魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
そうしてようやく、期末テストが始まる。
内容は先述した通り、座学、実技、実戦の三区分。
座学には魔法理論、魔法知識、魔物知識、社会情勢、礼儀作法の五項目が。
実技には魔法の発動速度、基礎応用性、攻撃威力、耐久性能、汎用性能の五項目が。
実戦には同じ系譜の教師との実戦、夢幻空間における魔物との一対一形式、一対多形式、チームでの多対多形式での四項目が。
計十四個の試験と最後に精神鑑定……所謂面談のようなものを合わせての十五項目をして期末テストと呼ぶ。
テストは三日間に分けて行われ、成績が途中で発表されることはない──つまりどんなに酷かろうが最後までやらされるわけだ。
「……ま、アリスもケニスも、あとカナビも……頑張んなさいよ。私達が教えられることは全部詰め込んだつもりだから」
「いえあのエンジェ、そう神妙に言うと余計にプレッシャーが」
「一応助言をしておくと、三区分のどこかが基準点に満たなくとも、他が秀でていれば免除される、というケースがあったにはあったようなので、座学で躓いても実技と実戦を死ぬ気でやればいいと思います、一応」
「身体測定とかありゃチビは一発アウトだったなー、確かに」
「はぁ? ……ああ、いえ。そうですね、一応」
当然だけど、試験は個別で受ける。座学も魔法に依るカンニングができてしまう上、それを見抜く手段が限られていたり、教師の数と生徒の数の釣り合いが取れていないことなどから、同じ教室で試験を受けるのは全く別の試験問題を解いている者……つまり上級生になるわけだ。それならば目を掻い潜ってカンニングしても意味が無いからね。
ま、座学試験中に魔力の動きがあれば一発アウトなのでそこで無茶をする者はいないだろうけど……こうも厳しくされているということは、過去にいた、ということだろうねェ。
ちなみに
「うぅ……アリスは今までお姉さまたちと一緒にいられて楽しかったです……」
「始まる前から何言ってるのアリスちゃん。一緒に頑張って切り抜ければ、待ってるのは七日休み! そこ目指して全力前進!」
「そうは言いますけど、カナビは特別体験入学生じゃないですかぁ……うぅ……」
「ん、別に特別体験入学生だからって気は抜けないけど。ここでの点数は来年の入学審査に響くらしいし」
「聖護魔導学園以外の魔導学園は、正直言って質が悪いですからね。ここへの入園を学園側から拒否されたとなれば、家からの風当たりも強くなりますし」
ちょっと違うけど、公立落ちて私立行くみたいな……初めから私立狙いならいいんだけど、滑り止めでしかなかった場所に行く、というのは確かに風当たりも強くなるだろう。
──刻限を告げる鐘が鳴る。
「それじゃ。──三日後、無事皆がここにもう一度集まれるよう願っているよ」
「正確にはぁ、採点後に進退が決まるのでぇ、多分いなくなることが決まるのは七日休みの後なんじゃないですかねぇ」
「それはそれで厳しいものがあるわね……。自己採点で結果が悪かった生徒は、その鬱屈とした感情のまま七日休みを迎えることになるってことでしょ? 結構なシステムしてるわ……」
「アンジーちゃん? なぜ私を見るんですか? この形式にしたのはイレイア学園長か創設者イーリシャであって、ただの本家筋な私は関係ないと思いますが」
「そーねー」
実際、三百年前に潜入していた時もこの形式だったから……システムの考案者は多分。
「『先輩』まで、なんですか?」
「いやぁ? なんでもないよ、イリス。……それじゃ、もう一度言うけれど。頑張ろうじゃないか、それぞれね」
「おう!」
「ええ」
「はぁーい」
「はい!」
テスト、開始である。
と言っても己の受けるものに特筆すべき点はない。
座学で知らないことなど無いし、時折交ぜられている「知っていてはいけないこと」はちゃんと弾ける。
そう、この座学、そういうスパイ系統の行為への抜き打ち検査も含まれているのが厭らしい。その家の者しか答えられない問題、他の家の者が知っていてはいけない問題などをサラっと入れてくる。あからさま過ぎないそれらを解いてはいけない者が解いてしまった場合、最後の精神鑑定にて……みたいな話。
試験なのに解いてはいけない問題があるとか、確かに性格の悪い作りだよねェ、なんて。
「……それで、なぜこの部屋にいるんですか。私一応引き籠ってることになってるんですけど。あと普通に『平民初学生』さん試験教室にいるみたいですし」
