魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Sin13-1.「感情関係の絡合」

 聖護星見(クライムドール)の本家筋はそれなりの人数がいる。

 というのも、他の四家と違い、聖護星見(クライムドール)は不意打ちや不慮の事故にとことん弱い。陣地を敷けていない、未来視のできていない状態では聖護隊……騎士の一族と差はなく、むしろ身体能力などの面において劣るほどだ。

 よって、「本家の血」というものが絶えないように本家筋をたくさん残している。

 だから現当主であるイレイア・クライムドールだけでなく、元『残照回廊(リメノンス)』の双子も本家だし、聖護星見が有する領土には本家筋の人間がまだまだいる。そしてそれらは「当主落ち」しているわけではなく、当主相当の扱いを受けて生活をしている──いつ当主になってもいいように、と。

 

 つまるところ──。

 

「スペア、予備なわけです」

「……自虐はほどほどにしてください、イリス。周りが引いています」

「え。事実を言っただけなのですが……ごめんなさい」

「まーまー。結局はそういうしがらみから一度離れてのびのびやってこい、って送り出されたわけなんだからさ、そういう話はナシにしよ」

 

 陸に上げられた魚のようだ。何がって、スヴェナの口が。

 もしかしたら己の認識錯誤を彼女が見破っているのかもしれない。それほどの練度にまで達したのかもしれない。ただ偽装は認識錯誤とは全く別の法則に依るものだから、そう簡単に見抜けないはずなんだけどなぁ、なんて他人事の感想を一つまみ。

 

「あー、でも、実際面白いぜ? や、面白いって表現は違うのかもしれねえけどさ、結局他家のそういう……事情? システム? そういうのって知りたくても聞けねえし、そもそも知りたいって思うこと自体がマナー違反みたいなとこあるしよ。本人の口から話してくれると、へー、そういうモンなのか、ってなる」

「そう……ですね。興味深い、という表現にしておきましょう。しかし、成程。自身の陣地にいる間は無敵に近くとも、いざ知らぬ場所に出てみれば無力。ゆえに当主候補を落とさずにおいておく。……聞けば聞くほど合理的です」

四大元素(エレメントリー)にそういう考えはないわー。私は最近次期当主になった身だから知らないことがあるのかもしれないけど、少なくとも前の次期当主が存命だった時は家を継ぐとか一切考えないで遊んでたし」

 

 とても姦しい空間ができつつある。

 始祖Dの偽装、アナ・ネクログレイブ。始祖Bの偽装、カナビ・フィジクラッシュ。

 そして今回新たに始祖Aの偽装としてアンジー・エレクトニカロルス、始祖Cの偽装としてシェリー・クローヴサリス、始祖Eの偽装としてイリス・クライムドールが特別体験入学生としての仮入学を果たした。

 教頭フィニアンの死から引き籠って陣地を形成、聖護魔導学園に関する未来予知に努めていたイレイアが目を白黒させて己に詰問を入れてきたのが数日前。それは始祖Cが入学を頷いた日と同日であり、そこから「視ていた未来がぐちゃぐちゃになった」と喚き散らかして、果てには学園長室で飲酒を始めるという暴挙まで犯していた。流石に隠蔽してあげたけど、誰かに見つかっていたら聖護魔導学園の信用問題は更に傾いていたことだろう。

 その後、ほとんど……というか多分強制的な「い・い・で・す・よ・ね?」みたいなやり取りがあって、こうして始祖三人が入学を果たした次第である。

 

 一応の性別が男である己。純朴な男子たる生徒C。

 この「いつものメンバー」の中にたったそれだけしか男子がいない事実は、周囲から羨望の目を……集めることはなかった。

 

 むしろ生徒Cへとんでもないエールが送られている。

 まぁ、そうだろう。前日からアナとカナビが「それなり以上」の成果を……成績を叩き出している他、未だ入学したばかりの三人も「成績を認められての入学」という話が流れている。

 己は『英雄平民』で、スヴェナの実力なぞ言わずもがな。

 生徒Cだけなのだ。普通の魔法使いは。だというのに場の雰囲気が悪くなったり険悪になったりするたびに仲裁役を買って出るものだから、俗っぽい言葉を使うのなら「ハーレム空間」ではなく「猛獣使い」として認められているらしかった。

 

