魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
前にも述べたけれど、遊びに行くと言ってもこの大陸はそこまでの広さが無い。
無いし、魔物や魔力汚染された大地のせいもあって、たとえばピクニックなんてしようものならいつの間にか魔力中毒に陥っていて、なんてことがあり得る世界だ。
繁華街と呼べる場所はあるけれど、それはどちらかと言えば機能的な街──商品の売買を目的とした場所であって、遊びに行くための場所ではない。
娯楽。天上の地こと研究開発学術都市アンブロシウスにさえ存在しないそれらは、このメガリア……あるいは地球と名を改めた惑星には存在しない──かに、思われた。
「……すげえ」
「はい……驚きました、一応。いえ、とても」
「これはぁ……資料で見たことはあっても、行ったことのないようなぁ……ちょっと感激ですねぇ」
そこは、一般に「遊園地」と呼称されるべき施設。
この世界の誰に聞いてもあり得ないと一蹴されるだろう場所。前身文明にはポツポツと残ってはいたけれど、それでもやはりナノマシン公害の影響で外部的な遊びの場の減っていたあの時代にすらまず見なかった場所だ。前身文明では仮想空間で遊べたから、不要だった、というのもある。
視線。
「どうしたんだい、エンジェ」
「……良かったの? ここ、アンタの大切な場所なんでしょ」
「大切な場所だけど、己の大切な場所ではないよ。己はこの地に何の思い出も残していない。ただ……欲しかったものがあった地だった、というだけだ」
「ふぅん……」
「その反応。もしや、エンジェと『噂の平民さん』が付き合うことになったのは」
「ああ、そうよ。ここでお互いに告白して、正式に付き合い始めたの。……だとしても、
そう、ここなるは純白の墓標──かつての名を、ホワイトダナップ。
これが稼働していた時代、空にあった時代においては総合娯楽複合施設……巨大なゲームセンターのようなものしかなかったここだけど、暴風金属やその直前にあった「退避と引越」により数えるほどの人数しかいなくなったホワイトダナップの住民は、上位者と呼ばれる己達の劣化品と共にホワイトダナップを好きな風に変えていった。
あの虫とその伴侶がまだ若かった時分の話だ。機奇械怪をも使って気軽に気楽にこの巨大な艦を作り替え、「遊園地」や「学校」、「運動機能場」など様々を作り上げた。そのあと、あの虫の伴侶が息を引き取ったことを理由にホワイトダナップをこの地へと突き刺し、純白の墓標と名を変え……今度は"新人類"と"獲得者"の
だから、本来ここは地面に対してほぼ垂直に突き刺さっているはずの場所。エンジェの言う誘因力……即ち重力の向きがおかしいというのは正しい認識であり、こんな風に立っていることは難しい。
じゃあどうやっているかって、勿論ナノマシンだ。重力にだって簡単に作用できるからね、ナノマシンは。既存魔法には存在しない使い方だから、始祖五人くらいしか何が起きているのかはわからないと思うけれど。
ま、そんな小難しい話は措いて擱いて──遊園地である。
遊びの場。デートの場。初デートには重すぎるけれど、それなりに気心の知れたカップルが行くには適切な場所。
七日休みの最初の日。思うところもやるべきことも一旦すべてを忘れて「遊ぶ」ために、己が用意した特別な遊び場、というところかな。
そういう考えるべき事象は残りの六日間でどうにかしてほしい。だから。
「アリス・フレイマグナ」
「……ぁ」
「そう暗い顔をする必要はないよ。少なくとも己は……ああいや、エンジェも含めて、今君を責め立てようとはしていない。そうだろう、エンジェ」
「ええ。なんなら貴族とか平民とか他家とか……全部ナシでいいでしょ。ここにいるのは友達だけ。折角こんな凄い場所に連れてきてもらっておいて、楽しまないなんて嘘でしょ」
「それでも気になるのなら、アナかシェリー、シャニア、スヴェナの誰かに意識操作か認識錯誤をかけてもらうといい。重く暗い感情を封印する形でね」
提案に。
"馬鹿なアリス・フレイマグナ"は──「お願いします」と言った。
そのことに対してエンジェ、アンジーが眉を顰めるけれど、それも口には出さない。そして、「じゃあ!」と意気揚々と意識操作を使おうとしたアナを制止するシェリーとスヴェナ。なぜ二人がそんなことをするのかわからないままに、シャニアが認識錯誤をかけて──ようやく、である。
