魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
世界が鳴動している。
ただそれは次元的な話ではなく、樹殻的な話。
アレの活性化は留まる所を知らず、己の創り出した『UMBRELLA』が無ければ人間の捕食は既に起きていたことだろう。
立ち上がろうとする樹殻と。
前に進まんとする人類の……競争。
「カナビさんかアナさんにお伺いしたいのですが、実際のところ
「えっとですね──」
「んーとぉ」
今日も今日とて勉強会だ。少女A'の座学進捗率は未だ三十パーセントに満ちていない。
彼女は自分が何を苦手としているか、何を学ばなければならないのかさえ理解していない現状にある。
なお、これは彼女が不勉強であるから、というわけではなかったりする。度重なる襲撃によって起きた試験問題の難化。無論その一端を担ったのが少女A'なので自業自得ではあるのだけど、とかく今年は例年に比べて難しい、らしい。スヴェナ談だ。
加えて、本来であれば落第点となってもいいというか、入学後一度目の期末テスト且つ最下位クラスの生徒である以上、赤点を取ってからの追試が普通なのだとか。
ただ上述の素行問題のせいで少女A'に自主退学の危機が迫っていると言うだけの話。あまり興味のある話ではないけれど、一応擁護をするなら、彼女は頑張っている方、ということだ。
して、何がわかっていないのかわかっていない彼女のために、こうやって周囲が「自身であれば答えられること」を質問し、その答えで少女A'に勉強をさせる形を取っている。
特別体験入学生の五人は仮入学。つまり下級生という立ち位置ではあるものの、カナビとアナはそれぞれ
特に今のような他家には使えない魔法についての基礎知識を、基礎のキすら理解していない、という状態のつもりでシャニアが問う。この形式が多めだ。
シャニアは天才ではない。秀才というべき存在。だからこそ、イチから学ぶ感覚を知っている。
他が努力家ではないというわけではない。
エンジェとて勉学に秀ではする……のだけど、彼女は天才型。段階を飛ばす癖がある。
スヴェナは完全努力型の理論型だけど、だからこそ感覚型の少女A'とはそもそもの意見が合致せず、且つ彼女の場合は膨大な試行回数を正義としている。残り少ない期日には向かない。
生徒Cは同じ劣等生の立場ではあるものの、イレイアやシェリーの教えでメキメキと実力を上げつつある……し、勉学においては普通にできる方だ。また、彼も彼とて期末テストは頑張らなければならないので、少女A'の手伝いをしている場合ではない。
当初懸念されていたアンジーとカナビの座学に関しては一瞬でなんとかなった。まぁどれほど離れていようと始祖。理論さえ理解してしまえば詰め方はわかるという話で。
礼儀作法や社会情勢なども、彼女らは情報の取捨選択に長けているから──長けざるを得なかったから──問題ない。カナビに関しては思い込みが激しいため、そこのすり合わせは必要なようだけど。
イリスは一応力を貸してはいるものの、基本片手間だ。常に『
そして己は。
「……一応魔物知識なのですから、参加するべきでは?」
「
「ですが……その手持ち無沙汰加減を見ていると、イライラします、一応」
「理不尽だねェ」
やることがない。
なんせ少女A'の実技……コントロールの部分はエンジェとスヴェナが付きっ切りで教えているけれど、火力に関してはそこまで問題が無い。
というか弱点とか耐性とかガン無視で貫ける火力を有しているため、己が教える必要が無いというべきか。
教師Dのように夢幻空間を作る、というのが許されるのならともかく、口頭での知識伝授では限界があるからねェ。
そんな感じで、己はほとんどサボタージュ状態。訊かれたら答えるけれど、それ以外は何もしない。