「ところでぇ、この時期に入学ってぇ、実際どうなんですかねぇ」

「なにが?」

「だってぇ、もうすぐ期末テストじゃないですかぁ」

 

 期末テスト。……聖護魔導学園は一応学び舎である。だから生徒の現在の知識量や実力がどうなっているのか、を測る場が用意されている。

 内容は座学と実技、及び今年から追加導入された実戦。前者二つは例年通り、魔法や社会情勢、貴族としてのしきたりなどを問う座学のテスト。そして自身の魔法に合った名目の課題をクリアし、そのクリア速度や内容を問うという類のもの。実技に関しては己は免除対象だ。

 追加導入された実戦は「同じ系譜の教師との実戦」、あるいは教師Dの夢幻の中で「魔物との一対多における立ち回り」を見られるとかなんとか。これも己は免除……されるはずだったのだけど、なぜか行われるらしい。前に『英雄平民』として持ち上げられた時、束になってかかってきた教師全員を熨しているので必要ないと思うのだけどねェ。

 

「アンジーちゃん、シェリーちゃん、イリスちゃんはぁ、魔法に関しての知識は問題ないと思いますけどぉ、礼儀作法とか社会情勢とか、疎いんじゃないんですかぁ~?」

「問題ありませんよ、アナさん。先も述べた通り、私は当主候補ですので、一通りの作法は身についています。勿論貴族社会に関する情報も耳に入れています」

「……礼儀作法は、私マズいかも」

「で、ですよね! アンジーちゃん、一緒に頑張りましょう!!」

「ちょっとカナビ、ですよねは失礼じゃない? ……シェリー、アンタは」

「私も特には問題ありませんね。というよりケニスさんと『先輩』以外は曲がりなりにも"貴族令嬢"なのですから、礼儀作法も社会情勢知識も身についていて当然では?」

 

 う、と目を逸らすは始祖A、B。あと少女A'。ちなみにエンジェはできなそうに見えて普通にエリートだ。さっきも「遊んでいた」なんて言っていたけれど、少女A''……アンフィ・エレメントリーの死後すぐに次期当主として名乗り出て、他家に一切舐められることが無いほどには教育も行き届いている。あの「遊んでいた」発言は「流していた」程度のことであり、それは彼女にとって居住まいを正して学ぶまでもなかったこと、という話でもある。

 その特異性に目がいきがちではあるけれど、エンジェは感覚型の中でも天才と呼ばれる類の存在なのである。それでやっかみを受けないのは……カッとなるとすぐに魔法を使う危険人物だから、かもしれない。

 

「アンタ今なんか変なこと考えなかった?」

「いや?」

「そう。ならいいけど」

 

 恐ろしいことだね、うん。

 

「けど……つか、今更ではあるんだけどよ。チビはなんでそんなできるんだ、座学。当主候補でもなんでもないんだろ?」

「なんでもなくとも勉強するのが学生というものでは? 一応、私達は学生なのですし」

「う……慣れませんね、その話し方」

「はい?」

「そう言われると返す言葉もねーんだけどよ……」

 

 そうそう、シャニアの生命次元階位の上昇について。

 これがあったのは己にとってもかなりの予想外で、けれど予想通りでもあった。

 コルリウム……若い方のコルリウムが画策していた「世界の危機」。そこに陥った時、人類は自分自身で自らの次元階位を押し上げる。この世界を美しいと捉え、犠牲が出ることを承知で、しかし人類をも美しいと称していた彼による樹殻の活性化。

 己は危機に陥った程度で次元階位が上がるものなのかねェ、なんて考えていたけれど、どうやら樹殻の活性化にはあの場で口にした以上の効果があったらしい。実際シャニアが直面した危機とは樹殻に関するものではなく、最上級生Cと調薬師Dを相手にしてのもの。さらに言えば二人に追い詰められたから「覚醒」した、というよりは、克己心から生命の次元階位を押し上げた、という風に捉えられた。

 

 そう、魔法使いに元々備わっている「覚醒」、「暴走」ではなく生命の次元階位の押し上げを「その程度の事象」で行い得たのである。

 己はこれを樹殻が活性化していることと結び付けた。

 円輪の年代記(CHRONICLE)に接続していない今詳細はわかっていないのでサンプルをたくさん見る必要があるけれど、樹殻の活性状態下における「覚醒」が全て生命の次元階位上昇に繋がる可能性が出てきたわけだ。

