魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
消滅、である。討伐ではなく。
現場には大量の魂が散乱していて、その直上にあった樹殻には弾痕らしきモノが。
……樹殻が原始的ながらも魂を武器とする術を覚えた、か。
近くにいたグリーフィー
「あ、起きた」
「おはようございますぅ、『せぇんぱぃ』」
今日は、というか今日も勉強会の日。
集会棟で、座学の猛特訓である。
礼儀作法はシャニアが中心、魔法知識はスヴェナが中心となって先生役を務め、ドクラバは見守るだけ。一生徒に肩入れするのは良くないから正しい判断だ。
己は魔物知識関係……つまり実戦テストにおける傾向対策を聞かれるのだけど、何分実戦テストが今年から導入されたものとあって、傾向もなにも、というのが正直な感想。
とはいえ聞かれたことにはちゃんと答える。己のような特殊な存在の立場ではなく、魔法使いとしての立ち回りを。
たとえば。
「ビートル系魔物の甲殻の対処法は、たとえばアリス・フレイマグナ。君なら君の得意分野をぶつけるだけでいい。あれらは熱に弱いからね。爆炎の威力ではなく熱で殺すんだ」
とか。
「ケニス・デルメルクラン。君であれば甲殻の隙間を狙うといい。可動域を底上げするために、その部位は柔らかくなっている。そこなら君の魔法でも切り裂ける。もし可能なのであれば、体内に平面結界を、というのが一番楽なんだけど……その顔を見るに無理そうだね」
とか。
「魔法抵抗の高い魔物? うーん、そもそも魔法抵抗というものが何か、という答えは持っているのかい、アンジー」
「当ぜ……。……いや、知らないわ。教えてくれる?」
「うん。まぁ知らなくて当然だよ。知っていたら
「認めたくはないですけど、そうですね。私達の使う結界、空間、次元……どの系統の魔法も完全にすることはできません」
「風の結界も必ず穴ができちゃうし、そういう話であってる?」
「あってるよ。……とまぁ、そんな感じで、魔法抵抗なんてものは突き詰めてしまえば魔力が集まっているだけ。なら、なんらかの方法でその結合を解除してやるか、集合している魔力の間をすり抜けるような魔法を使えば良い」
とか。
結構具体的に話す。まさか始祖Aが質問者側に回るとは思っていなかったけれど、多分少女A'のための質問だろうね。面倒見の良いことだ。
ちなみに今述べた魔力は全てナノマシンに置き換えられる。ナノマシンの結合率が高ければ高いほどナノマシン技術による攻撃が通り難くなるし、結合の間をすり抜ける技術があれば意味を失くす。簡単な話だ。
加えて述べるのならば、割とその辺に生えている草から
だからそれを適切な手段で処理し、液体と化することで
だから学園でも魔物学についてを教える際はリーチ系の魔物には最大限注意するよう教えているはずだ。彼らに吸い付かれると、普通の魔法使いが無意識に展開している魔法抵抗……体表魔力から体内魔力までを一気に吸い取られ兼ねないから。それ自体はすぐに取ってしまえばいいのだけど、無意識だからね。自分でも気づかない内に魔法抵抗が下がっている状態で魔法を受ける、あるいは自身で強い魔法を使おうとすると、起こり得るはずのない中毒症状に陥る。
つまるところナノマシン汚染によるナノマシン中毒……そしてそれは蓄積し、除染しない限りは二、三年で死に至る、なんて。
「あぁでもぉ、どれだけ魔法抵抗が高くてもぉ、力で潰しちゃえばぁ、関係ないですよぉ?」
「
「はいはい、カナビに実戦テストの懸念なんかないんだから、あっちでちゃんと礼儀作法の座学を真面目に聞いてきなさい」
