魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
頭部に対して猛ラッシュを仕掛ける始祖B。
それを視界の端に収めつつ、ジェヴォーダンの魔物……ジェヴォーダンの巨人の腹へと
「っ、色々言いたいことはありますが、助かります!」
「助かってくれるだけでいいんだけどねェ。ついでに助言を受け取る気はあるかい、始祖ビアンカ・フィジクマギア」
「本当に助かることであればなんでも!」
意欲的だね、素晴らしいことだよ。
「この魔物、数千の命が合成されているようでね。肉体の各地にある心臓を潰さないと死なないんだ。だからその首を引き千切ったところで生命活動は止まらない」
「……面倒ですね」
「とても、ね。けれどこの学園には魔法使いがわんさかいる。どうだろう、彼ら彼女らは雛鳥だけど、籠の鳥にしておくには勿体ない。危険に陥る生徒は君が助ける感じで、一斉攻撃を生徒たちにやってもらう、というのは……中々の妙案だと思うのだけど」
「平時での可否はともかく、今はそれしかないですね。誰か……
初対面でなければ。そして相手が幽霊でなければ。
成程、次期当主が恥も外聞も捨てて頼りたくなるわけだ。
「あそこに倒れている鐘楼が見えるかい?」
「はい」
「そこに、己が最も信頼しているエレメントリーの次期当主がいる。ただ……この魔物はエレメントリーの血を執拗に狙うようだから」
「どうしてそこまで知っているのか、という問いはあとで聞きます。その子を守りつつ、その子と共に戦います。……あなたは?」
「己は魔法使いではないからねェ。──君に代わって、この魔物の足止めでもしておこう」
始祖Bの猛攻が終わったからだろう、もう一度上体を起こそうとしたジェヴォーダンの巨人に対し、ステッキによる突きを入れる。
再度ビタンと弾き倒れる巨人。
「……任せました。ただ、無理はしないように!」
「おやおや、始祖シエル・デルメルサリスと己の戦いを見ていた君がそれを言うのかい?」
「たとえどんな子であっても、学生は学生です。どれほどの強者であろうと油断は死を招きます。それが戦場であり、それが死闘ですから」
いやはや、感動的だね。
どこへ行っても蛇蝎の如く嫌われることばかりの己がこうも受け入れられるとは。
始祖Bは、己が『愚者』だと知ったらどういう反応をするんだろうねェ。
「健闘を祈ります!」
「そちらこそ、だ」
爆風と共に消える始祖B。
さて。
まぁ結合しているナノマシンを崩せばどれほどの巨体であろうと消し炭にすることはできるのだけど……それは些か魔法チックすぎる。今度は
だから、「全員が力を合わせて巨大な魔物を倒す」という感動的な筋書きのために、己は肉体のみでできることをしよう。
かけるは少々強めの認識錯誤。独り言くらい己も言いたいからね。
「しかし、懐かしいじゃないか。これほどの巨体と相対したのは、巨大演算機構『
どこぞかへ伸びようとする腕。その腕から、あるいは肩口から枝分かれして伸び縋る毛のような腕。
それらすべてを叩き落す。突き千切る。
ナノマシンは使わずに、己が肉体だけで防ぐ。防ぐ防ぐ防ぐ。
幾ら増えても関係ない。その巨体のあらゆる場所を駆けずり回り、学舎へ……というか多分その先にいるエレメントリーへ向かっているのだろう腕を阻止する。
「これも懐かしい話だ。この魔法世界を作る前、己は営業マンだったからねェ。白スーツにハット、モノクル。加えてステッキとキャリーバッグ。同僚からは"詐欺師の図説"と称賛されていたし、上司からは"業績と信頼の反比例"とお褒めの言葉をいただいていたものだけど、あの頃の忙しさを思い出すよ。文字通り世界中を駆けずり回っていたからねェ」
それと比べれば、移動範囲がこの巨体の上だけ、という時点で楽だ。
無論あの頃はナノマシンも使っていたからトントンではあるのかもしれないけれど、こういう継ぎ目のない忙しさからしか得られない快楽というのもあるよねェ、なんて。
