魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
相談を受けた。
生徒C……ケニス・デルメルクランから。
「シャニアの様子、ねェ」
「まぁ……薄々というかがっつりというか、わかってるとは思うんだけどよ。……こーやって陰で話すのも良くないとはわかってんだが……アイツ、エンジェのこと好きになりかけてると思うんだよな」
「抱き着かれたから、かい?」
「んー。俺もそこは疑問でよ。いや、誰かを好きになったことのない身で何言ってんだって話なんだが、人ってそう簡単に誰かを好きになるものなのか、って……思いはするんだ、が。……にしたて最近のシャニアは隙あらばお前とエンジェの間に入ろうとするし、エンジェを熱っぽい視線で見てるし……」
「言いたいことはわかるよ。というか全て同意できる。ただ、己に相談することかい、それ」
「他……チビとかアリスにも相談はしてあんだよ。お前が最後なだけ」
「ああ、そういう」
ふむ。
まぁ仮に"そう"だとして、だ。
「この話の着地点は何だと思う?」
「……あー」
「たとえば、己とエンジェが交際を止めて、エンジェをシャニアに明け渡す。あり得はしないけれど、仮にそういうことが起きたとしよう。──それは誰にとって得になるのかな」
「シャニア……は、納得しねえか。むしろ……罪悪感で更におかしくなりそうだ」
「だよね」
シャニアの性格を鑑みて、彼女は他者の関係性を壊してまで自身が得をしたいというタイプではないだろう。
かと言って自身の感情も止められない。だからストレスが溜まって、今おかしくなりつつある……というのが現状。
だとして、なんだよね。
「当然ながら、己もエンジェもいい顔はできない。己もまた経験が少ないから絶対は言えないけれど、こういう関係性になった時点で第三者が何をしようが、何をしようとしようが、余計に絡まって余計に当人同士が口を出し難くなるもの……なんじゃないかな」
これはあくまで統計としてのサンプルデータだから、個人差はあるのだろうけど。
生徒Cが気を揉む理由もわかる。なんせ勉強会に支障が出始めているからね。そして恐らくシャニアも同じ悩みを抱えている。自身のせいで生徒Cや少女A'の勉強の邪魔を、と。
特別体験入学生であるカナビやアンジーらは実際どうでもいいんだ。期末テストの結果が悪かろうと来年の成績に響くことはないから。まぁやる気なしと判断される可能性が──イレイアはあの五人を排斥できないだろうけど、真実を知らぬ教師からすればイレイアの忖度にしか見えないだろうから、そこでごたごたが起きることを危惧して始祖らは真面目にやっているのだろうし。
ともかく、生徒Cと少女A'のための勉強会は必須事項であり、先生役を買って出ているシャニアがそれを妨害する、なんてことはあってはならない。
況してや規律会に属し、今の今まで不祥事を起こさず、律しに律してきた彼女が……感情を暴走させることなどあってはならない、と。
まー、抱え込んでいるだろうねェ。
「あー、その、なんだ。勉強会はさ、結局善意のものだろ? だからいいんだよ。そこで……なんか感情を押し殺しちまって、シャニアがつらい思いをする方が俺は嫌だ。だから、アリスにゃ悪いがそこはどうでもいい。けど確かに俺達が余計なことすりゃ着地点を見失うってのは多分正しくて……うだー、どうすりゃいいんだ、これ。どうもしなくていいんだろうけど……」
「現実的な話をするならば、だ。ケニス・デルメルクラン。今現在己とエンジェが恋仲にある身だからそれを正と捉えることは曖昧になるけれど、エンジェはエレメントリーの次期当主、シャニアはデルメルサリスの次期当主。ここの二人が付き合う、ということになった場合、どのような影響が出ると思う?」
「……。……まず、結婚はできねぇ。どうやったって女同士だからな、そこは……諦めてもらうしかねえ。んで、学生の間だけの交友関係だと割り切ったとしても、
「最悪、魔法大戦だね。次期当主の名はそれだけ大きい。そうだね?」
「……。……本人じゃどーしようもない事実で感情を捻じ曲げなきゃならねえってのはどうしても納得いかねえけど、そうだ」
血筋争い、とは少し違うのかもしれないけれど、これは己が望んだ展開だ。