「全部終わらせて肉体だけ置いてきたんだよ。応答は可能だから問題はないよ」
「答えになってない……」
学園長室。
一日かかる座学のテストを真面目に受けるわけがない。礼儀作法だけは半ば実践形式だから真面目にやる必要がある……というのは貴族の話で、己は免除されている。不要だからね。
というわけで、暇なのだ。暇だから遊びに来た。
「別に君、教頭フィニアンの死からはもう立ち直っているんだろう? そも、三百年間で何度も騎士の一族は入れ替わって君についているはずだし」
「だからと言って死に慣れるかは別の話ですし、答えてもくれませんし……。はぁ、まぁいいですけど」
イレイア・クライムドール。三百年を生きる
「いやなに、そろそろ追加分……教頭フィニアンの代わりが来てもおかしくない頃なのに、頑なに塞ぎ込んでいるのにはどういう理由があるのかな、と思ってね」
「……クライムドールと騎士の一族には、強固な信頼関係が必要になりますから。騎士の一族の代替わりは普通、その騎士が一定の年齢に達したところで、見習いという形で幼い騎士を従騎士としてつけ、その成長と共に信頼を育みます。ただ今回、フィニアンはそれをする前に亡くなってしまったので……」
「誰の息もかかっていない騎士の一族の子供を選別中、ということか」
「未来視で、ですけどね。……正直私は……普通のクライムドールよりかは頑丈なので、そろそろ見捨ててくれてもいいのですけど」
「騎士の一族がむしろ大声を上げてつかせたがっている、だろう?」
「はい。気持ちはわからないでもないですし、私当主なので当然と言えば当然ですし……でも面倒臭くって……」
騎士の一族。イリスとの会話で知った、最高品質の受け皿体質。
少年F、フィリップ君……じゃなかった、フェルナンド君から始まったそれは、「聖護星見に仕えること」を信仰にしている節があるらしい。それこそがレゾンデートルであると。
その狂信っぷりは当の聖護星見がドン引きしても留まらないほど。ま、以前あった己と教頭Fとの小競り合い……当然のように剣を向け、当然のように殺そうとしてきた時点でお察しというやつだ。
「誰の息もかかっていない、という条件は満たしていても、暴走しやすいとか狂信的妄信的過ぎて面倒臭そうとか……理想の騎士になる子がほとんどいなくて」
「高望みをし過ぎなんじゃないかな」
「そりゃしますよ。私の騎士になるってことは必然この学園の教頭になるということ。そんな人間の人格が破綻していたら……私の責任です」
「あー、まぁね」
「それでいて、フィニアンには悪い言い方になりますけど……弱くてもいけない、というのが。あなたのせいで未来視にノイズがかかる現状で、最低限ではなく一定水準に達した実力を持っている、ないしは身に付ける未来を有している子を選別しなければならないというのが……本当に」
成程。
表向きは聖護魔導学園の防衛強化のために引き籠っていたとされているイレイアだけど、その実この選定に頭を悩ませていただけか。
そして、本来であればパパっと決まる選定も、己のせいで見得ない部分が多く、難航している、と。
うん。頑張れ。
「いっそのこと……あなたがなってくれたら……」
「どう考えても騎士の一族から大抗議が来るだろうし、己が教頭なんてできる性質に見えているのなら一度解剖か何かを受けた方が良いし」
「冗談ですよ冗談。……はぁ。フィニアンを選んだ時にも思いましたけど、騎士の一族の質も年々落ちてきていて……フィニアンは唯一光るもののある騎士だっただけに、色々……」
「質が落ちてきている、というのは……実力の話かい?」
「総合的に、ですかね。実力も性格も、騎士たらんとして騎士である者が減ってきています。ま、血筋に縛られない生き方ができるのならそれは幸せなことなんでしょうけど、そんな性格の子供を大人たちが狂信的に育てるせいで、言動と性格がちぐはぐ、あるいはゼロか百しかない騎士が生まれる、と」
本当に苦労しているらしい。
「情報源は始祖イーリシャである、という前置きをした上で問うけれど、纏・フェイブはダメなのかい?」
「……それ……秘中の秘、本家筋でも知らない者もいる封印者ですよ? いつの間に始祖とそんなに仲良く……って、ああ、そういえば今いるんでしたっけ、始祖五人」
「真面目に期末テストを受けているよ」
「ほんっとうに……意味が分からない。なんなんですかね始祖ってもう……そりゃ簡単でしょうよあなた達が作った世界の常識と理論なんだから。……彼女らのせいで上がる平均点に追い縋れなかった生徒たちが可哀想でなりませんよ……」
