魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Sin17-4.「七日休みの不穏」

 アリス・フレイマグナ、『彼』が悪趣味な覗きを、ケニス・デルメルクラン、アンジー・エレクトニカロルス、シェリー・クローヴサリスが真面目な話を、エンジェ・エレメントリーとその家族が不穏な会話を繰り広げている中──「いつものメンバー」であり、且つそういう話に関わっていないメンバーもまた、それぞれやるべきことをやっていた。

 

「──というわけでぇ、第一回・シャニア先輩が『せぇんぱぃ』に勝つ方法を探そうの会、始めたいと思いますぅ~! どんどんぱふぱふぅ」

「あの……アナさん。私はこの会、承服していない、と言いますか。余計なお世話と言いますか……七日休みの最中とはいえ、やるべきことは沢山あると言いますか……」

「そうですかぁ? でもでもぉ、……スヴェナ先輩。わたしとかぁ、あとシェリーちゃんがぁ、"やるべきこと"をやって……良いと思いますぅ?」

「……。……シャニアさん。一応、この会は開いておきましょう。私はエンジェさんと『一応平民の人』の幸福も願っていますが、シャニアさんとエンジェさんがくっつくのも、それはそれでありだと思っていますので、一応」

 

 目を剥くシャニア。

 彼女には既にスヴェナの「本当の言葉」が聞こえているけれど、それを加味しても何を言われたのかわからなかった。

 否、言葉の意味はわかるが、アナに賛同した理由がわからなかったのだ。

 

「あ、あはは……あたしも賛成かもです。アナちゃんを一人にするわけにはいかないというか、あたし、アナちゃんを監視する名目でこの学園に来ることが許されてて……でも、あたし一人じゃアナちゃんを止めきれないかもしれないから、こういう平和な話題の方がありがたかったり」

「監視、ですか? ……そういえば特別体験入学生の皆さんは全員交流があるのでしたか。ええと、私のことはひとまず措いて擱いて、なぜアナさんの監視を? ……もしや、死霊病毒(ネクロクラウン)だから、ですか? 始祖ディアナの悪評こそ絶えませんが、分家の皆さんはそのイメージを払拭しようと頑張ってらっしゃる方々ですから、そこまで心配する必要はないかと思いますが……」

「えへへ~」

「一応聞きますが、何を照れているんですか?」

「あはは……ははは……」

 

 何やらどうにも話が通じない。

 となれば、と……シャニアが残る一人に助けを求めるのは自然な流れだった。

 

「その縋るような目をやめてください、シャニア先輩。ただ、答えはあります。単純な話、アナちゃんは危険なのです。ああ、人物としてというより、行動力があり過ぎて、という話ですね。先輩も遭遇した通り、学園占拠事件の際はアナちゃんが大立ち回りをしたことがあったと思います。『挽歌の獣』、でしたか? それを相手に単身で戦った、と」

「ああ……そうでしたね。けれど、あの膨大な報告書の……一部教師でさえ音を上げたとさえ言われていたあの事件の詳細に良く目を通していますね」

「資料を読むのは好きなので。話を戻しますが、その件は日常茶飯事なのです。アナちゃんは些か戦闘狂なところがありまして、目を離すとふらふらとどこかへ行って、危険な目に遭っていることが多い。これでアナちゃんが弱ければもっと厳重な監視か、あるいはとっくに死しているのですが、悲しいことに彼女には充分な戦闘力があるため、戦い得てしまいます。さて、シャニア先輩。わざわざ危険な場所に赴き、戦い、勝利を収めて帰ってくる。これだけ聞けば魔法使いとしての……そうですね、魔物討滅などの仕事に天性の才能があるように聞こえるでしょう」

「……待ってください。今、帰ってくる、と言いましたか?」

「流石です、シャニア先輩。はい、アナちゃんは満足すると帰ってきます。勿論帰ってくるな、というわけではないのですが、魔物の巣を荒らした後、もしくは魔物の怒りを買った挙句の帰還となった場合──まぁ、起きる悲劇は想像に難くないでしょう」

「そのためのあたしだったり……。フィジクラッシュはそういう執拗に追いかけてくる魔物を迎撃するのに向いてますから」

 

 無論。

 本当の理由は全く違うし、話のほとんどは即興で練られたものである……が、「アナが厄介事を起こし」、「他の四人が対処する」というのはこの五千年間ずっと続けてきたことなので、アドリブの苦手なカナビでもすぐに対応できた、という次第である。

 

「普段はぁ、『せぇんぱぃ』がいるからぁ、そういうストレスもないんですけどぉ……今『せぇんぱぃ』、どこにもいないからぁ、ちょっと外に出たいって気分があったりしてぇ」