「動力源、及び乗車賃は全て無視できるようになっている。ああただ、ここは魔法が使えない……魔法を使わない前提の遊び場だから、基本魔力は封じる方向でお願いするよ。アンジーのそれは、まぁ害のないようにはできるだろう?」
「もちろん。で、もういいでしょ? 説明はじゅーぶんだから……遊ばせてよ、『先輩』」
「ガラにもなく目が輝いているねェ。──それじゃ、存分に」
遊ぼうか。遊ぶべき場所で。
といっても。
残念ながら己には「遊園地のアトラクションを楽しむ」という心が無い。何が楽しいのか理解できないのもそうだけど、アトラクションの出せる速度や恐怖では己に刺さらないというのが大きい。無論
だからこうしてベンチに背を預け、見たことのないアトラクションに目を輝かせる子供たちを眺める……まるっきり保護者のようになるしかない。
他の場所であればエンジェが隣に来るものだけど、彼女だってまだ少女だ。今回ばかりは遊びたいらしい。
また、早朝の宣言もあっていつもは冷ややかな側にいるイリスもそちらに交ざっている。魂と魂の摩擦が生み出す差圧。彼女が求めているのはそれだから、さもありなん。
というより全員がそうかな、今回は。アナもシェリーも、ちゃんと年相応の……それは五千歳という意味ではなく、止められた年齢相応の顔で遊びつくしているように見えた。
良いこと、なのだと思う。
これもまた残念ながら、判別はつかないけれど。
ぽーん、と。
放られてきた缶をキャッチする。
……炭酸飲料か。
「泡が噴き出るから、そう激しく扱うものではないよ」
「そうなのですか。……あの機構、初めて見るものでしたから、よくわからなくて。ただ直観的に飲料が入っていると思ったので、一応、なんとなくで購入しました。お金は払っていませんが」
言いながら、己の隣にちょこんと座るスヴェナ。
「お気に召さなかったかい?」
「ここが、ですか? いえ、そんなことはありませんよ、一応。どれも目を引く……アトラクション、でしたか。ものばかりで、少しお話をしたら、私もエンジェたちの所へ戻ろうと思っています」
「話?」
「はい」
なんだろうか、と思いながら、プルタブを引く。噴き出そうになる炭酸ガスを分解しつつ、己のやり方を見て真似をしたスヴェナの方の炭酸も良い感じに抜いておく。
……大丈夫だろうか。炭酸の刺激……慣れていないと思うけれど。
とかなんとか思って見守っていたら、案の定だった。それを口に付けた瞬間、目を見開いて口を離すスヴェナ。なんなら臨戦態勢になっているあたり、攻撃されたとでも思いこんだのかな。
凄い勢いでこちらを見る彼女に肩を竦めつつ、普通に手元の炭酸飲料を飲む。
懐かしい……というか、何十万年ぶりに飲むな。アンブロシウスでは基本コーヒーか紅茶だったし、単独でいる時は飲み食い自体しなかったし。
ちなみに『FOOD PROCESSOR』なんかと同じくあの自販機は内部に製造炉のある小型機奇械怪であるため、業者が中身を補充するとかいう工程は存在しない。まぁ今まで休眠状態だったから、己がこの遊園地全体を稼働させるオールドフェイスを入れてあるのだけど。
ああそうそう、一応この遊園地、これそのものが超巨大な機奇械怪だ。やろうと思えば中で遊ぶ人間を全て食らうこともできる──できていた。作り上げた虫の同伴機の姉妹機が遊び心で付け加えた機能だったようだけど、生き残りの全員にバレて泣く泣く取り外したらしい。流石の己でも「そりゃそうなるよ」と思う話だった。
「落ち着いたかい?」
「……はい、一応。不思議な飲み物もあるのですね。……最初は痛いだけでしたが……慣れると案外美味しいです」
ちなみに魔法世界には炭酸飲料自体がない。お酒にも炭酸が入っていないから、この先付き合いで飲むことも無いだろう。
これは本当にここだけの飲み物だ。ああいや、アンブロシウスには物好きが再現した品がある可能性もあるけれど。
「それで、話って?」
「幾つかあります。まず一つ目は、アリスについて」
「当の本人が忘れているのに君が蒸し返すのかい?」
「消音結界は張りましたから。……ああ、魔法を使うのはダメなのでしたか、一応」
「いや、飛行だとか斥力関係だとかをやめてほしいだけで、結界くらいはいいよ」
