魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Sin13-3.「感情関係の絡合」

 破壊した『虚空龍(ヴォイドラン)』が上空……つまり樹殻へ吸い込まれそうになったので、己の持つ異相空間へ全回収をしておいて。

 いつの間にかいなくなっていた始祖CCの複製体の構築式を色々考えつつ、当初の目的……バチバチ組の様子を見に室内運動機能場へ来てみれば。

 

「……なにかな、この死屍累々は」

「バトルロワイアル、って言葉ぁ~、知っているかいぃ~?」

「初めは一対一で戦っていたけれど、途中から面倒臭くなって、最後まで立っていたヤツが一番強い、に切り替わった……という理解でいいかな」

「うん、流石だねぇ~。……戦闘の余波を一切外に出さなかったことを褒めてほしいよぉ~、本当に……」

 

 倒れているのはスヴェナ、始祖A、そして今己と会話しているドクラバ。

 ダウンしながらも魔法は維持できるらしく、室内運動機能場を覆った煤は……今なお行われている「戦い」の余波を包み込んで殺している。

 

 始祖Bと始祖D。

 どちらも縛りプレイをしたまま……かと思いきや、始祖Dの方は秘術を持ち出しているね。始祖Aとスヴェナが気絶しているから問題ないとでも判断したのかな。

 

 フィジクラッシュ。普通に書くと全力強化(フィジクラッシュ)なんだけど、その派手さと強さ──正確には呆れ──から、全壊強化(フィジクラッシュ)なんて呼ばれることもある家。

 その戦闘スタイルは、とても単純。

 

「そんなに! 肉弾戦行けたんなら──この五千年間、もっと遊びに行けばよかったかな!!」

「偽装がかかってるからってー、取り繕わなくなったのはー、ダメだと思うんだよねー」

 

 ヒット&アウェイならぬヒット&ヒット。ガン攻め。回避も退避も無い、ぴったり張り付いて攻め続けるためだけに魔法リソースを吐く強化魔法。

 さらには相手を逃がさないよう自身との距離を固定する、という肉体強化(フィジクマギア)らしからぬデバフ系の魔法まで使って相手を拘束する超接近戦魔法である。

 

 ちなみにこれをされると魔法使いはちゃんとキツいはずだ。なんせ相手は肉体強化(フィジクマギア)。魔法抵抗は限りなく高く、その拳にはエンチャントが乗っている場合もある。ただでさえ接近戦をあまりしない魔法使いにとって、フィジクラッシュは鬼門も鬼門。四大元素(エレメントリー)次元空間(デルメルサリス)は戦う前に投降しかねない。死霊病毒(ネクロクラウン)も普通はそうなんだけど、ネクログレイブだけは肉弾戦行けるから、って感じだね、今のは。

 あとはヒールクラウンとか、自分の肉体を治癒する系統の家も「行けなくはない」って相性だろう。

 

 ただしフィジクラッシュはその名の通り全魔力を全強化につぎ込む魔法。当然燃費は最悪だ。

 普通の魔法使いであれば短期決戦で片が付くし、魔物も以下同文……なんだけど、今回のように粘られると本来のフィジクラッシュなら先にガス欠が来る。この時間までやり合えているのは彼女が始祖Bだからであり、聡い者であればこの時点で「おかしい」と思えるだろう。

 ドクラバはもう彼女らについて察しているようだから問題ないのだけどね。

 

 なお、ネクログレイブは死霊を使った防御だから物理的な攻撃は意味ない、なんて初めに言っていた始祖Dだけど、あれは普通にブラフというか嘘だ。

 だってそれだと物理的な攻撃全部通ることになるから。フィジクラッシュもネクログレイブもナノマシン技術で形作られていることに変わりはないので、どっちの魔法もそりゃ通るよ、って感じ。

 燃費の良さで言えばネクログレイブに圧倒的な軍配が上がる……んだけど、始祖同士だと魔力切れとかないから、これ一生終わんないんじゃないかな。

 

「その点で言うと、君が伸びているのは意外だね、アンジー」

「……エレクトニカロルスを選んだのは……間違いだったっていうか。いや、便利なんだけど、あの二人に交ざって戦える魔法じゃなかったわ……」

「ちなみにスヴェナはどうやって負けたのかわかるかい? 完全に気絶しているようだけど」

「ああ……。なんかシエ……シェリーみたいな戦い方に移行したかと思ったら、とんでもないこと……多分禁呪よね。それやろうとして、カナビとアナの二人から割と本気目の一撃食らってノックダウン。アナにちゃんとした倫理観があるってわかっただけでも収穫……」

 

 成程。スヴェナ、君模擬戦って知ってるかい?

