魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Sin18-1.「魔法大戦の兆し」

 七日休み、最終日。

 さしもの己達も七日休みの全てを共にいた、というわけではない。遊園地に行ったりショッピングに行ったり、あとは魔法を使った娯楽……この時代ではあまり見かけない、始祖五人らだけが覚えているものなんかを試したりをしたけれど、割合各々の時間、というものがあった。

 それぞれの目的、それぞれの思惑の為に動く時間が。

 当然ながらアリスのことは皆記憶から消えているから、本家より帰ってきたエンジェにアンジーとシェリー、ケニスが何かを仕掛ける、なんてことはなかったし、エレメントリー本家がデルメルサリスやフィジクマギアに仕掛けることもなかった。それらは全て忘却の彼方にあり、己達の記憶にはいないものとされたが故に。

 

 惜しむらくはエンジェと大してイチャイチャできなかったことかなぁ、なんて考えていた矢先の最終日。

 

 何と彼女の方からデートのお誘いが。シャニア付きで。

 

「どういう風の吹きまわしなのかな、これは」

「だから、デートよデート。結局七日間あんまり遊べなかったし、最初に行ったあの不思議な場所でもアンタ保護者みたいに眺めてるだけだったじゃない」

「いやまぁ、己は色々管理があったからねェ」

「よって、本来私とエンジェだけのデートの予定でしたが、あなたも誘ってあげた、というわけです」

「……や、なんでシャニアが偉そうなのよ。アンタってそういうキャラだっけ?」

 

 成程。そういう風の吹きまわしか。

 別に良いんだけどねェ、二人だけで行ってくれても。

 

 にしても。 

 というか。

 

「それにしても、というか。……デート場所が室内運動機能場なのは……なぜなんだい? 元からそういう予定だった……とか?」

「はい。いえ、遊ぶことは遊びましたし、勉学にも励みましたが……そういえば最近身体を動かしていないし、魔法も使えていないな、と思いまして」

「室内運動機能場なら周囲を気にせず魔法が使えるし、まずそうなのはアンタがなんとかしてくれるでしょ?」

「……物騒なデートもあったものだねェ」

 

 とはいえ……俄然楽しみになってきた、というべきだろう。

 ステッキをくるりと回して地面に突く。

 

「まずは君達二人の勝負、ということでいいのかな」

「ええ。でも総当たりよ。だから余力は残しておきなさい、シャニア」

「ご冗談を。エレメントリーの御令嬢と戦うにあたって余力を残す戦い方など、負けを意味しますから」

「あらら、油断はしてくれないか。──じゃ、全力で」

「無論です」

 

 では……と、懐から取り出したるはオールドフェイス。

 知っている者が見れば「絶対そういう用途じゃない」と叫び立てるだろうけれど。

 

「このコインを弾くから、床に落ちた瞬間が開始の合図だ。ああ、これを無理矢理踏みつけて、みたいな不意打ちはダメだからね」

「上等!」

「不正などいたしませんとも。ただ──名乗りはあげさせていただきましょう!」

 

 ピーンとコインを弾く。

 

「私の名はシャニア(CHANIA)デルメルサリス(DILMELCALIX)! 歴代最巧と謳われし次元空間(デルメルサリス)が次期当主!」

「自分で名乗るのは恥ずかしいものがあるけど──歴代最高って言われてるらしいから。私は、エンジェ(ANGEL)エレメントリー(ELE<EMTLY)。同時にこうも呼ばれてる。──最大火力、って」

 

 咄嗟に室内運動機能場を強化する。

 魔力の増幅率と適合率が跳ね上がった。今のは開花……いや、相乗効果による覚醒?

 

 とかく、名乗りと共に放たれた名前の無い魔法。四属性複合魔法と次元力場の砲弾は──()()を撒き散らして衝突する。

 

 必要のない機能ではあるけれど、つけておいてよかった。

 ごくり、と唾を飲み込む。

 

 ──あ、マズい。

 

 サイキックも使う。ただのナノマシン強化では耐えられないと判断した。

 その判断は、果たして正解だった。

 四大元素と次元空間の全力──そのぶつかり合いによって生じたのは、次元の歪み。次相の亀裂。

 ──そこからこちらを覗く、無数の目。

 

「ダメだよ、君達の出番は今じゃないからねェ」

 

 それらを押し戻して亀裂を修復し……二人が魔法へと込め続ける魔力が切れるのを待つ。

 いや。

 

 余力を残すつもりはない、どころか……これで二人とも昏睡まで行く気じゃないか、これ。

 己の不戦勝でいいのかな?

