ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話 作:雅媛
1 ライスシャワーになってしまった話
こんなことになるならば、アニメや映画を見て、ゲームもやっておけばよかったな。
自分がウマ娘という不思議な生き物になったことに気づいて、最初に思ったのはそんなことだった。
前世でトラックに轢かれて、気づいたらウマ娘になっていた。某サイトの小説のような転生方法だが、なった先がファンタジーなどではなく現代日本で、ウマ娘なんていう不思議生き物になっているのだから、テンプレート的なものとずいぶんずれている。
ステータスも開けないし、なんか特殊なチートスキルにも残念ながら目覚めていない。まあウマ娘という生き物自体が若干チートじみているのは否定しないが。とはいえこちらの世界ではウマ娘もれっきとした人種でしかないため一定数いるのだから、唯一自分だけのものということは全くなかった。
何にしてもウマ娘である。その存在は知っていた。ネットなどではかなり話題になっていたし、地方競馬場はよくコラボイベントをやっていた。ゲームが携帯アプリだったためあまり食指が動かずに手を出さないでいたため、その具体的な内容はほとんど知らなかった。
「にしても、ライスシャワーか」
鏡に映る自分は癖のある黒髪を生やした小柄な少女だ。名前はライスシャワー。
あの淀のヘビーステイヤーと同姓同名である。
ただの偶然かと思っていたが、どうやらそうとも限らないらしい。おとぎ話程度ではあるが異世界の名前と能力を引き継ぎウマ娘は生まれてきて、その名前と能力により運命に導かれるとか、そういう話があるらしいことは絵本などで確認済みだ。
実馬のライスシャワーと比べても毛色は黒鹿毛で一緒だし、小柄というのも同じだ。名前だけではなく特徴も一緒なのだから、あのライスシャワーを引き継いだ存在になってしまったと考えて間違いないだろう。
「うーん、とはいえいい馬を引き継いだとは思えないなぁ」
同時期のステイヤーである名馬メジロマックイーンに比べるとライスシャワーという馬はとにかく成績にムラがあった。なんせ、菊花賞で勝った後の有馬記念では8着惨敗、天皇賞春に最初に勝った後の秋古馬戦線でも惨敗続き。菊花賞でミホノブルボンの三冠を、天皇賞春でメジロマックイーンの三連覇を阻んだのだから、もうちょっと強くあってほしいと思うのは、特に負けた馬のファンたちの本音だろう。
メジロマックイーンは斜行で18着に降着した時以外は掲示板を外したことがないので、同じステイヤーという似たような存在として比較されてしまった時にやはりその情けなさも増すというものであり、レコードブレイカーなどと言われるのもやむを得ないという所である。
まあそれにしてもファンの態度や競馬関係者の態度がひどかったからキレた騎手の気持ちもわからんでもないが……
選べるならばディープインパクトとかになりたかった。まあさすがに高望みが過ぎるか。
「運命に導かれるというけれど、どこまであてになるかもわからないし」
テレビで流れているのはトゥインクルシリーズの天皇賞秋。それまで無敗だったシンボリルドルフが同じ三冠馬ミスターシービーに負けたところだった。
シンボリルドルフやミスターシービーなんて古すぎて実際に競馬をやっていた時期ではないので、詳細は覚えていないが、三冠馬ミスターシービーが同じ三冠馬シンボリルドルフに全くかなわなかったと言われているぐらいは、競馬ファンとして知っている。
そういった前世の運命とは、全く違う結果が今まさに目の前で示されていた。
つまり、前世と同じ結果が出るわけではないということだ。とはいえ二人とも三冠を取っているのだから、それなりに同じような歴史をたどるのかもしれないが。
「まあ、血統から違うもんなぁ」
競走馬は6,7歳ぐらいから15歳ぐらいまで出産し続けるが、こちらの世界のウマ娘は人と同じ速度で成長するので、そんな年齢で出産などできないし、しない。前世よりは若干早い傾向にあるが、うちの母も20歳の時に自分を産んでいる。重婚なども認められてないし、そのため、両親から前世とは違う、というか、父親は基本人間の場合が多いので、競馬と同じような血統を再現できるはずがなかった。
一応ウマ娘同士でも子供を作れるとも聞くが、どうやるかは知らない。きっとそのうち性教育とかで教えてもらえるのだろう。
閑話休題、ブラッドスポーツといわれるほど血統が大事といわれる競馬だ。そんな競馬と全く違う血統で、名前と能力だけを引き継いだウマ娘では、前世の競馬と違う結果になっても不思議ではない。
