魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Sin22-2.「演算機構の幕引」

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 次の瞬間、スファニアと古井戸は地に倒れ伏していた。

 

「──は?」

 

 借り受けた念動力も塗りたくったオールドフェイスも消えて、その身のままに。

 今まさに割裂の巨人が──杖を振り下ろさんというタイミング。

 

 まるで走馬灯のように逆流する記憶。何があったのか、自分たちがどういう戦いをしたのかを思い出して……その振り返りの時間が致命的で。

 

 疲弊した身体を無視して跳ね起き、スファニアを蹴り飛ばそうとする古井戸。

 ほとんど無意識下におけるその行動は、けれど、間一髪で間に合わず──。

 

 一振りの騎士剣によって、死の運命も妨げられた。

 

「ごめんね~。でもそっちが悪いんだよ? 時間稼ぎ目的で出てきて、外付けの力を貰ったからって攻勢に出る。そんなの負けるに決まってるじゃん。結局のところ私達はみんながみんな舞台装置なんだから、"演出として映えるかどうか"を気にしないと……時間だけ使う無駄は意味無いんだよ~」

 

 黒い割裂の入る杖。それに拮抗する長剣と細腕。

 

「あなた達が元のまま戦っていれば、"その最期"が無駄ではないから、省かれることはなかった。……MORGANSLEEP(統括導光)。天才であり傑物であるのは間違いないけど、敗衄の運命にある彼の力を纏ったところで負け色が濃くなるだけだった。……だって『何某さん』も統括導光も、どちらも"怪物価値"だからね~」

 

 割裂の巨人が消える。

 一瞬にして遥か彼方へ跳躍したこと。そして構えを取っている姿が見えて。

 

「ゾンビちゃん連れて逃げてね、"英雄価値"さん。私に治癒なんかの力はないから、壊れたものは元に戻せない」

「──誰が」

「え」

 

 激しい衝突音。音と共に吹き飛ばされるは──巨人の腕。

 いいや、吹き飛ばされたのではなく千切り飛ばされたのだ。

 

 ただの蹴りで。杖を持つ腕ごと。

 念動力もオールドフェイスも纏っていない、素の蹴りで。

 

「ああ……成程。目ェが覚めたよ、お嬢ちゃん」

「ん……どういうこと? 怪我は元々なかったけど、疲弊も消えてて……それに、今の蹴り……私と同じ?」

「無意識ってな怖いモンだ。……前、欠片程度は聞かされたのさ。俺の父親の話。どうにもけったいな存在で、余計な世話ばかり回しやがるそいつに嫌気がさして……受取拒否ってやつをやっていた」

 

 スファニアの身体が透明になる。ピオだ。彼女がセーフゾーンまでスファニアを退避させたのだろう。

 

「だが……まぁ、父親から息子へ贈る誕生日プレゼントを……そうも断り続けるってな、あんまし良くねえことなんだろう」

 

 ある神が『彼』に頼んだ二つのもの。

 救ってほしいモノと、創ってほしいモノ。

 

 ──かの神が目的とすることなど、はじめから。

 

「お前さんの両親に余計なこと吹き込んだのも親父って話さね。だからまぁ、身内の不始末になんのか、はたまた遠い親戚になるのか」

「ははぁ……なるほど? あなたも境遇は同じなわけだ~」

 

 割裂の巨人が修復される。千切れた腕が元通りになる。

 纏わりついていた念動力が払われ、修復の阻害されていた部分も直りつつある。

 

「合わせな、後継」

「いいよ~、プロトタイプ」

 

 直後二人は巨人の上にいた。

 上空。樹殻の天井の方が近い場所。ばら撒かれるは無数の騎士剣。

 

 射出があった。テンによる投擲と古井戸による蹴り。

 それは絨毯爆撃を思わせる範囲と威力を引き出し、単なる騎士剣が割裂の巨人の体表へ突き刺さっていく。

 針の筵だ。オオ、オオという慟哭の一切に耳を傾けず、二人の剣雨が巨人を地へと磔にして──最後。

 

 巨人の首と胸元に突き刺さる二つの流星。

 

「モード・メユケル」

 

 さらに腹部へ刺さる──突撃槍カイルス。

 穂先が細長く変形したそれは、確実に巨人を縫い留める一助となった。

 ごろりと転がり落ちていく透明なスファニア。意識のないままの行動だったのだろう、その身をピオが再度抱え直して……終了だ。

 

