魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
まことしやかに、そして確実に噂が広まり始めた。
シャニアの態度は、外では気丈にも隠しているつもり……だろうけど、もうバレバレなのだ。元々仲の良かった二人だけど、シャニア側の言葉の棘が取れたというか、「私達仲が良いですよ」を見せつけているというか。
そもとして、エンジェは皆と仲が良い。それは彼女の精神性に依るものであると同時、実力に依るものでもある。
一歩、
さらにエンジェを中心とするこのグループには、
これがあまり良くなかった。
特別体験入学生である五人には
最上級生C……キャレム・アレンサリスの件で「反感を抱いたのも」「騒ぎ始めたのも」、結局は
それが被害者としての正当な怒りであったとしても、先に宣戦布告をしたようなもの──形としてしたわけではないが──であり、それでいて面子の関係上引き下がるわけにもいかない。さらには調薬師D……ダルク・クロノミコナの存在も明らかにされているため、
では
心象が良くないと彼らが考えるのは当然で──さらにそこへ追い打ちをかけるように入る報せ。こちらの大陸ではない大陸で起きた始祖Bによる大粛清。
無論、こちらの大陸にいた
そこへの大粛清。そして今、こちらの
当然不利益だ。
正当性がどれほどあろうと、大義がどれほどあろうと、そして魔法使い殺しとして名を馳せていようと……流石に全家が敵に回ったのならどうしようもない。
警戒すべき、あるいは泣きつくべき始祖は姿を晦ませていて、自分たちで判断しなければならない状況。
そんなことができるのなら、最初から関係性の悪化など起こしていないのだが。
一触即発。あと一つ、何か、
奇しくも還帰派が望んだとおり、
「……こんなところだね。あたしが情報収集に徹して現状を浚った感じ」
「謝っちゃえばそれで終わりなのにねー。大人ってたぁいヘン」
「まさか一斉に姿を晦ませた私達が学園でお茶会してるなんて夢にも思わないでしょうね」
「異相空間を作ったのは私ですが、あそこをああいう雰囲気にしたのはアンジーちゃんですし、一番良い所で割り込みを行った『先輩』も悪いと思うので、責任は分割しましょう」
「責任も何も、始祖からの脱却を目指す彼らなど放っておいていいのでは? こんな少女らに縋りついたまま何も成長しない、親離れできない大人たち。一度滅んでしまえばいいんです」
「……イリスちゃん、なんかあった? いや、そもそもそういう名目で来たのは知ってるけど……ちょっと嫌い過ぎじゃない?」
「視ましたから。
「あー」
お茶会。
なんでも普段行っているらしい異相空間でのお茶会……とは名ばかりの近況報告会、ではなく。
本当にお茶菓子を持ち寄って、紅茶を淹れてのお茶会だ。
「ああ、一応言っておくと、
己が用意した、ナノマシン汚染されていない茶菓子。天上の地の生産施設から持ってきたそれらは始祖五人に大好評で、茶葉も汚染されていないもの……ナノマシンというか魔力特有の味のしないものを使っているためか、ここにいる五人は「はじまりの始祖」ではなく「疲れ果てた少女」に戻っている。
「というか、あんまり積極的ではない気がするけど、どうなの? 『愚者』でも『先輩』でも、どの立場でも良いけど……魔法大戦、起こっても問題ないの?」
「己は別にどうでもいいよ。前に干渉したのは"覚醒"による魔力量の上昇で魔力濃度が上がり過ぎたから、だ。あのまま行っていたら、魔法使いも平民も今の十分の一くらいしか残っていなかっただろうからね」
「今回も同じになるかもしれないじゃない」
「確かに
「わたしも今回は静観かなー。ちょっかいかけても面白くないし……ああでも、戦場で死体が出たら貰うけどー」
本当にブレないね、始祖Dは。
ま、他の四人も気にしていない様子だけど。
どの道始祖らは色々が収まるまで顔を出さない予定のようだし、仮に魔法大戦という名の殲滅戦が起きたところで聖護魔導学園には関係が無い。せいぜいが戦力と必要な魔法使い……最上級生らが早めの卒業をするくらいだろう。
初学生や特別体験入学生である己達には本当に関係のない話なのだ。
あるとすれば始祖B……というかカナビだけど。
「あたしは動かないよ。イリスちゃんとほとんど同意見だし」
「意見が合わなくなったから、かい?」
「はい。命より面子を気にするのは、理解できないので」