 若いコルリウムがどこまで読んでいたのかは定かではないけれど、さしもの己も舌を巻く事態と言わざるを得ないよね。

 

 ……というわけで次元階位を上げたシャニアは、晴れて認識錯誤により翻訳されているだけのスヴェナの元の音声を聞くに至った、と。

 その辺の調整はしていないし、スヴェナにも伝えていないので、この面白いすれ違いは今後も多々起こっていくことだろう。シャニアはシャニアで「どうしてそうなったのか」を自分だけで探ろうとしているようで、本人に直接問い質す気はないようだし。

 

「はい! はいはいはい! アリスはお姉さまたちにお願いがあります!」

「なに?」

「折角クラス統合でお姉さまたちエリートと一緒に学べる機会を得たんですから、勉強とか魔法を! 是非学びたく!!」

 

 少女A'のその言葉に……ざわめいたのはクラスの方。

 こちらに興味を持っていた者、持っていなかった者含め、結構な人数が「確かに」となっている。実際エリート側……次期当主であったりそれに並ぶ力の持ち主は、「仲の良い同年代」や「腹心」を作っておきたいものなのだ。学生時代の縁は卒園後も強固に繋がる。況してや恩を売っておけば、あるいは弱みを握る結果にもなり得る。

 それこそ現在の社会情勢が「打倒始祖、妥当本家への下剋上」みたいな風潮であるため、ここで繋がりを強固にしておくのは大きい。エリートでない側は普通にその恩恵を肖れるメリットがあるからね。

 

「"この話題、己は一切関与できないから見守っておこうかなぁ"って顔してるけど、アンタも勉強会来なさいよ」

「ナチュラルに心を読んでくるようになったね、エンジェ。それで、その理由は? 君の言った通り己には関係のない話だろう。ああ、座学に関しては問題ないよ」

「だから、よ。魔法知識も魔物知識も礼儀作法も社会情勢も、アンタ全部人並み以上に持ってるしちゃんとできるんでしょ。だからアンタは教える側。先生役は何人いたって問題ないもの」

「え、『せぇんぱぃ』って礼儀作法にも詳しいんですかぁ?」

「意外です……『先輩』、そういうことに無頓着だとばかり」

「まぁ、社会経験という意味ではこの場の誰よりもあるでしょうし」

「こいつの事だし、適当にズルして身に付けてそうなものだけど」

「礼儀作法に詳しいの、素直に引きますね。なぜでしょう」

 

 始祖一同からは酷い言われようである。

 ただエンジェは何も反応しない。君ね、恋仲なんだからもう少し庇い立てるとかないのかい?

 

 ……ところでずっと気になっていたのだけど、シャニアからエンジェに対しての目線がずっと熱っぽいのは……これは「もしかして」なのだろうか。

 期末テストなどよりそっちの方が気になるのだけど。

 

「実際上級生が頼れない今、勉強会はアリだよなー」

「上級生が頼れない……というのは?」

「ん、ああ。そっか、入学したばっかだから知らねーか。……まぁカナビがいる状況で話す話題でもなかったなって今反省してるんだが」

「ああ……ウチのゴタゴタの話ですか。そうですね、あれのせいで上級生の皆さんが疲弊しているという話は聞いています。気を遣わせてしまって申し訳ありません」

「い、いや、謝ってほしかったわけじゃねえっつか、発言が軽率すぎたっつーか……こっちこそスマン」

 

 最上級生Cによる肉体強化(フィジクマギア)の系譜の暴走。

 それを止めるために他家の生徒が奔走し、規律会も奔走し、教師陣も大変な思いをし……勿論当人ら肉体強化(フィジクマギア)の生徒も激しく落ち込み。

 最上級生Cの処分に関して「彼女の友達」を名乗る者達も多くいたし、逆に「ようやく報いを受けたか」みたいな発言をした者もこれまた多くいたようで、今度はそこがバチバチになり。

 結果的に今、初学生以外の生徒が激しい疲弊を覚えている。己が望んでいた血筋争いの結果だし、結構与していた身で言うのもなんだけど、お疲れ様だよね。今はゆっくり休んで、これからもっと激しくなる血筋争い、及び家同士の抗争に向けて英気を養ってほしいものだ。

 