 

「っ、次元突槍(デルメルランス)!」

「火力はこっちの勝ちね! その上で、斥壁吸因(シールディール)

 

 全力の砲撃はそのままに、だ。

 次第に押し切られゆくシャニアが、正面の魔法を維持しつつ別角度からの攻撃を行う。空間の槍。当たれば致命傷も免れないソレは、しかし土壁に阻まれる。ただの土壁ではない。三属性複合魔法だ。風属性と水属性も織り込まれたその壁は、「弾き返しつつ引っ張る」という力場を形成する。これにより空間の槍は壁に当たる寸前で静止した。

 ──その魔法を作り出した……土壁へと手を翳したエンジェの足に絡みつくは空間の鎖。

 

「っ!?」

「風の感知内部で生じた魔法は感知できない……基本的に渦型の感知を使っているがゆえの弊害! 直すべき場所だとわかっていても、こうして魔法の撃ち合いをしている時はそこまで気が回らないことは織り込み済、み──?」

紫電一蹴(エレクトニカロルス)!」

 

 アンジーが今名乗っている分家の使う魔法。風と火の属性複合魔法。本来であれば雷が如き速度で動く魔法だけど、エンジェは「速度に耐え得る身体への瞬時防御」と「雷速で足を踏み出す効果」に着目したらしい。それによって起きるは、空間の鎖が物理的な悲鳴を上げて引き千切られるという不可思議な現象。

 千切られた空間は当然空間の狭間を生じさせる……が、そこへエンジェが落ちることは無い。ちゃんと知識があるのか勘なのか、踏むことは……踏み外すことは無い。

 

 さて、一気に劣勢へと立たされたのは勿論シャニアだ。正面の魔法にも押し切られつつあり、そのフォローにと放った二つの魔法も防がれた。

 当然横合いの魔法へ割いた魔力リソース分押し切られる速度は上がり──そもそもエンジェの魔力量がとんでもない、ということも相俟って。

 

「きゃああああ!?」

 

 四色の奔流に飲まれ──跡形も無く、消滅した。

 

 ……けれど警戒を止めないエンジェ。放出していた魔法を消し、防御系統の魔法を周囲へと浮かべていく。

 

強制空間(エンフォースサリス)

「!」

 

 そうやって準備をしていたエンジェの身体が硬直した。そしてそのまま彼女は……自身が周囲に浮かべていた魔法へと突っ込む。手当たり次第に、あらん限りに。

 途中で彼女が自らの魔法を雲散霧消させなければ、その身は大ダメージを負っていたことだろう。

 けれどそれでもまだ身体を自由に動かすことはできないらしい。

 

「流石に引っかかってはくださいませんか」

「名演、だったケド? お遊戯会にでも出たら、賞を取れるかもね」

「ええ、まぁそれで満足しましょう。──こうしてあなたの自由を奪えたのですから」

 

 簡単な話だ。そもそも次元空間(デルメルサリス)は正面切って戦う魔法スタイルではない。

 こういう搦め手こそが真骨頂。魔法に飲まれたフリをして次元の狭間を渡り、敵の背後を取る。とはいえエンジェだってそんなことは十も承知だったからああして準備をしていたわけだけど……いやはや。

 空間の狭間から()()()()()()()()()()()()使()()とは……腕を上げたのか、初めからできたのか。

 当然始祖CCはできるだろうけど、スヴェナもできるのかな、こういうこと。

 

「降参するならそう言ってくださいな。口は自由にしてありますので」

「ええ、それが間違い。──氷融針(ドライズ)

「っ!?」

 

 何かが凍り付く。

 エンジェの口から発された呼気は冷気となり、それが空間を……直接凍らせないまでも、大気中の水分へ干渉、これを凍らせることに成功した。

 露になるのはまるで蜘蛛の巣のような形をした空間の糸。凍った大気を貫くそれらは、凍っていないからこそ顕著になっている。

 糸はただ、エンジェの身体に巻き付いて、その身体を縛っていただけだった。

 

