ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話   作:雅媛

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5 秋のファン大感謝祭

 さて、秋のイベントはいくつかあるが、その中でも一番大きいのは聖蹄祭、秋のファン大感謝祭である。文化的な出し物が多く行われるこれで、どうせだから私たちも何かやるか、という話になった。

 

 

「ということで、少人数だと無難なのは食べ物の屋台だけど」

 

「はい!!」

 

「はい、マックちゃん」

 

「メロンパフェ屋がいいですわ!」

 

「メロンパフェ気に入ったのはわかるけど屋台では無理だよ」

 

 

 合宿中の近くの喫茶店に有ったメロンパフェをえらく気に入っていたのは知っているが、さすがに屋台でパフェは無理だろう。アイスとかクリームを保存しておくのが難しいし、野外で盛り付けるのも難易度が高い。

 

 

「屋台でできるのはせいぜいメロンソーダぐらいじゃないかな?」

 

「メロンソーダ?」

 

「緑色の甘い炭酸水」

 

 

 どうやらマックちゃん、メロンソーダを知らないようだ。

 

 マックちゃんを連れて近くのファミレスのドリンクバーでメロンソーダを飲ませたら「おいしいですわ!!」と感動していた。

 案外ジャンクなものでもお気に召すらしい。

 

 

「マックちゃんが気に行ったみたいだし、メロンソーダを売る店でいいかな?」

 

「問題ないと思います」

 

「構いません」

 

 

 ブルボンさんとイクノさんからも了承が取れたので、メロンソーダを売る屋台となった。

 それは問題ないのだが……

 

 

「どうやって作りますの? これ」

 

「メロンシロップを買ってきて、ソーダで割るだけだよ」

 

「なるほど、それならメロンシロップから作れば本格的なのでは?」

 

「え?」

 

「ちょっと試作の材料を買ってきますわ!」

 

「マックちゃん!? マックちゃーん!!」

 

 

 思い立ったら吉日とばかりにマックちゃんは走り去っていった。

 

 

「何買ってくるつもりなんだろう……」

 

「さぁ……」

 

「あの、マックイーンさん、料理できるんですか?」

 

「してるの見たことないね」

 

「ないですね」

 

「ええ……」

 

 

 心配にはなるが、ひとまずマックちゃんの帰りを待つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 しばらくして帰ってきたマックちゃんは、メロンと砂糖、炭酸水を持っていた。

 

 

「メロンシロップ作りますわよ」

 

「おおう、マジもののメロン……」

 

 

 マックちゃんが持ってきたのはいかにも高級そうなメロンだ。

 メロンソーダにメロンが入っていないのは気づかなかったようだ。

 

 

「シロップってどうやって作ればいいんでしょう」

 

「砂糖で煮て漉せばいいんじゃないかな……」

 

 

 メロンでメロンシロップなんて作ったこともないため、作り方がわからないが、シロップなんて基本砂糖水に果汁を入れるだけだ。

 寮の食堂に併設された調理スペースを借りて試作をしてみることにする。

 

 

「さあ、いきますわよ!!」

 

「マックちゃん! 包丁の持ち方違う!!」

 

 

 やる気だけあるマックちゃんが非常にから回っている。

 包丁を逆手に持ってメロンをどうしようというのか。このままだと高級メロンの惨殺死体しかできない。

 ブルボンさんは遠めで見ている。機械が爆発することがあるのであまり台所に入らないのだ。

 イクノさんは私とマックちゃんのカオスな状況を一切気にせず手際よくメロンを切り始めた。少しこっちも手伝ってほしいルームメイトなんだし……

 

 マックちゃんには見ていてもらうようお願いして、切ったメロンは大量の砂糖で煮込む。メロンがぐずぐずに崩れたら、ザルで漉してメロンシロップは完成した。

 

 

「あまり緑ではありませんね」

 

 

 マックちゃんがくすんだ黄緑色になったメロンシロップを見て不思議そうに言う。

 

 

「メロンソーダのメロンシロップは着色料だけで、メロン入ってないしね……」

 

「そうでしたの!?」

 

 

 真実を話すとマックちゃんはショックを受けていた。

 

 しかし、せっかく作ったのだからみんなでシロップを炭酸水で割って飲んでみたのだが……

 

 

「まあまあ……かな……」

 

「喫茶店のものの方がおいしかったですわ」

 

「悪くはないけどメロンソーダな感じがしないですね……」

 

「私は好きですけど」

 

 

 評判はいまいちだ。

 メロンの香りと味はするのだが、雑味も多い印象だ。

 メロンソーダの単純な砂糖と香料のチープな味に比べると印象がぼやける。

 

 これはこれで美味しいと思うが、メロンソーダという感じがあまりしなかった。

 

 これならメロンシロップを買ってきて割った方がいいだろうとなり、メロンシロップ自作は諦めることになった。

 なお、残ったメロンは4人で美味しくいただいた。

 

