魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
己は平民であるとされている。されているから免除されているものがいくつかある。
それはたとえば『魔法学の実戦』の単位取得だったり、魔力測定や魔力献液の義務の免除、また、血筋ごとの暗黙の了解としてある「縄張り」のようなものの無視。まぁ最後のものに関してはルールではないのだけど。
けれどもし、己が
「
「敵に同量かそれ以上の術者がいない限り、だろう?」
「だから私達、と言いました。──
「そうなのかい。平民だから知らなかったねェ」
剣と破片、時折挟まれる空間移動に空間屈折。
それらをステッキでいなし、弾き、避けては距離を取る。
周囲にいた生徒は──少女Aらを含め──遠くへ避難していて、故意でなければ巻き込みにはいけなそうだ。
いやはや。その鋼の規則、トップが守ってないんじゃないか、とは。
だって始祖Dも始祖Cも……あの性格だったからねぇ。
「答えてください、『噂の平民さん』。あなたが彼に嘘を吐いた理由を。そして、スヴェナ・デルメルグロウとの関係性を隠そうとした理由を」
「認識の齟齬というやつだよ。あるいは行き違い、すれ違い……不幸なアンジャッシュがあった。それだけだね」
「成程、疑いを晴らす気はないと」
己の左手側に発生する重力壁。そうだね、点や線の攻撃は己に当たらない。なれば面の攻撃を、と思うのは当然だ。
ただし、面の攻撃を行う魔法には明確な弱点が存在する。
「まだまだ均一とは言えないようだねぇ」
一点。虚空にあるその一点を突いてやれば、魔法は瞬く間に瓦解した。
まぁね、夢を壊すようで悪いけれど、魔法ってナノマシンに変化制限をつけたものだからね。そしてナノマシン自体が粒状集合体であることや、己の目には結合構造組織の脆弱箇所が見えてしまうから……あらゆる魔法を壊し得てしまう。
「見えている、と」
「それは当然だろう。見えていなければ避けることも難しい。それが発生前の魔法であっても己にはわかるよ」
「ただの平民が、魔力視を行える、と?」
「己は聖護星見の始祖に見初められた平民だからねぇ。ああ、そうじゃないか。聖護星見の始祖のお墨付きだよ、平民である、という事実は。つまり無駄な行為だよ、これは」
「始祖の言葉一つで全てが変わるわけではありません。むしろそういう始祖至上主義とも取れる発言が尚の事あなたを魔法使いの血筋に見せますね」
何があっても己を
ただ少しばかり……強引が過ぎるようにも感じる。少女C、シャニア・デルメルサリスの性格は、「お堅くはあれど話は通じる」というものだったはず。無論初対面ではあるのだけどね。
とすると。
一瞬だけ少女Aの方を見て、口元で人差し指を立てる。
直後、少女Cの猛攻が収まった。ああやっぱりそういうことか。
いやはや、察しが悪くて悪かったね。
「消音の魔法がかかったようだ。それじゃあ、ダンスを再開しながら本当に話したいことを話そうか」
「助かります。
「何者か、というのは?」
「わかりません。教えていただけなかったので。……以前、エンジェを狙った刺客を迎え撃ったことがあるのですが……彼らから事情を聞き出すその直前、肉体が……内側から、何かに蝕まれるようにして消滅しました。
「始祖、あるいは本家筋の上級魔法使いが、と睨んでいるわけだ」
「はい」
良いね。迷いなく他家を疑い得る心もだけど、何より。
「シエル・デルメルサリスのことも疑っている……先ほどのやり取りが、そう聞こえてさせてしまったけれど」
「仰る通りです。始祖シエル・デルメルサリス、始祖ディアナ・ネクロクラウン。仮にこの二人が手を組んで学園に害を成そうとしてきていた場合、全生徒、全教師を総動員したところで勝ち目はありません」
「良い理解だね。そうだろう、君達がいくら習熟した魔法を使えども、始祖に勝つことは難しい」
「──あなたならば、どうですか」
天使が通る。一瞬の沈黙は……無視して。