「わかりました。私に関する話をしてください。今は……聖護魔導学園に迷惑をかけるべき時期ではないでしょうし」

 

 ──この場にいるシャニア以外の心が一致する。

 ああ、この子、将来苦労人になるなぁ、と。

 

「それで、アナちゃん。シャニア先輩が『先輩』に勝つためには、って話だったと思うけど……実際勝つって、どうやって? どんな勝負で、なの?」

「勿論恋の勝負ですよぉ! ──あ、ちなみにぃ、わたしは『せぇんぱぃ』が好きなのでぇ、シャニア先輩がエンジェ先輩を奪ってくれたらぁ、『せぇんぱぃ』がフリーになる……なんて下心はまぁったくないですよぉ?」

「なったとしてもアナちゃんには振り向かないでしょう」

「……イリスちゃん? なぁにぃ? 喧嘩、するぅ?」

 

 今の会話を聞いて、シャニアはほっと安堵を零す。

 つまるところ話の主題はシャニアではなく『彼』の方であるのだと。矢面に立たされてはいるが、槍玉には上げられていないのだと。

 

「一応聞いて起きますが、シャニアさん。『一応平民の人』のことはどう思っているのですか?」

「へ?」

「恋敵なのでしょうか。それとも、エンジェを挟みさえすれば、同じ恋人として認識しているのですか?」

 

 まさかのバックスタブである。

 どちらかというとあなたは私を助けてくれる立場ではないんですか、という目線をスヴェナに向けつつ、シャニアは……言葉を吐く。

 

「申し訳ありませんが、私から『噂の平民さん』に対しての感情は……嫉妬ばかりで、好意的なものは無いですよ」

「でしょうね。もしここでシャニア先輩が『先輩』に好意的であったら、エンジェ先輩と同じ気質を疑っていましたよ。ただ、嫌い、というわけでもないのでしょう?」

「ああ、それはそうですね。嫌う理由がありませんし。……得体の知れない方である、とは思っていますが」

「それはここにいる全員が思ってるから大丈夫だと思う……思います、シャニア先輩」

 

 となると、である。

 

「勝つ方法……も、何も。『噂の平民さん』をどうしたところで、そして私がどうなったところで……エレメントリーの御令嬢の気質が変わらない限り、この話題に着地点は無いのでは?」

「……あぁ~。そういえばあの人、博愛主義者でしたっけぇ? それは……確かにぃ」

「よって議題の変更をですね。そう……特別体験入学生の五人の、聖護魔導学園へ来る前に何をしていたか、等の話を……」

「それはあまり面白くないので、違う話がいいかと」

「あんまり広がらないねぇそれぇ」

「あたしも面白い話持ってないです」

 

 となると、である。再び。

 しかし目線はシャニアではなく──。

 

「……一応、私も、その」

「スヴェナ・デルメルグロウ。デルメルグロウ自体が謎に包まれた家ですし、訊きたいことも沢山あるのでは?」

「それはぁ、確かにぃ?」

 

 スヴェナだ。

 元々スヴェナには関心のあったアナ、そして『彼』の被害者という点で気になっているイリス。

 また、単純な強さとしてカナビも気になっている様子で──スヴェナは白旗を上げることになるのである。

 

 

 といっても、スヴェナが話し得る「デルメルグロウ」についての話などそんなにない。

 なぜってスヴェナが「デルメルグロウ」を知らないからだ。よって彼女が話す内容は、存在抹消の里での話になる。罷り間違っても四大元素(エレメントリー)での話などできたものではない。

 

「デルメルグロウは……魔法自体は次元生育(デルメルグロウ)というもので、主に肥大する空間、膨張していく次元を扱う分家になります。ただ……一応、皆さんの顔が疑問符になっている通り、言葉で言ってもよくわからないだろう魔法なので、あまり有名にはなりませんでした」

「いえ……私は本家当主ですから、意味は分かるのですが……それに特化する理由がわからないというか」

「わたしたちはぁ、意味もちんぷんかんぷんですよぉ?」

 

 二人の指摘は尤もである。

 スヴェナだってデルメルサリスの魔法を勉強していくうちに、はて? となった。なぜってこの魔法。

 

次元空間(デルメルサリス)の基礎中の基礎の魔法……ですよね、それ」

「はい。わからない方向けに説明しますと、結界を作ったり、構造上無理な空間を作ったり、あるいは特定の部屋を引き延ばしたり……ということに使う魔法です。デルメルサリスであれば、ケニスさんのような余程の苦手が無い限りは誰でも使い得る魔法ですね」

