星斗が
「怪我、大丈夫なの?」
立希は頬に絆創膏が貼られている星斗に怪我の具合を聞く。燈を追うように言ったのは彼女で、急がせたことで怪我を負わせてしまったと感じているのか、その声音は幾分か優しかった。
「ああ、ちと擦りむいただけだから今はあんまり痛くないよ」
「燈が心配で追いかけてもらったのに、お前が怪我してどうすんの」
「あはは……返す言葉もねぇです……」
今は平気だと軽く笑いながら立希に伝えると、言い返す余地のない真っ当な指摘を受ける。当然だ。燈を案じて星斗を向かわせたにもかかわらず、当の本人ではなく追いかけた側が怪我をして帰って来るようでは本末転倒である。
「でも、あの後意外と怒られなかったよな」
「怒るというより、心配してた。私が行かせたって伝えてたのもあるんだろうけど」
「やっぱそうか……次からは
燈と別れて『RiNG』へ戻ってきた星斗を待っていたのは、落ち着かない様子で不安そうな表情を浮かべる凛々子であった。
星斗は彼女と顔を合わせてすぐに頭を下げて謝罪した上で事情を伝えると、凛々子は安堵したように笑うのみで、星斗に怒りを一切見せなかった。今後は一時的にバイトを抜ける時は声を掛けてから行くようにしてほしいと諭され、星斗はオーナーである彼女の優しさを深く噛み締めた。
勝手にバイトを抜け出した不満や怒りよりも心配の方が勝る凛々子に立希と星斗共々助けられる結果となり、彼女の寛大な心遣いにより事はひとまず丸く収められた。燈が心配だったとはいえ、そう何度もすることではないな、と2人は自戒しながら機材を運び、持っていたマイクスタンドを置いた立希は星斗に声を掛ける。
「あとは私1人でできるから。星斗はカフェに着いてて」
「おっけー。何すっかなぁ」
「今
「よっしゃ。沙綾先輩に良いとこ見せるぞー!」
今は先輩の
「あ、もしかしたら立希にホールお願いするかも」
「は? 急すぎるんだけど」
『ホール』という単語を聞いた瞬間、立希の眉間に皺が寄った。こうなることは予測済みだったので星斗はやる気を出してもらえるように身ぶり手ぶり付きで彼女の説得を試みる。
「やり方はこの前教えたし、立希なら大丈夫だって! ね? ねっ?」
星斗にそう言われると、立希はしょうがない、といった様子で溜息を吐いた。
「はぁ……必要になったら呼んで」
「あれ、珍しく素直じゃん」
「仕事ならある程度割り切らなきゃいけないでしょ。『やりたくないからやらない』は、ただの言い訳だから」
意外とすんなり了承してもらえたことに少々驚くが、淡々と展開された立希の持論に星斗は首肯する。彼女は燈に関する事柄を除き、基本は私情よりもやるべき仕事を優先出来る人物だったと納得し、彼は笑む。
「それは一理あるかも……んじゃ、そん時になったらよろしく!」
「期待はしないで。この前言ったけど、お前みたいにやるのはさすがに無理」
「わかってるよ。でも立希ならちゃんとできるだろーし、ちょっとくらい期待させてくれても……」
「良いから、そういうの。……早く行け」
「あ……ごめん。んじゃ、行ってくるよ」
些か不機嫌な顔を見せた後に手首をスナップして自分を払う立希を見て、星斗は要らないことを言ってしまったと自身の発言を省みる。今までの経験から、立希は些細なものであっても他人から期待の視線を向けられるのが苦手なのだ。
それを知っていたのに思わず期待の言葉を掛けそうになったことを詫びてから星斗はカフェテリアへと足を運ぶ。軽く手を振り返してくれたので恐らくそこまで怒っていないのは分かるのだが、それでも立希が一瞬不愉快そうに顔を歪めていたので、後で彼女にちゃんと謝ることを決め、星斗はカウンターで今しがたコーヒーを淹れ終えた沙綾に話し掛ける。
「お疲れ様です! 沙綾先輩、お手伝いにきました!」
「星斗くん! ありがとうっ! じゃあ、これお願いしても良いかな?」
シュシュで1つ結びにしたミルクピンクの髪を揺らし、沙綾は星斗の方へ振り向く。手伝いに来てくれた彼に礼を言いつつ、側に置いていたメモ紙を星斗に差し出した。
