魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
滝壺の中から単なる海底へと姿を変えたそこの、さらに下。
施設名『LABO』。前身文明の知識を持たない予知者が作り上げた、前身文明と遜色のない機能を持つ小型要塞。
「落ち着いたかい?」
「……ええ、すんません。取り乱しました」
「そりゃよかったがね。できりゃ何が起きたのか教えてくれると助かる」
ここにいるのは四人。
"不確定要素"、古井戸。
"機奇械怪"、ピオ・J・ピューレ。
"ゾンビ"、スファニア・ドルミル。
"全視"、グリーフィー・ウォルチュグリファ。
どこぞの植物学者や亡霊のいうところの生命の次元階位、あるいは虫の謳う英雄価値などに該当する……他と隔絶したナニカを持つ四人だ。
「古井戸さんたちがやってる調整にはあんまし関係ないんですけど、その後の未来に激しいねじれが生じて……そこに精神が巻き込まれた感じです」
「……俺達にはわからない話ってことか」
「そもの話をするならば、未来視とはなんであるかについてを再度問い質すべきであるとは思いますが」
四人はそれぞれにそれぞれの「調整」や「修行」、「改造」を行っているけれど、その軸を自らの未来視と共にチューニングし続けているのがグリーフィーだった。そんな要たるグリーフィーが先程突然大きな声を上げてひっくり返ったものだから、流石の三人もそれぞれの行動を中止して介抱に当たっている次第。
「未来視は、前に説明した通りですよ。未来からの魔力の波を感知する体質です」
「俺達を誘った時、お前は目的地に辿り着くまでの未来は全て見終えた、って言ってただろ。事実あの日から今日にいたるまで、お前の行動には全部の用意があった。……けど、今回のことは視えなかったってことだよな」
「そうですね。……何か疑念を持たれているようなので、もう少しわかりやすく説明しておきます。ええと……まず、時、という概念について」
数分前まで頭を抱えて苦しんでいたグリーフィー。けれど、その全てが過ぎ去ったことである、とでもいうかのように、既に「普段通りの」表情になって、さらに魔力によって編んだらしき映像を手に浮かべ、話す。
グリーフィーの元の名……ダリア・ネストクラウンはまさにそんなネストクラウンの当主であったということもあり、実力は折り紙つき。そんなダリアが死して別存在となった結果のウォルチュグリファだ。鬼に金棒とはまさにこのことだろう。
話を戻して、彼女が作り上げたのは、幅の広い河川だった。
「時っていうのは、これみたいに超巨大な川なんです。自分含め、全存在はこの時の川に流される魚です。ただし普通の魚とは違って、前にも後ろにも上下にも進めない、横移動しかできない魚。そんで、上流が過去で、下流が未来。基本的にどんな存在だとしても前後上下には移動できず、だから鎮座する岩とか自分たちより速い、もしくは遅い流木なんかを毎回避けたり破壊したりしないといけない」
河川に魚を投じ、流木や岩場なんかを下流から流してはそれらを必死に避ける魚を描写するグリーフィー。
初め概念と聞いて「どうせ難しい話」だと顔を逸らしかけていたスファニアも、あまりにも久方振りに見る「アニメーション」に興味を取り戻している。
「未来視っていうのは、下流で何かが起きた時、そういうものを波として感知できる特殊な体質を言います。といってもこの川、最初に言った通り川幅がとんでもなく広いので、どの波が自分たちに影響を齎すか、っていうのをちゃんと把握する必要があるんです。それが所謂練度ってやつですね。技量でもいいですけど」
「未来送りは、その下流にモノをぶっ飛ばす技ってことか」
「ああ、過去に何人かいた異能者の話ですね。それと、それを誰でも使えるようにした技術の話。確かにその通り、今いる場所から下流に向けて力業で投擲する行為を未来送りと言いますし、前後上下に移動する機能を持たない自分たちに未来送りを防ぐ手段はない。だから実質最強の消失技。とはいえ対策法は色々あるんで、無敵じゃないですけど……と、話が逸れました。ああでも、未来視についての説明はこんだけです」
