魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Sin14-3.「愛し憎しの露呈」

 聖護隊と呼ばれる組織がいる。

 さながら聖護星見(クライムドール)を護る騎士のような立ち回りをする組織であり、隊長などの重役は代々ある一族が担う。

 その初代隊長が騎士フィリップ……己が少年Fと呼んだ者であり、此度事件に巻き込まれて死した教頭フィニアンもまたその一族だ。

 彼らは聖護星見(クライムドール)のために生き、聖護星見(クライムドール)のために死ぬ。魔力は持っていても魔法は使えず、平民は超えるが肉体強化(フィジクマギア)には劣るような身体能力と──大抵の場合が絶技と称されるような剣術で以て聖護星見(クライムドール)を不慮の事故から護る。

 

 それが聖護隊だ。

 

「己の認識はその程度だよ、イーリシャ。騎士の一族はそれだけの価値しかない──それでは気に入らない答えかな」

「まず。──私の最初の騎士は、フィリップではなくフェルナンドです。フィリップは二代目。無論、それほどまでにあなたにとって彼らへの興味が薄かったと……それだけの話なのでしょうが」

 

 ……そうだっけ?

 ああ、そういえばそうだった気がする。己に廃棄光線銃(スクラップ)を撃ってきた少年。……そういえば彼、あんなものどこで手に入れたんだろうね。

 加えて言うなら、どうして子供である彼に使用できたのだろう。子供が持ってしまえばペアレンタルコントロールによるセキュリティロックか、機構自体のセーフティロックがかかるはずだけど。

 

「で、認識も知識もこの程度だ。それがどう己の本名に繋がるのか教えてくれるかい?」

「順序を追いましょう。まず、あなたはフェルナンド達には不老長寿を与えませんでしたね。だから当然、私の与えた加護……疑似陣地を以て尚、フェルナンドは先に年老い、死去しました。……彼と私は夫婦の関係にありました。彼の身体が成熟しきる前に番い、私は子を産んだのです」

「そこは知っているよ。でなければ繁殖できないだろうから」

「ええ。ただ、新しく生まれた子供は聖護星見(クライムドール)……その魔法を使用することのできる子供。つまり、現状本家と呼ばれている血筋の子になったのです。そこから何人かの子供を産みましたが、全員が聖護星見(クライムドール)の特徴を持つ子供──つまり、未来視と陣地という守りと下準備を徹すれば強きものであれ、平時では強くなり得ない……男女関係なくそんな子供しか生まれませんでした」

 

 当然だ。そうデザインしたのだから。

 そして。

 

「ですから、それではダメだと……フェルナンドは私や私の子供達を守り続ける者が必要であるとし、私との婚姻を解消。コロニーにいた他の女の子と番い……その子に男児を産ませます。その男児こそがフィリップであり、男児は魔力だけしか有しておりませんでした」

「だろうね。あの時己が言った呪いとはまさにそのことだ。少年F。彼の遺伝を持つ者は全て男児となる。聖護星見(クライムドール)以外のどんな血と番っても騎士の一族の遺伝が勝る。そう調整した」

「──ですが、私達が魔法使いとなってから……約千年程したある日、初めて女児が生まれたのです」

「なに?」

 

 ……あり得ない。けど……あり得る場合が一つだけ、例外が一つだけある。

 ()()()()()()()()()()()()()()、そうなることも可能だ。堅固な魂が……スファニア・ドルミルのようにどのような肉体が付随しようと自らをスファニア・ドルミルだと再定義するような魂が入った場合、騎士の一族の血など凌駕するだろう。

 ただ、そんな魂はあの虫が全て連れていったはず。

 

「母体であった女性も、騎士の一族も、どちらもがこれまでと何ら変わらない存在。私にだけ許された"加護を与える"という魔法によって魔力を得ただけの、騎士の一族にさえも劣る一般人の女性。──当然私は、その女性を調べ尽くしました。なんせ女児が生まれることは未来視でも視えなかったことでしたので」

「仮に己がその場にいてもそうしただろうね。それで、結果は?」

「遺伝的、霊的、思想的。あらゆる角度から見て、その女性は平凡な方でした。なれば騎士の一族側に何かあるものだと思い、そちらも調べましたが……これといって特徴は見つからず」

