魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
七日休み。テスト休み、採点休みなんて呼ばれることのあるこの七日間は、文字通り期末テスト後に教師が採点を行うための休息期間になる。
聖護魔導学園は……というかどこの学園もそうだけど、生徒の数に対して教師の数が圧倒的に足りていない。だから、レトロな感じで残業をしてまで採点を、なんてしていては一切間に合わないし、実技の結果はその家その家の者にしかわからない部分や評価軸が違うことなどがあるため、教師陣での話し合いも含めて学園全体が休む。
教師陣はお疲れ様。生徒は期末テストお疲れ様、という話だね。
さて、コルリウムの手下の残党、『
なんなら『快晴の雷』こと樹殻の枝も降りやんではいないし、少女A'のこともある、にはあるのだけど。
どちらも「対処済み」で「保留にする」を選択したがために、考慮しなくていい。
よって、この世界の危機的状況にありながら──己達はこの七日休みを謳歌することにしているのである。
「『一応平民の人』。イリスさんから伝言が」
「ああ、行かない、だろう? わかってはいたけどね、やっぱりやりたいことを優先したか」
遊びに出かける。少女A'のことを保留にしたがために多少のヒリつきはあるものの、エンジェはその辺割り切れるタイプだ。少女A'側がどうかは知らないけど。
で、そうなったからにはみんなで……「いつものメンバー」で遊びに行こう、という話になっていた。けれど。
「わかっていたんですか。……一応、何をするか聞いてもよろしいものなんですか? 始祖の仕事、とかですか」
「直球だねェ。もう全てわかっている感じだ」
「まぁ、五人の失踪時期と言動と……あと、あまり感覚、という言葉は使いたくないのですが、一応……魔力の波長に似ていて、けれど違うものが……アンジェリカ様と似ていたので」
お。いやホント、着実に、だね。
それは魔力じゃなく魂を感じ取れている証拠だ。彼女の生命の次元階位も着々と上がっていっているらしい。
「始祖の仕事ではないよ。というか、あの五人はしばらくは始祖に戻らないつもりらしい。君が知っているかどうかは知らないけれど、世間は今──」
「始祖からの脱却運動、のことなら頭に入っています、一応」
「勤勉だね。そう、それもあって、色々面倒になったみたいでね。しばらくは学生生活を謳歌すると共に、今まで"始祖として"を求められていたせいでできなかったことをやりたい、とか」
「……そうですか。なら、彼女が……アナさんが学生である内は、私も襲撃はやめます。彼女が始祖ではないというのなら、復讐対象にはなりませんから、一応」
「ああ、諦めてなかったんだ。彼女相当死に難いと思うけれど、殺す術は見つけているのかい?」
「今のところ、三十七通りほど。通じなければ別の策を、というつもりで秘策を溜め込んでいる状態です、一応」
エンジェも博愛主義というおかしさを有しているけれど、スヴェナもそれなりにだよねェ。
やっぱりこの姉妹は……うん。まぁあの両親もちょっと入っていたし、いちいち驚くの面倒だからいいんだけど。
「それで、イリスさんは何を? 具体的なことは教えていただけない、と?」
「天上の地で調べ物だそうだよ。少し前に五人を天上の地へ連れていったら、懐かしい懐かしいと好評でね。中でもイリスはある施設に入り浸っているというか、なんなら勉強会が終わったあとも入り浸るくらいには気に入っているというか」
「へえ……。まぁ、クライムドールの始祖は他の始祖と比べてもストレスなど高いでしょうから、羽を伸ばしても問題ないのでしょう、一応」
「ん、なんで君がそんなこと知ってるんだい」
「生前……私が単なる次期当主であったときは、社交界で散々聞いていましたよ。やれ今年の不作は予知できていたはずだ、やれ魔物の襲撃などわかっていたはずなのに知らせなかった、とかなんとか。未来視というものがどういうものであるか、そしてどれほどの頻度、正確性を以て行い得るのか私にはわかりませんが、これを五千年もの間苦情として受け入れ続けるのは……当然ストレスでしょう、一応。というか本当に」
