ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話   作:雅媛

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3 選抜レース

 学園での生活に慣れてきたころに選抜レースが存在する。

 

 選抜レースはウマ娘たちを集めて走るところを見せることで、それぞれのウマ娘の特性などを見出し、トレーナーが自分に合ったウマ娘を見つけるために行われるもの、らしいのだが……

 どうしても強かったり勝ったりするウマ娘にスカウトが集まりがちだ。

 適性距離の相性とか、走り方と指導方法の相性とか、性格的な相性とかの方が大事だと思うんだけどなぁ…… トレーナー職が歩合制の部分が大きいから勝ちそうなウマ娘に目が向きがちになってしまうのも仕方ないのかもしれない。

 

 さて、私はというと、トレーナーを探す必要はないがレースに参加していた。

 トレーナーは先日マルゼンお姉様に決まった。形式的にはまだ仮契約だが、本契約に移らないはずがないので、スカウトとかは正直どうでもいいのだ。

 だが、レースで走るのは好きなのと、あと現状トレセン学園での自分の実力がどの程度かを知るために、今回選抜試験に参加したのだ。

 

 参加者は圧倒的に新入生が多いが、中等部の上級生、それに高等部の人もちょこちょこいる。落ちこぼれ、とは限らず、本格化がやっと来て選抜レースに挑んでいる人もいるだろう。

 ただ、共通するのはまだトレーナーと正式に契約をしていないウマ娘、ということであり、デビュー前のウマ娘の中で自分がどれくらいの実力か、を見ることができる、という意味では非常に意味があるはずである。

 

 

 今回私はいつも一緒のマックちゃんとブルボンさん、そしてマックちゃんのルームメイトのイクノさんと一緒に行動していた。

 

 

「がんばるぞー、おー」

 

「相変わらずライスさんの掛け声は力が抜けますね」

 

「緊張しているときにはちょうどいいのではないでしょうか」

 

「三人とも、余裕ありますね……」

 

 

 いつも通りの私と、程よく力が入っているブルボンさん、そしてやる気十分という感じのマックちゃんに比べて、イクノさんはかなり緊張しているようだった。

 

 

「上手く走れるかもわかりませんし、トレーナーも決まるかはわかりません。そういうことを考えると緊張してしまって……」

 

「じゃあそのへんにいるトレーナーさんいまから捕まえてこようか?」

 

「ライスちゃん、そういうことじゃないですよ」

 

「だってそこら中にいるし……」

 

「ライスさん、トレーナーさんを野菜か何かと勘違いしてません?」

 

「お野菜さんだったら勝手に取ってきたら犯罪だからやらないよ」

 

「まさかのトレーナーさん野菜以下……」

 

 

 そんなやり取りをしていたらイクノさんも笑っていたので、多少緊張はほぐれただろうか。

 あとは準備運動しながら私たちの番を待つだけだ。

 

 

 選抜レースは一日中行われ、短い距離から行われていく。

 ブルボンさんとイクノさんはマイル戦に出ると聞いている。

 ブルボンさんは比較的どんな距離でも走れるが、基本的な走り方はラップタイムを維持した逃げであり、当然距離が長くなればなるほどラップタイムを維持するための精神力が消耗されるため、短い距離の方が走りやすいらしい。三冠を目指すブルボンさん的には中距離の方が主戦場になるのだが、今回は走りやすさを優先したようだ。

 イクノさんはまだ自分の走りというものができているわけではないようだが、入学前のレースでよく走っていたという理由でマイルを選んでいるらしい。

 

 

 レース自体はブルボンさんは安定して勝利し、イクノさんは辛勝といったところだろうか。

 

 ブルボンさんにトレーナーが集まってきたが、黒沼トレーナーが解散させていた。さすがベテラントレーナーである。

 

 

「すごい良かったよブルボンさん」

 

「日ごろの練習の成果です」

 

 

 ブルボンさんは入学前よりも走りが圧倒的に洗練されており、また、身体能力も上がっていた。一流トレーナーによる練習というのはここまで効果があるのかと驚くレベルだ。そんなウマ娘が逃げでトップを走るのだから、展開で勝負するのも難しいだろう。

 狙いどころは私が前にやったブルボンさんの後ろにつけてスリップストリームを利用する方法だが、それすら左右にポジションをこまめに動かしたり、芝を蹴り上げたり、威圧をかけたりと見ていてもかなり対策がされているのがわかる。

 今のブルボンさんに勝つには真っ向勝負の実力で勝ち切るしかないだろう。ブルボンさんの能力を考えるとかなりハードである。

 

 イクノさんの方は、先行抜け出しのスマートな勝ち方だった。とはいえ結構最後は競っていたし、かなりギリギリな勝利だった。

 展開自体は悪くなかったけど、まだまだ体は鍛え上げる余地がありそうだ。

 

 

「イクノさんにスカウトきますでしょうか?」

 

「どうだろうね?」

 

 

