魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
無論、己がそんなバランス調整をするはずもなく。
「アシッドワームの群れに突っ込んで、無傷で帰還か。流石だね、フィジクマギアの始祖」
「あ、はい。あたしたちの身体は……というか魔法は、あらゆるものへの耐性を上げるので、あの程度の酸は敵ではありません。服にもエンチャントをかけてあるので汚れることもありませんし……五大貴族の中では色々言われることの多い魔法であることは知っていますが、始祖であるあたしからすると、とても使い勝手のいい魔法だと思っていますよ」
うん、製作者冥利に尽きるというものだよ。
だから、というわけではないけれど、
魔法らしい魔法は使えない。けれど、魔法らしい魔法を使う大抵の魔法使いより強い。
それが己の作り上げた
「……会長と戦ったことは何度かありますが……始祖のものとなると、やはり畏敬の対象にしかなりませんね」
「えっ、ボガドちゃんはあなたみたいな女の子を殴ってるの……?」
「あ、いえ、そういうことではなく、模擬戦をこちらから申し込むことがあって」
今回規律会からの付き添いとなったのは、特筆すべき点の見つからない
こちらの問いも疑念も全て無視しての「大丈夫だと思う」には流石のスヴェナも口を挟みかけていたけれど、まぁ少女Aが大丈夫だというのなら大丈夫なのだろう。「……ええと、何が、かね?」とは聞きかけたが。
なお、残りの分家……フレイマグナ、ウォーラーバーン、イースリーグンには謹慎令に近いものが出ているのだとか。
「あ……右手の山中の洞窟に……これは、スネイク系の魔物がいます。こちらを窺っているようなので、気を付け──」
風が吹く。そして右方の山で大きな音がしたあと、もう一度風が吹いた。
「使い勝手が良いとは言ったけど、そういう広範囲の感知能力とかは無いから、憧れはするね」
「……いえ、あの、距離……」
「そもそも己もアゼル・ヴィントルもあの程度の魔物に後れを取ることはないだろう。子供には散々を言っておいて、少々過保護になりすぎじゃないかな、始祖ビアンカ・フィジクマギア」
「万事万象には万が一がありますから」
うん。まぁ。
つまらない旅になりそうだ。本当に幽霊でも出してみようかねェ。
聖護魔導学園では件の平民の噂が持ち切りに……なってはいなかった。
まぁ、初学生の間では有名な人物ではあるけれど、一つ学年を上げれば知らぬ者もいる。その程度な上に、クラスも最底辺とくれば……噂になどなるはずもなく。
ただし『彼』の置き土産は、盛大な噂を持ち上げるのだ。
「成程……ケニスさん。あなたは『裏面』への知覚が薄いようですね。三面以上となると途端に、というのはそれが原因でしょう。今日から……これを常日頃持ち歩くようにしてください」
「っと、これは……ダイスか?」
「ええ、八面ダイスです。本家の子供は生まれた時からこういう立体物を触ります。デルメルクランではやりませんでしたか?」
「やらなかったな……クランはほら、面で圧し潰す、って魔法ばかり使うだろ? だから……こういう楕円形のボードで山を滑り降りる、とかは結構あったが……」
「それはそれで楽しそうですが、成程、分家は分家の……特化する教え方があるのですね。……となると、私の教えは却って邪魔になるかもしれません」
シャニア・デルメルサリスとケニス・デルメルクラン。
実力差、クラスの違い、そして本家と分家という立場の差から関わることのなかった二人は……『誰かさん』の計らいによってこうして交わることとなった。
それだけならまぁ、本家が分家を気にかけているだけ、と取ることもできる。滅多にないことではあるけれど、本家と分家が血を交わらせることはゼロではないのだから。
それだけではないからざわつきが凄いのだ。
「スヴェナさんはどのような感覚で魔法を使っていますか? グロウの家での教えは……」
「一応、私は感覚で魔法を使っていない。視界内を無数の箱が積み重なっているものと認識して、一応、そのあらゆる点から面や立体構造を作り出すイメージ。グロウでの教えは、申し訳ないけれど、よく覚えていない」
「ひゃあ……スヴェナちゃんは理論型なのねー。あ、あんまり参考にならないと思うけど、私はドン! でバン! でザシュ! よ」
「本気で参考にならねえ……」
「お姉さま、お姉さま。その、アリスも口を出しても……」