 

 と。

 

「なんだ、平和じゃないですか。取ってこさせた情報からそこそこの緊急事態と判断して、さらには帰りの遅い『先輩』に痺れを切らす形で様子を見にきたのですが」

「ああ、連絡を入れる手段が己に無いからねェ。様子を見たら戻るつもりだったんだけど……」

 

 中央の二人に視線を促せば……始祖CCは大きな溜息を吐いた。

 

「だから力比べなんて意味無いんですよ。こと私達に関しては勝負がつかないので」

「ま、アリス・フレイマグナに敵意を向けるのはやめてあげなよ。彼女はちゃんと魔力が底をつく普通の魔法使いなんだから」

「……ええ、そこは子供過ぎたな、と反省しています。……今シャニアさんへ全員無事であるということを伝えました。ので、多分ぞろぞろとこちらへ向かってくるかと思われますが……あの二人どうします?」

「アナは己達に気付いているけれど、カナビはちょっとしたトランス入ってるよねェ」

「カナビちゃんは一つのことに集中すると周りが見えなくなるので。……まぁアナちゃんのやり口からして、何かしらを使った可能性はありますが」

「ああ……」

 

 それこそまさに肉体強化(フィジクマギア)の系譜を暴走させたようなものを、か。今色々ピリピリしてるんだから、そういうのはやめようね。

 

「……アナに倫理観があるってわかった、っていうの。撤回するわ……」

「おや、アンジーちゃん。負けたんですか。無様ですね」

「へぇ。そういう煽り入れるんだ」

 

 ふわり、と……始祖CCの身体が浮く。

 あまりにも自然。あまりにも突然。

 始祖CCが対抗策を取る暇もなく、彼女の身体はポーンと……中央二人の真ん中へ落ちる。

 

「ちょ──」

「あー、シェリーちゃんだー。乱入ってことでいいのかなー?」

「アナちゃんほどじゃないけど、シェリーちゃんともがっつりやり合ってみたかったので大歓迎! いっくよー!!」

 

 容赦とかマナーとか、そういう言葉の一切が感じ取れない顔面へのパンチ。

 それはしかし、避けられる。正確にいうと拳が押した空間が更に始祖CCを押して、届かなかった、が正しい。

 クローヴサリス。──当然だけど、そんな家無い。始祖CC……シエル・クローヴィーが「どうせ名乗るなら本名っぽい方が良い」と決めた名前であり、「家族計画」に含まれない名前だ。よって今回の特別体験入学が終わったら、クローヴサリスという名前は皆の記憶から消してほしいと頼まれている。というかそれが彼女の入学の条件。

 あとから記憶を消すのは面倒臭いので、クローヴサリスという名前自体を上手く記憶できないよう認知系の偽装をかけておいた。記録なんかはちゃんと消すから安心してほしい。

 

 そんなこともあって、クローヴサリスという魔法は世に知られていない。シャニアもスヴェナも知らない魔法だ。でもまぁ何度か魔法自体は見せているから、二人とも頑張って解析している最中のようだけど。

 

「無駄です無駄です。私に攻撃は当たらないので」

 

 風に吹かれる枯れ葉のように、宙を舞う紙切れのように。

 始祖Bの攻撃も始祖Dの攻撃も、始祖CCへは届きはしない。その上で滑るような──真実滑って移動するクローヴサリスの魔法に二人が翻弄されていく。

 