メモには読みやすい文字でメニューと個数が記載されており、中には二重線が引かれているものもあった。まだ線が引かれていないのが客に提供し終えていないものだと理解した星斗はそれを受け取り、にかっと笑う。
「もちろんです! ちゃちゃっと作りますね!」
星斗はそう言って上機嫌に鼻歌を奏でながら手を動かし始める。『RiNG』に勤め始めて1ヶ月。星斗はカフェテリアでの仕事が好きになり、自身の好きな業務で先輩である沙綾の役に立てることが嬉しく、手際良く注文を受けたコーヒーを淹れていた。そんな折、自動ドアをくぐって1人の少女が店内に入ってくる。彼女が手で引いている、ギターケースが固定された台車のキャスターがごろごろ、と床に音を伝わせていた。
「いらっしゃいませー! あ、
「うん」
肩まで伸ばした白髪と左右で異なる色の瞳が特徴的なその少女は、沙綾の問いに短く言葉を返す。楽奈の頷きを受け、沙綾は人差し指と親指で丸を作る。
「オッケー! 準備するね!」
客にコーヒーを提供し終えた星斗が楽奈の存在に気付くと同時に、彼女は無言で星斗を横切ってオープンマイクの機材がある方へ向かっていった。
「あっ。沙綾先輩、あの子……ちょくちょく来てますよね。凛々子さんからちらっと名前聞いたような……」
「
「へ〜。たしか……そのライブハウスってもうないんですもんね?」
「そうそう。『SPACE』が閉店して、ギターを弾ける場所としてここを使ってくれてるみたい!」
元々、東京都に在ったライブハウスの『SPACE』が閉店したのをきっかけに凛々子がオーナーとして『RiNG』を立ち上げたと聞いていた星斗は合点がいった様子で顎に手を当てる。
「そういうことかぁ。あの子、ギターかなり上手ですよね」
「ね! でもバンドには入ってないみたい。気が向いた時に弾いてすぐ帰っちゃうから……皆で集まって練習したりとか、あんまり性に合わないのかもしれないね」
「あー。あり得る……」
あの楽奈という少女はおおよそ1週間~2週間に1回の頻度で『RiNG』にふらっと現れては、カフェテリア内で誰でも自由に音楽パフォーマンスを出来るように解放されているオープンマイクを利用してギターを奏でている。
その姿を星斗も何度か見たことがあり、毎度楽奈の演奏技術に驚かされている。あれ程の実力を有しているなら数多のバンドからスカウトされたり、不定期でもサポートギターのオファーが殺到していても何らおかしくないと感じるのだが、どうやら彼女はバンドには所属しておらず、沙綾の言う通り気が済んだらすぐに店を出てしまう為、彼女は一言で言えば気まぐれな性分であり、沙綾から話を聞いた星斗は楽奈に対し猫みたいな子だな、と苦笑交じりにそう思った。
「私、オープンマイクの準備してくるね! ちょっとの間料理出しお願い!」
「それなんですけど、お試しで立希にホールをお願いしてみようかなと思ってて……」
「立希ちゃんが? 接客は嫌だって前言ってたけど、気が変わったのかな?」
立希に接客を頼みたい旨を聞いた沙綾は意外、といった様子で軽く首を傾げる。
「みたいですね……必要になったら呼んでって言われたので、その時になったら沙綾先輩から声かけてもらって良いですか? 多分、おれが頼むより先輩から言った方が素直にやってくれそうな気がして……」
「うん、良いよ! けど、星斗くんから頼んでも全然大丈夫だと思うけどなぁ。気まずいかんじ?」
「……そう、ですね。ちょっと……」
先程の発言で立希を不機嫌にさせてしまった可能性があることから星斗は念の為自分ではなく沙綾から立希にホールを頼むように伝える。普段の2人の距離感を把握している沙綾は、星斗のお願いなら立希はなんだかんだで聞き入れるのではないかと思ったが、素直で可愛い後輩からの頼みであるし、断る理由も特にない。彼女は笑みを浮かべて、彼からの依頼を了承した。
「ふふっ。わかった! 私から立希ちゃんに声かけるね!」
「ありがとうございます! 沙綾先輩!」
「……ねぇ」
「うわぁい!?」
自身のお願いを聞いてくれた沙綾に謝意を述べたその時。星斗は背後から誰かに声を掛けられ、思わず頓狂な声を上げる。振り返った先には、ほんの少し目を細めた楽奈が立っていた。