「ふむ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()、と証言したのです」

 

 約四千年前。

 己……ではないね。というかそれが己であればこの事実を知っていないとおかしい。

 

「その超常的存在は、自身をフレデリックと名乗ったと言います」

「……なん、だって? ……まさか、ブロンドの長髪をなみなみと流した……右手に錫杖を持つ、白布を纏う男性、ではないよね」

「おや、知り合いでしたか? まさにそのような特徴を持つ存在だったと二人は話していました。そしてその存在は、自らを"神のようなもの"と称したとも」

 

 間違いない。

 地球……このメガリアではなく、元来の地球にいた神だ。あるいは……古井戸の父とされていた存在。

 ただあれは、メガリアにおける虚構の神やマグヌノプスと同じく、その惑星でしか発生し得ない存在でもある。この星と地球との距離は約七十六億光年……己達の全力を以て航行を行っても七年はかかる距離がある。

 そこを渡ってきた? どんな理由で? 古井戸の様子を確かめにきたとか?

 

「長考に入りかけているところ申し訳ありませんが、説明を続けてもよろしいでしょうか」

「あ……ああ。構わないよ」

「『LULLIAN・CIRCWLEITH(ルルスの円盤)』という名前を知ったのはその時です。フレデリックと名乗った神のようなものは、"この星にいる旧友に頼みと土産があって来た"と言っていたそうで、その旧友の名が『LULLIAN・CIRCWLEITH(ルルスの円盤)』。二人が聞いた当初は名前であるとさえ思わず、微睡のような、ぼんやりとした意識で話を覚えているだけでした」

 

 ……。フレデリックが己に頼み。そして土産……。

 一応……あの虫がマグヌノプスを地球へ流した、という事実がある手前、彼が己の友である事実を加味しても……仕返しという線は捨てきれないか。

 

「それで……その女児は何か特別だったのかい?」

「はい。初めての女児にフィリアと名付けた二人でしたが、産まれたばかりで、物心などついていなかったはずのその子は……自らを別の名で呼んだそうです」

 

 (まとい)・フェイブ、と。

 

「……エルグでも、アルカでもなく……か」

「女児はすくすくと育ち、少女に、そして女性となり……騎士の一族の中で、歴代最強と謳われるほど強くなりました。まるで聖護星見(クライムドール)を思わせるような先見の明と直観、何より"視えない者と会話し、見得ないモノを斬る"ということができた彼女は、ある種の魔法使い殺し……肉体強化(フィジクマギア)にも勝る力を有しておりましたので」

「流れは理解したよ。──まだ生きているんだろう、その女性」

 

 このメガリアという星において、特異点とも言うべき存在として現れる女性。

 かつて皇都フレメアという国において貴族を名乗ったエルグ姓の持ち主……ルバーティエ=エルグやガルラルクリア=エルグの源流であり、聖都アクルマキアンにて生まれ出でた慧眼を有する者の名前。

 纏・エルグ。その妹の纏・アルカ。

 ただ……アクルマキアンも、そしてアルカの亡命したエルメシアも消えた今、その血は途絶えたものと思っていた。

 けれどそのフェイブという女性の特徴を聞くに、纏姓の誰かであるか、あるいはそのどちらかが転生した姿だと考えるべきだろう。

 

「生きている……というより、私が保存した、という方が正しいでしょう。あるいは封印したと取ってくださっても構いません」

「保存……。成程、陣地で肉体と魂の老いを止めたのか。疑似的な時間停止をかけたわけだ」

「そうなります。彼女は今も聖護星見(クライムドール)の総本山、その最奥にて眠っています。……彼女以降で騎士の一族に女児が生まれたことは未だありませんが、男児であっても時折知るはずの無いこと……それはたとえば前身文明の知識であったり、あるいはもっと前の知識であったりを発言する子供が産まれるようになるのです」

「そして、その全員がうわ言のように、あるいは警告のように『LULLIAN・CIRCWLEITH(ルルスの円盤)』と……己の名前を口にする、かい?」

 

 頷くイーリシャ。

 纏・フェイブはともかく、その後に生まれた聖護隊の発現者はフレデリックからの呼びかけだろうね。彼が己に持ってきたという頼み。土産の方が何かは知らないけれど、フレデリックは己に会いたくて仕方がないらしい。

