魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
アリス・フレイマグナはとてつもなく微妙な立ち位置にいる。
ゆえにフレイマグナの家へとその話が──本家の血を自らの血に混ぜるという話が転がり込んできた時、真っ先に賛同の意を示したのは仕方のない話。
なんせエレメントリーの本家……当時当主であったアンフィ・エレメントリーは理論型でありながら四属性複合魔法による最大火力を自在に操る魔法使いであったし、その妹のエンジェ・エレメントリーもまた複合魔法を手足のように使い、さらには段階飛ばしで実力を上げる感覚型の天才として知られていた。
また、彼女らの両親も感覚型の天才と言える力の持ち主であり……フレイマグナの家自体が感覚型ばかりが生まれる家であるが故に、「今以上」を目指すのならばそれしかないと、アリスの両親、祖父母、親戚……その全てが賛意を示したのである。
即ち、姉妹のどちらでも良いから本家筋の血を奪う、という単純な作戦に。
エンジェ・エレメントリーが誰に対しても分け隔てない性格であることは既に知れ渡っていた。それは貴族だけでなく、平民に対してもそうで、上級生であろうと関係なく友達を作る……隙だらけの存在であると。
その話を持ち掛けてきた
アリス・フレイマグナという、見てくれだけで言えば「保護されるべき幼気な少女」。
そして当時は噂でしかなかった『とんでもなく強い平民』。
この三要素があれば、どれかが失敗したとしてもエンジェ・エレメントリーを引き出せる。エンジェ・エレメントリーに失敗してもアンフィ・エレメントリーを引き摺り出せる。
犠牲は度外視。フレイマグナの一人娘であり、次期当主であったアリスさえも捨て駒。無論アリスにはそのことを知らせずに、そしてあたかも一族の命運を託す、かのような言葉を吐いて彼女を乗り気にさせて──それは敢行された。
一度目はアリスという疑似餌を追い立て、エンジェ・エレメントリーに保護させ、彼女という足手纏いを守った状態で、他の捨て駒による襲撃。ここでエンジェ・エレメントリーの血が手に入ればそれでいいし、失敗したとしてもアリスをエンジェ・エレメントリーの懐に入れることに成功すれば問題ない。
結果、次期当主ですらなかった単なる天才に対し、襲撃者が為す術もなく負けるという形で失敗に終わる。
二度目は『とんでもなく強い平民』に接触し、彼を騙くらかして魔物としたのち、エンジェ・エレメントリーに是を討伐、ないしは討伐できずの負傷を負わせての血の採取。
結果、アンフィ・エレメントリーを引き摺り出すことに成功しはしたものの、魔物の制御が不能となり、アンフィ・エレメントリーの殺害まで行った挙句、魔物は何者かによって消滅させられるという形に。
負傷で終わらせるつもりだったものを殺害までやってしまった。この時点で分家連合は退くに退けなくなり……過激派と革新派が手を取り、暴走を始める。
またこの二度の失敗でアリスは不要とされ、フレイマグナの家に居場所がなくなる。彼女が作戦失敗後に殺されなかったのは聖護魔導学園が寮制であった……それだけの理由だろう。もし彼女が家から通っていたのなら、エンジェ・エレメントリーによる保護などなんのその、隙をついてどこかで必ず殺されていた。
少なくとも分家連合の背後にいた組織……『
つまるところ、この時点でアリスは孤立無援だった。行く場所も帰る場所もない。
その後学園襲撃事件……過激派と革新派による大量殺戮の事件が起き、分家の企みが明るみとなり……アリスはエンジェの監視下に置かれることで、唯一の生存筋を掴む。
もしそれ以外の沙汰になっていたら、
全ては彼女が保身のために洗い浚いを吐いたが故の延命。エンジェ・エレメントリー及びエレメントリー本家はアリスを貴重な情報源とし、生かすことを選択したのである。
こうして彼女から襲撃事件の全容が明らかになり、深いところまで関わっていた分家には制裁が加えられ、フレイマグナの家も下手な動きができなくなった。アリスを暗殺しようと動こうものなら、フレイマグナの家そのものを監視しているエレメントリーの私兵が動く。