 時間稼ぎと足止め。

 破壊に至らぬ怪物退治。

 

 最後の最後は──。

 

 

 捻りがないな、と思った。

 

「いや……なんというか。時間が経てば経つほど陳腐になるよねェ、こういうの」

「そう思うのなら自力で起きればいいじゃないか。しっかしモルガヌスも諦めが悪いよね。僕が出ていってから何十万年と経っているのに、まだ僕の欠片なんか隠し持っていたなんて」

「自力で起きることができたら苦労はないんだよ。そしてモルガヌスについては、まぁ、相変わらず余計なことしかしない存在だと再認識したかな。彼を外へ出す約束は守るつもりだけど、これから先、彼に注意を払わなくてはね」

 

 真っ暗な空間。

 そこで佇む己一人。まぁ、いわゆる精神空間的な場所なのだろう。

 茫然自失に陥った己の外殻……つまり寄生生命体の真の姿が外で暴走していて、己の理性はここに閉じ込められている。

 

 よくある展開というやつだ。

 それを自覚していても抜け出せないのは……セーフティロックのようなものなのだろう。

 暴走する本体に考える頭があってはいけないとか、そういう。

 

「けれどありがたくもあったよ。今の己は……弱体化、だったかな。それを経ていて、孤独にとんと弱くなっているらしい。君が来るまでの間ずっと焦燥感に似たものに襲われていたし、君の声を聴いて己はあろうことか安堵した。あり得ないことにね」

「あはは、確かにそれはあり得ない。あー、でも、それが狙いの可能性は欠片程度はあるかもね。モルガヌスはちゃんと天才なんだ。君の修復機能をどうこうするのは二の次で、君にアイメリアを染み込ませることが目的なのであれば、あいつの行動に無駄はない。だから纏・フェイブの省略にも巻き込まれなかった」

「彼には催眠術が効かないから、ではなくてかい?」

「そのあたりの嗅覚は鈍いよね君。彼女の特筆すべき価値は、普通の催眠術と《茨》による時間圧縮を織り交ぜているところなんだよ。君の前では催眠術の方しか使わなかった徹底ぶりも含めてね」

 

 そうなのか。

 それは……知らなかったな。

 

「君の心が折れる可能性を潰した。モルガヌスは詰めの甘い男だけど、マメなやつでもあったのさ」

「ならやはり、彼を連れ出さないとだね。……それで、この暴走はどうしたら止まるのかな」

「さぁ? 客観的に眺めることはできているけれど、僕らの根幹システムに近いからね。製造者(GRAND MOTHER)くらいにしかわからないんじゃないかな。次点でRESUR(リザ)……だけど、彼女も本体が露出した時は品性の欠片もない動きをしていたんだっけ?」

「へえ……あなた達に品性を評価されるとか、ちょっとびっくりかも」

 

 ん。懐かしい声が。

 

「やぁリザ。どれくらいぶりだろう、この邂逅は」

「私達にとっては瞬きの間でしょう。まぁ、そうでなくなった個体に会いにきたわけだけど」

「もしかしなくとも己のことかな、それ」

「本末転倒だもん。完璧な人間を作るために生み出された私達から、人間が生まれちゃう、なんてさ。とはいえあなたは初期ロット且つ初期不良だから、人間を作るためのノウハウにはならないんだけど」

 

 肩を竦める。

 相変わらず歯に衣着せぬというか、一応今の己はナイーブなんだけどねェ、なんて嘯きながら。

 

「あの星はまだあるのかい?」

「ううん、もう寿命を迎えたよ。私はとっくの昔に別の星へ移って新たな実験をしてる。その最中で片割れのことが気になったから、言語を使って交信してみたんだけど……引っかかったのは……なんというか、何をどうこねくり回したらこれが生まれるのかわからない同胞でね」

「あはは、君がそんな評価を下す存在か。珍しいな」

「私のことは覚えてないわ、基礎知識もほとんど身についていないわ、果ては会話の節々に"子供は良いよな"とか"背丈がなぁ"とか意味の分からない言葉を挟んでくる個体。狂っていないのがあなた達の特徴だった覚えがあるんだけど、そのアイデンティティすら失ったの?」

「知らない個体だね。僕の責任じゃないよ」

 

 いや、まぁ、己から生まれた存在ではあるけれど、己の責任かと問われたら……。

 