「話を進めよう。教師に出張られても面倒だ」
「……わかりました」
「つまるところ、君は学友たるエンジェ・エレメントリーと、正体こそ謎であるものの、エンジェが大事そうにしているスヴェナ・デルメルグロウを守りたい。そういう認識で良いかな?」
「概ね間違いはありませんが、私は規律会のメンバーとして、学園の生徒であればその全員を庇護対象に見ています」
「そうかい、それは大層なことだ。……成程? 君は己に、矢面に立ってほしいと願っている……そういうことかい」
「はい。最大限のサポートはします」
仮に己がデルメルサリスの血筋、デルメルグロウの関係者であると認めた場合、少なくとも始祖Cの目線は己へと向くだろう。スヴェナとの関係性を隠そうとしていたことや、この練度の使い手を雑談しながら往なすことができているという時点で「ただの平民」でないことは確実。
その上で、そんな己に
政治的にはそれで抑え込める。もし実力行使をされても問題ない。「最大限のサポート」とやらがどういうものかは知らないけれど、スヴェナを守るために己を生贄とする、というのは……道理の適った選択だろう。己のあらゆるものを無視しているというのは措いて擱いて、だけど。ああ、まぁ、それが「最大限のサポート」に繋がるのか。
うーん。
「──己へのメリットがないね、その話は」
「エンジェとスヴェナさんは、あなたのお友達では?」
「お友達だと、始祖によって命を狙われる可能性を担わなければならないのかい? 百歩譲ってそうだとしても、己が得るものが何もないというのは……卑賤な平民としては、やる気が起きないかな」
「わかりました。何を欲しますか」
貴族ゆえの即答だね。平民が欲しがるものであればなんでも用意できると。
では何を望もうか。始祖Eとの約束がある以上、あまり人道に逸れたことは言えない……となると。
「ケニス・デルメルクラン。彼に魔法の手解きをしてあげてはくれないかな」
「……理解できません。あなたにとって彼は……ご自身を売ったような存在では?」
「己は売られたとは思っていないし、何よりとてもバツの悪そうな顔をしていたからね。己が彼を責めないこと。それ自体が彼の罪悪感を解消するための罰となるだろうし、己はそれでスッキリする。充分なメリットだろう」
「無欲……というより、私達程度に求めるものは何も無い。そういうことですか」
「正しい理解だ、シャニア・デルメルサリス」
お開きだ。だから少しだけ……少しだけ魅せようか。
今までずっと回避一辺倒、防戦一方だった体勢から、突然攻勢に移る。ビリヤードのキューを持つようにステッキを構え、地面スレスレを這わせつつ少女Cへ突きを放つ。
速度自体はそこまででもないから防ぐことはできるだろう。だけど、驚きもするはずだ。
その、凄まじい重さに。
「っ……!」
「条件付きで呑もう。己が平民であることは事実だ。ゆえに、魔法使い用の学習指導を当てられるとどうしようもなくなる。だからこのことは君の胸の内に秘めておいてほしい。その上で己を査問会議にかけ、生徒には口外しない形で己をデルメルグロウの血縁者として扱うといい。始祖の前に引っ張り出すためだけの容認だ」
「……承知いたしました。そして、学園を守るなどと言っておきながら、生徒の一人である貴方に重荷を背負わせることを反省します。求めるのであれば償いもしましょう」
「本家筋の君が吐いて良い言葉じゃないね。──ではそういうことで」
ステッキを放り投げて、手を上げる。そんな己に絡みつく『空間の縄』。
拘束は完了だ。あとは。
「シャニア……」
「スヴェナ・デルメルグロウさん。先程も告げたように、禁止魔法使用における沙汰は追って出します。逃げないように。エレメントリーの御令嬢、あなたには彼女の監視を任せます」
「……はい」
「言われなくても逃がさないけど……」
「では」
やぁ、頑張って己のことを視ようとしている始祖E。
これは不可抗力だから、君との約束には抵触しない。そうだろう?
