魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
コーヒーを啜る。除染されたそれは、人工的な味が抜けない……正確にいえば、その味を抜くために打ち消し用に入れられた風味が抜けないもの。
けれどそれしかないのだからと、それを啜る。啜って……珍しくオフィスにいる『彼』へと声をかけた。
「やぁ、『営業マン』。珍しいね、君がこうしてオフィスにいるのは。常に世界中を飛び回っているものだとばかり思っていたけれど」
「売り物が無い時はこうしていることもあるさ、Mr.カランコロン」
「……アブラクサスに対してもそうだけど、君は本当に他人の名前を覚えるのが下手だよね。僕の名前はカロンクロスだよ」
「それ以下にしないための愛称なんだけど、誰もいい顔をしてくれないのがつらいところだよねェ」
立体映像……頑なに埋め込み型を使おうとせず、手に持つ、身に付けるタイプの端末を使っている『彼』。その端末から映し出された映像は、どうやら昨今のニュースを流しているらしかった。
内容は当たり障りのないものだ。ナノマシン汚染の脅威度とか、樹殻の観測結果とか、どこの国とどこかの国が小競り合いをしているとか。その中には僕たち『COMPANY』の広告も入っている。
「それについても珍しいね。君、こういう世界情勢は報道を見るまでもなく知っているんじゃないのかい?」
「否定はしないよ、Mr.カランコロン。ただ……少し思うところがあってね」
「へえ?」
オフィスの壁に併設されたベンチに座る。『彼』の隣だ。
本人は気にしていない話だけど、『彼』は結構人気がある。なぜってナノマシン汚染の一切を受けてないから。僕もそうだけど、除染されたものや、除染するための施設を通ったものにさえ独特の風味を覚えてしまう人間にとって──『彼』の「自然さ」は心地の良いものだ。
世界中を飛び回って駆け回って、この汚染された世界の最も汚染された場所に向かうことだって少なくはないはずなのに、『彼』はまっさら。使われなくなって久しい言葉だけど、遥か昔にあった「空気清浄機」というものは、『彼』のような存在を言うのだろう。
「……そうだな、こういうのは聞いた方が早いか。休憩中悪いけれど、少し問答に付き合ってくれるかい、Mr.カランコロン」
「構わないよ。仕事の話以外なら、僕にとっては全てが休憩だ」
「流石だね、仕事人間。……君はさ、ナノマシン技術を人間の能力だと考えるかい?」
「うーん? 人間の能力……というのは、つまり、手を動かすだとか、足を動かすだとか、そういうことと同義である、ということかな」
「そう。人間は無力な生き物だ。この世には磁力だの重力だの引力だの、目に見えない、あるいは観測できても認識のできない力が溢れているというのに、人間はそれに直接の干渉ができない。何か機器を通して、端末や技術を間接に挟めばそれらを操り得るけれど、根源の部分においてはそれらは人間の能力であるとは言えない」
「同意するよ。そして、その上でナノマシン技術は人間が新たに獲得した能力であるかどうか、という話だね?」
「ああ。君はどう思うかな、Mr.カランコロン」
ナノマシン技術。
かつて人類の脅威とされていた
これらは人類の技術を飛躍的に向上させた。ほぼすべてのものがナノマシン技術によって一段上のものへと変貌し、ほぼすべてのものがそれによる汚染を受けた。
大きな代償を払い、僕らが得たこの技術は、けれど代償を払う価値のあるものではあったのだろう。
空を飛ぶ。呼吸を必要としない。心臓を穿たれようと生き続ける。人間であることを逸脱できる技術がナノマシン技術であり、それらを可能としてきた何十万年もの人間の歴史が語る。
この「未来」は、我々の、人類の、地球の