「ケニス、かっこ悪いですね!」

「んなこと声高らかに叫ぶんじゃねえよ……」

「それより話を進めましょう。中休みの時間、そう長くはありませんし。……授業とは別に勉強会をする、そしてこの人数で、というのなら、集会棟を使うのはどうですか?」

 

 集会棟。読んで字のごとく。

 一応聖護魔導学園はこう……五家の血筋が絡まり合って存在している学園ではあるけれど、ある一つの家だけに関する問題が起きた時、それを話し合えるような隔離空間とでも呼ぶべきものが各家ごとに用意されている。無論次元空間(デルメルサリス)に関して言えば自分たちで空間を作ってしまえばいいので必要ないのだけど、盗聴の危険性はゼロではない。

 よって、集会棟は普段使われることはないものの、有事の際やこういう場合おいてのみ使用され……それぞれの教室も議事堂並みに広いと来たものだから、まさにうってつけだ。

 とはいえ上述の通り本来は家単位で教室が割り当てられているもの。ここの面子は多種多様が過ぎるため、誰の、どこの教室を使うべきか、という話に──。

 

「ならぁ、死霊病毒(ネクロクラウン)の教室を使わせていただくのがぁ、一番丸い、ですよねぇ? ──ドクラバ先生ぇ?」

「少しばかりの悪戯心を発揮してぇ~、気配を消して近づこうとしたのは悪かったけどぉ~、そんなにっこり笑顔で首だけ振り向いて問いをかけてくるのはぁ~、とぉっても怖いよぉ~、アナクン~」

 

 ならなかった。

 

「なんでそれが一番丸いんですか、アナちゃん」

「だってだってぇ、ここにいるの家の比率を考えるとぉ、四大元素(エレメントリー)次元空間(デルメルサリス)多めでぇ、死霊病毒(ネクロクラウン)肉体強化(フィジクマギア)聖護星見(クライムドール)が一人ずつ。その時点で()()()()()()の危険性を考えてぇ、複数人数のいる家の教室は止めた方がよくってぇ、似た理由で肉体強化(フィジクマギア)の教室も……時期的に使い難くてぇ」

「そして、ここが聖護魔導学園であるから、聖護星見(クライムドール)の教室は陣地に同じ。何が仕掛けられているか怖くて近づけない……ですか?」

「そんなこと言ってないけどねぇ? イリスちゃんはぁ、わたしのことなんだと思ってるのかなぁ~?」

 

 片や魔法世界の秩序を守らんとする始祖E。片や魔法世界に渾沌を齎す始祖D。

 始祖AとEは自分たち全員が「友達」であると言っていたけれど……ま、あるよねェ確執は。

 

「使用許可が出しやすい、っていう点を鑑みてぇ~、僕もそれで良いと思うよぉ~。……実際他家の集会棟の使用許可申請を出しに行くのぉ~、僕苦手なんだよねぇ~」

「なぜドクラバ先生が申請を出しに行くのですか? 私達が行えば済む話に思いますが……」

「当然保護者だけどぉ~? 君達はしっかりしてるとはいえ、一応男女の学生なわけだろぉ~? "良からぬ企み"以外にも"良からぬこと"が起きたっておかしくはないからねぇ~」

「……ここは頬を赤らめて怒る所なのでしょうが、実際エンジェと『噂の平民さん』というカップルがいる以上、なんとも言えませんね」

「シャニア~? それ、どういうことなのか……あとでじーっくり聞かせてほしいわね~?」

「ふん、付き合い始めてからそれなりの日数が経っていますし、結婚前提のお付き合いなのでしょう? ならもう……」

「シャニアさん、一応その、下世話が過ぎるといいますか、一応」

「……。……申し訳ありません、そうですね。この場にいる全員に謝罪します」

 

 こいこい、と生徒Cへ手招きをする。

 何か思うところがあったのだろう、そのハンドサインに気付いてこっそりこちらへ来る生徒C。

 

「……己は完全爆睡していたから知らないのだけど、エンジェとシャニアに何かあったのかい?」

「いやよ、シャニアが今回の事件の首謀者たちを倒した、ってのは聞いてるだろ? で、その時空間剥離っつー……まぁ結界みたいなモンを敷いてたんだけどよ、それが堅固も堅固で、エンジェでも破れなかったんだよ。その時は班分けをしててさ、俺達側の事件はすぐに終わってシャニアとアリス、アナのもとへ駆けつけたらその状況で……それなりの間指を咥えて見てるしかねぇ、って状況で」