 

 

 さて、出すものは決まったし、屋台の枠組みは学園からかりられる。

 

 

「あとは衣装かなぁ」

 

「衣装ですか?」

 

「制服で売っても微妙でしょう」

 

 

 商品が結構ありきたりなので、どこかで差別化する必要がある。

 安直な方法ではあるが、コスプレとかすれば人を惹ける可能性が高かった。

 

 

「でもどんな格好しますの?」

 

「うーん……メイド服?」

 

「ライスちゃん、メイド服好きですわね」

 

 

 いやだってかわいいし。

 

 

「でもメイド喫茶、執事喫茶はトレセン学園の定番ですわ」

 

「え……」

 

 

 トレセン学園、未来に生き過ぎではないか。

 まあウマ娘は外見がいいから、メイド喫茶なら男性客、執事喫茶なら女性客が安定的に呼べるのかもしれないが……

 

 しかしそうなるとメイドでは集客力が弱いだろう。きっとがっつりメイド喫茶とかあるはずだ。当日探して見に行こう。

 

 

「じゃあ水着とか? さわやかなイメージに合うんじゃない?」

 

「ライスちゃん、いつやるか忘れてます? 絶対寒いですわ」

 

「そっかー」

 

 

 確かにお祭りは10月上旬、水着は寒そうだ。

 

 

「普通に制服でもそこそこ売れると思いますわ」

 

「仕方がない。それで行こうか」

 

 

 これ以上代案が思いつかなかったため、無難にやるしかできなかった。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

 

 

 

 メロンシロップを炭酸水で割っただけのメロンソーダは、私の予想に反して案外売れた。

 値段もそう高くないし、飲み物需要は一定量あったのだろう。

 

 仕入れもあまり大量に買っていなかったから、午前中で売り切れ、片づけまで終わってしまった。

 

 その後4人でお祭りを回ろうと思ったが、マックちゃんが「ちょっと所用がありまして」と言っていなくなってしまい、イクノさんもそれについていってしまったため、ブルボンさんと2人きりである。所用ってなんだろうか、イクノさんとデートか?

 

 

「どこに行きましょうか」

 

「メイド喫茶かな」

 

「ライスさん、本当にメイド好きですね……」

 

「いやだって、トレセン学園本場のメイド喫茶、気になるじゃない。定番らしいし」

 

 

 パンフレットからメイド喫茶を探して訪問してみたが、やはりかなり混んでいた。

 今回はメジロ家がやっているらしく、メジロ家でよく見たメイド服を、メジロ家のウマ娘たちが着てあちらこちらを走っている。

 

 マックちゃんももしかしたら、と思ったが、見回しても見当たらない。恐らく逃げたのだろう。所用って言ってたけどメジロ家の人たちに見つからないように身を隠しているのではないかと思う。

 

 

「どうしますか? 並びます?」

 

「見れただけで満足したかも」

 

 

 さすが名門メジロ家というのでかなりの人が並んでいた。

 これを待っているだけで今日が終わってしまいそうだ。

 

 ブルボンさんも居るのにそこまで時間をかける気も起きず、メイド喫茶は見るだけで離脱したのであった。

 

 

 

 屋台のあるあたりをうろついて、たこ焼きを買った後、私とブルボンさんはベンチに腰を下ろした。

 まだまだ人は多く、目の前は多くの人が行き来している。

 たこ焼きを食べようとしたのだが、楊枝が1本しかついていないことに気づいた。うーむ、二人で分けようと考えていたのに……

 

 

「ブルボンさん、楊枝が1本しかないし、ブルボンさん食べていいよ」

 

「いえ、半分こしましょう?」

 

「どうやって?」

 

「はい、あーん」

 

 

 そういってブルボンさんは私にたこ焼きを差し出してきた。まあ半分ずつにするならこうするしかないだろう。ぱくっ、と食べるとすごく熱かった。

 お返しに楊枝を受け取るとブルボンさんの口にたこ焼きをツッコむ。ブルボンさんは「ふにゅうううう」という謎の鳴き声を上げた。

 

 

「あれ、お二人さんだけって珍しいね。デート?」

 

 

 そう声をかけてきたのはクラスメイトだ。そう親しいわけではないが、仲が悪いわけでもない、普通のクラスメイトだ。

 3人で回っていただろうその子たちは、私たちを見つけ珍しく声をかけてきた。

 

 

「まあそんなところ、お三方は?」

 

「キャー、そんな食べさせあいっこしてるし、普段から仲いいからそうだと思ったんだ!!」

 

「いつから付き合ってるの!?」

 

 

 学生というのはいつでも恋バナ好きだな…… どうやら私たちを見て、カップルだと揶揄いたいらしい。いや応援するつもりなのかもしれないが、面倒なことこの上ない。

 

 

「いつからって、多分もう7,8年ぐらいかな?」

 