「平均点が何か関係するのかい?」
「成績には別に響きませんけど、単純に平均点を下回った、という事実は心に影を落とすものでしょう。かといってあの五人だけ除外して考える、なんてことをしたら……」
「まぁ、他方から色んな種類のクレームが入るだろうねェ」
うがああああ、と頭を抱えて奇声を発するイレイア。
陣地内だからどんなに叫んでも奇行をしても平気だとはいえ、とても令嬢と名のつく姿には見えないねェ。
「それで、纏・フェイブはダメなのかい」
「ああ話戻るんだ……。……。……まぁ、ダメですね。制御しきれませんし」
ふぅん。
けれど再現映像では封印を解かれていた。さてじゃあ、誰が解いたのか。あるいはイーリシャが間に合った未来にならなければ女性Fも出てこないのか。
「……うー。なんで……どの子も二か月後から先の未来が曖昧に……」
「世界が激変するようなことが起きるからだろうねェ」
「何か知っているんですか?」
「いいや。知らないように努めているよ。こればかりはネタバレを食らいたくなくてね」
大体の察しはつき始めているけれど、それでも楽しみにしているんだ。
曰く、未来は変えられる、らしいからねェ。
「……話ぶった切りますけど、私からも一つ質問いいですか?」
「ああ。なにかな」
「これは『平民初学生』さんへ、ではなく『最上級生』さんへの質問なんですけど……三百年前、あなたが身分を偽って入園していた時、確かクライムドールの系譜を名乗っていましたよね。あれってなぜなぜだったんですか?」
おや、思った以上になんでもない疑問だね。
もっと核心を突くような何かかと思っていたよ。
「『
「分家同士でそんないがみ合いが? ……当時の私は本当にただの子供だったのでアレですけど……クライムドール同士でいがみ合うとか、なんて無駄な時間を……」
「アドクロス程とはいかないまでも、未来視に長けない家はそれなりにあったからねェ。代わりに陣地を誇る分家にとっては、体内で発生させる陣地の極致とも言えるハルスマクリアに劣等感を抱く者も多かったんだよ」
エドウィンはヒールクラウンの彼よりも死に難いからね。
多分己の最大火力でも死なないんじゃないかな。ナノマシンを停止させれば簡単に殺せるけど。
「……なんというか、無駄なこと好きですよね、分家の人達って」
「危ない発言だねェ」
「陣地内ですから」
同意はするけどね。
同時に、そうなるようにしたのは己だから……うん、ノーコメントかな。
「……『最上級生』さん。私って寿命、来るんですか?」
「唐突だね」
「や、ちょっと……。始祖が不老であることは知っていますから、独りになることはないってわかってますけど……三百年前の……クラスメイトとか友達とかに思いを馳せていたら、なんだかセンチメンタルな気分になっちゃって」
「血を吸う限りは来ないよ。ただし吸わないと」
「魔物に、ですもんね。……じゃあ私、ずっと学園長のままかなぁ」
「嫌なのかい?」
「嫌……ではないですよ。この仕事好きですし。ただほら、今まさに始祖やら貴方やらが"全く別の生き方"を楽しんでいるのを見ると……私は一生このままなのかなぁ、とか、その、色々思うところがありまして」
あー……まぁ、そうか。
そういう悩みはあるだろうね。イーリシャがストレスで学生気分を味わうくらいだ、イレイアにも大体同じことが言えるだろう。
「……君には業務があるから今後ずっと、というのは色々難しいだろうけど、期末テスト後の七日休み……少し偽装をかけて、己達のグループに交ってみるかい?」
「……」
「勿論そこには特別体験入学生こと始祖らもいるし、何も知らない生徒たちもいる。それを踏まえて楽しめるのなら、だけど」
「……」
まぁ、なんというか。
一休みくらいあってもいいんじゃないかな、って。
学生生活は三百年前に経験済みだろうけど、そこからずっと学園長をしてきた、というのは……堅苦しく息苦しかっただろうし。
「……無理です」
「どうして?」
「『
「ああ、お礼はいいよ。これはただの労いだから」
「労い……? ……今の所怪しさしかないんですけど」
「遥か昔の同僚、及び今己が保護している者達から親愛を込めて『詐欺師』と呼ばれ続けているだけのことはあるつもりだよ」
「それ多分罵倒の意しか込められていないと思いますけど……」
失礼だな。これでも一応業績トップだったんだよ。
どんな商品でも必ず売りつけて帰ってくるんだ、『COMPANY』には一番貢献していた自信がある。なら『詐欺師』は良い意味合いだろう?