誰かが来たので、認識錯誤を外す。
「おらァ!!」
「一応、力み過ぎです。私に肩を貸していることを忘れないでください、一応」
「お、おお。すまねぇ……っと、大丈夫かよ『平民』! 微力も微力だけど、手伝いにきたぜ!」
……。
いや、別に己を青春仲良しアクションコメディーに巻き込んでほしいわけじゃないのだけどね。
君は、というか君達はもう少し安全な場所で、己より強い
微力も微力……なんてものじゃない。守り先が増えただけだってわかってくれないのかな。
「エンジェから、一応、計画の詳細は聞いている。ただ肉体の再生速度を考慮して、全員が完全に同一のタイミングで心臓を破壊する必要があると考えた、一応。だから、エレメントリー全員で今心臓の位置を調べている。それが終わったら生徒と教師全員へ一応共有して、貫通力の高い魔法で一斉に貫く」
「そうかい。成功率は?」
「正直言って、二割以下。一部生徒の魔法はこの肌に対してダメージを与えられない。その不足箇所から再生が始まる。一応」
だろうね。だからこそ広範囲殲滅魔法を使える魔法使いが必要だ。
スヴェナ、君はその内の一人なのだから、少しでも魔力回復に努めて後方にいればいいのに。……というか、何を使ったらそこまで魔力を減らせるのかな。己はちゃんと告げたと思うけれど。次は無い、と。
「ッ、なんか来るぞ!」
「報告は正確に、だよケニス・デルメルクラン」
貫通力を高めた……貫手となっていた腕を蹴り飛ばす。
頃合いだとは思っていたけれど、案外早いな。
「もしかして……学習した?」
「覚えがあるかい?」
「この会話はケニスには」
「聞こえていないよ。ああいう意地悪は時と場合を選ぶからね」
「そう。一応、最低、とは言っておく。……私の時の成長速度を体躯とそのまま比例させたのなら、早く殺さないと……一応、恐ろしいことになると予想される」
「だろうねェ」
「ちょ、呑気に喋ってんじゃねえ、こいつなんかおかしいぞ!」
ジェヴォーダンの巨人。その全身が……比喩や慣用表現ではなく総毛立つ。
「スヴェナ、剥離で逃げるといい。流石に守り切れない」
「わかった。ケニス、こっち、一応」
「どわ、チビなにすん──」
空間が剥がれ落ち、一瞬だけ二人の姿が世界から消える。
直後、毛という毛が鋭利な針となって、学舎の、生徒の、その全てを貫いた。
……はずだった。
「足止めを任されたからね。己は約束を守るんだよ、魔物クン」
ステッキで格好つけているほどの余裕はなかったので、素手で。
聖護魔導学園に通う全生徒。それらに直撃するものだけを折り砕き、厚めに集めた針がこちら。
先程剥離していった空間を貫いている毛も折ってやれば、二人が出てくる。……スヴェナのぐったり具合からして、魔力を使い果たしたか。
「チビ、おい馬鹿無理しやがって! 返事しろ!」
「ケニス・デルメルクラン。戦闘不能者を抱えて、というのは流石に邪魔だ。後方へ下がってほしい」
「……わかった。けどお前は」
「己はこんな遅い攻撃にあたることはないよ」
それに、と。
今折ってきた毛針の一本を掴み、ぐぐぐ、と力を籠めるフリをする。そしてそれを振り下ろした。
ほとんどの魔法を通さない肌。そこを貫くは、巨人自らの毛針。
「これで、心臓一つ。数千に対しては"微力"だけどね。スヴェナの不足分くらいは補ってあげよう」
「お前……っとに……」
「そら、この毛は枝分かれしてまた生徒の命を狙う。ああ、成程? 自分より出来がいいからといって、スヴェナを見殺しにするのかい?」
「しねーよそんなこと! ……けど、言いたいことはわかった。守れ、ってことだよな!」
「いや……ああ、行ってしまった」
そういう択もあるよ、と伝えたかっただけなのだけど……言葉を違えたかな。
とにかくまぁ、仕事をしようか。
これほどの巨体だ、動かすにも一苦労だろう。
鍼灸、というものを受けてみる気はないかな、魔物クン。
