この度バンドリのMyGO!!!!!を基に二次創作を書かせていただきました。よろしくお願いいたします。
人間が最初に記憶から消えていくのは『声』だという話がある。それから次第に『顔』、最後には『匂い』を忘れると言われている。そのどれもが、数年経過した後でも心に残り続けている者も居る。
「お前は、光だ。誰かにとっても、お前は消えない────」
あの日耳にしたか細い声が、笑った顔が、薬品の匂いが混ざった香りが。今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。その言葉の続きを、心の在処を、彼はずっと探し続けている。
探し物はまだ、見つかりそうにない。
光歌隣-ひかり-
#1 隣にいさせて
5月。春の息吹が頬を撫でる心地良い季節。行き交う人で街は賑わい、忙しなく、めまぐるしく時が過ぎていく。
穏やかな陽光が差す昼中。東京都に在る高等学校、『羽丘学園』の校庭にて。しゃがみながら繁茂している草をかき分けてせっせと小石を手に取って吟味する、灰色のショートヘアーをした女子生徒の姿があった。彼女の名は
一見、周囲の人達からすると10代半ばの年齢になっても石を集めている彼女の姿は珍しい光景として映る。面白いと思う者も居れば、それを『変だ』と笑う者も居る。価値観は人それぞれ異なるのが当然だが、燈はそれらの声が然程気にならない。自身の中で絶対に揺らがない、大切なものがあるからだ。そのきっかけを作った人物が、彼女の方へ躊躇いなく近付いて来ていた。
「よっ! 燈。今日は良い石ありますかい?」
「……しょうちゃん」
聞き慣れた明るい声で自分に話しかけた少年の姿に気付き、燈は声がした方へ視線を移す。彼女に一言名前を呼ばれた少年はにかっと笑い、中腰になって燈と会話がしやすいように姿勢を低くした。
「これ……形が綺麗……」
「おっ。どれどれ。あ、ホントだ! 良いの見つけたな!」
燈は先程制服のポケットに入れたばかりの石を1つ取り出し、それを少年に見せる。すると彼は声を弾ませて燈にそう言った。自分のことのように喜びを表す彼の姿に、彼女もまた嬉しそうに微笑を浮かべる。
燈は何年も前から幼馴染である彼のことを知っている。明朗快活で心優しい彼とは唯一交流を長く続けられており、できる事ならずっと側に居たいと燈はそう思っている。少年の言葉に彼女は頷きを返してから再度石集めを再開すると、彼も隣でしゃがんで燈が手を動かす先に目線をやる。
「そーいや、おれたちが羽丘に入ってもう1ヶ月なんだよな。時間経つのってマジであっという間だなぁ」
「……うん。そう、だね」
「バイトももうそろそろ始めて1ヶ月だし、できること増やしていかねーと
「立希ちゃん、怖い?」
「んー、怖い時は正直あるな……でもいざとなったら助けてくれるから、あいつには頭が上がらねぇわ」
「そっか……なら、良かった……!」
2人はぽつぽつと会話を広げながら残りの昼休みの時間を過ごしていた。立希という名の少女は2人の共通の友人で、且つ少年のアルバイト先の同期の間柄だ。暫く彼女についての話題を続けていると、『おーい』と少し低めの声が聞こえてきた。
「
少年のクラスメイトの男子生徒が少し遠くから声を掛け、彼に次の授業がそろそろ始まることを告げた。
「おーう! 今行くー!」
星斗と呼ばれた彼は大きく手を振りながら返答し、ゆっくりとその場から立ち上がる。
「さて、と。燈、おれたちも教室戻るか」
「あ……うん……」
燈は頷いた後、今しがた触れていた石が散りばめられている箇所を名残惜しそうに数秒見つめてから前を向いた。
「明日もきっと、良い石見つけられるさ。綺麗な石あったら、また教えてくれよ!」
「ありがとう……しょうちゃん」