「たとえば。今が君が使っているように、埋め込み式ではない端末によるナノマシンの操作。それは端末を介してナノマシンに働きかけているだけだから、人間が獲得した能力とは言い難い。……ああ、埋め込み式でも結論は同じか。そう考えると……今流行が再燃しているデザインベイビー、生まれた時点から血中にナノマシンが存在する彼ら彼女らならば、ナノマシンを能力として獲得した人間、と言えるのかも」
「Mr.カランコロン、君は何十万年と人間が戦い続けている倫理を平気でかなぐり捨てるよね。そこは己をして尊敬に値するよ」
「倫理観なんて持っていたら『COMPANY』で働いていけないだろう?」
「それはそうだ」
デザインベイビー問題。著しい人口減少から生まれたこの技術と、人間は長く永く戦っている。
倫理観、良識、常識。「自然ではない」と思う者がいる限り、「それはおかしい」と考える者がいる限り、これはなくならない。常識というのはそれらの一切を忘れるような物事が起きなければ刷新されないものだから。
「それで、この答えでは満足できないかな、『営業マン』」
「そうだね。己はあのデザインベイビーを人間だと思っていないから」
「ふふ、君の方が鋭い切り込みを入れるじゃないか」
でも、同意見だ。
アレは結局、人間に作られた人間であって……人間ではないのだろう。
「だから、最初の答えはNO、になる。ナノマシン技術は人間が獲得した能力じゃない。僕らはそれらを発掘しただけで、それらを使役しているだけで、決して己がものにできているわけじゃない」
「……そうだね。良い答えだ、Mr.カランコロン。ならば、人間は無力な生き物だ、という言葉にも納得するかな」
「いいや、そこについては違う答えを持っている。同時に君も違う答えを持っているよね。僕がそこに突っかからなかったから、今持ち出してきた。僕がそれを無視したのは語るまでもないことだったからだけど、君にとっては酷く重要なことだったわけだ」
人間は無力な生き物。
何の力も操ることのできない、肉体機能に力という言葉をつけて、さもそれを操っているかのように見せかけることしかできない憐れな生き物。
確かにそれは一般論だし、厭世的で悲観的な「ものの見方」なのだろうけれど。
「唯一、人間が操り得る、見えない力。観測も認識も困難なのに、誰もが操ることのできるカタチの無いエネルギー」
「それは何かな、Mr.カロンクロス」
「感情、だよ」
そう。そうだ。
ロマンチックな答えと言う勿れ。これは、こればかりは、人間という生物が古来から持ち得る牙であり肌。
昔から変わることのない唯一無二。
「感情は何に干渉することもできないし、観測も認識もできないモノだけど、それは確かなエネルギーとしてそこにある。……だから、ナノマシン技術は使役しているだけでも、初めから人間は無力な生き物ではなかった、が最終的な答えになるかな」
「……。……良い答えだ。少しだけ違う、という部分を除けば、ね」
立体映像を消す『彼』。僕もまた飲み終えたコーヒーを……そのカップを分解する。空気中に解けていったマグカップは空調によって吸い取られ、空間に清浄が戻る。
「よければ、浅学なる僕に教えてほしいかな、『営業マン』。人類の歴史が刹那に思えるほどの時を生きてきた者」
「感情だけじゃない、という話さ、Mr.カランコロン。人間が操り得るエネルギーは二つある。一つは感情で間違いないけれど、もう一つは──」
──ノイズが走る。映像に乱れが生じ、その先が観測困難となった。
記録に不備があったのか、それとも意図的に消されているのか。
僕は。
いいえ、私は、溜息を吐いて……ヘッドギアを取った。
「……追体験ギア。息抜きにと何気なく見つけたものですが、まさか『愚者』さんの記録があるとは思いませんでしたね」
今の時代では見ることのない形状の、つるりとした球形をしたソレ。
人の記憶をナノマシンに記録し、被せた者へその記憶を追体験させる機械。市販されているものではなかったし、両親が『賢者』でなければその存在さえ知ることのなかったはずのこの機械。あの二人が『賢者』となることを決意した日、あの二人から送られてきたものが、これと似たものだった。『賢者』になるということは死することと同じだ。だってその知識を外へ持ち出すことは許されない。