魔法使いをデザインした時に待ち焦がれた展開。……残念ながらそのことに負い目を覚えるような真っ当な生物じゃないから、何も関係ありませんよ、という声を出させてもらうけれど。
「じゃあ逆に、エンジェがシャニアからの告白を拒否して己を選んだ、ということが広まったら……どうかな」
「そりゃ当ぜ……いや、まさか
「そう。現状、シャニアがエンジェを好いているかもしれない、という話が外部に漏洩すること自体が最大のリスクなんだ。とはいえ彼女もそれはわかっている……だろうけど、隠せているかと言ったら」
「隠せてねーよ。……こういうことに疎い俺やチビでも気付いてんだから」
詰んでいる。
シャニアの恋心は、押し殺す以外の選択肢が無い。
もし
だけど、現状がそうである以上は、なるようにするしかない。次期当主とはいえシャニアの一言で
当人がそんなことはないと主張しても世間の目はそう見るだろう。
「……すまねえ。もっとよく考えてから相談するべきだった。……どうしようもねえじゃねえか、これ」
「そうだね。大丈夫だとは思うけれど、アリス・フレイマグナとスヴェナに口止めすることも忘れないように」
「っと、確かに! チビもしっかりしてる方だが、思ってもみねえやらかしをするタイプだ。……ちょっと俺行ってくる!」
「ああ、頑張って」
スヴェナ……というか少女A''、アンフィ・エレメントリーならば絶対にそんなヘマはしないけど、彼女の言葉は変換されるからねェ。アイリポデパルがどういうパターニングでの変換を組んだのか己は知らないから、「思ってもみなかったやらかし」は起きかねないんだ。それは生徒Cからしても、スヴェナ本人からしてもね。
そして少女A'は……精神的成長をしたのだと己は見ているけれど、口の軽さがどうなっているのかは微妙。彼女にそこまで興味は無いからねェ。
「始祖シエル・クローヴィーとしてはどうなんだい、シェリー」
背後にあった空間の揺らぎへ声をかける。
「エレメントリーの次期当主とデルメルサリスの次期当主が付き合うことに関して、ですか」
「ああ。君の"家族計画"に支障が出るんじゃないかい?」
「出ますね。私が今も本家にいて、その報告を受けたら……シャニアさんを退学させることも視野に入れたでしょう。ただ、どうやら世間は始祖からの脱却を画策しているようですし、時期的に私がそんな大々的なことをすれば……今度は
「つまり、静観かな」
「以外ないでしょう。しかし、シャニアさんもシャニアさんですね。抱き着かれたから意識してしまう、というのは……なんというか、耐性の無さが際立つといいますか」
「君の好きな少女漫画にはこういう展開は無かった、ということかな」
体内に
「……そういうスピード感のあるものは、最初はこう……読んでいて気持ちいいんですけど、後々失速するので……結果的に良作とは言い難いといいますか」
「ああ普通に答えてはくれるんだね。じゃあ今の攻撃は要らなかったよね」
「揶揄われたら誰相手でもやります」
エンジェもだけど、ツッコミというかからかいの反撃が致死なの、倫理観どうなってるんだろうね。
「ちなみに
「……ち。流石にあんたら二人相手じゃ欺けないか」
よ、なんて言って木の上から出てくるアンジー。
「あんたたちがこそこそなんか話してるからすわ悪巧みかと思って聞いてたら……なんというか、平和な話してんのね」
「最悪魔法大戦の引き金ですよ、これ」
「そりゃそうなんだけど。……私は好きにやったら? とは思うのよ。次期当主である以上責任がある。自分の家族に迷惑をかける可能性、エレメントリーの系譜全員を巻き込む可能性。友達も何もかも全部失くす可能性。そういうものを考慮できるんなら、勝手にやったらいい。少なくともあの子……エンジェはそういう全部を考えて『愚者』と付き合うことを決めてた」
「確認取ったんですか?」
「あっちからね。直談判、みたいな形で書筒が来たわ。ま、基本的に私は何をするのも勝手にしなさいっていつも言ってるから、事後承諾の形に近かったけど」
へー。そんなことをしていたのか、エンジェ。
ちゃんと次期当主してるじゃないか。まぁあの親にして、という感じもあるけれど。
「いいじゃない、禁断の恋が戦争を引き起こすのは、それはそれで浪漫でしょ。アンタの持ってたそういう本にはそういう展開、なかったの?」