 己やアイメリアが使う、赤雷を生じさせる技術。あれは空間と空間がこすれ合うことで生じる現象だ。

 本来あり得ないものを現出させたり、空間自体を弄ったりする場合に出てくるもの。始祖CCはそれに目を付けたらしかった。

 つまり、事象改変自体へは手を伸ばせないけれど、「空間と空間の間には摩擦という概念が存在する」というところへ着目し、自身の纏う空間と世界という名の空間との摩擦を限りなくゼロに近くしたもの。それがクローヴサリス。

 彼女へ向かう攻撃の悉くが滑り、彼女の行く手を阻むものは無くなる。

 欠点はまぁ、攻撃力の低さかな。ここへ「空間の破片」みたいなものまで使えたらそこも補えるのだけど、そこまでするとクローヴサリスのコンセプトから外れるとかなんとかで、彼女はその辺を封じている。

 

 が、である。

 そんなことに気付けない始祖二人ではないし、攻略できないものをできないままにしておく二人でもない。

 

「はぁ、じゃあ、私の勝ちということで──わぷ!?」

「うふふ……ふふふ……はぁい、こうやって死霊で包み込んでしまえばー、どれほど滑りやすくても関係なくてー」

「ナイスアナちゃん! ──じゃあ、本気の一撃叩き込むから、ちゃんと()()()()()()ね?」

 

 普段であれば潮時……盛り上がってきたねェ、なんて傍観するのだけど、エンジェたちが近づいてきているから誤用の方の潮時とさせてもらおう。

 

 ステッキで止める、とかすると余計にヒートアップしそうなので、一瞬だけあそこ三人のナノマシンを機能不全に陥らせる。

 消える。死霊の腕も、身に纏う空間も、肉体へかけられた強化も。

 だから……どさ、と。三人が三人とも、その場に倒れ伏した。

 

「おーい、そろそろ下校時間だぞー……っと。……全員倒れてるけど大丈夫かこれ」

「疲労困憊というやつだね。エンジェ、全員を浮かせることはできるかい?」

「あーはいはい、運んであげるわ。……ったく、しっかりしてるように見えて、イリス以外はみんな子供なのね。少しは魔力をセーブするとかできないワケ? ……まぁスヴェナも伸びてるのは意外だけど」

「僕も運んでほしいなぁ~」

「ドクラバ先生は疲れてるフリでしょ、それ。呼吸上がってないし」

「……ちぇ~」

 

 始祖たちの身体を始祖たらしてめていたナノマシンまで休眠一歩手前まで追い込んだからねェ。

 今彼女らの身体には、久しく感じていなかったであろう疲労がのしかかっているはずだ。そして……始祖Dにとっては、多少なりとも希望になった可能性はある。

 

 自分たちは不死ではないと。

 己であれば、簡単に殺し得るのだと。……永遠の命は、嫌、みたいだからね。

 

「エンジェさん……ご迷惑をおかけします……」

「風で運ばれるの気持ちいいですぅ~」

「私まで抑えの利かない子供に思われるの納得いかない……アンジーちゃんが私を放り込まなければ私は様子を見に来ただけだったのに……!」

「アンタが煽るから悪いのよ。……しっかし、流石は次期当主ね。風の扱い方が本当に上手」

 

 煤がドクラバの体内へ戻り、他伸びてる全員をエンジェが風で運んでの帰宅。

 集会棟の施錠も既にしてきたとかで、勉強道具もちゃんと回収してきたそうな。生徒Cが。

 気が利くね。

 

「エレクトニカロルス……風と火の混合特化分家、であってるわよね。私、全分家のこと把握してるワケじゃないから、あんまり自信ないんだけど」

「あってるけど、土もちょっと入る感じ。反面水は苦手ねー。そこはアリスと同じ」

「へ。あ、アリスは水もできますよ! ……ちょっと、ですけど」

「他家の話に踏み込むのがマナー違反なのはわかるんだけどよ、四大元素(エレメントリー)って、どっか特化してても一応全部使えはするんだろ? そんなに個人差出るものなのか?」

 

 生徒Cの問いに、エレメントリー三人がふむ、と考え込む。

 そして口々に──。

 