親子の情など冷え切っていて、アリスのことを家族だと思っているフレイマグナは一人たりとていない。裏切り者。それがアリス・フレイマグナという少女の現在。
幼稚な野望と稚拙な保身によって得た今の立ち位置は、誰に文句をいうことも、誰かに助けを求めることもできない位置でもある。
だから彼女は己の抱いていた全てを捨て、「馬鹿」になるしか道がなかった。「企てる」とか「欲望を見せる」とか、そういう「野心」を噛み殺したのである。
──奇しくもそれが「野心嫌い」のダルク・クロノミコナのターゲットから外される要因になったし、「馬鹿」になったことでエンジェ・エレメントリーをはじめとした現コミュニティ内にあっても爪弾きにされずに済んでいる。「馬鹿」で「素直」で「出来損ない」。
アリス・フレイマグナは「そう」でなければならない。
……故。
今行われている勉強会は、彼女にとってストレスの極みだった。
恐らく。
恐らく……彼女は、やる気になればできる。フレイマグナの次期当主であったのだから、最低限の教養はある。けれどそれを見せたら……少しでも「馬鹿ではない様子」を見せたら、殺される。その恐怖が彼女を縛り付け、結果、どれほど丁寧に教えを受けても「理解できない」を実践せざるを得なくなっている。
わかっているのにわからないフリをしている、のではなく。
わかろうとすればわかるけれど、わからないままにしている、という話だ。だから本質を見抜く特別体験入学生の五人も『とんでもなく強い平民さん』も本当の彼女に気付けない。無意識、深層心理に刻み込まれた「馬鹿でいなければ殺される」という恐怖は、今日も彼女の周囲に迷惑をかけ続ける。
だから──終わった、と思った。
「アリス、お前さ。なんか入園した時より馬鹿になってねぇ?」
「……燃やしていいですか?」
「待て待て待て。馬鹿にしてるように聞こえるかもしれねえけど、そうじゃねえんだよ。俺達が
ケニス・デルメルクラン。
何かと共に行動することの多いクラスメイトの言葉は正鵠を射ていた。
いや、彼自身の認識はズレているけれど、アリスの現状はまさにそうで。
周囲に人影はない。「お姉さま」ほど上手くは使えないけれど、風に依る感知にも誰も引っかかっていない。
この会話が聞こえる距離にいるのは真実アリスとケニスだけ。
「……」
「あー。……いやホント、馬鹿にしてるつもりはないんだ。俺がそうだからよ、心配で……っつーのも余計なお世話なんだろうけど」
鎌首をもたげるものがあった。
善意の塊。今現時点で
しかしすぐにその考えを捨てる。不穏な行動を取れば、エンジェがアリスの首を取る。身内には優しいと思われがちなエンジェだけど、その実「誰でも同じくらい好き」であるから、「誰に対しても同じくらい冷徹に対応できる」……あれはそういう人間だ。
アリスは知っている。エンジェに夢など見ていない。アレは怪物だ。そして彼女の隣にいる『彼』も。
天秤だった。もしここで是を返せば、ドリューズ・ネクロレアニーの診察を受けることになる。
彼女の魔法は無意識に作用するもの。人が変わった可能性、なんて名目で出された場合、この秘に秘しているアリスの素が漏れ出でてしまう可能性がある。
であればやはり否を返すべきだ。それも、ケニスが勘違いだったと思わせるような……的確な躱しを。
「余計なお世話というか、自覚が無いから馬鹿にされてる感じしかしないというか」
「自覚が無いなら尚更だろ。それで、ドリューズ先生の診断結果次第で……期末テストも何かしらの免除が貰えるかもしれねーぞ。何にもなかったらそん時はそん時で死に物狂いでがんばりゃ良いけど、何かあるのに頑張ってできなかった、じゃ報われねーだろ」
「結構です。アリスはできますから。全科目をそれぞれ得意な方に教えてもらっているんですから、できないはずがないです」
「できてねーから言ってんだけどな……」
ケニス・デルメルクラン。デルメルクランの家の中で、三男というポジションにあるためか、貴族にありがちな毒をほとんど有していない。