「あー……大体わかってきたけれど、続けてほしい」

「おう。つかまぁそれが全部なんだけどさ。ようやく晴れた結界の中で、意識ぶっ飛んでる首謀者の一人と……自決してる首謀者がいて、それに対峙する形でシャニアがいてよ。アリスはなんか足手まといだったから隔離されてたらしいし、アナは魔物を相手にしててちょっと離れた場所にいて……んー、多分エンジェの目にはシャニアが茫然自失としているように見えたんじゃねえかな。それで、勢い余って、って感じでエンジェがシャニアに抱き着いて、無事かどうかを確認して全身ペタペタ触ってもっかい抱きしめて……」

 

 ぶぉん、という音と共に、それなりの威力の風の砲弾と空間の破片が生徒Cを襲う。

 ので、ステッキでどちらも相殺しておいた。君達ね、ツッコミで使う威力じゃないよ。

 

「──というわけだ! 助かった! そして俺は身の危険を感じるので口を噤むぜ!」

「隠蔽していても流石に目の前だと気付くからねぇ~? その威力の魔法を校内で使うのは、あんまり、やめてねぇ~?」

「あんまり!? いや有事の際以外は絶対禁止くらいにしてくれよドクラバ先生!」

「話題が下世話だからとスヴェナクンが会話を止めたにもかかわらず、さらに下世話な話題を重ねる君の方が悪いよぉ~」

「あとこそこそしているだけで声量は下がっていませんでした、一応。丸聞こえです。次元空間(デルメルサリス)の端くれなんですから、自分たちにだけ音声を遮断する結界を纏わせるくらいしてください、一応」

「いやそんな器用なことできねーって……」

 

 なる……ほど。

 ふーむ。

 

 いや……こういう場合の己……恋仲の立場にある己は、どう反応すれば良いのだろうか。

 サンプルに無かったな。多分エンジェの行動は彼女の博愛主義から生じたもの。加えてシャニアは親友だから、というのもあるだろうから、エンジェ的には特別な行為ではない。が、シャニアはそうされたのが初めてで、戸惑っている……し、その戸惑いを恋だと勘違いしている……?

 ……こういうことに詳しい意識がまさにアイリポデパルだったんだけど、いなくなっちゃったからねェ。複数の「こういうことに詳しい自我」を引き連れて。

 

「なによその目。嫉妬……じゃないわね」

「ん、ああ。そういう感情は持ち合わせていないから、なんと反応すべきかわからなくてね」

「ふぅん。……別に反応なんてしなくてもいいケド」

「そうかい? それならそうするよ」

 

 ん。

 ……おや、始祖一同からなにやら生暖かい視線が。

 

「……『せぇんぱぃ』、なんだか……なんでしょうねぇ、この感情」

「そうね……私も実際見るまであり得ないっていうか気色悪いとさえ思ってたけど……これ、もしかするともしかするの?」

「あたし、自分ことじゃないのにちょっとやきもきしてきたかも……」

「く……想像以上に理想的な……!」

「シェリーちゃん、先の一件から隠さなくなりましたね。良いことだと思いますよ」

 

 君達もこそこそしているだけで声量抑えられていないからね。聞こえているからね。

 

「いやぁ、青春だねぇ~」

「アリスは複雑な気持ちです……」

「アリスさんは一応ケニスさんがいるのですから、いいのでは?」

「はぁ!? チビお前、何言って……俺達はそんな関係じゃねーよ!!」

「そうですよ。たとえ何があったってケニスとは嫌です。かっこよくないですし、弱いですし」

「ほーぉ……期末テスト見てろよアリス。俺は結構成長してんだぜ」

「ケニスがどれだけ成長したって微々たるものじゃないですか」

 

 ふむ。

 なんだろうね、この居心地の悪さというか……据わりの悪さは。

 

 もしかして、これから嫉妬や独占欲を獲得する前段階だとでも思われているのかな。

 ……難しい注文をするものだね。己にそういう人間的な感情や機能は無いんだよ。持ち合わせていないものは発生し得ない。だから作るしかないというのに。

 最悪またあの虫にコンタクトを取って、そういう意識片を分けてもらおうかなぁ。いやでもそれだと本末転倒……己は己で愛を覚えたいのだから……まぁ。

 

 頑張ろうか。何が、かはわからないけれど。

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