「まだ?」
「あっ、ごめんごめん! ちょっと待っててね! 星斗くん、任せたっ!」
「はっ、はいっ! 任されましたっ!!」
未だオープンマイクの準備に来ない沙綾を待ちきれなかったのか、自分から彼女を迎えに来たようであった。沙綾は星斗に一言言ってから小走りで機材がある方へ向かい、楽奈もまたゆったりとした足取りで彼女の後を着いて行く。表情を変えず淡々と言葉を告げる楽奈に星斗は若干の怖さを覚えるも、沙綾を引き留めていたのは自分に原因があるので彼は即座に楽奈への恐れを頭の隅に追いやり、急いでカウンターへ戻っていった。
楽奈とは単なる顔見知りで、今まで話したこともないので彼女のことはまだ何も分からない。だが、おそらくこれからも楽奈は今日のようにギターを弾きたくなった時にまたふらっと店に来るだろうと考え、星斗はいつか彼女と普通に話ができるようになりたいと願いながら、ケーキが乗せられた皿の上にホイップクリームを絞り、そこに飾りとしてミントの葉を添えた。
出来上がったガトーショコラを客に提供したところで、客席から『すみませーん!』と注文が決まったであろう少女の声が耳に入ってきた。声のする方をちらりと見た星斗は、そこに座していた2人の少女に目を留める。
「あれ……そよと、昨日の……」
星斗の目線の先には昨日燈と一緒に居た桜色の髪の少女が居り、その対面には見知った者の姿が在った。ウェーブがかったライトブラウンの髪を持ち、月ノ森学園の制服に身を包んでいる彼女は星斗にとって友人の1人……
何故そよと昨日の羽丘生が一緒にカフェテリアに来ているのか見当がつかないが、経緯を考えるより先に立希の出番だ! と星斗は瞬時にオープンマイクコーナーに居る沙綾にアイコンタクトを送る。星斗の意思を受け取った沙綾は彼にウインクをしてから、関係者用出入口に顔を向けた。
「立希ちゃーん! ホールおねがーい!」
沙綾の呼びかけから数秒の後、立希の短い返事と共に出入口のドアが開いた。彼女と目が合った星斗は親指でそよ達の席を示すと、立希は軽く頷いてそこへスタスタと歩いて行った。
「よし。行ったな」
カウンターへ戻った星斗は、特に不安等なく立希の初めての接客を見守るのであった。
数分後。そよと羽丘生の少女の注文を受けてカウンターへ足を運んだ立希を、星斗は笑顔で迎える。
「……星斗」
「ホール、良い感じだったよ。やっぱできんじゃん」
「あれくらいなら、全然」
「なら良かった! 注文とってくれて、ありがとな」
立希も星斗と同じくそよと面識がある故に途中で彼女と言葉を交わしていた。桜色の髪の少女に対しては昨日何かあったのかそっけない態度を見せていたが、その人の注文も受けて戻って来た為当初の目的は達成している。星斗は立希を咎めたりせずに礼を言ってから、先程まで立希が立っていた客席の方へ視線を移す。
「久しぶりにそよ来てるし、あとで声かけてこよ。昨日いた羽丘の人とも話してみたいし」
「お前……よく見ず知らずの他人に話しかけに行こうと思えるよね」
「見ず知らずだから、喋ってみたいって思えるじゃない。同じ羽丘生だし、関わり持っといた方が良いかなって」
「まぁ……好きにすれば。私はあいつがどんな奴かとか気にならないし、どうでもいいけど」
「お口が悪いよ。多分あの人と同い年なんだし、興味持とうぜ〜?」
「興味ない」
「さいですか……」
いつもと変わらない立希のそっけなさに乾いた笑みを浮かべるが、そこで星斗はハッと気付く。今自分は、立希と普段通りに話せている、と。機材運びの時に少なからず不快な思いをさせてしまったにも関わらず会話のキャッチボールをしてくれる立希に、星斗は益々頭が上がらない面持ちで居た。2人は並んで注文を受けた品物を作り始め、立希は毎度彼にそうしているように横から声を掛ける。
「星斗、それ取って」
「はい」
「あれも」
「ほい。これもいるっしょ?」
「ありがと。助かる」
「良いってことよ。っし、完成。これ、お客さんに出してくる! 立希もそよ達に出してみるか!」
「わかった」
星斗は立希が出す抽象的な指示を完璧に理解して必要な物を受け渡し、立希はそよ達から頼まれたアールグレイの紅茶を淹れ始める。