それが今は本当に邪魔だった。
彼は心の底からアリスを心配している。彼は自身のことさえ後回しにしてアリスのためを想っている。
それが、本当に、邪魔で。
「不要って言ったら不要なんです! もうやめてください!」
「……でもお前、このままだと本当に自主退学に……」
「それが馬鹿にしてるんじゃなくてなんだっていうんですか! アリスにはどこもおかしい所なんてありませんし、期末テストも大丈夫です! というかぶっちゃけしつこい!!」
「……そう、か。……わかった。もう……言わねえよ」
「ええ、そうしてください。ふん、ケニスだって教えを乞う側。自分のことだけ考えていたらいいのに……何をそんなに」
「んなもんお前に退学してほしくないからに決まってんだろーがよ」
これでいい。険悪になろうと、関係性が悪化しようと──仮に自主退学になってしまおうと。
"アリス・フレイマグナ"は馬鹿なままでいい。自主退学をして家に戻ろうと、エレメントリーの監視がある限りは殺されないはずだ。そう信じるしかない。
"アリス・フレイマグナ"は改善してはいけない。このまま、及第点を取ることのできない馬鹿のままでなければ──今度こそ「お姉さま」が見逃してくれない。
"アリス・フレイマグナ"は──。
「──成程ねェ。不真面目でも不勉強でもないのに覚えが悪いのはそういう理由だったんだね、"アリス・フレイマグナ"」
だから。
だから──終わったと、そう思ったのだ。
コツコツとステッキが地を突く音が響く。
「ああ、安心しなよ。ケニス・デルメルクランは既にここを去っている。君の頑なな様子を見た上に、中休みを告げる鐘を聞いたと誤認したからね」
「なん……ですか、『とんでもなく強い平民さん』」
怪物、エンジェ・エレメントリー。「お姉さま」の恋人にして……恐らく本当の怪物。
その『彼』が、アリスをじぃっと見ていた。内側の全てを見透かすように。
「いやぁ、素晴らしいことだよ。己もある助言が無ければ君を疑いもしなかった。それほどまでに完璧な自己暗示だった。今でさえ君は"ただの馬鹿"に、"救いようのない、開花の兆しも見えない無価値なる者"に見える」
「馬鹿にし過ぎじゃないですか、アリスのこと」
「確かにエンジェは君を殺せるだろうね。君が有能になれば。君がいつでも奮起できると知れば。君に──罪の意識があるのだと知れば」
「なんの話で──」
「罪の意識さえほとんど覚えていない、幼稚な精神性。エンジェは君をそう判断したからこそ監視下に置くだけに留めている。けれど君に一端の罪悪感があり、保身のためだけにその人格を作っているのだと知ったのなら、彼女は君に他の分家と同じ制裁を与えるだろう。彼女を騙していたことも加味すれば、その罪は死へと手を伸ばし得るかもしれない。本当に賢明だったよ、"アリス・フレイマグナ"」
ダメだ。
ケニス・デルメルクランのような疑念ではない。
この怪物は、アリスを見抜いている。
ならば、と。
「──だとしたら。貴方の言う全てが真実だとしたら、貴方は
「それが君の素か。いやはや、素晴らしいね、本当に」
「質問に答えてください」
取り繕うことをやめる。
風が教えてくれている。今、この場所は外界から隔絶されている。恐らくは目の前の怪物の仕業だろう。
「聞き返そう。──だとしたら、君はどうするんだい? 彼我の実力差を理解した上で己に挑み、敢え無く散るのかい?」
「……死ぬのは嫌です。ですから……私は私の持ち得る全てを貴方に差し出しましょう。慰み者にするでも、実験動物にするでも、お好きにどうぞ。殺されないのであれば全て飲みます」
アリスの答えに、『彼』は「ふむ」と呟き……杖をコツ、と突いた。
直後、彼の隣に"アリス・フレイマグナ"が現れる。
ゾッとする。
感覚でわかる。あれは、アリスだ。
「君から何を貰わずとも、己は君を創ることができる。慰み者にするのも実験動物にするのもこっちで充分だ。君は必要ないよ」