「認識錯誤もその一種なんですか?」

「はい。認識錯誤は対象の空間把握能力を引き延ばしたり縮小したりしています。正確に言うと、空間把握能力によって知覚される空間を、です」

「ええ、言う通りです……から、わかりません。デルメルグロウは……そこに特化する。けれど認識錯誤の特化ではなく、あくまで空間や次元の膨らみを……」

「ですから、というわけではありませんが、私の生まれた領地では貴族であった家族皆が農業をしていましたよ。私達に特化するものなどなく、暮らしは平民と何ら変わらずとも良い、と」

 

 驚きの顔に染まる一同。

 いや、カナビだけが「へぇー」といった様子だ。それは肉体強化(フィジクマギア)にもそういう生活をしている者がいるからだろう。

 

「本家の私が言うのもおかしな話ですが……次元空間(デルメルサリス)はその魔法の特異性から、特権階級意識を持つ貴族が多いので……そうも無欲なのは珍しいですね」

「でもでもぉ、ケニス先輩とかぁ、まさにそんな感じ、じゃないですかぁ?」

「いえ、彼の家の現当主様はそれなりに……。あれはあくまで彼が三男だから、です」

「耳の痛い話ですね……。聖護星見(クライムドール)も特権階級意識を持つ分家が多いので……農業、そして平民の暮らしを、と望まれて行い得る者は……少ないでしょう」

「あたしたちは野宿とか平気でするからわからないけど……アナちゃんのところはどうなの?」

「わぁ、カナビちゃんってばぁ、意地悪なんだからぁ。……始祖ディアナの悪印象払拭のために尽力してるとはいえぇ、やっぱり貴族である、という意識はあるっぽいですよぉ。多分エレメントリーの薄れに薄れた分家とかじゃないと共感できないんじゃないですかぁ?」

 

 魔法。それは超常なる力。

 これを揮えるというだけで──人間というのは簡単に優越感を得る。

 だって、使えない人間がいるのだから、と。

 

「でもぉ、実際どうなんだろうねぇ?」

「一応、何がですか?」

「だってぇ、平民にとってはさぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ってことですよねぇ? それってぇ──怖く、ないですかぁ?」

 

 それは。

 

「……死霊病毒(ネクロクラウン)聖護星見(クライムドール)の一部を除き……私達魔法使いとて、頭部を農具で殴られたり、心臓を矛で突き刺されたりすれば……簡単に死にますよ」

「でも……守れることは、確かだよね。あたしたちはできて、平民にはできない。……この場に純粋な平民がいないからわかんないけど……実はあたしたちって、怖い存在なのかな」

「『一応平民の人』も平民とは言えませんし、どうなのでしょうね」

 

 イリスは思い出す。アンブロシウスで見た記録。

 デザインベイビー……あるいは今の魔法世界で生まれた魔法使いを、「同じ人間だとは思っていない」と言っていた『彼』を。価値観は流動的に変わるとも言っていたけれど、実際は。

 

「アナさん。一つ伺います」

「なんですかぁ、シャニア先輩」

「『噂の平民さん』、怖いですか?」

「え? うーん、怖いとかは無いですねぇ」

「では、同じでしょう。彼ならば死に難い死霊病毒(ネクロクラウン)聖護星見(クライムドール)肉体強化(フィジクマギア)……どんな魔法使いであろうと瞬時に殺し得るはずです。けれど私達は彼と共にいて、彼を怖いとは思っていません。……結局相手の人格の問題であって、種族……というとおかしな話ですが、魔力適合率の有無ではないように思いますね」

 

 何か……重厚な扉が開くような音がした。

 いや、幻聴だ。それはこの場にいるシャニア以外、全員がわかっている。わかっていないのはその幻聴を聞いていないシャニア自身だけ。

 

「ああ……なるほどぉ。『せぇんぱぃ』がシャニアさんの()()()()()()()()()()()のって、こういうことですかぁ」

「シェリーちゃんでも呼ばれてないのにね」

「私は最近になって呼ばれるようになりましたので、高みの見物ですね」

「えー、ずるい!」

 

 今度は二人……シャニアとスヴェナが疑問符を浮かべる番だった。

 シャニアはともかくスヴェナは認識錯誤関連の話だろうな、とあたりを付けて、けれど覚えがない。

 

 彼女らは"今の名前"も"元の名前"も呼ばれていたはずでは、と。

 

「呼ばれている気がしているだけなんですよぉ、スヴェナ先輩。あ、スヴェナ先輩とシャニア先輩にはわかんないことなんですけどぉ」

「『先輩』は私達のことを基本ナンバリングかラベリングでしか呼びませんからね。あるいは個体名として認識していない、という可能性もあります。今の私はそちらではありませんが」