次元明哲(デルメルアロン)!!」

 

 けれど何か対処をされる前にさらなる魔法が放たれる。

 巻き付いた糸から染み出すは次元の水。速度は遅いけれど、じわじわと糸と糸の隙間を埋めるように広がっていくそのナニカは、やがて完全にエンジェを覆い尽くした。

 

「降参をしてください! このままだと窒息死させてしまいかね──」

「それはこっちの台詞。降参して、シャニア。じゃないとこの鎌がアンタの首を取るから」

 

 いた。

 未だ空間の狭間にいたはずのシャニアと、そんな彼女の首に水と風で作った……ウォーラークラフトのような魔法で形作られた鎌、そしてそれを持つエンジェが。

 首に死をかけられた少女が目を瞠るのは当然だろう。だって彼女の目の前には凍り付いたエンジェがいるし、何よりまだ狭間をでたつもりはなかったのだから。

 ただ事実としてシャニアは現実空間に戻ってきていて、その首に詰め手がかけられている。

 

「……参りました」

「よろしい。じゃ、魔法解いてくれる? 維持大変だから」

「ええ……」

 

 解ける。全てが。

 そして──「っぷはぁ!」と。凍り付いていたエンジェが、ようやくできた呼吸に安堵を吐き出した。

 

「え……」

「ひゃー、シャニアが騙されやすくて良かったわ。私が死ぬかも、ってとこまで追い詰められたらちゃんと検知しない読みが当たったようで何より」

 

 ばっとシャニアが背後を振り返れば、にっこり笑顔で手を振って……水として崩れていくエンジェの姿が。

 鎌も、エンジェも。全てが水。まさしくウォーラークラフトの魔法。

 

「な……な……」

「で、どこにいるのよアンタ。早く出てきなさいよ、負けたんだから」

「空間の狭間にさえいない!?」

 

 そう、その通りだ。

 シャニアの魔法が解かれたあと、当然ながらエンジェの氷も解かれるわけだけど、それが氷解すると同時、シャニアの身体はまた次元の狭間にいた。

 

 これは。

 

「認識錯誤……いえ、意識操作……?」

「どっちも四大元素(エレメントリー)の魔法じゃないじゃない。ま、真似したのは認めるケド。再現した、っていうべきかしら?」

「あ、あなた、とんでもないことを言っている自覚は……」

「あるけど、これくらいできなきゃ歴代最強なんて呼ばれないでしょ。姉さまの魔法理論書から着想を得て、氷と霧を使った幻惑魔法を創ってみたの。魔法を創る、なんて経験初めてだったから結構難航したけど……アンタを騙せるほどってことは、充分ってことでしょ」

 

 最後、足元に開いていた次元の狭間から水を回収して魔力に戻すエンジェ。

 

「成程。氷と霧で虚像を作り、それをシャニアに自身だと思い込ませることがあの魔法の真髄。ま、思い込ませるというより誤認させる……視覚情報を散らすことが目的か。その手段が次元の狭間へのアクセス。引き千切った空間の鎖は本質的にシャニアと繋がっているから、シャニアの使う次元の狭間による移動空間とも繋がっていると読んで、そこへ水の分身を注ぎ込み……分身がシャニアの首へ鎌をかけて、霧と氷がそれを彼女の視界へ移り込ませて、あたかも自分が空間の狭間より出され、さらには拘束も失ったと思わせる。エンジェにしては珍しい搦め手というかなんというか」

「正面突破でシャニアに勝てるとは思ってなかったし。だったら私も搦め手を使わないと、でしょ。どんだけ高い火力撃ち込んだって空間抱擁で逃げられちゃうのは目に見えてるんだから」

 

 良い魔法選択だ。

 けれどその天才性というか思考能力は……シャニアにより深い影を落とすだろうねェ。

 感覚型の天才だと思って見上げていたライバルが、頭まで使うようになったら。

 

「……『噂の平民さん』。私、あなたとの戦いは棄権します。……少し、お二人の戦いを見て……参考にします」

「参考になるかはわからないけれど、そうだね。そうするといいよ」

 