 

「『愚者』さん。私は……自らの両親を含め『賢者』であった彼らにもまた特別……特異性があったのではないかと睨んでいます。加えてアルター・コルリウム、エンジェ・エレメントリー、スヴェナ・デルメルグロウ、シャニア・デルメルサリス。彼ら彼女らもまた特異。異質な何かを有している。生命の次元階位上昇では片付けられない特異性を」

「……かもしれない。君は知らない、あるいは視えなかったことだろうけど、『快晴の雷』……樹殻は明確にエンジェを狙ったことがあった。その時点で既に生命の次元階位上昇が為されていたはずの彼女をね。コルリウムの見立てでは狙われなくなるはずであるとされた彼女をピンポイントで狙ったことには、彼女が生命の次元階位上昇をしていること以外の理由が存在したからだろう」

 

 あるいは明日天気になあれ(ドゥマニル・テンポ・エピーロ)がこの時代に「未来送り」されてきたのもガルラルクリア=エルグ・アルベーヌの仕業だ。

 外部干渉を受け付けることなく『魂の再獲得』を自然と行ったのもルバーティエ=エルグ・モモという女性だ。

 

 エンジェ、スヴェナ、シャニア、コルリウム。

 アルベーヌ、モモ、フレデリック、『賢者』。

 エルグ、アルカ、フェイブ。

 

 超常の力を持ち、超常の魂を持ち、数奇なる運命を辿る者達。

 

「血中魔力の許容量という点において、騎士の一族は他家よりもその幅が広い。これは『愚者』さんの方が良くわかっていると思います。──言いかえれば、受け皿になりやすい、ということです」

「過去からの転生、超常の力、神の視線。そういったものの受け皿になりやすい一族。……己が蒔いた種で、己の首が締まる、か。皮肉なことだ」

「これは確認でもありました。フェルナンドから始まる騎士の一族にあなたがかけた呪いは、受け皿になれ、というものではなかった。まずはそれが何より喜ばしいことです。そんな……犠牲になるための人生ではなかったと知ることができたのですから」

「ああ。断言しよう。それら自体は己の知らないこと。そうなると予測できていなかったことだ」

 

 数奇な運命を辿るのだろうな、とは思っていたし、奇矯な人物らが生まれ出でるのだろうなとも考えていた。

 けどそこまでおかしなことになっているとは思いもしなかった。

 

「纏・フェイブの霊魂は日に日に力を増して行っています。私の設置型陣地による抑えが効力を失う刻限が凡そ二か月と少し後。その意味は無論分かりますよね」

「ああ」

「このタイミングで私達始祖を……いいえ、私をここへあなたが連れてきたこと。アルター・コルリウムの暗躍。エンジェさんたちの異常性。樹殻の活性化。まるで運命の潮流に飲み込まれるかのように、"その時"へ向けて全てが流れ込んでいるように感じます。……そして、その潮流についていけない者は、どんどん振り落とされている、とも」

肉体強化(フィジクマギア)の系譜だね」

「はい。もし騎士の一族の受け皿としての特異性が恒常的なものになった場合、肉体強化(フィジクマギア)はその地位を追われるでしょう。全員が全員生まれた直後から強い自我を有し、フェイブのように慧眼を持つようになった場合……()()()()()()()騎士の一族に並び立てない肉体強化(フィジクマギア)では、魔法使い足り得ない。……あるいはエンチャントの部分だけを評価され、五家が六家になることも考えられますが……」

「既に始祖ビアンカは既存の肉体強化(フィジクマギア)を見限っている。始祖からの脱却を謳う貴族らの中に聖護星見(クライムドール)と聖護隊はほとんど含まれておらず、であれば他の始祖が自分たちの血筋に見限りをつけるのも時間の問題やもしれない」

 

 己がエンジェを守った時のように、『快晴の雷』に対して魔法による防護なんぞ意味を成さない。使用し得る手段は物理攻撃に近しいものばかり。つまり聖護隊の最上位クラスであれば、樹殻によるエネルギーの略取から聖護星見(クライムドール)を守り続けることができる可能性があるのだ。

 

