新エリー都、ルミナススクエア周辺のビル街の中でも一際大きく、黒を基調とした粛々とした雰囲気を醸し出すビル。他とは一線を画す厳格な姿勢は他に圧倒的な威圧感を示している。
「スカーライフ社」ここはホロウ内での軍事行動を主な業務とする新興企業の本社。俺はここで対エーテリアス部門責任者として働いている。ビルの自動ドアを通り厳重な検査を行う。仕事柄こういうことには特別神経質にならなければいけない。それでもしばしばうっとおしいと感じる。検査を終わらせ、無駄に長く暗い廊下をひたすらに歩く。ときおりすれ違う他部門の人間に挨拶をする。同じ部門ならば少し声をかける。人の上に立つ立場として挨拶は欠かさない。盤石な立場というのは、一見見落としがちなところに潜むもの。廊下の行き着く先にあるエレベーターに乗り、上がっていく。こういう場面でも誰かに見られていると思いながら行動する。
部署の部屋のドアを開ける。部門ごとに部屋を持ち、対エーテリアス部門は最大級の人数を誇るためその分部屋は大きい。落ち着かない。もっと狭くて心地の良い部屋はないものなのか。そうこう考えているうちにひとりの女性が近づいてくる。
「ペイン主任おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
「早速ですが、目を通していただきたい書類が…」
手渡された書類にサッと目を通す。また上層部からの苦情の書類だった。何でも俺の教育不足でひとつ潰れた案件ができたとかなんとか。
「はぁあ…また苦情の書類か」
このところ社長達と経営思想すれ違いでうまくいっていない。というか入社当初から良好な関係とは言えない。直にお怒りの言葉でも貰うだろう。そうこう考えているき時にデスクの電話がなった。社内用電話がなり、番号をみた時に顔が歪む。
「社長からか…」
渋々受話器を取り、電話に応じる。甲高い女性の声が響いた。
「ペイン…早速書類は見てもらえた?」
嫌味を含んだような言い方に苛つく。
「まぁ、せいぜい善処することね。今回は別件で電話したのよ。今すぐに社長室に来なさい。遅刻は当然許しませんから。では」
ムカつくなぁ。あんにやろぉ。
罵詈雑言が口から溢れるのを我慢しつつ、社長室に向かうことにした。社長じきじき連絡をよこして、話がしたいってならあまり外には出したくない秘密の案件。「殺人業」の依頼があったのだろう。嫌悪感に苛まれながら、エレベーターに乗りこんだ。
「ようやく来たか」
社長室の扉を開けると、若い女性が足を組みながら待っていた。
周りには屈強な黒服達がずらりと並んでいる。俺に対する信用はないに等しいらしい。黒服のうちのひとりに案内されるままに、接待用のソファーに腰をかける。重い空気の中、口を開く。
「今回はどういったご要件ですか?マグナ社長?」
するとマグナは黒服のひとりに指示をする。すぐに俺の目の前には書類とアタッシュケースが置かれた。そして彼女が口を開く。
「察してると思うけど、殺人の依頼よ。まぁあなたに拒否権は無いからもちろん受けてもらう。」
彼女は立ち上がり、説明を続けた。
「私が社長に就任して以来、裏稼業として殺人の依頼を取り扱うようになった。売り上げは上々。一気に一大企業として業界に我が社の名を轟かせた。しかし、あなたのようなこの業務への反対派閥のせいで業務は難航。去年の一件でわが社への信頼はガタ落ち。治安局にも屈せず恩を売ってなんとか成功した業務。これ以上の失態は許されない。そこで我が社の誇る最高戦力であるあなたにこの一件を任せたいのよ。」
「まぁ事情は分かりましたけど、俺はやりません。」
彼女の顔が歪み、俺へ反論を唱えようとしたのを遮り、
「俺はエーテリアスを殺す。そのためにこの企業に勤めてきたわけですよ。決して人を殺すためではない。あんたの事情なんか知ったことではないんで。」
刹那、金切り声のような怒号が飛び交う。態度の急変に驚いた
「うるさい!!とにかくやれ!!これは社長命令だ!!私ならあんたの首も命も簡単に斬り伏せられる。この案件は失敗するわけにはいかないんだよ!!魚類とのハーフの癖に生意気言ってんじゃねぇ!!」
いい歳して駄々こねてんじゃねぇよ。そう反論したい。だが、受けないという訳にもいかなくなってしまった。こいつにはともかく、前社長には恩がある。この会社を窮地に立たせる訳にもいかなかった。
「……分かりました」
勝ち誇ったような顔で彼女はにやける。そして部署に戻り書類確認をするように言った。部屋をでたすぐに依頼内容を確認した。
依頼内容としては、一流企業の社長の暗殺。報酬金としても旨味。そして何より目を惹くのは、依頼主が治安局の幹部であるということ。動機は知らないが結構な闇が渦巻いているのは確からしい。書類を見終わった後、彼女に言われた言葉を反芻する。
『魚類とのハーフの癖に生意気言ってんじゃねぇ!!』
ため息を吐きつぶやく。
「俺が哀れなラブカだとするなら、ここはずいぶん血なまぐさい水槽だな。」
再び歩きはじめた。依頼実行日は明日。今日は早めに帰って、支度をしよう。
あとがき
次回作…作れるのかなぁ