魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
瞬間、緑のような銀色のような、そんな空間にケニスはいた。
魔法世界をしてこのような空間は滅多にお目にかかれない。数少なくはあるものの、娯楽創作物などに出てくる「ファンタジー」を絵に描いたような場所。
「ここ、は……」
「星の中。この惑星の中、ですよ」
「中……?」
流体、光。
ここが地中だとは誰も思わないだろう。海中と言った方がまだ説得力がある。
けれど、ここは本当に星の中だった。
ケニスの知らない話ではあるが、『
そんな場所にいた。
今目を覚ましたケニスと……酷くつまらなそうな顔をした、アリスが。
「……アリス。お前、元に……」
「そんな都合のいい話あるわけないじゃないですか。……ただ、今のアリス……いえ、私は、外の私とは違います。虚構の神の侵入を受けて自我の半分以上を塗り潰されたアリス・フレイマグナの自己防衛本能。その塗り潰されてしまった元のアリス・フレイマグナ。ですから、ケニスさん。あなたと交流してきた少女とは根本からして違うのです」
証拠になるかはわかりませんけど、ほら、と。
アリスの指差す方向に……「外」があった。
「俺……?」
「あなたも意識体ということですよ。ケニス・デルメルクランという外側に上書きされた元の魂。この世界は閉じていますから、魂というものは流転し続けます。簡単に言うと前世ですね。私達には皆前世というものが存在し、それらはバラバラになったり交ざり合ったりしながら新たな魂となって世界へまた生まれ落ちる。……ただ、そこに作為性はありません。ですからたまに、本当に偶然と偶然が重なった結果……
果たしてその確率はどれほどだろう。
ビーカーに水を張り、そこへ塩で作った人形を入れて、それを混練し……偶然、水の中で塩人形が再形成される。それがどれほどのことか、など。
さらに言えば、その塩人形が二つ同時に現れる確率、など。
「前世。私、アリス・フレイマグナはアリア・クリッスリルグという名の存在であり、埒外の怪力と冷徹な思考を以て我が子を愛した……と記録されています。それ以外の記録は散逸していて、人間として世界へ生まれ出でたのは前回と今回の二回だけ。他の時代では動物であったり植物であったり、あるいは他の人間の一部であったりと……総じて"一個"の人間とは言い難い前世だったようです」
そして、と。
無感情に無表情に、「アリス・フレイマグナ」は言葉を続ける。
「あなた。ケニス・デルメルクランもまた、前回と今回しかヒトの形を成していません。あなたの前世はケニッヒ・クリッスリルグ。姓からわかる通り、私とあなたは家族……いえ、迂遠な言い回しはやめましょう。私とあなたは夫婦だったようですね。ちなみに私の旧姓はアリア・レンデバラン。その時代を滅ぼし、その時代を掬い上げたある道化の妹」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。前世? 夫婦? いきなりのこと過ぎて何が何だか……」
「ですが、あなたの魂は覚えていました。あなたは覚醒……"魂の再獲得"を行い、私の中へと入ってきた。その時に名乗った名前は確実に前世のものであり、同時に今生の名が偽であったことを示すものです。無論、あなたは故意に偽名を名乗っていたわけではないのでしょう。元々養子に過ぎないあなたは、そう名乗らされていただけ。ただ名前というのは魂を縛り付ける楔ですから、それ自体に強い意味を持たずとも、そう名乗り、名付けられてしまえばそこから抜け出すことは中々に難しい」
理解の一切追いついていないケニスとは裏腹に、「アリス・フレイマグナ」には全てがわかっている様子だった。
つまらない。つまらない、という顔を一切崩さずに……彼女は言葉を断たない。
「ここへ入ってくる前の、あなたご自身の言葉を覚えていますか?」
「え……あ」
頬の紅潮。
──惹き合わされた魂がそれを告げんだよ──出ていけ邪魔者、俺のアリスに何しやがる、ってな!