……予知された「己の弱体化」まで、あと二か月と少し。
このままの現状が続いた場合、
楽しみだ。そこで何が起きるのか。
こればかりはと、
今起きているのは血筋争いであり、野心であり保身であり、そして生存を懸けた抗争だ。
そんなエンターテイメントに水を差す程迷った覚えはない。
もしそれで弱体化よりも上……己が死する結果になろうとどうでもいい。アイリポデパルは排出し終えたし、アイメリアもいるし。
群体としての己達は死なないからねェ。自業自得で消える分には何の抵抗もしないよ。
生への渇望もまた、人間の機能、だからねェ。
「しかし、意外ね。あんたって料理できたんだ?」
「ん? ……ああ、これは『FOOD PROCESSOR』で作ったものだよ。まぁ料理自体はできるけどね」
「『FOOD PROCESSOR』があるんですか? あれ、高価過ぎてウチは導入してなかったんですよね」
「私の家にはありましたね」
「まぁ君の両親は君にお守りとして
……だからまぁ、貧富の格差というか。
もう過ぎた話だけど、結構あったんだろうな、って。『賢者』による世界の消退でそこが平等になったのは、流石は『賢者』だね。世界平等が実現したわけだ。
「家に置きたいわ……ねぇ、ホントにダメ? 譲ってくれない?」
「魔法世界とはかけ離れ過ぎていてねェ。君達を天上の地……君達にわかる言葉で言うなら、研究開発学術都市アンブロシウスへ連れていくことくらいはできるけ──」
顔が。
もの凄い近さにあった。
「行きたい。……何を支払えばいい?」
「わたしのママのオフィスもそこにありましたねー。残ってるのかなー?」
「というか、残していたんですね。あんなものまさに魔法世界を否定する象徴じゃないですか。あ、行きたいです」
「あたしのパパは警備員やってたんですよ、そこで。もしかしたら『愚者』さん会ってたんじゃ」
「あなたと同じでノイズのかかる地が天上の地でしたが……まさかアンブロシウスだとは。行かせてください。あ、余計なことはしないと誓いますから。観光するだけです。……皆もそこは確約しますよね?」
「いつもならどうしよっかなーって言うんだけど、今回ばっかりは頷くから行きたいでーすぅ」
そんなにか。
……まぁ、そんなにか。
「いくつか条件があるし、流石に取引材料を必要とする。それでもいいなら、かな」
「それは、それでもいい、と言ってからでないと開示されないもの?」
「いや、別に今回は良いよ。条件の方はあの地の物を持ち出さないこと。隠れて異相空間に入れたり魔法で隠蔽してもわかるからね」
「やりませんよぉ、そんなことぉ」
「や……やりませんよ、そんなこと」
始祖Dが即答で始祖CCが言い淀むのはそれはそれでどうなんだい。
「そして、天上の地での情報を誰かに話さないこと。記録に残すのもナシだ。守れそうにないと判断したら己が認識錯誤をかけにいくよ」
「言われるまでもありませんね、それは。元々『愚者』さんの記録を消してきたのが私達ですし、天上の地の存在が知れ渡れば……そこが未知の世界だとわかってしまえば、目指す者も多くなるでしょう」
「それでいてあそこ、魔法じゃ貫けないシールドみたいなのが張ってあります、よね? 前に行こうとして弾かれた覚えがある……」
「怖がりのクセに好奇心旺盛だよね、君」
ふむ。まぁ、大丈夫そうか。
「最後の条件だ。──天上の地では未だ営みを行っている存在がいる。その中に知り合いがいたとしても、どうにかしようとしたり、破壊しようとしたりしないこと」
「……それって……生きてる人がいる、ってこと?」
「あれを生きていると判断するかどうかは君達に任せるよ。ああ、怒りは己ではなく『賢者』にぶつけてほしいけれどね」
己がゴーレム化したけど、責任は彼らに擦り付けるとして。
「これら条件が守れるなら、取引といこう」
「……守れる、わ」
「まもりまーす」
「問題ありません」
「パパを見つけたら感情的になっちゃうかもだけど、大丈夫です」
「……私の両親も、いるかもしれません。……が、守り得ます」
うん。じゃあ、取引内容は──。
五人を転移させる。
様々な場所が瓦礫と化そうとも、やはり元の姿をある程度保っている研究開発学術都市アンブロシウスへ。
「わ……実際に行ったことはないのに、この景観懐かしい……!」