と、それはそうだ、という話でもある。
どれだけナノマシンが密集してようが、内側は生物でしかない。だから潰してしまえば殺し得る。……そこへさらに甲殻系の堅牢さが合わさると、ようやく以て「駆除対象」になるかな。学生相手のテストにそんなもの出さないだろうけど。
「……実際、どっちが強いんですか?」
「へぁ?」
「あにゃ?」
それはなんでもない疑問だったのかもしれない。
始祖Eの疑問。クライムドールは魔法らしい魔法が使えない……陣地内でなら好き放題できるけど、それはそれこれはこれ。
だから出てしまった疑問である。
「アナちゃんのネクログレイブによる絶対防御と、カナビちゃんのフィジクラッシュによる最大火力。……どっちが強いのかな、と思いまして」
「あー、イリス。これは俺からの忠告だが、各家の得意分野を並べてどっちが、とか言うのは余計な火種に──」
「当然、フィジクラッシュが強いよ! 死霊の防御とか関係ないし!」
「普通に考えてネクログレイブですねぇ。物理的な防御ではないのでぇ」
──おお。
火花が散る。ま、始祖たちは今縛りプレイ中。その中でも自分に合った……偽装しやすい分家の魔法を選んでここにいる。
使おうと思えばなんだって使える彼女らの、選びに選び抜いた、厳選による魔法。
「イリスちゃんって、天然ですよね。最近……というか入学してから、抱いていた敵愾心が薄れ気味です」
「そういうつもりはなかったのですが……。ちなみにクローヴサリスの移動速度とエレクトニカロルスの伝播速度ならどっちが──」
「さてはわざとやってんな?」
ふむ。
まぁ、始祖たちの精神は少女のままだ。精神年齢という点で言えば、生徒Cやエンジェらよりも幼い、のかもしれない。
「教師ドクラバ。君は教師ドリューズ・ネクロレアニーのような何をしてもいい空間は」
「作れるわけがないよねぇ~?」
「煤を広く展開して、流れ弾を逃がさないようにする、くらいはできるんじゃないかい?」
「……できるけどぉ~、って、うわ!?」
できる、と彼が言った瞬間の詰め寄り。始祖BとDが、それはもう猛獣のようにドクラバへ接近し……さらに始祖Dの口が動く。
「き、君達、そういうこと気にするんだねぇ~……まぁ……流石に集会棟じゃできないからぁ~、室内運動機能場に移動するけどぉ~……それでもいいかいぃ~?」
「はぁい。じゃあ、カナビちゃん。──殴り合おっか」
「うん! 日頃の鬱憤もぶつけるけどいいよね!」
「え~? こわぁい。普段からわたしに鬱憤なんて溜めてたのぉー?」
まぁ、溜まっていない存在の方が少ないんじゃないかな。
「アナをボコ……アナと戦えるなら、私もいこっかな」
「一応、私も参加していいですか。魔法理論に関しては『一応平民の人』でも教えられそうですし」
「きゃぁ、わたしってば人気者~」
あれよあれよの間にドクラバごと少女らが出ていく。
まぁ……うん。いいんじゃないかな。始祖Bの礼儀作法だけ心配だけど、まだ時間はあるし、ガス抜きは必要だろうし。
残った面子に目をやる。
「……イリス。頼むからやめてくれ。こういうことになるんだ……」
「はい、ごめんなさい。軽率でした」
「あの三人はいつまでたっても子供ですね。どっちが強いとか誰が凄いとか、比べる意味はないと思うのですが」
「別に行け、っていうワケじゃないけど、イリスとシェリーは冷めてるのね。アンタたちも身体動かしたい、ってならないワケ?」
「私はクライムドールですし、シェリーちゃんは多分……」
と、そこで言い淀んで己を見る始祖E。
……?