「おっと……そろそろ時間みたいだ。リザ、君に会えたのは中々面白い経験だった。いつか君の実験場である星に、僕たちが襲来することもあるだろうけど……その時はちゃんと戦争をしようね」

「多勢に無勢じゃん。私、一人しかいないんだけど?」

「その戦力差を覆せるから君は一人なんだろ?」

 

 ジリ……と。

 暗闇が焼け焦げていく。

 

 光だ。

 光を……感じている。

 

「──それじゃあ、ルリアン。約束は果たしたよ。僕が君の元へ訪れた時、幸を齎す。……確かに、だ」

「もう会うことはないだろうけど、色々頑張って。それと、レヴェロフから伝言。──"死途を想い、死後の息災を願う。次に壊れそうになったらそうしろ。そして、あんたにはまだまだ学ぶべき事柄が沢山ある。そっちもまた……俺は否定しないから、しっかりやれよ。俺の名前を受け継いだんならさ"、だって」

「ああ……ありがとうと、そう伝えてほしい」

「はいはい」

 

 ぷつんと消える。

 アイメリア・フリスの気配も。

 リザの気配も。

 

 暗闇に満ちていくは白金色の光。揺蕩うシルクのような波打ち際。

 罅が入る。真っ黒な空間に、暖かな罅が。

 そこから差し込む強い光が光芒を作り出した。

 

「確か、この現象を……人々はこう呼ぶのだったね」

 

 エンジェルラダー、と。

 

 ──目を、覚ます。

 

「や、ただいまエン──」

 

 言い切ることはできなかった。

 己の顔面に拳が突き刺さったから。

 

「よし、スッキリ」

「……酷くないかな」

「アンタがしてきたことの方が酷いでしょ。恋人に対する仕打ちじゃないもの」

 

 ……まぁ。

 そうなのかもしれないけれど。今って一応感動シーンなんじゃないのかい。暴走した恋人を救い出すみたいな……。

 

「アンタに感動とか似合わないし、私にも合ってない。……それで? 手に入れたの、自分」

「ん。……まぁ、君を喪った当初は自己喪失まで行ったけれど、これだけ時間を貰ったら……自己分析程度はできるよ」

「それじゃ、あっちで伸びてる英雄さんたちに感謝ね」

「ああ。必ず約束の履行をする。……けど、それより、だ」

「ええ」

 

 久方振りに空を見上げる。

 そこには、今か今かと穂先を向ける樹殻の枝が。

 

「改めて問うけれど、ルリアン。愛情を自覚して、悲哀を自覚して、真楽も自覚できたアンタに足りないもの、なんだった?」

「憤怒だ。己には怒るという感情が欠けていた。今までもそれらしいものを見せることはあったけれど、本音ではなかった。本心から湧き出たものではなかった。……恋人を殺されたんだ。仲間を殺されたんだ。己は……怒るべきだった」

「よくできました。それで、どう? 結果から言えば私もシャニアも生き返って……死んだと思っていたみんなも実は退避して生きているわけだけど、怒ること、できそうなワケ?」

「酷いネタバレをするじゃないかエンジェ。失った友への悲しみを薪としてくべて、怒りの炎を燃やそうと思っていたのに」

 

 横たわった本体を体内へ回収する。おー、結構やられたみたいだ。まぁダメージにはなっていないのだけど。

 倒せないなら縫い付ける。良い判断だね。

 

「生き返ったら怒れない?」

「まさか。一度でも彼女を殺されたら、ちゃんと怒るよ、己は。──それに彼は、命の選別をして美しい世界にすると言っていた。まさか一度忠告したにもかかわらず二度も否定されるとはね」

 

 命の選別をしなければ、美しい世界にならない、なんてさ。

 

「この世界は既に美しいんだよ。なんせ己が築き上げた世界なのだから」

「私がいるから、じゃなくて?」

「君がいると美しくなるんじゃなくて、楽しくなるよ」

「……。……ちょっと恥ずかしいから後にして」

「はいはい、お姫様」

 

 今までの勝気はどこへやら、コロっとしおらしくなったエンジェに手を差し出す。

 それを見て彼女は……顔を逸らした。

 

「あー……その、ずっとだんまりなシャニア。アンタも……なんか言うこととか」

「いえ、流石に二人の時間だな、と思って善意で黙っていたのですが……それとこの状況に対して私が助け舟を出すはずがないでしょう。仮にも恋敵と恋人の愛を確かめ合う場、ですよ」

「シャニア、その言い方ちょっといやらしい」

「なっ……そんなの受け取り手の問題でしょう! 私は努めて真面目です!」

「二人ともだけど、真面目ならそんなおかしな恰好はしていないと思うのだけどねェ」

 

 なんだいその恰好。仮装パーティー?