そして……手を出さないと約束したのは、この学園の生徒のみの話であることを忘れないでほしいかな。
普段己が入ることのない区画……規律会という、言ってしまえば風紀委員、あるいは自警団のような役割を務める生徒の集う棟へ連行される。
ここに来るのは規律会のメンバーか、彼ら彼女らにしょっ引かれるほどの禁忌を犯した生徒だけ。
「失礼します。シャニア・デルメルサリスです」
そんな棟のとある教室……というか、議事堂かな? かなり広めのその部屋まで連れていかれて……その気配を感じ取った。
これは……少しだけ錯誤を強めにしておくべきだね。
扉が開く。
二段ある円弧状の席と、証言台のような席。己は証言台の方へと促され、少女Cは円弧状の席へと座った。
恐らくは規律会のメンバー全員が揃っているそこへ。
ふむ、ここは。
──足を組み、肘掛けに肘を突き、頬杖までついて彼らを見遣る。
平民がするにしては、そしてこれから罪を問われるものがするにしてはあまりにも無礼な態度。
当然ながらそれを糾弾せんと立ち上がりかけた生徒ら……を、一睨みだけで抑えつける男子生徒が一人。
長い髪。腰に佩いた刀剣。筋骨隆々ではないけれど、鍛え抜かれた身体。
「規律会会長、ボガド・フィジクマギアだ。──名乗れ」
「好きに呼んでくれて構わないよ。『平民』でも『罪人』でも『被告』でもね」
「名乗れと言った」
「好きに呼べと言ったよ」
膠着は一瞬。
「会長。悪ふざけはやめてください。我々は彼に頭を下げる立場です」
「……シャニア。お前、もう少し待てないのか? この緊張の高まりを楽しめないとは、可哀想なやつめ。人生楽しくないだろう」
「学園の存亡がかかっている、とお話ししたはずですが?」
「わかったわかった。あー、お前達も威圧的な態度やめていいぞー。そんで、すまなかったな、『最強平民』。シャニアは初学生のくせに規律会の中で一番の堅物でなぁ、俺達もだらける機会が無くて……そう、だから今みたいな規律を重んじる感じのことをやったらよ、それはそれで、って怒ってくる。我儘なお嬢様だよ、本当に」
ボガド・フィジクマギア。
その性格は把握していなかったけれど……少女Bとは似ても似つかない飄々とした人物のようだ。まぁこれで幽霊を怖がったら流石は、になるんだけど。
己の無礼な態度を糾弾しようとした生徒も演技か。中々やるね。
「シャニア・デルメルサリスの画策は君達に全て伝わっている。そう考えていいのかな」
「いきなり切り込むなよ。次元剥離も消音も、まだやったかどうかわからないってのに」
「己が入る前からかけていただろう。そういう余計な腹の探り合いは不要だよ、ボガド・フィジクマギア」
「そうか。お前もシャニアと同じ……には見えないから、単純にこの茶番に興味が無いだけか」
「ああ」
ならば本題に入ろう、と。
彼は……指を鳴らす。ああ、君も結構な格好つけたがりだね。少女Cがとても面倒臭そうな顔をしているよ。
と、まるでスポットライトのように光が集まる。……これはエレメントリーの魔法……いや、デルメルサリスの魔法との合わせ技か。成程、無理矢理外の光を屈折させてもってきているのか。非効率だけどアートとしては楽しめるね。
そうして照射された場所にいたのが、一人の少女。
「……」
「紹介しよう、『最強平民』。彼女が俺達
「あ……えっと、はい。ええと……あたしが、そのぉ……まぁ、
……あれ君、前見た時はもう少し威厳を保てていなかったかな。
最初こそ情緒不安定ではあったけれど、時を経て落ち着いたな、という所感を抱いた覚えがあるのだけど。
「ビアンカさん、しゃきっとしてください。あなたは始祖なのですから、もっと自信を持って」
「シャニア、あんまりビアンカちゃん虐めてやんなよ。ビアンカちゃんはこういう場だと緊張しちゃうんだから」
「そうよー。はぁい、大丈夫だからね、ビアンカちゃん。あんな小型アムフィアリアスモアのことなんか気にしなくていいんだから」
「誰が魔物ですか誰が!!」
ううん。これでは話が進まないね。
少し進めやすいように──緊迫感でも出してみようか。
少女Cによってつけたままにされていた『空間の縄』を引き千切る。
「そこまで長い気を持っていると言った覚えはないよ、規律会」
「……そうだな。こりゃこっちが悪い。だからまぁ、落ち着いてくれ」
「ならば話を進めよう。始祖ビアンカ・フィジクマギア。本題が彼女というのはどういうことかな」
「これからお前には、デルメルグロウの血縁者疑惑のある者として
そりゃね。なんなら本当に平民であるような肉体にしてあるからね。
「つまるところ、
「この場にはシャニア・デルメルサリス含めて
幾人かの生徒が顔を見合わせる。