そんなクサい台詞を吐いて、ケニスはアリスのもとへ来たのだ。
「ああ……そっちじゃなく、
「
「はい。これなるは魂の言語。外にいる『愚者』、かつて存在した『キューピッド』、甘んじて封印を受け、虎視眈々と機会を窺っている『モルガヌス・リープ』、そして彼らの劣化品たる『上位者』。"他者の魂を言語とする"惑星外生命体の基本言語です」
「い、いやだから、情報量が多いって……詳しい説明とか」
「……デルメルクランの名に汚染され過ぎているようですね。ではその靄を取り払いましょう。話が進みませんので」
何かが──ケニスへと流入する。緑と銀の流体が。
その代わりに、形容しがたい色合いの、これまた何かが外へと出ていった。
その瞬間、思い出す。
「……。……あ? ……俺……何してたんだったか。……どうしたアリア、そんな……チビになっちまって」
「おっとやり過ぎましたか。まぁここの主でもなんでもないですからね、私。加減は利きません」
「その喋り方……昔の、ミケルの兄さんが出ていく前の口調だな。懐かしい……で、合ってるのか、これ」
「何十万年と前をそう評するのなら」
「あー……ちょい待て。……。……ああ、そういう……だから……」
彼は少しばかり考えて──顔を上げる。
その表情に困惑は無い。理知的で精悍な青年。そう思わせる表情があった。
「アリア。いや、今はアリスか。……こりゃフリス関連、ってわけでもなさそうだが、今の俺にできること、やらなきゃいけねえことはなんだ」
「今度は察しが良すぎてどこまで理解したのかわかりませんが、概ね理解したという前提で話を進めましょう。……外の私は虚構の神の侵食を受けて、たった二つだけの感情しか有していません。それは傲慢と恐怖。私ならばなんとかできる。そして私には誰もいない。私は独りで、誰にも守ってもらえない。愛されない。だから独りで生きていかなければならない。死ぬのは怖い。嫌だ。これ以上運命の潮流に引き千切られることを望まない。……これが"アリス・フレイマグナ"の行動原理」
「情緒の育ち切る前に力を手に入れちまったガキ、って感じか」
「ええ、まさに」
つまりだ、と。
彼は……笑う。
「虚構の神とやらをアリスから追い出して、お前をアリスの中に戻して……俺と添い遂げりゃ、ハッピーエンドだな?」
「簡単に言いますね、とは返しますが、ええ、その通りです」
培った経験が、そして今生の記憶が彼に演算を行わせる。
どうすればいいのか。何をすることが最適か。
簡単だ。
「協力を仰ぐか」
「……」
「幸いにして俺は
「ご自身のもとの血筋を覚えているのですか?」
「普通は覚えちゃいねえがな、ここは情報の層だ。ちょいと干渉して物心ついてなかった時代の記憶を引っ張り出した。……第四次魔法大戦。そこで親を失った俺の元の姓は、
んなモン不要だがな、などと笑い飛ばせるのは、彼がそんなものなくとも同じことをしてきたが故だろう。
とにかく、
であれば、と。
今度はアリスの方から提案が出る。
「虚構の神を追い出すと言いましたが、それは止めておきましょう」
「あん? なんでだよ」
「『愚者』はお姉さまに強く惹かれています。虚構の神はお姉さまの持つ『最善思想』を妨げるため、私の中から虚構の神を取り出すことを良しとしないはず。故、むしろこの神を飼い馴らし、私とあなたが共にこれをどこか遠くへ連れていけば……お姉さまが再度機能するようになります」
「ばっかお前、エンジェの嬢ちゃんのために自分が割を食うってか。そういう自己犠牲的な部分はアリアのまんまだな。んでもって、そりゃ無しだ。虚構の神には必ず出ていってもらう。俺とアリスの間に邪魔者は要らねえっつったろ?」
「ですが、それでは『愚者』の協力を仰ぐことが難しくなります。この世界において、現状の彼は最大の力を有する者。条件次第ではフリスさえも凌ぐ実力の持ち主です。正直な話、始祖シエル・デルメルサリスの助力など
ケニスは──こつん、と。
彼女の額を小突く。
「死んでも馬鹿は治らなかったか、アリア。ま、それがお前の良い所だ。んでもって、俺の馬鹿も治ってねえと来た」
「迂遠な言い回しはやめましょう、ケニス。──あなたはどうやって、私を救ってくれるのですか」