「ええ、構わないわ」
「なら、はい! ケニスさんは考えすぎって感じがします! スヴェナさんみたいに完全理論型になれないなら、感覚です! どかん、どん、ばーん!! で充分かと!!」
少女たちである。
エンジェ・エレメントリー、スヴェナ・デルメルグロウ、アリス・フレイマグナ。
ケニスがあの『平民』に対して嫉んでいた少女……なんなら美少女三人が、そのままケニスとシャニアの勉強会に来ているのだ。
それはもう。
それはもう視線が痛い。
「あー……ちなみにシャニアさんは」
「本家分家の違いはあれど、今は学生同士、そして同学年なのですから、敬称は要りませんと言ったはずですが」
「それでいうなら、一応、あなたは私にも敬称を使っている」
「ぅ。……ごめんなさい、ケニスさん。そのままでいいです」
「お、おう。えーと、で、シャニアさんはどうやって魔法を使ってるんだ? 理論? 感覚?」
感覚型、感覚派。理論型、理論派。
自分がどうやって魔法を使っているかを説明する時に出てくる区分け。それぞれがどういうものかは、まぁ、見ての通りだろう。
ちなみに
「私は……感覚を理論で補強する、というのが正しい表現だと思います。私自身も幼いころからこういう立体造形物を手元においていて、自身の想像するこれらを培った理論で変形させたり複製したりして魔法としている……はずです」
「はず、っていうのは?」
「いえ、確かに空間剥離や空間隔離などの立体物では表現できない魔法は感覚だけかもしれない、と思いつつ……ただ感覚で言い表せ、と言われても……難しくて」
「むしろ、というか一応、私からしたら感覚で魔法を使う、という方が理解できない。理論が無ければ……何を起点に魔法を設置しているの?」
「そんなの適当だけど……アリスもそうよね?」
「はい! 狙ったところに魔法が出ます!」
さて。こうなってくると、ケニス・デルメルクランのコンプレックスは刺激などされない。『彼』の目論見とは外れて、ケニスが思うことはただ一つ。
「なんか……案外、普通の人なんだな、シャニアさんって」
「愚弄する感情が含まれていない声色なので許しますが、どういうことですか?」
「あ、いや、違うんだ。……悪く思わないでほしいんだけど、エレメントリーの二人が感覚の天才過ぎてさ。グロウ……スヴェナもなんか、理論型の極致、って感じがするし。だからこう……勝手に抱いていた本家への『完全』とか『完璧』みたいなイメージが崩れて、親しみが出たっていうか」
「あ、ちょっとわかるかも。シャニアって第一印象は完璧主義って感じで近寄りがたいわよね」
「正直魔法理論のことでいちいち口出してきそうで怖いな、って思ってました!」
「一応、フォローすると、そういう……勘違いは、誰しもあるし、されることだから、気を落とさないで、一応」
そう、『彼』の最大の誤算は、ケニス・デルメルクランという男が思いのほか正直であったこと。そして、そもそも『彼』みたいなひねくれ者と付き合いを続けてくれている人間はケニス・デルメルクラン程度の捻くれを何も気にしないということだ。
だからここに血筋争いなどというものが介在する余地はなく。
──それを可能性の一つとして見越していたから、とある「仕込み」が効果を発揮する。
瞬時に顔を上げたのは二人。エンジェとアリス……エレメントリーの系譜だ。
「なに……今の唸り声」
「お姉さま……この声は、た、多分……ち……違います、アリスは、アリスたちは何もやってないです!!」
「……わかってる。アンタたちの動向は私達が全力で監視してるもの。だからこれは、そもそもの調薬元がやったこと、と見るのが良さそうね」
二人にしかわからない会話は、けれど事情を知っているスヴェナとシャニアにも理解を及ばせる。
わからないのはケニスだけだ。それでも彼は「何かとんでもない事態が起きたのだろう」ということは理解した。
「アリス、エレメントリーの全家、及び先生たちに事の詳細を伝えて」
「え……口外禁止は」
「もう学園内にいるんだから仕方ないでしょ。何か言われたら私が前に出る。だから、お願い」
エレメントリー本家次期当主からの言葉である。その重みは十二分。
「エンジェ、事情を」
「同一種かはわからないけど、学園の敷地内で私の家族を殺せるだけの力を持った魔物が発生したわ。侵入じゃなくて発生だから、発生源を叩かないと撃退できないかもしれない」