……うん。いや、彼女に未来視を授けた身ではあるのだけど、ストレスの溜まり具合はとんでもなかったからね。
発狂できないようデザインしたし、ストレスで体調不良を起こすこともないよう調整してあったからなんでもなく過ごせた……過ごせてしまっていたけれど、これが普通の人間なら精神疲弊で壊れていたことだろう。
とはいえ今も『
仮に何事もなくすべてが終わったら……懸念という懸念が全て無くなったら、彼女はちゃんと休めるのだろうか。……
ああいう手合いは仕事をするその手を掴んで無理矢理引っ張って、強制的に遊ばせるような存在が必要だよねェ。
「それで、ただ伝言を伝えに来ただけかい?」
「いえ、エンジェたちと遊びの……小旅行用の準備中だったのですが、少し特殊な風と空間の複合検知に妙なものがひっかかりまして。一応、天上の地で戦った機構と似ていたため、『一応平民の人』に伝えておくべきかと思いましたので」
「さらっと凄いことを言ったね君。そして良い判断だ、案内してくれるかい」
「はい」
風と空間の複合検知。
……それ、この五千年間でできた人間いないよ。風の感知と空間の検知を連続して使う、ということならできる者がいた。存在抹消の里にも少ないけれどいるはずだ。
だけど、全く同時に……というか一つの魔法として使った、ということだろう?
つまり、己がデザインしたナノマシンの制限の壁をどうにかして取っ払った、ということだ。
もしそれが……それを意識的にすべてのナノマシンに対して行い得るなら、彼女は前身文明をも越えられるだろう。
血中成分や体組織の九割をナノマシンに代替したのが強化人間であるのだから、この時代の人間はそれに近しいポテンシャルを有している。ただそんな強化人間でもナノマシンを手足のように操れた、というわけではなかった。装置だったり機構だったり、脳波を使ったものでも上手く動かせる者は極僅かで、というかできたとしても端末を使った方が効率良いというような技術レベルで終わった前身文明だ。
それを……魔法という形で、思い描くままにナノマシンを動かせるのなら、それは最早サイキックの使えない己、くらいの位置まで昇りつめられる。
多分エンジェも同じ位置に来ることはできるだろうから、姉妹揃って魔王もあり得るね。
「
開かれるは次元の門。それももうサラリと使うようになったけれど、充分に高等魔法……まぁいいけどさ。
そうして入った場所は、海の底だった。
ただ風に依る結界が張られていて、海水の侵入を拒んでいる。
中心にあったものは。
「『LINE MAKER』? ……なんでこんなところに」
「やはり、天上の地由来のものですか?」
「ん、ああ。昔の人間……というか、天上の地を作った人間より更に前の人間、あるいは天上の地の技術受け入れを拒否した国の人間は、電気、というものを使っていてね」
海中を這いずり回る蛇。それが『LINE MAKER』という機構だ。
腹の部分に炉を持ち、そこからさまざまな鉱石を用いた線を敷くことができる。
「でん、き?」
「まぁ魔力に激しく劣るエネルギーだと思ってくれていいよ。で、それはこういう金属中を通ることしかできなかったんだ。ただ、普通の人間は海底での作業ができない。だからこういう機構にそれを行わせて、エネルギーの通り道を作っていた、という話だよ」
「……? 天上の地の技術受け入れを拒否したのに、この機構を使っていたのですか? これ、天上の地の技術なのでは?」
「いいところを突くね。当時の人間にそれを言えば苦虫を噛み潰したような顔になっていたことだろう。──つまりまぁ、仕方がないことは仕方がないというか、実際の作業をする人々は便利な機構を使うけれど、機構嫌いのお上には黙って……という」
「ああ……。前身文明というのは、思ったより貴族と似た社会構造をしていたのですね。なんだか親近感が湧きました、一応」