「本なんて面倒臭いものじゃなく端末でしたけど……そういうのってどちらかというと男の子向けじゃないですか? というか、そう聞くってことは、アンジーちゃんは」
「媒体は画像じゃなくて映像だったけど、結構視てた気がするのよね。何分昔のこと過ぎるっていうか、世界が滅ぶ前の話だから鮮明には思い出せないんだけど……パパとママが映画とかアニメとか好きで、立体映像媒体のアクション系をよく見てた……ような?」
「へぇ……いいですね。私はそういうの買ってもらえなかったので、自分でサルベージしてましたが」
……世界が滅ぶ前、か。『賢者』たちが世界を滅ぼす前は、この五人は本当にただの少女だったんだなぁ、って。
己もただの営業マンだったからねェ。なんだか感慨深いものがあるよ。
「……なんか懐かしくなっちゃった。『愚者』、アンタってそういうの作れないの? あるいは、持ってたりしない?」
「作れるし持っているよ。あの時代のコンテンツは歴史として保存してあるし」
「え。……何かと引き換えにくれたりしない? 今の子たちには誰にも見せないって約束するから」
「わ、私も欲しいです。今の時代、劇とか芸はありますけど……基本的に娯楽が少ないことが本当にネックだなぁ、って思ってて。折角空間系の技術を戴いたので、分家の一つをそういう立体映像特化にしようかと考えた時期もあったくらいです。……戦闘能力の無い家は生き残り得ないので、色々面倒が勝って止めましたけど」
「魔法でアニメ、は……やろうと思えばできそうよね。ただ脚本家を見つけないといけないのと、この激動の時代にそんな暇潰し付き合ってくれるコがいるかどうか……」
ふむ。
まぁ……うーん。どうしようかな。
構いはしない、のだけど……何と取引にするかだね。
「じゃあ、始祖五人で今回の件を掻きまわすとか」
「嫌よ」
「お断りします」
「まぁ、だよね。……うーん。まぁ考えておくよ」
血筋争いの趣味は始祖CCは知っているわけだから、一縷の望みがあると思ったんだけど……流石に自分の家の話だと無理か。
「ただ、じれったいな、という気持ちはあるんですよ、私にも」
「お」
「『愚者』さんの望む通りにはならないと思いますけど……一回荒療治するのはアリだと思っていて」
「というと?」
「簡単です。あの子達じゃどうやっても解除できない異相空間にあの子達……エンジェさんとシャニアさんだけを閉じ込めて、強制的に話し合いをさせるんです。結果は神のみぞ知るというヤツで、もしエンジェさんが『愚者』さんから離れたらご愁傷様ということで」
……。
まぁ……己は愛を覚えてみたいから今エンジェのために色々やっているわけだけど。
実際「条件を満たしている」、「満たす可能性がある」のは結構な人数がいるんだよね。樹殻の活性化で生命の次元階位が上がる者がこれからどんどん増えていくと思われるから。
だから、己にとっては必ずしもエンジェでなければならない、という理由は無い。今エンジェが最も可能性が高い。故に行っている「人間の勉強」でしかないわけで。
口に出せばスヴェナなんかは本気で己を殺すためだけの魔法を構築してきそうだなぁ。なんて考えたり。
「いいんじゃないかな、それは」
「へえ、自信満々ね。エンジェは絶対に取られない、ってコトでしょ、それ」
「ん? あ、うん」
……そうか、そういう解釈になるのか。
「シェリーの作る異相空間なら盗聴の心配もないだろうし……魔法大戦対策のためにも十二分の時間になるだろう」
「それならさ、アナ呼んで幻術系の……怪我とかの心配がない魔物とか出してもらって、吊り橋効果を」
「アンジーちゃん? それはちょっと少年系過ぎますよ」
「えー? いいじゃない、ちょっとくらい」
「ただ、そうですね。異相空間内部をこう……ロマンチックな空間……どこか夕陽の綺麗なビーチなんかに変えるのはアリ……いや、ここは王道にどちらかの自室へ……ううん、どこかよくわからない暗い場所、などでもいいですが……」
う、うん。
焚きつけたのは己だけど……そ、そうだね。うん。
「その辺は全部任せるよ。己の趣味じゃないから」
「はい! お任せください!」
「まっかせなさい! 協議に協議を重ねて、あんたも驚くような素敵空間を作ってやるわ!」
……やり過ぎて話し合いどころじゃない、にならないようにね?