「最上を知っているので、その下で争っても意味が無いと……そう考えているだけかと」
「正解ですけど、理解されているのはちょっとムカっとしますね」
「えーと、どういうことですか? というか勉強会は……」
「コイツが最強だから、力比べなんて意味ない、ってこと? それは冷めてるっていうか、諦めっぽいわね、なんか」
「ちょ、エンジェ! なんで焚きつけるんだよ!」
「でもアリスもお姉さまに同意見です。確かに『とんでもなく強い平民さん』と比べたらアリスたちなんてちっぽけな存在ですけど、そんなことを言い出したら学園なんか要らないっていうか……競い合う相手と敵わない相手は別っていうか」
おお。……いや、己も人間の感情を勉強している最中だから、これはわかる。
──親心、だね。これは。
「ケニス・デルメルクラン。君も今感動を抱いているんじゃないかい?」
「はぁ? お前までどうしたんだよ……」
あれ。
……あの幼稚で仕方がなかった少女A'がここまでまともな言葉を吐けるようになったなんて、と感動に打ちひしがれる場面なのではないのか。
「大丈夫よ。私には伝わってるから」
「良かった。やっぱり己の理解者は君だけだね、エンジェ」
「……あの、勉強会の場なので、急にイチャイチャし出すのやめてくださいますか」
暗い感情。
へぇ……やっぱり、なのか。
「と! とりあえず勉強会続けようぜ。あ、いや、教わる身でえらそーな事言ってんじゃねえって言われたらそりゃそうなんだが」
「いえ、正しい判断だと思いますよ。ケニスさん……デルメルクラン、でしたか。勤勉なのですね」
「お、おう? なんかヘンな言い回しだが、褒められたのか? ……ありがとな?」
始祖C。多分彼女の中で、デルメルクランという分家に対する評価が書き変わったのだろう。
家督なんか一切関係のない立場にありながら、生徒C、君は自らの家へ多大なる貢献をしたみたいだよ。
さて、気を取り直して勉強会は続く。多少の蟠り……少女A'と始祖Cの間にあるそれを全員が見て見ぬフリしつつ、教えを乞う立場にある生徒Cと少女A'へ自分たちの持ち得る知識を叩き込む。都度都度始祖Eが助け船のような質問を出しているから、彼女は彼女でちゃんと教育者になろうとしているのかな、なんて考えつつ。
刻々と時が過ぎ、一切戻ってくる様子のないバチバチ組の様子を見に行こうか、なんて話が上がってきたところで──己、シャニア、始祖Cが顔を上げた。
甲高い音。
「ん、どうしたお前ら」
「ふぁぁ……今日も頑張りました……」
……なんだ?
本腰を入れて解析する必要があるな。初見で己がわからないとなると……コルリウム関連の可能性がある。
「エンジェ、室内運動機能場の方へ、警戒をするよう要請してほしい。届くのなら学園長イレイアにも」
「私の風には何も引っかかってないけど……アンタたちだけにわかる何かがあったのね。わかった」
──
「シャニアさん、多重、もしくは重複系の結界は行使可能ですか?」
「既に敷いています。……ただ、結界でどうにかなるものかどうかは」
「そのようですね。イリスちゃん、陣地化の準備を」
「完了しました」
──
「十?」
「何を言って──」
これだけ絞って十もあるということは……学園にあるものを除くにしても、襲撃の類だとは考えにくい。
ナノマシンの縦軸挙動は見られないので時間移動の類ではない。ただ空間系の二人が反応していること、及びSEARCHにも引っかかっていることから空間移動系統であるのは間違いない。
「シェリー、イリス。彼女らを頼めるかい」
「はい、勿論です」
「ちょっと、なんでこの子達に頼むのむぎゅ」
「はいはい、エンジェさんはちょっとこちらに。『先輩』、お好きにどうぞ。私達は何も聞こえませんから」
それはちょっと己に配慮し過ぎだけど。
理解があるのはありがたい。
教室を出る。そのまま異相を開き、学園上空へ。
あの甲高い音は響き渡っていた。まぁ普通の音とは違ったから上空に出てくる意味はないのかもしれないけれど……聖護魔導学園を俯瞰できるのは大きい。
見渡す限りでは、何も無い。己の感覚素子にも何も引っかからない。
あとは聖護魔導学園内部にあるSEARCHで引っかかった空間機能系ナノマシンの一つ一つを除外し、さらに範囲を絞り込んでいく。
……それでも六つ。だよね、聖護魔導学園にあるものは機能系ではないはずだし、機能系だとしたら陣地であるはずだし。
とすると、更に上? あるいは異次相?