「建築様式がそもそも、よね。……舗装された道路まで懐かしい。靴が違うから実際はちょっと違うんだろうけど、この足が疲れない感じの感触……本当に……」
「自由行動でいいですか!? あ、それと魔法は」
「使えはするよ。ただ、外縁部から落ちるとシールドに衝突するし、魔法も使えなくなるから……普通に死ぬね。君達はその程度じゃ死ねないから、死ぬほど痛い思いをする、になるけど」
「ということは転移も」
「勿論グチャァ、だよ。過去にそれをやってひき肉になった子がいたねェ」
スヴェナ・デルメルグロウっていうんだけど。
「それじゃ、さっき言った条件を守る限りは自由行動で。別に時の進みを弄っているとかではないから、日没になったらこの広場に帰ってくることだ。休日とはいえ、特別体験入学生集団失踪事件としてエンジェたちに心配されたくなくば、ね」
「はーい!」
元気の良い返事と共に散っていく少女たち。
……引率の先生ってこんな気分なのだろうか。
始祖A、アンジェリカ・エレメントリー……いや、この地ではアンジェリカ・イニカ、かな。
彼女は──コンビニエンスストアにいた。
「えぇ……」
「ん、なによ。自由行動でいいんでしょ?」
「いや……なにか、ゆかりのある地に行くとか……そういうものだとばかり」
「無いわよ。ウチの両親はアンブロシウスで働いてなかったし。あ、強化人間として兵役してたことはあった気がするけど、よく知らないし。それよりあんた、ここ……あの頃のまんまなのね。ほら、このダウンロード端末。プレビュー機能も懐かしいし、ラインナップもぼんやりと覚えのあるものばっか! 研究開発学術都市、なんて銘打ってたからこういう娯楽は薄いものだと思ってたけど、私の家の近所にあったコンビニとほとんど変わんないのね」
「そりゃあね。このチェーン店は全国展開していたし、昔ながらのスタイルを決して崩さないことを誓っていた。あとはまぁ……ここはあくまで仕事の場で、娯楽施設が限りなく少ないから、こういう些細な娯楽は仕事詰めの人間にとっては大事なものだったんだよ」
住み込みで働く人間ばかりだったけど、娯楽施設や商業施設は建たなかった。
そんなものを建てるくらいなら研究開発施設が建つ。それこそ『FOOD PROCESSOR』や『DRINK CORNER』が設置されることはあったけど、飲食店が並ぶこともなかった。
あくまでここへは仕事をしにくる。住み込みの人間はただのワーカホリック。ちゃんと家に帰る人間は地元にある娯楽施設へ行く。
都市という名の巨大なオフィス。それがアンブロシウスだ。
……ま、実を言うと裏でこそこそと……ミニ映画館みたいなものを作っていた人間もいたようだけど。
あと端末とか埋め込みのナノマシンで脳裏に映像だの音楽だのを流し得る機能があったから、必要なかったと言えばそうなんだよねェ。
だからこそこのチェーン店は凄いのだ。そんな娯楽一切禁止の都市にコンビニをねじ込んだのだから。
「……アニメ、買いたいかい?」
「お金が無いわ。世界共通貨幣なんかもう持ってないし」
「このコンビニの内部でだけなら現状保存をかけて疑似的な買い物ができるようにしてあげられるよ。お金も別に、最早意味の無いものだから……ほら」
投げ渡すは手のひらサイズの長方形。
「己は虚しくなるだけだとは思うけど、このコンビニ内のもの、そして販売中だった娯楽作品全部を買える程度の値段の入った端末だ。決済は自動だし……ってそんなこと説明するまでもないか」
「わかったから早く出ていって。日没までしか時間無いんでしょ? めいっぱい楽しむから!」
「はいはい」
……情緒も何も無いねェ。
まぁ、それが楽しいのならそれでいいけどさ。
次に訪れたのは始祖B、ビアンカのいるところ。彼女には姓がない……正確にいうと地名という姓しかないので、そこまでの富裕層ではなかったのだと思う。
アンブロシウスで警備員を、というくらいだから、元から腕の立つ家系ではあったのかもしれない。強化人間は地力の無いものが兵として回される実験体で、元から腕っぷしのある者はそうやって施設ごとの警備員として雇われる。そんな感じだったからね。
して、彼女は。
さめざめと──泣いていた。泣き崩れていた。
一人の男性型ゴーレムの前で。
「父親、かい」
「……はい。見間違えるはずもないです。……『愚者』さんの力でも、意識を戻すことは」
「できないね。それらしいものを再現することはできるけど」
「じゃあ、いいです」
