魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
揉め事は沢山あった。
アリスのこと、ケニスのこと、二人の前世の話。
フレイマグナの籍を捨て、新たな姓を受けること。
デルメルクランの名を捨て、ディンドコンゲンスを名乗ること。
蟠り、憤り、説明説明説明説明……そういった「揉め事」の全てがようやく解決し。
魔法大戦が、開幕の音を告げるのである。
結局の話、ということだ。
アリス・フレイマグナのことが無くとも魔法大戦は起きていた。それを勘違いしたままに母親Aと父親Bが会合へ臨んだことは間違いないが、
始祖からの脱却運動により、始祖への同調を行う本家の声は小さくなっていて、分家の血の気は盛んも盛ん。
そして
驚くべき、あるいはそうであると思うべきであったことが一つ。
このメリットの無い戦いに静観を決め込むと思われていた
完全な孤立無援となって尚
第五次魔法大戦はここに始まりを迎えた──。
「と、いうわけらしいね」
「簡単に言うわね……かなりの割合、アンタのせいに聞こえてならないんだけど」
「アリスとケニスの件は確かに半分ほど己のせいだ。でも、アリスたっての希望でもあったし、ケニスの覚醒は彼自身が克己したこと。そしてそのきっかけを作ったのがカナビ……もう君も正体を理解している始祖ビアンカ・フィジクマギアだ。つまるところ、今回の魔法大戦に始祖は一切の関わりを見せていないし、己も聖護魔導学園内で起きたことにしか関与していない、ということだよ」
「釈然としない……」
「戦争なんてそんなものさ。そこに大義名分なんか存在しないのだからね」
当然ながら、聖護魔導学園からはかなりの数の退学者が出た。
戦力として家に帰る者、
本来であれば、戦争開始時点で聖護魔導学園は休校になるべきだ。
けれど。
「……このまま
「ああ。君は単なる次期当主……エレメントリーの一戦力に数えられるだけだ。アイシア・エレメントリーやエンゲルグ・エレメントリーがそうさせるかはわからないけれど、君の王になるユメは遠のくだろう」
「つまり、よ。……この戦争、私が終わらせようと思うのよ。それについて、アンタはどう思うワケ?」
「大言壮語甚だしいと、他の誰か相手であれば言うだろう。だけどエンジェ、君にならできる。加えて言うなら──君に協力する者がこれでもかといると、己はそう見ている」
だろう? と目を向ける先にいるのは、今回の件に関わった面々だ。
「
「もう正体が明かされている、という前提で話しますが、脱却運動によって私の手を離れた
「スヴェナ・デルメルグロウ。一応
「
「ね、ネクロレアニーが当主、ドリューズ・ネクロレアニー。ど、ドクラバ先生に同意、す、するわ。あくまで私達は、静観。ただし、敵視されるのであ、あれば、やむを得ないこともし、します。加えて……ダルク・クロノミコナとい、いう、此度の戦争のきっかけとなったみ、身内の、処断。それについては、せ、積極的にやらせてもらうつもり、り」
「アナは『せぇんぱぃ』の後輩ですからぁ、『せぇんぱぃ』がエンジェ先輩のために動くのなら、わたしも追従しちゃいますよぉ。──あ、大丈夫だよー? 基本的にはネクログレイブとしての魔法しか使うつもりないからー」
「
「私の基本スタンスは
「……ん、ああ俺そうか、
しかし、聖護魔導学園所属と来たか。それは中々面白い回答だ。
「意思表明なんてするまでもないけど、
「私はまだ一応
「私は普通に参戦するわよ。エンジェと戦えそうって話で色々作戦考えてたの、全部パァになっちゃって不完全燃焼だし。分家の動きには私だって言いたいことあったしねー。何よりエンジェの王様になるとかいう夢、いいじゃない。ケニスの奮起もエンジェの夢も、こう……私の少年心をくすぐるっていうか。始祖からの脱却運動で責任ある立場じゃなくなったから、余計に好きなことできるって考えたらやりたいことがたくさん! って感じ」
そして。
「いやぁ……あはは……まぁ、最後は……あたしになるとは思ってましたけど。……カナビ・フィジクラッシュ。そして始祖ビアンカ・フィジクマギアとして発言しますね。──気に入らないことがあったから、全員を巻き込む戦争を切り出し、他の解決策を見出さない。あたしはその結果を出した
一番強い意思表明だった。感情が乗っていた。
誰よりも優しいのだろう始祖Bは、誰よりも冷徹な判断を下したわけだ。