人類のために研究を行うことを誓い、その持ち出しが行われかねない可能性は全て排除する。『賢者』とは棺桶の俗称だよ、と……なる前の父親が喋っていたことを覚えている。
「良かったのですか、『愚者』さん。こんなものを見せて。残しておいて」
「おや、誰もいないのに突然独り言を呟いたわけではなかったのだね」
「変人扱いしないでください。……この施設には娯楽なんて存在しないのに、息抜きに追体験ギアなんて見つけるわけないじゃないですか。であるならば、これはここを訪れた者へ中身を見せるために誰かが用意したもの。その誰かが『賢者』ではないのなら、『愚者』さん以外ありえません」
肩を竦める『彼』。
記憶の視点主……カロンクロスと名乗る青年の目に映っていた姿とは似ても似つかない姿だけど、同一人物だと本能でわかる。
本能。……いや。
「何か解答が欲しいんですか?」
「さてね。己は何も強制しないよ」
「……はぁ。……。……デザインベイビー。初めから血中にナノマシンを持ち、それらを自在に操る者は、人間とは呼べない……でしたか。カロンクロスさんは、この魔法世界を見ても同じ言葉を吐くのでしょうか」
培養槽から生まれ出でた命ではない。母親が腹を痛めて産み落とした、デザインなどされていない人間。
けれどその血中には確かにナノマシンが巡り、彼ら彼女らは……そて私達五人もまた、自在にナノマシンを操る。それに魔力、だなんて力の名前をつけて。
「……ああでも、それにしては……あなたは今の魔法世界を……そこに生きる人々を、人間だと認めていますよね。この記録では認めていなかったのに」
「Mr.カランコロンが思考した通りだよ。常識が刷新されたから、己も認識を改めた。ただそれだけの話」
「人類の持つ共通認識にあなたが左右されるんですか?」
「流動する常識や倫理に発生する怪物。それこそが己達の在るべき姿だからねェ」
勿論その言葉の全てを信じるほど純粋ではない。
この眼前の生物がもっと確かなものであることを私は知っている。
「それで、君が息抜きを必要とするほどには……『
「はい。これがナノマシン技術の完全普及よりも前に作られた、なんて……今でも信じられません。しかもそれを作ったのが、私達の時代に生まれた人間である、だなんて」
顔を上げて見るは、真白のキューブ。
巨大なガラス壁の先に浮かぶソレは、謂わば超巨大なコンピュータだ。
世界中の情報を観測し、検算し、未来を弾き出す機械。
樹殻という人類の脅威を作り上げた存在が晩年に作り上げた、もう一つのオーパーツ。
解析を進めれば進めるほど……その存在が、彼が、天才であるのだと思い知らされる。
私の視てきた未来が矮小に感じられるほどに先を視た機械。先を見据えた人間の所業。
「過去へ行く、という行いは……正確にいうと、別世界の過去へ行く、ということ、なんですよね」
「ん、ああ。そうだよ。時間というのは一直線で、過去へ赴く行為はその線の上で宙返りをする行為に等しい。だから、着地した場所が過去であろうと、そこは層的、あるいは軸的に別の時間なんだ。少なくともコルリウムの考案した時間移動はその類と言えるだろうね」
「つまり、自分の世界のためではないのに、別世界のコルリウムという方はこの世界の過去へと赴き、樹殻と『
「どうだろうねェ。ただの狂人だった可能性もある。技術力のある狂人だって、似たようなことをしたのかもしれない」
自分のためにも、自分の世界のためにもならないこと。
それを……沢山の犠牲を払い、強い意思を以てしてまで行うその理由。
やはりいくら考えてもわからない。同じ人間に思えない……と考えてしまうのは、真実私達が同じ人間ではないから、なのだろうか。
「……」
「『愚者』さん?」