「権力者なんてどの時代もくだらないプライドにまみれているものだよ」
……しかし。
海底ケーブルを敷く『LINE MAKER』が……動力源を失った状態で見つかって、少し前に海底ケーブルを断つ『DOUBLE SCISSORS』がこれまた海底で見つかって。
これもコルリウムの手下が未来送りに……? けど『LINE MAKER』は『DOUBLE SCISSORS』より攻撃力を持っていないというか、わざわざ未来送りにするほどの機能を持っていないんだけどな。むしろ『DOUBLE SCISSORS』を邪魔に思うなら、『LINE MAKER』は有用に使えたんじゃないかと思うんだけど……。
「この先、似たようなものを見つけたら逐一報告をくれると助かるね」
「可能な限りは協力します。危ないものである可能性も捨てきれませんので。……一応聞きますが、これに危険性は?」
「無いよ。自ら動力を探すことさえできないもの。予めプログラミング……ああ、設定されたルートを通って帰ってくるしかできない機構だから、危険性のキの字もない。指定ルート上に生物がいたり障害物があったりした場合は排除せずに停止するから、本当に危険性ゼロだ」
だから、コルリウムの手下にぶつかりそうになって、とかいう話でもないはずだ。
そもそも『DOUBLE SCISSORS』もそうだけど、どっちも海底で活動をする機構。どこで遭遇するんだ、そんなものと。
「これも一応聞きますが、自身の判断で危険性を確認することは可能ですか?」
「いや……見た目が無害でも強力な機能を持つものや、魔力を吸収してくる手合いもいるからねェ。自己判断は止めておいた方が良いけど……逐一報告が面倒臭いかい?」
「というより、四六時中あなたと共にいるわけでもないことや、遠征先で出会ってしまった場合の対処がわからないと困りますから、一応。魔物であるのなら倒せばいいだけですが、機構というのは……そこまで多くを相手にしたわけではありませんが、大体が倒すと面倒なことになるじゃないですか」
「ああ、ビープ音が響き渡ったり、自爆したりね」
「はい」
己の企業……『COMPANY』の機構も結構そういうの多かったね。研究者A'''''ことMrs.アブラグリスはそっち派閥ではなく活動中に危険性を増させていくタイプだったけど、他の同僚には停止後に危険性を増すものを作る者がいた。
曰く、どんな機械もロボットとしての本懐──即ち緊急手段としての自爆機構を兼ね備えていなければならない! とか言って。
売りつけるのは己なんだから、そういう買い手が躊躇いを覚えるような機能はつけないでほしかったんだけど。
「……今、色々勉強しているだろう? それでもまだ学ぶ余地があるというのなら、ある程度の機構が記載された図鑑を渡すこともできるけれど」
「是非お願いします。知識の収集は、仮に使わずともどこかへ影響するもの。最早見ることのなくなった機構であっても知っておきたいですし、魔法に関連するインスピレーションを得られるかもしれませんし」
「想像以上の食い付きだね。……わかったよ、今度用意しておく」
記載されているナノマシン関連の文言を魔力関係に置換しないといけないから……適当に何か組むのもアリかなぁ。手作業は面倒だし、そんなことにコストを支払いたくはないし。
「……」
「ん、どうしたんだい、己をじっと見つめる、なんて」
「いえ……なんだか最近丸くなったといいますか、エンジェのために人間を勉強している、ということだけでなく……怪物性が薄れましたよね、『一応平民の人』」
「ああ、それあの五人にも言われたねェ。……うーん、どうなんだろうね。己は己の目的以外の部分ではすべてが無価値だから、そういう意味では染まりやすいのかもしれない。即ち、周囲にいる者達に、ね」
血筋争い、とか。
人間というものへの理解、とか。
寄生生物としての本懐、とか。
