ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話   作:雅媛

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ひとまず3話ほど更新予定


第四章 ライスシャワーのジュニア戦線
1 メイクデビュー レース前


 夏合宿を少し早めに切り上げて、8月中旬の夏休みの間にいよいよ私のメイクデビューが決まった。

 場所は新潟。新潟駅からバスが出ている程度の距離である。

 前日入りする予定であり、新幹線で行くのかなぁなんてことを考えていたら、マルゼンお姉様が

 

 

「私が運転するから車で行きましょう」

 

 

 なんていうものだから乗せてもらうことにしたのだが……

 

 

「おまたせー、これが私の愛車、タっちゃんよ」

「すごいのがきた……」

 

 

 寮の前に泊まった車は真っ赤なスポーツカーである。

 自動車に詳しくない私はその場ではわからなかったので後で聞いたのだが、ランボルギーニ・カウンタックと呼ばれるバリバリのスポーツカーだ。まずドアが上に開くという時点で訳が分からないし、寝そべるように乗る二人乗りというのもわけがわからない。総じてカッコいいの塊だが、これに乗るのか……

 

 

「荷物はこちらに」

「はーい」

 

 

 後ろにあったトランクに荷物を積んで、助手席に乗ってシートベルトを着ける。

 

 

「それでは出発します」

「はー……」

 

 

 返事をしようとした瞬間、車が急加速する。殺人的な加速だ!!

 シートに体が押し付けられる。

 

 

「かっ飛ばしていくわよー!!」

 

 マルゼンお姉様の声と同時に、エンジンが咆哮を上げ、身体がシートに叩きつけられる。カーブではまるでジェットコースターみたいに身体が横に滑り、時々シートベルトがなかったら確実に窓に激突してるような急減速をする。お姉様はいつの間にか取り出したサングラスを掛け、鼻歌を歌いながらハンドルを軽やかに操ってるけど……

 お姉様、ここは公道です!!!

 思わず叫びそうになったが体にかかる重力がそんな発言すら許さない。

 私は何も抵抗できずマルゼンお姉様の運転で新潟まで運ばれていくのであった。

 

 

 

 

 

 

「し、死ぬかと思った」

「大げさね」

 

 

 府中から新潟まで、300km以上あるはずなのに、2時間ぐらいでついている時点で速度がおかしいし、加速やカーブの時にかかる加重で私は満身創痍なのだが、マルゼンお姉様はひょうひょうとしている。

 もしかして、丈夫なのがマルゼンお姉様が速い理由の一つなのだろうか……

 

 新潟の空は快晴であった。秋空は高く、雲はゆっくりと流れている。風は少し湿気を含んでいて潮の香りがする。海が近いようだ。雨が降るような嫌な感じではなく、明日も晴天だろう。

 駐車場周辺は遮るものが何もなく、府中と違って空が広い。コメどころだし、田んぼとかがいっぱいあるのかもしれない。

 まだほんのりとした車酔いを引きずっているけれど、その空気を吸えば吸うほど、その感覚は薄れていった。

 

 

「せっかくだし、ちょっと寄り道してから宿入りしない?」

「え……どこへですか?」

「新潟といえば、日本海♪ おいしい海鮮でも食べにいきましょう~」

 

 

 またあの運転に乗るのか。そう考えるとお姉様の言葉に、少し迷いは生じたが――

 く~

 私の胃袋は素直だった。

 

 

 

 

 幸い、連れて行かれたのは新潟レース場近くの漁港にあった、地元の人にも人気という定食屋であった。

 駐車場もないような店なので、二人で走って向かったそこは、観光地といった感じではなく、地元の人が使う、よく言えば風情のある、悪く言えばぼろい、小さな暖簾のかかったお店だった。

 

 

「こういうところが美味しいのよ~」

「いらっしゃい~」

「お久しぶり、親方」

「おう、マブの姉ちゃんか。レースにでも来たのか?」

「今回は私の教え子が走るのよ」

「ライスシャワーです。初めまして」

 

 

 かの大人気ウマ娘であるマルゼンスキーを前にしても親しみを持った対応をしているあたり、それなりに通っているのだろう。

 手招きに応じてカウンター席に私たちは座る。

 年季の入った木の椅子、壁にマルゼンお姉様の写真とサイン色紙が飾ってあった。ほかにも何人かの色紙が飾ってある。

 

 

「いらっしゃーい、あら、マルゼンちゃん。久しぶりねえ」

「おばさまもお変わりないようで」

 

 

 威勢のいい女将さんが、私たちを見て目を細める。

 

 

「今日のおすすめはね、のどぐろの塩焼き定食、それと甘エビの刺身が入ってる海鮮丼よ!」

「じゃあ、二つずつお願いします♪ ライスちゃん、エビ好きだったわよね?」

「好きです!」

 

 

 即答である。日本海のエビはおいしいのだ。

 そしておすすめだっただけあり、出てきた料理は、まさに絶品だった。

 脂がのったのどぐろの皮はパリッとしていて、箸でつまむと中はふわふわ。ほんのりとした塩気に、ご飯が進む。

 そして、甘エビの海鮮丼。とろけるような甘さのエビに、ほんのり乗ったわさび醤油が最高に合う。

 