であれば……と。
ステッキを地に突く。
「イレイア。先程から何度か話に出ているように、ここ聖護魔導学園を一つの陣営として定めることに異はあるかな」
「……具体的な言葉を所望します」
「つまりだ。たくさんの血筋、たくさんの思惑を持つ者の集うこの聖護魔導学園を、
「ハ──いいじゃねえか。『英雄平民』……いや、『愚者』と呼ばせてもらうがよ。俺は賛成だ。そうなりゃ色んなことを気にしなくてよくなる」
「独立するってこと? ……ま、いいわね。私の話に巻き込んでるから強くは言えないけど、賛同してくれるなら……そっちの方が後腐れも無いだろうし」
「……実を言うと、こうなることは視えていました。『最上級生』さん、あなたを視ることはできませんでしたが、この学園がこうなることは……フィニアンを失ってからの未来視で大枠を把握していたんです。それでも分家に期待した私がいて……いえ、これ以上は愚痴なので良いですね。……あと数人ほどこの陣営に参戦することが視えていますが、聞いておきますか?」
「不要だよ、イレイア・クライムドール。それよりも答えが欲しい。己の問うたことへの答えが」
「ああ……はい。異存も異論もありません。では宣言しましょう。どうせ始祖もいませんし」
傾聴させる。
世界の魔力。ナノマシンへ、それを伝播する。
「これより聖護魔導学園は一つの家として機能を始めます。異のある方は今の内に退去を。その分の賠償などは全て正しく行いますので。ああ勿論、戦争終結後、元の家へと戻っていただくことも勿論問題ありません」
「誰も出ていくことはないと視えていたのでしょう、イレイア。余計な言葉は不要ですよ」
「……こう、余韻というか、情緒というものが普通の人間にはあるんですよ、
「決まりだ。では、そうだな。名前を決めようか」
「名前?」
問いに、大仰な頷きを返す。
「
「ふむ。……良いですね。なんだか学生に戻った気分です。……ちなみに何か案はあるのですか、『最上級生』さん」
「あるにはあるけれど、当然エンジェに寄り添った名前になるよ」
「……ちょっと、恥ずかしいのはやめてくれる?」
「一応聞くくらいは良いのでは? 気になりますし」
「私も気になります」
「二人とも、なんでこういう時だけ味方してくれないワケ……?」
なんでだろうねェ。
では僭越ながら。
「
「いいえ、気にしませんよ」
「騎士の一族は"名の軛"には誇りを持ちますが、姓の無いことへは然程何も思っていないので問題ないかと」
「そもそもフィジクマギアだってFだろ。何を今更」
「フェイククラウンとかもFだからねぇ~。本当に何を今更だねぇ~」
……これでも気を遣ったつもりなのだけど、難しいね、人間というのは。
なんにせよ……我ながらフラッジロードは良い名前だと思うよ。巣立ちの王。転じて、翼の生えた覇道。
「とはいえ、これは今ここで定めたもの。各家に周知されたものではないから……今は一組織としての名前と考えた方がいいかもしれないね」
「はいはーい! じゃ、私が一番乗りで名乗らせてもらいます! フレイマグナの家名は捨てるわけですし、どこにも属していない名前であるのならぴったり、ですから」
「お、じゃあ俺もだな。何よりFで始まるのは俺達にとっても好ましい。ディンドコンゲンスなんて家は没落したんだ、無くてもいいだろ」
「……一応言っておくと、己はフリスを意識したわけではないからね?」
「わかってるわかってる。お前達にもなんか因縁があるんだろ? だが、何十万年経ってもフリスは俺達の大事な名前でさ。そこは理解してくれ」
「ふむ……では、私もフラッジロードを名乗りましょうか。デルメルグロウ自体、有って無いような家なので」
この流れを受けて、だろう。
始祖たちが顔を見合わせる。
「脱却運動で捨てられちゃったし、私もそれ名乗るわ。ま、公的な場ではアンジェリカ・エレメントリーに戻ってあげてもいいけど、エレクトニカロルスにこれ以上迷惑かけるのもアレだし、なんか変な動きしてるっぽいし、この名前は今日で終わり。アンジー・フラッジロード。新しい名前、ね」
「ネクロクラウンを捨てる気はサラサラないけどー、『せぇんぱぃ』が作った名前を名乗らないとかないのでー、わたしも今日からアナ・フラッジロードでーす」
「……クローヴサリスという家は存在しません。ですが、この響きは私にとって大事なもの。偽名につけておくのは勿体ないので、ここに棄却し……シエル・デルメルサリスはそのままに、シェリー・フラッジロードを名乗るようにします」