熱量の問題も大きい。少女A'に開花の兆しはまだ見えないし、分家の特化血筋ということで残しておいたけれど、彼女は嫉妬や羨望の対象にならないため、血筋争いに巻き込まれ難い。彼女をその舞台に立たせるはずだったフレイマグナの家が襲撃事件のせいで委縮しているのがあまりにも痛手だ。
エンジェが悲しむから手伝っているし忠告も入れているけれど、それが無ければ簡単に見捨てていただろう。
実際、暇なんだよね。
……流石の己もここでちょっかいを……襲撃事件や暴走事件に類するような茶々をいれるつもりもない。
となると本格的に……。
「スヴェナ。己が必要になったら起こしてほしいかな」
「……。……
「おや、もうそんなことまで気付いているのか。それは目覚ましい成長だね」
「教える気はない、と」
「まぁね。……じゃ」
肉体を休眠状態へ移行し、精神体だけで抜け出す。
さて……どこへ行こうか。
始祖からの脱却を目指す貴族らを見にいく、というのもあまり好ましくない。血筋争いは好きだけど、野心による活性が見たいワケではないからね。
あとは存在抹消の里へ行くとか、『
もう一つ気になっている場所へ赴いてみるとしよう。これは楽しみを損なうものではないと信じているからね。
そこ。
以前にも訪れた、名前の知らない村落。
テリア・トーインタイムや二十年後のエンジェらしき人物が現れた場所。
既に死体は無い。腐敗した、というより魔物に食べられたのだろう。家屋もほとんどが倒壊しているし、畑などは見る影もない。
「……」
この村には特徴という特徴が無い。『ココダトレイルの大蜘蛛』に襲われただけの村。
だからこそ気になる。彼女……未来のエンジェは、なぜテリア・トーインタイムを引っ張ったのか。
いくら博愛主義の彼女といえど、知らない相手……しかも過去に死した誰かを愛するほどではない。であれば、エンジェがテリア・トーインタイムの存在を知ったきっかけが存在するはずだ。
たまたま未来でエンジェとテリア・トーインタイムが出会い、その悲惨な過去を聞き、たまたま有していた過去への移動技術……ナノマシンの縦軸挙動で彼女を過去に送ったというのなら、
あの時現れたテリア・トーインタイムは、「ここで兄が死んでいないとおかしい」「そうでなければ来た意味が無い」という旨の発言をしていた。
つまりテリア・トーインタイムは「兄の死後の時間軸」へわざわざ飛んできているのだ。
なぜ?
兄の死を確かめるため、だというのなら、あまりにも非効率だ。
兄の死の運命を変えるために来た方がまだ建設的だろう。尤もそれをしたところで分岐した未来が現れるだけ。彼女の居る未来が変わることはないのだけど。
つまり、テリア・トーインタイム、及びエンジェには、彼女の兄の死を確かめる必要性があった、ということ。
……『ココダトレイルの大蜘蛛』に食べられた妹。食べられる寸前だった兄。
妹が未来に引っ張られたことで、死しはしても食べられなかった兄。
それ以上の価値はあの青年に存在しない。現時点では、だ。
つまり未来で必要になった、ということ。
どうせもう分岐した未来の話……己に直接関係のあることには思えないけれど、暇だからね。
少し調査をしてみるのもアリ、という話。
さて、暇潰しで消耗しては本末転倒だ。
だから今この場で回収できる規模の改変を行う。
「創り変えるよ」
己はまだナノマシンの縦軸挙動に手を付けていない。あまりにも力業だったから、あんなものに頼るくらいなら、という思いがある。
ただ、やり方は理解している。よって──再現映像と縦軸挙動の模倣の合わせ技により、ここに一時的な「未来」を召喚することも可能だ。
とはいえ再現映像との組み合わせなので、縦軸挙動の模倣というより『
そうして現れたるは……真白の、ドーム型の施設、だった。
……随分と……たかだか二十年で進んだものだ。
前身文明のソレというより、「機械の時代」のものに近い……感じがある。
映像でしかないので己を阻むものはない。だから外壁を素通りして中へと入ってみれば……うん、やっぱり「機械の時代」の技術が近い。
というより……そのもの、かな?