「たし……かに……別に七日休み中は……私が採点するわけでもありませんし……ぶっちゃけかなり暇ですし……学園内から生徒がいなくなるから襲撃も気にしなくてよくなりますし……」
「大サービスで、採点に残る教師陣も己が守ってあげよう」
「怪しい! 絶対裏がある! 『最上級生』さんがそんなに優しいわけ……まさか偽物!?」
いやぁ、なに。
もし本当に己が弱体化なんてものをするのであれば、こういったサービスもできなくなるかもしれないからねェ。
今の内に使っておこう、みたいなさ。
「どれだけ怪しまれても己はどうでもいいけれど、返事は?」
「……。……。……~~~~~っ。……~~~~、~~~~……、……ます」
「うん?」
「お願いします……お休みください!! 学生気分というか、子供気分味わわせてください!!」
「素直で良いね。じゃ、期末テスト期間中に仮の身分やら何やらを用意しておくといい。流石に特別体験入学生では通らないだろうから、別のをね」
「……『最上級生』さんのグループ、妙に鋭い子多いですし、詰めに詰めないとボロが出そうですね……。わかりました、考えておきます」
して……丁度良く鐘が鳴る。
タイムキープは完璧だ。イレイアの熟考時間まで計算に入れて正解だったね。
「ああ、一応期末テスト期間中だからね。教師にも生徒にも、浮かれた姿なんてものを見せないように」
「大丈夫です私この部屋出ないので」
「それはそれでどうかと思うけれど……まぁ好きにしたらいいさ」
あるいは……本当に最後の休み時間になるかもしれないのだから。
そうして、期末テストの一日目が終わる。
勉強会は行われない。それぞれが寮へ直帰し、英気を養う。
それほど疲れるからね。
「それで、"馬鹿なアリス・フレイマグナ"としての成果はどんな感じかな」
「……あの。ここ一応女子寮で。あとあんまりそれに触れてほしくなくて」
「己は人間に性的欲求を抱くことはないから問題ないよ。加えて異次相にもしてある。何も問題はない」
「あると思いますけど……はぁ。……私も休みたいので、手短に」
「うん」
少女A'は……冷ややかに、冷静に。
「五百点満点中、百十六点と言ったところでしょうかね。落第必至です」
「いい具合の取り方をしたねェ。一番高いものと低いものは?」
「高いのは礼儀作法、低いのはそれ以外。特に魔法理論と社会情勢はかなり調節しました」
「ふむふむ。……うん、ありがとう」
「これ何のヒアリングなんですか? 私の自主退学に関連することだとは理解していますが」
「色々ね、やることがあるんだ。明日と明後日も聞きにくるから、ちゃんと覚えておいてほしいかな。特に実技と実戦は点数評価が判り難いからねェ」
「……よくわかりませんが、わかりました。……ちなみに聞いても意味が無いとは思っていますが、『とんでもなく強い平民さん』の点数は?」
「解いてはいけない問題以外オール正解の、解いてはいけない問題への指摘込みだから、普通に五百点なんじゃないかな」
うげぇ、という顔をする少女A'。
なんだろう。
「……平民に点数負けた、って。一部の馬鹿が暴走しそうですね。"馬鹿なアリス・フレイマグナ"も担ぎ上げられそうで面倒です」
「ああ……。……うん、ご愁傷様。"馬鹿なアリス・フレイマグナ"は乗せられて調子に乗って、痛い目を見ることになりそうだね。出来るだけ早くエンジェが諫めてくれることを願っておくといいよ」
「殺されないよう立ち回りはしますけど……どうしようもなくなったら助けててくれたり……」
「君を蘇らせた追加分の実験もしていないのに、まだ求めるのかい?」
「それが生存のためなれば」
いいね、潔い。
「考えておくよ」
「ありがとうございます。……それじゃー、アリスは寝るので。実際本当にへとへとで、明日の実技に影響が出ちゃうので、出てってください。これ以上アリスの睡眠時間を削るっていうんなら、お姉さまに『とんでもなく強い平民さん』が女子寮へ来て不埒なことをしたって告げ口しますよ!」
「構わないよ? エンジェは特に何も言わないだろうし」
「……馬鹿ップルめ」
"馬鹿なアリス・フレイマグナ"から漏れてるよ中身が。
それじゃ、ま。
「おやすみ、"馬鹿なアリス・フレイマグナ"」
「あんまり馬鹿馬鹿連呼しないでくれますか怪物さん」
「善処するよ」
良い夢を。