そういう部分をして「怪物性」と言っているのなら、確かに己は最近丸くなっている……というよりそれを露出させなくなってきているだろう。
だってそれの露出はエンジェとの愛の育みに邪魔だからね。
「……一応、これは口癖ではなく……本当に一応の話なのですが」
「君が己をも殺そうとしていた、という話かい?」
「はい。アンジェリカ様にも相談をしましたし、あなたにも直接告げたことがありましたが……今はもうその気持ちが薄まってきています。……エンジェとあなたの関係性も、複雑な心境ではありますが、応援したいと思っていますし……私に二度目の生をくれたあなたを嫌う理由が……一応、減ったといいますか、無くなったといいますか」
「そうかい」
「そして……その、逆に、というと……虫のいい話なのですが……存在抹消の里の方々とお話をしている中で、たとえどのような感情を抱いていたのだとしても、一応、一度くらいの恩返しはしておいた方が良いと……そういう話になりまして。私自身も、そういえば確かに、思うようになりまして……一応」
……存在抹消の里。
あそこ、色々な人間がいるからなぁ。己に恩義を抱いている者、信仰している者、蛇蝎の如く嫌っている者、無関心である者。
付き合う人間は考えた方が良いよ、本当に。君まで『お館様』とか言い出したら流石の己も距離を置くからね。
「君達が用意できるもので、己が欲しいもの。そんなものがあると本当に思うのかい?」
「まさに……それです。私は恩返しをするべきだと思いました。ですが、あなたに何をすれば恩返しとなるのか、そしてあなたが何を欲しているのかが全く分からなくて」
「だろうねェ。エンジェでもわからないんじゃないかな、その辺」
というか……無いよ。血筋争いが好き、とは言っているけれど、じゃあスヴェナが用意した血筋争いの劇です! みたいなものを見せられたところで何とも思わないし。
存在抹消の里を作った理由も、あれを維持させている理由も全く別のところにある。己は善意であそこを作ったわけではないのだから、恩返しもなにも。というか己に恩返しとか、本当に頭がおかしくなったんじゃないかと心配するよ。ガエンを見習いなよ、彼ってば状況的にはスヴェナ以上に己へ恩義を覚えておかしくない状態で第二の生を手に入れたのに、ずーっと『詐欺師』呼びだよ?
あれは己の名前を呼べているつもりで呼んでいない、じゃなくて、普通に「詐欺師」って発音してるからね。アンドリュース・ウォーラークラフト。口調や雰囲気が己に似ていることを悩んでいるようだけど、いやはや失礼極まりないよね。でもそういう態度でいいよ、そういう態度を取られるつもりでこっちもやってるんだから。
「……そうですね、ここは一応あの子の姉として……好物など」
「ラトゥンのパイだろ。博愛主義の彼女だけど、味の好みは普通にあるようだからね。前に話してくれたよ」
「う……では飲み物は──」
「柑橘系ならなんでも好きと言っていたけれど、それ以上の情報があるのかい?」
「ぁ、いえ……そ……えー、……色、とか」
「寒色系が好みらしいね。けれど白黒はそこまで好きじゃないとか。ただ自身に似合う色は暖色系だから、そこをどうにかしたい、とか言っていたよ」
「……詳しすぎでは?」
「あのねェ、君の口癖を借りるけれど、己とエンジェは一応恋仲で、どうにかして互いを愛そうと頑張っているところなんだよ。だからそういう好みの部分とか嗜好とかは初めのころに擦り合わせたよ。世の中の男女カップルがやっていることをとりあえずやってみよう、ってね」
知らないことが一切無いとは言わないし、互いに嫌っている部分、あるいは隠していることも多々あるけれど、とりあえず互いが好ましいもの、喜ぶもの、嬉しいと感じるものに関する擦り合わせは終わっている。
……まぁ己にそういう嗜好が無すぎてエンジェも拗ねていたけれど。仕方がないじゃないか、そういう嗜好を持つのは人間の特権というか、そういう嗜好を持つ人間が羨ましいというか。それこそMrs.アブラグリスのように、ね。