さすがに自分が知っている時代の競馬と、いま自分が観戦しているトゥインクルシリーズのウマ娘レースは世代が違いすぎてどれだけの差異があるのかもわからないが、それでも多少が覚えがある部分、シンボリルドルフとミスターシービー、そしてその2頭の関係といった薄っぺらい知識でも、差異が出ているように思った。
「さて、今後はどうするか、だねぇ」
経済動物である競走馬と違って、ウマ娘は人間である。そのため、別にレースに出る必要など全くない。もちろんレースに出て活躍すれば一般の仕事とは比べ物にならないくらいの収入を得られるが……
「お金の心配もそんなにいらないし」
正直現状、自身がお嬢様であるため、将来の心配をあまりする必要がなかった。
両親は海運会社の役員であり、海外出張ばかりしているため、ほとんど一緒に暮らしていない。その代わり、お手伝いさんが家にいるのだ。お手伝いさんである。フィクションでしか見たことない存在が自分の周りにいるのである。残念ながらメイド服ではないが。
普通の子供だったら親にほとんど会えない生活に寂しくてよろしくない成長をしてしまったかもしれないが、あいにく今の自分の中身だけはそれなりの経験がある大人だ。親がいない生活はむしろ気ままでよかった。
「なに独り言言ってるの? ライスちゃん」
「あ、マルゼンスキーさん、いえ、自分の将来を憂いてまして」
「まだ幼稚園生が言うことじゃないわよ……」
そんな独り言を言っていると、うちで居候しているマルゼンスキーさんが話しかけてきた。
相変わらずすごい美人である。顔ヨシ、スタイルヨシ、性格も明るくて社交的でヨシのすごい人だ。
話を聞くに母の親戚らしく、トレセン学園卒業後に紆余曲折あったようで、しばらくうちに滞在する予定らしい。
現在はニート、ではなくドリームトロフィーシリーズに所属するプロウマ娘レーサーだ。うちの裏にあるトレーニングコースでよく走っている。
そう、自宅にトレーニングコースやトレーニング設備があるのだ。何のためにあるのかわからないが、ここから考えてもうちはかなりお金持ちだろう。
「将来のことはよくよく考えておいた方が良いと思うのだけど」
「ライスちゃんぐらいの年齢だとお嫁さんとかもっと雑にしか考えないわよ普通」
「お嫁さんは遠慮したいですね。ライスは女の人が好きだから」
「小さい子から唐突に性的志向のカミングアウトされても困るんだけど……」
そう苦笑しながらマルゼンさんは私の頭を撫でる。ちなみに一人称が名前なのは単なる趣味だ。幼くてかわいい子アピールである。前世では自分のことは私と言っていた気がするので脳内では私だし、時々気が抜けると私と言ってしまうので、それなりに気をつけないといけないのが問題ではあるのだが。
ちなみに私の恋愛対象は女性である。前世のせいなのか何なのかはわからないが、男性よりも女性の方が好きだ。まあ、男性でも筋肉ゴリゴリマッチョなら少し考える。触ってみたいし。男性アイドルみたいなのはまるで興味がわかない。
「あ、でもマルゼンスキーさんのお嫁さんならいつでも大歓迎だよ」
「え!?」
「なんですか、可愛い親戚の子から告白されたんだからもう少しいい反応してよぉ」
「いや、そんな淡々と告白されても困るんだけど」
「そうかな?」
別に嘘は言っていない。こんな美人で優しいお姉さんがいたらひとまず子供なんて皆惚れてしまう。恐らくマルゼンスキーさんは近所の子らの初恋ハンターになってるのは間違いなかった。
にしても冗談に思われてしまったようだ。こう、もっともじもじしながら頬を染めて告白するべきだったか。
こんなときどんな表情をしていいかわからないし、淡々としゃべりすぎたかもしれない。
「あと、15歳下の子はちょっと……」
「マジレスで断られた。普通はもうちょっとこう、大きくなったらね、みたいにごまかすよね?」
「ごまかした返事するとライスちゃんに囲い込まれそうで怖いし」
「怖くないよぉ、ライスはただの幼女だよぉ」
「本物の幼女は自分を幼女って言わないわよ」
マルゼンスキーさんがため息をつく。
まあ年齢差すごすぎるというのはわかるが。
現在5歳の私に対し、マルゼンスキーさんが20歳だ。つまり、私が20歳の時にマルゼンスキーさんは35歳か。35歳のマルゼンスキーさん……
「うっ」
「ど、どうしたの?」
「35歳のマルゼンスキーさんを想像したら大人の色気がすごすぎる」
「どういうこと……」
今でもスタイルが良く色気があるマルゼンスキーさんだが、20歳の娘さんらしく若々しさ、初々しさにもあふれている。それが35歳になれば、この若々しさがすべて大人の色気に変わるだろう。想像しただけでも致死量の色気だ。
「確かに将来のマルゼンスキーさんのすごい色気にライスは耐えられそうにないよ。ごめんなさい」
「この子の中で私、どうなってるのかしら」
今の私ではマルゼンスキーさんと不釣り合いということだ。残念だが初恋はかなわないものだし諦めるとしよう。