「本来出ないはずなんだけどね」

「本来出ないはずなのよ」

「本来出ないとされてます。……その、アリスは劣等生なので、色々アレですけど」

 

 同じ言葉を吐いた。

 面食らったのは生徒Cだ。まぁそうだろう。なんだ「本来は」ってなるよね。

 

「本来は……っていうのは、何らかの原因があってそうなってる……って認識でいいか?」

「ええ。分家の特化や純化というのは存在したとしても、他が苦手になる、ということは本来あり得ない。言うなれば本家は四属性複合を均等に扱える特化型の家で、分家は三属性が限界の特化型の家、って感じなのよ。これ言うと各所から非難轟々だからあんまり言いふらさないでほしいんだけど」

「良い理解ねー。だから、得意なことはあっても苦手なことはない、というのが本来のエレメントリー。……なんだけど、ほら、魔法って想像力でしょ。私もアリスも、水を想像するのが苦手で、だから自信がない、って感じ。どれだけ先細りしていたってエレメントリーならそれは同じだから、欠如して行っているのは血の濃さじゃなくて想像力なのよ」

「アリスもフレイマグナではそう教わりました……けど、お父さまもお母さまも水は苦手なので、もう家系というか遺伝的にそうなっているとしか思えないっていうか……」

 

 本家と分家に出力差はない。あるのはできる範囲差だけ。

 常に言っている言葉の正体がまさにこれだ。そしてそれは、他家にも適用される。

 

「そんなものなのか、という顔をしていますけど、次元空間(デルメルサリス)も同じですよ。クローヴサリス……は、私が浅学で知らなかった家ではあるのでご当主に確認する必要がありますが、デルメルクランのご当主とは一度会ったことがあります。彼は結界も六面結界も自在に操れていましたから、本当に想像力だけです。……そういえば私の渡した多面体は」

「ああ、ずっと持ってるよ。最近は更に多い多面体も持つようにしてる。……けど一向に二面以上がいけねーんだよなー……」

 

 生徒Cのその悩み。

 実際、なぜできないのか、に関してはシャニアも相当長く悩んでいる。

 いけるはずなのだ。デルメルクランは言ってしまえば器用貧乏な家だけど、だからこそ全てを標準的に使い得るはずだから。

 

 となると……始祖CCの方を見遣る。

 

「二面以上の結界が作れない、ですか。……ふむ」

「チビはもう次元系にまで手を出しててさ、やっぱちっとはコンプレックスあるよな。……あ、チビには言うなよ? 余計な気を遣わせたくねぇし、あと恥ずかしいし」

「素直な方ですね。……ふぅむ。多面体の玩具を触っておくことで想像力を養う、という考えは合理的です。良いことだと思います。ただ、恐らく別の原因がありますね。魔法知識、魔法理論を聞いている限りでは、ケニスさんが不勉強、ということは無さそうですから……そうですね、たとえば過去、同じ次元空間(デルメルサリス)系統の魔法使いによるいじめ、あるいは悪戯を受けていた、なんてことはありませんか?」

「いじめは無かった……けど、悪戯は結構あったな。俺三男だからさ、上の兄ちゃん二人が結構色々してきて」

「その中で、迷路に閉じ込められる、もしくは進行方向に壁を作られる、というような悪戯はありませんでしたか?」

「おお、すげーな。めっちゃあったよ。迷路……まぁあれはほとんど遊んでくれてたようなものなんだろうけど、すんげー複雑な迷路の中で迷子になって……これも恥ずいからチビには言わないでほしいんだけど、塞ぎ込んで泣く、まで行ったことがあった。すぐに兄ちゃんたちも気付いて迷路を解除してあやしてくれたけど……三歳とか四歳くらいのことだな」

「ではそれですね」

 

 いや。

 流石だね。

 こういうことは、己にはできない。「それしか使えない」という感覚を有していないから。

 

 餅は餅屋……じゃないけど、シャニアもとてつもなく感心しているあたり、始祖CCはちゃんと始祖なのだろう。

 