「救ってはやるが、お前も手を伸ばせよアリス。助かりてえと意思を示せ。俺はその手を絶対に離さないからよ」
そこでようやく……つまらなそうな顔をやめる彼女。さらには嬉しそうな、朗らかで優しい表情を浮かべた。
声色もまた、柔らかく。
「……ケニッヒ。私達の最期、覚えてる?」
「あん? ……ああ、覚えてるさ。色々複雑な気持ちはあったが、俺達の大事な大事な息子の晴れ姿を見て、二人一緒に寿命を迎えた。元々延命に延命を重ねていたようなものだったからな」
「ええ、そう。色々あったけど……あの子の親として……チャルちゃんとフリスの式に出て、そこで最期を迎えて。……あの子は最後、私達にありがとう、お母さん、お父さん、って。そう言ってくれた。……それ自体はとっても嬉しかったけど、最後の最期で、私は嫉妬したの」
「嫉妬?」
「だってほら、私達の時は、
「そうか。じゃあ、全てを取り戻した今、幸せにならなきゃ嘘だよな」
「これがフリスのくれた最後のチャンスだって信じてる。だって、今の私達なら……あの子のいう"英雄価値"の基準を充分に満たせるはずだから」
手を取る。手を取り合う。
そうして──。
生徒Cの目が開く。
アリスの中へ突入してから、燃え尽きることなく、けれど長らく意識を失っていた彼。
その瞳には……彼らしからぬ理知が宿っていた。
「『愚者』! 適当な足場を頼む!」
眩しさ。あの魂から漏れ出でる光は……ああ、いいよ、いいとも。
ナノマシンを結集させ、適当な場所へ足場を配置する。
そこへ魔法を一切使わない驚異的な身体能力での着地──その前に行った炎の精霊からの脱出も含めて──をした彼は、魔法を使う。
デルメルクランの魔法。
だけど今までとは毛色が違う。
「──っ!? 皆さん、攻撃中止です! 一応、邪魔はしない方が良いと思うので!」
「ん、なんだチビ。口調が変わり果てたな……ってのはまぁどうでもいいや。んじゃ、ちょいととんでもねえ魔法を使うぞ。覚醒による魔力増強も込みだ、一瞬ここら一帯の魔力濃度が上がるから、その辺の処理は任せる」
「やれやれ、人が変わったように、なんて慣用句があるけれど、君は変わり過ぎだね。……でも、そうだな。一つ助言を。君の魂には上書きによって隠されてはいるけれど、魔物の魂が埋め込まれている。どう使うかは勿論君の自由だ、ケニス」
「ハ、自分の子供のことをとやかく言いたくはねぇが──やっぱアンタ、フリスより人間味があるな」
良い褒め言葉だ。
だから、少しばかりのサービスもしてあげよう。
「包め」
巨大な一枚の結界。
二面以上の結界を作り得ないという性質はそのままに……彼の作り上げた結界は炎の精霊に触れた途端、ぐにゃりと曲がり、張り付く。
魔力素を熔かす程の温度など意にも介さず、ぐにゃりぺたりと張り付いていく「一枚の結界」。それは瞬く間に炎の精霊を包み込み……圧縮していく。
「……ち、魔力量が」
「サービスだよ、ケニス。今ばかりは無尽蔵の魔力を貸してあげよう。無論、違う形での返却はしてもらうけれど」
「助かる。んで、勿論還元するさ。そのために俺が出てきたんだ」
みるみるうちに小さくなっていく炎の精霊。
元の炎も、『挽歌の再卵』の大きさをも無視して……小さく、小さく。
人間大にまで。
少女大にまで。
「一応聞いておこうか。今の君の名前は?」
「ケニス・ディンドコンゲンス。あの時ホワイトダナップを襲ったドラゴンの名を授かったことにゃちぃと意図を感じるが、まぁ何かあんだろ」
「
「ああ。……っと、完了だ。アリス、目を開けていいぞ」
完了する。
ヒトガタに作られた結界。そこからは熱は疎か、虚構の神の力さえ漏れ出でていない。
見落とされがちではあるけれど、かつて「強すぎた騎士」たる纏・フェイブが封印されたように……
「……ヘンな感じ。でも……あぁ、久しぶり。世界ってこんなにも綺麗だったんですね……」
「感情を取り戻して、第一声がそれでいいのか、アリス」
「……。……ううん。──久しぶり。そして……愛してる、ケニス」
「俺もだ」
抱き合う二人。
何が起きているのか一切理解していない外野が詰め寄ってくる……けれど、今は二人の時間だからね。
少しその場で止まっていてほしい。
「お前さんはいるんだから、別に良いんだけどな」
「己はほら、舞台装置のようなものだから」