狙うべき心臓がどんどん停止していっている。
その報せは、多くのエレメントリーらが報告してくれた。裏で動いていた「計画」など何も知らない、なぜ自分たちが狙われているのかもわかっていない──そして、狙われている自分たちを当然のように守ってくれた学友らに少しでも貢献したいと思う生徒たちが。
「……『最強平民』か?」
「はい、間違いなく。棘状になった魔物の毛を折って、心臓を串刺しにしているようです。……なるほど、再生を起こさせることなく、心臓機能を低下させて……」
「ターゲット総数は随時更新して全員へ伝えろ。んで、ちょいとこの状況に対して役に立てなそうな俺達──フィジクマギアは、そろそろ出るぞ」
「ボガドちゃん、あたしはここに残って、こっちに攻撃が来た場合の迎撃をやるね」
「ああよ、ビアンカ婆さん、それで頼──」
「始祖ビアンカか、ビアンカさん、ね?」
「お、おお」
大多数の生徒は室内運動機能場で作戦概要を聞き、魔法を練っている。
指示を行う者、加えて感知を行うエレメントリーだけがこの縦横が反転した議事堂に集まっていた。
「ちなみによ、俺達フィジクマギアにも毛針を折って心臓にぶっ刺す、ってのはできそうな硬さだったか?」
「腕力に魔法を集中させたら、いけるかもしれない。けど……」
「他がお留守になって危険、ってか。ヘッ、そりゃ、それこそ籠の鳥だろうよ、始祖ビアンカ」
その名を受けて生まれ出でたその日から、彼ら彼女らは自らを鍛え続けてきた。
「申し訳ありませんが、今回
「わかってるよ、シャニア。そんでもって代わりに
「……?
無論、そんなものはない。
けれど、名前から悪役に見られがちなアレらが使い得るのは、その名が示す死霊病毒だけではないのだ。
「疲労回復、滋養強壮!
「不勉強でした。そういう……道も、あるのですね」
「まぁ他家の魔法に踏み込むな、みたいな暗黙のルールがあるからなぁ、初学生の内は知らないのも無理はないさ。……んじゃ、行ってくる」
「はい」
籠手やグローブ、ヘッドギア……と。
まぁまぁ「魔法世界っぽくないねェ」と言われそうなラインナップを身に付けた
議事堂を出て──強化全開で、"ジェヴォーダンの巨人"と呼称されている魔物へと飛び掛かっていくフィジクマギアたち。
その身に生えた硬い毛針をなんとか折って、風属性の魔法が伝えてくる心臓の位置に毛針を刺す。一人で足りぬのなら二人で。二人で足りぬのならば三人で。
ところどころであがるタイミングを合わせる掛け声と。
「ほら、追加分だ。やるならやるで上手くやってくれ」
「オウ『最強平民』。無事に帰ってきたようで何よりだ」
「どうにも君達は己の仕事を増やすことが好きで好きで堪らないようだからね。──防御は気にしなくていい。此度己は、君達を守る壁となるつもりだから。故に、存分にその力を見せてほしい」
時折枝分かれして伸びてくる腕を蹴り折る、件の平民の姿。
彼はその折った毛針をそのままフィジクマギアへと渡し、次なる場所へと赴く。「回避するだけしか能のない平民」などどこにもいない。
充分だ。フィジクマギアでも数人がかかりでないとできないことを平然とやる彼を見て。
「会長、彼は……」
「まぁ、あり得ないこともあるし、善性の存在かって言ったら違うのかもしれないが……少なくとも今、アイツは俺達の味方だ。他に欲しい情報あるか?」
「いいえ。ただ……」
「なんだ。アイツに関する苦言なら俺が──」
「憧れますね、ああいうの」
これは果たして『彼』の誤算だろうか。
ただただ始祖ビアンカの教育方針が良かっただけかもしれない。
とにかく。
全生徒を守り、強大な敵に対してたった一人で立ち向かい……その行動の全てが蛮勇ではなく「当然のこと」であるかのように振る舞う『彼』を見て。
「ああいう活躍がしたくて、私達は……」
「僕も……アレができたら、一番だ」
「なれる、よな? だって平民ができてるんだ。魔法を持っているおれたちは、その万倍努力して……いつか」