「最初も最初、私は『愚者』さんに関する沢山の未来を視ました。脳への負担を無視して……魔法世界に多大なる混乱を齎すあなたを視たのです。……ですが、今となっては最初の解釈と異なる解釈を持つことができます。即ち、あなたがかき乱すのではなく、あなたに何かがあって……周囲がかき乱される、という解釈が」

「長らく言われている己の弱体化。己が"未来"と接触した時に見た『天使』クンの様子では、フレデリックの頼みなんか訊けたものではないだろうね」

 

 ややこしいから要約をしておこう。

 己の本名の情報源はフレデリック。地球における神……正確には自然の権化とでも呼ぶべき存在。

 そして聖護隊の正体は──意図していないとはいえ──超常存在の受け皿。そういう意味では、コルリウムが率いていた『残照回廊(リメノンス)』が明日天気になあれ(ドゥマニル・テンポ・エピーロ)の開花の生贄に教頭フィニアンを使った理由にも納得がいく。結局あれはフェイクだったわけだけど、あのクライムドールの双子から聖護隊に関する知識を得ていたのなら、使わない手は無かっただろうから。

 

 纏姓の三人。そしてフレデリック、古井戸。

 正体こそわかっていても、目的の不明な五人だ。古井戸が己にピオの改造を依頼したのはあくまでピオのため。彼の欲求じゃないしね。

 

 総括して言えることは。

 

「二か月と少し後が楽しみだ、ということだ」

「……私の制限を取り払い、そこで何が起きるのかを事前に知り、対策を取る……ということはしないんですか?」

「ああ、()()()()()()()()()()

 

 己と人間の決定的な違いはそこだ。

 

 生への渇望。それが己達には無い。面白ければ、楽しければ、それでいい。

 いくら恨まれようと疎まれようと、己が愛すると決めた存在から徹底的に嫌われようと……それはそれでいい。

 

「ここまでの説明、ここまでの一切は、イーリシャ。君にかかっている制限を己に取ってもらうための話だった。そう解釈していいのかな」

「目的の一部ではありました。騎士の一族に関する話も聞きたいことでしたし、フレデリックの話もそうです。……私が聞きたいことは、残り一つだけ」

「それは何かな。早めに解消してしまおう。思ったより時間が過ぎているからね」

 

 日没まで、と言ったのは己なんだ。

 それを己が破るのは、ねぇ。

 

「では。──『LULLIAN・CIRCWLEITH(ルルスの円盤)』とは、なんですか。これ、人名ではないでしょう?」

 

 そんな言葉を。

 

 

 ふむ。まぁ。

 

「『LULLIAN・CIRCWLEITH(ルルスの円盤)』。この星ではない星において考案された、アイデアを整理するためのツール。その名前だね」

「なぜそんなものを名乗っているのですか? あなたはもっと……星々が生まれ出でる前からこの世に存在しているのでしょう?」

「おや、よくわかったね」

「どれほどノイズがかかっていても、無理をすればあなたを視ることができます。長時間は難しいですし、断片的なものになりますが……あなたとスヴェナさんがその話をしているところだけが見えました」

「成程」

 

 ……でも、そこまで溜めることでもないんだよねェ。

 

「己が人間ではないということはもうわかっているね?」

「はい」

「己や、あるいはアイメリア、アイリポデパルと言った、君達人類からして見れば高次生命と呼ぶべき存在がこの星海には存在している。それらに元来名前は存在しない。基本的には寄生生物と名乗ることばかりで、本体……己も、アイメリアも、それぞれが別たれる前にあった本体に名は無い。惑星へ着弾し、爆発し、その星を飲み込み……己達と同じ高次生命を作り上げ、連れていく。増える。ただそれだけのことを繰り返す単純な生命体だ」

 

 だから、次元という意味では高次だけど、高機能かと問われたら微妙だし、知性に長けるわけでもない。

 

「アイメリアも『LULLIAN・CIRCWLEITH(ルルスの円盤)』もとある星で名付けられた名前でね。単純にその星にあったもの、考案されたものと()()()()()()()()()()()そう名付けられたに過ぎない。アイメリアはその寄生の様子が、己はその在り方が。つまり自身で名乗ったというわけではないんだよ」

「……そんなものが、『魂の再獲得』による生命の次元階位上昇によって得られる高次化……その際に使われる言語として成立するんですね」

「正直な話、名前そのもの、そして内容そのものはなんだっていいからね。『立ち並ぶ高塔(BUILDING)』や『一般家屋(HOME)』だって魂の言語の一部だ。それの使用者はもう少し違う使い方をするけれど、解釈はこれで間違いない」