 

「おいしいかい? お嬢ちゃん」

「はい! すごくおいしいです」

 

 

 明日がレースじゃなかったらお代わり3回はしてるレベルである。

 さすがに食べすぎになってしまうので控えているが。

 マルゼンお姉様はニコニコと嬉しそうに私の食べっぷりを見ていた。

 

 

「よかったわ~、ちゃんと食べられて。緊張して食欲ない子、結構いるのよ? ライスちゃんなら大丈夫だとは思ってはいるけれど、でもレース前の緊張は実際なってみないとわからないからね」

「こんなおいしいもの食べたら元気いっぱいですよ」

「ふふ、そうよね。美味しいものは力になるもの♪」

 

 

 英気を養った私は、女将さんに頼まれて色紙にサインを描いた。

 初色紙である。とはいえデビュー前のウマ娘の色紙など意味があるのだろうか。

 

 

「きっとライスちゃんも大成するわよ。私の見立ては間違ったことないんだから」

 

 

 おかみさんがそう言って楽しそうにしている姿が印象的であった。

 

 

 

 

 

 食後、腹ごなしも兼ねて、新潟レース場の下見に訪れる。

 スタンドの白い壁、青々とした芝、そして名物の直線1000メートルのコース。

 開催日前日の金曜日ということで人は少なかった。

 

 

「……ここかぁ」

 

 

 思わず、独り言に出していた。

 前世では新潟の競馬場に来たことがないため、この1000メートルのコースも実物を見たのは初めてである。

 とにかく長いな、というのが印象であった。

 

 

「うふふ、初陣の舞台よ。どう? 何か感じる?」

「……熱がすごいですね」

 

 

 私たちのように下見をしているウマ娘、それにトレーナーたちがそこかしこにいる。

 誰もが勝つために必死なのだろう。一人一人の物語を底から感じた。

 

 

「そうね、明日だけでも百人を超えるウマ娘がこの場所で走るわ。その熱気がすでにこの場にはあるわね」

 

 

 油断はできない。そうひしひしと感じた。

 

 

 

 

 夕方になり、レース場併設の宿舎にチェックインをする。

 宿のロビーには、すでに他の出走予定だろうウマ娘たちもちらほらいて、みんな少し緊張気味な顔をしている。

 宿舎はレース場のコースが見えるとても近い場所だが、作りは質素だった。

 ベッドは一人用が一つ、ストレッチなどの準備運動ができるようにスペースはあるのでビジネスホテルほど狭い場所ではないが、最低限の設備しかない感じである。

 

 

「それじゃ、私は夕食にちょっと新潟グルメでも調達してくるわ。ライスちゃんは先にお風呂入ってていいわよ~♪」

「あ、はい。お気をつけて」

 

 

 ……なんて言った直後、爆音を立てて出発していく車の音が聞こえてきた。マルゼンお姉様のスーパーカーの音だろう。

 おそらく、新潟の夜にまた一つ、異音が刻まれたに違いない。

 私はひとまずいつもの制服を脱いで、下着姿でストレッチを始めた。

 

 

 

 ストレッチをして、シャワーを浴びてドライヤーで髪を乾かしているぐらいになり、部屋の外から、重低音のエンジン音が近づいてきて止まった。すぐにマルゼンお姉様が大きな紙袋を抱えて部屋に戻ってきた。

 

 

「おかえりなさい。ずいぶん時間がかかりましたね」

「新潟の名物を集めてきたからね」

 

 

 そう言って料理を取り出し始めるマルゼンお姉様。

 

 

「まずはこれ、へぎそば。つるっといけるし、独特の食感が最高なのよ」

「へぎ……?」

「海藻をつなぎにした、コシの強いおそばよ~。このぬめっとした感じがクセになるの♪」

 

 

 おしゃれな竹のパックに小分けされた緑色の蕎麦は見た目もおしゃれだ。

 

 

「それからこっちは笹団子ね。甘すぎなくて、ほんのりヨモギの香りが上品なのよねぇ~♪」

「おいしそうですね」

 

 

 笹に包まれた独特の形状の笹団子はさすがに私にもわかった。

 上杉謙信が発明したという俗説があるあれだ。

 

 

「あとはこれ、ル・レクチェのゼリーね」

「ル・レクチェ?」

「新潟が誇るブランド洋梨よ♪ 旬が冬だから、今日はゼリーだけど」

「甘いもの尽くしですね」

「ライスちゃんの明日のレース午前中じゃない? もうレースまで半日ぐらいしかないから、重いもの食べると影響があるのよ。とはいえエネルギーは必要だからこういう甘いものがいいってわけ」

 

 

 なるほど、食事にも気を使ってくれているようだ。お昼もそれなりに食べたし。

 そんな状況でも地元のものを集めるマルゼンお姉様の知識に尊敬を覚える。

 

 

「食べたら歯を磨いてゆっくり寝ましょうね」

 

 

