改良か……これ、フリスが作ったものだから、下手に手を加えるとあぶねーぞ」

「勿論識ってますよ。原理はわかっていませんが、正解の未来は既に見つけてあるので、問題ないです」

 

 ──運命の潮流がやってくる。

 それは『彼』の手で「本筋」から離された三人が、再度「本筋」へと合流するための。

 

 二度目の小休止(Stop)はここまで。

 ここからは──更に渾沌と化した聖護魔導学園での、『彼』が謳歌するべき日常の時間である。

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