「……貴方は、何だ。人ではないとはわかっていましたが……そういった領域に無い……始祖すらも超えた、魔物……?」
「アブソリディエだ、"アリス・フレイマグナ"。その域ですらないよ、己は」
消える"アリス・フレイマグナ"。それほど気軽に作り、消し得るということだ。
なぜこんな怪物がこんな場所にいる。なぜこんな怪物があの「お姉さま」という怪物の恋仲を演じている。
この怪物は、アリスに、何を求める。
「己が君に求めるのは、とある実験に付き合ってほしい……ただそれだけだよ」
「……そんなもの、今作ってみせたような"アリス・フレイマグナ"にやらせればいいのでは?」
「いいや、君じゃないとダメなんだ」
怪物の提示する実験。ロクなものではないことは確実だ。
「先も述べましたが、私は死にたくありません」
「わかっているよ。死とは程遠い実験だ。なんせ君は、ただ眺めているだけでいいのだから」
「……」
「報酬は……そうだな。ケニス・デルメルクランから先程の疑念を消し去り、仮に期末テストの結果が悪かろうと自主退学にならないよう己が措置を図る。こんなところでどうだろう」
「魅力的な報酬は、取引材料が危険であることの表れです。ただ眺めているだけで、私に何が起きるのですか」
「ふふ。"アリス・フレイマグナ"であればなりふり構わず食い付くところだけど、やっぱり君は違うんだね」
古来より決まっている。
創作物の中にしか登場しない存在ではあるが──悪魔との取引には、決まって裏があるもの。
魅力的な報酬をちらつかせられたからといって──というところまで考えて、アリスは気付いた。
「……断ることが、できない」
「保身に関わると頭の回転が遅くなるねェ。そうだよ。ケニス・デルメルクランが君に疑念を抱く限り、彼はドリューズ・ネクロレアニーに相談をしに行くだろうし、他の皆にも似たような相談をするだろう。そして自主退学となった君に未来はない。エレメントリーの監視があるから大丈夫、だなんて楽観が過ぎようさ。なぜなら君にはまだ一つだけ、あの事件に関する情報で、話していないものがある。それがエンジェや他の誰かに漏れる前に消しておきたいと思うのは君の命を狙う者達にとって当然の思考だからね」
全て知られている。
退路がない。
断れば死あるのみ。頷けば生を掴み取れるが──その果てに何が待ち受けるのかわからない。
「……問います」
「いいよ」
「貴方は死者を蘇らせることができますか」
「ああ、可能だ」
「では──今から私は全力を以て貴方を殺しにかかります。それが貴方の採点基準を満たしたのなら、第三の選択肢として認めてくださいませんか」
「つまるところ、その戦闘の結果死することとなったとしても、蘇らせてほしい、と? その条件とするのならば、蘇らせた恩として、追加の実験に付き合ってもらうことになるけれど」
「構いません」
「なら、己も構わないよ。──ああ、先手は譲ってあげよう。周囲の被害も気にしなくていい。好きにやって、好きに玉砕するといいよ、"アリス・フレイマグナ"」
言葉を聞いて。
即座にアリスは──自らの左手、その親指を
驚きに目を剥く『彼』を余所に、噴き出す血液で中空へと文字を描いていくアリス。
「魔導文字……? ハ──勤勉も勤勉じゃないか! 第一次魔法大戦の際に失われた技術だよ、それは。……いや、歴史だけで見ればフレイマグナはその頃からある家。歴史書に技法が載っていてもおかしくはない、のかな」
「『其、滅天の使者。其、凍結の火炎。其、
環境、自陣、そして自身さえも破滅に追い込みかねない火力を出すものだ。
魔法使いは無意識のうちに魔力を温存する。それは当然、肉体に魔力が残っていなければ、大気中の魔力によって魔力中毒に陥ってしまう……平民と同じ貧弱な肉体になってしまうからであり、且つ使う魔法によっては自身をも灼いてしまうが為だ。
けれどこの魔法は、故意にその魔力を使用する。いいや、それ以上を使用する。
自滅犠牲増幅魔法──敵に甚大なる被害を与える代わりに、使用者は必ず死ぬとされるその魔法を、「死ぬことが嫌で嫌で仕方がない」筈のアリスが使うのだ。