珍しく、というと失礼だけど、神妙な顔でなにかを考え込む『彼』に声をかける。
今の問答に何か思うところがあったのだろうか。
「……つまり……言い方は悪いけれど、異世界というのは、過去移動というのは……現行世界に気付かれることなく干渉できるダストボックスであり、ダストシュートなわけだ」
「ダストシュート……? ああ……確かにそうかもしれません。要らないもの、邪魔なものを過去へ送る。その過去は私達の過去ではないから、今の世界に何か影響が起きることはない。異世界の過去にそれを送ってしまえば、異世界の未来がおかしくなることはあっても、今の世界からはただそれが消失しただけになりますね」
「
力になれないことを悔しく思う。
結局私は『賢者』の子供でしかなく、その背中を追いかけることさえできなかった者。未来視という力を授かり、結局何も変えられない……『
「もし。未来の……未来で"過去送り"を使う者達に、己や君が持つような共通認識がなかったとしたら、だ。もし、未来でとんでもない脅威が現れて、それをどうにかする術が無くて、苦肉の策で過去を変える、ということを試しているのだとしたのなら」
「はぁ。ええと……『愚者』さんの言動を統合すると、確かにあり得る話ですね。その『DOUBLE SCISSORS』や『LINE MAKER』というのが何かは知りませんが、名前的に機構なのでしょう。『愚者』さんはそれらが"未来送り"にされた理由が分からずに悩んでいて……けれど今、"過去送り"であるのなら合点が行く、という話で合っていますか」
「うん。そして、もしそうであるのなら、その脅威はなんであると思う? 今言った二つの機構は海底を闊歩する機構だ。ありきたりに樹殻を脅威として見るのなら、それはおかしな話に覆える」
「……未来視は、未来からの波をキャッチするもの。異世界、別世界の波はわかりません。ですからこれは視たものではなく私個人の考えになりますが……」
この無力な私にできることがあるとすれば、頭を回すことだけだろう。
あの両親の娘として、『愚者』を名乗る彼に、『賢者の娘』としての答えを告げる。
「別世界の未来では、樹殻など最早どうでもいいものになっていて、本当に警戒すべきものが海底にあり……それを排除するために二つの機構がこの世界に遺棄された。過去、前身文明の遺物であるはずの機構がなぜ別世界の未来にあったのかはわかりませんが、それが順当な考えであるかと」
……やはり私は『賢者』ではない。
こんな、考えればすぐに思い至ることしか返せない。
「いいや、イーリシャ。それは違うよ」
「そう、ですか。申し訳ありません、ノイズでしたね」
「ああ、今のは己の言葉選びが悪かった。君の至った結論が違うのではなく、君が思い至った着地点を否定したんだ。『賢者の娘』でしかない君に普遍的な答えしか出せないのは当然のことで、それを気にするのは筋違いだ。もしここに『賢者』がいても似たような答えしか出せなかっただろうし、エンジェやスヴェナがいても同じだっただろう。──大事なのは、己と問答をしたことそのもの、なんだ」
「……問答、ですか。そういえばカロンクロスさんとも好んで問答をしていましたね」
どこか満足気に頷く『彼』。何か良いことがあったのだろうか。
「途切れた記録。隠された記憶。己がその部分を抹消したのは、至らぬ者に見せるべきではないと判断したからだ。……己があの時彼へと告げた答え。人間が初めから持つ二つのエネルギー。一つが感情であり、もう一つが何か、という答え」
「……当ててみても、いいですか」
「勿論だ。君は理解していると踏んでいたけれど、やはり、という言葉を予め返しておこう」
無力とされる人間が持つ、二つのエネルギー。
観測も認識もできない感情と。
──誰しもが持ち得る、はじまりの持ち物。