 私がトレーナーならイクノさんは育て甲斐がありそうだから唾つけておくが、選抜レースを見ている感じ、そういった子へのトレーナーたちの反応があまりよろしくない。

 他のレースを見てても圧勝した子にばかりトレーナーが集中する感じがある。

 

 反応がなくてしょんぼりしてしまったイクノさんをマックちゃんが慰めている。

 私も周りを見渡すが反応がなさそうに見える。今回は難しそうかな、と思っている中で一人の新人トレーナーが目に留まった。

 

 

「おにーさん、スカウト?」

 

「いや、まあそうなんですが……」

 

 

 イクノさんをずっと見ていた気の弱そうな男性トレーナーだ。

 優しそうではあるが頼りなさそうな感じの人だなと感じるが、スカウトなら会わせてみよう。

 

 

「イクノさん、スカウトの人が来たよ」

 

「え? あ、はい」

 

「こんにちは、イクノディクタスさん。私は南坂と言います」

 

「イクノディクタスです。スカウトって本当ですか?」

 

 

 なんというか、一人だけ来たから飛びついてしまいそうなイクノさんの雰囲気を察して、私たちは南坂トレーナーの前に立ちふさがる。

 トレーナーもピンキリであり、弱ったところに付け込む悪徳トレーナーもいる可能性がある。目が曇ってそうなイクノさんの代わりに私たちが一度見極めた方が良さそうに思った。

 

 

「南坂トレーナー、イクノさんのどこがいいと思いましたの?」

 

「一番は慎重にレースを運ぶ冷静さと頭の良さですね。今まで走っていた中で一番駆け引きがうまかったのが良かったです」

 

 

 マックちゃんの質問の答えを聞く限り、レースを全く見ていなかったわけではなさそうだ。

 

 

「イクノさんの今後の課題は?」

 

「身体能力の強化ですね。特にスタミナはもう少し余裕が欲しいのと、あとは体幹を鍛えてバ群に揉まれても負けない強さは欲しいでしょう。もちろん全体的なレベルアップも必要です」

 

 

 私の質問にもすらすら答える南坂トレーナー。なるほど、体幹を鍛えるとバ群でも安定して走れるんだ。覚えておこう。

 

 

「イクノさんの今後のトレーニング方針を教えてください」

 

「メインはスタミナトレーニングのためのプールと、全体的な能力向上のための坂路でしょう。あとは体幹を鍛えるためにバランスボールやストレッチの増量が当面のトレーニングになると思います」

 

「ありがとうございます」

 

 

 ブルボンさんの質問の答えも聞いて、三人で相談する。

 

 

「どう思いました?」

 

「しっかりした人だと思うよ」

 

「はい、しっかりした方だと思います。私をスカウトするためにダシにしている感じもしませんし」

 

 

 ブルボンさん人気だったもんね。周りから接触してブルボンさんをスカウトするなんて方法もブルボンさんは懸念してたのか。

 とはいえ南坂トレーナー、基本的に問題はなさそうだ。

 

 

「ということでイクノさん、あまり問題はなさそうですわ」

 

「あ、はい……」

 

「ひとまず仮契約して、相性見てよければ本契約すればいいんじゃないかな」

 

「わ、わかりました」

 

 

 ということで、イクノさんと南坂トレーナーを置いて、私たちはその場を離れた。

 これからは二人で決めていくことだし、これ以上の口出しは無粋だろう。

 

 ひとまず黒沼トレーナーのいるところに移動したが、文乃トレーナーもその場にいた。結構この二人、仲が良さそうだ。

 

 

「文乃さん、こんにちは」

 

「こんにちは。マックイーン、レースはそろそろですよね。準備はできていますか?」

 

「ばっちりですわ。見ていてください」

 

 

 マックちゃんと文乃トレーナーが和気あいあいと話している。リベンジャー二人がそろってしまって大丈夫かと思っていたが、案外うまくやれているようだ。

 

 

「マスター、私の走り、どうでしたか?」

 

「よかったな。だが、もう少しラップタイムの精度を上げられたらもっといいだろう」

 

「精進します」

 

 

 ブルボンさんの方はストイックだ。あれ以上精度を上げるとかもう機械のレベルじゃないかと思うが、ブルボンさんならやるのだろう。

 

 

「そういえば、マルゼンスキーさんは?」

 

「今日病院だから来てないよ」

 

「どこかお悪いのですか?」

 

「うんにゃ、産婦人科だって」

 

「おめでたでしたか」

 

 

 私も最近聞いたのだが、マルゼンお姉様はどうやら懐妊したらしい。

 なので私の面倒はもっぱらマルゼンお姉様の旦那さんのトレーナーさんが見てくれることになっている。

 マルゼンお姉様は「生まれる直前までライスちゃんの面倒見るわよ!」とか言っていたが無理はしないでほしい。私のデビュー、多分当分先だし。

 

 

「囲まれたとき、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫大丈夫、トレーナーたちにあまり好かれてないから」

 

 

 仮に圧倒的に勝ってもそんなにスカウトは来ないと思っている。

 気性難と思われてるだろうからね。

 