「そうですか。……単刀直入に言います。私にはアリスを救う手立てがありません。アリスの境遇、そして正体はわかりましたが、私が元アンフィ・エレメントリーであっても、既に故人。彼女の処遇についての采配は次期当主たるエンジェか、現当主たる父さまたちに委ねられます。いえ……保護観察官のエンジェが適任であり、私が口添えをしたところで、あの子の意思は変わらないでしょう」
まぁ、そうだろうね。
実は"馬鹿なアリス・フレイマグナ"ではありませんでした、ということが理解されたところで……状況は何も変わらない。
理解されなかったとしても同じだ。彼女がこの先を生きるための筋道は、ただ、エンジェが少女A'を許容すること以外に存在しない。
そしてそれは……ほとんどあり得ない。本来はコトを起こした時に処断されるはずだった彼女を、"馬鹿なアリス・フレイマグナ"だったから、という理由で生かしているだけだ。幼稚だったから、責任能力が無いと判断されたが故の保留は、最早どうにもならない所まで来てしまった。
此度己が行った先延ばしは、本当に単なる先延ばしでしかなかった、というわけだ。
「……ただ、これは……根拠のない言葉、なのですが」
理論型の極致たる彼女は、先日もだけど、「感覚」を無視しないようになってきているらしい。
良いことだ、それは。
「……エンジェがアリスを手に掛けた時……エンジェに、良くない変化が起きる。そんな気がするのです」
「まぁ無感動に、とは行かないだろうね。博愛主義者とはいえエンジェだって人の子だ。己であれば欠片たりとも動かない心も、彼女なら違う」
「そう……いう、意味ではなく。……私は生命の次元階位という概念を完全に理解しているわけではありませんが……一応、それを間近で見てきた者として……
……。
へぇ。
「!?」
「っと……すまない、驚かせたね」
「……今のは」
炭酸飲料の時とは比べ物にならないほどの速度と形相で臨戦態勢へと移行したスヴェナ。
思ってもみなかった言葉が出たから、つい漏れ出てしまったらしい。己の……この、ヒトガタではない部分の気配が。
ヒトの形に押し込めた、もっともっと強大で巨大な部分が。
「良くない分岐、というのは、具体的にどういうことか……合っていてもそうでなくとも、根拠も論拠も無くていい。己に教えてくれるかな」
「……わかりました、今のは無視します。それで……その、言語化すると荒唐無稽になるのですが……その、仮に、エンジェがアリスを手に掛けることなく成長した場合。あるいは進み続けた場合、彼女は真っ当な"中心人物"、"指導者"、"為政者"……そういった類のものになると予測しています。はじまりの五家や平民なんかの枠組みを超えた……王、とでも呼ぶべき存在に」
「慧眼だね。己も彼女は魔王になるのだと思っているよ。彼女本人も王様になりたいと言っていたし」
「恐らくは、その言葉は実行されるのでしょう。有言実行が運命の潮流によって成される。これは一応観測結果であり、感覚の話でもあります。……その王、魔王、でしたか。それなるものの所業が暴君となるか賢王のそれとなるかはわかりません。エンジェのことですから、全てを愛することで全てを支配下におく、くらいはしそうなので……善悪の判別がつくのは、私やエンジェが死したあと、後世の歴史批評家に依るものとなるでしょう」
スヴェナはそこで一度言葉を切って……そして、続ける。
「しかし、ここでエンジェがアリスを殺した場合……暴君や暗君よりも更に酷いものになる。そんな感覚が……予感があって」
「それは、たとえば、どんな?」
「……人間は悪性の生き物です。欲望の生き物です。貴族は顕著で、平民にもそういう者がいる。此度アリスの行ったことは許されざる行為であり、此度の処罰は妥当性がある。……その解釈が、広がってしまうような……気がする、と言いますか」
「いいよ、続けて」
「以前、キャレムと共に学園に『挽歌の獣』を放った魔法使い……ダルク・クロノミコナの目的も同じものだったと聞いています。つまり、野心が許せない。他者に影響を与える欲望が許せない。だから消す。殺す。……ダルク・クロノミコナには妥当性が存在しなかった。彼は彼自身の野心のためにそれを行い、追われる身となった。一応、存在抹消の里の人達からそう聞いています」
似ている、と。そう思いまして。
彼女は呟く。
「エンジェにそういう野心はありません。だからこそ厄介で……彼女はいずれ中心人物となり、指導者となり、為政者へと、王へとなっていく。だから、その道中に存在するアリスのような人物の全てに容赦が