「川幅がそんだけ広いのに未来が鎖されただのなんだの言ってたのは、その広い川幅の全てで同じ未来が待ち受けているって認識でいいのかね」
「まさに。どの選択をしても、川のどこへ移動しても、樹殻による略取は避けられない未来。そこをどうにかする未来は二つありましたが、それも初めに言った通り、始祖様がぶっ潰してくれやがりました。残る選択肢が一つしか残ってないのは変わってないです。で、今回ねじれたのはその後のこと」
ねじれる。
ある一点から、河川がまるごとぐにゃりと曲がる。
「……そりゃ流石に比喩だよな?」
「いえ、自分にはこう視えました。……こういう考え方はあまり好ましくないんですけど、この世界を単体でどうにかしてしまえる存在がいて、その存在に何か……未来視でも捉えきれなかった入力が為されたのだと思います。順当に考えるなら『終末』さんなんですけど、自分の所感を織り交ぜるなら……『終末』さんの恋仲の少女が原因だと思ってます」
「『永遠下降』さんにその入力をしたのが件の少女、ではなくてですか?」
「『終末』さんは結構柔軟な存在なんですよ。割と簡単に変わるし、割と話も聞いてくれる。超然とした超常存在なのはまぁ間違いないんですけど、かなり人間臭いというか、わかりやすいし読みやすい」
グリーフィーを除く三人の脳内に浮かぶ『彼』。
そして、各々が「頼まれた話」を思い出し、思い返し、確かに、と頷いた。
「あの人がああだったのは、恐らく昔から。割と簡単に生き方を変えて、割と簡単に目的を変えて。そんな存在のやることなすことが世界の命運を変えるのなら、未来は秒を追うごとにねじれ狂ってますよ」
「成程ねぇ、説得力がある。……んで、そんなことは今まで無くて、だから恋仲の嬢ちゃんの方が怪しいと」
「ちらっと視ましたが、とんでもなく次元の違うところにいる子でしたね。恐ろしいのはそのとんでもなさとは裏腹に、言動は普通の子と大差ないってことです。突出して狂ってるわけでも、注視して異常を覚えるわけでもない。ただただ、住んでいる場所が違う。……正直、参ってます。現状はもう最終決戦手前も良い所なのに、心労が増える増える」
「樹殻さえどうにかしちまえば、お前が気張る必要はないんじゃないのか」
「……まぁそうなんですけどね。とはいえ、視えてしまったものは気になるもので」
「未来視持ちの
だから、と。
「俺達に依頼されたのは世界を救うことだ。──樹殻を殺しても世界が救われてねえってのは話が違う。確かにアイツはそこまででいいとは言ったけど、俺も自分の目的……友達に会いにいくための土産話は必要だからな。オチの無いままにこの星を出るくらいなら、自分たちで話のオチを付けて、大団円に見送られて旅立つくらいはするさ」
大丈夫だと、震える少女に手を差し伸べるかのように。
「……そうですね。改めて言います、取り乱して、疑念を抱かせました。が、本当に打倒樹殻までの道のりは順調なんで、安心してください。今なお未来は視続けていますから、なんかあったら頼ります。けど、なんかあるまでは」
「各々全力を賭して、だろう。勿論さね」
「ピオも再度潜航に移ります。それでは」
その時まで。
似たような話を経た、共同墓地。
制圧を終えたディアナ、ビアンカ、イーリシャはそれぞれに「やるべきこと」を終え、再度集合していた。
「各地に出没しているダルク・クロノコミナについてはどうしましょうか」
「んー。流石に乗り込んで潰しに行くのはー、まだ時期尚早だよねー」
「じゃあ、帰る? もしくは他の子たちのところに援護しに行くとか」
イーリシャの顔に翳りはない。彼女もまた未来のねじれに驚愕した者の一人ではあるけれど、それだけだ。
ウォルチュグリファに比べて精度が低いからか、もしくは五千年の落ち着き故か、精神の変調を感じない調整が為か。なんにせよ、ひっくり返るなんてことがなかった彼女は、ただし呟きを聞き逃さなかった友人二人に事情を説明し、特に不調を訴えるでもなく「やるべきこと」に移っていた。その時点で「いつも通りの」顔をしていたから、本当に何事でもないのだろう。