嘘だ。魂はここにあるから、複製体を作って肉体を与えれば、完全復活させられる。
……けど、それは流石にサービスし過ぎだからね。
「聞くべきではないかもしれないけれど……母親は?」
「お母さんは、アンブロシウスじゃないトコで働いてて……世界滅亡の二年くらい前に、崩落事故で死んじゃいました」
「あの時代に、崩落事故?」
「……実際はマルスタジアンによる破壊工作だって……報道されてた覚えがありますね」
ああ……アンブロシウス、というかこの国の敵国だね。
流石にこの地以外の魂は己でも取り出せないな。コルリウムの時間移動と
いや、人格データだけ取ってきて……ああでも魂が無理だな。適当な誰かの魂に張りつければいけなくはないけど……ま、それもサービス過多だろう。
「パパは……ここで、何をしているんですか?」
「さぁ……? 己も別に彼らを詳しく調べたわけではないからねェ」
これも嘘。
彼らは彼らとして存在することで色々な役割を担っている。とはいえ一人一人が何をしているかは知らない。というか興味が無い。
ああ……ただ、そうだな。
「少し感情の整理ができたら、この端末の示す場所に行ってみるといいよ」
「……これは?」
「今調べたんだけどね。この男性の最終的な宿直室のあった場所だ。原型を留めているかはわからないし、全徴兵のあった後の話だから、私物を持ち込めているかはわからないけど……一応、かな」
「……なんだか今日の『愚者』さん、優しすぎませんか? 流石にそろそろ怪しいですよ、取引のことがあるとはいえ」
「己は『賢者』が嫌いなんだよ。だから今だけは、己も君達も『賢者』の被害者だ。理由はそれだけだよ」
これは、本当。
今は趣味に走っているし、好き放題できる環境に喜んでいるけれど……あのままずっと営業マンをしていたってよかった。あの時代はあの時代で好きだったから。
あの虫もそうだけど、どうにも己達は「知的生命体に交じって普通の生活をする」ということが好きみたいなんだ。それをぶち壊されたのだから……普通に嫌いだよ、『賢者』は。
「……なんか、久しぶりに『愚者』さんの……嘘偽りない言葉を聞いた気がします」
「酷いなぁ。己は公明正大な存在だというのに。……ま、ここから先は君の時間だ。存分にね」
「はい」
そんなに嘘っぽいかな、己。
シエル・クローヴィー。
彼女は頑なに自身の名にこだわる。
「クローヴィー製薬。……君が名前にこだわっていた理由は、これかい?」
「どうでしょうね。……私の家は裕福じゃなかったんです。でも、両親はとても賢くて、私も幼い頃から教育を受けて……それで、私を一人置いていけると判断してすぐ、二人はアンブロシウスに行きました。ここは……出自関係なしに実力があれば成り上がることものし上がることもできる都市。二人はちゃんとその才覚を発揮して、製薬会社を立ち上げて……だから、はい。やっぱりクローヴィーの名前は、私の誇りだったんだと思います」
あまり記憶に薄い会社だ。製薬会社なんていっぱいあるからね。
……違法なことをしていた会社であれば全部覚えているのだけど、普通の製薬会社となると……うん、流石に知らない。
「中に両親はいたかい?」
「いませんでした。どこかへ出かけていたのか、全徴兵の時に……兵士になってしまったのか。子供には何の通達も無いのが当たり前でしたし、真相はわかりません。……ただ、ほら、これ」
社内にあった端末。そこにある"代表取締役社長"の文字と……写真。
始祖CCにどことなく似ている二人の男女。
「凄いと思いませんか? 私のコロニーに来た『愚者』さんならわかると思いますけど、私はみんなの中で唯一この国出身じゃないんです。当然両親も。あの頃の他国の人間って、差別があったわけじゃないですけど、区別はされてました。どうやっても産業スパイの懸念が捨てられず、あるいは本人が気付かぬ内に情報発信のナノマシンを仕込まれているとかで、摘発も沢山あって。だから国外へ勤めにいく、なんて狂気の沙汰で。……それでも私の両親は、ここじゃないと作れない薬がある、ここじゃないと救えない命がある、って言ってアンブロシウスへ行って……ちゃんと認められて、ちゃんと信頼されて」
珍しく感情的だ。
普段の冷静さは無い。ここにいるのは始祖CCではなく、少女CCだ。
「……『賢者』は、いないんですか」
「ノーコメント。いたとしてもいないとしても教えないよ」