「そうだね。止める理由が見つからないから」
「あなたは多分、面倒見が良いんです。一応。あなた自身のために動いているだけに過ぎないとしても、余剰リソースで他人のためを想える怪物。それがあなたです。……けれど、決して善性ではない。エンジェのやりたいことが"野心を持つすべての者、罪を犯した、犯さんとするすべての者の粛清"になった時……あなたは彼女を止めない。どころか、それを行うための力を彼女に添える。なぜならあなたには、人間が根底に持っている"悪事への忌避感"や"常識に離反することへの恐れ"が存在しないから」
少女A''。アンフィ・エレメントリー。
スヴェナ・デルメルグロウ。
まさか──君がそこまでの理解者になっているとは思わなかったよ。そこへ辿り着くのはエンジェかアナだと思っていたから。
「スヴェナ。君はエンジェに、そうなってほしくない。そういうことでいいかな」
「はい。大切な妹に、そうなってほしいと望む姉はいませんよ」
「そうかい。──なら、考えないといけないね。アリス・フレイマグナを救う手立てを」
ただ。
「己は知恵を貸さないよ、スヴェナ。エンジェのためにアリス・フレイマグナを救う。それは君のエゴイズムであり、己には関係のないことだから」
「わかっています。ただ、私が力を要請したのなら、それを聞いてくれるだけのキャパシティはある。そう思ってよいのですよね、一応」
「……既に策があるんだね」
「はい。少々過激で、手荒ですが」
成程、話をしにきた、か。
相談をしにきたわけではないと。
「いいよ。己の目的を害さないものであれば、力を貸してあげよう」
「ありがとうございます」
丁度……生徒Cや少女A'、エンジェ、シャニアの乗ったジェットコースターが頭上を駆け巡っていく。
魔法で感覚強化や身体強化を行っていないからだろう。ちゃんと楽しめているようで何よりだ。
「……では、次の話をしてもいいですか」
「ああ。なにかな」
「存在抹消の里。その存在意義についての……答え合わせ、です」
今度は漏らさない。
すごいな、君。さっきからクリティカルヒットばかりだよ。
「存在抹消の里……私を含め、ガエンさんやエギルさん達は、保険、ですよね」
「……」
「『快晴の雷』やその他の要因により、現行の魔法使いの全てが死滅してしまった場合の『血筋のストック』。それが存在抹消の里だと考えました。天上の地で見かけた言葉を使うのなら、バックアップ、というやつでしょうか。あの単語の意味を正しく理解できているかと言われると微妙ですが、一応、それなりに勉強しましたので」
「もし本当に君の言う通りだったら、『快晴の雷』が降り注ぎ始めた時、彼ら彼女らが里を出て自分たちの守りたいものを守りに出たことを咎めた。そうは思わないのかい?」
「ちゃんと言ったのでしょう? 里から出ないように、と。風の伝達を通してそのような指示があったと聞きました」
「そうだね。それはしたよ。だけど、その忠告を無視した者も多かった。あの地が本当にバックアップだというのなら、己は必死になって彼ら彼女らを止めるはずだろう」
彼女は。
彼女は、彼女は、彼女は。
意を決したように……神妙な面持ちで、次の言葉を吐く。
「
「──」
「それならば合点が行くんです、一応。あなたが存在抹消の里の人々に対して放任主義を貫いている理由も、生き返らせ、別存在とした者達に自由を与える理由も。──全ては、もう要らないから。……発想の出元は
少しだけ、ほんの少しだけ吐きそうになりながら。
「あの地には……もう一人の私達がいる。地下に空間があるようには思いませんでした。二家の魔法で精査しましたが、引っかからなかったです、一応。……けれど異次相を作り上げる魔法がある以上、保管場所に困ることはありません。……あの里にいる人間は、私を含め、元々何かしら特別な位置にいた人間です。次期当主、元当主、先遣隊隊長、研究所所長……この世に死は数あれど、それらすべてのもとにあなたが現れるわけではない。これは一応自惚れではなく事実として……"特別な人間"の死に目にあなたはその姿を現し、その魂を掠め取る。まるで第二の生を与えてあげる、とでも言いたげな口振りを用い、同意させる。──ガエンさん……いえ、アンドリュースさんが頑なにあなたを『詐欺師』と呼ぶ理由はそこにあると……私は考えています」
思わず漏れ出でてしまった、ではなく。
ヒトの首の位置に亀裂を生じさせ……そこから不可視のソレを零す。