そこは、見渡す限りの花畑だった。
心地の良い風の吹く小高い丘。一本の木。揺れる花々が作るウェーブが広さを際立たせる。
「──は」
「え?」
二人は……エンジェとシャニアは、気付いたらそこに居た。
直前までの記憶は、ここ最近の日課となっている勉強会の真っ最中。
「……え、なにこれ。……ドリューズ先生の仕業?」
「夢幻空間、ではないようですね。あれにはアレ特有の波が立ちますから。……むしろこれは、
「つまり、隔離されたってワケ? ……他の……スヴェナたち、大丈夫かしら。同じように二人ずつの隔離が為されていた場合、組み合わせによっては空間系の魔法だってわからない場合があると思うんだけど」
「そうですね。一刻も早く出て、助けに行く必要があるでしょう」
「──じゃ、とりあえず最大火力ぶち込んでみますか」
「続きます」
白烙が湛えられる。
砕けた空間が凝縮する。
そこが花畑であるとか、心地のいい空間だとか、そういう一切合切を無視して──周囲を更地にしかねない魔法が放たれる。
結果。
……魔法は遥か彼方へと飛んでいったし、草原も丘も花畑も──無傷。
揺らぎさえ見えない。
「……」
「この威力で……なんともない、となると……少し工夫が必要かもしれません。エンジェ、学園襲撃事件の時、即席射出を行ったことを覚えていますか?」
「ああ、あれね。……なるほど、私の魔法をアンタの魔法で加速するのか。オッケー、それでいこうじゃない」
して。
それが放たれ……無傷に終わる。
魔法自体はとんでもない威力だった。ともすれば『快晴の雷』を打ち消し得る可能性があるほどの。
ただ、それでも壊れない。
どころか傷一つ付けられない。
「威力的なアプローチではダメ、なのかもしれません。待ってください、空間的なアプローチを仕掛けてみます」
「ん……お願い。そういう系はてんでわからないし……。ああ、風は飛ばしてみるわ。一応ね」
「ええ」
けれどそれも空振り。
シャニアの持つ全知識を動員しても、きっかけさえ掴めない。バレたら禁術扱いになるだろう変調を使って始祖シエル・デルメルサリスとなっても解析不能。
エンジェの風も同じだった。どこまでもどこまでも、探れる限りの範囲を……さらには渦状でも円形でもない、線形を取って距離を伸ばしても、ダメ。全方位ダメ。
海さえない。
ここが大陸の中心だとしても……ぐるりと一回転すれば必ず海へは辿り着ける長さを構築したというのに、この空間にあるのはどこまでもどこまでも続く草原と花畑だけだった。
そして、そこまでやってしまうと。
「……うぁ……」
「ふぅ……魔力切れ、ギリギリ、ですね」
「久しぶり……この感覚……」
エンジェの魔力量は言わずもがな。シャニアの魔力量はそこまで多くは無いが、効率良く使っているため長時間使い得る。
その二人をして……あと少しで気絶、というところまで行って、収穫なし。
「……犯人の目的が私達で、この状態になるのを待っていたら……死ぬわね、私達」
「です、ね……」
だから、疲れ果てながらも身構えて。
──何も、起きない。
「……悔しいですが、救助を待ちましょう。スヴェナさんか……『噂の平民さん』であれば、これほどまでの長時間私達がいないことがあったのなら、それを理由に探しに来てくれるでしょうから」
「今はでも、調査段階かもしれない……わね……。最終足取りの確認とか……大陸全土の捜索とか……」
「これほどの空間系の魔法使いが相手だと、隠蔽能力も凄まじい可能性がありますから、あり得ますね……」
一応、何かあった時の為にお互いを守れるよう近めの距離で、それでいて魔力回復に努めるため……木陰で横になって。