「そうかよ。……んじゃ、アリス」
「はい。……『愚者』。この度はご迷惑をおかけしました。その上でお願いがあるのですが……」
それが何であるかなど聞くまでも無いけれど、耳を傾けてあげよう。
「私達……私とケニスは、二人で幸せを掴みたい。けど、この身体は最早人間とは言えない。でも、人間に戻してほしいわけじゃない」
「そうかい。では、己に何を望むのかな」
「──新しい、身分。アリス・フレイマグナは今日でおしまい。ケニス・デルメルクランも今日でおしまい。ただ、この魔法世界で生きていくためには、姓が必要でしょう? ケニスはディンドコンゲンスの姓を受け継ぐことができるからいいけれど、私にとってフレイマグナは枷でしかない」
「それ自体は可能だし、是を返してあげよう。けれど、タダで、とはいかない。それはわかっているね」
「私達が用意するものは三つ。一つは虚構の神の封印。ケニスの封印と、『挽歌の再卵』の飽くなき欲求を合わせて、私は世界中に散らばっている虚構の神の欠片を集めて回る。集めて回って封印する。彼の神にあなたの邪魔をさせない」
「いいね、それは魅力的だ」
エンジェの力を阻害するだけでなく、秘されているべきことを露にしてしまう虚構の神の力など無い方が良い。
「二つ目。あなたやお姉さまの望み通り、このまま私がここにいるということ。勿論ケニスも一緒に。……これから訪れる魔法大戦に備えて、私達は一戦力として戦う。私達の輝きはあなたを逃さない」
「素晴らしい提案だ。それで、最後の一つは?」
恐らく星の記憶に……
元のアリス・フレイマグナからは考えられないほどに物事を知っている。
「最後は、私達が思い出した二人の話。記録としてではなく、私達が実際に見てきた……フリスとチャルちゃんの記憶。その場に居合わせたわけじゃないあなたにとって、この思い出話はずっとためになる。違う?」
「……己が愛情を知るために、か」
「そう。……足りない、ですか」
ふむ。
いや、充分ではあるのだけどね。
「ケニス・ディンドコンゲンス。君からは何かないのかな。これじゃあアリスが払ってばかりだ」
「んー。そうだな。……愛する者を持つ男としての経験談とかでどうだ。最近まで誰でも良かったお前が、今はエンジェの嬢ちゃんに首ったけだ。あの子はあの子でお前を振り返らせたいと思っているし、お前もお前であの子を愛せているかの自信は無い。そして……残念ながらこの魔法世界にゃマトモな恋愛結婚ってやつをした男がいねえ。誰も彼もが貴族で、血筋を、政略を、今後を見据えての結婚ばかり。お前が覚えたい愛情ってのはそういうトコから生じるモンじゃねえだろ?」
「あと一押し」
「……案外強欲だな。えー……っと。けど、……あんまり俺が教えられることは無いっつーか、多分お前はそれを望んじゃいねえんだよな。俺は俺のままでいることが大事で……ああ、だから」
先程作り出していた槍をぐるりと回し、ケニスは好戦的な笑みを零す。
「保身なんか考えねえ。アリスを護ることを至上とはするが、戦争になったらガンガンに前線へ出る。戦うことでしか、敵を打ち滅ぼすことでしか守ることができねえってのは、俺達奇械士の本性だ。そりゃ相手が機奇械怪だろうと廃徊棄械だろうと魔物だろうと、そして魔法使いだろうと変わらねえよ」
さらに光を増すケニス。
うん。
「交渉成立だ。……とはいえ、己は彼女らの記憶を消すつもりはない。偽装することもしない。身分は用意するけれど、自分たちが今まで絡まってきたしがらみ自体は自分で解いてくれ。フレイマグナはアリスを殺したがるだろうし、デルメルクランは君を手放そうとしないだろうから」
「言われずともだな。生涯を懸けて添い遂げ、守り通す。俺はアリスの盾であり矛であり、夫だ」
「あーもー、私も過去を思い出してるとはいえ、アリスでいた期間が長いんです。そういうキザな台詞、あんまり吐かないでください。恥ずかしいじゃないですか」
「何がだよ。つか、前線に出るとは言ったが、戦いたくてうずうずしてんのはむしろお前の方だろ? 前線爆走するお前を危険から守るのが俺の仕事だと思ってるぜ」
「今そういう話してないです! ……ちなみにお伺いしたいのですが、『愚者』」
「うん?」
「兄は……再構成されていないんですか?」
兄?