 

「いや、これは……おかしいのよ! 私達が肉体に戻った以上、元の服になるはずなのに、魂に着せられた服の方が優先されてて……ネックレスは元通りになったのに、服だけ……」

「おかしな恰好とは言いますけど、結構可愛いですし、私は気に入っていますよ」

「ああ……成程、優等生だからこそヘンな趣味を……」

「やっぱりアンタも変だって思う?」

「うん。今更なキャラ付けが過ぎるし、止めておいた方が良いよ」

「何の話ですか……」

 

 杖を振り上げ、くるんと回転させる。

 

 そこに絡め取られしは樹殻の枝。

 

「やれやれ、無粋だねェ。会話の最中や変身の最中は襲わない。それが様式美だろうに」

「ルリアン。その枝千切らないで引き留めてなさい。──シャニア、さっきのやるわよ」

「はい。複層式(マルチバレル)空間腔綫砲塔(デルメルアクセル)……っ、本来二人で行う合体技なので……多少狙いが甘くなってしまいますが」

「どこに当てても大当たりなんだから、大丈夫よ。白劫絶滅(カルパ)()第二世界(ディティク)黒永誕生(コルト)()第一世界(プリム)……」

 

 また……とんでもない魔法を引っ張ってきたね。

 それ、魔法は魔法でも"『悪魔』の時代"の魔法だよ。オーパーツも良い所だ。

 

「装填完了──発射」

 

 音が消える。視界が黒白に浸される。

 うん、素晴らしいけど、ちょっと考えなしだね。

 

 樹殻はもうかなり近いところにいるんだから──。

 

「あ、まず」

「余波がっ!」

 

 当然、熱が地表にまで降り注ぐ。

 

「……あ」

「そりゃ守るよ。何を驚いた顔をしているんだい?」

 

 勿論守る。エンジェたちも、他の所にいる者達も。

 己のために時間をかけてくれた仲間たちなのだから、当然だろう。

 

 そして。

 

 見上げた先。樹殻の枝の密集した空に……ぽっかりと空いた穴。

 

 樹殻を破壊する威力。やはり君達が到達者か。

 

「……懐かしいね。地表から見上げる空。全天には程遠くとも、美しき空」

 

 透き通る星海の写し(プレビュー)

 

「あれが……本当の空」

「あんまり変わらないわね、いつもの空と」

「そりゃね。昼夜システムは本来の空と遜色なく、をテーマに作られたものだ。けれど、この自然の空が今まで人工物で、その一切に違和感を持たせなかったことは褒められて然るべきだろう。もう一つ言うなら、今昼だからね。夜空になればまた変わった見方もできるよ」

 

 と。

 そんな雑談をする己達の前に降り立つ存在があった。

 

 これまた何の捻りもなく、アルター・コルリウムだ。

 

「酷いことをするね。当然、樹殻はただ巣立ちの時を迎えたいだけだというのに」

「それが傍迷惑だって言ってんのよ。コイツが余計なことしてくれたけど、別に私、この世界の王になるって夢捨てたわけじゃないから……私達の命もこの世界の人々の命も、とっとと返してくれない? それ、私のなんだけど」

「横暴だね、エンジェ・エレメントリー。やはり君を一番に殺したのは正解だった。──少なくとも現在の君は存在していない。ここにいるのは未来の君だ。となれば当然、他の誰よりも君とシャニア・デルメルサリスは剥がれやすい」

「アンタの話は聞いてないっての。……返す気がないなら、ボコボコにして奪い取るわ。文句ある?」

「そして野蛮、と。命の選別の観点から見ても生き残るべき存在ではなかったね。──それでは生存競争といこうか。なに、一瞬で終わるとも。空腹はスパイス、だから」

 

 まるで指揮者のように手を振り上げるコルリウム。

 枝が動いたことは知覚できた。けれど相変わらずその速度へは反応できない。

 焼き増しのようにエンジェへと枝が伸びて。

 