いつか。
「いつか、ああいう『英雄』に……!」
そこが始まり。
本意マイナス100%だろう『彼』が『英雄平民』などと呼ばれ始めたのは、ここからだ。もし『彼』に過去へ飛ぶような力があるのなら、ここは消しておくべきなのだろう。
残念ながらナノマシンに時を越える力は無いのだけど。
「憧れるのも良いが、今は手を動かせ手を! アイツの負担を少しでも減らして、且つ
「はい!」
一層力を入れて、一層気合を入れて。
立ち上がろうとする魔物はあの『英雄』が蹴り飛ばしてくれる。
だから彼らは、たとえ地味でも、確実な一歩を刻む。それがいつかあそこに辿り着くための階梯と信じて。
そしてそれは、別の場所でも。
「アイツ……心配してた私が馬鹿みたいじゃない……」
「お姉さま?」
「感じ取れるでしょ。……虐められてるって聞いてたけど、逆に……誰かに怪我とかさせてないでしょうね、アイツ」
「……ああ、本当だ。『とんでもなく強い平民さん』……本当にとんでもなく強かったんですね」
感知枠ではなく火力枠に入れられたエレメントリーの系譜が二人。
編んでいる魔法はそのままに、少しばかりの感知を入れてみれば……その耳に届くは八面六臂の活躍をする『彼』の音が。
毛針を折っていると思われる破砕音、それを突き刺しているのだろう肉を突き破る音、そして暴れようとする身体を弾いて叩きつける衝撃音。
どれをとっても一級品だ。正直、フィジクマギア以外の魔法使いでは対応できないのではないかと思わせるほどの身体能力。
その身から聞こえる鼓動も、その身から零れる筋肉凝縮の音も、その身が放つ生命活動の音も。
あまり、常人と変わらない。だというのに、だというのに。
「あの人、何者……なんでしょうか」
「さぁねー。
アリスの編む魔法は爆炎単一であるけれど、エンジェの編む魔法は複雑怪奇の一言だ。
直前にも多くの魔法を使っているにも拘らず、その魔力量は尽きるところを知らない。本家と分家は、出力においてはそこまで差がない。そのはずなのに──アリスからして「あり得ない」と思ってしまうような規模の魔法が組み上がりつつあった。
……その上で雑談に興じているのだから、どうしても本家と分家の差を覚えてしまうのは無理のない話だろう。
「怖くは、ないんですか? そんな……どう考えても何か隠してる人じゃないですか、あの『とんでもなく強い平民さん』は」
「怖い……って感情はないかも。理解できない時は結構あるし、本心は、っていうか本音の部分は隠し事だらけだろうし、なんなら私達に見せている姿はぜーんぶ嘘なのかもしれないけど……」
けれど。
「アイツ、決して自分を善人に見せようとはしないじゃない?」
「それは……あの、お姉さま、私を遠回しに刺しにきていますか」
「ええ、前のアンタは自分を何も知らない子に見せようとしてたでしょ。だから悪意的だったワケ。……でも、アイツは疑われてもいいっていうか、疑われてトーゼンっていうかさ、決して己を変えようとはしないのよねー。だから、まぁ、いつか私がアイツをどうこうする日が来るのだとしても、怖いとは思わないかなぁ」
だって。
「恐怖って、未知から来る感情だし。私はこの学園で、誰よりもアイツのことを知ってるつもりだから……大丈夫よ」
そんなことを。
「……うう、流石お姉さま、懐が広いです……。アリスは……『とんでもなく強い平民さん』は、怖くて怖くて仕方ないです」
「まぁそれも良いと思うわ。警戒心って大事だし。それに、シャニアも結構警戒してたし……あれ、私がおかしかったりする?」
「こ、この件に関しては、お姉さまがちょっとおかしい寄りかと……」
でもさ、なんて言って笑って。
少し声を大きく、周囲に呼びかけるように。
「今……ああやって身を挺して私達を守ってくれてるアイツ、怖い?」
波及する。
それは『彼』が特異だと言った何か。同時に、彼女が持つ天性の──。