……ああ、彼か。
「彼は"次なる源"に食べられてしまったからねェ。もし再構成が起こるとしてもこの星で、ではないだろうし、フリスがそれを許さないだろう。彼は彼で終わるのが一番輝いていたと思うよ」
「……それもそうですね。いえ、ちょっと天才繋がりでコルリウムって人がそうなんじゃないか、とか思ったんですけど……」
「全然違うねェ」
「なら良かったです」
コルリウム。アルター・コルリウム。
彼に前世があったとして……誰なんだろうね。ああいう手合いは見たことが無いから、稀有な「新しい魂」なんじゃないかな、彼。
と。
「そろそろあっちの皆の堪忍袋の緒が切れる頃合いだ。ほら、エンジェなんかとんでもない魔法を使おうとしているよ」
「上手く弾いて樹殻にぶつけてやるか、アレ。あの植物、俺の覚醒時になんか邪魔しようとしてきてたよな?」
「あんまり身体を過信しないでください、ケニス。今のあなたは昔のあなたと違って子供なんです。鍛練が足りていないことをお忘れなきよう」
「……明日の朝からでも、日課だったトレーニングするか」
「賛成です。自分で言うのもなんですけど、
あー、うん。
あの。
あのね?
「一応、今は魔法世界……フリス風に言うなら『魔法と樹殻の時代』でね? あんまり筋肉筋肉しいのはちょっと──」
「魔法も込みで鍛練するに決まってんだろ。使えるモンを使わねえ手は無いからな」
「鍛冶屋を探しておっきいハンマー作ってもらわないと……
「だとしたら筋肉を鍛え上げても意味は無いんじゃないかな……」
「気持ちの問題!」
さいで。
……あんまり個人的な好悪は持ち合わせていないのだけど、比較するのであれば……「アリア・クリッスリルグ」より「アリス・フレイマグナ」の方が好ましかったかもしれない。
こういう暑苦しいのは苦手なんだけどね──ワオ。
「……エンジェ? 今己の顔を狙った一撃、普通に首が消し飛ぶ威力だったことはわかっているかな」
「うるさい! アンタでしょ、この四日間アリスのこと私達の記憶から消し去ってたの! アンタ、私達がどれだけ準備をしたか、どれだけ覚悟を決めてたかわかってないワケ!? そっちの二人のことも気になるけど、もう秒読みなのよ!?」
「答えを知っている上で聞いておこうか。何が?」
「──魔法大戦! 今から行っても絶対に間に合わない……母さまたちが戦争を始めちゃうって、アンタは」
「良かったじゃないか。準備が無駄にならなくて」
「……シャニア、アンジー、シェリー。さっきのやつ、もう一回」
やれやれ。
責任転嫁が過ぎるよ、エンジェ。
どうせ始まるんだ、どうやったら早く終わらせられるかを考えた方が益だろうに。
──さて、色々なごたごたはあったけれど。
魔法大戦はすぐそこだ。君達の輝きに期待しておこう。