「エレメントリー本家の人間を、ですか。……それは、生半な実力の生徒では接触させることさえ危険ですね」
一瞬スヴェナの脳裏に『彼』の胡散臭い笑みが浮かぶ。けれど彼女は
短い付き合いではあるけれど、わかっていることがある。
彼自らが何かをしようとする時、彼はその場にいる。その場で見ていようとする。だからこれは、仕込まれていたことなのだろうけれど、『彼』の仕込みではない、と。
それは正解だった。此度のこれは、『彼』の性格を把握していて、『彼』がそういう目論見をしているとわかっていて、さらにそれが外れるというところまで予測していた誰かによるもの。
「とにかく生徒を一か所に集めて、防御系の魔法で固めないと──」
「ッ、危ねぇ!!」
今のケニス・デルメルクランが発動できる最速の魔法……一面での押出結界により、エンジェとスヴェナが吹き飛ばされる。
そこを通るは、毛むくじゃらの腕。高速、いや豪速の攻撃。
「っ、学舎の壁を突き破って……!」
「すまねぇ、全力で殴っちまった! 大丈夫か!」
「こっちは大丈夫! というかありがと、助かったわ!」
「エンジェ。私が前に出ます。あなたは後方援護を。一応、エレメントリーの射線を理解した上の動きをしますので」
止める間はない。
スヴェナは腕の伸びてきた方向……学舎の壁、いやさ窓に向かって走り、開くのではなく蹴破って外へと躍り出る。
そこで彼女が見たものは……言葉を失う光景。
うじゃうじゃと。
無数の。無数の。無数の。無数の──ジェヴォーダンの魔物。
侵入したとか発生したとか、そんな量じゃない。まるで元からそこに敷き詰められていたのではないかと思うほどの数。
「ッ……この、肌のざわつく感覚は、やはり……!」
これほどの量では空間隔離、空間剥離などでは対応できない。
まずは数を減らす必要がある。そう判断したスヴェナは、群れの中心部にソレを発生させる。
規定時間までの間、周囲にあるあらゆるものを空間の隙間へと取り込み続ける魔法だ。殺傷能力が高い上に逃走も不可能に近い。
さらにはこれほどの密集具合。
「……面制圧をする、にしても……一応、生存者を確認しないといけない……ああ、風があれば……」
「無茶すんなチビ! ……って、なんだこれ!」
「出てきてしまったのですか、ケニス・デルメルクラン。であれば防御を固めつつ、避難しなさい。あなたでは無理です」
「お前にだって無理だよ! つーか生徒一人が突っ走るな! 上級生と教師を待ってからじゃねえと、余計な混乱が起きる! デルメルグロウってのはそんなことも教えねえのか!」
我に返る、とは。まさにこのことだろう。
スヴェナ……彼女は未だ、最上級生気分が抜けていなかったのだ。誰よりも早く前線に出て、生徒を守らねばならない。後輩を、まだ自分たちに実力の劣る者達を守らねば、と。
けれど今は。
「その通りだ、デルメルクランの坊主。無理矢理にでもそのお嬢さんを連れて避難所へ急げ」
「いやぁ、来るとは思っていたけど、本当に来るものなんだねぇ。しかも……とんでもないものが」
「室内運動機能場にて
現れたるは規律会。そして……彼女の、かつての学友たち。
最上級生として皆を守る。その覚悟の伝わる声と顔色に。
ギリ、と奥歯を噛み締めた。
ああ、スヴェナが。彼女がここまで感情を露にしたのはいつぶりだろうか。それは悔しさだけだろうか。他にどんな感情が混ざっているのだろうか。
「つか、こいつらどこ狙ってやがる。こっちを見向きもしねぇで……」
「フレイマグナからの情報に依れば、発生源とやらがあるはず、って話だけど……こうも沢山いちゃわからないねぇ」
「とりあえずフィジクマギアは自分への防護全開で暴れまわれ! 他の家は、俺達を気にせず魔法撃て! 効かねえからよ!」
「言ってくれるじゃないか。いいよ、なら撃破スコアでも競おうか。最強の魔法がなんなのか──その長い論争にケリを」
言葉は最後まで紡がれない。
首。頭。言葉を発していたソレのあった場所。
そこを、腕が通り抜けたから。
「……一応、既に戦場。油断しないで」
「!? わ……っと、今のは
取り抜けただけだ。何も無い空間を。スヴェナが空間を剥離させて「何も無いことになっていた空間」を。
撃破スコアを競う。そんな気分ではダメだ。アレの恐ろしさをわかっているのはスヴェナだけ。
同時に、妹のことも気になれど。
「アンフィ・エレメントリーは、こいつらに
「……なんだと?」
「彼女は病気療養中では……」