それは意外だ。上二人はともかく、君はクローヴィーに戻るものだと思っていた……けれど、そうか。
己以外にはクローヴィー姓を名乗っていないんだったね。自らの胸の内に秘す名前、になるのかな。
「本家当主はイレイアがいますし、私もイリス・フラッジロードに改名しておきましょうか。いつまでもイリス・クライムドールだとイレイアの肩身が狭いだろうな、と考えていたので」
「いえそんなことは思ってませんでしたけど……止めはしませんよ。そんな勇気ありませんし」
「あたしは……まだフィジクマギアでいいかな。全てを誅戮し終わったら、改めてそっちを名乗るかも」
「……しっかし、そうなると……俺達がフラッジロードの始祖になるのか?」
「形式的にはそうだけど、なに、ケニスあんた、始祖になりたいの?」
「いや、言ってみただけだ。あんたら始祖を見てると堅苦しそうで不自由そうで、罷り間違ってもなりたいとは思わねーよ」
「前世を思い出してからっとにいい度胸になったわね……」
手を打つ。
空気が弛緩してきたからね。
「己達のスタンスの表明が終わったところで、今後の動きを考えていくべきだと思うのだけど、どうかな」
「……スヴェナ。今、私感動してるんだけど、伝わってる?」
「一応は。私も……『一応平民の人』が最も常識的な行動を取った、ということに驚きを隠せません」
「うわなんかそう言われたら途端に恥ずかしくなってきた……」
「アンジーちゃん、エンジェ先輩と戦うかも、ってなってからずーっとテンション高かったですからね。一度落ち着くと自分が恥ずかしくなるの、わかりますよ」
「そういう話じゃないんだけど」
うん。人数が多いと纏まらない纏まらない。
教師陣、こういう時こそ君達が音頭を取るべきじゃないかな。……なぜそっぽを向くんだい?
「動きも何も、戦闘が起こってる地域に突撃して喧嘩両成敗、戦ってる奴ら全員ぶちのめして終わり、でいいだろ」
「ケニス、ちょっと頭悪くなった?」
「少なくともお前の考えてるような意味では言ってねぇよ。現状の俺達は血筋に関係のない勢力で、
「……馬鹿は私の方だった、と。……また"馬鹿なアリス・フレイマグナ"……"馬鹿なアリス・フラッジロード"に戻ろっかなぁ、色々考えるの面倒臭いし」
「何言ってんだ、お前にだって考える頭があるんだから、俺と一緒に考えんだよ。効率良く、んでもって最大限の利益を生む結果をな。あくまでエレメントリーが得をするんじゃなく、フラッジロード、そんでエンジェの嬢ちゃんの得になることをする必要がある、ってのは忘れるなよ」
「はいはい。じゃあ……久しぶりのブリーフィングしよっか。……ね、『愚者』。ランビちゃんはいないの? あの子がいるとブリーフィング楽なんだけど」
ランビ?
……えーと、……あー、確か
「いやあのね、君達の転生は例外中の例外なんだよ。そう簡単に前世持ちが出てくることはないと思ってほしい」
「そっか、残念。それじゃ私達が舵を取らなきゃね。ケニス、拠点防衛関係のことはそっちでお願い。私は戦場に出る子を集めて、やることのリストアップやってくから」
「あいよ。つーわけで、
「誰か大陸図持ってる子いない? 今から勢力図を書いていくから、都度疑問があったら言ってね。ちゃんと答えてあげるから」
呆気に取られるはケニスとアリス以外の面々。
慣れている。五千年を生きた始祖でさえも、だ。ま、彼女らは戦争へ積極的に参加する、ということが無かっただろうからね。
ケニスとアリス。あるいはケニッヒとアリア。
歴戦の猛者の中でも、しっかりと頭を使って戦い抜いた二人。ひとたび戦場へと赴けば一騎当千の活躍を、そして拠点にいる間は頼れる上官に早変わり、だ。
「エンジェ、二人のことをよく見ておくんだ。君がいつか王様になりたいというのなら、ああいう動きも大事になってくるからね」
「……ええ。今……凄く、尊敬の念があるわ。……生徒でも、魔法使いでもない……あれが、戦士……なのね」
言葉には「ああ」と返して。
では、こちらからも開戦を宣言しよう。
己達フラッジロードは、圧倒的な武力を以て──君達を押し潰す。ただ、安心したまえ。
臣民のいない王道に意味はない。その全てが殺戮されるということはない。
尤も、罪ある者は、それを枕の下にでもしまっておくことをおすすめするよ。
エンジェの博愛主義がどこへ向くかは──己でもわからないからねェ。