こんな感じのいい感じのお姉さんマルゼンスキーであるが、名前の元の馬は、競馬では悲運の名馬の一頭だ。当時のルールにより日本ダービーに出られず大レースとの縁があまり多くない。一方で圧倒的な強さで無敗であったため、同期の馬たちが侮られる一因にもなってしまった。
一方で種牡馬としての成績もよかったため、顕彰馬になるほど評価された馬でもある。
こちらの世界のマルゼンスキーさんが日本ダービーに出られたのかはわからないが、ダメだった場合の話が重すぎるのでその詳細を聞くことはできなかった。外国人の血が入っているからとかいう理由で拒否すると人種差別とか言われてやべーことになりそうだけど、本当にどうなったんだろうね……
そしてふと考える。マルゼンスキーが名馬だったことは疑いようがない。そしてその能力を引き継いでいるのが目の前の美女である。詳細な話は聞いていないが、おそらく彼女もレースにおいて一級品の実力を持っているに違いない。
ウマ娘のトゥインクルシリーズ、ドリームトロフィーシリーズが大人気であるのは間違いなく、そこで活躍するということに魅力を感じないわけではない。
また、ライスシャワーという馬をさっきネガティブに考えたが、G1を3勝もする時点で上澄みの馬であり、その能力を引き継いでいるならば才能はかなりあるはずである。
トレセン学園に入学し、トゥインクルシリーズ、ドリームトロフィーシリーズに参加するならば、今から練習を始めても悪くないはずである。試しにやってみて面白くなければやめればいいわけだし。
である以上、一流選手であるマルゼンスキーさんに教えてもらうのは悪くないはずだ。名選手が名コーチとは限らないが、今のところ全く伝手がないのだし、優しいマルゼンスキーさんになら、やっぱりやめたと言ってもそんなに怒られないと思う。
ということで早速おねだりだ。
「そういえばマルゼンスキーさん」
「ん? なあに?」
「ライスも走ってみたいな」
「え?」
「え?」
ひどく驚いた顔をされた。
今まで家の中で家の中にあった本を片っ端から読む生活を繰り返してきた文学少女なのは確かだが……
私もウマ娘だし、そんなに意外なことだろうか。
「だってライスちゃんって、安楽椅子でゆっくり本を読むのが好きじゃない? だから走るのに興味がないと思ってたんだけど」
「読書って少女らしい趣味だよね」
「歴史とか経済の専門書読むのは少女らしくないわよ」
いやだって、歴史とか前世と結構違うし、経済は将来家の会社を継ぐなら勉強しておいて損はないから家に合った奴を片っ端から読んでいるだけである。家にある本の欠点は分厚くて持ちにくいところだ。重さはウマ娘の力では問題にならないがあの厚さと大きさはこの小さい手には手に余るのだ。
「いやまあ、多少はウマ娘らしいことしようかなと思って」
「らしいことって…… どこまで言っても子供らしくないわよね、ライスちゃんって」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてないわよ……」
まあ確かにこんな幼女居たら、外見が可愛くても正直不気味である。
こんな子供によくマルゼンスキーさんもお手伝いさんも付き合ってくれるものだ。
もしかして両親に弱みでも握られているのだろうか。
それならばそれで好都合だろうし、そうじゃないなら人が良いということだからやはり都合が良い。
「ということで走り方を教えてもらえる?」
「それは別に構わないわよ。いつもコース使わせてもらってるんだし」
「わーい。あと走り方とかの理論書とかあれば貸してほしいな」
「……本が本当に好きなのね」
「読書って少女らしい趣味だよね」
「読むのが可愛らしい絵本とかならね」
どうやら少女らしさのアピールには失敗してしまったようだったが、無事走ることを教えてもらえることになったのだった。
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ライスシャワー(5歳)
誕生日 3月5日
身長 98cm
体重 ちょっと細い
スリーサイズ B52・W50・H59
引きこもり系ウマ娘。運動をしていなかったのもあり全体的に小柄
この小説のメインヒロイン
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ミホノブルボン
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メジロマックイーン
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マルゼンスキー
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その他