中に居たのは一人の女性。見覚えのない女性だ。
ここに常駐している職員か何かなのだろう。
「──ああ、興味を失くすのは、少しばかり早いですよ」
「……薄々そんな気はしていたけれどね」
突然話し出した女性。
あり得ないことだ。あの村の現状から作り上げた再現映像が己に語り掛けてくる、など。
だけど……似た事例を一つだけ知っている。
「名を」
「纏・フェイブ」
「……成程、君が、か」
始祖Eの話に出てきた、騎士の一族に生まれるはずのなかった女性。
始祖Eの封印が消えたのか、それとも自力で抜け出したのか。なぜここにいるのか、どのようにして己を認識しているのか。
疑問は尽きないけれど……暇潰しにはあまりに丁度いい。
「何か用かな」
「知っての通り──あなたの眼前には今、四つの未来が並べられています」
「樹殻のエネルギー略取による荒廃の未来。己の予想外により己が弱体化するも人類は存続するという未来。イーリシャ・クライムドールが間に合う未来。そして……まぁ、詳細は知らないように努めているけれど、グリーフィーたちが用意しようとしている未来だね」
「ええ、素晴らしい理解です」
瀟洒な様子で拍手をする女性……纏・フェイブ。
敬意をこめて、女性Fと呼称しようか。
「これはあなたの暇潰しの一つを奪う話になりますが……エレメントリーの当主様や彼女の恩寵を受けていると勘違いしている少女。それらがいたのはイーリシャ・クライムドールが間に合った未来になります」
「酷いネタバレをするものだねェ」
「ええ、あまり長居しているとここの持ち主が帰ってきてしまいますので、手短に。さらにエレメントリーの始祖があなたと懇意になり、あなたの複製体が闊歩する未来は、あなたが弱体化する未来です。これについてはわかりきっていたことですね」
「まぁね」
感覚でわかることは二つ。
女性Fは……生命の次元階位上昇を経ている上に、フレデリックの加護を受けている。
ギリギリ人間だけど、その力はあの虚構の神に近いだろう。
「つまるところ、あなたが期待すべきは残された二つの未来だけ。樹殻の一人勝ちか、グリーフィー・ウォルチュグリファの惰性が勝つか。……けれど、ふふ。それはとっても──」
彼女は……とても、とても、とても凄惨な笑みを浮かべる。
「つまらないと、そうは思いませんか?」
理解する。
性質は確かに虚構の神に近いけれど、性格はあの虫に近い。
刹那的且つ横暴で暴虐。今が楽しければ後の面倒はどうでもよく、それによって被る様々の一切を考慮しない。自身へも他人へも、だ。
高潔な騎士などではない。あるいは現時点ではそうなのかもしれないけれど、時間経過によって変質した存在。
「そうかもしれない。仮にここで己が頷いたら、何か策でも用意してくれるのかい? それとも己に新たな未来を作り出せ、とでも言うのかな」
「──大昔。私の先祖、纏・エルグと纏・アルカの姉妹は……姉妹でありながら、全く別の性格をしていました。纏・アルカはあの特定されやすい時代ではあり得ないほどの大量殺人を犯した殺人鬼。証拠隠滅術も殺害速度も人智を超え──けれど"罅"には勝てなかった人間」
「……」
「しかし纏・アルカはその"罅"を姉のエルグに押し付け、生き延びました。その後アルカは肉体を保存し、電脳世界へと身を投じ……しかし、電脳世界の崩壊により覚醒。そのまま寿命で死に至る。誰もがそう思ったことでしょう。あるいは彼女自身さえも」
秘された過去を知るのは虚構の神の性質だ。
秘されているからこそ知れる。隠されているからこそわかる。
……にしては、語り口があまりにも「語り部」過ぎるけれど。
「しかし彼女は、ある奇蹟に出会います。ソレらは自分たちを『夢の一族』と名乗り、その生態を彼女に語りました。分裂によって増え続ける肉体。共有を起こす知性体。成長によって自らを惑星と同等とする存在」
「己がそれらを知らないとでも?」
「いいえ。ですが失念しておられるようなので、言葉を吐きたいだけです」
「失念……」
「『夢の一族』はこの惑星と自分たちを結び付けるために、元来自分たちが使えるものではない鎖……《茨》を自身と惑星に打ち込み、重力に打ち勝って外へ出てしまうことを防いでおりました。──それを見苦しく思った纏・アルカは彼女らに殺戮を施し、結果、相討ちという結果で全てに片をつけたのです。無論これはあなたも知る話。『夢の一族』も『アルター・コルリウム』も、元来発生するべきではなかった存在ですから……ある意味で纏・アルカはこの世の弁として機能したのでしょう。なんせ纏姓を持つ私達は、世界の尖兵。惑星の、ではありませんよ」
「……やっぱりフレデリックと同じか。彼も惑星の神でありながら、世の平定を司る尖兵を名乗っていたからね」
「ええ、素晴らしい理解です。──ではこのお話の中で、取り残されたものがありましたね。あなたが失念していたものです」
ぎゅるり、と。あるいはにょろりと。
まるで飼い馴らされた蛇のように……纏・フェイブの腕に絡みつくは、《茨》。