「あまり……こういう話題は出さないのですが、こう……異性の露出に関して興味を抱くとかは」
「あると思うのかい? というか、異性って。君、己が人間でないこと知っているだろう」
「……あなたの種族には性別がないのですか?」
「無いよ。分裂で増えるんだ、そんなものはない。だから……実を言うと人間の美醜に関しても完全に理解しているわけではないんだよね。今まで美しいとされてきたものと合致する部分を評価しているだけというか。そういう点も相俟って、嗜好というものに著しい欠損があると言えるだろう」
欠損というか、元から無いから欠損に見えるだけというか。
ただ……愛を覚えたフリスやアイリポデパルのように強烈な好みを持つ個体も生まれるから、何が違うのかというと微妙なところだよねェ。その辺はそれぞれの個体がそれぞれに模索するべき場所だから……いつか己にもそういう嗜好が生まれる日が来るのかもしれない。ただ現状無いというだけで。
「嬉しい、と。そう感じることはないのですか、一応」
「いや、あるよ普通に。エンジェや君、シャニアの成長は嬉しいし、最近だとアリス・フレイマグナについても嬉の感情を覚えたね。あとは、もういないし遭ったこともないだろうけど、若いアルター・コルリウムに遭遇した時も嬉しかったかな」
「私の、成長ですか」
「ああ。君今とんでもない成長をしている自覚あるだろう? 一般的な魔法使いとしての壁を越えつつある……いや、とっくに超過している。君は理論型の魔法使いだから、殊更自身がどれほどおかしなことをしているのか理解できているはずだ」
「……確かに二つの家の魔法を使うことは……異常です。それも、双方の出力を維持することも……存在抹消の里で教えられたこと以上のことができるようになってきた自覚があります。……ただ、これもまたあまり使いたくない感覚という言葉で言語化しますが……
「じゃあ聞くけれど、君以外の人間がそれを成し得ないのはなぜかな。単なる技術の発掘であれば、君が知識を共有しさえすれば誰でもできるはずだ。存在抹消の里ではそういうことの一切を隠していないんだろう? むしろ様々な家の魔法使いと技術を高め合っている。けれど他者は君にできることができない。さぁ、なぜかな」
スヴェナは……ふむ、と考えて。
すぐに顔を上げる。
「……努力量の問題、と言いかけましたが、あまりにも失礼でした。……そうですか。これが私の成長なんですね、一応」
「ああ。君は確実に成長している。エンジェという天才が身近にいるせいでわからないだろうけど、君は努力の天才なんだよ。そしてその成長曲線も……エンジェが折れ線で段階を飛ばしていくのだとしたら、君は直線で彼女と同じところまで上り詰めようとしている。普通の魔法使いは曲線で、しかもその半分にも満たない場所までしかいけないのに、だ」
「それが……嬉しい、と」
「そうだね。だから恩返しというのなら、そのまま成長してくれることが何よりもの恩返しになるかな。エンジェは勝手に成長するだろうから、シャニアにも知識の共有をしてあげてほしい。君の出自やエレメントリーのことは措いて擱いても、デルメルサリス関連のこと、教えられること沢山あるだろう? 彼女も努力型で、けれど天才ではないから、援けになるはずだよ」
「それは……どう、なんでしょうか。真っ当な分家ではないとしても、分家の人間が本家の人間に魔法を教える、というのは……シャニアさんのプライドを傷つけませんか、一応」
「もうシャニアともそれなりの付き合いになってきたと思うけれど、彼女そんなことで傷つく人間に見えるのかい」
ま、善きライバルだと思っていたエンジェがいつの間にか遠いところに行ってしまったことについては思うところあるみたいだけど……むしろそこへ追いつくためであれば、スヴェナのその提案に食らいついてくるんじゃないかなぁ。