「それ、いる、って言っているようなものでは?」
「己の場合はその限りではない。──まぁいいか、今はいない、が正しい。いつでも蘇らせることはできる。それだけだよ」
「……そうですか。じゃあ、絶対やめてください。……もし生き返ったのなら、殺します。私にできるあらゆる手段で殺します。魔法がナノマシンの劣化版だなんてわかってますけど、その上で殺します」
家族愛、か。
それもまた……己の知らない愛だねェ。
「……もう少し、二人の作った会社と、功績を……見て回ります」
「そうかい。ああ、そうだ。アンブロシウスで働く者は皆身分証明コードをタグとして身に付けていたから、君の両親の身分証明コードがわかれば位置も特定できるはずだよ。会いたいかどうか、いるかどうかは己には判断できないけれど」
「ありがとうございます」
うん。
じゃあ、君も存分に。
始祖D、ディアナ。
彼女はもうそこを見つけていた。ま、彼女には魂が見えるからね。
Mrs.アブラグリス。いや、アブラクサスの入った共同墓地の前。
「……身分証明コードを見ましたー。白スーツさん、お母さんと一緒に働いてたんですねー」
「ああ、同僚だったよ」
「このお花は、白スーツさんが?」
「よくわかったね、と言いたいところだけど、こんなことをする存在は己以外いないか」
「ですねー。……営み、とか言ってましたけどアレのどこが、ですかぁ? 知ってましたけど、わたしなんかが可愛く見えるくらいあくどいことしてますよね、白スーツさん」
「『賢者』の仕業だと言ったはずだけど?」
「流石に馬鹿にし過ぎですよぉ。『賢者』……世界を滅ぼした科学者集団が魂を認識できていたのなら、世界滅亡なんか起きなかった。彼らは魂を正しく認識できていないまま、その魂の……コルリウムさん風に言うなら次元階位を上げようとしたから失敗して、世界滅亡を招いたんですからぁ。必然……こういう処置ができるのは白スーツさんだけです」
詳しいね。今調べたのか、あるいは元から知っていたのか。
いや、でも昔の彼女は。
「わたしが昔不安定だったのは、コロニーでの扱いの結果ですよぉ。……その前。パパが家にいた頃は、わたし、普通の子供でしたからぁ。……お母さんがアンブロシウスで働いていることは知っていましたし、パパが苦笑いしながら"またお母さんがとんでもないものを作ったみたいだぞ"って情報端末を見せてくれることも……結構ありましたねぇ」
「Mrs.アブラクサス。彼女の作ったものを他方に売りつける仕事をしていたのが己だよ」
「……お母さんは、わたしが生まれてすぐにアンブロシウスに行っちゃいました。顔もほとんど覚えてないくらいの頃です。……いつか帰ってくるんじゃないかな、なんて期待してましたけどぉ、仕事が忙しい、の一点張りで……帰ってくることも、仮想空間で会うことすらしてくれなくて。嫌われてたんですかねぇ」
「んー。まぁ……。あー。サービス過多だとは思うけど、……らしくないことをするよ、今から」
「?」
己はね、同僚には優しいんだ。
ふと思い至ったからというだけで墓前に花を添える程度には……「同じ仕事をしていた仲間」には感情を持っている。
残念ながら人間の機能としての感情ではなく、どちらかというとアイリポデパルに向けたような……身内への感情に近いけれど。
「創り変えるよ」
始祖Dの肩を抱いた状態で、空間に赤雷を走らせる。
直後、共同墓地だった周囲が「とあるオフィス」に姿を変えた。
「……これ、は」
「民間企業『COMPANY』。そこの一部署……『MACHINERY OFFICE』。ここは君の母親が働いていたオフィスであり、己が出入りしていた場所だ。……天上の地における『COMPANY』はもう無いから、これはただの再現」
再現だから生体センサーも反応しない。
室内を歩き回ったり、端末に向かって何かを入力している者達は己達へ見向きもしない。
その中に。
『……おい、『詐欺師』。いつから貴様は私の前にデスクを置くようになった。そこはデルドラのデスクだぞ』
『いいじゃないか、今彼女はいないのだし』
『いくら貴様が営業であっても機密ばかりだからやめろと優しく諭してやったのがわからなかったのか?』
『そんな大事なものを誰でも見られるようにしているMs.デルドラが悪いよ』
『まぁ、それはそうだが』
いた。
デスクと端末。それを挟んで座る、己と研究員A'''''。