 あと私の出る予定のレースは長距離で最後なので、あまり人も残っていないのではないかと思う。

 

 

「マックイーン、そろそろ下に降りた方がいいですよ」

 

「はい、行ってきます、みんな、文乃トレーナー」

 

 

 出場する中長距離レース2400mの時間が近づいて来たので、マックちゃんはグラウンドに降りていく。

 これくらいの長さのレースになると出場者はかなり減る。とはいえこれでもクラシックディスタンスなのでまだ出場者がいる方だ。私の出る予定の長距離3000mの選抜レースなんて、1レースしかないし。

 

 マックちゃんは圧勝した。ブルボンさんと比べても一回り上の実力を見せる、圧倒的勝利だ。

 これはマックちゃん、本格化が始まっているのかもしれない。

 当然スカウトが砂糖に集る蟻のように集まってきたが、文乃トレーナーがすごい頑張って散らしていた。「親の七光りが」とか悪態つく人がいたけど、マックちゃんがすごい目で見ていた。ああいうの感じ悪いし、他の子も見てるからやめた方がいいと思うんだけどなぁ。

 なお、後日の話だが、悪態をついていたトレーナーはウマ娘たちから総スカンを受けて誰もスカウトできずにトレセン学園を去ったらしい。マックちゃんが上手く噂を流したようだ。首席で美人で優しくて人気者だからね、マックちゃん。情報操作もお手の物なのだろう。八方美人なせいでいつか刺されそうなのだけが玉に瑕だけど。

 

 

 

 そんなこんなをしていたら、私のレースの時間になった。

 3000mという選抜レース最長のレースを選んだ理由は、一番長く走れるからという子供みたいな理由である。基本フルゲート18枠なのだが、長距離は不人気らしく9人しか参加者がいなかった。

 

 ひとまずスタートに集中し、良いポジションを取らないと。

 呼吸を整えて落ち着いているとゲートが開き、レースがスタートした。

 

 さて、それなりにいいスタートを切れた私だが、ひとまず6番手につける。トップを走る子は明らかにオーバーペースだ。長距離の走り方を知らずに暴走している。

 2番手の子が実質的な逃げのペースだろう。上級生らしく体格が良く走りが安定している。

 

 私は控えた人たちのバ群の中にいる。長距離だから少しでもスタミナを温存したいという人が多いのだろう。

 じゃあ私から動かせてもらうか。

 

 ■ 逃げけん制      

 ■ トリック(前)    

 

 前二人にプレッシャーをかけつつ、同時にバ群の人たちにもプレッシャーをかける

 プレッシャーをかけると言ってもこう、気合を入れるとオーラが出る的な感覚的なものなのだが、この世界のレースにおいては超常的な何かとかではなくではれっきとしたスキル(技術)だ。

 

 これにより多くの人が動揺し、走るコースがばらける。

 

 

「おっと」

 

 

 後ろから感じた圧力を気合を入れて跳ねのける。

 最後尾の上級生っぽい人からお返しのけん制が飛んできたようだ。

 

 レースは駆け引きであり、あまり暴れると集中攻撃を受けかねないのだが、今日は負けても大きな問題ではないレースだ。やりたい放題やらせてもらおう。

 

 ■ スタミナグリード   

 

 息を大きく吐いて、その後に吸いながら周りの気みたいなのを集める。

 気分は元気○だ。

 これにより周りは目に見えてスタミナを落とし、自分は回復するというちょっとしたチートテクニックである。

 そう大きく消耗させられるわけではないが、トップを走っていた人はこれでとどめになってしまったようで、まだ三分の二ぐらいの距離なのにずるずると失速していく。

 

 前の人たちはこれで十分だろう。後は最後尾にいる人だけど……

 

 ■ 八方にらみ       

 ■ 追込みけん制      

 

 

「なっ!?」

 

 

 後ろから驚きの声が聞こえるがもう遅い。一瞬振り向いて目が合ったが、驚愕の表情をしていた。

 まあスキル(技術)はデビュー前だと1つ、2つぐらい持ってる程度の人が普通らしいのでこんな5つも使っている時点でかなり特殊なのだろう。マルゼンさんレベルになると20以上あるらしいけど。そんなレベルの人が18人も走ったら毎回スキル(技術)大戦争だろうに。

 

 最終コーナーを回った時点で、周りは完全に失速していて、スパートがかけられる状態ではなかった。

 私一人が直線でスパートして、悠々と1着を取った。

 圧倒的勝利である。

 

 なお、戦法がえげつなさ過ぎたのもあったからか、レース後のスカウトはやはり一人も来なかった。




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ミホノブルボン(12歳)

誕生日    4月25日
身長     162cm
体重     明らかに恵体
スリーサイズ B88・W60・H94

無表情素直クール系ウマ娘。
坂路をやり過ぎて太ももがさらに太くなってきている。
カメラが苦手でうまく笑えない。

マルゼンさんの娘は(血縁者限定

  • メジロブライト
  • スペシャルウィーク
  • カレンチャン
  • シーザリオ
  • ブエナビスタ
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