シャニアの開花は己でも予想外だったし、これから開花する人間はどんどん増えていく。その先達として、エンジェでは言語化できない部分をスヴェナが担ってくれるのなら、そんなに嬉しいことはない。開花したところで自覚できない場合や命を落とすような事態に陥ってしまえば……可能な限りは助けるけど、己も流石にこの星全体の命に目を向け続ける、なんてことはできないからねェ。
なにか……生命の次元階位上昇者マニュアルみたいなものを作ってくれたら……いやそんな怪しいもの誰も手を付けたがらないだろうけど。
「……。わかりました。実感も自覚もありませんが……私の努力、そしてシャニアさんの手伝い……そういったものがあなたへの恩返しとなるというのなら、努力します」
「差し当たっては、アリス・フレイマグナかな。君は理解しただろうし、己も内情を知っている。けれど……己が口を挟むことではない。そして"スヴェナ・デルメルグロウ"が口を挟むことでもないけれど、"アンフィ・エレメントリー"なら違うだろう?」
「そう……ですね。始祖が始祖として活動しないのであれば。そして……今の私なら、完全な異次相も……あなたほどの精度ではありませんが、作成できますから……そこでエンジェに……」
「ただ、昨日言った通り、やるのは七日休みの最終日にしてほしいかな。アリス・フレイマグナ自身がなにをどう選択するか、そしてエンジェが彼女のことを見抜けない理由はなんなのか。その辺は気になることだからね」
エンジェの持つ直観。
それが、完全体ではないとはいえ、あの虚構の神の代替である少女A'に効かない理由。
ずっと考えているけれど……わからない。エンジェの体質はマグヌノプス関連ではないはずだし、仮にそうだとしたら見抜けるはずだし。
もしそこが解消されたのなら、エンジェの特異性と虚構の神の構造の双方が一度に解けることになる。
知識の収集という意味で言うのなら、己もそれは楽しみだよ。
「わかりました。確かに私も気になっていましたから。普段のエンジェなら、アリスさんの真実程度一瞬で見抜けそうなものなのに、と」
「ちなみに聞いておきたいのだけど、君はアリス・フレイマグナについてどこでわかったのかな。あるいはどの時点で知ったのだろうか」
「彼女と対面した時点で気付いていましたよ。"自らの瞳から、故意に理知を消す"なんて芸当、周囲に見せている彼女の性質ではできることではありませんから。一応これでも元次期当主。人を見る目はあります」
「成程。もし君がアンフィ・エレメントリーのままだったら、アリス・フレイマグナはその様子を見せなかっただろうね。君が幼稚な言葉を使う少女に見えたからこそ見せた隙というわけだ」
「……そういえばそれ、その変換。シャニアさんにも気付かれていますし、あの五人にはそもそも通じていないようですし……そろそろ切ってくれても」
「認識錯誤はデルメルサリスの領域なんだ、自分で頑張って解いてみなよ」
「……わかりました。一応聞きますが、認識錯誤……意識操作やあなたの使う既存魔法ではない魔法、ではなく、認識錯誤なんですよね?」
「ああ、そうだよ。ちゃんとデルメルサリスの魔法に則っている」
「……。……頑張ります」
実際アイリポデパルがどういう構築式にしたのか知らないから、破壊する、改変する、以外の方法では己はそこへ手を加えられないんだよねェ。
ここまでの成長を遂げたスヴェナをして解けないということは、余程凝った作りになっているのだろうし、余程解除してほしくないというか……こう、物凄く強い「こだわり」を感じるというか。
アイリポデパルはもう他の惑星に辿り着けたのかな。そこで……子供しかいない世界を作っているのだろうか。
己達寄生生物は便りが無いのが便りがデフォルトだけど、直近の分裂体である彼の動向は多少気になるよね。
「そろそろ戻ろうか。『LINE MAKER』は己が処理しておくから、この結界も切ってしまっていいよ」
「はい。それではお昼に、また」
「ああ」
遊びに誘われたからねェ。
適度にエンジェとイチャイチャして、シャニアの嫉妬を燃やすとしようかねェ。