 置いていかれる。彼女の脳裏にあるのはそればかりだろう。

 無意識ながらに魂の言語を使って覚醒まで行ってのこの結果だからねェ。

 

「エンジェ、休息は?」

「要らないわ。魔力、あと九割はあるし」

「きゅっ!?」

 

 ……見た感じあっちは残り二割、という程度なのに。

 相変わらずの魔力バカだね。

 

「それよりアンタ、ここには事情知ってる奴しかいないんだから、本来の姿でやりなさいよ」

「ん? 別にこのままでも戦闘に支障は無いけれど」

「でも本気を出すときはあっち、なんでしょ? スヴェナから聞いてるわ、その辺」

 

 おや。

 ……存在抹消の里で変なことを吹き込まれたのかな。

 

 まぁいいだろう。それがお望みと在らば。

 

 特にゴキゴキ音が鳴るとか、メキメキ肉が盛り上がるとかなく……瞬時に戻る。

 学生服の子供から、白スーツの大人の姿へ。さらにハットとモノクルもつけて、白手袋と白コートまでつければ完璧だ。

 

 かつての営業マン……『業績トップの詐欺師』とまで言われた己の正装、になるのかな。

 

「うわ胡散臭……」

「君が望んだ姿なのだけどねェ」

 

 ステッキをくるりと回して──エンジェの顔面スレスレで突き出した杖突を止める。

 風も何も起こらない。大気中のナノマシンが己の動きに気付きさえしない速度。転移ではなく縮地。

 

「……!」

「おっと、開始の合図がまだだったね。──油断はしないでほしいな、エンジェ。この姿を望み、本気を望むのであれば……最低一分は保ってほしいから」

 

 元の位置へ戻る。

 

「おーいシャニア。落ち込んでいるところ悪いけれど、コイントスをお願いできるかな」

「ぁ……はい」

「はぁ~い。じゃぁ、『せぇんぱぃ』、エンジェ先輩、行きますよぉ」

 

 来るだろうなとは思っていたから一切驚きは無いけれど、……まぁぞろぞろと。

 落ち込んだシャニアの横に座るは特別体験入学生の五人。

 

「結界は任せてください。簡易陣地も敷いておきます」

「迎撃程度ならやるわ」

「シャニア先輩、あまり落ち込み過ぎも良くはありませんよ。これから起こる戦いをみれば……比べることが馬鹿らしくなると思いますから」

「いや、シェリーちゃん? その慰め方は逆効果なんじゃ……」

 

 ごちゃごちゃ言ってる外野を気にせず、アナがピーンとコインを弾き上げる。

 くるくる回るそれが一度頂点に達し──それが落ちてきて。

 

 接地したその瞬間に、ナノマシン込みの全力の突きを放った。

 

 ほう、と息が漏れる。

 

「防いだか。やるね」

「……今ので四割持っていかれたケド、防いでやったわ。……っていうか今更だけど、その姿のアンタを見て驚かないってことは、あの五人は」

「喋っている余裕があるんだね。心外だよ」

 

 己の突きを防いだのは四属性複合魔法らしき壁……というか、緩衝材と呼ぶべきもの。防ぐのではなく殺す。吸収して逃がす。

 刹那に構築しきったにしては中々の完成度だけど、四割の魔力を消費していては先が思いやられるというもの。

 

 蹴りを放つ。

 それは……それも、防がれた。

 

 今度は槍に。

 

「へえ?」

混色護槍(マービュランス)。お生憎様、これは四属性複合魔法ってより魔力を固めて作った槍だから──」

塵点収斂(フレッシュ)

「嘘!?」

 

 彼女が御託を並べる前に破壊する。破壊されると理解したのだろう、防ぐという思考を捨て、彼女が風と水で推進力を付けた回避に専念していなければ……彼女の胴体には大穴が開いていたかもしれない。

 ま、いい判断だ。今の突きにて「魔力そのものを固めて作った槍」は粉砕されたからねェ。

 

「一分だ。やるねェ。じゃあ更にテンポを上げようか」

「ちょ──おかしいでしょ、今の槍は不壊を謳えるくらいの──」

「魔力で編まれている時点で破壊対象だよ」

「だ……だったら!」

 

 刹那、室内運動機能場が水で満たされる。

 シャニアの周囲だけ水が無いのはイリスの陣地だね。

 