「魂、ですよね。感情と魂……いえ、感情を纏う魂こそが、人間が持つ能力であり、エネルギー。……つまり、知性とは……私の出す答えとは、結局感情や記憶から弾き出される"計算結果"でしかなく、あなたにとって意味のあるものではない。ここにいるのが私ではなくエンジェさんやディアナちゃん、あるいはカロンクロスさんであってもそれは変わらない。──あなたが問答を好むのは、それ以外の部分に魅力を覚えているから」
その口が円弧を描く。
恐ろしいという感情を覚える。今までは知識だった。けれど、体感した。
眼前にいるのは──正しく、化け物なのだと。
けれど意地を張って、気丈に振る舞って、言葉を紡ぎ続ける。
「私の……魂との、接触。それがあなたの求めるもの。カロンクロスさんとも、エンジェさんとも、みんなとも。あなたが求めているのは会話の先にある答えではなく、魂と魂の摩擦が生み出す差圧のようなもの。……私は、貴方に満足の行く差圧を生み出し得る存在でありましたか、『愚者』さん」
「是を」
恐ろしいという感情が、畏敬に変わる。
畏怖ではなく畏敬。
今目の前にいるのは化け物かもしれない。
けれど、悦楽を以て命を摘み取るような化け物でも、無感情に無感動に殺戮を行う怪物でもない。
ただ、私達とは違う、というだけの化け物だ。
──ゴウン、と。
脈動があった。それは『
「……検算結果が、変わった?」
「流石だね、アルター・コルリウム。己をも情報として収集するか。……イーリシャ。残念だけど、『賢者』たちと同じやり方では……『
「けれど今、私と『愚者』さんの問答で、検算結果に変化がありました」
「そう。『
もし。
もしそれが、誰かと関り、問答を行い、その在り方の差圧を生み出す行為を指すのだとすれば。
「……七日休み。これからあなた達は、遊びに行く、んですよね。エンジェさん達と」
「ああ。といっても今の世界に安全に遊び得る場所なんてほとんどないから、そこまでの遠出はしないけれど」
「一度断りましたけど……私もまた参加していいでしょうか。『
また『
ここまで来れば理解もできる。
私だ。
自惚れてはいけないことくらいわかっているけれど──今、この状況においては、私と、恐らく『愚者』さん、そしてエンジェさんとスヴェナさん。
この四人による「差圧」が、未来に大きな影響を齎す。
「それを決めるのは己ではないよ、イーリシャ。断ってしまったけれどやっぱり行きたくなった。そんな子供染みた答えをスヴェナに告げるところからだ。彼女がそれを断ったり勘繰ったりすれば、もしかしたらNOを返されるかもしれない」
「いいえ。スヴェナさんはそういう方ではありませんし、他の皆さんも……良い人たちばかりですから。──放しませんよ、このチャンスは。私に記録を見せたこと自体があなたの蒔いたヒントであり、私がそう至ることを期待してのことだったのでしょう。であれば……私は、最良を掴みます」
「『賢者の娘』、いいや、『賢者』の娘として、かい?」
「いいえ。……そうですね、ここは少し気障な答えを返しましょう。あなたが『愚者』で、世界を滅ぼした彼らが『賢者』であるのなら……私は『智者』と名乗ります。とても不遜で、素敵な呼び名だと思いませんか?」
自惚れよう。
大きく、大きく、大きく。
自制をやめて、自覚する。
今──大胆に動くことこそが、世界を変える唯一の手段である。
「ダッコー、良い答えだイーリシャ。己は君を『智者』と呼ぶことにするし、君が『智者』と名乗ることを世界に記録するよ。
それでは、早速。
「スヴェナさんに媚を売って来ましょうか。可愛らしく、子供らしく、彼女が了承したくなるように」
「ああ、行ってくるといい」
……一つだけ。
この時『彼』が何も言わずにほくそ笑んでいた事実を理解しなかったことは、私のミスだ。
まさかスヴェナさんが私を……私達の正体にとっくに気付いていた、なんて、薄々はわかっていても完全に理解しているとは思っておらず……その、なんだ。
とても冷ややかな目を向けられた、とだけ。
……『愚者』さんはやはり『愚者』呼びが相応しい。そう、痛感した日だった。