「面倒臭いから、壊すよ」
何か大切なものだったら申し訳ないね。
「
突く。
検索範囲の空間、その異次相の全てを。
……何枚か壊れた感覚はあるけれど、脅威度はそこまででもないものだった。
であれば……やっぱり上かな。
ヒトの方ではない目も使用して上空をねめつける。
やっぱり……ある。移動痕跡だ。空間移動系の痕跡。それと、何かを引っ掻いたかのような傷痕。
これは……爪?
「一応平民の人」
「ん、スヴェナ……じゃないねェ。いやでも良かった、君達の方から現れてくれたというのなら、手間が省けるよ」
「一応、何を言っているんですか? 私は私ですよ、一応」
「上っ面だけ真似ても君はスヴェナにはなれないよ。あと──己の思い出を汚すのはやめてほしいかな。その気配は癪に障る」
突く。今度は見た目スヴェナのその胸を。
肉を貫く感触は無い。返ってくるのは硬質なガラスを砕いたような感覚。
そのままステッキは偽スヴェナを貫通し──ソイツは、己に抱き着いてきた。
「──それをしていいのは、今のところエンジェだけだよ」
弾け飛ぶ。己が。
その爆発にソイツを巻き込んで……肉体を再構築すれば。
「おー……思ったより大きいね、全貌」
己の血肉が飛び散り付着した──巨大で、透明な、ドラゴンの姿が。
偽スヴェナは疑似餌のようなものだ。今でも「一応平民の人」「一応平民の人」と呼び掛けてきているけれど、スヴェナは己のことをそう呼んでいるつもりはないからね。君が上っ面だけを真似ていることはわかるよ。
それが六体。
「『
「一応平民の人、何を言っているのですか」
「とんでもなく強い平民さん! アリスですよ!」
「噂の平民さん……どうしてしまったのですか?」
次々と現れる疑似餌。
己には効果が無いと説明したつもりだったのだけど、これはそこまで知性が無いタイプかな?
「一応聞くけど、これ君の実験体、とかじゃないよね」
「複製体の身で答えますが、断じて違います。こんな趣味の悪いもの創りません」
「なら壊してもいい。そうだね?」
「いいんじゃないですか。私は本体に情報を取ってこいと言われただけの使い捨てシエル・クローヴィーなので」
……面白い魔法を開発しているみたいだ。今度じっくり調べてみたいけれど……今は、こっち。
「もう一つ問いをかけておこう。──メガリア。この龍は君の造物かな。それとも別?」
返事は──爪の振り下ろしにて。
「そうかい。それならば殺そう。……マグヌノプスでも虚構の神でもないモノを作る能力が君にあるとは思えないから、今回は冤罪にしておくよ」
前肢を割り砕き、大きく助走距離を確保する。
脅威度は高いけれど耐久性能は無いらしい。ただ空間移動をする様子なので、六匹一気に仕留めるべきだ。
ここに現れた理由も、目的も、何もかも知らないし、興味も無いけれど──。
「
貫く。
さらに「創り変え」て、全てを素のナノマシンへと戻す。
「ねぇ、それは──私でも、なワケ?」
「当然」
はいおしまい。
……誰の差し金かは知らないけれど、随分と己に詳しいね。
だというのに浅い。ちぐはぐだ。
このドラゴンを作る知識と出現まで始祖Cにさえ悟らせなかった手腕。
己の周囲の人間への理解度と、己というものへの理解度の差。
コルリウムやコルリウムの手下のやり方じゃあない。
……素直に血筋争いや学園生活を楽しませてはくれないものかなぁ、って。
「……結局なんだったんですか、今の」
「さぁ? 空間系統の合成魔物っぽかったから、君の分家の仕業だと思うんだけど、本当に何も知らないのかい」
「知りませんよ。やるメリットがないですし」
「だよねェ。……ドラゴン自体君の趣味じゃないだろうし」
つまり、あるとすれば。
空間を操る術を
その名は。
「……
見上げる天幕。
偽物の青空の裏にいる樹殻は……ま。
「いいよ。人類の生命次元階位が上がっているんだ。君もいつまでもそのままじゃあ──面白くない。そうだね」
「誰に話しているんですか?」
「世界中のどこにでもいる誰かに、ちょっとね」
いいじゃないか。
三か月後が真実味を帯びてきた。──楽しみにしているよ。