「それ、ってーと」

「軽いトラウマになっているんです。ケニスさんにとっては懐かしい思い出程度かもしれませんが、心……無意識は、進行方向の壁には阻まれずとも、眼前の壁には阻まれるものだ、という先入観に苛まれています。二面以上の結界を作ろうとすると、心が勝手に"これは自分を閉じ込めるものだ"と勘違いして、上手く作れなくなる。そういう理屈です」

「……うわ恥ず。それってつまり、ガキの頃の失敗体験を今でも引き摺ってるってことだろ?」

「恥ずかしくはないと思いますよ。アリスさん、あなたが水を操れないのは、あなたが内陸の生まれで、川でさえも近くに無かったから、でしょうし」

「へ、どうしてそれを……って、もしかして」

「ま、そういうことよ。魔法は想像力だから、常日頃からソレに触れていないと想像できないし、少しでも苦手意識を持ったらうまく使えなくなるもの。ケニス、あんたより年上の……つまり上級生でも大人でもそういうものなのよ。ああだから、私の家も見渡す限りの草原、みたいな場所にあるから、水はどうしても思い浮かべ難くって」

 

 なお、死霊病毒(ネクロクラウン)の分家はこの理論に当てはまらない。

 ドクラバが辿り着いた通り、彼らはただの実験動物だからね。出力差もできる範囲も全く違う。

 

 そういう点で言うと、聖護星見(クライムドール)は当てはまる。だからこそエドウィン・ハルスマクリアはちゃんと凄いのだ。限定的とはいえ、しっかり始祖Eと同じ境地に立てている……しかも分家の身、つまりできる範囲の狭い身で。

 

「……なんか、シェリーもアンジーも、やっぱりそういうところは子供っぽくないわよね。これで今私の風に運ばれてなかったらフツーに尊敬してたわ」

「普通に尊敬してくれてもいいんですよ。……って、ちょ、揺らさないでください! 快適も快適な乗り心地だったのに……!」

「はは……。あ、いや……なんか、すげーな。そっか、歳とか関係なく……想像力、なのか。……んじゃあよ、その……俺自身がトラウマとも思ってねえようなトラウマを消すのは、どうしたらいい? それが消えれば……俺は」

「荒療治と地道な方法、二つありますね」

「方法が、あるのか……?」

「はい。荒療治の方は簡単です。死霊病毒(ネクロクラウン)の、ドリューズ先生のような夢や精神、記憶に作用する治療師を見つけて、その人を全面的に信頼して、トラウマになっている記憶を消してもらう、という方法。当然洗脳や全記憶の喪失というリスクが付き纏います」

「ちょっとぉ、シェリーちゃぁん? あんまり死霊病毒(ネクロクラウン)を悪く言わないでくれますかぁ? そんな悪いことする人ばっか、っていうパブリックイメージ、払拭して回ってるんですからぁ」

「それ……君が言うのかいぃ~?」

「えぇ~? どういう意味かわかりませんねぇ~ド・ク・ラ・バせんせぇ~?」

 

 まぁまぁ、死霊病毒(ネクロクラウン)の二人とも。

 今は生徒Cのターンだから。

 

「地道な方も、一応簡単ではあります。似たような状況を作って打破し、その成功体験を積み重ねるんです。……ただし幼少の頃の先入観というのはインパクトの強いものですから、この歳になってから、というと……毎日毎日やる、くらいの努力は必要になるでしょうね」

「……つまり、迷路をまた兄ちゃんたちに作ってもらって……今度は抜け出す。それを繰り返す、ってことか」

「結界迷路程度ならシャニアさんでもスヴェナさんでも、私でも……ぶっちゃけ次元空間(デルメルサリス)の誰でも作り得ますよ。あなたと同じようなトラウマ持ち以外は」

 

 光明が見えてきた、という顔をする生徒C。

 いいことじゃないか。こういうの、一見血筋争いとは関係ないように見えて、生徒Cがスヴェナ並みに"できる"ようになったら、デルメルクランが欲を出し始めるだろうからね。大事なんだ。先も述べたようにデルメルクランは器用貧乏の家。それが化けたら、本家に届くかも……と思うのは不思議じゃない。