とまぁ、そういうアクシデントがほんのちょっとあったものの、元来の目的に対して始祖三人が後れを取ることなどあるはずもなく。
特段これといった予想外もないままに終わってしまったので、そう──不完全燃焼、なのだ。特にビアンカとディアナが。
「アンジーちゃんとシエルちゃんのところ、そして『愚者』さんは問題ないものと考えると、ケニスさんとアリスさんのところ、でしょうか」
「特にアリスちゃんはまだ精霊化したばっかだしねー。前世? を思い出したからって、それでどうにかなるものじゃないでしょー」
「談笑に花を咲かせるのは良いことなのだけどね。君達、当初の目的を忘れてやしないかな……まさかわかっていないということはないのだろう?」
声。口調が『彼』に似通っているその声は、始祖らにほど近い場所で聞こえた。
無論、驚く者はいない。頑張って気配を消していることには皆気付いていたし、それから害意が感じ取れないこともまたわかっていたからだ。
「や、久しぶりー」
「私の記憶に君のような可憐な少女はいないよ……なんて知らぬふりをするのもいいのだけどね。今は私怨を優先させてもらおう。久方振りだね、始祖ディアナ。そして初めまして、始祖イーリシャに、始祖ビアンカ。私はガエン・ネクロブレイクという者だ」
ガエン。存在抹消の里のトップツー。実質的な外交担当者。
彼がここにいる理由は、ただ一つ。
「ダルク・クロノコミナに個人的な恨みを抱いて彼を追い詰めていたら、横合いから掻っ攫われて、更に増やされた。色々なものを洗ってここへ辿り着いてみれば、瞬間火力の無い私ではどうすることもできないトラップで守られた廟があった、と」
「廟ー? さっきからなに、目的って」
「へ? ……えっと、なんのお話で、ってそうだ、根本原因はダルク・クロノコミナに無いっぽいって話……」
「……」
す、と目を逸らすイーリシャ。
それだけで二人には伝わったらしい。
「あ、それだけじゃないって知ってて、後で全部をかっさらおうとしてたのをバラされて不機嫌なイーリシャちゃんだー」
「もー、イーリシャちゃん! そういうことするからディアナちゃんみたいな嫌われ方するんだって!」
「今更気にしないは気にしないんだけど、ビアンカちゃんホント言うようになったよね……」
「……はぁ。表層にいる魔物の四割を持って帰れば満足するとディアナちゃんが言っていたので、これ幸いに、などと考えていましたが……。ネクロブレイク、でしたか。分家に救われましたね」
「確かにー! 昔も昔に勘当した家だけどー、今回の働きを考えて分家に戻してあげるのはありかもー」
「そういうゴタゴタはネクロブレイク本家に話を通してくれたまえ。私ははみ出し者だからね」
それより、と。
ガエンは下を指差す。
「頼むよ、超火力の始祖三人。この下の廟も、水の分身体である私にはいろいろと手の出せない領域だ。とはいえこれでもウォーラーバーンの系譜。今の君達に足りない感知と索敵はお手の物だから、コンパスの役目くらいは努めるさ」
「……一つだけ、質問してもいいかな」
「何かな、始祖ビアンカ」
「その口調……『愚者』さんに憧れてたり」
「しない!」
ではここに、ガエン+始祖三人の変成パーティが誕生した。
ガエンの指し示した「ここだ」という場所指定。そこをビアンカが特大の殴打で掘り返し……地下霊廟への入り口が晒されることとなる。
血臭漂う地下霊廟。いかにも、な雰囲気に少しだけたじろぐビアンカの背を押し、逆にわくわくの止まらない表情のディアナが一番乗りでそこへ入った。
「へぇ~……雰囲気あるなー」
「そうですね。意外です。今の時代の子がこうまで趣深い作りを拵えることができるとは」
「何か出そう……。……な、殴れないものはディアナちゃんに任せるから!!」
「一応敵地だからそう叫ばないでもらいたいのだがね。……しかし、雰囲気、というのは……それに趣深いとは、どういう意味かな」
──ある意味で、ジェネレーションギャップである。