「本気で興味がないっていうか、覚えられないんだろうねー。あたしも最初は戸惑ったけど……。あ、そういえばアンジーちゃんは名前で呼ばれるようになってたね」

「えぇ~! 教えてよ~! わたしが『せぇんぱぃ』に呼ばれたがってるって知ってるくせに~! イリスちゃんもアンジーちゃんも何したの~?」

 

 解説を聞いても分からない。

 だって『彼』は、普通に名前を。

 

「んー、さしずめ、シャニア先輩は少女C、スヴェナ先輩は……ああ、元からスヴェナ、かなぁ」

「私達は元々始……後輩A、B、C、D、Eと呼ばれていましたからね」

「そんな……そんな呼称、聞いたことありませんが……」

「それくらい凄いことなんですよぉ、『せぇんぱぃ』から名前を呼ばれるの、って。だってそれって」

 

 ──運命の潮流に引き摺り込まれることと同義、ですからねぇ。

 

 

 生徒Cは言う。

 

「やっぱり……アリスのやつ、実力を隠してた、ってことだよな、これ」

「そうとしか考えられませんね。そして、今にも逃げる気でしょう。どうしますか、ケニスさん」

「……他家の問題だから、って見て見ぬふりをとかさ。……できる性格じゃあ、ねーんだわ」

 

 腰を落ち着けていた生徒Cが──立ち上がる。

 それを見て、アンジーとシェリーは。いや、アンジェリカと始祖CCは互いの顔を見て頷き合った。

 

「デルメルクランから三男坊が一人いなくなることくらい、始祖シエルは気にしないでしょう。当主が、となれば話は別ですが」

「いいわねーこういう展開。期限は七日休みが終わるまで。それまでに──あんたとアリスの逃亡先を作り上げて、エンジェたちから逃がす! 力づくで!」

「え、ちょ……何もお前達までそんなあぶねー橋渡らなくたって。それに、エンジェも今戦ってくれてんだ。自分の使命と、自分の感情とをぶつけあって。だから……逃がす、つったってそこまで酷い事にはならな──」

「何言ってんのよ。当主の下した判断よ? 当主が罪人の処刑に失敗した、なんてことになったら、そんな噂が漏れ出でたら……四大元素(エレメントリー)は舐め腐られる。だからあの子は本気で来る。策が見つからない限りはね。そうなった時、あんただけじゃ対抗は疎か抵抗もできないでしょ」

「そこで私達の出番です。期末テストのレベルを見た感じ、来年の入学など正直どうでもよくなりましたので……それよりもあなたとアリス先輩を逃がすことの方が──燃えます」

「だと思ってたわ。この前あんたの趣味を見た時から、こーいう展開好きなんじゃないかって思ってたのよ。私はこの徹底抗戦が、あんたはその先が。()()()()()()()なんて思ってもみなかったけど……楽しくなってきたと思わない?」

「ええ。加えてエンジェ先輩は次期当主でありながら歴代最強と噂されるほどの魔法使い。逃がし甲斐もある、というものでしょう」

 

 肩を竦める。

 エンジェや母親A、父親Aが辿り着いた結論とは裏腹に、こっちはこっちで、だ。

 

「アンジーとシェリーの実力を考えれば、エンジェから逃げ果せることも可能だろう。どうかな、アリス・フレイマグナ。択が生まれたよ。──魔法大戦を引き起こし、エンジェの部下として一生を終えるか、四大元素(エレメントリー)の全てから追われる身となり、エンジェに罪人を殺せなかった者というレッテルを貼り付けた上で……ケニス・デルメルクランと共に世界のどこかへ逃げるか」

「……究極の二択ですね。どこかの辺境で顔と名前を変えて静かに暮らす、はできないんですか」

「できるよ。その場合は己が悪者になるかな」

 

 その第三の選択肢もありだ。

 虚構の神へと意識が向いている限り、エンジェの直観が働かなくなる。それは恐らく損失だ。

 だが、エンジェに罪人を始末できなかった、というレッテルが貼られることも……彼女の損失と言える。

 

 とはいえ己はそういうことを気にするタチではなくてね。

 そこまでの人間性を持ち合わせてはいない。

 

「無論、第四の選択肢として、エンジェは罪人をみすみす逃し、さらに魔法大戦まで始まってしまう、というのもあるけれど」

「どれを選んでも最悪……。魔法大戦も起きず、お姉さまにおかしなレッテルが貼られることもなく、私は誰と一緒でもなく辺境で暮らす、ということはできないんですか」

「それも可能だ。ただしその場合、君には一度死んでもらわないといけなくなる」

「……生き返らせる力が、あなたにあるから」

「そう。だけど……己が君を生き返らせるかどうかは、君にどれほどの価値を見出すか次第、だけどねェ」

 