「『
──その身に、血肉は残っていなかった。
髪の毛の一本に至るまで焔。臓器も神経も筋肉も骨も──全てが灼烙。
火種の無いその炎は、最早人ではなく……"精霊"とでも言うべき存在は、音を超える速度で『彼』へと肉迫し、その身の中心へ腕を突き入れる。
肉が熔ける。焼けるを通り越して、熔ける。さらにその炎腕は『彼』を貫いたその瞬間に弾け飛び、その肉体の全てを熔かす。
時間にして、コンマ三秒。
その刹那に一連の動作が起き、終わり──して、留まるモノを持ち得ない精霊は消散した。
「……へえ」
声が響く。熔け落ちたはずのそこから声が。
何を起点にか、『彼』の肉体は再構築され……なんでもなかったかのように、肉体が、存在が取り戻された。
「ARICE、ね。ALICEではなく。……良い収穫じゃないか」
必要ないのだろう。けれど彼が指をパチンと鳴らすと──炎の精霊となりて散り消えたはずのアリスが回帰する。肉体も衣服も魔力さえも。
再生したのではない。構築され直したのではない。
元に戻ったのだ。あの魔法を使う前の状態にまで。
その時との違いは、自身があの魔法を使ったという自己認識の有無だけ。
「……はぁっ……は、っは……はっ、はっ……」
長らく呼吸をしていなかったかのように大きく息をして、その後も短い呼気を続けるアリス。
ように、ではない。していなかったのだ。肉体を防護する魔力も、肺を機能させる魔力も魔法の励起に使用し、さらには肉体そのものをも魔力に変換する魔法で、彼女は確実に死んだ。一度完全な炎となった。
だから呼吸なんてできていなかったし、あの状態で意識があったかどうかも怪しい。
「言葉は交わせそうかい、"アリス・フレイマグナ"」
「……途切れ、途切れで、いいのなら」
「まぁ聞くだけでいいから、いいよ。採点基準は満たした。君は合格だ。己が行おうとしていた実験は別の誰かにやってもらうことにするよ」
「……」
「約束しよう。君の秘密は守るし、ケニス・デルメルクランから疑念を取り除く。加えて二度と同じ疑念が持てないよう細工もする。ケニス・デルメルクランだけでなく、"馬鹿なアリス・フレイマグナ"になる以前の君を知る者全てからそれを取り除いておこう。そして期末テストも……まぁ"馬鹿なアリス・フレイマグナ"なりの努力はしてもらうけど、絶対に達し得ない及第点を下回ったとしてもなんとかなるよう措置を取ろう」
「……ありがとう、ございます」
「ただし、君の記憶や発言には制限をかけさせてもらうよ。主に己に関することについて、だ」
「勿論、です。むしろ、ありがたい、です。……"馬鹿なアリス・フレイマグナ"は、知らなくて、知っていなくて、いいこと……なので」
ボロを出すことはあり得ないが、「お姉さま」という怪物の直観にも引っかからないようにしてくれるというのなら、それに越したことはない。
むしろ──。
「いいや。素の君を消すことはしない。君はいつまでも"馬鹿なアリス・フレイマグナ"で在り続けないとダメだ。そこを忘れることは、君にとってメリットに成り過ぎるからね」
「……わかりました」
「こんなところかな。──いやはや、しかししかし。どこへ消えたのかと思っていたら、まさかこんなところに居たとはね。確かに君は虚構だから……ああ、あまりにも的確だ。……あるいは君が捨て駒に選ばれたことも、そういう意図なのかもしれないけれど……今となってはわからない、か。ま、アリス・フレイマグナ。君がそのままソレを抑えつけていてくれるのなら、それが一番だ」
くるりと踵を返す『彼』。
それをしながら、未だ呼吸を整えるアリスに……『彼』は。
「学園の期末テストなんかより、こっちの方がそうだったのかもしれないねェ。……だとすると、他の皆にも……かな?
なんて言葉を吐いて、去っていく。
いつの間にか空間の断絶は解消され、アリスは一人中庭で。
「……やっぱりお姉さまの趣味は悪いと思います」
「へぇー? 誰の趣味が悪いって?」
「ひゃあ!?」
"馬鹿なアリス・フレイマグナ"に戻るのだった。