始祖らにとってこういう場所は「考えた末に作り上げられるもの」だ。けれど、現代を真っ当に生きる人間は「ホラー」とか「威圧感」とか、そういうものを考えずに作る。作った結果がこうなる。
そういったことを瞬時に理解して……そっぽを向くイーリシャと、ちろ、と舌を出すディアナ。
「はぁ、全く。『詐欺師』といい君達といい、秘密主義も大概にしてくれ……」
「あはは……ま、まぁ! えーと、……そう、そうじゃないにしても、なんでこここんなに酷い臭いなんだろう。普段使いする場所なら、掃除とかしそうなのに」
「ふむ……まぁ、こちらの通路は使われていない、というだけではないかな。入り口も埋まっていたし……昔は使っていたけれど、何らかの理由があって使わなくなった通路と考えるべきだろう。……そして、その何らかの理由が」
通路に使われている煉瓦。その内の一つ……欠けている、落ちているものを拾い上げるガエン。
彼はそれについた埃を払ってビアンカへと投げ渡す。
そこそこ重いそれをなんなくキャッチした彼女が煉瓦を注視すれば。
「……血が染みついてる?」
「恐らく他の煉瓦も同じだろうねぇ。つまりこの地下霊廟は、そもそもろくでもない目的で作られた場所、ということだ」
今回のダルク・クロノコミナの件は余剰。
ろくでもない目的で作られたこの地下霊廟を、ろくでもない連中が再利用しただけ。
「成程。共同墓地に入った死体から血を搾り取る施設。確かにろくでもないですね。さらにそこへダルク・クロノコミナの『魔物化薬』……『精霊化薬』が入った、と。魔法使いの血と魂、その双方を有効活用するにうってつけの場所となったわけですか」
「でもこれ、全部の血が混ざっちゃう作りになってるよーな? わたしも似たようなこと考えたことあるけど、分家の血でもそれぞれで分けないと分離大変だから非効率だなーって思ってやめたんだよねー」
「それがわからない人達が使ってたからこの場所は今まで明るみにでなかったんじゃないかなぁ。共同墓地に入れられた死体の血を絞って悪巧みを、なんてことが実現してるなら、この五千年間で台頭して来てておかしくないだろうし、あたしたちが気付かない理由もないし」
「本家始祖サマのろくでもない思考が透けたわけだけど、今更か」
考えなしで非効率。
だからだろう、この通路にここまで血が染み込んでいるのは。
これほどの血染みだ。その運搬に使っているものも杜撰な作りになっているのだろうことは容易に伺えた。
とはいえ「考えなし」も「非効率」も、一歩引いた第三者目線で見てみればの話。
始祖のような浮世離れした考えも、ガエンらのような存在を抹消されているが故の考え方も、どちらも「現代を生きる魔法使い」全員が持たなければならないというのは酷な話である。
「と、気を付けたまえ。何やらトラップが──……。……今分解されたようだ」
「確かに
「そもそもあたしたちは何をされたってそこまでの障害にならなかったり……」
「この中で一番弱いのはあなただからねー」
見た目に惑わされる勿れ、だ。
ここにいる三人の少女は始祖。その魔法もさることながら、肉体面でも不死と謳われる紛う方なき怪物。
「……なら、敵が示す順路など無視して、核心に迫るのもいいだろうね。始祖ディアナ、始祖ビアンカ。私達の敵がいる場所は、私の立っている位置から前方に六十メートル、下方に五十二メートル進んだ部屋に──」
瞬き程度の揺れと、とんでもない砂埃。
それらが全て陣地によって分解され……穿たれた隧道が姿を現す。
「耐えられるけど、好き好んでここにいたいって思えないから、時短で行こう」
「さんせー」
「私も同意しますが、一応気を付けてください。『愚者』さんが諸々を考えてディアナちゃんを隣に置くと決めた理由……その片割れがこの先にいるわけですから」
「いざとなったら守ってくれるんでしょ、イーリシャちゃん」
「いざとならないって知ってるからそんなに悠長なんでしょー」
「……私は忠告しましたから」
まだ唖然としているガエンは放っておいて、三人はその隧道を下っていく。