 加えて今始祖CCが姿を晦ましている。それは「家族計画」という支配から逃れる絶好のチャンスに見えてもおかしくはない。肉体強化(フィジクマギア)との間に入った亀裂のことを鑑みても、本家を謳える人材はたとえ三男だろうが関係なく旗印にしたがるはずだ。

 

 血筋争いはね、こういう下準備あってこそなんだよ。

 

「ってことはアリスとアンジーも……毎日水に浸ければいいワケ?」

「あのあのあのお姉さま、アリスのことを考えてくれるのは嬉しいのですが、アリスそもそも泳げないのと、その表現だと溺死しそうで怖いんですが」

「私は自信ないってだけだから、やるならアリスにだけやってあげて」

「や、アリスがやらされるならアンジーだって巻き込みますよ!!」

 

 ああ、だから。

 元の話に戻るけど……そういう意味でも、スヴェナは異端だ。始祖CCの目にも、シャニアの目にもそう映っているはず。

 

 理論型とはいえ、日に日にできることを増やしていっている、というのは……あり得ないからね。

 

「ちなみにカナビとアナは苦手分野とかないの? あるんなら協力するケド」

「あたし達肉体強化(フィジクマギア)はそういうの無いですね。なんというか……全ては当人のやる気次第、みたいな感じなので」

死霊病毒(ネクロクラウン)はぁ……色々事情が違うのでぇ……」

「なぁんでだろうねぇ~、アナクン~」

「なぁんでなんでしょうねぇ。始祖ディアナに直接聞いてみたいですけどぉ、そんなことしたら殺されちゃいそうで怖いですよねぇ?」

「あ、当然ですが私は無いです。聖護星見(クライムドール)本家の人間なので」

「わかってるわよ。だから聞かなかったんじゃない」

 

 ──して、最後。

 女子寮と男子寮、あと教師棟へと続く岐路に差し掛かるあたりで……己に目が向く。

 

「……アンタって、苦手な魔法とかないの?」

「うん、よくわからないにも程がある質問だね、エンジェ」

「けど、『英雄平民』が使ってる魔法破りの技術とかは……あれはできねーこととかないのか? 何が苦手、とかよ」

「たとえ相手が始祖でも完封できる自信があるよ」

「……」

「……」

 

 そこで沈黙するのは良くないと思うけどね、君達。

 

「未来視特化の聖護星見(クライムドール)は苦手、だったりしないのかぃ~? やることなすこと全て避けられるなら、君だってどうしようもないとかはぁ~」

「だとしたら、学園占拠事件の時己は何の活躍もできなかっただろうねェ」

「……実際『先輩』とウォルチュグリファの全力戦闘は見てみたいですけどね」

「ウォルチュグリファぁ~?」

「未来視特化の聖護星見(クライムドール)です。陣地を使うことができない……というか苦手なため、当人たちは剣や格闘に重きを置いて、聖護隊に交ざって訓練をすることもあるほどには身体能力に秀で、その上で何十年と先の未来を視通します。そんな彼ら彼女らであれば、あるいは、と」

 

 へえ。

 始祖Eはグリーフィーが己をノイズ無しに見得る、ということを知らないはずだけど。

 薄々気付いている……あるいはグリーフィー自体を視て、何かを察したのかな。

 

「機会があったら試してみたいけど、そもそも聖護星見(君たち)外に出てこないじゃないか。まず遭遇するのが至難だよ」

「……確かに」

 

 実際……己がナノマシン封じを使わずに戦闘をしたら、結構良い所まで行きそうだけどね。

 グリーフィーに今度勝負でも持ち掛けてみようか? 彼女、今なんか忙しそうだけど。

 

 ──"お館様。風での伝言になるのですが、グリーフィーからの言伝が"

 ──"ああ、いいよいいよ、内容はわかっているから。ただ一言、「お断りします」だろ?"

 ──"流石にございます。そして、ご学友との歓談中、お時間を取りました。申し訳ありません"

 

 ……ちょっと興味が出てきたねェ。

 それは悪手だよ、グリーフィー。

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