「……仲、良かったんですかぁ?」
「己は誰に対してもこうだけど、まぁ、他の人間よりは良かったかもしれないね」
「そう、ですかぁ。……あれが……お母さん」
己と始祖Dが見守る中で、他愛のない話を続ける過去の己達。
そして……ふと、といった様子で、研究員A'''''は『HOLOGRAM』……持ち運び可能な立体映像を過去の己へ放る。
『いきなりなんだい?』
『ストレス発散兼、自慢だ』
『自慢? ……子供だね。これといって特徴の無い』
『節穴か『詐欺師』。髪色と目の色が私と同じだろう。加えて、他者をゴミとしか思っていないようなあくどい顔つきまで似ている。これは将来私より凄まじい研究者になるぞ』
『それが自慢なのかい? 流石はMrs.アブラグリス。他者と感性が違い過ぎるね』
『とりあえず可愛いと言え。他人の娘を見た時はそう反応するべきだ』
邪悪な笑みを浮かべながら言葉を吐く研究員A'''''。そこに嘘偽りはない。
隣から小さく「……ぁ」なんて声が聞こえた。
『申し訳ないけれど、人間の美醜はあまりよくわからないんだ』
『社交辞令で言えと言っている。……はぁ、帰って抱きしめてやりたいよ。旦那にも会いたいしな』
『帰ればいいじゃないか。別に誰も引き留めてないよ』
『馬鹿が。帰ったり……仮想空間なり通信なりで声でも聴いたりしてみろ。私はもうここへは戻ってこないぞ』
『ああ、案外決意が揺らぐタイプなんだね』
『そうだ。二人には悪いがな、私は……あんな幸せ空間に一歩でも足を踏み入れたら、出てこられなくなる。……もう少しここであいつらに金を落としたいし、作るべきものも残っている。ただ、あの子が十五になったら、一度は帰るつもりでいるよ』
『それは何故?』
『私が子供の頃、十五の誕生日に母親からプレゼントを貰ってな。それは今でも大切に取ってある。そういうものなんだよ、親からの贈り物というのは。幼過ぎると壊してしまいかねないし、失くしてしまいかねないが……十五歳。多感な時期で、一番、多くを覚えていやすい年齢。そこで貰ったものは、一生の宝物になる』
『相変わらずロマンチストだねェ』
子供が映し出された『HOLOGRAM』を投げ返す己。
彼女はそれをキャッチし、大切そうに胸の内ポケットへしまい込んだ。
『貴様、家族は?』
『己の生態を知っていて、いると思っているのかい?』
『いや。……いつか貴様が愛を知った時が楽しみだ。貴様もロマンチストになるぞ』
『己が、ねェ。楽しみではあるよ。家族はいないけど、身内はいてね。愛とは無縁の存在だと思っていた彼が愛を知った時……がらっと性格が変わったんだ。本質は何も変わっていないけれど、己から見ても別人かと疑うほどに』
『ああ。愛は人を変える。貴様が人ではないことは知っているが、その上で貴様も変わる。私も変わった。……楽しみだよ、あの子の十五の誕生日が』
『何を贈るんだい?』
『それは──』
「白スーツさん、止めてください」
ん。
……再現映像を止める。
「何かな」
「知らない方が良いです。……わたしが魔法使いになった時の年齢は、十四でした。──なら、一生知らない方が良い。見せてくれてありがとうございます。……でも、わたしは……これ以上を知りたくないです」
「そうかい。……わかったよ、君の意思を尊重しよう」
再現映像を消す。
場所は共同墓地へと戻り。
「少し一人にしてください。……多分、魔法使いになってから……わたし、泣いたことなくて。今、お母さんを偲んで……泣けるかどうか試してみたいので」
「わかったよ」
去る。
Mrs.アブラクサス。心の中でそう呼ぶには至らなかった研究員A'''''。
──確かに届けたよ。君のプレゼント。
勝手ながら、だけどね。
して、最後。
始祖E。イーリシャは……巨大なキューブの前にいた。
「……よくここへの入り方がわかったね。未来視はできないようになっているはずだけど。陣地……でも破壊できない材質だよ、ここ」
「普通に入りましたよ、生体認証で」
──まさか。
「君……『賢者』の」
「はい。私の両親は、『賢者』の一員でした。魔法世界を守ろうと頑張ってきたのは勝手な罪悪感と責任感から来るものです。……馬鹿な両親でしたね、本当に」
生体認証で入れた、ということは。
招くつもりだったのかな。
「……少し、話をしたくなったかな」
「私もです。……改めて話をしましょう、『
君と、己の話を。