実際、もう用済みだ。もう少し言葉を優しくするのなら。
「あとはあたしたちの役割! 安全な場所に隠れててね、水の造形物さん」
「近付くなら、流れ弾で潰されても文句は言わないでねー」
「ああ──余計な気は起こさないように。全て知っていますので、最も賢明な選択をすることを願っています」
ここからは、彼女らの番、である。
そこは祭祀場らしき場所だった。
円形に刻まれた文字列。血肉を象ったオブジェ。燃え尽きた蝋燭入りの燭台。
──文字列を囲む、数人の男たち。
凡そ文明の二文字も最先端の三文字も感じられない場所。天井が破壊され、始祖たちが降りてきたというのに微動だにしない人間。
しない、のではない、ということには、ビアンカもディアナも瞬時に気付けたことだろう。
できないのだ。
「……石?」
「石化してるねー。……けどそんな魔法あったかなぁ。少なくとも
「はじまりの五家。その全てに属さない魔法を使う敵がいることはわかっていました。未来送りだけではなく、物体を強制的に固定する魔法、他者の魔力を減衰させる魔法、消費させる魔法など。恐らくこれは固定する魔法なのでしょう」
「へー。何を視たらそれに辿り着くのか気になるなー」
「どうぞ気になったままでいてください。……しかし、問題は動機の方です。未来視は心まで読めるわけではありません。ああいえ、ウォルチュグリファならばあるいは、ですが……少なくとも私の未来視は視たものの心まで読むことはできません。よって、この方々がなぜ石化しているのか、させられているのかは不明なままです」
不明であるということは、得体が知れないということ。
本来であれば。
本来であれば、準備不足を嘆き、情報不足を悔やんで撤退する、というのがもっともらしい流れだろう。
しかし、ここにいるのは始祖である。
「陣地を拡げます。加えて、不確定要素たるそちらの方々は分解しますので……ディアナちゃん、そう残念そうな顔をしないでください」
「一人だけ譲ってくれないかなー。石化とか、新しい分家に良い感じのインスピレーションを与えてくれそうなんだけどー」
「ダメです。そして、ビアンカちゃんに倣って、ちゃんと前を向いてください。今回の目玉、来ますよ」
「目玉?」
咆哮が飛ぶ。
祭祀場の男たちを主としているのか、はたまた外に出られる喜びからか。
この部屋に入った時からずーっとそちらを睨みつけていたビアンカが誰にも気付かれぬまま踏み込みを入れていて、その掌底を眼前へと繰り出した。
大気を叩く掌底。引き起こされるは──『彼』の技を彷彿とさせる巻き込み。以前見様見真似で使っていたものをブラッシュアップした技術。
穿てぬものも、破れぬものもないその掌底は、凄まじい速度で近づいてきていた咆哮の主に直撃し──。
「っ!?」
「やな予感ー」
死霊の腕でビアンカの首を掴み、恐らく射線上だった場所から彼女を逃がすディアナ。
その読みは正解だ。なんせ数瞬後、ビアンカのいた場所を含む直線状、そして円形の空間が軒並み消えたのだから。
「……やはり始祖を連れてきたのは正解だったねぇ。ああ、敵は言語を解するわけではないから、私があれの紹介をしよう。こちらにも
「始祖が無敵だと思ったら大間違いなんだけどー」
「情報があるなら先に出してください。鎖の射出機構は口以外だとどこですか」
「こちらの魔法使いが視た限りでは口以外無かった。始祖イーリシャはどうかな」
「生物だと思わないでください、ビアンカちゃん。ほとんど強化人間と同じです」
「あー。つまり首をもいでも意味ないんだ。面倒臭いなー」
「バッドコミュニケーション……ではなく、ハイコンテクストなだけか。やれやれ、確かに出番は無さそうだ」
暗がりから首をもたげるは、空色の体色をした龍。
ここに『彼』かシエルがいれば、また違った反応を示したのかもしれないが──。
「乱射されると面倒だから、一気に制圧する!」
「さんせー」
「はぁ、生け捕りにしてじっくり調べるつもりでしたが……仕方ないですね」
然して広くはない地下霊廟での全力戦闘。
当然ながら──崩落まで、あと数分。