そして口々に「いや、あの人ならやります」「会ったことないけど、噂を聞く限りでは……」「むしろ率先してやると思う」などの言葉が。
欠片も信用されていないじゃないか、かつての少女C。己が代わりに悲しんであげるよ。
「要するに、フィジクマギアの始祖、ビアンカ・フィジクマギアがお前の護衛につく。お前自身の戦闘能力に疑いはないんでな、これは護衛の生徒が殺されないようにするための措置だ」
「今までの話の中に、己が判断すべき要素が出てきていないね。これが単なる通告であるのなら、勝手にしたらいいんじゃないかな。己は己につく生徒にも始祖にも興味が無いよ」
「仮に」
少年Bは、声を尖らせる。
今までの雰囲気を断ち切るように。
「お前がデルメルグロウの血縁者であると判断された場合……俺達規律会はもう、手出しができなくなる。それは
「だろうね。それで?」
「連れていく護衛の生徒はお前が選べ。
「なぜ己が選ぶ必要があるのか理解できないな」
「俺も、そこで察しを悪くする理由がわからない。始祖ビアンカがお前を守れなくなる、と言っている。……命が惜しくはないのか?」
「それこそ仮に、己がデルメルグロウの血縁者であるのなら、始祖シエル・デルメルサリスからの罰は受けて当然だろう。本家に楯突いた分家のようなものだ。そしてそうではないと判断されたのなら、己とビアンカ・フィジクマギア、及び君達がつける護衛の生徒はピクニック気分で帰ってきたらいいだけの話。違うかな」
これを平民である己が言うのはおかしな話だけどね。貴族こそお家争いに他者が首を突っ込んではならない、なんてのは知っているはずだから。
それとも意識が足りていないのかな。自分たちの血がどれほど大事であるか、という意識が。
「誰でもいいよ。そしてその誰かを始祖ビアンカ・フィジクマギアが守ればいい。己の護衛は不要だ。さっき君が言ってくれたように、己の回避能力はその常識の範疇にないからね」
「……始祖は別格だぞ。学園の生徒の魔法とはわけが違う」
「そうかい? ではビアンカ・フィジクマギア。君から見て己はどう映る? シエル・デルメルサリスに殺されてしまいそうに見えるかい?」
「いえ……そうは見えません、が」
「が?」
ああ、初対面でなければ、そして落ち着けば普通に話せるのかな?
「あたしは……申し訳ありませんが、あなたの心配はしていません。……話に上がっているスヴェナさんの方を気にかけるべき、でしょう。仮にあなたが平民であるとされた場合、シエルちゃんの目はまたも彼女へ向く……のですから」
「なんだ、その事実から目を瞑っていたわけじゃなかったのか」
「はい。……だからこそ、あなたの心配はしていないんです。……あなたは、そもそもシエルちゃんと直接対峙するつもりでいる……んですよね?」
「ノーコメントだ。ただ、そうだな。己はスヴェナの行く末に興味が無い。彼女が生きようが死のうがどうでもいい。どうでもいいと思っているから関係性を曖昧にしたし、この学園を紹介した。つまり、シエル・デルメルサリスに目を付けられる所まで織り込み済みだった、ということだ」
静まり返る……というより、俄かに殺気立つ議事堂。
規律会。立場を利用して悪事を、と考えるような生徒は入ることができないのだろうな。
善良な人間ばかりだ。だからこういう突き放すような発言を認められない。
「随分と気を揉んでくれたようで申し訳ないとは思うよ。だけど、少々過保護が過ぎるんじゃないかな。彼女とて貴族の端くれだ、他家本家問わず、守ってやらねばならない対象として見るには……少しばかり侮り過ぎている」
「そう、ですね。そこは、あたしも同意見です。ボガドちゃんたちは……良い子ですから、学園の生徒を守りたい、というのはわかります。でもあたしを駆り出してまで行うことではないように聞こえました。今回は既に依頼という形で、それを請け負った身でここにいますから、護衛という務めは果たします。……ただ、あなた達は……愛情を、鳥籠に閉じ込めることだと勘違いしている……のではないですか?」
言うじゃないか。道中で何の脈絡も無く幽霊っぽいホログラムを出してもこれはどっしりと構えていられるかな。
「フィジクマギアの始祖と次期当主の話で完結するというのなら、やはり己は要らないね。護衛の生徒は君達で選ぶといい」
それでは失礼するよ、と言って立ち上がれば、少女Cも共に立つ。
外まで案内する……ということかな。
「『最強平民』」
「何かな」
「出発は明後日だ。武器の携行も許可する。……生きて帰ってこい」
「ならば君と君達は、全力で生徒を守ることだね。己がいなくなった学園を狙う可能性だって十二分にあるのだから」
「ああ、承知している」
始祖Cはともかく、始祖Dが活発だからねえ。
期待しているよ、規律会にスヴェナ。それと……ケニス・デルメルクラン。君にも。