「こちらの未来ではこれが現れ、イーリシャ・クライムドールが間に合わせた未来を破壊し、荒廃させました。この《茨》はそちらの時点でも存在していたはずなのに、長らく姿を見せず……今になって現れ、世界を壊しました。──だからこそエレメントリーの当主様は少女に嘘を教え、彼女をアンカーとして送り届けたのです」
「……つまり、彼の体内に《茨》があった、と?」
「わかりませんわ。悲しいことに、私ではそれを確認する術はありませんから。──失念しておりましたでしょう? あの時あなたが使った少女の兄。その身体。
そう、いえば。
……少女Tが未来へ帰ったあと、己は肉体を投げ出して遠征課業をしていた皆のもとへ帰った。
どうせこの死体は魔物に食べられるだろうと考えて。
けれどもし、そうではなかったとしたら。
あの時己が読んだのは記憶だけ。肉体の中身に《茨》があったとしても気付かない。なんせ《茨》はあの虫が派生させた力であり、己の使うものではないから。
同属性でありながら別系統の、同起源でありながら別根源の力。異物感を覚えないソレの行方。
「もし、今のあなたが《茨》を手にしたのなら。あるいは樹殻が《茨》を取り込み、その力を得たのなら。はたまた『
「仮にどの未来になったとしても、君の未来に変わりは無いけれどね」
「いいえ、そんなことはありませんわ。なぜなら私は再現映像。確定した未来ではなく、未来を垣間見ているわけでもない。──私は今あなたが"創り変えた"サイキックの残滓。であればあなたと同じ未来へ私は進み得る。……ふふふ、勿論何もしない、という選択も問題ありません。私の言葉一つであなたがどうかなるとは思っておりませんので」
「であれば、再度問おうか。──何か用かな、纏・フェイブ」
何もする気が無く、何も期待していないというのなら。
何の用で声をかけたのか。
「言葉を吐くためです。──『夢の一族』。名前も貌も持たない彼女らのリーダー格。その存在は在り方がそうであったがために仮称メアリー・スーと呼ばれ、名乗っておりましたが……纏・アルカと相討ちになる寸前、彼女が"名前を付けてやる"と言葉を発したことで、名を得ます。──そう、『夢の一族』が得た、最初で最後の名前。それこそが」
「アリス、だろう?」
「──ふふ。ええ、そうです。では……あとはご自身でお考えなすってくださいませ。名に意味が無いのなら、ただその名を持つものが強い意思を持ち易いというだけ、という言葉が本心から出たものであるのなら、このような戯言は聞き流して……あら、家主が帰ってきてしまいましたね。それでは」
腕に絡みついた《茨》に、自身の手首にキスを落とし……その身の全てを《茨》に苛まれ、崩壊する女性F。
直後、複数の人影が部屋へと入ってきた。
『はぁ……誰よ、もう。特異点の研究所に侵入とか、頭沸いてるワケ? 金目のものも無ければ私達以外が理解できる資料も置いてないってのに……」
『世間からそう見えるのは仕方ないんじゃないかな……』
『テリア、エンジェは愚痴を吐きたいだけで、相談に乗ってほしいわけではないと思いますよ』
成熟した女性となったエンジェとシャニア、そしてテリア・トーインタイムだ。
彼女らは……部屋に入って、ぐぐ、と大きく伸びをして。
『そんな感じよ、ルリアン。久しぶりに会えて嬉しかったわ』
『私も、曲がりなりにも恋仲、ですからね。エンジェを挟んでですが。……ああ、先日はテリアがご迷惑をおかけしました。この時代の魔王、などと……既に罰は受けたあとですので、どうかご容赦を』
『だ、だってどう見ても化けも──』
『覗き見盗み見はここまで。──私、アンタを喪うのは悲しいから。自業自得とかいって受け入れてないで、しゃんとしなさい。わかったわね? ……それじゃ』
消える。
己は何もしていないのに、再現映像が途切れる。
少し、呆然として。
「……己が喪われるのは悲しい、か。……理解はできないけれど、善処はするよ」
それが君の愛なのかな、エンジェ。
だとしたら──抜け駆けが過ぎるけれど。
「アリス、ねェ」
色々考えることはあるけれど……仕方がない。
こんなところで油を売っていないで、彼女の教育に本腰をいれようか。
名前に意味はないよ。
でも、生まれてきた命には全て意味があるからね。それがあるいは、後天的に名前に意味を持たせることもあるのだろう。
しかし。
「……エンジェはなんだか順当な成長をしていたけれど……シャニアはなんかやさぐれたねェ。あとあのボディラインのきっちり出る服装は誰の趣味なのか……」
『テリアです。その方が未来っぽいとかで』
「普通に会話するのはやめようね。雰囲気が損なわれるから」
俄然楽しみにはなったよ、「その時」のこと。
新しい未来を作りたいだなんてとんでもない。
みんなが用意してくれた、運命の潮流が用意してくれたサプライズを今か今かと待ち構えているんだ。
忠告どうもありがとう。
でも、残り時間は無為に過ごさせてもらうよ、纏・フェイブ。