心地の良い風が吹いていく。
「……ま、もうどうしようもないんだし……ゆっくりしましょ」
「はい。……」
木々のざわめき。
ギリギリ倒せるか倒せないか、くらいの魔物が襲ってくることも、突然夕陽の綺麗なビーチになることもない……その空間で。
「……エンジェ」
「なによ」
「そろそろ……皆に迷惑をかけ過ぎていると、そう思いますから。……言います」
「だから、なにを──」
落ちる。
魔力切れ寸前で大の字になっていた……仰向けになっていたエンジェの口に、それが。
「……へ」
「正直に言うと……自分でも、よくはわかっていないんです。……ただ、あの時、あなたに抱き着かれてから……ずっと心がもやもやしていて。……『噂の平民さん』とあなたが楽しそうに話しているのを見るたびに……抑えつけられない暗い感情が湧き上がってきて……」
「え、……え、ちょ……え?」
「その反応は、正しいと思います。私達はあくまで善きライバルで、あの時あなたが私に抱き着いてくれたのは、友達として心配だったから。あなたにそれ以上の感情はなく……そして私がこんな感情を抱くべきではない。それは……わかっているんです」
混乱するエンジェを余所に。
シャニアは、続ける。最初の淀みは減って、段々、すらすらと。
「謝らないでと、多分、あなたは言ってくれるのだと思います。その上で言いますが……ごめんなさい。私、あなたのこと、好き……みたいで」
「……」
「自分でも何を言っているのだろうと思います。お互いの家のこと、社会情勢、何よりあなたには恋人がいて……なのに」
「……」
「本当は押し殺すべきでした。告げるべきではなかった。隠し通して……忘れ去るべき感情でした。……だから、ごめんなさい。あなたに……何を言わせても、面倒な感情を押し付けてしまうとわかっていながら……けれど、勉強会にも支障が出ていて、私は」
滴り落ちる言葉。纏まらないそれは、いつしか頬を伝う熱と共に零れていて。
そんなはずないのに。そんなはずないのに。そんなはずないのに。
そんなはずないのに──そうであってはいけないのに。
今こうして、「自身の感情が通るべきではない理由」を羅列しているのに。
もしも、を。
願ってしまう彼女は。
「……」
「何も、言えませんよね。……ごめんなさい。本当に……私は」
「お望み通り言ってあげるけど、とりあえず謝るのやめて。……あと……そうね。一回黙ってくれる? ちょっと考えたい」
「……わかり、ました」
顔を逸らすシャニア。もう直視していられないのだろう。
そのまま……このまま、この異相空間の果てにでも逃げてしまいたい気分だった。それほどには今、彼女は自己を嫌悪していて。
「──『
彼の名が、呼ばれた。
答えは勿論沈黙。いるのなら助けにこない理由が──。
「いいから、大事な話があるから、出てきて」
「……はぁ。君ね、ここで己の名を出すのは悪手だろう。彼女が置いていかれてしまうじゃないか」
当然のように……木の裏から出てくる『彼』。
シャニアが色々な言葉を吐きだす──前に。
「アンタさ、私がシャニアと付き合うって言ったら、どう思う?」
「それは、己との関係性を解消して、かい?」
「維持して、よ」
「へえ。──そういうの、アリなのかい? 博愛主義の君はともかく……シャニアとしては」
とんでもない言葉がエンジェの口から漏れ出でた。
一瞬、というか数瞬……いや、問われている今も尚理解できなくて固まるシャニア。
「シャニア。……まず、ごめん。もし仮に私がコイツと付き合ってなかったとしても、そもそもアンタ一人だけを好きになるとか、愛するとか、できないのよ私。……みんなのことが好きなの。誰も嫌いになれないわけじゃないけど……コイツに向ける気持ちと同等の好きをみんなに向けてる。当然、シャニアにも」