 新潟グルメを堪能し、しっかり眠ることで私は明日のレースに備えるのであった。

 

 

 

 

 

 目覚ましの音よりも早く、自然と目が覚めた。

 

 時計の針は、朝の4時を指している。

 窓の外はまだ暗く、窓を開けると涼しい風が入ってくる。

 ちょっと早く起きすぎたが、とはいえ初めてのレースだ。余裕を持って行動するのは大事だろう。

 

 出走予定時刻は11時。検量などが行われるのが1時間前集合で、その時点では完全に準備ができていないといけない。着替えや準備運動を考えると8時ぐらいにはレース場に入る必要がある。

 

 ひとまず軽く体をほぐすか。

 寝間着を脱いで下着姿でゆっくりとストレッチを始める。学園では普段なら体操着に着替えるのだが、レース用の体操着はレース場についてから着るようにとマルゼンお姉様にくぎを刺されている。制服を着ると動きにくいので下着姿での準備体操である。

 固まった体が少しずつほぐれてくる。たっぷり1時間もすると、扉がノックされた。

 

 

「は~い」

「おはようライスちゃん、って下着姿で出るのはどうかと思うわ」

「えへへ」

 

 

 笑ってごまかしつつ、マルゼンお姉様を部屋に入れる。

 

 

「というか早いわね。寝れなかった?」

「もともと普段から朝練しているので朝早いだけですよ。大丈夫です」

「それならいいわ。はい、朝ご飯」

「わーい」

 

 

 マルゼンお姉様が持ってきたのはおにぎりとバナナだった。

 直前ということでエネルギーがとりやすいもののようだ。

 

 

「ほら、食べる前に着替えなさい」

「はーい」

 

 

 マルゼンお姉様に言われてしぶしぶ制服を着る。

 この短いスカートにも最初のころは全く落ち着かなかったが、今では着慣れたものである。

 お姉様が淹れてくれた温かい緑茶を飲みながら、一息つく。

 

 

「そういえば、直前にお茶とか飲んでもいいんだよね?」

「? もちろんだけどなんで?」

「いや、成分的なものとか?」

 

 

 前世の競馬ではよくカフェインが検出されてドーピングとなるなんて言う事件が起きていた。

 お茶の葉を混入させるだけで大事件になるレベルだったけど、さすがにこちらの世界ではそんなことはないようだ。

 

 その後、道具の確認を再度して、今日同じレースに出走するウマ娘の情報と、どう走るか、という予定を確認していたらいい時間になったので、レース場へと移動することになった。

 

 

 

 

 

 

「第三レース、メイクデビューに出走のライスシャワーさんですね。こちらゼッケンになります。準備室は3の8番になります」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 

 受付でゼッケンをもらう。ライスシャワーという名前と、ウマ番である8の数字が書かれた白いものだ。

 これを見ると、レースに出るんだなという実感をする。

 

 そのまま地下通路を通り、指定された準備室に入る。

 10人ぐらいだったら入れそうな、それなりに広い部屋だ。鏡や着替えスペース、シャワーまであり、一通り設備は整っているようだ。

 

 早速準備していた体操着に着替える。下着からレース専用のものをちゃんと準備してきた。インナーのハイレグショーツを穿き、普段のよりも締め付けが強いタイプのスポーツブラジャーを上から着る。ちょっと息苦しい。

 その上からスポーツタイツを穿き、そしてブルマを穿いてシャツを着る。

 下着だけでなく、この体操着もレース用のものだ。ウマ枠ごとに色が決まっているので学園からのレンタルだが、普段のものよりも少し小さくぴったりと体の線が出る。小さすぎても大きすぎても動きにくいため、この体操着の選び方もトレーナーの腕が出るところとマルゼンお姉様が言っていた。

 よくよく考えたら、私はウマ娘同士で恥ずかしくなかったが、マルゼンお姉様なんかはお兄様に選んでもらっていたわけだ。選ぶときはためしに着るために下着姿が基本だし、場合によってはサイズを測るためにある程度触ることもある。男性トレーナーの鋼の意思の強さを再度理解した。

 

 最後にゼッケンをつければ完成である。

 

 

「着心地はもんだいないかしら?」

「大丈夫だよ」

 

 

 ためしに足踏みなどをしてみるが特に動きに問題はない。ちょっと締め付けられている感じがあるが、全力で走るにはちょうどいいだろう。

 続いて、蹄鉄が打たれた靴を取り出す。ある程度使い慣れた靴に、レース用の蹄鉄をつけなおしたものだ。

 私の場合、比較的軽めの蹄鉄を打っているが、この辺りは人によるらしいとは聞いている。

 

 とおくから声援が聞こえる。おそらく第一レースが始まったのだろう。

 レースの時間は刻一刻と迫っていた。




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出走準備米

【挿絵表示】


雑談フリースペース
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アンケートもご協力ください。

主人公ライスシャワーの勝負服は?

  • 1 ローゼスドリーム(デフォルト)
  • 2 あこがれの景色(ウェディング)
  • 3 ブルボンを見習ってハイレグレオタード
  • 4 水着
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