 

 ただそう名付けられて、気に入ったから使っているだけ。

 

「こんな話が最後で満足なのかい?」

「はい……と言いたいところですが、今の話を聞いてもう一つ疑問が浮かびました。ただ、これを繰り返していては永遠に時が過ぎてしまいかねませんので、どれほど気になる答えが返ってこようと、次で最後にしたいと思います」

「賢明な判断だね。して、何かな」

 

 日没まであとわずか。

 さて君の聞きたいこととは。

 

「この機構……『末日(まどろみ)』は、まだ使えるんですか?」

「ん……ん? まぁ、使えると思うよ? 今は必要な動力源が欠如しているからスリーブに入っているだけで、壊れてはいない。……けど、今の己の話を聞いて、何を経てそこへ辿り着いたんだい?」

「あなたが楽しみであるから知らなくていい、という話は、それはそれとして。私は『賢者』の娘として、この魔法世界を破滅させない責任感を覚えています。……エンジェさん、スヴェナさん、シャニアさん。そしてフェイブやコルリウムさんの名を聞いて、"名前には重要な意味がある"のだと勝手に考えていました。つまるところ、生命の次元階位上昇を行うには特別な名前を持っている必要がある、と」

「ああ……それは勘違いだね。そういう名前を持つ者が強い意思を獲得しやすいというだけだ」

「はい。ですから、私の未来視とこの機構の未来視による検算を行い、ノイズを未来と過去の双方向から挟み込んで、二か月と少し後に起きる何かを検証したいのです」

 

 ……んーと?

 つまり?

 

「あなたの損失は現状の魔法世界にとっての損失であると私は考えています。そこにあなたの意思は介在しません。私は私の勝手なエゴで、あなたを弱体化から護りたい。恐らくそれは、最終的に魔法世界を護る一助となるでしょうから。──つまるところ、私はあなたに弱体化してほしくないですし、魔法世界を生きる人々が樹殻に捕食されることも許容できないのです」

「……己に関わらない未来視なら問題なくできるのだろう? その先……己に何かがあったあとの世界も見られるのなら、樹殻の捕食の被害もわかるんじゃないかい?」

「はい。今の私には二つの未来が見えています。一つは、あなたと、あなたの周囲にいる人々が樹殻に立ち向かい、しかし一人、また一人と死していく未来。薄まったノイズ塊を護るようにして少年少女たちが散っていく様は破滅を思い起こさせます。そしてもう一つが──」

 

 イーリシャは一呼吸おいて。

 それを、口にした。

 

「──荒廃しきり、誰もいなくなった未来。あなたさえもいない。私も、何もかも……恐らくは樹殻のエネルギー略取によってすべてを吸い尽くされた未来です」

「それは……己の弱体化は必至である、と?」

「今のままでは、そうであると思います。……ですが、未来は変えられるので」

 

 未来は変えられる。

 良い言葉だね。

 

「第三の道を作ります。運命に潮流があるのだとしたら、私の力で別の流れを作ってみせます。そのために……この機構をお貸しください。死力を尽くして、あなたのわくわくを、期待を、潰してみせますので」

「──いいだろう、ELYSIA(イーリシャ)。楽園を名に持つ者よ。前身文明の『賢者』が明かせなかった人類の希望。それを見事紐解き、足掻いてみせよ。ただし忘れぬことだ。その機構はアルター・コルリウムという真意のわからぬものが作り上げたものなれば、知らずの内に呑まれるということもある。自己を強く保てよ、少女」

「ありがとうございます」

「それと」

 

 無駄に尊大ぶったあとで悪いけど。

 

「──期末テストはちゃんと受けることだ。ストレスからやさぐれて学生の身分になることを決めたのは君なのだから、そこはきっちりと、ね」

「……。一応これ世界の危機とかそういう類だと思うのですが……。ああ……いえ、わかりました。どうせ睡眠など必要ありませんし、昼間は学生を、夜に解析を行います。それでいいでしょう?」

「うん、いいよ」

 

 では、これにて。

 始祖ら五人のアンブロシウス観光ツアーは終了である。

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