2人はカフェテリアでの業務を共に励んできた故に息の合った連携作業が行えるようになっており、互いの性格をよく分かっているからこそ多少雑な言葉でも疎通が可能な程に相互認識が出来ていて、そんな星斗と立希の様子を、オープンマイクの準備を終えて密かにカウンターへ戻ってきていた沙綾が暖かな眼差しで見つめていたのを知る由もなく、どちらも真剣に自分達の業務と向き合うのだった。
「ただいまー。……うおっ!?」
星斗が客に料理を出して帰ってきたところに、唸るようなギターの音が彼の鼓膜に刺さってくる。楽奈によるオープンマイクでのギターパフォーマンスが始まったようで、アンプを通して彼女の荒々しく、且つ繊細さも併せ持つ音色が店内に響き渡り、楽奈の演奏技術に星斗は圧倒される。
「始まったか。相変わらずすっげぇな……」
その華奢な身体を楽しげに揺らし、細い指をひっきりなしに動かして奏でられる凄まじい演奏に星斗は感嘆の声を上げ、隣に居る立希も腕を組んで楽奈を見ていた。数分の後にかき鳴らされていたギターの音がピタリと止まり、彼女は線を抜いてケースにギターを納め、小型の台車に固定してからそれをごろごろと引いて歩き出した。
「楽奈ちゃん、もう良いの?」
「満足」
「そっか! また来てね!」
沙綾の質問に一言で返し、楽奈は真っ直ぐ自動ドアをくぐって去って行った。
まるで夕立のようにいなくなった彼女を目で追っていた星斗が抱いたのは、純粋な尊敬。どれ程の研鑽を積めばあれ程の技量を身に付けられるだろうか。自分とそこまで変わらない年齢の筈の楽奈が持つ類稀な才に、ただひたすらに魅入っていた。
「楽奈、か。ホント……すごかった」
「あいつ、マジで気まぐれだよね。猫みたい」
「ははっ! おれもさっきそう思ってたとこ。次会えるのが楽しみだな!」
「私は別に……アールグレイ、運んでくる」
「おう。いってらっしゃい!」
立希がそよ達が座している卓に紅茶を運びに行き、星斗も頃合いを見て2人に話しかけることを決める。立希がカウンターへ戻って目にしたのは、注文を受けていない筈のケーキを2つ、丁寧に飾る星斗の姿であった。
「失礼します! こちら、シフォンケーキです! よろしければどうぞ!」
立希が紅茶を提供して5分経った頃。星斗は笑顔でそよ達の卓にケーキとデザート用のフォークをそっと置いた。アールグレイによく合うプレーンのシフォンケーキで、そよの対面に座っていた少女は戸惑った様子で星斗を見る。
「あれ。私達……それ頼んでないですよ?」
「これは、おれのおごり! 久々にそよに会えたし、君は同じ羽丘生だから……お近付きの印! みたいな?」
「え~良いんですかぁ!? ありがとうございます! いただきますっ!」
桜色の髪の少女はパァッと笑顔を咲かせ、星斗に礼を伝えてからシフォンケーキにフォークを入れる。星斗のもてなしを受け、そよは優し気に微笑んでいた。
「しょうくん。お久しぶり。元気そうで良かった!」
「『しょうくん』……? そよさん、知り合いですか?」
彼女の問いに、そよはこくりと頷く。星斗は自己紹介も兼ねて、自分とそよの関係を話すことにした。
「おれ、星斗。
「あぁ! そよさんのお友達なんですね! 私、
星斗の言葉を聞いて、彼女も自身の名を伝える。『愛音』と名乗ったその少女は星斗とそよが友達なのだと納得し、彼の容姿と雰囲気から自分と歳が同じか聞いてみると、星斗ははにかんで質問に答える。
「多分そうだね! ちなみに、おれも羽丘生! 羽丘の1Bだよ!」
「まじ!? 嬉しい~~! よろしくねっ! 星斗君!」
「こちらこそよろしくっ! 『愛音』って呼んで大丈夫?」
「もちろん! むしろ、そう呼んでほしいな!」
「おっけー! ありがとう!」
星斗の明るい声音と笑顔に好感を持った愛音は嬉しそうに声を弾ませ、星斗に名前で呼ばれることを望んだ。会ったばかりなのに既に意気投合しそうな空気感の2人を、そよは口を挟むことなく静観していた。星斗の誰とでも仲良くなれる気質は今も変わっていないのだな、と彼女は安堵すると共に、彼に対して何とも言えない感情も湧き出ていた。