己達寄生生物。その本体。
ヒトガタなど肉人形に過ぎない。こんなもの、いくらでも、どうとでもなる。
臨戦態勢……を通り越して、恐怖に身体を竦ませる少女に笑いかける。
「
「……──」
「して……その答え合わせ。何を理由とする。何が知りたい。何を望む。真実を知りて、その裏を取りて……
場に満ちていくは魔力──ナノマシンに非ず。
サイキックと呼ばれた、己達のチカラ。
虎の尾、龍の尾。
少女よ、ヒトよ。知的好奇心は認めようが、踏みつけてはならぬ尾もあるぞ。
「か……く、にんを。取りたかった……だけです、一応」
「ほう、言葉を発するか。この威圧の中で、よい気概だ。して……確認とは?」
「……。……っ、……使用、許可を」
促すことなく言葉を待つ。
荒い呼気の中に言葉が溜まり、空気中へ放り出されるまでに多くの時を要するのが見て取れる。
けれどそれでも、彼女は言の葉を継いだ。
「私の、命。そして……存在抹消の里の、皆さんの……命。それらすべてを……
「使い潰す。──それは、
「所有者は……あなたですから、一応」
──良い理解だ、
本体を引っ込める。
肉人形を被り、気配を調整する。
重圧は嘘のように消え去って……残るはただ、荒い呼吸を繰り返す少女だけ。
「いいよ。好きに使いなよ。結果君があの里の誰にどう思われようと、復讐の対象となろうと……己は関与しない。それは勿論わかっているよね?」
「……はい」
「なら己は何も言わない。驚かせてすまなかったね。ああそれと、先程吐きそうな顔をしていたから、少しだけ訂正をしておこう。確かにあの里に君達は記録されているけれど、もう一人の君達が異次相に保管されている、なんてことはないよ。そこは安心していい」
記録されているだけだ。
いつでも複製を作ることができる、というのは正しいけれどね。
「そう、ですか……ありがとうございます」
「お礼を言われることではないけれどね。……それで、話は終わりかい? 疲れただろう、そろそろ切り上げて、リフレッシュも兼ねて遊びに行っても──」
「いえ、まだ……もう一つだけ、訊きたいことがあります」
「物好きだねェ。そして、訊きたいこと、か。策の提示でも答え合わせでもなく」
「はい。……。……ケニスさんについて、です」
……。
君、凄いな。そこまでだとは……本当に思っていなかった。
存在抹消の里の存在意義についてだって驚きなのに、己が内面で個体名さえ呼ばないようにしている存在に目を付けたか。
「彼の、二面以上を認識できないという"欠陥"。……シャニアさん、シェリー……そして存在抹消の里に住まう元、及び現デルメルサリスの系譜たる魔法使い方々と相談、研究を重ね……
「それは、シェリーの診断……彼がトラウマを抱えているからである、ということを通り越しての結論かい?」
「はい。あれは誤診……というか、似た事例過ぎて間違えたと、シェリーは言っていました。ああ、私には内緒で云々の話は彼女から聞いているので意味のないものと思ってください」
「口が軽いねェ」
生徒Cも浮かばれないよ、それじゃあ。
「して、あり得ないとは?」
「そのままの意味です。現在、デルメルサリスの力を持つ三人が総力を挙げてケニスさんに教えを授けています。トラウマ克服のための結界迷路も用意しましたし、それ以外のあらゆる方法を試し……けれど彼は二面以上の結界を使えない。……魔法使いの技量は生まれた時から死ぬる時まで変わりません。ですから、普通であればここで諦めます。ケニスさんはその程度の力しか持っていなかった、と。しかし、私もシャニアさんもシェリーも、全員が同じ答えを持ちました」
「それは?」
「彼の生まれ持った技量は、シャニアさんに並びます。腐っていた期間が長いために訓練は必要ですが、あの方も天才の類でしょう。なんせ」
なんせ──。
「
──素晴らしい。
「ですから、訊きたいのです。……私達は謂わば養殖。二家の属性を使い得るのは、あなたがそういう施術を施したからに過ぎません。ですが、彼は天然物でしょう。……なぜあなたは彼を放置しているのですか? 彼こそ……保護すべき存在なのでは?」
「今君が口にした通りだよ、スヴェナ。──手を加えたくない。養殖にしてしまいたくないから、だ」
さて、じゃあ。
後少しばかり、彼のお話をして……スヴェナには遊びに戻ってもらおうか。
折角稼働させた遊園地だ、遊んでもらいたいからねェ。