「ん。そんじゃ、行くか!」
星斗は笑って燈に歩幅を合わせて歩く。いつも通りの、何の変哲もない日常。2人で並んで歩く日々を、かれこれ10年間続けていた。星斗は、今も何も変わらない。声は多少昔より低くなったが、それでも聞き心地の良いはっきりとした声であることに変わりない。
燈自身は、以前に新しいことを始めたものの今はもう辞めてしまっている。それからずっと、普段通り石や落ち葉を集める日々に戻った。物事を辞めたことに悲しみや後悔がない訳ではない。今でもふと、楽しいと思えた日々を思い出す。思い出しても、何1つ戻るものなどないと分かっていても考えてしまう。自分にとって大切だったと後になって気が付いた、あの居場所を。
靴を履き替えて校舎内を歩きながら、星斗は静かに口を開いた。
「周りの人になんて言われようと、気にすんなよ」
「え……?」
「あーいや、なんというか……燈には、自分の『好き』をそのまま持っといてほしいなって。少なくとも、おれはそう思ってる」
燈の好きなものが周囲と一風変わっているのを星斗は昔から分かっていた。けれど星斗は周りの人達にどう思われても構わず好きなものを好きなまま居続けている燈を尊敬していて、故に彼女と仲の良い友人関係を続けたいと願い、現在に至っている。
羽丘学園に入学して1ヶ月が経過し、その間に燈を見て笑う者を星斗は何人か目にした。彼女のことだから恐らく大丈夫だと思いはしたが、言っておくに越したことはないと考え、星斗は自身の気持ちを率直に伝えた。すると燈は立ち止まり、胸にそっと手を当てる。彼女が足を止めたことに気付いた星斗が彼女の方を見ると、燈の瞳は真っ直ぐ彼を捉えていた。
「『好きなことを好きなだけできる燈が好き』。しょうちゃんの……言葉」
「……うん。おれはそう言ったよ」
幼い頃に星斗が燈に伝えたその一言。互いに、その時のことをよく覚えている。彼の言葉を声に出し、燈もまた星斗に自身の気持ちを話す。
「それが、ずっと……心の中にあって。だから、私は……私でいられる。これからも、忘れたくない。しょうちゃんが言ってくれた、言葉……」
あの時星斗が何気なく伝えた一言が、燈にとって絶対に忘れたくないものだった。忘れないように何度もノートのページに書き続けた。あの日、あの時。星斗自身の声で伝えてくれたその言葉が、現在の燈を形作っている。燈にとって、彼の言葉達は宝物に等しい。誰に何を言われても、それが彼女の中で揺らぐことは決してない。
燈が自分に伝えたい意図を汲んだ星斗は、嬉しそうに歯を見せて笑った。
「そっか。良かった! おれも燈としたこと、話したこと……忘れたくない」
星斗も燈との思い出を忘れたくないと伝える。彼にとって唯一の幼馴染で、親友の関係である燈と一緒に居たいと心から願う。彼女に伝えたいことを考えた時、時に言葉に詰まって出てこなくなる。今も、上手く言語化ができなくなった。
どうして言葉に詰まるのか、星斗自身にも分からずに居た。だが、下手でもせめて燈に伝えておきたいことを今声に出したいと思い、数秒の間を置いた後に再度口を開く。
「上手には言えないけど……これからも、隣にいさせてほしい。燈の……隣にさ!」
「うん。……うんっ!」
不器用ながらも燈に本心を伝えると、彼女は顔を綻ばせて強く、強く頷いた。その反応を受けて星斗は安堵したように頬を緩ませる。
見える景色も、考え方も。自分達を取り巻く様々なものがこれから先変わる日が来るかもしれない。
それでも、互いが互いの隣に、変わらず側に居続ける関係でいたい。その関係を維持していくことが、何の才も、飛び抜けた技術も持ち合わせていない彼が抱く揺るがないものだった。
少年の名は、
転がる石の道筋を、笑うあなたと辿りたい。