 魔導言語程度ではダメだ。虚構の神の力でもダメだ。

 "馬鹿なアリス・フレイマグナ"以上のものがほしい。

 

 となれば。

 

「……いえ、第五の選択肢、あるじゃないですか」

「うん?」

「"あんな化け物、四大元素(エレメントリー)の次期当主と次元空間(デルメルサリス)の次期当主、そしてそれらの取り巻き()()()()止められなくて当然だった──"と、周囲にそう頷かせるくらいの実力を私が見せつければ」

「そうなったら現当主が出張ってくるだろうし、これ幸いとばかりに肉体強化(フィジクマギア)が鬨の声を上げるだろうねェ」

 

 今が攻め時だ、って。

 

「……じゃあ、第六の選択肢」

「まだあるのかい?」

 

 アリスは「はい」と短く呟いて……懐から小瓶を取り出す。

 

「濃縮還元版魔物化薬。ダルク・クロノミコナが作り上げたものを、私なりに改良……いえ、改悪かもしれませんが……そうしたものです」

「……君、薬学も行けたのか」

「いつか逃げるつもりでいたのですから、一通りは修めています。誰に見せる気もありませんでしたが……ああ、そうそう。丁度沖合の方に、お姉さまとシャニアさんが殺せずに飛ばした『ジェヴォーダンの魔物』の巨大肉塊がありましたね」

 

 薄暗い……夕闇のような表情になっていくアリス。

 倫理も善性も、欠片もない。愛されていることは嬉しいけれど、それはそれ。

 面倒事になるくらいなら──全てをうやむやにして。

 

「エレメントリー本家は魔法大戦を引き起こすつもり。ケニスさんたちはお姉さまたちと戦うつもり。『残照回廊(リメノンス)』やダルク・クロノミコナという燻ぶる火は未だ消えておらず、私の手元には大きな大きな火種が一つ。──あなたが初めに私へ抱いた印象の通りなんですよ」

「……保身の塊。自分のことしか考えていない。己があの時君に向けた目は、見透かされていたか」

「はい。私はアリス・フレイマグナ。お姉さまが博愛主義者なら──私は、自己愛主義(ナルシスト)なので。……もう結構なんです。誰かに使われるのも、誰かのそばにいなきゃいけないのも。だからお姉さまにもケニスさんにも悪いとは思いますが──」

 

 ──炎熱熔魔(フレイマグナ)

 

 呟き、片腕を炎と化すアリス。

 

「気が早いよ。七日休みが終わるまで待ってくれたまえ。……そうだな、楽しいことをしてあげよう。七日休みが終わるまでの間、己は君を凍結させる。君はこの状態のまま、次の瞬間には七日休みが終わったその日を迎え、他者は君の一切合切を認識できなくなる。思い出すことも意識をすることも、だ。他の準備は可能だけどね」

「……いいんですか。何か実験をしたかったのでは?」

()()()()()()()()。──創り変えるよ」

 

 正確には、虚構の神に今何ができるかが、だけど。

 エンジェの直観についてはまだまだ分からないところが多い。けれどこっちのタネは割れた。

 

 虚構の神。虚実の神。嘘を本当にする神の断片を持つこの少女の本来の力は──表裏反転。

 

 隠されていることの全てを暴き出し、提示された全てを隠す、フレイメアリスらしい能力だ。

 

 おかげで己の秘密まで始祖やシャニア、スヴェナにまで伝わってしまったようだし、父親Aの直感も働きすぎていたようだからねェ。

 

「次の瞬間、君の目の前には例の肉塊があることだろう。その後何をするかは君に任せるよ」

「……わかりました。それでは、『とんでもなく強い平民さん』。残りの四日間──仮初の平和を、どうぞお楽しみください」

「無論だとも。それでは、ごきげんよう」

 

 閉じる。商品名『COLD SKIP』。対象者をナノマシンによる凍結状態とし、「過ごす必要のない日数を休眠状態で送らせ、長寿を得る」……という倫理的に大問題だった『COMPANY』の商品が一つ。

 実用した人間は少なかったけれど、それでも再度それが開いた時に対象者が生きていたことは己が確認済みだ。

 

 樹殻に魂を食べられて保管されて、あとから引きずり出される……なんて遠回りをしなくともね。

 

 未来へは、簡単にいけるのさ。過去へ戻れない代わりに、だけど。

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