「……どう、いう」
「人一人を好きになるって、多分、世間一般じゃ凄い熱量で、その人以外眼中に入らなくなるとか、そういうことだと思うんだけど……私は違って。好き、って感情が芽生えた時点で、私は全員が好きなの。もしこの先で愛って感情が芽生えたら、私は全員を愛すると思うわ。私へ感情が向いている向いていないに関わらずね」
「……」
「おかしいことは自覚してる。色んな人に指摘されてる。でも治せない。……その上で、だから、私も私の好きとか愛とかが全くわかってない状態で……コイツと付き合ってる。それがどういうものなのかを確かめるために。コイツはコイツで、
「赤裸々に話すねェ」
「だから──訊くわ。……そんな私でいいなら、私はシャニアも受け入れる。……アンタはどうせ、どっちでもいいんでしょ」
「まぁね。己が君を愛することに、愛というものを実感することに、他の誰かが君を好き、愛している、という事実は一切関係が無い」
声が出ない。
枯れてしまったわけではない。理解が追いつかないだけだ。
ただ。
「……気持ち悪いって罵られる覚悟もあるわ。実際……おかしいだろうし」
「異常ではあるよねェ」
「アンタはもう少し庇えないワケ?」
ただ。
「こんなこといきなり言われてもどうしたらいいかわかんない、か。……時間はあるんだし、ゆっくり考えて、シャニア。……で、一応聞くけど、この空間作ったのアンタじゃないでしょうね」
「己ではないね」
「……嘘は吐いてないけど、本当のことも言ってない。……シャニアが解けなかったってことは……まさか、始祖?」
「始祖シエル・デルメルサリスがこんなことに手を貸すかなぁ」
「それは……そうね。しないと思う。……ってことはスヴェナ?」
「彼女、攻撃系の結界はシャニアを上回りつつあるけど、こういう空間を作る系統はまだ劣っているんじゃないかな」
「……まぁ誰かいるんでしょ、アンタの知り合いで、空間を作れるヤツが。で、アンタは作ってないけどソイツが作った。これが真相! ──言い訳は?」
「無いよ。それで、己はどんな罰を受ければいい?」
ただ──嫌だ、と思った。
やっぱり、こうやって目の前で……イチャイチャイチャイチャ、良いところも悪いところも全部知っているような、お互いを理解し合っているようなやり取りを見せられ続けるのは……嫌だ。
ここで拒絶したら。
ここで距離を置いたら。
一生、シャニアは、ここへ交ざることはできない。
そう、思ったから。
「……『噂の平民さん』が一緒でも、構いません。……私と付き合っている内に、比重が私へ傾くことだってあり得るでしょう。根底の部分では『噂の平民さん』を信用しきれているわけではないようですし。……今逃せば絶対に巡ってこないチャンスも、今掴んでおけば……いつかあると、そう信じます」
「根底の部分っていうか、信用なんかしてないわよ。信頼は多少してるけど」
「多少なんだねェ」
「ですから! ……す……好きです、エンジェ。私とも、付き合ってください!」
既のことで、その、千切れかけた糸を……結び直した。
「ええ、こんな私で良いなら」
「チャンスが欲しいからって己を排斥したり攻撃したりしないでくれると嬉しいねぇ」
「しませんよ、そんな卑怯なこと。……多分」
「多分なんだねェ」
斯くして。
始祖シエル・クローヴィー、並びに始祖アンジェリカ・エレメントリーによる『ドキドキ☆ステキ空間での大告白大作戦』は、ちょっとだけ予想とは違ったけれど、大成功に終わるのである。
──それが引き起こす結果は、如何に。