昏迷過流(メランシュトローム)!!」

 

 発生するは大渦。硬度ではなく面での制圧を選ぶのは良い判断だし、この量の水を瞬時に出せるのも中々に凄い。

 けれど。

 

暴風輪舞(アロンジェブラ)

 

 その水を、魔力ごと消し飛ばす。

 最早見飽きた技達だろうけれど、うん、エンジェにはこれで充分。

 せめてさっきみたいに覚醒してくれたのなら話は違ったけれど……流石に二連続は無理か。

 

「それじゃ、おやすみ」

「──アンタでも油断とか、するんだ」

 

 声は、背後から。

 いいや? 油断なんてしていない。目の前にいるのはエンジェだ。

 けれど……背後にいるのも、エンジェだ。

 

 次元複製(デルメルコピー)、ではない。

 今この瞬間、エンジェは二人いる。──正確には今、背後のエンジェが()()()()()

 

人体鏡像(アルケミラー)……!? ちょっとあの子、なんで第一次の禁呪知ってんのよ! 焚書にしたはずなのに──」

「ああ……そういえば最初の大戦は同じ顔の人間が別々の場所にいる、ということがありましたけどぉ、あれはそういう……」

次元空間(デルメルサリス)でも死霊病毒(ネクロクラウン)でも肉体強化(フィジクマギア)でもなく四大元素(エレメントリー)がそこへ辿り着くの、不思議な話ですよね」

「いや肉体強化(あたしたち)は……ああ合成魔物(キメラ)のことを言われたら何も言えないけど」

 

 こつん、と。

 己の杖に小突かれて意識を落とすエンジェと。

 錬成され、鏡合わせの存在となって……その手に球体を浮かべる彼女。

 

白烙球(アルター・スフィア)

「……やぁ始祖諸君。これはエンジェとシャニアには聞こえていない声だけど……君達、太陽を見た経験は?」

「無いに決まってるでしょ。樹殻で見えないんだから」

「昼夜システムの疑似太陽なら……って、まさか」

「っ、全員、できる限りの結界! ──あれ、マズいです!!」

 

 ぽい、と。

 投げつけてくるエンジェ。衣服までを錬成する余裕がなかったからか、彼女は今一糸纏わぬ姿ではあるけれど……というかだからこそ神々しくさえ見える。

 超小型の太陽。その白烙が、こちらにいる本体を気にすることなく投げつけられる。錬成されたエンジェ自身への強化もない。

 

 当然だ。アレは無感情に無感動に魔法を使うだけの存在。魂を有さぬ魔力構造体。

 喋ったのはあのエンジェだけど、喋らせたのはこっちのエンジェ。そしてそのエンジェが気を失った今、アレが行うのは設定された目標の遂行のみ。

 つまり──魔法の行使、ただそれだけ。己の生存など一切考えないその行いは、無慈悲にして冷酷。自身を消し飛ばそうと、本体を消し飛ばそうと関係のない「魔法という名の怪物」。

 

「流石にこれは歪曲収斂(コントル)でも返せないねェ」

 

 だから。

 

久遠の終楽章(フォン・ド・ラ・メァジ)

 

 魔力を……ナノマシンを停止させる。

 否、その結合を破壊し、機能不全に陥らせる。

 

 結果起こるのは膨大な熱量の発散。始祖らの作り上げた結界と陣地も止めたので、本来であればこの場にいるすべてがこの発散された熱によって熔かし尽くされる……ところを。

 

「あんまり美味しくないんだけどねェ」

 

 ナノマシンの機能停止によりすべての魔法が消え、全員が昏睡したその中で……エネルギーそのものを食らう。

 己の首。裂けたそこから出てきた不可視の本体が……ソレを吸い尽くす。

 無論味なんて感じないのだけど、魂や残滓と比べると、どうしてもね。

 

 そうして食事を終え、本体を戻して、ナノマシンを再起動させて。

 ああ、人体鏡像(アルケミラー)の方は分解した。魂入りじゃないからね。

 

 あとは、そう。

 皆が眠気眼。皆が目をこすりながら起きる……そんな中で。

 

「おはよう、エンジェ」

 

 己は己の腕に抱いた眠り姫の額に、キスを落とすのである。

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