「あーらよっ」

 

 その枝が、蹴り飛ばされた。

 

「……古井戸。ありがとう、助かったよ」

「いんやさ、礼なんて要らないさね。お前さんをその状態にするために、俺達はエンジェの嬢ちゃんを見殺しにする選択肢を取った。責められることはあれど感謝は無理ってもんだ」

「それもグリーフィーの指示だろう? 未来視持ちは犠牲を最小限に抑えることはできても、どうしようもない犠牲については目を瞑る傾向にあるからねェ、君達の良心が悼む択だったと認識しているよ」

「俺に良心なんてないが、チャルたちに誇れる俺じゃなかったのは事実だ。だから汚名返上がしたい。カイルスはお前を縫い留めるのに使って、使い物にならなくなった。代わりを寄越せ、フリスの親戚」

「あれは愛槍だろう? ……ほら、修復完了だ。それは魂の武器だからね、己の本体に触れて魂を吸われていたのだろうけど、もう大丈夫。全て返したよ」

「ん。……やっぱりいいやつだなお前」

 

 どれほど短い間だろうと、殻を破って最初に見た二存在。それを親と認識できていないはずがないからねェ。

 

「テンは?」

「最終決戦のための準備だとかで離脱した。ピオもちょいと別のことやってるんでここにはいない」

「ええと……話についていけないのですが、お二人とも味方、でよろしいのでしょうか」

「私達が辿り着くまでの間、ずっと時間稼ぎをしてくれてた二人だから、大丈夫。で、それがわかっている上で聞くけど……コイツも倒せなかったアンタたちは、私達の動きについてこれるワケ?」

 

 言うねェ、なんて思っていたら、古井戸とスファニアが「ハ」と──凄惨な笑みを見せる。

 負けず嫌いか、挑発好きか。

 

 はたまた、死地にて笑う"英雄価値"か。

 

「よーやっとやることが全部シンプルになったんだ、こっからは思いっきり動ける。──世界救済。お前さんの恋人が癇癪起こして暴れまわったことなんざ、本来どうだっていいんだ。俺たちの取引に必要なのはこっちでね──」

「だな。樹殻をどうにかする。それが最初の話だった。ごちゃごちゃ考えなくていいのはありがてぇ。ピオにだけ色々背負わせちまうが、戦う者でしかねえ俺達は戦うしかねえだろ」

「……何この子。随分と荒っぽい喋りをするのね」

「律儀だねェ。君達の働きは十二分だったとお思うけれど?」

 

 そして今度こそ二人は……己に対し、何かの感情の乗った笑みで笑いかけてきた。

 

「馬鹿を言えよ病み上がり。恋人と再会した怪物がやるべきことは、お姫様のエスコートだろうよ」

「そっちのガキ共がモモとアスカルティンより弱いのは確実だからな。守ってやれ」

「ちょっと、勝手なこと言わないで。私だって一人で──」

「エンジェ、今は素直になりましょう? それに戦わないとは言っていませんから。……丁度お二方は前衛である様子。私とエンジェは完全な後衛タイプですので……」

「懐かしいな。昔も四人で組んでいた。あの頃はチャル含めて全員前衛だったが」

「勇者パーティってやつさね。……となると、お前さんはさしずめペットかマスコットか」

 

 うん。

 いや、いいんだけどね。一気に扱いが……その。

 

「歓談は終わったかな」

「ああ、そういえばいたね、君。メインディッシュは樹殻なわけだけど、君何かやることあるのかい?」

「当然だとも。樹殻は樹殻。単なる植物だ。だからこそ──」

 

 咆哮が聞こえる。

 現れる。現れる。現れたるは、無数の硝子細工。

 

「まずは前菜だ。ああ、私が負ける時、余計な言葉は無いからね。こちらも全力で君達を捕食するから、君達も全力でこの滅亡を覆すといい。──何か遺言はあるかな、『嘘吐き君』」

「礼を。ありがとう、君のおかげで己は人間性を獲得できた。そして、怒りを。この世界を二度も踏みにじってくれたね。己が愛するこの世界を。──さようなら、オーパーツ君」

 

 アルター・コルリウムの姿が掻き消える。

 そして。

 

「一番槍は貰う──モード・レヴィカルム」

「あ、ちょっと抜け駆け! 白烙直射(ソーラメイザー)!」

 

 光条二本。

 それが開戦の合図であった。

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