「ああ、幼馴染って言ってたもんね」

 

「いいなぁ、恋人がいて~」

 

 

 ニヤニヤしながら言われてもなぁ…… ブルボンさんはまだたこ焼きのダメージでしゃべれなさそうだし。

 適当におかえり願った方が良さそうだ。

 

 

「ほら、デートの邪魔しないでよ。散った散った」

 

「モー、しょうがないな」

 

「またねー」

 

 

 クラスメイト達解散していった。

 このままここにいるとさらに揶揄われそうだ。普段だとマックちゃんも居ることが多いからそういう話にはならないのだけれども、二人きりだとこんなものか。

 

 

「ブルボンさん、そろそろ部屋に戻ろうか」

 

 

 まだ口の中にダメージを負っているブルボンさんは静かに頷いた。

 

 

 

 

 

「ライスさんは、恋人がほしいと思ったことないですか?」

 

 

 部屋に帰る途中、ブルボンさんがそんな話をしてきた。

 普段私たちは恋バナなんてしないからめずらしい話題ではある。

 

 

「うーん、どうだろう。今は走ってるのが楽しいからねぇ」

 

 

 前世で擦れてしまったのもあるのか、恋人がほしいかといわれるとあまりほしいなとは思わなかった。前世含めて40年ぐらい恋人がいないから、単にイメージができてないだけかもしれないが。

 

 

「ブルボンさんは…… そういえば好きな人がいるって言ってたよね」

 

「……そうですね……」

 

 

 ブルボンさんの好きな人って、誰なんだろうなぁ……

 いまいちこの人、と思いつく人がいなかった。

 昔馴染みだとマックちゃんだが、ブルボンさんのマックちゃんへの感情にそういった恋愛的なにおいを感じないし、ブルボンさんのパパのクラブのメンバーでもそういう相手はいなかった。

 これ以上は心当たりがないのだが…… ブルボンさんが能動的に話してくれるならまだしも私から誰と聞くのもはばかられるしなぁ。

 

 

「恋人がほしいな、って思わないの?」

 

「相手がそういうのに興味がなさそうなので」

 

 

 むむ、ヒントになりそうな情報が出てきたが、余計誰だかわからない。

 色恋沙汰に興味がなさそうな人…… やっぱりマックちゃんか? クラブの人はブルボンさんに仄かな恋愛感情もってそうな子ばっかりだったし……

 うごごごご、本当に予想できないぞこれ……

 

 

「ブルボンさんは見た目ヨシ、性格ヨシ、走るのも速いし、告白されたら誰だってイエスって言いそうだけどなぁ」

 

 

 ひとまずブルボンさんが好きな朴念仁が誰かは置いておこう。

 告白するのには度胸がいるのはそうだが、ブルボンさんに告白されたら誰だってOK出しそうだけれども。

 まあ相手が既婚者とかだったら無理だろうが……

 

 

「誰でもって、ライスさんもですか?」

 

「もちろんだよ」

 

 

 私がブルボンさんみたいないい子に告白されたら3秒でイエスって答えるわ。こんないい子恋人にできるなんて最高じゃないか。

 

 

「……」

 

「ブルボンさん? わふっ」

 

 

 急にブルボンさんが私を抱きしめてきた。

 なんだろうか。寒いのだろうか。顔をブルボンさんの胸にうずめながら、抱き着き返す。温くて柔らかくて最高である。

 

 

「ライスさん、付き合ってください」

 

「……ほへ?」

 

 

 今何を言われた? ツキアッテクダサイ? つきあって……? え? え?

 もしかして告白された? 本当に?

 突然のことに頭が混乱する。誰だよ3秒でイエスって答えるって言った奴。私じゃん。そんなこと考えているうちにもう10秒ぐらい経ってる気がする。

 ひとまず何か答えなければ。

 

 

「ブルボンさん」

 

「なんですか?」

 

「……好き」

 

「……」

 

 

 全然答えになってないことを口走ってしまった。

 でもブルボンさんのこと好きだし? というか告白にイエスって答えていいのだろうか。私はブルボンさんに見合ったウマ娘だろうか。

 考えれば考えるほどドツボに嵌っていく。

 もうどうこたえていいか全くわからない。でもさっき私なら絶対イエスっていうっていったからには、イエスと答えた方がいいのではないか。

 よし、いうぞ。

 いうからな。

 いうぞ!!

 

 

「ブルボンさん」

 

「はい」

 

「はい」

 

「……」

 

 

 なんか会話がかみ合ってない気がするが、ちゃんと答えたぞ!!

 これで文句ないだろ! 誰も文句言っていない気がするけどな!

 

 

「そ、それじゃあ戻りましょうか、ライスさん」

 

「う、うんっ」

 

 少しの沈黙の後、私たちは部屋に戻ることになった。

 ブルボンさんが絡めてきた尻尾に、自分の尻尾を絡め返すと、何かくすぐったい感じがした。




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