「良かったぁ、今度は愛想良い人が来てくれて」
「うん? 何かあったの?」
「さっき私達を接客してた人がさぁ、すっごい態度悪くて! 私に舌打ちしてくるし、紅茶の置き方雑だし、睨んでくるし! ほんと最悪!!」
「あー……ごめんっ! 不快にさせちゃったみたいで……」
立希に対して『やってくれたな……!』と心の中で思いながら星斗は素直に愛音に謝罪する。彼女の一連の接客を見ていて、愛音への態度に何かあるのかと薄々思ってはいたが、まさか睨んだり舌打ちをしていたとは思っておらず、星斗は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。被っていたハットを外して頭を下げた星斗のお詫びを受け、彼女は顎に人差し指を当てる。
「んー、まぁ……星斗君がケーキ奢ってくれたし! 気にしないことにする!」
「ありがとう……! その人にはおれから言っておくから……!」
星斗の奢りでケーキを食べられたことで愛音の機嫌は既に良くなっていたようで、彼女はもう気にしないと星斗に伝える。自分が接客について立希に言えばなんと返されるか大体予想はついているが、流石に客に対して舌打ちしたりするのは看過できない為、バイトが終わるタイミングでそれとなく立希にやんわり『良くないよ』と伝えてみることにした。そよは紅茶を一口飲んだ後、星斗と愛音の会話に交ざる。
「しょうくん、仲良いもんね。さっきも息ぴったりだったし!」
「見てたのかよ!? まぁ、それなりに良いとは思う。あっちがどう思ってるかはわかんないけど」
「ふふっ。大丈夫だと思うよ?」
「だと良いけど……」
立希と共にカウンターで品を作っていたところを見られていたことに気恥ずかしさを感じ、星斗はハットを被り直して目線を逸らす。その仕草にそよはクスッと笑い、言葉を続ける。
「ほら、今も。しょうくんのこと見てるよ」
「えっ。……やべっ! ごめん……そろそろ仕事戻ろっかな……」
「あっ! その前に、連絡先交換しない? まだ羽丘に来たばっかで、友達少ないんだよね! 良いかな?」
「それはもちろん! ……はいっ! おれのQR!」
星斗は愛音の提案を快諾し、急いでスマホを取り出してメッセージアプリのマイQRコードを開いて彼女に提示する。愛音も鞄からスマホを出してQRコードを読み取り、星斗のアカウントを追加した。同じ羽丘生の愛音と話したいのは山々だが、立希からあんなにも睨まれてはそれどころではない。バイトを終えてからメッセージでいくらでもやり取りできるだろうと考え、星斗はスマホを消灯してズボンのポケットに突っ込む。
「よしっ! 愛音、ごめん! あとはメッセで話そ! そよも! 今度遊ぼうな!」
「うん。遊ぼうね」
星斗は手早く言いたいことを2人に告げ、軽く右手を振った。
「そんじゃ、ごゆっくり~!」
「星斗君バイバイ~! その帽子、似合ってるよ~!」
「ありがとう~~!!」
席から少し離れたところから手を振りながら言葉を返した星斗は、先程席に来た黒髪の少女と共に関係者用出入口へ繋がる部屋へ入っていった。彼の姿が見えなくなってから、そよが口を開く。
「騒がしくてごめんね。しょうくん、誰に対してもあんな感じだから……」
「いえっ! めっちゃ良い人でしたし! 仲良くなれそうな気がします!」
「ふふっ。私にはやっぱり敬語なんだ」
「あ、ごめんっ……つい……」
「ううん。気にしないで!」
星斗はノリが軽く、自分と似た雰囲気を感じた為に愛音は彼に対等な喋り方であったが、そよは同年代と比較して大人びた印象があり、それ故に未だ彼女には敬語が抜けていなかった。愛音からの詫びを軽く流し、先程星斗が来る前に彼女が話していた話題に戻す。
「……それで、愛音ちゃんがさっき言ってた『燈』って、
肘を突いて手を組み、左の人差し指で自身の指を撫でながら、そよは笑顔で愛音にそう確認する。
その表情にただならぬ何かを感じ取った愛音であったが、どうしてか……それを彼女に聞こうという気には、とてもなれなかった。
その出会いが生むのは幸福か、それとも。