「待て、そもそもなぜそんなことを君が知っている!」
口々に騒ぎ出す元学友。当然、その中には「仲の良かった者たち」も交ざっているけれど。
「糾弾も詰問も後で好きなだけすればいい。今、何をすべきかを忘れないで……一応」
ケニス・デルメルクランに申し訳ないという気持ちは発生したけれど、スヴェナはそれを無視した。
彼女は規律会のメンバーではないけれど、学友を守りたいという気持ちくらいは持ち合わせている。その敵が己を殺した魔物であるというのなら──
空中にいるスヴェナたちにはほとんど攻撃せずに、集中的に学舎の一部を狙い続けているジェヴォーダンの魔物たち。
その先にいる者が誰か、など。
「……ケニスさん。お叱りは、後で受けます。一応」
「馬鹿言ってんじゃ……オイ、待て! 何を編んで……」
学園内にいた
今組み上がろうとしている魔法に。その規模に。そのあり得なさに。
だってそれは、始祖だけが使えるとされている──大禁呪。
「
「
「少なくとも一人の人間に使う魔法じゃないねェ、それは」
「異なことを言うものですね、『愚者』さん。あなたに人間である自覚があったのですか?」
別の場所に転移されたらしい己。始祖Bと生徒Aはそのままの場所にいるようだから、完全な狙い撃ち。
そしていの一番に使ってきた魔法がこれだ。
対象空間を複製して重ね合わせ、「対象と対象のコピーがお互いを潰し合う」というグロテスク且つ殺傷能力の高い広範囲殲滅魔法。少なくとも通常の生物であれば問答無用で死ぬ。
つまるところ、*じぶんのなかにいる! になるわけだから。
ただしその性質上除外というものができないので、敵しかいない空間に使わなければならない……ならないし、一度その空間の全情報を己が脳で処理する必要があるので、範囲を間違えたら廃人コース一直線の禁術だ。まぁ始祖Cにそんなことは関係ないだろうけど。
「『愚者』とは、いやはや何の話かな。始祖シエル・デルメルサリス」
「前に自己紹介をしたはずですが。私の名前はシエル・クローヴィー。この姓を捨てたことは一度もありません」
「そうなのかい。じゃあ、初めまして、始祖CC」
「さらに今しがた使った魔法であなたの精査が終わりました。やはりあなたの血に
「そうかい。ならば素直に帰してくれるのかな」
「あなたが帰るのならば、私の描いた"家族計画"をめちゃくちゃにしかねないあのデルメルグロウなる家とその出身者を殺しに行きますが」
「構わないよ? 己に彼女への愛情など無いからね」
圧し潰される肉体も、発生する虚空点も、球形に引き千切らんとする重力球も。
全て受けて、平然と佇む。誰も見ていない、というのは良いことだね。
「しかし、気になるな。"家族計画"……噂でしかないと思っていたのだけど、
「はい。血を分けたのなら、必ず争いが発生する。ならばどう発生するかをコントロールしたいと思うのが当然でしょう? それを……あのデルメルグロウなる知らない分家が壊し始めている。看過できません」
「そうか、そうか──ならば一つ開示をしようか、始祖CC」
人間に使うものではない攻撃を受けながら、掌の上に五家の家紋を浮かべる。多分に漏れずホログラムだ。
「己はね、君の逆なんだ」
「……逆?」
「血を分けたのなら、必ず争いが発生する。その争いをこそ己は見たい。そのためであればいくらでも知覚外の分家を作るし、いくらでも君の"家族計画"を台無しにしよう」
攻撃は。
──そこで、止まる。
「……であれば、『愚者』さん」
「今はただの『平民』だけどね」
「私達は……手を取り合える。そう思いませんか?」
「勿論、そう思っている。だから己は此度の茶番に付き合ったし、君に対峙する気でいた」
争いが起きては煩わしいからコントロールしたい彼女。
その争い自体が目的である己。
一見競合しそうなこの二つは、しかし彼女の煩わしさを解消してやれば、善きパートナーとなれる。
「今、己が執着しているのは、聖護魔導学園の中だけだ」
「わかりました。学園をコントロール範囲から除外します。代わりに外にいる
「それが、
逡巡は無い。
月……というものは見えなくなって久しいけれど、かつて見えていた月の、下弦の月を思わせる弓なりを口元に携えて……始祖CCは。
「イーリシャとは一度事を構えてみたかったので、丁度いいですね。これからよろしくお願いします、『愚者』さん。……いえ、『平民』さん」
「あそこには始祖Eを守る
取引成立、である。